知ることと、選択肢の多さが前提・・だが その2
酒井順子 『知らないという幸福』 週刊文春連載エッセイ431回
同級生達との集まり、いわゆる女子会において・・・その中の一人がぽつり「でも私、もし若い頃に戻れるとしたら、留学はしないな」と言った・・・。彼女は、仲間うちでも最も早く留学をし、その後も国際的な仕事を続けている人。・・・留学経験も無い私は、そんな彼女のことを眩しく見ていたというのに、「留学しなければよかった」とは…。
海外で暮らせば、それだけ多くの出会いもあるけれど、同じ数だけ別れもある。また国際的な仕事といっても、国際的であるからこそ、ストレスもまた国際規模。…という彼女の話に・・・ずっと母国語を仕事に使用してきた私のような者からは、想像のつかない苫労がそこにはあるのでしょう。
・・・私は、外国語も話せず海外経験も無いという自分が・・・コンプレックスでもあったわけです。が、「してみると・・・せずにいた苦労もあったわけね」と、その時に知りました。
それは、国内においても同じことが言えるのでしょう。地方に行くと・・・やけに幸せそうに見えるのは、「その地方から出たことが無い人」なのです。一度都会に出てから戻ってきた人の中には、「本当はこんなはずではなかった」といった感覚を抱いている人も多い。
対して、大学進学や就職で都会に出ることなく、ずっと地元に留まり早くに結婚して子供を産み育て、親と同居もしくは近くに住んでいる人というのは、都会の生活も、海外の生活も知りません。が、知らないからこその幸せの中に浸っている安定感がある。
・・・地方の人々の暮らしを見ていると、三食がご飯、ご飯、またご飯でもいい感じ。自分の土地で採れる新鮮で美味しいものを食べ続けるというその生活に、充足しているのです。カラスミのパスタだの、エッグスシングスのパンケーキだのは、知らないが故にどうでもいいのでしょう。
幸せ度ランキングなど見てみると、上位に入る県というのは皆、地味な県であり、大都市圏は、そこに入っていない。そして私は、高い幸福度の背景には、「知らない宰福」というのもあるのではないかと思うのです。
翻って我が国の若者達は昨今、外に出て行かないと言われています。海外旅行も留学も、若者達はしたがらないのだ、と。それはもしかすると、彼等が既に「たくさんのものを見て知って体験したからといって、それは幸福につながるわけではないのだ」ということを察知しているからではないでしょうか。一生懸命にたくさんの経験を積んだ大人達を見ても、少しばかり経済的に豊かにはなるかもしれないけれど、ストレスフルで幸福ではなさそう。であるならば僕たちは、広い世界なんかに出ていかなくても、ストレスを極力抑えて、幸せに暮らしていきたいということで自国に留まっている気がする。
・・・たとえば旅が多い私は、どんな宿に泊っても、ちょっとした不満点を見つけてしまったり、「こういう宿ってあるよね」とか、「○○系じゃない?」などと、類型化して考えたりする。しかし旅行経験が少ない主婦の人などを見ると、「誰かが作ってくれたごはんを食べるだけで幸せだわ~! お布団の上げ下ろしもしてくれるし」と、私かブッブツ言っている宿でも嬉しそうにしているではありませんか。そんな人を見ると、いかに自分がスレてしまったかよくわかりますし、「知らない幸福」は確実にある、と思うのです。
「若い頃に戻ったら、留学はしない」と言っていた友人も、今になって「知らない幸福」のことを考えたのかもしれません。
「色々なことを知るよりも、知らないままでいることの方が、ずっと貴重なことなのかもしれない」・・・などと語っていた我々ですが、もうここまで来てしまった以上、後戻りはできないことは、よーくわかっているのでした。
日経H26.7.27 『コンシューマーX』
都会と地方、都心と郊外の便利さの格差は縮まっている。1990年以降、地方・郊外に開業したショッピングセンターは全国で1800超。89年以前の2倍以上になる。生活コストの安い地元で買い物も便利になり、若い世代は車や付き合いなど暮らしを楽しむ分野に支出を振り向ける。
「東京や大阪に住みたいなんて思ったことはない」。福井県敦賀市に住む配管工、馬路智也(32)はこう話す。全国の30歳代の平均世帯年収545万円に対し、馬路は400万円ほど。それでも「今の生活はとても充実している」。
13年8月に建てたマイホームは土地込み2900万円。居間とキッチンをつなぐカウンターをバーのような雰囲気にしつらえ、広い屋上にもこだわった。休日は夫婦や2人の子供の友達を家族連れで招待し、ホームパーティーを楽しむ。買い物は、ほぼ敦賀市内で済ませて地元にお金を落とす。
