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やればできる!日銀 その2

<やればできる!日銀 その2>

 前回の「やればできる!日銀」記事について、コメントで紹介された、大瀧先生の本について、取り上げます。
まず、頂いたコメントは次の通りです。

世の中の通説は、デフレは終わらないというが、測定が難しいサービス価格は、実は今、労働の質が低下して、本当は価格が上昇しているのではないか。
 このような計測上の問題は、サービス価格や帰属家賃などの消費者物価指数において大きな構成をしめる項目にもあるのではないだろうか。
 正社員バッシング(教員など公務員バッシングを含む)や非正規社員問題などにより、価格は変わっていないが、実際には、サービス価格の質の低下が生じているのではないか。

これが物価指数に反映されないのは、統計を所管する日本銀行(卸売物価)や内閣府(消費者物価)の怠慢ではないかと感じる。

 また、パソコンの技術革新による性能向上の方は、消費者物価指数に反映される。
 東京大学社会研究所の大瀧雅之教授(マクロ経済)は、雑誌世界で、日本の「デフレ」は、パソコンなどの技術進歩による消費者物価指数の構成要素の急激な価格低下をあげる。また、GDPデフレーターの輸入物価によるバイアスをあげ、「日本はデフレではない」と指摘する。

 最後に、大瀧教授が、本年世に出した「貨幣・雇用理論の基礎 」(勁草書房)は、マクロ経済学のミクロ的基礎という課題に1つの回答を示した名著のようで、リフレ派といわれる論者からも評価が高い。(経済セミナー9月号浅田統一郎氏の書評参照)
 この著作では、物価と貨幣の関係をいう貨幣数量説(論者によっては、「理論」とまでいうようだが)に対して、根本的な批判をしているようだ。
 日銀の立場も、大瀧教授とはまた違うようだが、アカデミックの最先端では、貨幣数量説は、「理論」というほどのものではないようで、それに単純に従う、今回の論説には少し留保が必要ではないか。

 りふれ派の高橋洋一氏とかは、数字に強いという評判だが、学問的基礎について、少し誠実さに欠けるように感じるところ。世のリフレ派は、大瀧教授の理論が問題があるのであれば、ちゃんと指摘して、自分の学問的信頼性を明らかにしてほしいものだ。



大瀧教授の世界の論考は、「デフレは起きていない」(2010年11月号)。
ある種の財価格だけが変化し、それが平均である消費者物価水準に影響を与えているのであれば、技術進歩や対外直接投資を含む国際競争の激化による「実物的現象」と考えるのが最も自然である、としている。貨幣的現象なら、均一・一様に変化するほうが自然のようだ。
岩波書店の広告によれば、大瀧教授は、12月20日に岩波新書「平成不況の本質ー雇用と金融を考える」を出す。
菅原氏には、「貨幣・雇用理論の基礎 」(勁草書房)をまず読んでいただきたいが、大瀧教授の主張を知る入門書としては、これを読むのがよいかもしれない。




<この、データの引用の仕方、ずるいのでは?>

大瀧雅之『デフレは起きていない :世界2010 11月号』

大瀧先生は、消費者物価の総合値を引用しています(旧基準)。

06年  07年  08年  09年  10年
100.3  100.3  101.7 100.3   99.7(雑誌掲載時)


 まず、物価を見るには、(1)GDPデフレーターと(2)消費者物価指数があります。

(1)GDPデフレーターはGDPですから、「国内生産財・サービス」の価格を示します。輸入財・サービスは入っていません。BMWや、シャネルのバッグ、原材料価格は入っていないのです。国内生産財・サービスということであれば、こちらも重要な指標です。

(2)消費者物価指数は、輸入品価格を含みます。①総合物価(CPI)と、②生鮮食料品を除く(コアCPI)、③生鮮食料品とエネルギーを除く(コアコアCPI)が代表的な指標として使われます。

 このうち、物価水準を見るのは、②、③を使います。生鮮食料品や、エネルギー(ガソリンなど)は、天候や、投機などによる動きが激しく(2008年なんかまさにそうでした)、あっという間に値上がりしたり、値下がりしたりするから、それらを除いて考えます。

