リフレーション
今まで、2回にわたって、池田信夫某の、「マネタリーベースを増やしても、マネーストックは増えていないじゃないかあああ!」論を見てきましたが、実はこれは、合理的期待形成説に基づく、日本のインフレターゲッティング、日本の量的緩和の目的を全く理解していない、論点が、完全にずれているのです。たとえると、
今までの、池田信夫某の記事の取り上げ方

では、アベノミクスの金融政策について、批判をするなら、どういう論点になるのでしょうか?それを表すとしたら、
「金融政策(2年後にマネタリーベースを2倍、インフレ2%を目標)で、消費者行動、企業行動、インフレ率に、変化は生じない、だから、政策的に間違いだ」
というものになります。ここには、「流動性の罠」「合理的期待形成」という、理論が関わってきます。この核心部分について、説明します。「今のMB・MS」を論じることではありません。
<日銀の導入したリフレーション政策とはなにか>
これは、クルーグマンの1998年論文に示されています。
1.流動性の罠
現在の日本(アベノミクス前)は、「流動性の罠」の状態にあります。
流動性の罠

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流動性のわな その1
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流動性のわな その2
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流動性のわな その3
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流動性のわな その4
さて、この状態では、いくら金融緩和をしても、「ブラックホール」ですから、飲み込まれてしまいます。金融緩和をしても、それが、世の中に出回っていきません。
池田信夫 アベノミクスという物語の終わり
朝日新聞の原真人氏が、けさのコラムで「アベノミクスの本質は、人々をその気にさせようという心理学だ」と書いているので、ここ一両日の出来事を心理学的に考察してみよう。
彼もいうように、アベノミクスなるものは経済政策としてはほとんど中身がない。その目玉である量的緩和も、日銀が10年以上やってきかなかった。普通は10年以上も飲んだ薬がきかなかったら別の薬にしようと考えるが、リフレ派は「1錠でだめなら10錠のめばきく」と考え、その副作用は考えない。
というのも、流動性の罠だったからと考えられます。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51734256.html
池田信夫 円高はなぜ止まらないのか
リフレ派も、経済学界ではほぼ壊滅したが、稲葉振一郎氏のような素人や政治家の世界ではまだ生き残っているようだ。こういう宗教的信念をもっている半可通を説得するのは一番むずかしい。「日銀がマネーをばらまけばインフレになる」とか「円安になる」というのは、一見わかりやすいからだ。
現在のような流動性の罠では、中央銀行がいくら通貨を供給してもインフレにならないことは、他ならぬクルーグマンが強調しているところだ。これはアメリカのQE2の経験でも明らかで、バーナンキも認めているので、さすがのリフレ派もいわなくなった。
さて、では、どうすれば、いいのでしょうか
2.将来のマネーストックが重要
経済が流動性の罠にあるとき,「現在」のマネーストックを増やすだけではインフレは起きません。しかし、「将来」のマネーストックが増えると皆が信じると、貨幣数量説が復活し、インフレが起きる。これが核心部分です。
これは、キッドランド・プレスコット理論(これでノーベル賞受賞)」の考え方を応用しています。彼らは、ケインズ経済学を否定する、「新しい古典派(ケインズ経済学後に、市場の考え方を強調した」です。
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マクロ経済学のミクロ的基礎づけ その4/5
彼らの主張は、「その時々で、裁量的な金融政策をするのではなく、ルール化した政策を採る(その政策は“今”時点では、最良には見えないが)のが望ましい」というものです。
つまり、「今」と「将来」、時間という変化を組み込んだモデル(動的に考える)です。ケインズ理論の解釈である、IS-LMは、「静的」・・過去の現象から、分析するでした。
