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<日経が変わった?やっぱり変わっていない> 

<日経が変わった?やっぱり変わっていない> 

 前回のブログ記事で、『日経が変わった?変われば良い事だが』と、ちょっぴり期待する記事を書きました。

ですが、やっぱり日経、「貿易黒字がもうけ」との、素人論理を継承し続けています。

日経H23.5.18 『新しい日本へ』一面特集記事

…震災後、日本の輸出は急減した。3月は貿易黒字が前年比8割近く減り、4月は20日までの貿易赤字が7868億円。…震災は世界で稼げる分野が一部の業種に偏っている実態を浮き彫りにした。
 1970年代の石油危機を機に、日本の産業のリード役は…自動車や電機に移った。世界市場を切り開き、輸出立国を支えたが・・・
 …産業構造の転換が、空洞化を防ぎ、雇用を守る。
 

 「貿易黒字がもうけ、赤字は損」は、この記者を始め、日本人のDNAになっているようです。この「黒字・赤字」という表現はどうにかならないでしょうか。「貿易黒字」にかわり、「貿易超過(資本流出:注-本当は流出ではありませんが、黒字と書くなら、流出で対抗)」とか、「貿易黒字(資本赤字)」と正確に表記しないと、誤解はなくなりそうにありません。

H23.5.24機記事
赤字転落

 「転落」と表現していますが。記事中矢印「黒字が増えています」が、「GDPは減っています(不況で貿易黒字増)」。下の説明参照。

 日本は、将来的に、家計貯蓄率がマイナスになり。全体の貯蓄がマイナスになると、「資本黒字≡貿易赤字」になります。そのとき、日経は「赤字だ、赤字だ、大変だ」と叫び続けるのでしょうか。その時点で、GDP(GDI:所得=GDE:支出)が伸びて、経済成長が起こっていたとしても(米・英・伊・仏・豪はみなそうです)、1人当たりGDPが伸びていても(米・英・伊・仏・豪はみな日本を抜いています)「貿易赤字だ!貿易赤字だ!」って叫んでくれるはずですよね。今のままいくと。

 企業のもうけ=    black   = 黒字 
 貿易黒字  = a trade surplus= 貿易過剰(余剰)
 

黒字の意味がぜんぜん違うのです。 

 この「貿易黒字」は、「経済学」を知っているか、知らないかのリトマス試験紙になります(大竹文雄先生によると、「比較優位」だそうですが・・・)日経は後者です。

「民間の貯蓄超過」+「政府の貯蓄超過」
=「国全体の貯蓄超過」
=「貿易黒字」
 

 (S-I)+(T-G)=(EX-IM)

 つまり、その国が貯蓄超過だと、貿易黒字が発生するのです。「貯蓄超過」ということは、「稼いだ所得のうちお金を使わないで、貯めておくお金が多い」生産(=所得)するよりも消費が少ないということです。

<不況=貿易黒字増>

2009 名目GDP 内閣府 貿易黒字版.jpg

(S-I) = (G-T)  + (EX-IM)

 さて,景気によって,上記の数値はどのように動くのでしょうか。景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。

 ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。

(S-I) = (G-T)  + (EX-IM)

 ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。

 逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国債+貿易黒字)も拡大します。つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。

GDP増 貿易黒字減 ~2010

 リーマン・ショックを受けて、2009年のGDP471兆円は、08年の505兆円よりも、34兆円も減ってしまいました。戦後初めての「大不況」です。
 ところが、同年、貿易黒字は、736憶円から1436億円に増えています。

 中国も同じです。

 日経H23.1.11『中国輸出、2年連続世界一』
…09年に続きドイツを上回り世界一となったのは確実。…中国の貿易黒字は09年世界金融危機受け…6年ぶりに前年割れした。…10年通年の貿易黒字は2年連続のマイナスとなった。


出典 世界経済ネタ帳

[世] [画像] - 中国の実質GDPの推移(2008~2010年)
[世] [画像] - 中国の国際収支の推移(2008~2010年)

 日経が不安がる原因の、貿易黒字を増やそうと思えば、「不況にすればよい」のです。ばかばかしくて、お話になりません。

<日本は、輸出立国だったことはない>

1970年代の石油危機を機に、日本の産業のリード役は…自動車や電機に移った。世界市場を切り開き、輸出立国を支えたが・・・

日本 GNP 貿易収支 高度成長
 日本が、平均で、10%以上も経済成長を達成した、高度経済成長期のGNP(当時の指標)と、貿易黒字です。このグラフを縦に大きくしたのは、「貿易黒字」が小さすぎて、見えなかったからです。

 どうですか?GNI=我々の給与総額は、恐ろしいほどの伸びを示しています。一方、貿易黒字はGNPに比べ、「ごみ」みたいな数値です。加えて、1961年と、1963年は、「貿易赤字」です。貿易赤字なのに、経済成長しているのです。

 でも、反論がありそうです。「当時は1ドル=360円」の固定相場制だった。だから、「国際収支の天井」があって、日本は「外貨準備以上」に輸入額が大きくなろうとすると、「為替制限=資本制限」をして、輸入量を規制し、その結果、材料を輸入して製品を組み立て「加工貿易」をした日本は、「輸出」が伸びず、「貿易赤字」になったのだと。

 それでもけっこうです。でも事実は、「貿易赤字」でも、国民が豊かになっていることです。どうしてでしょう?

