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経済学とは(2) 経済理論は完璧か?

次回更新は、4月10日以降の予定です。

<経済学とは(2) 経済理論は完璧か?>

 今まで説明してきた、経済理論には、前提があります。それは、 「人間は合理的」だとするものです。

需給曲線.jpg


 上記の「市場」を取り扱うミクロ経済学(ミクロ経済学に裏打ちされた、マクロ経済学でも)では、次のような前提があります。

(1)財・サービスの内容について完全に知っている、無数の消費者
(2)財・サービスの内容について完全に知っている、無数の生産者
(3)完全競争市場であること(寡占・独占やカルテルを結ばない)
(4)消費者は、効用を最大限にするように行動する
(5)生産者は利益を最大限にするように行動する

 (1)(2)は、「完全な知識を持っていること」、(4)(5)は「常に合理的であること」を示します。この様な状態で、上記の「市場」は最適な資源配分をすると仮定されます。

 例えば(4)「消費者は、効用を最大限にするように行動する」です。
 
 家計(消費者)は、全ての予算を使い切って、最も満足度が高いように、モノ・サービスを購入することになっています。
 ブログカテゴリ:リカード比較生産費説 その8参照

リカード図18.jpg

A点では,予算をすべて使い切っていません。もっと購入量を増やせば,もっと高い満足度(効用)を得られます。逆にB点は,予算線を越えていますので,実際には商品を購入できません。最適な点は,予算線ab上と接する点ということになります。しかし,C点,D点の満足度(効用)は,実はA点と同じでしかありません。C点では,衣料品を減らし,食料品を増やすことで,さらに満足度(効用)を高めることができます。
 このように,選択していくと,図の場合は,E点が,もっとも満足度(効用)の高い点ということになります。予算線abと,消費の無差別曲線U2の接点です。このE点を,消費の最適点といいます。

 家計(消費者)は,満足度(効用)の最高値を目指して,予算線の制約のもと,一番合理的な選択をします。E点では,衣料品5枚×1000円=5000円,食料品25個×200円=5000円,合わせて1万円で購入し,消費します。

消費者は、1万円を全て使い切り、最大の効用を目指すことが前提とされています。

 次に、(5)「生産者は利益を最大限にするように行動する」です。

供給.jpg

 ⑦の矢印部分が、この生産者にとって、一番利益(利潤)が大きい点です。あと1個でも、生産を増やせば(減らせば)、儲けは少なくなってしまう、限界点です。企業は、この最大利益(利潤)の点で、財・サービスの生産量を決定することになっています。

注)この線がどのような意味を持つ線かは、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門Ⅱ』を参照下さい。このブログでは、スペースがなく、説明できません。 

 このように、人間の完全性、合理性を前提として、需給曲線が導き出されるのです。

需給曲線.jpg

経済学史
                   ↑
      人間の、完全性 合理性
 

 上記経済学理論のガチガチ信者は、この「人間の完全性、合理性」を当然のように信奉します。

 別に池田氏の考えはどうでも良いのですが、トピックとして扱っていたので紹介します。

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51683125.html
池田信夫ブログ2011年03月02日 08:27 『フリードマンの公理系』

フリードマンの理論は「人間は合理的個人であり、行動の責任は自分だけが負う」という公理にもとづいて演繹的に組み立てられており…
…根本的な問題は、彼の合理的個人という公理を認めるかどうかである。…
…しかし残念ながら、日本的コミュニティの最後のよりどころとなってきた会社共同体も、そう長くない。社会が原子的な<私>に分解する傾向は、いい悪いではなく避けられない。日本社会は、好むと好まざるとにかかわらず、フリードマンの公理系に近づいているのだ。この不都合な真実にどう向き合うかが、日本人の最大の課題だろう。