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でも、これは、ケインズの「解釈論」の方で、当のケインズは、「時間(将来)」を考慮していました。宇沢弘文などは、これを、「ケインズを曲解している」と批判しています。閑話休題
この「将来」を組み入れて考える、「合理的期待形成説」は、ルーカス批判で有名な、ルーカスによって唱えられた説で、オールド・ケインジアン(サミュエルソンなどのIS-LMを基本とした枠組み)を駆逐しました。「新しい古典派」です。
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マクロ経済学のミクロ的基礎づけ 短期 長期
2’.合理的期待形成説
この「期待」ですが、正確な単語は「予想expectation」です。つまり合理的予想形成です。また、「合理的」という意味は、「現在の情報をもとに、最適に将来を予想する」というものです。
例えば、
①消費税が増税される→駆け込み需要が生じる(実際に生じた)
②ガソリン税の暫定税率が復活し、来月からガソリンが値上がりする→駆け込み需要
③終身雇用・年功序列→一度入社したら、定年まで働くのが得になる
というものです。これらは、「確実に来る(確率高い)将来」に対し、今の行動を選択するというものです。将来と言っても、「来年は農作物の豊作が予想される」とか、「有馬記念で、この馬が着そうだ」などという、「予想」ではなく、「確実」な予想だということです。
で、実際に、人々は行動を「変え」ますね。実証されています。
3.中央銀行の、確実な「予想」政策
さて、1.のように、「今」は、「流動性の罠」状態でした。ですから、「今」金融緩和をしても、効きません(日本の2006年までの量的緩和政策)。
クルーグマンは、「『将来』のマネーストックが増えると皆が信じると、貨幣数量説が復活し、インフレが起きる」としたのです。

だから、今までの日銀の「量的緩和」が効かないのも、当然と言えば当然です。みなさん、日銀が「断固としてデフレと戦うぞ!」という意思を持つと感じましたか?あるいは、「目標は○○、それまで、量的緩和を、何が何でも継続するぞ」という、具体的目標はあったと考えますか?「将来目標○○年後にこうします」とやっていましたか?
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51840923.html
池田信夫 「アベノミクスについてのFAQ」
Q. お金を増やしたらインフレになるのでは?
A. これは一番よくある質問だが、短い答は「そんな簡単な問題だったらとっくにデフレは終わってるでしょ」ということだ。けさのアゴラこども版でも書いたように、2002年からの量的緩和では日銀がマネタリーベースを2倍近くに増やしたのに、物価は上がらなかった。
ポイントは、「将来時点」と「今」という、時間軸で考えるというところです。ここが抜け落ちると、「今、マネーストックを増やせば、インフレになるというが、なっていないじゃないか」となります。
前提は、「今、マネタリーベース増・マネーストック増」は、流動性の罠の下にあるので、「効かない」と言っているのです。ですが、「将来増が約束されると、合理的期待形成説に基づき、今の行動が変わり、効果が出る」と言っているのです。
同時に、将来のマネーストックの増え方は,その時の経済状況に対して「めちゃくちゃ」に金融緩和されているぐらい増えていないといけなくなります。
つまり、将来時点で、インフレになっているとすると、従来の裁量的な金融政策が復活してしまうことになります。その時点で、さらにインフレを助長する政策は、望ましくないからです。それを合理的に「予想」すると、将来のインフレを信じなくなってしまい、今の行動に影響が起こらなくなってしまいます。
これらを防ぐのは、「物価水準を高くする必要もなく、望ましいとは言えないけれども、将来時点の貨幣供給量を増やすのは確実である」と、信用されることなのです。
大事な点は、「現在の貨幣供給量」ではなく、「将来時点の貨幣供給量」なのです。極端に言えば、現在の貨幣供給量増が「ゼロ」でも構わないのです。
現在は「流動性の罠」の状態下なので、現在の貨幣供給量を増やしても意味はないのです。
めちゃくちゃな・・・・大胆な・・・バズーカ・・・・少しずつ見えてきませんか?
