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元が国際化?

<元が国際化?>

産経ニュース 2015.6.10 22:52更新

AIIB、中国に「拒否権」 議決権最大30%握る見通し、米紙報道

【上海=河崎真澄】中国主導で設立準備が進む国際機関アジアインフラ投資銀行(AIIB)の運営をめぐり、発足当初から中国が単独で最大30%の議決権を握って「拒否権」を発動できる態勢となる見通しになった。米紙ウォールストリート・ジャーナル(中国語版)が10日までに伝えた。

 銀行運営の透明性確保に関し、中国の対外説明が十分ではないとして、日米は参加に慎重な姿勢を貫いている。中国が単独で拒否権をもつ組織となれば、中国の最終決定に従わざるを得なくなる懸念が強まる。
 同紙は、創設メンバー57カ国が6月下旬に北京で調印する予定の基本規定「定款」の草案を独自入手したという。定款の草案が明らかになったのは初めて。

 それによると、AIIBの資本金は1千億ドル(約12兆円)で中国は単独で最大の29・8%を出資する。出資比率に応じて議決権が決まるが、定款草案は中国の議決権を25~30%と幅をもたせており、最終調整に委ねられるもよう。

AIIBの基本事項
・本部:中華人民共和国(北京)
・設立:2015年末までに設立予定
・資本金:1000億ドル(中国が最大拠出国)
・事業内容:新興国のための国際投資機関
・初代総裁:中国の元財務官・金立群氏(就任予定)




AIIBは、IMF/GATT体制で言えば、世界銀行 IBRD、あるいは、日本が最大の出資国である、アジア投資銀行に相当します。

中国が最大の出資国で、アジアが今後必要とするインフラ整備などに、融資が行われる予定です。

中国は、IMFに改革を要求し、出資比率の引き上げを提案しましたが、なぜ?か「アメリカ議会」の反対にあい、とん挫しました。

何しろ、IMFは、「ドル基軸体制」「アメリカ金融体制」の実質的な担い手の1セクションであり、象徴でもありますから、「アメリカ意向バリバリ」ファンドです。本部もニューヨークです。遣われているのももちろんドルです。議決権も、出資比率で決定されるので、アメリカがその権利を縮小させたり、手放すとは考えられません。

 国連で、「拒否権」を持つ常任理事国が、その権利国を拡大させようとしないのと、同じです。

 拒否権こそ、史上最大の特権ですから、それを「はいはい、ほかの国にも広げましょうね」とは、ならないことが、お分かり頂けると思います。

で、中国は、それなら、自ら中心になるAIIBを設立しようとなったとされます。

 さて、これをめぐって、日米が参加しなかったことで、「参加しろ」だの、「するな」だの、専門家から、評論家まで巻き込んで、喧々囂々の議論が続いています。

 中には、「元」が国際通貨になり、アメリカ覇権から、中国覇権への時代への移り変わりか?というような意見もあります。今、国際通貨としては、ドルが6割、元が2%ほどです。これが、「元」の時代になるのか?ならないでしょう。無理です。

 国際通貨のトリレンマです。


 国際為替には、同時に達成できない、原則があります。 これを金融政策の「トリレンマ」=「3つとも達成できず、どれかを放棄せざるを得ない」と言います。

①資本移動の自由
②固定相場制
③金融政策の独立性

三位一体 トリレンマ
トリレンマ.jpg


 戦後のIMF=GATT体制(1ドル=360円時代)は,3つの要素のうち、①資本移動の自由化を放棄しました。資本移動の自由化とは、例えば外国の株や債券を買うなどの、海外投資のことです。②固定相場制の目的は、為替リスクの封じ込めにあります。③金融政策の独立性は、完全雇用の実現にあります。この3つは同時に達成することが不可能です。

 例えば、ある国が「不況」だとします。「金融政策」を発動し、金融緩和をします。そうすると、金利が下がります。金利が下がると、資本(カネ)は、高金利の国へシフトします(資本移動)。そうすると、固定相場制が成り立たなくなります。
 この場合、

①資本移動の自由○
②固定相場制×
③金融政策○

 となります。現在の日本やアメリカです。

①資本移動の自由×
②固定相場制○
③金融政策の独立性○


元が「国際化」するとするなら、今のドルや円、ユーロのように、「固定相場」を捨てて、「資本取引の自由化」を選択しなければなりません。この「自由化」が、中国政府にできるのか?ということです。