大瀧先生は
(1)GDPデフレーターについては、

「2000年を100としたとき、この十年で最少1.3%(2001年)から最大12.1%(2008年)だけ低下している。・・・これはGDPデフレーターに含まれる輸入物価デフレーターの上昇によるところが大きいと考えられる。このように・・・信頼性に欠ける部分があるにもかかわらず…デフレが起きていると喧伝している。そこでわれわれはGDPデフレーターに代えて、直接に観察される財・サービスに基づく消費者物価水準を用いて問題を考えることにした」

と、GDPデフレーターを使うのを否定しています。ですが、これもインフレ・デフレを見るのに重要な指標です。なぜなら、名目GDP・実質GDPの乖離は、このGDPデフレーターによってもたらされるからです。

 給料が、10万円から翌年11万円にアップしたとします。(1)GDPは10%アップです。
ところが、100円のカップめんが110円に値上がりし、物価もすべて10%上がっていたら、生活には、何の変化もありません。

 この(1)の場合のGDP値上がりを名目GDPといいます。給料10%アップ=かたち上、数字上だからです。
 ですが、物価が同時に10%上がっていたら生活は同じ・・この場合を実質GDPといいます。実質的に(事実的に)生活水準は全然変わっていないからです。

 だから、インフレ時は、実質GDPが大事です。給与が2倍になっても物価が2倍になったら生活は変わらないから、物価上昇分を除いて考えるのです。実質GDPが2倍になったら、生活水準も2倍になります。
 このグラフを見ると、2000年までは名目>実質ですから、インフレ、まあそれでも90年代は順調に成長していましたね。

日本名目GDP実質GDP推移 .jpg


 ところが、2000年を境に、実質>名目になっています。名目の給与は上がっていないのに、実質的には「豊かな生活」を送っていることになっています。本当に実感できますか?名目(給与)は1991年当時とおんなじですよ。
 これを「デフレ」と言います。2000年当時より給料下がっている・・・これ、実感ですよね。
 

 でもまあ、本当は豊かになっています。身の回りの物、「安く」なっていませんか?「トミカ」というミニカー、自分の子供時代(あまり記憶にないが、高くて買ってもらえなかったような記憶が)と比べても、安くなっています。中学校の時に買ってもらった「スーパーカーシフト」付自転車、64000円でしたが、今なら、12800円で、変速機付ママチャリ買えます。自転車用空気入れに至っては、1000円しません。中2で買ったスキー板「ロシニョール78000円+金具赤ネバダ26000円・・自分の貯金はたいて買ったので、今でも覚えています」、スキーセットなら、今なら2万円台~です。グレープフルーツだって、牛肉(昔ビフテキ)だって今250円の牛丼に・・・そういえば、吉野家の牛丼、大学時代は高級品でした。確か消費税が入って370円~400円くらいだったような・・いつも味は落ちるけど、松屋でした。同じ値段で味噌汁付でした。20年たった今も、吉野家牛丼同じ値段ですものね・・閑話休題。

 この実質GDPと名目GDPの差がGDPデフレーターです。

名目GDP÷GDPデフレーター=実質GDP

世界経済のネタ帳
[世] 日本のGDPデフレーターの推移(1980~2011年)

 2000年を「100」としても、めちゃくちゃ下がっていることが分かります。

 ついでに、ドルベースの日本のGDPも載せますね。こっちはもっとすごいことになっています。円高なので、ドルでみると、所得はすごく伸びていることになります。アメリカにその所得を持って住めば、かなり「リッチ」な生活が出来そうです。

 世界経済のネタ帳
購買力平価は「為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決まる」という購買力平価説を元に算出された交換比率。各国の物価の違いを修正して比較できるため、より実質的な評価・比較ができると言われている。


[世] 日本の購買力平価ベースのGDP(USドル)の推移(1980~2011年)