4.実際の中銀の金融政策
日銀
(1)インフレターゲット宣言
2013年1月22日
「中長期的な物価安定の目途」→「物価安定の目標(Price Stability Target)」
物価上昇率を1%→2%に引き上げ。
(2)マネタリーベースを、2年後2倍に拡大(量的緩和)+質的緩和

FRB
(1)ゼロ金利政策の継続宣言
(2)QE1~QE3による、量的・質的緩和
さらに、QE3導入時には、「インフレ率の見通しが2.5%を超えない範囲において米失業率が6.5%程度で安定するまで事実上のゼロ金利を継続する」方針表明
FRBの資産購入→市場への資金投入

これらは、「将来のある時点で、こうなっている」ことを、確実に約束(コミットメント)する政策です。この確実性により、我われは、現在の行動を「変え」ます。=合理的期待形成。

どうですか?今の日銀、FRBの政策には、このような理論的背景があるのです。なぜ、「出口」について、絶対に言及しないのか、お分かりでしょう。
日銀は、予想インフレ率を話題にし、現在の雇用や、設備投資の指標や、短観や、様々な指標により、われわれが考えている「将来の予想」について言及します。
FRBは、QE3の規模を、若干(850億ドル→750億ドル)縮小しましたが、バーナンキ議長は、
FRBは、ゼロ金利政策について、「失業率が6・5%以上」などである限り続けると説明してきている。失業率は11月に7・0%まで改善している。ただ、バーナンキ氏は「失業率が6・5%を下回った後も十分な時間、現在の金利目標を維持することが望ましい」として、ゼロ金利政策をしばらくは続けるべきだとの考えを示した。
朝日新聞デジタル 12月19日(木)4時9分配信
と、将来の緩和継続も示唆しています。

コミットメント・・・議長声明が、いかに大切か、お分かりですか?
もしも、アベノミクス・黒田日銀政策が、経済学的に間違いであると批判するのなら、「失業率が改善していない、設備投資に影響が出ていない、消費に影響が出ていない、日銀短観に表れていない・・・」あるいは、「理論的にこれらが生じない」と、「現在のわれわれの行動が変化していない、だから、政策的に無効である」と、論陣を張らなければいけません。
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_cpi 時事ドットコム

ですが、そのリフレ理論そのものが、ケインズを徹底的に否定した、ルーカスの「合理的期待形成説、キドランド・プレスコットの「ルールに基づいた金融政策」です。自由主義を支える理論的支柱が、リフレ理論に採用されているのです。
もう一度まとめます。
1.現在は流動性の罠の下にある
(伝統的金融政策は無効)
2.だから、貨幣数量説は効かない
(×マネタリーベース増→マネーストック増)
3.だから、将来的な貨幣増を約束する
4.3.により、今の行動が変わる。
5.将来的には、貨幣数量説が復活する
(伝統的金融政策が有効になるとき)
5.非伝統的政策
さて、これらの、量的・質的緩和、コミットメントに基づく金融政策は、「非伝統的金融政策」と言われています。
伝統的金融政策は、金利を下げて、投資を活性化させるというものです。世界中で採用されていて、特に新興国では、バリバリ使われています。インフレを鎮静化させるために、売りオペをし、資金を市場から回収し、金利を上げます(インドなど)。逆に、景気を刺激するために、買いオペし、市場に資金を提供し、投資を促します。
ですが、これは、「金利」がある場合に使える政策で、先進国のように、「ゼロ金利」になると、使えません。

そこで、質的・量的緩和という、「非伝統的金融政策」が使用されます。「流動性の罠」という、ケインズが示した概念のもとで、非ケインズ政策である「合理的期待形成」「ルールに基づいた金融政策」が採用されています。
経済学は手段であり、目的ではないのです。どれも、全体を説明するのではなく、部分的に適合し、部分的に採用されるのです。
<リフレーション政策をめぐる、まともな話>
http://blogos.com/article/76053/?axis=&p=2
<講演> 「金融政策とアベノミクス」 岩田規久男
■金融緩和政策はこれから本格的に景気を回復させるはずだ■
2013年4月4日、日銀は「量的・質的金融緩和」を実施しました。この金融政策は2つの柱から成り立っています。
