新聞を解説(36) 『社説:新政権はまっとうな成長戦略を描け』 日経H21.9.23
新聞を解説
『社説:新政権はまっとうな成長戦略を描け』日経H21.9.23
…企業が世界中で競い合う今日、経済成長には国際競争力の向上が何より重要だ。その競争力で日本は今年世界の8位(世界経済フォーラム調査)…、1位のスイス以下,米国、シンガポールなどに及ばない。…「技術革新力」「生産工程の先進性」…では世界一…「政府規制の負担」では22位、「教育制度の質」は31位、「農業政策経費」は128位…。
「ダボス会議」で有名な,世界経済フォーラム(WEF)の評価による「国際競争力ランキング」が毎年発表されています。そのようなランキングが,いかに「恣意的(しいてき)(気ままな考えや思いつき)で無内容か」について,飯田泰之『ダメな議論-論理思考でみぬく』ちくま新書2006で述べられています。
現プリンストン大学教授ポール・クルーグマン2008年ノーベル経済学賞受賞者は,「国際競争力」について,こう切り捨てています。
山形浩生訳 『クルーグマン教授の経済学入門』主婦の友社1999 p4
「みんなが,『アメリカの競争力』とか言ってるのは,ありゃいったい何のことかって?答えはだねえ,残念ながら要するにそいつら,たいがいは自分が何言ってんだか,まるっきりわかっちゃいないってことよ」
「企業の競争力」や「製品の競争力」と違い,「国の競争力」はとらえどころがないものなのです。「国の国際競争力」はどこがおかしいのでしょうか。
ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』日本経済新聞出版社2008
p21
ドロール委員長(筆者注:当時の欧州委員会)は…ヨーロッパの失業率が高いことの根本的な原因は、アメリカと日本に対する競争力がない点にあり…と訴えた…。
…この見方を代表するのは、世界の各国が「グローバル市場で競争を繰り広げている大企業のように」競争している…各国が現在、直面している経済問題は要するに、世界市場での競争をめぐる問題であり、たとえばアメリカと日本は、コカ・コーラとペプシが競争しているのと同じ意味で競争している…
p23
「競争力」という言葉を使う人たちは、ほとんどの場合、その意味を深く考えてはいない。
P131
「競争力」という用語を使うとき、ほとんどの人が国を企業と似たものと考え、貿易とは企業間競争を大規模にしたものと考えているだろう。
P172
実業界でとくに一般的で根強い誤解に、同じ業界の企業が競争しているのと同様に、国が互いに競争しているという見方がある。1817年にすでに、リカードがこの誤解を解いている。経済学入門では、貿易とは競争ではなく、相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として、輸出ではなく、輸入が貿易の目的であることを教えるべきである。
…俗流国際経済論(筆者注:国と国との「競争」を主張する論)が幅を利かせているために…悪い概念が良い概念を駆逐している。このような主張をはねつけるように、学生を教育すべきだ。
P179
…だれかが「競争力」について話しはじめたとき、学生が辟易するようになれば、経済学を教える立場にあるわれわれは…大きな貢献をしたことになる。
(1)貿易は競争ではない。
すでに、このブログをお読みになっている方なら理解できることです。
リカード比較生産費説により明らかなように、貿易は「ゼロ・サムゲーム」ではなく、相互に「WIN-WIN」の関係を作る「プラス・サムゲーム」です。貿易は競争ではありません。
ブログ 「リカード比較優位 比較生産費」参照
貿易すると、「生産量=消費量」だったものが、「生産量<消費量」となり、消費者効用(満足度)が増大するのです。
「生産者利益」ではなく、「消費者利益」、「輸出利益」ではなく、「輸入利益」の増大が、貿易の目的です。
定理
1 日常生活が貿易
2 日常生活が比較生産
3 貿易はすべての人(国)を豊かにする
(2)経済成長(生産性の伸び率)の他国との競争は無意味
クルーグマン前掲書では、その国の経済成長と、「競争力」は全く無関係なことが主張されています。
世界全体が、1%ずつ経済成長(生産性上昇)しているとします。その場合、日本の生活水準も1%ずつ上昇します。次に日本以外の世界が3%延びているとします。この場合、日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
答え「日本はやはり1%ずつ成長するが、交易条件を通じて微妙な影響を受ける」というものです。
2005年の貿易収支で、輸出額は、62,631、輸入額は52,297(単位10億円)です。輸出物価(1%増)より、輸入物価(3%増)が高くなるとします。 62,631→63,257、52,297→53,866、貿易黒字が10,334からへ9,391と、943(9.1%)減少します。同年のGDPは、513,251、1%経済成長で518,384になります。貿易黒字が前年度GDP比0.21%減少するということです。日本人の生活に影響を与えるものではありません。
2005年 2006年(架空) 単位10億円
GDP(1%増) 513,251 518,384
輸出額(1%増) 62,631 63,257 差額626(GDP比0.12%)
輸入額(3%増) 52,297 53,866 差額1,569(GDP比0.3%)
事実として、「アメリカの過去数十年間(筆者注:1970年~1990年)、この交易条件の悪化は、生活水準にほとんど影響を与えていない」(p174)のです。
アメリカの実質所得が低迷していたのは、「輸入は大きな原因ではなかった」(p78)のです。大部分が「国内要因によるもの(同)」なのです。
経済問題(不況)の原因は、その国の「成長率」に内在するのです。他国が3%成長し、日本が1%しか成長できない場合、35年で日本の所得は、先進国の半分になります。1.02の35乗は2、アメリカの生活水準の1/2になるということです。
