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同じ記者会見で・・正反対

 次回更新は、11月中旬になります。


<同じ記者会見で・・正反対>

 経団連の米倉会長と、北海道経済連合会の近藤会長との、懇談会後の記者会見です。
同じ話を聞いている?のに、日経は「足並みがそろった」といい、北海道新聞は「平行線」といい、180度表現が違います。

経団連1

経団連2


 記事では、「基本的な違いはない(日経)」「TPPについて考え方に違いはない(北海道新聞)」と、共通しています。ですが、見出しは正反対です。
 日経(TPP推進)と、北海道新聞(北海道農業堅持)とでは、立場が違う(ポジショントーク)ことは分かりますが、それにしても・・・

<結局、経済(カネ)の問題>

 農業についてだけ考えると、北海道の農業関係者にとっては、保障が第一です。TPPの他の条件は抜きにして、農業政策にいろいろ問題はあるものの、とにかく、現状維持だけを考えてみます。

http://www.jiji.com/jc/zc?key=%a3%f4%a3%f0%a3%f0&k=201110/2011100600570

TPP、隔たり浮き彫り=農業関係者と異例の対話-経団連

 経団連の米倉弘昌会長ら幹部が6日、北海道新篠津村を訪問し、貿易自由化や農業政策をめぐりJA北海道中央会など関係者と意見交換した。経団連幹部がほぼ総出で地方に出向き、農業関係者と直接対話するのは異例。環太平洋連携協定(TPP)交渉への早期参加に理解を得たい考えだったが、関係者の反発は強く、かえって隔たりが浮き彫りになった。
 意見交換会では、米倉会長が北海道農業の大規模化や多角化の取り組みに関し、「感激した。日本の農業をリードしてもらえる」と評価した。一方、TPPに関しては、日本の参加は経済成長の実現に不可欠と改めて指摘。その上で、TPPが原則とする関税撤廃からのコメや小麦の除外を念頭に、「どうしても譲れないと条件交渉するには早く参加しなければならない」と訴えた。
 これに対し、北海道中央会の飛田稔章会長は、「高関税に守られ育ってきたのが北海道農業。もし関税が撤廃されたらと心配している」と述べ、TPP参加に伴う農産物の輸入拡大や農業衰退に懸念を表明。さらに会合後、「農業界を挙げ、全国一緒に反対していくことに変わりはない」と記者団に言明した。(2011/10/06-16:18)
 

 EUにも、USAにも、補助金はあります。

日経 H21.8.6
…経済協力開発機構(OECD)によると、日本の農業補助金は農家総収入の49%に上り、欧州連合(27%)、米国(10%)に比べて高い。…「補助金漬け」…



http://www.news.janjan.jp/world/0710/0710294763/1.phpJanJanニュース2007/10/30
2004~06年において、ニュージーランドでは農家収入のわずか1%が政府からの補助金だったのに対して、米国・メキシコでは14%、カナダで22%、EUで34%、日本で55%、アイスランド・ノルウェー・韓国・スイスで60%以上



トリストラム・スチュワート『世界の食料ムダ捨て事情』 NHK 出版2010年p164
 農業部門の無駄のもう一つの主要な原因―は、農業補助金の仕組みから生じる。ユーロの共通農業政策(CAP)は、農家が栽培して市場で売れなかったものを、高い保障価格―世界市場よりずっと高く設定されている―で買い上げることを約束した。…農家は、ヨーロッパの全人口が消費しきれないワインの他、穀物やバターの山を作り出していたのだ。…この過剰生産という問題に対処するために、ECは“休耕地指定”なる策を考えた。それにより、農家は土地の最低10%を耕作せずに金を受け取り…。この政策は農産物の高騰後、2008年まで続いた。



 穀物輸出国のアメリカ・カナダ・EU内フランスでさえ、補助金漬け なのです。
 結局カネの問題ですので、TPPによる利益>保証に必要な金であれば、日本全体にとって貿易の利益を享受することになります。

 現在、関税→補助金になっています。これを、TPPの利益→補助金にすればいいのです。

 日本の小麦には、250%の関税(1キロ当たり55円)がかかっています。海外から、1トン3万円の小麦を買えば、関税に7万5千円、合わせて10万5千円の価格になります。

 実は、小麦は、国家独占販売なのです。売っているのは、各国の各企業ではなく、「日本国」という独占卸売業者なのです。

 そのからくりはこうです。政府は、商社に国際価格で買い付けさせた小麦をすべて買い取り、無関税で輸入します。その価格に1トン当たり、1万7千円のマージンを乗せて、合計4万7千円で、製粉業者に、政府価格で卸します。

小麦価格 どっち?jpg

 こんな国家独占販売の仕組みが出来上がっているのです。輸入量570万トン×1万7千円=969億円です。
 
 これが、農水省の「特別会計」に振り込まれます。国会で審議される「一般会計」予算とは、別会計です。
 ちなみに、小麦販売を独占しているのが、農水省「総合食料局食糧部食糧貿易課」です。同特別会計の天下り団体が、予算61億円「全国米麦改良協会」と同85億円「製粉振興会」です。

 現在、小麦価格が上昇しています。国際標準価格とは全く別な論理で「値上がっている」のです。小麦は日本政府の「独占卸売価格」なのです。それを負担するのは、もちろん、我々消費者です。



