リカード 比較優位 比較生産費説 その11
<次回の更新は10月13日(火)になります>
<リカード 比較優位 比較生産費説 その11>
<絶対優位は無関係>
清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152
間違い×「生産量が増え,交換すれば利益を得る」
正解 ○「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
「リカード理論」の魔法はまだまだ続きます。実は,この理論の前では,「どちらの国が絶対優位にあったか」ということすら,忘れさせてしまうのです。皆さんは,ポルトガルがワイン生産でも,ウール生産でも,絶対優位にあったことを覚えていますか?逆にイギリスはどちらも絶対劣位にありました。表を再掲しますね。


どうですか?イギリスは,「ワインとウール,両方ともポルトガルよりも生産費(コスト)がかかるので,貿易しても,イギリスの商品は,ポルトガルでは売れない」はずでしたね。しかし,グラフを見てわかるように,両国の国民は消費者として,確実に利益を得ています。
これは,「生産性」ということについて論じているのです。「リカード・モデル」によれば,「貿易利益は,各国の絶対的な生産性とは無関係」ということになります。
生産性とは,「リカード・モデル」の場合は,労働生産性のことです。ポルトガルは,1人で1㍑のワインを作りますが,イギリスでは,5人でようやく1㍑を作るのです。
ハンバーガー店のアルバイトで,同じハンバーガーを作るのに,1人でさっさと作る場合と,5人でようやく1個を作る場合を比較してみましょう。時間もエネルギーも,5倍かかるとすれば,新人さんのアルバイトで,まだ慣れていないならともかく,店長さんはおこってしまうでしょうね。「もっと効率よく作れ!」って。
そう,「労働生産性」とは「効率」のことなのです。イギリスの場合,明らかに生産性はポルトガルより低いのです。それでも,イギリスには「利益がもたらされる」結果になりました。
「リカード・モデル」では,各国の労働生産性の絶対的な違いは,貿易利益とは関係ないのです。ということは,ものすごく効率の悪い国が商品を作っても,貿易すれば,利益が上がるということです。本当でしょうか。
数値を変えてみます。信じられないくらい,効率の悪い=むだな仕事をしている国を想定してみましょう。

この場合,イギリスの労働生産性の低さは致命的です。「どうしてこの国は,こんなに生産性が低いのでしょう!」誰もが怒りだしそうです。しかし,これでも,イギリスには「利益がもたらされる」のです。では,特化してみましょう。

これをグラフにしてみます。

どうでしょうか。三角形が大きくなっています。生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。それに加え,③・④部分の面積が大きくなっています。生産量<消費量が成立しています。消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。
労働生産性が極端に低いイギリスでも,貿易の利益を得ることができるのです。
ということは,発展途上国が,「私たちの国は,先進国に比べて,テレビを作っても,自転車を作っても,生産性が低い。だから我が国の生産性が上がるまで,先進国との貿易(輸入)は制限しよう」という,本当によくありそうな話が,経済学的には誤りだということになります。
架空の話ではなく,70年代までのアジアや南米では,「幼稚産業保護」として,本当にとられていた政策です。「輸入代替化」政策とも言われていました。
輸入数量制限や高関税,外国為替管理といった輸入制限策を用いて国内市場を保護する政策です。しかしこの政策は行き詰まり,アジアNICsでは,外向きの成長政策が採用されることになりました。
福田邦夫 小林尚朗編『グローバリゼーションと国際貿易』大月書店 2006 p256-257

