福田和也『世間の値打ち』週刊新潮 2010.9.23
(1)福田和也『世間の値打ち』週刊新潮 2010.9.23
…「じゃあ、いいのは中国とか、インドだけですか」
「でも中国は…内需主導に転換すべきなんだけど、それにはかなりの手間と時間が必要じゃないかな」
…「どうすれば、いいんですか」
「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。いよいよ国内需要を喚起するために動かないといけなくなる」
(2)童『大機小機:人民元と中国の経済構造調整』日経H22.7.13
半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。その過程で、生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着した。…人民元上昇が限定的であれば、外需依存体質からの脱却は難しい。米中間の貿易不均衡は期待ほどには縮小せず、結果を求める米国は人民元の切り上げ圧力を緩めないだろう。
間違い部分は、赤で示しました。「輸出立国」は神話です。
<中国は内需拡大で成長した>
①半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長…。…生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着…。

一目瞭然です。青い色のGDPから、(輸出-輸入=外需)を引いたものが、中国の「内需」です。内需が爆発的に増加していることが分かります。中国の経済成長とは、内需拡大(国内の経済規模が大きくなる)のことなのです。

GDPに占める、内需の割合は、2005年95.44%、2006年93.35%、2007年92.3% 2008年93.2%です。

2007年⇒2008年は、内需の割合が拡大しています。「投資・輸出依存型から、消費・内需主導型に変える」という日経記者の主張は、内需の割合を何%にすることを指しているのでしょうか?
2009年は、さらに「黒字が縮小」しました。2009年のGDPは増えていますので、内需割合はさらに高くなっているはずです。(2009年、中国GDPのドルデータがないため、下記の記事を参照)
チャイナ・プレス http://www.chinapress.jp/finance/19847/
2010年1月21日、中国国家統計局は2009年経済データを発表した。データによると、2009年の国内総生産(GDP)は33兆5353億元(約449兆7022億円)に達し、前年比8.7%成長を遂げた。
日経H22.4.20『GDPに占める経常黒字の比率 中国2年連続低下』グラフも
中国…が発表した2009年の国際収支報告…。貿易黒字の大幅な減少が響き…前年を下回った。…モノの貿易の貿易黒字が31%減った…。

中国が成長したのは,やはり,内需の拡大によるものです。
貿易黒字が,なぜ生じるか,もう一度思い出してみましょう。
中国が貿易黒字を増大させているのは,GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が拡大したのに,国民がその所得を消費に回さず,貯蓄に回していることが原因です。所得が増えたので,貯蓄も増やしているのです。
『中国貯蓄率最高の28.8%』 日本経済新聞21.4.7
中国の家庭で,消費よりも貯蓄を優先する傾向が続いている。2008年の家計
貯蓄率は28.8%と過去最高を記録した。…貯蓄率は家計の収入から,税金などを差し引いた可処分所得のうち,モノやサービスの消費に使わず貯蓄に回した割合。…最大の理由は,医療や年金など社会保障制度の未整備にある。
黒田東彦 アジア開発銀行総裁『月曜:経済観測』日本経済新聞H21.9.7
…中国は消費を拡大する必要がある。…貯蓄が過剰で国内総生産(GDP)の10%
前後の大幅な経常黒字が出ている。…貯蓄率の上昇は中長期に続く。
GDPの三面等価を見てみましょう。

①貸した(総額)=借りた(総額)②生産の残り相当分=消費した人(主体)から,言えること,貿易黒字についてです。
(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字含む)ですが,同時に日本の,海外への資金の貸し出し(外国の日本に対する借金)になるのです。
貿易黒字額=外国への資金の貸出額
「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字・海外への資金流出に等しくなるのです。
「総生産額-総消費」=「国全体の貯蓄超過」=「貿易黒字」
日本全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。日本が「貿易黒字」を生み出すのは,日本人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。
これが,貿易黒字の正体です。ですから,日本という部分を,中国に置き換えると,
(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字)ですが,同時に中国の,海外への資金の貸し出し(外国の中国に対する借金)になるのです。
中国全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。中国が「貿易黒字」を生み出すのは,中国人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。
と,なります。「貿易黒(赤)字と,経済成長は無関係」なのです。
<日本は内需拡大で成長した>
半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。
「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。」
日本は、「外需で経済成長」したのではありません。大阪万博(1970)以後の、バブル経済直前までの、日本の内需と外需です。

「内需=GDP-貿易収支(外需)」です。これのどこが、「内需拡大が進まず」なのでしょうか?

