新聞の間違い(31) 日経『財務相『強いドル』支持』H21.11.11
<新聞の間違い日経『財務相 強いドル支持』H21.11.11>
日経『財務相『強いドル』支持』H21.11.11
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が経常赤字国である米国の消費に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが内需を拡大することが課題…。
『ドル安対応に温度差』H21.11.11
…膨大な経常赤字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。その一方で、雇用増に向けた輸出振興には、ドル安を通じた競争力向上も支えとしている見方も多い。
「強いドル」政策を掲げるのは、「経常赤字を抱えるから、ドルの信認が必要」というのものでは,全くありません。 「強いドル」は、「資本収支黒字を維持する」ためです。世界中から、アメリカに資本投資してもらい、その資本をアメリカの金融業界が運用するためです。
モノ・サービスの実物取引=貿易黒(赤)字を含む経常黒(赤)字など、今日では、為替に影響を与えることなど、全くないと言っても過言ではありません。 「日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まる」など、むか~しむかしの古典的解釈は、全く役に立ちません。
では、円高・ドル安など、為替を変動させる要因は何でしょう。それは、日米の金利差、株価格などの「資本(カネ)」取引に関わる分野なのです。
資本取引額は、貿易取引額の90倍(2007BIS統計)です。図にすると、下記のようになります。

2007年現在,外国為替市場の1日の平均取引額は3.2兆ドル(340兆円)にも上ります。同年の世界貿易額は,1日当たり357億ドルですから,貿易額の約90倍にのぼる資本の取引があることになります。
例えば,東京証券取引所の売買代金は,1か月に40兆円~70兆円です。日本の1年間の国家予算が約82兆円,GDP(国内総生産)は約510兆円です。これらの実体経済をはるかに上回る,資本の取引があるのです。
90年代初頭までは,実体経済が犬の頭,資本経済が犬の尻尾でした。しかしいまや,バーナンキFRB議長が「貿易は犬の尻尾」というほど資本取引が巨額になったのです。
日本の貿易(黒字)増→円決済額増→円を求める動き→円高
このような古典的な取引によって、円が高くなったり、安くなったりするなど、上図を見れば「ありえない」ことがわかると思います。
各国の金利差や、株価などによって為替が決まることを、「アセット・アプローチ」といいます。アセットとは「資産」のことです。
『豪ドル・ユーロ再上昇』日経 H21.11.11
…オーストラリアドルが…上昇…。…ユーロも一時、1ユーロ=1.50ドル台を回復。…G20…で各国が景気刺激策の継続を確認したのを受け、米金融緩和の長期化観測が強まった(筆者注:低金利政策継続)。…G20を機に「ユーロや新興・資源国通貨に対して売られやすい状況は当面続く」…との観測…。
『円高・ドル安圧力 再び』日経 H21.11.12
円高・ドル安の圧力がじわじわと強まっている。…(G20)財務相・中央銀行総裁会議を機に、米国の金融緩和が長引くとの見方が再燃したためだ。
『ドル売り歯止めかからず』日経H21.11.18
…低金利のドルを元手に高金利通貨に投資する「ドルキャリー」取引が活発になっている…。…外為市場では今春以降、ドルを売ってオーストラリアドルなどの新興・資源国通貨を買う動きが活発だ。…政策金利が実質ゼロのドルを元手にした取引が市場を席捲している。…ドル全面安の流れには簡単には歯止めがかからないとの見方も…。
日経 21年11月27日グラフ


上図は、円高・ドル安が極端に進んだ日のグラフです。下図を見ると、米国の長期金利の方が、日本よりもずっと高いように見えますが、日本の長期金利は、1990年代後半以降、ずっと2%を下回っています(国債価格高騰)。米国の長期金利が一方的に低下を続け、その差2%=心理的な節目を割り込んでいる状態です。この低い金利差は、過去10年間に照らせば、異常な状態なのです。
さらに、カネの貸し借り(資本取引)額=経常黒(赤)字額です。カネが先、モノ・サービスは後なのです。経常黒字は資本収支赤字から生まれます。経常赤字は資本収支黒字から生まれます。
アメリカは世界最大の資本収支黒字国です。世界中から、アメリカにカネが集まるのです。「強いドルが国益」なのは、一目瞭然です。この資本取引の結果、アメリカは世界最大の経常(貿易)赤字国になります。新聞記事を正しく直してみます。
訂正前
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が経常赤字国である米国の消費に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが内需を拡大することが課題…。
↓
訂正後
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が資本収支黒字国である米国の金融に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが国内投資を拡大することが課題…。