第一の柱は、2%のインフレ目標の早期達成に関する「コミットメント」です。すなわち、日銀は「2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に置きながら、できるだけ早く実現することを明確に約束した」ことになります。このコミットメントに基づいて、日銀はまず人びとの予想インフレ率の引き上げをめざしています。
このインフレ目標に対して、消費者は私の想像よりも早く反応しています。最近の「消費者動向調査」を見ると、1年後の予想インフレ率は「量的・質的金融緩和」の前の1.5%程度の水準から一気に3%程度まで上昇しています。第二の柱は、日銀のバランスシートの「量の拡大」と「質の変化」という両面から金融緩和を行なう、ということです。前者については、日銀は、長期国債を中心とした資産の買い入れを進めることで、マネタリーベース(日本銀行が供給する通貨)を2012年末の138兆円から2014年末には約270兆円と、約2倍に増加させることにしています。
後者の「質の変化」とは、リスクの大きな資産を購入していくことを意味します。意外に思われるかもしれませんが、たとえば長期国債もリスク資産の1つです。債券は長期であるほど不確実性の影響を受けやすくなるため、その価格は変動しやすくなる。日銀が買い入れる長期国債が満期を迎えるまでの平均残存期間は「量的・質的金融緩和」の前では3年程度でしたが、現在では7年程度にまで延びています。これは日銀保有の国債の価格変動リスクが増したことを意味します。長期国債以外の買い入れ資産には、ETF(株価指数連動型上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資法人投資口)なども含まれます。
このようなリスク資産の大量購入は、民間に資金を供給する際の名目金利の引き下げに寄与するはずです。もちろん第一の柱であるインフレ目標については、予想インフレ率を引き上げることで名目金利の上昇を招く場合もあり、そのような事態を未然に防ぐためにも、日銀によるリスク資産の大量購入が第二の柱として必要でした。
実際、図表1では予想インフレ率(5年物物価連動国債のBEI:ブレーク・イーブン・インフレ率)が上昇傾向にある一方で、名目金利(5年物)は0.2%あたりで安定的に推移しています。2つの柱からなる「量的・質的金融緩和」は、当初の狙いどおりの成果を挙げているといえるでしょう。
日銀は名目金利への下押し圧力と予想インフレ率の引き上げにより、最終的には予想実質金利(名目金利―予想インフレ率)の引き下げをめざしています。図表1をみると、最近の予想実質金利はマイナス1.5%程度まで低下しています。つまり、お金を借りるほど実質的にはマイナスの金利が付くので、借りたお金で消費や投資をしたほうが得ということになります。
◆非製造業が牽引する設備投資の増加◆
このような実質金利の動きの影響もあって、日経平均株価は2012年11月から6割程度上昇し、円安・ドル高の傾向も続いています。株式や外貨建ての資産をもつ家計はプラスの効果をすでに得ています。たとえば、家計の金融資産の変化を「資金循環統計」から見てみると、2013年6月末のデータでは投資信託や株式・出資金は前年比でおよそ3割も増えています。家計の金融資産の増加を受けて、消費マインドも上向きになっています。
民間企業(金融機関を除く)の金融資産の変化についても、株式・出資金は前年から4割も増加しています。理由は、日本の企業が他社の株をたくさん保有しているからです。企業は株式の発行や保有株式の売却によって資金調達をしやすくなっているため、投資を今後も増やしていくのではないでしょうか。
実際に、「法人企業統計」における設備投資(季節調整済み)は、安倍総理が金融緩和に言及し始めた2012年10―12月期に前期比でプラスに転じ、2013年4―6月期では前期から2.9%増となりました(図表2)。
とくに注目すべきなのは、過去のケースでは主に製造業が設備投資を増加させることで景気を回復させてきたのですが、アベノミクスでは国内消費型の非製造業のほうが製造業よりも先に投資を増加させています。非製造業では2012年10―12月期から投資の増加が続いており、2013年4―6月期の投資額は前期比4.7%増となっています。これに対して、製造業では2013年から設備投資の減少幅を縮小させてはいるものの、増加には至っていない。このような設備投資主体の変化は、わが国の経済構造が第三次産業化しつつある証左といえるかもしれません。
◆賃金の上昇はこれから始まる◆
