双子の赤字は、企業の赤字と全く違う その2/3

<双子の赤字は、企業の赤字と全く違う その2>

『小さな政府、世界の流れに』日経H21.11.2

 1980年11月4日、米大統領に…レーガン共和党候補が初当選…。…レーガノミクスを掲げ…「小さな政府」志向は世界の一大潮流となった。
…「スタグフレーション」(不況下の物価高)が進行…総需要管理政策の有効性が疑問視…。…レーガノミクスは…サプライサイド経済学の考え方に基づいていた。
…同政権下で米国経済は回復した一方、財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」は世界経済の不安定要因になった。


<企業の赤字と、財政・貿易赤字の違い>

(1)『米の貿易赤字・貯蓄率改善 市況の法則』日本経済新聞 H21.5.23

…米国の経済指標の一部に好転の兆しがみえてきた。財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」のうち、貿易赤字は縮小。個人の貯蓄率はプラスに転じている。これらの指標の改善は・・・


(2)『上期の貿易黒字 韓国、初めて日本上回る』日経H21.10.22

 韓国の今年1~6月の貿易黒字が266億ドルとなり、上半期ベースで初めて日本を上回ったことがわかった。1~6月の韓国ウオン相場は…ウオン安基調が持続。円高傾向が続いた日本よりも輸出競争力が向上したのが原動力になった…。
…1~6月の韓国の貿易黒字額は…ドイツに次いで2番目に大きかった。日本は91億ドルで6位にとどまった。


(3)日経 H21.7.30『ポルシェ6700億円赤字へ』

 独高級車メーカーのポルシェは29日、2009年7月期の税引き前損益が最大で50億ユーロ(約6700億円)の赤字になる見通しだと発表した。


 上の2つの事例の違いが、わかりますか?

 企業の「赤字」と、財政・貿易「黒字・赤字」には、サッカーと将棋ほどの違いがあります。いえ、両方とも勝ち負けを競うゲームだから、これもふさわしくありません。サッカーと阿波踊りくらいの違いでしょうか。両者とも、激しく体を動かす(赤字という文字は共通)点では同じですが、まったく別物です。
 
 ですが、「赤字」ということばが同じ ため、「ポルシェ」の赤字が「悪いこと・損なこと」なので、「米国貿易赤字は悪いこと」「韓国貿易黒字は善いこと」ととらえてしまいます。これは完全に間違いです

バランスシート 損益決算書.jpg

 企業の黒字はblack赤字はredといいます。こちらは「もうけ・損」のことです。

 貿易黒字は a trade surplus です。貿易赤字は、a trade deficit です。これは、足すと「0円」になります。輸出>輸入なら黒字輸出<輸入なら赤字と言います。

 何が違うかといえば、企業の場合、黒字は減るか増えるかどちらかです。「良いか悪い」しかありません。
 しかし、貿易の場合、黒字額≡赤字額なので、黒字が減れば、赤字も減ります。逆に、赤字が増えたら、黒字も増えます。???なんだか、わけがわからないですね。

貸借対照表の場合(国際収支表)

 (1)貿易黒字=50円 資本赤字=50円     (3)貿易赤字=30円 資本黒字=30円
             ↓                         ↓
 (2)貿易黒字=20円 資本赤字=20円   (4)貿易赤字=50円 資本黒字=50円

損益計算書(企業)

(1) 当期純利益 黒字30円
        ↓
(2) 前期純利益 赤字20円

「新聞の見出し」は、「赤字転落!」となります。

H21.9.8日経『東建コーポ、最終赤字が拡大』
 東建コーポレーションが7日発表した2009年5~7月期の連結決算は、最終損益が7億9900万円の赤字(前年同期は6憶8000万円の赤字)だった。 


『JVCケンウ営業黒字に』
 Jvc・ケンウッド・ホールディングスの2009年7~9月期の連結営業損益は、最大で10億円程度の黒字(前年同期は31億円の黒字)となり、3四半期ぶりに営業黒字転換する見込みだ。


<貸借対照表・損益計算書とは>

(1)貸借対照表(バランス・シート)

 会社では、取引が、何社とも同時並行で行われています。A社との取引は完了し、B社との取引は、商品を卸したものの、未だ商品代金を受け取っていないなどです。これらのお金の流れを、ある時点で、整理したものを貸借対照表といいます。お金の流れの断面図です。

 以下は、日産自動車の、実際の貸借対照表です。
日産 バランスシート.jpg

 このように、貸借対照表の左側には、「集めたお金」をどのように使っているか、その会社がどのような仕事をしているかが、書かれています。
 一方、右側には、「どのようにお金を集めたか」が記載されています。商品を仕入先から購入した場合は、「買掛金」と記載されます。銀行からの借入金もあります。
 さらに、実質的な財産である、純資産があります。資本金(株式発行により集めたお金)や、利益です。ただし、これらは現金とは限りません。すでに何らかの取引に使用していますし、土地や建物になっています。
 この貸借対照表のポイントは、必ず、左右が一致するという点です。

