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新聞を解説(41) チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』その4 日経H21.9.30

新聞を解説 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』その4 日経H21.9.30

<貯蓄-投資差額論(ISバランス論)を学ぶ その4>

…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないためISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、 (2)資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない

日本の貯蓄投資バランス推移.jpg

 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
世界全体でみたら、貯蓄と投資は常に等しくならなければならない。なぜなら貯蓄は投資の財源として必要で、ある額の投資(設備投資、住宅投資、公共投資など)を行うには、同額の貯蓄が必要だからである。一方、 (1) ある国において投資と貯蓄が常に一致する必要はない。貯蓄が投資を上回れば、余った貯蓄を海外に提供し、逆に投資が貯蓄を上回れば、貯蓄の不足分を海外から借り入れればよい


上記(1)部分が、(2)①資本収支収支赤字=経常(貿易)黒字国、②資本収支黒字国=経常(貿易)赤字国になります。

 ①は日本、中国などの経常(貿易)黒字国、②はアメリカなどの経常(貿易)赤字国になります。そのインバランス(不均衡)是正しようというのが、下記記事になります。

…G20は世界経済の不均衡是正に向けた国際協調の検討…米国などの経常赤字国が消費を抑制し輸出を増やす一方、中国などの経常黒字国が内需を拡大し輸出依存を引き下げる。
…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識が米提案の背景…>…しかし、ガイトナー長官は24日、日米財務省会談後に「強いドルは米国にとって非常に重要だ」と強調した。財政資金の半分を中国や日本など海外マネーに依存する米国にとって資金流入の減少につながるドル安政策に動きにくい…不均衡是正の有効な策は見いだせないのが現状だ。


 世界経済の不均衡 日経H21.9.26(グラフも)
…国際収支上は、米国が巨額の経常赤字を抱える一方で、日本などが経常黒字を計上する格好となる。過剰消費を繰り返す米国に対して中国などで過剰貯蓄が続く構図は、世界経済の不均衡(グローバル・インバランス)と呼ばれている

9.26経常収支不均衡.jpg
9.26 08年経常収支.jpg

<お金の貸し借りが原因、貿易黒字(赤字)は結果>

…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識

 という部分ですが、確か、今回の世界的金融危機の際に、ポールソン米財務長官も「中国などの過剰貯蓄が原因」という説を述べていました。

「金融危機の原因は中国の高貯蓄率」は責任逃れ
 まもなく任期を終えるポールソン米財務長官はこのほど、英紙「フィナンシャルタイムズ」のインタビューを受け、国際金融危機の原因の一部は、中国など新興市場国家の高い貯蓄率が世界経済の不均衡を呼び、米国にあふれた資金が米国の投資者に高いリスクの資産を買わせることにつながったことだとの見方を示した。これより1週間ほど前、米紙「ニューヨークタイムズ」には、「米国のバブルをふくらませた中国の貯蓄」と題した記事が発表された。この記事によると、FRBのバーナンキ議長は早い時期から「米国の債務問題は米国人の消費過剰のためではなく外国人の貯蓄過剰のためだ」と指摘していた。そしてこの「外国人」の代表格となるのは中国人だという。
人民網日本語版 http://j.people.com.cn/94476/6570538.html


9.26 不均衡の構図.jpg

 しかし、これは、やはり記事のとおり、「責任転嫁」でしょう。もともと、「米国に投資しよう」と呼びかけるようになったのは、米財務長官ルービンが就任し、「強いドル」政策を宣言して過剰消費大国になった95年からです。アメリカが金融緩和(銀行が投資会社や証券会社を子会社としてガンガン運営)をし、金融で儲ける構造改革を進めたのが先(原因)です。

<ルービン財務長官の登場>

1993年1月クリントン政権発足=アメリカ経済の再生
国家経済会議(National Econonomics Council)の新設
Robert Rubinゴールドマンサックス共同会長が議長就任(95年~99年:財務長官)

 彼は、「ウォール街を活性化させ、金融の力でアメリカ経済を再生」させるシナリオを持っていました。それまでの、

農界・製造界:ドル安 VS ウォール街:「ドル高」
の対立に決着をつけたのです。

 1995年には、:$1=79円という、記録的な円高ドル安になります。ルービン財務長宮は、ドル高政策『ドル高は国益だ、強いドルこそ国益だ』繰り返します

強いドル=対米資金流入 → 株高 + 金利引下げ = 経済成長
→経常収支赤字の制約を緩和=資本が入りファイナンスする

 当時の、ルービン財務長官の発言です。

“金融サービス業は21世紀型産業の真髄であります。その急速な成長は、IT と通信に基づくものであり、真にグローバルなのです。テレコム・サービス協定と情報技術協定に続く金融サービス協定の締結は、21世紀の経済基盤を構築するトリプルプレーの完成なのであります”(1997.3)

 マネー・フローは、経常黒字国から、赤字国に流れます。アメリカの経常収支赤字額<対米資金流入額となり、1997年には、その額は経常収支赤字の5.4倍にも上ります。これが、アメリカによる海外投資の原資になります。

黒字国→赤宇国(アメリカ)→海外投資

 当時、バブルとも言われたアメリカ株は、有望な投資対象でした(IT関連企業株式)。相対的に安全で流動的な金融資産を、相対的に高い利回りで提供していたのです。
         
 黒字国からの資金流入→資金運用の場=アメリカ(金融仲介業)→世界に再投資(アジア、ラテンアメリカ=エマージング諸国)

 アメリカのプロの金融機関が、ショックを吸収しながら、世界中の資金を運用していたんですね。
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