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小さな政府論の蹉跌(さてつ) その3

<小さな政府論の蹉跌(さてつ) その3>

国家観.jpg
 
 さて、前回は、この「社会権」についての視点から、「大きな政府にならざるを得ない」ということを、論証しました。

 日本国憲法は、今から65年前に、制定されたものです。「自由権的基本権:自由権」と、「社会権的基本権:社会権」は明記されているのですが、その時代には考えられなかった社会の変化が起こります。高度経済成長に代表される、社会の高度化:複雑化です。

 現代の社会は、社会保障の充実や、労働環境の充実、産業の育成などを国の政策分野として拡大し、複雑化しています。多様な分野で社会の実情に適した行政を行うためには原則だけを法律で決めて、運用は専門的な知識を要する行政機関に任せることになりました(後述しますが、本当に複雑化しています)。

 ですから、法律案も、細部に詳しい(既存法と矛盾しないよう)、行政機関の官僚によって作成されることが多くなりました。こうして、現代の国家は「行政国家」と言われるようになったのです。

 憲法制定当時とは、比べ物にならない、新しい問題点、それに伴う権利:義務が、この65年の間に激増したのです。これらは「新しい人権」と呼ばれています。

<新しい人権>

 新しい人権として、環境権や、嫌煙権、アクセス権、地球温暖化取り組み、循環型社会(リサイクルなど)への取り組み、生態系の保存など、どんどん、政府がやらなければいけないとされる国際合意が増えているのです。

 政府は仕事が増えこそすれ、減ることはありません。歴史が進めば進むほど、新たな課題は常に生じるからです。そして、新たな法ができ、規制が導入されます。

(1)

 高度経済成長期、1960年代に「四大公害訴訟」に代表されるような、産業公害が頻発しました。そこで、主張されるようになったのが、「環境権」です。

 1967年に「公害対策基本法」が制定されます。

 1970年の国会は別名、「公害国会」と言われ、基本法改正のほか、14法が成立しました。「公害被害者救済法」もその一つです。これは1973年には、公害健康被害補償法に引き継がれます。1972年には「自然環境保全法」も制定されます。

 1972年に環境庁(現環境省)が発足します。

 この「環境」は、現在は、世界共通の課題となっています。

 1975年 ラムサール条約 湿地に関する条約
 1975年 ワシントン条約 絶滅の恐れのある野生動物の国債保護条約
 1988年 オゾン層の保護を目的とした枠組み条約
 1992年 バーゼル条約 有害廃棄物の故郷を越える移動・処分規制の条約
 1993年 生物多様性条約 日本では「生物多様性基本法」「外来生物法」で整備

 1993年には、これらの地球的規模の環境問題に対応するため、「環境基本法」制定

 さらに、環境負荷を低減するため、2000年に『循環型社会形成推進基本法』が制定されます。この方針の下に、5本柱の法律が制定されました。

 包装容器リサイクル法
 家電リサイクル法
 建設リサイクル法
 食品リサイクル法
 自動車リサイクル法

 どうですか?これらすべての法律の整合性を保ちながら、法律の中身を作成しなければなりません。国会議員にできると思いますか?

 これらの法律を徹底するためには、国・自治体ともに、さらなる行政の細分化、巨大化が必要です。

 また、短期的には、これらの法律によって、費用がかかることが分かります。既得権を持った人たちが抵抗することもあります。

 ですが、長期的に見たらどうですか?無かった方が良かったですか?今の日本は、環境先進国であり、エネルギー利用率(効率)でも世界ダントツの省エネルギー国です。


(2)

 プライバシーの権利、知る権利と言われる、情報を巡る権利も主張されるようになりました。

 当然、1946年の憲法制定当時には、今日の高度情報化社会は、想像もできない話だと思います。これらの情報化社会の進展に伴い、従来の刑法、民法では対応できない状況が現出しています。

 インターネット社会は、1990年代以降に急速に拡大しました。もう、ネットなし、携帯なし、スマホなしでは「暮らしていけない」という人もいることでしょう。

 余談ですが、「若者に車が売れない」「スキー場が閑古鳥」と言われていますが、当たり前です。若い人の必須アイテム(モノ・サービス)が大きく変化したからです。

 通信産業の、業界規模は25兆5,934億円(22年3月)です。一方、自動車業界の規模は:43兆9,814億円(同)です。

 テレビ業界など現在でも2兆円産業に過ぎないのですから、前者は、1990年代には限りなく「ゼロ」に近かったのです。20兆円の新たな市場が生まれたら、失われた20年(名目GDPは、なんと1997年と同じ)ですから、どこかの産業で、20兆円分、縮小しているはずです。

 車・バイクなんて、売れるわけがありません。バイクになんか乗っている物好きは、オヤジばかりです。車は恋愛の必須アイテムではないのです。

http://gyokai-search.com/3-tsushin.html
http://gyokai-search.com/3-car.htm
http://gyokai-search.com/3-tv.htm

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc213510.html
平成23年版 情報通信白書


 