これが正しい表記になります。
訂正前
…膨大な経常赤字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。
↓
訂正後
…膨大な資本収支黒字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の資本収支赤字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。
この、強いドル政策は、クリントン時代から始まりました。
<ルービン財務長官の登場>
1993年1月クリントン政権発足=アメリカ経済の再生
国家経済会議(National Econonomics Council)の新設
ルービン(Robert Rubin)ゴールドマンサックス共同会長が議長就任(95年~99年:財務長官)
彼は、「ウォール街を活性化させ、金融の力でアメリカ経済を再生」させるシナリオを持っていました。それまでの、農界・製造界:ドル安 VS ウォール街:「ドル高」の対立に決着をつけたのです。
1995年には、$1=79円という、記録的な円高ドル安になります。ルービン財務長宮は、ドル高政策『ドル高は国益だ、強いドルこそ国益だ』と繰り返します。
強いドル=対米資金流入→株高+金利引下げ=経済成長
→経常収支赤字の制約を緩和=資本が入りファイナンスする
当時の、ルービン財務長官の発言です。
“金融サービス業は21世紀型産業の真髄であります。その急速な成長は、IT と通信に基づくものであり、真にグローバルなのです。テレコム・サービス協定と情報技術協定に続く金融サービス協定の締結は、21世紀の経済基盤を構築するトリプルプレーの完成なのであります”(1997.3)
マネー・フローは、経常黒字国(資本収支赤字)から、経常赤字国(資本収支黒字)に流れます。アメリカの経常収支赤字額<対米資金流入額となり、1997年には、その額は経常収支赤字の5.4倍にも上ります。これが、アメリカによる海外投資の原資になります。
経常黒字国→経常赤宇国(アメリカ)→海外投資
当時、バブルとも言われたアメリカ株は、有望な投資対象でした(IT関連企業株式)。相対的に安全で流動的な金融資産を、相対的に高い利回りで提供していたのです。
黒字国からの資金流入→資金運用の場=アメリカ(金融仲介業)
→世界に再投資(アジア、ラテンアメリカ=エマージング諸国)
アメリカのプロの金融機関が、ショックを吸収しながら、日本の資金を運用していたんですね。
日経『財務相『強いドル』支持』H21.11.11
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が経常赤字国である米国の消費に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが内需を拡大することが課題…。
『ドル安対応に温度差』H21.11.11
…膨大な経常赤字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。その一方で、雇用増に向けた輸出振興には、ドル安を通じた競争力向上も支えとしている見方も多い。
「強いドル」政策を掲げるのは、「経常赤字を抱えるから、ドルの信認が必要」というのものでは,全くありません。 「強いドル」は、「資本収支黒字を維持する」ためです。世界中から、アメリカに資本投資してもらい、その資本をアメリカの金融業界が運用するためです。
モノ・サービスの実物取引=貿易黒(赤)字を含む経常黒(赤)字など、今日では、為替に影響を与えることなど、全くないと言っても過言ではありません。 「日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まる」など、むか~しむかしの古典的解釈は、全く役に立ちません。
では、円高・ドル安など、為替を変動させる要因は何でしょう。それは、日米の金利差、株価格などの「資本(カネ)」取引に関わる分野なのです。
資本取引額は、貿易取引額の90倍(2007BIS統計)です。図にすると、下記のようになります。

2007年現在,外国為替市場の1日の平均取引額は3.2兆ドル(340兆円)にも上ります。同年の世界貿易額は,1日当たり357億ドルですから,貿易額の約90倍にのぼる資本の取引があることになります。
例えば,東京証券取引所の売買代金は,1か月に40兆円~70兆円です。日本の1年間の国家予算が約82兆円,GDP(国内総生産)は約510兆円です。これらの実体経済をはるかに上回る,資本の取引があるのです。
90年代初頭までは,実体経済が犬の頭,資本経済が犬の尻尾でした。しかしいまや,バーナンキFRB議長が「貿易は犬の尻尾」というほど資本取引が巨額になったのです。
日本の貿易(黒字)増→円決済額増→円を求める動き→円高
このような古典的な取引によって、円が高くなったり、安くなったりするなど、上図を見れば「ありえない」ことがわかると思います。
各国の金利差や、株価などによって為替が決まることを、「アセット・アプローチ」といいます。アセットとは「資産」のことです。
