<なぜ、下限を下回っても請け負うのか>

今回の、バスツアー事故、社会の様々な問題を含み、色々な方面から分析されるようです。労働人口問題・・規制緩和問題・・。
すぐに、「規制緩和が悪だ」という的外れな話が出てきますが、そういう問題ではありません。
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規制緩和
また、バス会社(生産側)の情報を、消費者は持たないという、情報の非対称性は、内在しますが、「レモン市場」というわけでもありません。
山川出版 詳説 政治・経済
P122~
商品に関して持っている情報が、売り手と買い手で差がある場合に、情報の非対称性があるという。中古車の売買を考えると、売り手は中古車の状態をよく知っているが、買い手は中古車の状態がすぐには分からず(情報の非対称性)、適切な価格づけがおこなえず、良質な商品が市場に供給されにくくなる。このような場合、第3者が間に入り、一定程度の品質保証をおこなうなどの措置をとることで情報の非対称性を緩和すると取引が円滑になる。

「レモン市場」というのは、中古車市場(レモンは、むいて見ないと中身が分からない=中古車も外からでは中身が分からない)をさす、アメリカの言葉です。
売り手は「いい車」と知っていても、買い手は「中身が分からない」。結局本当に「いい車」に適正な値がつかず、『いい車』を売っても損なので、市場には出てこなくなる。
市場は悪い車(中身は悪いが、値がつくからトクという売り手の未参入)ばかりになり、さらに価格が下がって、中古車市場が成立しなくなるというものです。
ポイントは、「市場が成立しなくなる」というところです。
だから、それを知らない人は、次のように間違います。あるツイッター
すると、安全性が低いにも関わらず、値段を高くして安全性が高いかのように見せ掛けるバスツアーが現れる。人々はどの価格を選んでも安全性が担保されないことを学び、結局安いものを選ぶようになり、不良品が生き残る。 というのが、レモン市場問題。twitter.com/rafcocc/status…
と、「不良品の市場」になると間違いを述べます。「不良品が生き残る」ではなく、市場自体が成立しなくなる」というのがレモン市場です。ですから、バス問題を「レモン市場」というのは、間違いです。
バス問題に、「情報の非対称性」問題はあります。というか、本を買う、映画を見る、薬を買う、学校に行く、医者に行く、おけいこ事を習う・・・世の中のすべての売買は、「情報の非対称性」が内在するから成立します。「差」があるから、それを埋めるために「売買」されるのです。
さて、本題に入ります。
なぜ、バス会社は「赤字にならなければいい」と、請け負うのでしょうか?
それは、供給曲線の導出、損益分岐点と、操業停止点がからみます。
以下図 飯田泰之 『飯田のミクロ』光文社新書2010より


供給曲線は、損益分岐点以上の線です。「赤字」なら、仕事はしない=損益分岐点です。
しかし、その下に「操業停止点」というのがあります。この「損益分岐点」と「操業停止点」のあいだは、企業にとっては、「価格<平均費用」で損失なのですが、生産を続行する方が有利な点です。
平均可変費用というのは、「生産物1単位あたりの可変費用」です。費用は①固定費用と②可変費用の2つがあります。固定費用はバス会社の建物、購入したとしたらバス購入代などです。
可変費用の代表は、「賃金」です。
つまり、平均費用(①固定費用+②可変費用)と平均可変費用(②可変費用)の間にある赤線の場所は、「賃金」はすべて支払える領域なのです。
しかも、損益分岐点の上は、賃金に加えて、建物やバス購入代という①固定費用もまかなえる範囲なので、①固定費用の一部も支払い可能なのです。つまり、過去の借金の一部+賃金が払える部分なので、「請け負う」のです。
企業としては、「合理的な行動」なのです。もちろん「操業停止点」になれば、固定費用のすべて+可変費用の一部も支払い不可能になるので、生産を停止した方がいい点です。ここであれば、過去の借金=①固定費用のみは支払えるからです。
法定価格=利潤の最低点というわけではありません。労働者は、最低賃金以下でも、「もうけ」になれば、働きますよね。ブラックだけではなくて、友人間の引越しの手伝いなどでも。「ガソリン代だけあればいいよ」というものです。
あるいは、家のリフォーム業者や塗装業者に仕事を頼む場合です。企業は、賃金が払えれば(赤い線部分)、請け負うのです。
バス事故に関し、あえて、無味乾燥な人間味のない「経済学視点」からの解説にとどめている点については、忖度願います。