ですから,このような表の場合であっても,日本にも,発展途上国にも,必ず利益がもたらされるのです。「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありませんでしたね。
さらに,農業国が遅れていて,工業国が進んでいるという考え方も,比較生産費説ではあてはまりません。オーストラリアやニュージーランドは先進農業国として知られています。特に後者は,輸出の約半分は農産物という農業大国です。一方,両国ともに国内自動車メーカーは,スポーツカーを製造するような,小さな1~2社しかありません。それでも,1人あたりGDPは2万5000ドル(オーストラリアは3万3000ドル)を超える,先進国です(’05年)。これは,その国の比較生産費の問題です。広大な農地を労働者1人で管理できたら・・・。工業よりもずっと労働生産性は高くなるのです。
<リカード・比較生産費説 その3> <日常生活は比較生産そのもの>で、次のような例を示しました。
お母さんは、アイロンがけも、洗濯物たたみも、9歳の娘よりは早いです。9歳の娘はアイロンがけも、洗濯物たたみも、お母さんより、圧倒的に遅いのですが、どちらかというと、洗濯物たたみの方が早くできます。
洗濯物をたたむ アイロンがけ
お母さん ◎ ◎
娘 ○ △
この場合、仕事を早く終わらせるには、「娘はじゃま」だから、お母さんが1人で「洗濯物をたたみ、アイロンがけをする」ということにはなりません。
お母さんは「アイロンがけ、娘は洗濯物たたみ」、お母さんの「アイロンがけ」が終わったら、お母さんも「洗濯物たたみ」に参加する。これが一番効率的でした。
さらに、<リカード・比較生産費説 その2><日常生活は貿易そのもの>で、次のように説明しました。
貿易(交換)がなければ、われわれは、衣食住すべてを自給自足しなければなりません。国民一人一人が、服を作り、米を作り、家を建てるのと、国民それぞれが、「服」作り、「農家」「大工」に特化し、得意分野を生産するのとでは、どちらが、我々の利益を増やすでしょうか。答えは後者です。
我々は、「塾の先生」「銀行員」「パン屋」「ガソリンスタンド店員」「農家」「衣料品店」etcという仕事に特化しています。それぞれ、20万円という給料をもらったとします。
「塾の先生」は、20万円という「サービス」を生産したことになります。「農家」は米という「モノ」20万円を生産したことになります。
「絶対優位の国が経済的に強く、絶対劣位の国が経済的に弱い」という幻想があるから、「発展途上国は不利」と考えてしまいます。
世の中には、「医者にでも弁護士にでもなれる」ような、学力優秀な人がいます。一方、「勉強が嫌いで嫌いで、学歴がない」人もいます。前者は年収2000万も、3000万も稼げるでしょう。では、後者は貿易(交換)利益を上げられないのでしょうか?
違いますね。後者も、学歴不問の仕事をすることができます。たとえ年収400万の仕事にしか、つけなくても、一つの仕事に特化(生産)し、貿易(交換)することによって、利益(消費者利益)を得ています。
「医者にでも弁護士にでもなれる」人でも、両方の仕事をいっぺんにすることはできません。1日8時間しか労働時間がないからです(「それ以上働けば良いじゃないか」はここでは無視します)。どちらかに特化して、「年収2000~3000万」を生産し、貿易(交換)することによって、利益(消費者利益)を得るのです。
「お母さんは、アイロンがけも、洗濯物たたみも、9歳の娘よりは早い」ですが、娘でも娘のできる範囲で、労働生産できるのです。
「先進国」も「発展途上国」も同じです。「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありません でしたね。
絶対優位 絶対劣位
お母さん 娘
医者にでも弁護士にでもなれる学力優秀な人 勉強が嫌いで嫌いで、学歴がない人
先進国 発展途上国
貿易(交換)はすべての国(人)を利するのです
では,貿易が成立するには何が必要だったのでしょう。それが,「比較優位」でした。実は,比較優位は,今まで何度も出てきた,三角形でみると,一目瞭然なのです。「比較優位がある」ということは,三角形の形が違うということなのです。
<リカード 比較優位 比較生産費説 その11>
<絶対優位は無関係>
清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152

間違い×「生産量が増え,交換すれば利益を得る」
正解 ○「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
「リカード理論」の魔法はまだまだ続きます。実は,この理論の前では,「どちらの国が絶対優位にあったか」ということすら,忘れさせてしまうのです。皆さんは,ポルトガルがワイン生産でも,ウール生産でも,絶対優位にあったことを覚えていますか?逆にイギリスはどちらも絶対劣位にありました。表を再掲しますね。


どうですか?イギリスは,「ワインとウール,両方ともポルトガルよりも生産費(コスト)がかかるので,貿易しても,イギリスの商品は,ポルトガルでは売れない」はずでしたね。しかし,グラフを見てわかるように,両国の国民は消費者として,確実に利益を得ています。
これは,「生産性」ということについて論じているのです。「リカード・モデル」によれば,「貿易利益は,各国の絶対的な生産性とは無関係」ということになります。
生産性とは,「リカード・モデル」の場合は,労働生産性のことです。ポルトガルは,1人で1㍑のワインを作りますが,イギリスでは,5人でようやく1㍑を作るのです。
ハンバーガー店のアルバイトで,同じハンバーガーを作るのに,1人でさっさと作る場合と,5人でようやく1個を作る場合を比較してみましょう。時間もエネルギーも,5倍かかるとすれば,新人さんのアルバイトで,まだ慣れていないならともかく,店長さんはおこってしまうでしょうね。「もっと効率よく作れ!」って。
そう,「労働生産性」とは「効率」のことなのです。イギリスの場合,明らかに生産性はポルトガルより低いのです。それでも,イギリスには「利益がもたらされる」結果になりました。
「リカード・モデル」では,各国の労働生産性の絶対的な違いは,貿易利益とは関係ないのです。ということは,ものすごく効率の悪い国が商品を作っても,貿易すれば,利益が上がるということです。本当でしょうか。
数値を変えてみます。信じられないくらい,効率の悪い=むだな仕事をしている国を想定してみましょう。

この場合,イギリスの労働生産性の低さは致命的です。「どうしてこの国は,こんなに生産性が低いのでしょう!」誰もが怒りだしそうです。しかし,これでも,イギリスには「利益がもたらされる」のです。では,特化してみましょう。

