再掲 山下一仁 『農業ビッグバン今こそ』日本経済新聞 H21.5.19
山下一仁 『農業ビッグバン今こそ』日本経済新聞 H21.5.19
農業が雇用の受け皿として注目を浴びている。…しかし2007年の農業の生産額は、8兆2千億円で、パナソニック一社の08年3月期の売上高9兆7百億円にも及ばない。パナソニックの従業員31万人に対し、農業就業人口は299万人もいる。農業の国内総生産(GDP)4兆7千億円を農業就業人口で割れば、1人あたりの所得は最大でも年間157万円、1ヶ月では13万円にしかならない。農業は人手不足ではなく過剰労働なのだ。
海の男たち 漁業の将来「ギャンブルだな」 産経新聞 5月15日9時15分配信
…ここ数年、各地の漁港で…若者が増えているというが、島野さんは「…不況で仕事もないし、格好いいと思って来るんだろうけど、大半は都会の子だ。数日で辞めることもある。逆に地元からの応募は全くない。農村も漁村も、そういう構図は変わらないと思う」
房総半島…富津市。…7つの漁港を持つが、現在の漁業者数は昭和55(1980)年の半分の約800人。…島野さんが所属する萩生漁港は…組合員は30人程度。平均年齢は70代を超える。
「みんな陸に上がってしまった」。漁協関係者が口をそろえるように、中年層の多くは不安定要素の強い漁を捨てて勤め人になり、…高齢化は進み、次世代を担う15歳未満の子供の数は1割を切っている。
日本…に約2900の漁港と約6900の漁師町がある。…漁港は11キロに1つ、漁師町は5キロに1つ。…漁師の数は1漁協平均60人に満たない約17万人。その5割が60歳以上であり、毎年平均8000人が引退している。計算上だが、2030年、その数は限りなくゼロに近づく。
日本国内で,農業と製造業との生産性を見てみましょう。製造業の労働生産性(従業者1人当たりの生産性)を100とした場合,農業はおおむねその20%から30%台で推移しています。「労働生産性が低い」というのは、簡単に言えば「もうからない」ということ です。
東京書籍 資料集『資料 新総合政・経』H18 p216
古い資料ですが、1997年に製造業1人当たり614万円の生産をしているところ、農業は162万円です。今から10年前の資料ですので、現在はもっと格差は開いているでしょう。
なぜ生産性を上げることが難しいのか。とてもわかりやすい資料がありましたのでご紹介します。川島博之『食糧危機をあおってはいけない』文藝春秋 2009 p78~
農業の生産額は価格に量を掛け合わせたもの…ですが、農作物の場合、工業製品と違って品質を向上させて付加価値のある高価格の商品をつくるのがなかなか難しいのです。「何年か前の小麦と、今の小麦とどっちが美味しい?」と言われても困ってしまうわけで…小麦のような基礎食糧の価格は…基本的には変わりません。価格が同じである以上、生産額を上げるためには、量を増やさなくてはなりません。ところが、農作物の場合、たくさんつくるといっても一人が食べる米やパンの量はそんなに変わりませんから、大量に作ると価格は暴落してしまうのです(筆者注)。結局需要にあわせてつくるしかありません。…需要は人口、文字通り人の口の数によって決まってきます。…つまり、人口が増えた分だけ農業部門が生産量を増やすとしても、年に1%から2%程度の成長にしかならないということです。工業部門の生産は1年間で10%も成長することがあるわけですから、何年間か経済成長が続くと、国の生産に占める農業部門の割合は必然的に小さくなり、農家は他の工業、サービス部門と比べると相対的に貧しくなってしまいます。…農家も…昔と比べれば所得は上がっていますが、他の部門の所得上昇にはついていけず、どんどん所得格差が広がっていってしまうのです。これは世界共通の現象です。
(筆者注)読売新聞 H21.4.23 『減反廃止で米価半額』
農水省は22日…米の生産調整を見直した場合の米価の変動の資産を公表した。減反を廃止した場合、コメの生産が急増し、廃止後1年目に60キロ当たりの米価は、2007年度産米の1万5075円から、7506円とほぼ半額になると推計した。
北海道でも、事情は同じです。北海道の農水業は、「目方でドン」つまり、イモや野菜、魚介類を、そのまま加工せずに、首都圏に出荷します。たとえばイモを加工し、ポテトチップスにして(高付加価値=もうけ)出荷していません。
「地産地消」が叫ばれ、1×2×3、つまり、1次産業×2次産業(工業化)×3次産業(サービス化)と、「農水産品を加工し、レストランで提供することが必要」などと、かっこよく主張されています。
しかし、人口減があり、いかんともしがたい のです。地元の水産物を加工した製品を提供するレストランがあっても、町の人口が減少しているので、「地産地消」ができません。
大間のマグロが、なぜ地元で食べられないか。地元では、マグロ1本に対し、100万も200万も払えません(供給>需要)。東京の築地だからこそ(需要>供給)、値がつくのです。大間の人口は、6,236人です。東京の人口は12,942,366人です。
さて、では、農業の生産性をあげる方法はないのでしょうか。冒頭の新聞のように、過剰労働をやめる=大規模化です。農地法が改正され、農地の貸借を原則的に自由にすることになりました。でも、借り手の要件は依然として厳しいままです。また、「農地を所有するのは農家」です。なぜ、法人や企業が所有できないのでしょう?それは、○○協同組合は、組合員の数によって運営されているからです。組合員の数を維持する=小規模農家が多いほうが良い、こういう理由です。法人化・企業化が進まないわけです。