また、企業が生産を拡大する際には、設備投資だけではなく、雇用も増やそうとするはずです。データを見ると、アベノミクス発動後の有効求人倍率(有効求人数を有効求職者数で除した値)は急激に上昇し、求人数と求職者数が釣り合うようになってきました。その結果、全体としての雇用者所得(名目賃金×常用労働者数)は、2013年4―6月期から前年比で増加に転じました。ただ、労働者1人当たりの賃金を見ると、とくに所定内給与の増加がなかなか進まないため、金融緩和の効果を疑問視するご意見があることも重々承知しております。
しかし春闘後には、ベースアップを含め本格的に賃金を引き上げる企業も出てくるのではないか。というのも、企業の売上高経常利益率が大きく上昇し始めているからです。たとえば、製造業のうち大企業の利益率は2012年4―6月期の3.79%から1年後には7.39%にまで倍増しました。
企業が賃金を着実に増やしていけば、国民はマイルドなインフレ期待を抱きながら、消費活動を活発化させていくでしょう。需要が増えてくると、企業もさらに生産を拡大させて雇用も増やしていくはずです。労働需給が現在よりも逼迫してくれば、企業は賃金をさらに引き上げていくことになります。日本経済はこのような好循環に、ようやく入り始めたと考えられます。
今後、需給ギャップ(需要―供給)が改善してくれば、物価はさらに上昇するはずです。消費者物価指数(除く生鮮食品)の動向を見ると、2013年9月では前年同月比で0.7%上昇しました。
たしかに、円安・外貨高が輸入商品やエネルギーの価格を押し上げている影響もありますが、食料・エネルギーを除いた消費者物価指数(前年同月比)も、9月にはそれまでのマイナス水準から0%にまで改善しました。実際、耐久消費財の価格はこれまで下落する一方でしたが、直近では下げ止まっています。
ところが2013年9月末、日本の景気が回復し始めた矢先に、米国では議会が暫定予算で合意できなかったことにより、一部政府機関の閉鎖に追い込まれました。このことの影響もあって、日経平均株価は大幅に下落し、為替相場では円高ドル安が進む気配を見せたのです。10月中旬、米国の与野党が暫定予算や債務上限引き上げに合意して、日本の市場は円安・株高基調に戻りました。
このように国内経済はアメリカの影響を受けやすく、まだ病み上がりの状態といえるでしょう。日本の多くの人は、デフレ脱却や景気の安定化についてまだ懐疑的なのではないでしょうか。
しかし、実際の物価が着実に上昇してくれば、インフレ予想が強まるはずです。「量的・質的金融緩和」を継続していくことで、消費者の根深いデフレマインドを払拭させていきたいと思います。
◆超過準備はブタ積みではない◆
最後に、私が日銀副総裁就任前から受けてきた批判に対して反論しておきたいと思います。その批判とは、「日銀がマネタリーベースを大量に供給しても、銀行の超過準備が積み上がるだけで、貨幣は増えないため、インフレには寄与しない」という主張で、日銀が供給した超過準備がいわゆるブタ積み(無駄積み)になっているのではないか、という批判です。要は、量的緩和は無駄だという主張です。
それでは、この批判の妥当性を実際のデータから確かめてみましょう。図表3は2005年から2007年までの邦銀の超過準備と予想インフレ率の推移を表しています。日銀が2006年3月に量的緩和を解除したあとに超過準備が急激に減り、予想インフレ率は急落しました。民間投資家たちは銀行に超過準備が急減したのを見て、日銀はデフレ脱却にコミットしていないと判断したのでしょう。つまり、市場参加者は中央銀行のスタンスを見極めるために、超過準備の動きを注視しているのです。「超過準備は無駄である」と断定するのは早計ではないでしょうか。
最近の米国でも、似たようなことがありました。2013年5月22日、バーナンキFRB議長の議会証言によって、資産買い入れが近いうちに縮小されるとの憶測がマーケットに広がりました。市場参加者は中央銀行の資産買い入れの縮小によって超過準備の減少を招くと予想したのでしょう。バーナンキFRB議長の発言後、米国では予想インフレ率の低下とともに、名目金利も一挙に2%を超え、予想実質金利が急上昇するという事態に発展してしまいました。バーナンキ議長は「買い入れ資産の増加ペースを抑制する」と発言しただけなのですが、大変な事態を招きました。
私はこの日を生涯、忘れないでしょう。なぜなら、中央銀行トップの発言の重みを改めて思い知ったからです。当時の日経平均株価は日銀の金融緩和の影響もあって1万5000円近くの水準まで回復していましたが、バーナンキ議長の発言後に日本の株価は1万2000円台にまで一気に下がり、為替相場も1ドル100円台から95円台まで円高に振れました。おそらく、バーナンキ議長も自らの発言で世界経済にこれほど影響が及ぶとは思いもよらなかったのではないでしょうか。中央銀行の総裁や副総裁の発言は、本人の意図とは違う方向にマーケットに受け取られるというリスクを抱えているのです。