 さて、このネット社会に対応(当然、人権を守るため)し、以下のような法・規制が整備されました。


1 行政手続オンライン化法

 申請など行政手続は、書面によって行うべきことがそれぞれの根拠となる法令によって定められています。しかし、それでは行政手続きのオンライン化を迅速に実現することは不可能です。そこで法令を改正せずに、手続きをオンライン化:電子化することができるようにしたのが行政手続きオンライン化法です。

 手続き等において、法令が書面によるべきことを定めている場合であっても、主務省令で定めることにより、申請などの強制手続きのオンライン化:電子化することができることを定めています。
主務省令で定めると、申請書の提出に変えてインターネットを通じて申請でき、書面の作成保存に変えてコンピューターのデータを作成、保存することができることになります。


2 電子投票法2002年

 以前の、投票用紙を使った投票ではなく、電子投票機を使った電子投票を行うことが可能となりました。


3 電子認証等の法律

 電子認証は、インターネットを通じて申請等の行政手続きや取引がなされる場合、インターネットで申請書や契約書注文書などの情報がやりとりされますが、送信された情報は本人が作成したものか・改ざんされていないかの2点を確認するための仕組みが必要です。この2点を確認するためのシステムが電子認証です。


4 電子署名法

 個人がネット上で商取引などを行う場合の電子署名とその認証について定める法律です。


5 公的個人認証法

 個人が申請などのオンライン手続きを行う場合における、本人かどうか、及び改ざんの有無を確認するための電子認証サービスの提供について定める法律です。


6 商業登記法

 法人が申請等のオンライン手続きや電子商取引を行う場合の認証についても定めています。

 以上の法律の結果、オンライン行政手続きについては、個人は都道府県知事が認証し、法人は登記官が認証することになりました。
 電子商取引の場合、個人は民間承認事業者が、認定し、法人は登記官が認定することになりました。


7 電子商取引に関する法律

 特定小取引法では、消費者等を保護することを目的として必要な規制等を定めます。ネット通販などの電子商取引が通信販売として同法の規制対象となるため、ネット取引を想定した規定も置かれています。


(1)電子メール広告の規制

 オプトイン方式:相手から請求を受け、またはその承諾を得なければ電子メール広告をしてはならない。相手方が電子メール広告の提供を受けないという要請を受けたときは、電子メール広告をしてはならない。

(2)

 ネットを通じては、契約を申し込んだつもりがないのにクリックしたら申し込みをしたことになってしまったり、申し込みの内容を確認訂正できなかったりするなどの場合が生じます。

 そこで、パソコンの画面上の操作が電子契約の申し込みとなることを注文者が簡単にわかるようにしておくこと。注文者がパソコンの画面上の操作をする際に、申し込み内容を確認し訂正できるようにしておくこと。が、義務化されました。


8 電子消費者契約法


 これは民放95条ただし書きの特例です。例えば申し込み画面と認識せずにクリックしてしまったり、商品を1個注文するつもりで10個と入力してしまった場合、民法上では、要素の錯誤となり、申し込みは原則として無効ですが、注文書に重大な過失があるときは無効とすることができないとされています。

 そこで、注文書に重大な過失があったかどうかを巡ってトラブルが生じることがあります。電子消費者契約法は、この場合に民放95条を適用しないものとし、注文品の重大な過失の有無を問わず操作ミスによる契約を無効とすることにした法律です。


9 民法526条1項の特例

 電子商取引の場合の、契約成立時期の転換です。民法によれば、意思表示の効力はその通知が相手方に到達したときに生ずるのが原則です(97条1項)。契約の承諾の意思表示の効力については、その通知を発したときに生ずるものとされています(526条1項)。

 電子消費者契約法では、契約における承諾の通知について民法526条1項の適用を除外し、契約は承諾の通知が消費者に到達した時に成立するものとしました。


10 不正競争防止法

 ネット社会ではドメインの使用等が、不正競争に当たる場合があります。不正の利益を得る目的、または他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示と同一の業務にかかわるドメイン等を使用する権利を取得し、もしくは保有し、またはそのドメイン名を使用する行為が不正競争に当たるとしています(2条1項)。


11 景品表示法

 不当に顧客を誘引し一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れがあると認められるものなどを不当な表示として禁止(4条1項)します。

 ネット上の広告も不当な表示に当たる可能性があります。ネット通販などのHP上の商品説明やアフィリエイト広告を使用している、ブログの商品などで、実際よりも過度に「良い」とコメントしたり、他の商品と違いはないのに、他の商品よりも過度に「よい」などとコメントすると同法に違反する恐れがあります。


12 書面等の電子化に関する法律

 民間企業における書面の電子化の根拠となる法律です。

保存:民間事業者等が書面または電磁的記録を保存し保管し、管理し、備え、備え置き、備え付け、または常備すること

作成:民間事業者等が書面または電磁的記録を作成し、期待支持記録紙または調整すること。

署名等:署名、記名、自書、連署、押印、その他氏名または名称を書面に記載すること。縦覧等:民間事業者等が書面または電磁的記録に記録されている事故を縦覧もしくは閲覧させ、または謄写をさせること。

