新聞の間違い(24) 文鳥『大機小機:良い成長と悪い成長』日経H21.9.29

 文鳥『大機小機:良い成長と悪い成長』日経H21.9.29

経済学の世界では国内総生産(GDP)の水準には適量がなく、多いほど良いと主張する学者やエコノミストが多数いる。膨大な財政赤字を解消し、高齢社会の福祉財源を捻出(ねんしゅつ)するには、GDPを少しでも増やすべきだというのだ。

…確かにケインズも、大不況期の膨大な失業者を救済するには有効需要を創出し、経済全体の生産(GDP)を増やすことが必要だと説いた。

…しかしケインズは、安い賃金でも働きたいという失業者がいるなら、ミクロの市場原理にしたがって、労働者全体の賃金を引きさげても雇用機会を増大させるべきだとは言わなかった。むしろ、賃下げは有効需要の減少を通してデフレ不況を引き起こす危険があると警告したのだ。

コレステロールに悪玉と善玉があるように、悪い成長と良い成長があることが分かる。…GDPは多い方が良いといって、労働条件の悪化と引き換えにGDPを増やしても国民の福祉は高まらない

成長が第一だと檄(げきを飛ばし、国民に過酷な労働を強いてGDPの拡大を優先しても、肥えるのは強者ばかりで、弱者が報われなかったことは小泉改革の経緯を見れば明らかである。



 困りましたね。「日経の外部の人が書く」とは言え、経済学に基づかない思い込みと、一知半解の知識が、世間に流布することになっては、経済新聞とは言えないのでは?

<間違いその1 良い成長と悪い成長>

 GDPは、良いも悪いも関係なく、伸びなければまずいのです。労働分配率が低くなるような、「悪い成長はごめんだ」というのが、その主張の骨子のようです。しかし、GDPが伸びないととんでもないことになってしまいます

追記 21年10月2日 「労働分配率は、不況になると高くなります」

竹森俊平『経済危機は9つの顔を持つ』日経BP社 2009

竹森俊平と、竹中平蔵の対談です。

P429-431
竹森
 …低成長というのは、「清貧」という言葉を思わせるところがあって耳にも聞こえが良い。何か清々しい印象さえ与えるようです。ところが、私は一般国民が武威長の恐ろしさ、危険というものを十分分かって、そう思っているとは考えられないのです。これだけ財政赤字と債務残高があって、しかも高齢化が進んでいるのに低成長だというのは、考えるだに恐ろしい、大変なシナリオだろうという気がしているのです。もし日本経済が、これからずっと1%成長でやりくりをしなければならないことになった場合、どういう状態が起こると、竹中さんはお考えですか。

竹中 
 私は常に政策をどうするかという立場から考えることにしています。成長率は低くてもいいから、健やかに暮らせればいいという状態を、人々は絶対望んでいないと思います。なぜかと言うと、アンケート調査をすると、必ず「景気を良くしろ」という答えが追ってくる。もし成長しなくてもいいのであれば、景気を良くしてくれなどと言うな、ということになります。国民は、今日より明日が豊かになって欲しいとみんな思っている。この成長は、国民が求めていることだと基本的には思います

…とりわけ日本の場合は、全部門が大きな債務を待っていて、それを一つのリズムの中で解決していくためには、一定の資産が必要です。
 私は成長しなくてもいいと言う人によく言うのですが、アメリカが3%成長をして、日本が1%しか成長をしない。2%の成長格差がある。これは、35年で2倍に広がる。…そうすると、今でも日本はアメリカより1人当たりの所得が2~3割低いですから、アメリカの半分以下になりますよ。本当にそれでいいのですかと。それは絶対に耐えられないと思いますよ。所得がアメリカの半分以下、4割ぐらいになれば、非常に貧しい国家になる。それは、国民として耐えられないでしょう


 世界経済のGDP成長率と、日本の比較です。
世界経済成長率
 世界全体が経済成長をしている中、日本だけが成長率が低かったことがわかります。小学校時代、クラスみんなの背がぐんぐん伸びているのに、自分(日本)だけ、あまり伸びていない状態です。
 自分だけが取り残されているのですから、豊かさ(絶対的には伸びている)を実感できないわけです。

岩田規久雄『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p162岩田規久雄『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p162
 1993年から2007年の日本の平均成長率は…1980年から1992年の3.6%から1.4%へと大きく下がってしまった。これは主要先進国の中では最低の成長率である。

 ドイツもアメリカも、フランスも、イタリアでさえ、(93-07年)の成長率は、日本を上回っています。一人当たりGDPも、毎年低下し、現在世界16位(?:正確ではありません)です。安倍内閣当時、太田経産相が、「日本はもはや経済一流国ではない」と言ったことを覚えていますか?イギリスにさえ、抜かれているのです。
 先進国の生活状態から、どんどん落ちこぼれていくのが、「低経済成長」なのです

「GDPは多い方が良いといって、労働条件の悪化と引き換えにGDPを増やしても国民の福祉は高まらない」が、暴論だということが、お分かりでしょうか。

<間違いその2 グローバル化が強者と弱者の差を拡大した>

 成長が第一だと檄(げきを飛ばし、国民に過酷な労働を強いてGDPの拡大を優先しても、肥えるのは強者ばかりで、弱者が報われなかったことは小泉改革の経緯を見れば明らかである。

小泉改革は、格差を縮小したのです。

『世界この先』日本経済新聞09年3月○○日(日にち喪失)
 グローバル化は本当に世界に格差や貧困をばらまいたのであろうか?…
…1に近いほど所得格差が大きいことを示すジニ係数。米コロンビア大学教授のサライマルティン(45)によれば世界全体の係数は70年には0.67だったが、2006年には0.61に下がった。世界銀行によると1日1ドル25セント未満で暮らす貧困層も過去25年間で5億人減った。過去の経済成長の恩恵は広く及んだ。マクロで見ればグローバル化が人々を不幸にしたと断ずる理由は乏しい。サライマルティンは「今世紀にはアフリカでも貧困脱出が始まった」と言う。


 日本のジニ係数は、2000年~2005年の間に、縮小しています。OECD2008年報告書によると、小泉改革2001~の間、格差拡大をわずかながら抑えたのです

参照1:四国新聞
http://www.shikoku-np.co.jp/national/economy/print.aspx?id=20081022000065
参照2:マイコミジャーナル
http://journal.mycom.co.jp/news/2008/10/23/049/index.html
参照3:経済白書2009年版 


日本経済新聞H21.8.16グラフ(3つとも)
グラフをクリックすると、大きくなります
日経21.8.16 世界GDP成長

 世界のGDP(我々一人ひとりのもうけ=所得の総額)は、20年間に約3倍になりました。昔、 「一人当たりGDPが、1万ドルを超えたら、先進国の仲間入り」と言われましたが、今日、一人当たりのGDPは世界の平均で、「1万ドル」になりました。

日経21.8.16 輸出入活発化
輸出入も、20年間に約4倍になりました。

日経21.8.16 貧困層削減
 貧困層の割合は、減りました。グローバル化の恩恵は、確実に広がっているのです。

 日本は、GDPをアップ(一人当たりで構いません)してゆかないと、相対的な国民所得は、平成→バブル期→昭和50年代→昭和40年代と、後退してゆくのです。「良い経済成長・悪い経済成長」など、あり得ません。
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