再掲 H21.8.12記事

 2009年8月、北海道教育大学札幌校で、宮田和保教授「経済学の基礎」を受講しました。
レジュメ、資料(データ)はありませんでした。

<講義における、経済的な間違い>

(1)JR北海道の決算書を説明した際、「経常利益に、特別損失・特別利益を含む」と言い,「生徒に経常利益を  説明する際には、このことだと教えて下さい」 と言いました。

http://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/kessan/21/pdf/00_jrhokkaido.pdf JR北海道 決算書参照

 私が、「経常利益の後に、特別損失(利益)を計上します。間違いです」と言いましたが、最後まで、「間違ってはいません」と言われ、訂正しませんでした。 
 「決算書(損益計算書)」では、地震で建物が倒壊したり、過去の損益計算書の見直しをする場合は、「特別損失(利益)=単年度」として掲載します。

(2)コマーシャル・ペーパーのことを「PC、PC・・・」と連呼、「CPです」と、私が訂正しました。その時は納得されたようですが、その後再度、「PC、PC・・・」と言い続けました。 金融の常識を、押さえられていません。

(3)国民所得45度線分析に、Cを加えて、GDPをアップ
中谷巌「入門マクロ経済学」第5版2007 p83 45°線分析

 その「C」は、どこから持ってくるのですか?と質問すると、「教育とか、医療とか、福祉にお金を回すことで、経済成長が達成できる、そのような理論データもある」と力説します。しかし、「それは『配分』の問題だと思います。そうではなく、『C』を増やす原資はどこにあるのですか」と再度尋ねると、「その年のGDP=Y以外から、何とかというお金(ストックではないと力説していましたが)を加える」と言っていました。

 
 GDPアップではなく、G(政府)を加えて、完全雇用(総需要=総供給)に一致させるということです。しかも、S=Iですから、持ってくる(加えられるお金)は、Sの範囲内です。S>Iなので、S=Iにするということです。S<Iなどと、「その年のGDP=Yから以外に、何とかというお金を加える」ことは不可能です。

 「Y=C+S Y=C+I」に基づいて説明していましたが、C、Sについては、コンサンプション・セイヴィングと説明しましたが、Iをインヴェストメント(投資のこと)と、講義の最後まで、言う事ができませんでした(忘れたそうです)。

(4)ケインズの流動性選好を、「債権と貨幣」ではなく、「株」で説明しました。
 「債権と貨幣をどのように持つかは、利率によって決まる」とか、「貨幣は一番、流動性が高いから、貨幣を所持する」というのが、流動性選好説ですが、なぜ、「株」や、「株価の決まり方」で説明できるのでしょうか。

(5)貨幣数量説 MV=PT(もしくはMV=PQ)をMV=PY(Y=国民所得)と説明しました。
             MV  =  PQ
  貨幣供給量×流通速度=物価×生産高 のことです。 P貨幣×Y(国民所得)ではありません。

(6)アメリカの産業は、女性スタイルとおなじ
 
アメリカの産業は、(ボン・キュ・ボンの)女性スタイルだ。農業の第一次産業と、金融などの第三次産業で稼ぎ、工業の第二次産業は見捨てられた」と言いました。
 アメリカの農業のGDPに占める割合は、1%台です。体形で言うと、第三次産業の肥大化した、逆三角形の図になります。

(7) 「非正規雇用が拡大し、貧困率は、OECDで、アメリカに次ぎ2位。所得格差が開くと、犯罪が多くなる」そうです。

 刑法犯罪の総数は、2002年以降、減少しています。『警察白書』
 
たった90分4コマの講義で、これだけ、間違いを連発しています。


<疑問そのほか>

(1) 「労働分配率を変えれば、経済成長」と言っていました。所得を、企業<労働者にすれば、GDPが成長するのだそうです。「すでに研究もある」といっていました。そうなのですか? 