会社のバランスシート.jpg

 たとえば、銀行から、100万円借りたとします。右側の負債が100万円になります。同時に、会社の現金が100万円増えるので、左側の資産の部に100万円記載します。あるいは、100万円借りて商品を100万円分生産した場合には、商品と記載します。

 このように、「借金→現金」「借金→商品」という、取引の2つの側面を同時に記載する方法を、「複式簿記」と言います。

 これを見てわかるように、「もうけ」という概念は入っていません。貸借対照表(バランス・シート)では、資産=(負債+資本)という関係が成り立っているだけです。

(2)損益計算書

 会社は、利益を上げるためにビジネスを行っています。もちろん、損が発生する場合もあります。ある期間(3ヶ月とか、1年間etc)に、どれだけ費用をかけ、どれだけ収益(損益)が発生したかを示すのが、損益計算書です。

        収益-費用=利益

日産自動車 H22年3月期 第2四半期決算短信
H21.4.1~H21.9.30
日産 損益決算書.jpg

 上図の場合、純利益は、90億円の黒字となります。昨年同期は、1263億円ですから、世界的大不況の中、大幅に利益を落としていることがわかります。

日経 H21.7.30『ポルシェ6700億円赤字へ』
独高級車メーカーのポルシェは29日、2009年7月期の税引き前損益が最大で50億ユーロ(約6700億円)の赤字になる見通しだと発表した。


 ポルシェよりは、ずいぶん成績がいいですね。 「黒字」ですから、「利益=もうけ」であり、ポルシェの場合は、 「赤字」ですから、「損益」となります。

(3)国際収支表の場合

 さて、国際収支表の場合は、「黒字」「赤字」はどのようになるのでしょう?
2009 7月国際収支.jpg

①貿易・サービス収支、いわゆる、 『貿易黒字』は、1,490億円の黒字です。良かったですね。でも待ってください。資本収支は1兆2154億円の赤字です。困りましたね。おカネがなくなったようですね。
 
 「もうけ」を全部足した、左側の「経常収支」=1兆2655億円の黒字です。日本は一月に1兆円以上稼いでいるんですね。
 でも、右側の資本(カネ)を見ると、1兆2655億円の赤字です。あれ?おカネは儲かっていない??外国に出て行った

 この国際収支表を見れば、左側経常収支と、右側資本収支は、同じ額になっていることがわかります。経常収支黒字額資本収支赤字額となっています。

 これは、会社における貸借対照表(バランス・シート)と同じ原理なのです。

会社のバランスシートと国際収支表.jpg

 国際収支表も、会社における貸借対照表(バランス・シート)と同じように、「複式簿記」で記載されています。モノ・サービスの受け取り(売る)と、代金の支払い(受け取り)が、同時に同じ金額で、右側と左側に記載されます。

 たとえば、自動車輸出(100万円)・外国船での旅行(50万円)・外国会社株購入(20万円)の場合、以下のように記載されます。

国際収支表の記入方法.jpg

 たとえば、銀行から、100万円借りたとします。右側の負債が100万円になります。同時に、会社の現金が100万円増えるので、左側の資産の部に100万円記載します。あるいは、100万円借りて商品を100万円分生産した場合には、商品と記載します。
 このように、「借金→現金」「借金→商品」という、取引の2つの側面を同時に記載する方法を、「複式簿記」と言います。

 これを見てわかるように、「もうけ」という概念は入っていません。貸借対照表(バランス・シート)では、資産=(負債+資本)という関係が成り立っているだけです。

 だから、
「貿易の場合、黒字額≡赤字額なので、黒字が減れば、赤字も減ります。逆に、赤字が増えたら、黒字も増えます。」となります。

2009 7月8月国際収支.jpg

 「経常収支黒字増資本収支赤字増」であり、「経常収支黒字減資本収支赤字減」です。

 「貿易黒字はもうけ、赤字は損」ではないことがお分かりいただけましたか?

 貿易黒字は日本国内で消費されなかった生産財・サービスを外国が消費(購入)することです。と同時に,外国が,日本に外国債や株式・社債を購入してもらったり,直接投資(海外に工場を建てるなど)でも株式を購入してもらったりしています。日本からみると海外に貸していることです。海外資産(株や、債権や、外貨準備増)は、日本円を外国資産に換えることですから、資本収支赤字になります。

 ということは,日本が「貿易黒字」を出せば出すほど,日本の海外での「財産」が増えることになります。そして,実際にその通りになっています。以上のような投資(海外へのお金の貸し出し)が,日本の対外資産なのです。

『読売新聞』2008.5.24
対外資産

 「貿易黒字はどこへいったのか」の答えは,「海外の資産になった」です。このことは,日本人の生活そのものが豊かになることを,必ずしも意味するものではないのです。
三面等価 汎用.jpg


 「貿易黒字は、海外への資本の貸し出し=外国資産の積み上げ」なのです。
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