 資本取引の自由化というのは、外国だろうが外国人だろうが、マネーロンダリングを目的にしようが、その国内に、「口座」を作り、「外国資本」が自由に中国に入りこむということです。

 ドルが「基軸通貨」というのは、世界が、世界中の人が、世界中の投資家が、「ドル口座」を持つということです。みんな、ドル口座が欲しくて欲しくてたまりません。なぜか?安心だからです。アメリカ銀行は、そのカネを運用して、世界中に投資します。

 中国の政府は「共産党独裁」です。国会は事実上ありません。人民代はありますが、民主主義の体を為していないことはお分かりだと思います。

 中国の権力は「集中」です。共産党の決定は、直ちに実行されます。国会審議はありません。権力分立がないので、共産党政府の暴走を止める機関がありません。ものすごくスピーディーです。法案を通すために、議会を説得したり(アメリカ)、議院内閣制で、2回も同じことを審議したり(日本)、そんな手間暇は一切かかりません。
 
民主主義は、スピードという点では、独裁制に決定的に劣ります。

 民主主義は「遅い」、ただし、決定したことも、なかなかひっくり返すのが難しい(時間がかかる)ということです。

 中国独裁制は、「早い」です。しかし、覆すことも「早い」です。

 自分たちの権力基盤である、「共産党独裁」「権力集中」を、中国が止める=資本の自由化ということです。中国の金融は、現在は、中国共産党の思い通り、コントロールできるシステムです。中国連銀は、共産党支配下にあります。
 
どんな国の、どんな人でも、中国国内に「元口座」を開けるようにする・・・中国共産党が思いのままにコントロールしている「カネ」を、世界中の「民主主義」「自由」・・あるいは裏組織(表むきは分からないようにします)に開放するということです。

 元が国際化する=権力の源泉である「カネ」の決定権・使用権を、中国ではなく、世界中のヒトに開放するということです。

AIIBで使用されるのも、ドルです。ドルを融資します。

「元」の国際化????AIIB融資で、元決済ですか? そうなると思いますか?なったとしても、「一部」にするでしょう。「自由化」を形だけ導入・・・中国の手です。

 中国元が国際通貨になる・・基軸通貨になる・・それは、中国独裁政権が、その権力の源である「元」を自由化する=自分たちの権力を手放すということです。

 AIIBに入らないと、「バスに乗り遅れる」という方は、中国が「カネ」を自由化するつもりなんだ、それは、共産党の支配権の一部を、海外に譲る(しかもどんな人が参加するかわからないし、拒めない)つもりなんだ・・とうことを立証しなければなりません。

 自由化と、権力集中は、正反対の概念です。それを中国が「ひっくり返す」のだ、それがAIIBなのだと立証してください。

 それを立証するには、「トリレンマ」を解読することが必要です。あちらを立てればこちらが立たない・・だから、トリレンマです。自由化しながら独裁維持・・これも絶対に不可能なジレンマです。

 この金融のトリレンマ+政治のジレンマの2つの解を、提示してくれなければ、「乗り遅れるな」論に説得力はゼロです。

 それとも、「バスにのって、中から運転手に、自由化しようよと説得」するつもりなのしょうか?「中国」を?「説得」?
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comment

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No title

そうですね。
よく、「機会費用と、取引費用の比較」と言われるケースがあります。

簡単に言えば、失う費用と得られる費用の比較で、「どっちがトクか」です。

中国の場合、「為替で得る利得」と、「共産党が失う利益」の比較ですかね。

為替手数料が1%としても、500兆円扱えば、5兆円です。英米の金融セクターでのGDP比は20%超ですので、そこまで利益が得られる状態になるのであれば、資本取引の自由化はありえると思います。

何しろ中国ですから、何が起こるか分かりません(笑い)。

AIIB導入時点、規模では、まだまだ、ありえません。

No title

「AIIBを設立することにより、元が基軸通貨になる」という人もいるくらいなので、
「だったら、日本も資本金10兆円くらいの機関を設立していたら
基軸通貨になっていたのか」と考えると…

まぁ、話は壮大な方が面白いですが…
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