 このあと、日本は、1973年から、完全変動相場制に移行します。

日本 GDP 貿易赤字 高度成長期以後
 どうですか?日本は確実にGNP増=我々の給与増しています。
しかも、1973年、1974年は、オイルショックで、貿易赤字です。1979年、1980年も、第2次オイルショックの影響で「貿易赤字」です。

 相変わらず、貿易黒字なんて、GNPに比べたら、「ゴミ」みたいな数値です。そうです、新聞が力説する「貿易黒字」なんて、日本経済にとって、この程度の数値なのです。しかも「黒字」だろうが、「赤字」だろうが、給与総額に全く関係ありません。

「輸出立国・多額の貿易黒字」は神話なのです。

そもそも、GDPに占める、輸出額は、どのようなものなのでしょう。

出典内閣府 国民経済計算
GDP 貿易黒字 1980~.jpg


 この上のほうの赤い部分が、日本の「輸出額」です。こうみると「輸出立国」なるものに見えそうです。ですが、輸出額/GDP比は、下記のグラフ程度です。
 ドイツや韓国の30%とか、40%になったことなど、一回もありません。

輸出額/GDP比.jpg
輸出/GDP 各国.jpg

そもそも「貿易立国」だったことなど、ないのです。

日本 輸出・輸入額

 このグラフで分かるように、輸出が伸びれば、輸入も伸びます。例の「輸出増=輸入増」という、貿易の黄金律です。
 ブログカテゴリ:リカード比較生産費説 14 >「輸出増=輸入増」参照

<日本はすでにサービス業の国>

産業構造の転換が、空洞化を防ぎ、雇用を守る。

 産業構造の転換など、とっくの昔から行われ、この流れは、「人為的に起こしているものではありません。

とうほう『政治・経済資料2010』p232-233
日本の就業割合の変化.jpg
産業別就業者構成比.jpg


 日本は、サービス業の国です。家計支出においても、サービスへの支出が増加し続けているのです。モノ作りでもうける国ではありません。

日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。

2009 名目GDP 内閣府 貿易黒字版.jpg

 もう、第3次産業の生産額は、約80%になっていますね。第2次産業21%と言っても、大部分は、「基本的な機械・モノ」です。テレビ、冷蔵庫、IT製品などの電化製品、自動車、おもちゃ、家具、家(水周り製品含む)、コンクリ、素材産業、そしてそれらの部品(モーター、繊維製品、パネル、生産の為の機械etc)です。
 

 日本は「サービス業の国」です。サービスは「その場で生産・その場で消費」というのが、その本質です。「生産=即消費」なのです。居酒屋、回転寿司などの外食産業、スーパー、デパート、通信販売などの小売産業、宅配便などの流通産業、医療介護などの産業、学校・塾などの教育産業、温泉などの宿泊業、理美容やエステなどの業界、銀行などの金融業、弁護士・FPなどのコンサルタント業、TV・ネットなどの通信産業、これらが、「地産地消」ならぬ「生産=即消費」産業なのです。しかも、サービス業は、「非貿易財が、圧倒的」なのです。上記の産業は基本的に「輸出産業」には、なれません。

注)「サービスのIHIP特性」サービスとモノの違い

(1)「無形性:Invisibility」
    モノは、有形(物質)、サービスは、無形(非物質)。
(2)「不均質性:Heterogeneity」
    モノは、生産においてほぼ均質。サービスは、生産において不均質
(3)「同時性:Inseparability」
    モノは、生産が先行、消費は後。サービスは、生産と消費が同時。
(4)「消滅性:Perishability」
    モノは、ストックできる。サービスは、ストックできない


 参考/引用文献 原田泰『新社会人に効く日本経済入門』毎日新聞社 2009 p80~
アメリカ・日本生産性比較
日本 アメリカ 生産性の違い

英国・日本生産性比較
日本 英国 生産性

 アメリカを100とした場合、日本は、56.4%しかありません(イギリスに対しては70.7%)。これは、同じ時間働いて、アメリカが給与を1万円もらうのに、日本は5,600円に過ぎないことを示します。これでは、アメリカやイギリスに1人あたりGDPでも、どんどん置いて行かれるわけです。

伊藤達也 関学教授 『成長軌道の回復、最優先に』日経H23.2.17
 人口減少や経済の成熟化を理由として「成長は望めない」との指摘は国内に根強い。しかし、1990年代以降の低成長は全要素生産性(TFP)の低下が主因である。イノベーション(革新)や新たなビジネスモデルによってTFPが高まれば、実質2%、名目4%以上の成長は可能だ。


 この「生産性」を引き上げる余地がこんなにあるということは、「1人あたりGDP」を上昇させる余地も十分にあるということです。第2次産業の生産性は、アメリカ・イギリスに比較しても高いです。

 「病院の待ち時間=生産性ゼロ」のことです。 

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