今年6月のアメリカのマックオウナルドの値段です。1ドル77円として、

ビッグ・マック $2.29=176円
ハンバーガー $0.79=61円


 アメリカなら、貧乏学生でもなんとかなりそうです。


大瀧先生は
(2)、消費者物価指数については、

「2000年を100としたとき、この十年で最少1.3%(2001年)から最大12.1%(2008年)だけ低下している。・・・これはGDPデフレーターに含まれる輸入物価デフレーターの上昇によるところが大きいと考えられる。このように・・・信頼性に欠ける部分があるにもかかわらず…デフレが起きていると喧伝している。そこでわれわれはGDPデフレーターに代えて、直接に観察される財・サービスに基づく消費者物価水準を用いて問題を考えることにした」

 とするのですが、わざと(?)、消費者物価の総合値を引用しています(旧基準)。

06年  07年  08年  09年  10年
100.3  100.3  101.7 100.3   99.7(雑誌掲載時)


 そして、「消費者物価水準は極めて安定しており、到底デフレーションが起きているとは思えないと言っています。

 でも、同じ総務省エクセルに、③コアコア消費者物価指数も載っており、こちらの方を見るのが適切なのは、経済学者なのだから、本当は知っているはずです。

06年  07年 08年  09年 10年
99.6   99.3  99.3  98.6   97.4


 自分に都合のいいデータを持ってきて「デフレではない」と言われても・・・

③生鮮食料品とエネルギーを除く(コアコアCPI)では、なんと2.6%も下落しています。

 あの、2.6%を大したことないなんて思わないでくださいね。500万の給与が、487万に下がったことです。
 変動金利型住宅ローンで、2.6%金利が上がったら・・・破壊的です。

 しかも、ご本人は、

消費者物価水準の変化はおよそ千分の一の単位ですね.大学で統計学という学問を学ぶと分かりますが,どんなデータにも測定の誤差というものがあります.この程度の物価水準の変化は,誤差によるものか真の変動なのかまず絶対に区別できません.こうした誤差を勘案した上で,敢えて結論を出せば『消費者物価水準は安定していて変化していない』ということになると思います.知っておいてもらいたいことは,理科の実験に基づくデータと経済学のデータでは,その精密性が全く異なることです.」

 と、消費者物価指数は、「精密性に欠ける」「この程度の水準は誤差」と述べています。

06年  07年  08年  09年  10年
100.3  100.3  101.7 100.3   99.7(雑誌掲載時)


 ご自分の引用数値も「誤差」のはずですが。さらに、前回記事の「消費者物価が上がっているように見える」現象については

 「経済学は何ヶ月という短い期間の動きを説明したり予測をするようには出来上がっていないことです.常識から考えても分かると思いますが,1億3千万人の日本経済の構造を隅から隅まで直ちに把握できるわけがありません.ある程度(最低二,三年)時間が経過してどうやらこういう現象が起きているようだ,やっとぼんやりながらも把握できることがほとんどです.差し当たり「わからない」と正直に答えることが私の責任だと考えます.

 とおっしゃりながら、雑誌掲載時に、直近の月のデータを持ってきて、しかも確定していないはずの07年~10年の数値で「デフレではない」と断言しています。


 コアコアも0.1%単位よりちょっと大きい1%単位ですが、やはり誤差ですかね?

06年  07年 08年  09年 10年
99.6   99.3  99.3  98.6   97.4


 で、結論ですが、『世界』では、

「現在の物価水準の安定はマネタリー(貨幣的)ではなく、リアル(実物的)現象であると考えるのが妥当なのである」そうです。


アマゾン 
貨幣・雇用理論の基礎.jpg

 この本は、浅田統一郎先生(中央大)によって、めちゃくちゃに書評されています。

『経済セミナー 2011 10・11月号』
大瀧雅之著『貨幣・雇用理論の基礎』書評

 本書は、「ケインズ経済学と新古典派ミクロ経済学の『幸せな結婚j』(本書3ページ)を意図して書かれた経済学の理論書であり、第1部「ケインズ理論の再構築を目指して」(第1章~第4章)で、この目的のために開発された著者独自の理論モデルが展開されている。第Ⅱ部「ケインズ理論の哲学的背景」(第5章~第6章)では、ケインズの同時代人であるロビンス、ピグーと対比させたケインズの経済思想についての考察等が収録されている。

