新聞の間違い(26) 『経常黒字10.4%増』日経H21.10.9
新聞の間違い 『経常黒字10.4%増』日経H21.10.9
財務省が8日発表した8月の国際収支速報によると…経常収支は1兆1712億円の黒字となった。
前年同月に比べると、10.4%増え、2ヶ月ぶりに増加…
…輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が改善した…
日経新聞は、依然として「誤り」を掲載し続けています。
貿易(経常)黒字はもうけ(良いこと)と考えているから、「貿易収支は改善(黒字化が良いこと)」と、経済学上、ありえない表現が出てきます。日経でさえこうなのだから、「貿易黒字はもうけという神話」はなくなりそうにありません。
<1 貿易黒字はもうけではない>
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
<国際収支表の原則>
国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます。
モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
だから、8月の日本の国際収支は、次のようになります。

となるのです。△は外国カネ(資産)増(外国への資本提供)と覚えれば間違いないでしょう。ドル・ユーロや、外国国債、外国社債、外国株の購入額のことです。貿易黒字=外国への資金提供(資本提供)のことなのです。ですので、「貿易黒字はもうけ」ではありません。「貿易黒字(赤字)は=お金の貸し借り額」のことです。お金の貸し借りは「もうけ・損」ではありません。
①経常収支黒字=②資本収支赤字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)
①経常収支赤字=②資本収支黒字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)
ですから、日本が、経常黒字を重ねてきた結果、日本の対外資産は増え続けています。
グラフ 読売新聞 2008.5.24

「外国の資産が増える(資本提供)」ということは、我々「日本人の生活そのものが豊かになることを必ずしも意味しないことに注意されたい(岩田規久男『国際金融入門 』岩波新書1995 p44」となるのです。
次の記事は、典型的な誤りです。
「日本は最大の債権国である。日本は債権国であるメリットを享受できずにいる。輸出して受け取ったドルを豊かな生活をすることに生かしきっていない。輸出で稼いだお金を自国通貨の円に交換し,国内で使うことだ。自ら求めないと,豊かな生活はおくれない。額に汗して一生懸命稼いだお金を,他国に使われるだけである。(一部抜粋・下線部筆者)
朝日新聞『経済気象台』(署名:岳)2007.10.3
「輸出で稼いだ(筆者注:稼ぐというのも誤りですが)お金を円にして国内で使う」ことは、原理上不可能なのです。
注)輸出は、企業のもうけです。しかし、貿易黒字は儲けではありません。ここが肝心です。
一方、「貿易(経常)赤字=損」も成り立ちません。下記のように、英国も、アメリカも経常収支は「赤字」ですが、GDP(総生産=総所得)は増えています。
イギリス経済成長 貿易赤字

アメリカ経済成長 貿易赤字

貿易黒字(赤字)と、経済成長は、関係がないのです。
注)輸出は、経済成長と関係があります。企業のもうけ(付加価値)だからです。
<2 不景気になると、貿易黒字は増える>
三面等価の図を見て見ましょう。
(三面等価については、このブログの「GDPとGNIとは」の、三面等価・貯蓄投資ISバランスの項を参照)

我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)になるのです。S=144兆円、それがI93兆円、G-T32兆円、EX-IM18兆円に回るのです。EX-IM18兆円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM18兆円なのです。
「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると,分配(所得)は「C+S+T」という式になります。

さて,景気によって,この数値はどのように動くのでしょうか。景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。
ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。
ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。
逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国債+貿易黒字)も拡大します。つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。
日本貿易黒字推移