 人間は合理的である・・・これに近づいているそうです。

<われわれは合理的か>

 「需給曲線」で示される、市場について考えて見ましょう。無数の参加者がおり、価格がすぐに変動する・・・・このような状態に近い例としては「農(海)産物市場」「株式市場」などがあげられます。

 では、私たち消費者は、農産物について、完全な情報を持ち、合理的に購入しているでしょうか?お店で売られているトマトやみかんの、産地は?生産者は?農薬量は?化学肥料の種類は?味は・・・・まったくわかりません。

 本来であれば、生産者(供給者)も、消費者(需要者)も、その財について、お互いに完全に情報を共有していることが「市場モデル」の前提です。ですが、私たち消費者は、それを知るすべがありません。半ば「大丈夫だろう」という暗黙の了解の下に購入しています。「いつも購入しているスーパーだから信頼する」とか、「所詮トマトだから、まあ、どこで買っても同じようなものだろう」とか、その程度の情報で、「合理的に?」購入しています。

 肉や野菜についての「産地偽装」が、大手スーパーや、大手卸業者経由で、平然と行われることがあります。「消費者は分からないし、付いているシールに半ば盲目だから」です。
 これを 「情報の非対称性」と言います。生産者は100%情報を握り、消費者は「完全には」分からないというものです。

 逆の場合もあります。車の損害保険や、生命保険、医療保険です。私たちは、自分の運転の仕方を十分に知っています。自分の生活状態・健康状態についても知っています。でも保険会社は、その状態を完璧に把握することはできません。結果、本来加入して欲しい「優良ドライバー」は自分が安全運転なので、高額保障の保険に加入する率は低く、危険な運転のドライバー(事故遭遇率は高い)だけが保険に加入する割合が高くなることが考えられます。「悪貨が良貨を駆逐する」のです。

 というか、実はわれわれ自身、自分の健康状態を100%知っているわけではありません。あなたが今、子宮頸がん、乳がん、大腸がんを持っているかどうか、わかりますか?あるいは「ピロリ菌」を持っているかどうか?
ことほど左様に、われわれは、「完全な情報を持っている」とは言えないのです。

 次に、株式市場です。企業は四半期ごとに決算を報告しますので、私たち投資家は、その報告書を、見ることは可能です。では実際に見ていますか?東証一部市場に上場している企業数は、1689社(11年3月現在)です。その1689社の財務諸表に目を通して、株を購入していますか?東証第二部やマザーズを加えると、2297社に上ります。それらの全ての企業情報に精通して、合理的に株式を購入していますか?おそらく、そんなことはないでしょう。

 日経H23.3.26 『震災前株価、285社が回復』
株価

 今回の大震災を受けて、株価が文字通り乱高下しました。この表を見ると、株価上昇率が37.7%も上昇したところがある一方、東京電力のように60.7%も下落した企業があることが分かります。
 太平洋セメントや、鹿島建設、コマツが高騰したのはおそらく 「復興に伴う工事が増えると投資家はみている(同)」からでしょう。

 一方、東京電力が下落したのは理解できます。では三越伊勢丹や、高島屋が下落したのはどうしてでしょう?その理由は「個人消費が冷え込みかねないとの見方(同)」です。本当にそうなるのでしょうか?(日経H23.3.31によると、実際に売上激減だそうです。)では、NECやパイオニアの下落理由は?
 
 株の売り買い理由など、こんなものです。もちろん、専門の投資家は、金融工学などを駆使して、できるだけ合理的に株の売買をしていることでしょう。でも、個人投資家は、そこまで情報を持っているわけではありません。「・・・だろう」とか、「・・・かもしれない」、そんな程度です。もちろん、2297社の情報を完璧に理解しているわけではありません。そんな東証一部市場の売買代金は、1日で1兆8667億82百万円(3月24日木曜日)に上ります。個人投資家の占める割合は、2割~3割に上ります。皆さん「完全情報を持ち、合理的に売買している」のでしょうか?