『豪ドル・ユーロ再上昇』日経 H21.11.11
…オーストラリアドルが…上昇…。…ユーロも一時、1ユーロ=1.50ドル台を回復。…G20…で各国が景気刺激策の継続を確認したのを受け、米金融緩和の長期化観測が強まった(筆者注:低金利政策継続)。…G20を機に「ユーロや新興・資源国通貨に対して売られやすい状況は当面続く」…との観測…。
『円高・ドル安圧力 再び』日経 H21.11.12
円高・ドル安の圧力がじわじわと強まっている。…(G20)財務相・中央銀行総裁会議を機に、米国の金融緩和が長引くとの見方が再燃したためだ。
『ドル売り歯止めかからず』日経H21.11.18
…低金利のドルを元手に高金利通貨に投資する「ドルキャリー」取引が活発になっている…。…外為市場では今春以降、ドルを売ってオーストラリアドルなどの新興・資源国通貨を買う動きが活発だ。…政策金利が実質ゼロのドルを元手にした取引が市場を席捲している。…ドル全面安の流れには簡単には歯止めがかからないとの見方も…。
日経 21年11月27日グラフ


上図は、円高・ドル安が極端に進んだ日のグラフです。下図を見ると、米国の長期金利の方が、日本よりもずっと高いように見えますが、日本の長期金利は、1990年代後半以降、ずっと2%を下回っています(国債価格高騰)。米国の長期金利が一方的に低下を続け、その差2%=心理的な節目を割り込んでいる状態です。この低い金利差は、過去10年間に照らせば、異常な状態なのです。
さらに、カネの貸し借り(資本取引)額=経常黒(赤)字額です。カネが先、モノ・サービスは後なのです。経常黒字は資本収支赤字から生まれます。経常赤字は資本収支黒字から生まれます。
アメリカは世界最大の資本収支黒字国です。世界中から、アメリカにカネが集まるのです。「強いドルが国益」なのは、一目瞭然です。この資本取引の結果、アメリカは世界最大の経常(貿易)赤字国になります。新聞記事を正しく直してみます。
訂正前
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が経常赤字国である米国の消費に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが内需を拡大することが課題…。
↓
訂正後
…財務相は…ガイトナー米財務長官と…会談し「強いドル」を支持する考えを表明…。ガイトナー長官もうなずいた。…世界経済が資本収支黒字国である米国の金融に過度に依存することから脱し、黒字国の中国や日本などが国内投資を拡大することが課題…。
これが正しい表記になります。
訂正前
…膨大な経常赤字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の経常黒字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。
↓
訂正後
…膨大な資本収支黒字を抱える米国は,海外投資家の信認を維持するには、「強いドルは国益」と言い続ける必要がある。…日本の資本収支赤字が減らなければ円高・ドル安圧力が強まるとの見方も…。
この、強いドル政策は、クリントン時代から始まりました。
<ルービン財務長官の登場>
1993年1月クリントン政権発足=アメリカ経済の再生
国家経済会議(National Econonomics Council)の新設
ルービン(Robert Rubin)ゴールドマンサックス共同会長が議長就任(95年~99年:財務長官)
彼は、「ウォール街を活性化させ、金融の力でアメリカ経済を再生」させるシナリオを持っていました。それまでの、農界・製造界:ドル安 VS ウォール街:「ドル高」の対立に決着をつけたのです。
1995年には、$1=79円という、記録的な円高ドル安になります。ルービン財務長宮は、ドル高政策『ドル高は国益だ、強いドルこそ国益だ』と繰り返します。
強いドル=対米資金流入→株高+金利引下げ=経済成長
→経常収支赤字の制約を緩和=資本が入りファイナンスする
当時の、ルービン財務長官の発言です。
“金融サービス業は21世紀型産業の真髄であります。その急速な成長は、IT と通信に基づくものであり、真にグローバルなのです。テレコム・サービス協定と情報技術協定に続く金融サービス協定の締結は、21世紀の経済基盤を構築するトリプルプレーの完成なのであります”(1997.3)
マネー・フローは、経常黒字国(資本収支赤字)から、経常赤字国(資本収支黒字)に流れます。アメリカの経常収支赤字額<対米資金流入額となり、1997年には、その額は経常収支赤字の5.4倍にも上ります。これが、アメリカによる海外投資の原資になります。
経常黒字国→経常赤宇国(アメリカ)→海外投資
当時、バブルとも言われたアメリカ株は、有望な投資対象でした(IT関連企業株式)。相対的に安全で流動的な金融資産を、相対的に高い利回りで提供していたのです。
黒字国からの資金流入→資金運用の場=アメリカ(金融仲介業)
→世界に再投資(アジア、ラテンアメリカ=エマージング諸国)
アメリカのプロの金融機関が、ショックを吸収しながら、日本の資金を運用していたんですね。
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