(2)講義の冒頭から、「新自由主義」とか「市場原理主義」とか、経済学者なら、使わない言葉を連発し、批判していました。
 
 経済学上、定義すらできない言葉を、学問の世界で聞くとは思いませんでした。「これらの言葉は、経済学的には意味不明です」というところから、経済学講義が始まるはずですが・・・

 「そんな定義もできない言葉を使うのはなぜか」ときくと、「竹中平蔵は市場原理主義と使った」と言います。「原理などとは、絶対に言っていない」と食い下がると、講義は中断され、休憩になりました

 経済学者が、 「原理主義」など使う事はあり得ません。「市場主義」も、伊藤元重教授が、著書の中で、「私の造語ですが・・・」『入門経済学』日本評論社2005と断っています。
 「市場主義」など、エコノミストや、マスコミや、政治家の造語です。
参考文献:小宮隆太郎『経済教室』日経 H20.8.14

…ところが今日まで「近代」経済学者…は「自由放任主義」(レッセ・フェール)を説いていると誤解したり、あるいは意図的に曲解して喧伝したりする人が少なくない。
…あるマルクス経済学者の分厚い近著には「新自由主義」という言葉が二十回も登場するが、意味の説明も…(参考文典の指示)も皆無である。…世界で起きる「悪いこと」は、たいていサッチャー元英首相、レーガン元米大統領と、その亜流小泉純一郎元首相の「新自由主義」のせいだという。その片棒を近代経済学者が担いでいるといったたぐいの記述も見かける。
 私にとってもう一つの意味不明の、おまじないのような言葉は「市場原理主義」である。「市場原理主義」とは、要するにレッセ・フェールのことらしいが、レッセ・フェールが望ましくないことは「近代」経済学者の圧倒的多数が百も承知のことである。
…かつてのデモ行進では…「独占」「国家独占資本主義」という「悪者」がいた。だが昨今、独占資本を悪者にすることははやらない。そこで「新自由主義」や「市場原理」という新しい悪者の「わら人形」が仕立て上げられたのではないか


追記H21.9.3
根井雅弘『経済学とは何か』中央公論社2008 p86-89
 
 …ジャーナリズムの世界では、「資本主義」vs「社会主義」の闘いに前者が圧的な勝利を収め、いま や「市場原理主義」の時代が到来したと言わんばかりの論調がしばらく席巻するようになった。…専門的な経済学者やエコノミストであれば、「市場メカニズム」の役割は十分に認めながらも、それが「万能」であると考えていたものはいないといっても言い過ぎではない。だが、ベルリンの壁の崩壊という象徴的な大事件を前に、少なからぬジャーナリストが「市場原理主義」の方向へ傾斜していった
のである。 

<追記 H22.4.26>

 宮田さんが「市場原理主義と言っている」と批判した竹中平蔵教授の「市場原理主義」観です。

竹中平蔵 南部靖之共編 『これから働き方はどうなるのか』PHP 2010 p90

 おかしな議論はまだある。たとえば、2008年にNHKの番組に出たのだが、そのときの最初のテーマが、「市場原理主義についてどう思うか」だった。「原理主義」という言葉がついているということは、それは悪いことだという結論を番組はすでに出している。
 「悪いこと」についてどう思うかというのはまったくの愚問で、番組の意図は明白だった。そこで、私は「なぜそんなことを番組で議論するのですか」と聞いた。予期せぬ答えだったかもしれないが、生放送だったのでそのまま放映された。
 もう少し説明すれば、「市場原理主義」などという用語は経済学にはない。 「市場」を重視する経済学者は多数いるが、一方で「市場」が失敗することもよくわかっている。そういう場合には「政府」の出番になるが、もちろん「政府」は万能ではない。「政府」の出番に力点を置く経済学者もいるが、彼らは「政府」も失敗することをよく知っている。政府にすべてを任せるべきだという考え方を「計画経済」もしくは「社会主義」という。


 竹中教授は、「市場原理主義」者ではありません。追記以上。

 「経済学」は、「因果論・相関論」であり、「価値論」ではありません。国民所得をどのように配分するかの問題は、「政治」です。マルクス研究が専門だそうですが、ご自分の「価値」を述べられても・・・