 そんなことは全然ありません。それはバブルに示されています。日本だって、アメリカだって、「合理的な動き」とは程遠い売買で、大もうけし、そして大暴落し、日本中を、いや世界中を混乱に巻き込みました。

真壁昭夫『行動経済学入門』ダイヤモンド社2010 p20
株価 バブル.jpg

 本来、株価は、例えばGDPなどのファンダメンタル(基礎情報:失業率やインフレなど)に基づいて動くはずです。ですが、この両国のバブルとその崩壊の動きは、人間が「完全情報を持ち、合理的に売買している」とは言えないことを示します。「馬鹿な動き」としか言いようがありません。GDPが2倍にも3倍にも上昇することはありえないからです。
 人間は合理的でも何でもありません。

<実社会の経済学>

参考文献:真壁昭夫『行動経済学入門』ダイヤモンド社2010 

 私たちは、「感情」で動くことが往々にしてあります。「人間は、理屈に合わないことを数多く行ってしまう存在p10」です。われわれの日常生活を考えてもそうですね。ある商品を買ったものの後悔するとか(安物買いの銭失い)、まったく使わないで埃をかぶっているとか、必要も無いのに買いだめしてしまうとか。
 あるいは、儲けなんか度外視に、「義理人情」で、助けあうとか。「付き合いの関係で、断ることができずに行動する」とか。この様な例は無数にあります。

 経済学は、このような、実際の生活感覚に近い理論を導き出そうと、新しい領域に踏み込んでいます。心理学を取り入れた、「行動経済学」とか、「行動ファイナンス」理論です。

 P27
行動経済学 伝統経済学

 イメージとしては、下記の図のようになります。

経済学史2

 この理論は、金融市場に起こる価格変動(震災後の急激な円高、その後の円安)や、相場の先行きなど、短期的な経済の行方を理解するために、有効とされています。

 「人間は、全ての事柄を捉えることは出来ない、ゆえに合理的には行動できない=限定合理性」を提唱したのは、H.A.サイモン(1978年ノーベル経済学賞受賞者)です。
 1979年に、カーネマンとトベルスキーによって、「不確実な状況下で、どのように意思決定を行うか」について、論文が発表されています。行動経済学の萌芽です。

 特に、「危機」に陥った時に、政府が発するメッセージが、いかに人々の行動に影響を与えるかなど、政策効果を分析しようとする場合に、有効な手段とされています。リーマンショック後に、アメリカのオバマ大統領が発した政策、「グリーン・ニューディール」とか、「5年で輸出倍増」など、各経済主体の心理を改善させることができたことが報告されています。
 FRB議長バーナンキの、数多くのメッセージも、同様です。明確に目標を示し、そして「量的緩和」などの手段を用いることを、国民に分かるように説明しています。

 Business Cycle(ビジネスサイクル)を日本語では景気と言います。日本では、景「気」と、心理にたとえています。 

 一方、伝統的経済学もリーマンショックやバブルのような現象を分析することは出来ませんが、基準とか、長期的トレンドを計る上では、大変重要です。「因果関係」「相関関係」を「基本的」に説明できるのは、伝統的経済学の分野なのです。

 前回のブログで、経済の勘所として、常に(最低)2つの視点が必要ということを述べました。
 日常と、非常時(ハレとケ)は論理が違います。経済学における長期と短期では、現れる事象が違います(価格変化or数量変化)。どれも、現実に起きていることです。

 現実を否定し、理論だけに走ると、「盲目」になります。昔のマルクス経済学者のように「現実が間違っている(理論どおりではない)」と言うのは、「べき論・価値論」の世界ではOKですが、経済学ではBADです。

論語  思いて学ばざれば則(すなわ)ち罔(あや)うし学びて思わざれば則ち殆(くら)し 
カント 内容なき思惟は空虚であり、概念なき直観は盲目である 


 一つの理論だけで、全てを解説できるというのは、詭弁なのです。
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