『社説:新政権はまっとうな成長戦略を描け』日経H21.9.23
…企業が世界中で競い合う今日、経済成長には国際競争力の向上が何より重要だ。その競争力で日本は今年世界の8位(世界経済フォーラム調査)…、1位のスイス以下,米国、シンガポールなどに及ばない。…「技術革新力」「生産工程の先進性」…では世界一…「政府規制の負担」では22位、「教育制度の質」は31位、「農業政策経費」は128位…。
「ダボス会議」で有名な,世界経済フォーラム(WEF)の評価による「国際競争力ランキング」が毎年発表されています。そのようなランキングが,いかに「恣意的(しいてき)(気ままな考えや思いつき)で無内容か」について,飯田泰之『ダメな議論-論理思考でみぬく』ちくま新書2006で述べられています。
現プリンストン大学教授ポール・クルーグマン2008年ノーベル経済学賞受賞者は,「国際競争力」について,こう切り捨てています。
山形浩生訳 『クルーグマン教授の経済学入門』主婦の友社1999 p4
「みんなが,『アメリカの競争力』とか言ってるのは,ありゃいったい何のことかって?答えはだねえ,残念ながら要するにそいつら,たいがいは自分が何言ってんだか,まるっきりわかっちゃいないってことよ」
「企業の競争力」や「製品の競争力」と違い,「国の競争力」はとらえどころがないものなのです。「国の国際競争力」はどこがおかしいのでしょうか。
ポール・クルーグマン『良い経済学悪い経済学』日本経済新聞出版社2008
p21
ドロール委員長(筆者注:当時の欧州委員会)は…ヨーロッパの失業率が高いことの根本的な原因は、アメリカと日本に対する競争力がない点にあり…と訴えた…。
…この見方を代表するのは、世界の各国が「グローバル市場で競争を繰り広げている大企業のように」競争している…各国が現在、直面している経済問題は要するに、世界市場での競争をめぐる問題であり、たとえばアメリカと日本は、コカ・コーラとペプシが競争しているのと同じ意味で競争している…
p23
「競争力」という言葉を使う人たちは、ほとんどの場合、その意味を深く考えてはいない。
P131
「競争力」という用語を使うとき、ほとんどの人が国を企業と似たものと考え、貿易とは企業間競争を大規模にしたものと考えているだろう。
P172
実業界でとくに一般的で根強い誤解に、同じ業界の企業が競争しているのと同様に、国が互いに競争しているという見方がある。1817年にすでに、リカードがこの誤解を解いている。経済学入門では、貿易とは競争ではなく、相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として、輸出ではなく、輸入が貿易の目的であることを教えるべきである。
…俗流国際経済論(筆者注:国と国との「競争」を主張する論)が幅を利かせているために…悪い概念が良い概念を駆逐している。このような主張をはねつけるように、学生を教育すべきだ。
P179
…だれかが「競争力」について話しはじめたとき、学生が辟易するようになれば、経済学を教える立場にあるわれわれは…大きな貢献をしたことになる。
(1)貿易は競争ではない。
すでに、このブログをお読みになっている方なら理解できることです。
リカード比較生産費説により明らかなように、貿易は「ゼロ・サムゲーム」ではなく、相互に「WIN-WIN」の関係を作る「プラス・サムゲーム」です。貿易は競争ではありません。
ブログ 「リカード比較優位 比較生産費」参照
貿易すると、「生産量=消費量」だったものが、「生産量<消費量」となり、消費者効用(満足度)が増大するのです。
「生産者利益」ではなく、「消費者利益」、「輸出利益」ではなく、「輸入利益」の増大が、貿易の目的です。
定理
1 日常生活が貿易
2 日常生活が比較生産
3 貿易はすべての人(国)を豊かにする
(2)経済成長(生産性の伸び率)の他国との競争は無意味
クルーグマン前掲書では、その国の経済成長と、「競争力」は全く無関係なことが主張されています。
世界全体が、1%ずつ経済成長(生産性上昇)しているとします。その場合、日本の生活水準も1%ずつ上昇します。次に日本以外の世界が3%延びているとします。この場合、日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
答え「日本はやはり1%ずつ成長するが、交易条件を通じて微妙な影響を受ける」というものです。
2005年の貿易収支で、輸出額は、62,631、輸入額は52,297(単位10億円)です。輸出物価(1%増)より、輸入物価(3%増)が高くなるとします。 62,631→63,257、52,297→53,866、貿易黒字が10,334からへ9,391と、943(9.1%)減少します。同年のGDPは、513,251、1%経済成長で518,384になります。貿易黒字が前年度GDP比0.21%減少するということです。日本人の生活に影響を与えるものではありません。
2005年 2006年(架空) 単位10億円
GDP(1%増) 513,251 518,384
輸出額(1%増) 62,631 63,257 差額626(GDP比0.12%)
輸入額(3%増) 52,297 53,866 差額1,569(GDP比0.3%)
事実として、「アメリカの過去数十年間(筆者注:1970年~1990年)、この交易条件の悪化は、生活水準にほとんど影響を与えていない」(p174)のです。
アメリカの実質所得が低迷していたのは、「輸入は大きな原因ではなかった」(p78)のです。大部分が「国内要因によるもの(同)」なのです。
経済問題(不況)の原因は、その国の「成長率」に内在するのです。他国が3%成長し、日本が1%しか成長できない場合、35年で日本の所得は、先進国の半分になります。1.02の35乗は2、アメリカの生活水準の1/2になるということです。
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