 第1部で展開されている理論モデルでは、現在流行している「ニューケインジアン・モデル」のように賃金・価格改定に際してのコストや摩擦を導入することなく、貨幣量が予算制約において重要な役刮を果たす「世代重複モデル」を用いて、たとえ物価予想に関する「合理的期待」(ないしは「完全予見」)を仮定しても貨幣が「非中立的」になる(すなわち、貨幣量が実質国民所得および雇用量に正の影響を及ぼすことができる)という、ケインズ的な結論を導いている。

 第1章では、「政府は貨幣の新規発行によって財政支出をファイナンスする」という財政政策と金融政策が一体化したポリシー・ミックスを仮定して、マクロ経済政策の効果を検討している。そこで提出されているモデルはいわゆる「ミクロ的な基礎」があるモデルであるにもかかわらず、貨幣供給(政府支出)が少ないと不完全雇用均衡がもたらされ、不完全雇用状態では物価上昇率は貨幣から独立になり(インフレは実物的現象になり)、貨幣(政府支出)を増やすことによって産出・雇用を増やすことができる。

 第4章のモデルでは、物価上昇率が産出・雇用の増加関数になるという「フィリップス曲線」が、「労働の学習効果」を導入することによって導出され、この場合には、拡張的な金融政策(本書の想定のもとでは拡張的な財政政策と一体化されている)によって雇用も物価上昇率も同時に増加し、そのような政策は「賢源配分を必ずパレート改善する」ことが示されている。つまり、この場合には、「インフレは貨幣的かつ実物的現象である」(本書97ページ)。

 私は、独自の理論モデルに基づくこれらの分析結果は、きわめて説得的で妥当なものだと思う。ただし、本書のいたるところで表明されている「リフレ派」(中央銀行が緩やかなインフレーションの実現に責任を持ってコミットする‘インフレーション・ターゲティング’によってデフレ不況からの脱却を目指す学説を提唱する学派で、バーナンキ、クルーグマン、浜田宏一、岩田規久男に代表され、私もこの学派の末席につながっている自覚がある)に対する敵意に満ちた非難には、強い違和感を覚える。

 なぜなら、本書の第4章のモデルの結論は、まさに「リフレ派」の主張を支持するために用いることができるからである。また、139ページで「マスメディア、日本銀行、そして理論経済学の基本を習得しているとは到底思えない」リフレ派の学者を同列に扱っていることも、大いに疑問である。マスメディアの多数派と日銀は「リフレ派」の主張に頑強に反対し、「金融政策によって景気を良くすることかできる」という、本書の理論モデルからも導かれる結論そのものを否定しているのである。

 また、リフレ派が統計データを無視しているという記述があるが、本書には統計データが皆無であるのに対し、「リフレ派」の文献には統計データが豊富に含まれることを想起すれば、この記述にも違和感がある。総じて、「リフレ派」に関する本書の記述は、誤解に基づいているように思われる。


 
 その批判されている4章の定理です。

 P97この章の世代間学習効果を含むモデルにおいて、インフレは実物的現象でも貨幣的現象でもある。すなわち、拡張的な金融政策は、まずは乗数効果を通じて実質GDPを上昇させる。これに伴い学習効果に基づき労働生産性が上昇するため、インフレが昂進する。したがってインフレは貨幣的かつ実物的現象である


 だから、浅田先生は、この定理は、「リフレ派」がそっくり使えますよと言っているわけです。

 また、因果関係で、
p139「今期の失業率&インフレ期待」→「インフレ率」となっているのに、リフレ派は、「インフレ」を起こせば→(景気が反転し)「失業率が低下」すると、全く逆の因果関係を述べている

と、非難します。

 私も、「デフレ状態では失業率は高くなる」という相関は示していますが、「インフレにすると、失業率は低くなる」という、因果論は話していません。「インフレと失業率のトレードオフ:フィリップス曲線」は示しますが、だからと言って「インフレにすれば失業率は下がる」などと言えないことは明白です。因果と相関は全く違う話です。

 今度、統計学を使って、因果関係と相関関係はまったく違うことを示します。みんな、この辺りがめちゃくちゃです。相関は因果ではありません。
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