実際に、バブル(88年~90年)経済崩壊後、91年から「貿易黒字は増えて」います。さらに、97年山一證券・北海道拓殖銀行倒産による不況後、97年後半以降98年、貿易黒字は増えています。「不景気になると貿易黒字が増える」のです。
貿易黒字を増やそうと思えば、「不況にすればよい」のです。ばかばかしくて、お話になりません。 「貿易収支は改善した(筆者注:黒字が増えた)」が間違っていることがおわかりでしょう。
もう少し詳しく知りたい方は、
PDFファイル「間違いだらけの経済教育-ミクロ・マクロ経済学で本当の理解を」 http://members3.jcom.home.ne.jp/douseiken/record/sugawara3.pdf#search='リカード 比較生産費 比較優位' をご覧ください。
財務省が8日発表した8月の国際収支速報によると…経常収支は1兆1712億円の黒字となった。
前年同月に比べると、10.4%増え、2ヶ月ぶりに増加…
…輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が改善した…
日経新聞は、依然として「誤り」を掲載し続けています。
貿易(経常)黒字はもうけ(良いこと)と考えているから、「貿易収支は改善(黒字化が良いこと)」と、経済学上、ありえない表現が出てきます。日経でさえこうなのだから、「貿易黒字はもうけという神話」はなくなりそうにありません。
<1 貿易黒字はもうけではない>
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
<国際収支表の原則>
国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます。
モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
だから、8月の日本の国際収支は、次のようになります。

となるのです。△は外国カネ(資産)増(外国への資本提供)と覚えれば間違いないでしょう。ドル・ユーロや、外国国債、外国社債、外国株の購入額のことです。貿易黒字=外国への資金提供(資本提供)のことなのです。ですので、「貿易黒字はもうけ」ではありません。「貿易黒字(赤字)は=お金の貸し借り額」のことです。お金の貸し借りは「もうけ・損」ではありません。
①経常収支黒字=②資本収支赤字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)
①経常収支赤字=②資本収支黒字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)
ですから、日本が、経常黒字を重ねてきた結果、日本の対外資産は増え続けています。
グラフ 読売新聞 2008.5.24

「外国の資産が増える(資本提供)」ということは、我々「日本人の生活そのものが豊かになることを必ずしも意味しないことに注意されたい(岩田規久男『国際金融入門 』岩波新書1995 p44」となるのです。
次の記事は、典型的な誤りです。
「日本は最大の債権国である。日本は債権国であるメリットを享受できずにいる。輸出して受け取ったドルを豊かな生活をすることに生かしきっていない。輸出で稼いだお金を自国通貨の円に交換し,国内で使うことだ。自ら求めないと,豊かな生活はおくれない。額に汗して一生懸命稼いだお金を,他国に使われるだけである。(一部抜粋・下線部筆者)
朝日新聞『経済気象台』(署名:岳)2007.10.3
「輸出で稼いだ(筆者注:稼ぐというのも誤りですが)お金を円にして国内で使う」ことは、原理上不可能なのです。
注)輸出は、企業のもうけです。しかし、貿易黒字は儲けではありません。ここが肝心です。
一方、「貿易(経常)赤字=損」も成り立ちません。下記のように、英国も、アメリカも経常収支は「赤字」ですが、GDP(総生産=総所得)は増えています。
イギリス経済成長 貿易赤字

アメリカ経済成長 貿易赤字

貿易黒字(赤字)と、経済成長は、関係がないのです。
注)輸出は、経済成長と関係があります。企業のもうけ(付加価値)だからです。
<2 不景気になると、貿易黒字は増える>
三面等価の図を見て見ましょう。
(三面等価については、このブログの「GDPとGNIとは」の、三面等価・貯蓄投資ISバランスの項を参照)

我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)になるのです。S=144兆円、それがI93兆円、G-T32兆円、EX-IM18兆円に回るのです。EX-IM18兆円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM18兆円なのです。
「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると,分配(所得)は「C+S+T」という式になります。

さて,景気によって,この数値はどのように動くのでしょうか。景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。
ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。
ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。
逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国債+貿易黒字)も拡大します。つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。
日本貿易黒字推移

実際に、バブル(88年~90年)経済崩壊後、91年から「貿易黒字は増えて」います。さらに、97年山一證券・北海道拓殖銀行倒産による不況後、97年後半以降98年、貿易黒字は増えています。「不景気になると貿易黒字が増える」のです。
貿易黒字を増やそうと思えば、「不況にすればよい」のです。ばかばかしくて、お話になりません。 「貿易収支は改善した(筆者注:黒字が増えた)」が間違っていることがおわかりでしょう。
もう少し詳しく知りたい方は、
PDFファイル「間違いだらけの経済教育-ミクロ・マクロ経済学で本当の理解を」 http://members3.jcom.home.ne.jp/douseiken/record/sugawara3.pdf#search='リカード 比較生産費 比較優位' をご覧ください。
スポンサーサイト