(3)大企業搾取論のような「内部留保が大きい」論を展開します。「内部留保(120兆円?とか言っていました)を取り崩し、200万人の派遣労働者を解雇せずに1人あたり、ウン百万円で雇えば、良い」と主張していました。

 そこで、私が、「他人資本と自己資本の割合はご存知ですか?」と、 「貸借対照表」に話を持っていこうとすると、「もう(あなたとは)議論にならない」といって、質疑応答を打ち切られました。

 内部留保は、「貸借対照表」に基づいて話をしないと、議論すらできません
 そもそも、「内部留保」ですが、イコール手元資金ではありません。この利益を使って、工場や設備、原材料購入などをします。貸借対照表の左側にある現預金・有価証券の47兆円分しか、手元資金はありません。有利子負債は、342兆円です。大企業の負債は、資産の6割です。
日経21年4月14日
日経 21.4.14 貸借対照表

 日産のゴーン社長は、昨年10月、とにかく「キャッシュ・マネジメント(資金繰り)」が最優先の経営課題と言っていました。12月には、「政府は、自動車産業の支援を」とまで言います。産業全体が、資金に行き詰まりました。CPを発行しても、買い手がいません。日銀が、CP購入に踏み切るという、前代未聞の対策を行いました。
 大企業でさえ、資金の確保に銀行を頼りました。各企業は、目先の現金流出を食い止めるため、在庫調整を加速し、非正規社員を解雇しました(参考文献:日経21年8月10日)
 
 「内部留保を取り崩せばいい」などとマスコミで喧伝している人たちは、経済を知らない自称エコノミストです。
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No title

>「市場原理主義」などという用語は経済学にはない。 

market fundamentalismという言葉はStiglitzも使っています。

>政府にすべてを任せるべきだという考え方を「計画経済」もしくは「社会主義」という。

マルクスは社会主義についてほとんど書いていません。『ゴータ綱領批判』には社会主義=政府にすべてを任せるなんてことは書いてません。それに、国家の廃絶を主張するのがマルクス主義です。大きな政府でなく、小さな政府の方がマルクスに近いです。社会民主主義と社会主義を混同しているのではないでしょうか。

> 「内部留保を取り崩せばいい」などとマスコミで喧伝している人たちは、経済を知らない自称エコノミストです。

大竹文雄先生も内部留保の取り崩しに言及されています。

No title

>「市場原理主義」などという用語は経済学にはない。

>政府にすべてを任せるべきだという考え方を「計画経済」もしくは「社会主義」という。

 上の二つのコメントについては、竹中先生に、ご質問下さい。

スティグリッツが使っているのは、「批判」の文脈ですよね。
『フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか』徳間書店2010に出てきた限りではですが。

> 「内部留保を取り崩せばいい」などとマスコミで喧伝している人たちは、経済を知らない自称エコノミストです。
-大竹文雄先生も内部留保の取り崩しに言及されています。-

 どのような文脈で、「内部留保取り崩し」に言及されているのか、分かりませんので、お答えすることができません。

 「内部留保?」なるものは、バランスシート上存在するだけなので、左側の「現金」とか「固定・たな卸し資産」に化けているだけです。「現金」→「固定・棚おろし資産」、「固定・たなおろし資産」→「現金」は、左側の内容を変更するだけなので、その企業の判断で、簡単にできます。

 ストックはストックの中で、「動く」のです。

 ですが、「取りくずし?」ということは、左側の「資産」も減らすということですから・・・その企業の「負債」を減らすか、「純資産」を減らせと言うことです。規模を縮小することになりますが・・・

 貸借対照表は「ストック」で、従業員の給与などは、「損益決算書」という、フローでまかなわれています。「ストック」から、「フロー」には回りません。

 売上の中から、「できるだけ多く従業員の給与に還元しろ」というなら、「フロー、損益決算書」で、従業員への給与還元をするという「フロー内」の話です。

 フロー→ストックで、ストック→フローには回りません。

「内部留保を取り崩せ論」は、ここを誤解しているように思われます。
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