先日、ある国会議員から「副総裁になられて、ずいぶん歯切れが悪くなりましたね」といわれました。私としても、マーケットが日本経済にとってよい方向につねに動くものならばいくらでも話したいと思います。しかし、軽率な発言は金融政策にとってマイナスな結果をもたらしかねません。友人のなかには、私が公の場で以前ほど発言をしないので、「日銀に取り込まれたのではないか」と心配される方もいますが、金融政策について明快な発言をしないことがあっても、これまでの主張はまったく変わっていませんので、どうぞご心配なく。(笑)
ここまでお話ししてきたように、私も含めたリフレ派と呼ばれる人たちは、マネーを非常に重視しています。しかし、「現在の貨幣が増えればインフレになる」という素朴な貨幣数量説を主張しているのではありません。中央銀行の金融政策レジームと、そのレジームを前提にした投資家による将来の貨幣ストックの予想こそが、現在の金利や予想インフレ率に影響するのです。「銀行の超過準備がいくら増えても、企業への貸し出しは増えていない」との批判はまったく筋違いといえるでしょう。
★この講演を元に、伊藤元重氏の司会で質疑応答が行われた。
(『Voice』1014年1月号より)
■岩田規久男((いわた・きくお))日本銀行 副総裁
1942年、大阪府生まれ。66年、東京大学経済学部卒、73年、同大学院経済学研究科博士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、上智大学教授、学習院大学教授などを経て、2013年より、現職。専門は金融・都市経済学。著書に、『リフレは正しい』(PHP研究所)、『リフレが日本経済を復活させる』(共著、中央経済社)ほか多数。
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どうですか?「リフレーション政策」の、理論的背景がわかると、話がスッと入ってきませんか?
http://blog.goo.ne.jp/rakurai-yokusei/e/13346bb7ffc42fcd75ab146e709a2e6b
高校生から分かるマクロ・ミクロ経済学 菅原 晃 河出書房新社
2013年12月18日 09時00分00秒 | 雷日記
こんにちは、落雷抑制システムズの松本です。
高校程度の知識とを馬鹿にして「高校生からわかる」というタイトルに抵抗を感じるとしたら、もったいないことです。今どきの高校生の学ぶ内容は我々の高校の時代より遥かに奥が深い内容を学んでいます。息子が使っていた世界史や地理の教科書、カラフルで内容も豊富で、使用済みとなった今は、私の教科書になっています。大学受験参考書なども昔のものに比べると、編集、レイアウトに感心することが多いのです。もうすぐ始まる大学入試のセンター試験ですが、英語と数学は得意であったと思って新聞に問題が発表されると毎年、挑戦しますが、満点は無理ですね【もっと率直にいえば入試はどこも無理と言うレベルです】。ですから、本書の「高校生」に何ら抵抗を感じることなく手にしてみました。やはり、タイトルの違わず分かり易い説明です。 構成は、
GDPの三面等価
企業の赤字と貿易赤字の違い
黒字貿易について
国際について
リカードの比較優位論
財政政策と金融政策
経済学の基礎の基礎、経済の全てではないものの、私のように専門外のものが経済学の乏しい知識を再確認する意味では、読みやすく分かりやすい説明です。
国債発行高を国民一人あたりの借金と貸方と借方を逆転してしまう、全くのウソがまかり通る経済の話は、TV局も新聞社も偉そうに解説するTV出演者も全くあてになりません。自分で本など読まなくてもTVから咀嚼された分かりやすい情報がドンドン入りますが、それらにはウソも多く含まれています。そのノイズの中からシグナルを拾い出すには自分で勉強するしかありません。
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2013年
秋元康“恋するフォーチュンクッキー”
恋するフォーチュンクッキー
未来はそんな悪くないよ
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育