農業が雇用の受け皿として注目を浴びている。…しかし2007年の農業の生産額は、8兆2千億円で、パナソニック一社の08年3月期の売上高9兆7百億円にも及ばない。パナソニックの従業員31万人に対し、農業就業人口は299万人もいる。農業の国内総生産(GDP)4兆7千億円を農業就業人口で割れば、1人あたりの所得は最大でも年間157万円、1ヶ月では13万円にしかならない。農業は人手不足ではなく過剰労働なのだ。
海の男たち 漁業の将来「ギャンブルだな」 産経新聞 5月15日9時15分配信
…ここ数年、各地の漁港で…若者が増えているというが、島野さんは「…不況で仕事もないし、格好いいと思って来るんだろうけど、大半は都会の子だ。数日で辞めることもある。逆に地元からの応募は全くない。農村も漁村も、そういう構図は変わらないと思う」
房総半島…富津市。…7つの漁港を持つが、現在の漁業者数は昭和55(1980)年の半分の約800人。…島野さんが所属する萩生漁港は…組合員は30人程度。平均年齢は70代を超える。
「みんな陸に上がってしまった」。漁協関係者が口をそろえるように、中年層の多くは不安定要素の強い漁を捨てて勤め人になり、…高齢化は進み、次世代を担う15歳未満の子供の数は1割を切っている。
日本…に約2900の漁港と約6900の漁師町がある。…漁港は11キロに1つ、漁師町は5キロに1つ。…漁師の数は1漁協平均60人に満たない約17万人。その5割が60歳以上であり、毎年平均8000人が引退している。計算上だが、2030年、その数は限りなくゼロに近づく。
日本国内で,農業と製造業との生産性を見てみましょう。製造業の労働生産性(従業者1人当たりの生産性)を100とした場合,農業はおおむねその20%から30%台で推移しています。「労働生産性が低い」というのは、簡単に言えば「もうからない」ということ です。
東京書籍 資料集『資料 新総合政・経』H18 p216

古い資料ですが、1997年に製造業1人当たり614万円の生産をしているところ、農業は162万円です。今から10年前の資料ですので、現在はもっと格差は開いているでしょう。
なぜ生産性を上げることが難しいのか。とてもわかりやすい資料がありましたのでご紹介します。川島博之『食糧危機をあおってはいけない』文藝春秋 2009 p78~
農業の生産額は価格に量を掛け合わせたもの…ですが、農作物の場合、工業製品と違って品質を向上させて付加価値のある高価格の商品をつくるのがなかなか難しいのです。「何年か前の小麦と、今の小麦とどっちが美味しい?」と言われても困ってしまうわけで…小麦のような基礎食糧の価格は…基本的には変わりません。価格が同じである以上、生産額を上げるためには、量を増やさなくてはなりません。ところが、農作物の場合、たくさんつくるといっても一人が食べる米やパンの量はそんなに変わりませんから、大量に作ると価格は暴落してしまうのです(筆者注)。結局需要にあわせてつくるしかありません。…需要は人口、文字通り人の口の数によって決まってきます。…つまり、人口が増えた分だけ農業部門が生産量を増やすとしても、年に1%から2%程度の成長にしかならないということです。工業部門の生産は1年間で10%も成長することがあるわけですから、何年間か経済成長が続くと、国の生産に占める農業部門の割合は必然的に小さくなり、農家は他の工業、サービス部門と比べると相対的に貧しくなってしまいます。…農家も…昔と比べれば所得は上がっていますが、他の部門の所得上昇にはついていけず、どんどん所得格差が広がっていってしまうのです。これは世界共通の現象です。
(筆者注)読売新聞 H21.4.23 『減反廃止で米価半額』
農水省は22日…米の生産調整を見直した場合の米価の変動の資産を公表した。減反を廃止した場合、コメの生産が急増し、廃止後1年目に60キロ当たりの米価は、2007年度産米の1万5075円から、7506円とほぼ半額になると推計した。
北海道でも、事情は同じです。北海道の農水業は、「目方でドン」つまり、イモや野菜、魚介類を、そのまま加工せずに、首都圏に出荷します。たとえばイモを加工し、ポテトチップスにして(高付加価値=もうけ)出荷していません。
「地産地消」が叫ばれ、1×2×3、つまり、1次産業×2次産業(工業化)×3次産業(サービス化)と、「農水産品を加工し、レストランで提供することが必要」などと、かっこよく主張されています。
しかし、人口減があり、いかんともしがたい のです。地元の水産物を加工した製品を提供するレストランがあっても、町の人口が減少しているので、「地産地消」ができません。
大間のマグロが、なぜ地元で食べられないか。地元では、マグロ1本に対し、100万も200万も払えません(供給>需要)。東京の築地だからこそ(需要>供給)、値がつくのです。大間の人口は、6,236人です。東京の人口は12,942,366人です。
さて、では、農業の生産性をあげる方法はないのでしょうか。冒頭の新聞のように、過剰労働をやめる=大規模化です。農地法が改正され、農地の貸借を原則的に自由にすることになりました。でも、借り手の要件は依然として厳しいままです。また、「農地を所有するのは農家」です。なぜ、法人や企業が所有できないのでしょう?それは、○○協同組合は、組合員の数によって運営されているからです。組合員の数を維持する=小規模農家が多いほうが良い、こういう理由です。法人化・企業化が進まないわけです。
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