「若い世代ほど安定した日常生活を伴う幸福を求める」。日本総合研究所の所長、松岡斉(59)はこう指摘する。14年1月にまとめた都道府県幸福度ランキング。待機児童ゼロ、正規雇用者の割合は全国3位という福井県がトップだった。
<知ることがいい、多様性が必須?>
既存ミクロ経済学では、消費者と供給者は、完全に情報を持っているとしています。
清水書院 新政治・経済 p93 平成21年 三版

上記のおなじみの「供給・需要」曲線さえ、「仮定」だらけです。箱庭のような条件が必要です。
(1)財・サービスの内容について完全に知っている、無数の消費者
(2)財・サービスの内容について完全に知っている、無数の生産者
(3)完全競争市場であること(寡占・独占やカルテルを結ばない)
(4)消費者は、効用を最大限にするように行動する
(5)生産者は利益を最大限にするように行動する
(1)(2)は、「完全な知識を持っていること」、(4)(5)は「常に合理的であること」を示します。この様な状態で、上記の「市場」は最適な資源配分をすると仮定されます。
こんな、一番スタンダード:中学校の教科書でさえ、扱っている理論でさえ、「仮定」だらけです。しかも、「現実にあり得るの?」というような話です。
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予想通りに不合理
知れば知るほど選択肢が増えていい、会社の中に、多様な人材(価値観)を取り入れなければダメだ・・・本当でしょうか。
フランスでは、父子のDNA鑑定は、裁判所の許可がないとできません。
事実婚が当たり前のフランスは、恋愛も自由で、そこに、父子関係を決定づけるDNA鑑定をおこなったら・・・悲劇になるからです。
会社員の給与。お互いにお互いの給与を知ったら・・・悲劇です。
アメリカの金融業とか、様々な会社経営陣の高額報酬。リーマンショック後、公的資金を投入されたのに、証券業界や、金融業界の経営者は、相変わらず高額報酬をもらっていた・・。オバマ大統領が「シェイム・オン・ユー(恥を知れ)!」と非難した件。
なぜ、経営陣の報酬が、高額化してきたのか。それは、報酬額を公開するようになったからです。
あの企業は、あの職種は、これだけもらっている・・・。公開されると、額がさらに上昇していきました。
知れば知るだけ選択肢が増えてよい、できるだけ情報を得たほうが良い・・・こんな単純にはいかないから、「1つの経済学で全体を説明するのは無理」なのです。
日経 H26.7.22 『多様性こそ企業の力』
『革新産む環境づくりを』ロンドンビジネススクール教授 リンダ・グラットン
未来のリーダーは幅広い世界観を持つべきだ。最貧国はどんな状況か、気候変動や人口問題は・・こうした女性リーダーが数多く生まれれば、世界を変えることができるのではないか。
●ダイバーシティ(筆者注:多元化・多様化 全方向化)
グラットン氏
仕事をするには・お互いの背景が同質の方が達成度は高く・ただし事象が複雑になってくると、多様性が重要。様々な国籍の社員や女性の経営陣が必要だ。
さて、ダイバーシティ(全方向性)は、正しいのでしょうか?
日経 H26.7.22 『企業、なぜ多様な人材確保?』
早稲田大学・経営学・入山章栄
過去に発表されてきた多くの研究結果・・・能力や経験の多様性は生産性を上げる一方、性別や人種などの多様性は必ずしも利益につながらず、場合によっては悪影響を及ぼします・・・
多様であればあるほどいい、こんな万能理論など、理論でも実証でも、ないのです。
女性として生まれたら、どうするか・・・考えてみます(続く)
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学
k-takahashi’s 雑記
第6章では、財政金融政策の解説のために IS-LM分析というのを紹介している。さすがにこの部分は他の部分より難しいのだが、それでも「流動性の罠にはまる」というのが「LM曲線の傾きが水平になるため、金融政策を発動しても所得が変わらなくなる」(No.3037)というのは分かる。
そのあとで、アベノミクスの解説が入る。第1の矢は実質利子率を下げることでLM曲線をさげ、所得を増加させる。第2の矢は政府支出を増大させることでIS曲線を右にシフトさせ、所得を増加させる。そういうことを丁寧に説明している。
なんか、全体としては「ニセ医療批判」の本に近い感触だったように感じた。医療とは何か、疫学とは何かということを分かりやすく説明する一方で、ニセ医療のウソを暴くというのがパターンだが、本書は経済学の分野でそれをやっているように感じた。