<個別保障>


個別所得保障


 1ha未満のコメ農家とは、役所や農協、一般企業で働いている(いた)農地持ちサラリーマンのことです(私の山形県庄内地方の親戚も、そうです)。1haのコメ作り農作業時間は、年間で1~2週間です。農業所得は数万円~マイナス10万円です。でも兼業により総所得は平均で500万円になります。

 上記のグラフのうち、戸別所得補償対象は、赤色の部分です。この市場は、毎年2~3%縮小しています。ここに、戸別所得補償1兆4000億円の税金が投入されます。そもそも、農業で生活していない層に、1haあたり、最大95万円が支給されているのです。

 青い部分は、戸別所得補償対象にはなっていません。


 ではTPP(関税撤廃)で影響を受けるのは、どこでしょう?100万戸の超小規模コメ作り農家は安泰です。もともと、20戸分程度のコメしか生産していない(その部分の収入は数万円~マイナス)のだから、まったく関係ありません。


 次に比較的大規模のコメ農家です。

 日本で食べているコメは短粒種です。一方、世界の米市場で流通しているのは、長粒種です(タイ米を想像して下さい)。日本タイプのコメは米流通市場の1%にも満たないのです。

 オーストラリア産の小麦、日本向けにわざわざ栽培したもの(もっちりタイプ)を作っているのですが、その小麦作りを少なくしています。小麦価格が上昇すると、世界一般に流通する小麦を作った方が、コストは安く、リスクは少なく、面倒がかからないからです(日本向けを止めたわけではないです)。
 おかげで讃岐うどんの小麦配合率が変わってしまいました。


 日本向けだけの「短粒種」をわざわざ、作るか?まあ、コメ価格が高く、儲かれば作るでしょうけど。
今、1ha未満の農家にも保障している「個別保障・もともと2年前まではなかった」分を、大規模農家に提供すれば、良いだけの話です。

 野菜・花卉・果物農家は、もともと関税がないのだから、関係ありません。

 一番影響を受けるのは、小麦・大豆栽培農家です。また、図にはないですが、酪農です(ちなみにバターやチーズも、関税→国家独占です)。これが北海道の大規模農家とバッティングします。この層に、TPPの利益→補助金すれば良いのです。農業生産額8兆円のうち、1兆円にも満たないのですから、十分に可能です。

<輸出拡大の利益とは>

戸堂康之 東大 『国際化、生産性向上の鍵に』日経H23.10.13

 グラフは1995~2007年の日本企業の労働生産性(従業員1人当たりの付加価値生産額)の平均値の推移を、00年に初めて輸出を開始した企業と、この期間中に輸出を一切しなかった企業に分けて示したものだ。輸出企業は輸出企業に比べて輸出開始以前から生産性が高いだけでなく、輸出開始後にはその差はさらに開いている。…輸出は企業の生産性成長率を平均で約2%上昇させる…。


輸出企業 1人当たり労働生産性


 グラフを見ると、差は歴然です。労働生産性は、GDPを労働者の数で割ったもので、簡単に言えば、狭義の一人当たりGDPのことです(前者は6000万人、後者は1億2000万人という違いだけです)。
GDPは付加価値(もうけ)のことですから、輸出すれば儲けが増えるというのは、当たり前のことです。自社製品の市場を拡大することです。

 GDP=①労働力×②資本×③生産性のことです。人口減の日本は①が減ります。それを補えるのは③生産性の向上です。

 与次郎 大機小機『教育と経済』日経H23.10.13
…人口が減少する中で経済成長などできるはずがない、と考える悲観派も多い。そうした人には明治以降の人口と国内総生産(GDP)の推移を見てもらいたい。過去150年、経済成長は人口によって規定されることなく、1人当たりのGDPの上昇によって生み出されてきた、ということが分かるはずだ。



…日本の輸出額の国内総生産 (GDP) 比率は経済協力開発機構 (OECD) 34か国中、下から2番目(04~08年平均)で、日本は必ずしも貿易大国ではない。海外からの直接投資額の GDP 比も下から2番目、海外への直接投資は25位だ。日本の国際化の度合いは相当低い。

 別に、日本は貿易立国ではありません。過去もそうでしたし、現在もそうです。


…幕末の開国により1人当たり実質成長率が1.7%上昇したことや、企業レベルで見れば輸出や直接投資により生産性が平均で2~3%上昇することを考えれば、国際化の進展で経済成長率が0.5%程度上昇することは必ずしも野心的な予測ではない。もしそうなれば、現状維持の場合に比べて国際化による GDP の増加額の累計は10年で100兆円を超える。

 この増加する利益を、農業に回せば済むことです。(現状の農業政策・農業のあり方が適切か否かの話ではなく、あくまでも、「現状を維持したいのであれば」・・という話なので、誤解なきよう)

<追記>

 朝日新聞 北海道版 H23.10.28

…東旭川農協…。10年度の農業戸数は507戸で、5年間で177戸減少する一方、この10年間の就農者は40人だけ。
…10年間で…46都府県の耕作放棄地は5万ha(15%)拡大して38万haになった。
…道内農家の…65歳以上の高齢者が全体の3割を超える。…このままだと今後10年間で約4割減少する。


あの、そもそも、農業は、農家自身が手放し続けているのですが…。自給率が心配?自分で農業をやろうともしない人が唱えていますが・・・

 「農業公務員」でも作るつもりですか?
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