これをグラフにしてみます。

どうでしょうか。三角形が大きくなっています。生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。それに加え,③・④部分の面積が大きくなっています。生産量<消費量が成立しています。消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。
労働生産性が極端に低いイギリスでも,貿易の利益を得ることができるのです。
ということは,発展途上国が,「私たちの国は,先進国に比べて,テレビを作っても,自転車を作っても,生産性が低い。だから我が国の生産性が上がるまで,先進国との貿易(輸入)は制限しよう」という,本当によくありそうな話が,経済学的には誤りだということになります。
架空の話ではなく,70年代までのアジアや南米では,「幼稚産業保護」として,本当にとられていた政策です。「輸入代替化」政策とも言われていました。
輸入数量制限や高関税,外国為替管理といった輸入制限策を用いて国内市場を保護する政策です。しかしこの政策は行き詰まり,アジアNICsでは,外向きの成長政策が採用されることになりました。
福田邦夫 小林尚朗編『グローバリゼーションと国際貿易』大月書店 2006 p256-257

ですから,このような表の場合であっても,日本にも,発展途上国にも,必ず利益がもたらされるのです。「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありませんでしたね。
さらに,農業国が遅れていて,工業国が進んでいるという考え方も,比較生産費説ではあてはまりません。オーストラリアやニュージーランドは先進農業国として知られています。特に後者は,輸出の約半分は農産物という農業大国です。一方,両国ともに国内自動車メーカーは,スポーツカーを製造するような,小さな1~2社しかありません。それでも,1人あたりGDPは2万5000ドル(オーストラリアは3万3000ドル)を超える,先進国です(’05年)。これは,その国の比較生産費の問題です。広大な農地を労働者1人で管理できたら・・・。工業よりもずっと労働生産性は高くなるのです。
<リカード・比較生産費説 その3> <日常生活は比較生産そのもの>で、次のような例を示しました。
お母さんは、アイロンがけも、洗濯物たたみも、9歳の娘よりは早いです。9歳の娘はアイロンがけも、洗濯物たたみも、お母さんより、圧倒的に遅いのですが、どちらかというと、洗濯物たたみの方が早くできます。
洗濯物をたたむ アイロンがけ
お母さん ◎ ◎
娘 ○ △
この場合、仕事を早く終わらせるには、「娘はじゃま」だから、お母さんが1人で「洗濯物をたたみ、アイロンがけをする」ということにはなりません。
お母さんは「アイロンがけ、娘は洗濯物たたみ」、お母さんの「アイロンがけ」が終わったら、お母さんも「洗濯物たたみ」に参加する。これが一番効率的でした。
さらに、<リカード・比較生産費説 その2><日常生活は貿易そのもの>で、次のように説明しました。
貿易(交換)がなければ、われわれは、衣食住すべてを自給自足しなければなりません。国民一人一人が、服を作り、米を作り、家を建てるのと、国民それぞれが、「服」作り、「農家」「大工」に特化し、得意分野を生産するのとでは、どちらが、我々の利益を増やすでしょうか。答えは後者です。
我々は、「塾の先生」「銀行員」「パン屋」「ガソリンスタンド店員」「農家」「衣料品店」etcという仕事に特化しています。それぞれ、20万円という給料をもらったとします。
「塾の先生」は、20万円という「サービス」を生産したことになります。「農家」は米という「モノ」20万円を生産したことになります。
「絶対優位の国が経済的に強く、絶対劣位の国が経済的に弱い」という幻想があるから、「発展途上国は不利」と考えてしまいます。
世の中には、「医者にでも弁護士にでもなれる」ような、学力優秀な人がいます。一方、「勉強が嫌いで嫌いで、学歴がない」人もいます。前者は年収2000万も、3000万も稼げるでしょう。では、後者は貿易(交換)利益を上げられないのでしょうか?
違いますね。後者も、学歴不問の仕事をすることができます。たとえ年収400万の仕事にしか、つけなくても、一つの仕事に特化(生産)し、貿易(交換)することによって、利益(消費者利益)を得ています。
「医者にでも弁護士にでもなれる」人でも、両方の仕事をいっぺんにすることはできません。1日8時間しか労働時間がないからです(「それ以上働けば良いじゃないか」はここでは無視します)。どちらかに特化して、「年収2000~3000万」を生産し、貿易(交換)することによって、利益(消費者利益)を得るのです。
「お母さんは、アイロンがけも、洗濯物たたみも、9歳の娘よりは早い」ですが、娘でも娘のできる範囲で、労働生産できるのです。
「先進国」も「発展途上国」も同じです。「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」のが,「リカード・モデル」なのです。「絶対優位」ではありません でしたね。
絶対優位 絶対劣位
お母さん 娘
医者にでも弁護士にでもなれる学力優秀な人 勉強が嫌いで嫌いで、学歴がない人
先進国 発展途上国
貿易(交換)はすべての国(人)を利するのです
では,貿易が成立するには何が必要だったのでしょう。それが,「比較優位」でした。実は,比較優位は,今まで何度も出てきた,三角形でみると,一目瞭然なのです。「比較優位がある」ということは,三角形の形が違うということなのです。
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