交付等:民間事業者等が書面または電磁的記録に記録されている事項を交付し、もしくは提出しまたは提供すること。

保存等:保存、作成、縦覧等または交付等。


13 社債株式等振替法

 株式にかかる株券の電子化について定める法律です。株券の廃止により、株主にとっては株券の盗難や偽造がなくなるほか、株式を譲渡する場合に株券を交付したり、株主名簿の名義書き換えを請求したりする手間が省けるメリットがあります。

 また、株式会社にとっても、株主名簿の名義書き換えで、偽造株券どうかをチェックする必要がなくなるほか、株主管理のコストを減らすメリットがあります。


13 電子記録債券法

 金銭債権を電子化して登録しておく制度について定めています。債権を電子化することで、ネットを通じて安全に債権を譲渡することができ、円滑な資金調達が可能となるメリットがあります。


14 電子帳簿保存法

 国税関係の帳簿書類について、電子データとして保存することを認める法律です。従来は7年間、紙の形で保存することが義務づけられていましたが、保管コストを大幅に節約できるというメリットがあります。


15 不正アクセス禁止法

 不正アクセスとはネットその他のネットワークに接続されていて、かつ識別符号入力しなければ利用できない状態にあるコンピューターに対し、ネットワークを通じて識別符号または免れることができる情報または指令を入力し、そのコンピューターを利用できる状態にすることです。


16 迷惑メール防止法

 消費者の意思に関係なく宣伝用のメールを勝手に送りつけてくるのが迷惑メール(スパムメール)です。そこで迷惑メール防止法が2002年が施行されました。電子メールの利用について、以下のような規制が定められています。

 アプトイン方式:原則としてあらかじめ送信することを求めたものまたは送信に同意したもの以外のものに特定電子メールを送信してはならない。送信者は受信者が拒否すれば特定電子メールを送信してはならない。
送信者は、当該送信者の氏名または名称中心拒否の通知を受けるための電子メールアドレスまたは IP アドレス等が、当該特定電子メールに正しく表示されるようにしなければならない。

 送信者情報を偽った特定電子メールの送信の禁止(5条)送信者情報を送信に使った電子メールアドレス IP アドレス等を偽って特定電子メールを送信することは禁止されています。
架空電子メールアドレスをあて先とする特定電子メール送信の禁止(6条)送信者が自己または他人の営業のために多数の電子メールを送信する目的で架空電子メールアドレスをあて先として特定電子メールを送信することは禁止されています。

 電気通信事業者プロバイダーは、一定の場合には、当該支障を防止するために必要な範囲内において、当該支障を生じさせる恐れのある電子メールの送信をする者に対し、電子メール通信役務の提供を阻むことができます。


17 プロバイダー責任制限法

 ネット社会では誰でも自由に情報を発信することができます。一方、他人の名誉やプライバシーを侵害するような書き込みがなされたり、個人情報が本人に無断で経済されたりすることがあります。プロバイダーは、そのような場合に、損害賠償を請求される恐れがあったり、一方的に削除されると、削除された側から損害賠償を請求される恐れもあります。その判断が誤っていた場合には、損害賠償責任を負わなければならないとするのはプロバイダーに過度の責任を負わせることになります。

 そこで、このような場合であっても一定の要件が満たされている時はプロバイダーは責任を負わないものとして、その責任を制限しています。



 どうでしょうか。ネット社会になっただけで、ざっと取り上げただけで、これだけの法律・規制を必要とします。もちろん、人権を守るためであり、権利を拡充するためでもあります。

 さらに、プライバシーをめぐっては、「個人情報保護法」「個人情報保護条例」「行政機関個人情報保護法・・・」と、ネット社会とリンクして、さらに法律・条例・規制が加わります。

 たった、「ネット社会」という変化一つでも、これだけ内容が多岐にわたり、高度化していきます。しかも、過去の法律と整合性がなければなりません。

 行政機関が肥大化するのが、お分かりだと思います。新法律施行に伴って、新たな人員配置、予算配置が必ず必要になるのです。

<結論>

 以上、3回にわたって、「小さな政府論の蹉跌」を取り扱ってきました。どうですか? 「小さな政府論」が、憲法、社会権、新しい人権、高度情報化社会、法律(条例)といった観点では、全く述べられていない(そもそも述べようがない)のが分かると思います。

 小さな政府は「べき論」としてはありうるのですが、「事実論」としては、ありえません。政府は、社会の進展に伴い、必然的に「大きくなる」のです。もちろん、それは、我々の人権を守るためです。


 元祖「小さな政府」志向のアメリカでさえ,政府支出は膨大化の一途です。それまでGNP 比6,7%程度だった政府支出が,第二次大戦で20%台,1980 年代以降も同様になりました。(以下の引用・内容は,猪木徳武『戦後世界経済史』中公新書 2009 p4~によります)

州政府も,地方政府もその割合はゆっくりと拡大しています。その結果,「二〇世紀の初頭には連邦・州・地方政府収入の総計はGNPの一割にも満たなかったのに,二〇世紀末には,四割に迫るウェイト」になっています。

「市場原理」主義?の権化(ごんげ)とされるアメリカにおいて,「市場原理」の対極にある「政府」が肥大化しているという現状にあります。

読売H23.8.3
8月3日


 憲法第97条

 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
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