このグラフの赤い部分が「外需」です。内需は安定しています。日本のGNP(当時の統計)にとって、外需の割合は、「きわめて低い」のです。
日本の高度成長も、同じです。「内需拡大」で達成したのです。貿易赤字の年でも「内需は拡大」しているのです。

日本は,高度成長期,GNPが,平均して年率10%成長する経済成長を達成しました。国際的にも極めて高い経済成長率です。
しかし,「貿易黒字」は,GNPに対して,ごくわずかの額にとどまっています。なおかつ,1960年と,1963年は,「貿易赤字」です。簡単に言うと,われわれの給与総額(GNP・GNI)は「貿易赤字」の年も拡大しています。高度成長は「輸出拡大による貿易黒字増大」によって,達成したのではないのです。
日本は,内需の拡大で経済成長しました。日本が経済成長を達成したのは,国内市場の拡大によるものです。
貿易額だけに目をやると、その額が巨大なので、誤解します=貿易摩擦。「木を見て森を見ず」の経済理解による新聞記事の一例です。
…「じゃあ、いいのは中国とか、インドだけですか」
「でも中国は…内需主導に転換すべきなんだけど、それにはかなりの手間と時間が必要じゃないかな」
…「どうすれば、いいんですか」
「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。いよいよ国内需要を喚起するために動かないといけなくなる」
(2)童『大機小機:人民元と中国の経済構造調整』日経H22.7.13
半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。その過程で、生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着した。…人民元上昇が限定的であれば、外需依存体質からの脱却は難しい。米中間の貿易不均衡は期待ほどには縮小せず、結果を求める米国は人民元の切り上げ圧力を緩めないだろう。
間違い部分は、赤で示しました。「輸出立国」は神話です。
<中国は内需拡大で成長した>
①半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長…。…生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着…。

一目瞭然です。青い色のGDPから、(輸出-輸入=外需)を引いたものが、中国の「内需」です。内需が爆発的に増加していることが分かります。中国の経済成長とは、内需拡大(国内の経済規模が大きくなる)のことなのです。

GDPに占める、内需の割合は、2005年95.44%、2006年93.35%、2007年92.3% 2008年93.2%です。

2007年⇒2008年は、内需の割合が拡大しています。「投資・輸出依存型から、消費・内需主導型に変える」という日経記者の主張は、内需の割合を何%にすることを指しているのでしょうか?
2009年は、さらに「黒字が縮小」しました。2009年のGDPは増えていますので、内需割合はさらに高くなっているはずです。(2009年、中国GDPのドルデータがないため、下記の記事を参照)
チャイナ・プレス http://www.chinapress.jp/finance/19847/
2010年1月21日、中国国家統計局は2009年経済データを発表した。データによると、2009年の国内総生産(GDP)は33兆5353億元(約449兆7022億円)に達し、前年比8.7%成長を遂げた。
日経H22.4.20『GDPに占める経常黒字の比率 中国2年連続低下』グラフも
中国…が発表した2009年の国際収支報告…。貿易黒字の大幅な減少が響き…前年を下回った。…モノの貿易の貿易黒字が31%減った…。

中国が成長したのは,やはり,内需の拡大によるものです。
貿易黒字が,なぜ生じるか,もう一度思い出してみましょう。
中国が貿易黒字を増大させているのは,GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が拡大したのに,国民がその所得を消費に回さず,貯蓄に回していることが原因です。所得が増えたので,貯蓄も増やしているのです。
『中国貯蓄率最高の28.8%』 日本経済新聞21.4.7
中国の家庭で,消費よりも貯蓄を優先する傾向が続いている。2008年の家計
貯蓄率は28.8%と過去最高を記録した。…貯蓄率は家計の収入から,税金などを差し引いた可処分所得のうち,モノやサービスの消費に使わず貯蓄に回した割合。…最大の理由は,医療や年金など社会保障制度の未整備にある。
黒田東彦 アジア開発銀行総裁『月曜:経済観測』日本経済新聞H21.9.7
…中国は消費を拡大する必要がある。…貯蓄が過剰で国内総生産(GDP)の10%
前後の大幅な経常黒字が出ている。…貯蓄率の上昇は中長期に続く。
GDPの三面等価を見てみましょう。

①貸した(総額)=借りた(総額)②生産の残り相当分=消費した人(主体)から,言えること,貿易黒字についてです。
(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字含む)ですが,同時に日本の,海外への資金の貸し出し(外国の日本に対する借金)になるのです。
貿易黒字額=外国への資金の貸出額
「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字・海外への資金流出に等しくなるのです。
「総生産額-総消費」=「国全体の貯蓄超過」=「貿易黒字」
日本全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。日本が「貿易黒字」を生み出すのは,日本人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。
これが,貿易黒字の正体です。ですから,日本という部分を,中国に置き換えると,
(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字)ですが,同時に中国の,海外への資金の貸し出し(外国の中国に対する借金)になるのです。
中国全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。中国が「貿易黒字」を生み出すのは,中国人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。
と,なります。「貿易黒(赤)字と,経済成長は無関係」なのです。
<日本は内需拡大で成長した>
半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。
「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。」
日本は、「外需で経済成長」したのではありません。大阪万博(1970)以後の、バブル経済直前までの、日本の内需と外需です。

「内需=GDP-貿易収支(外需)」です。これのどこが、「内需拡大が進まず」なのでしょうか?

このグラフの赤い部分が「外需」です。内需は安定しています。日本のGNP(当時の統計)にとって、外需の割合は、「きわめて低い」のです。
日本の高度成長も、同じです。「内需拡大」で達成したのです。貿易赤字の年でも「内需は拡大」しているのです。

日本は,高度成長期,GNPが,平均して年率10%成長する経済成長を達成しました。国際的にも極めて高い経済成長率です。
しかし,「貿易黒字」は,GNPに対して,ごくわずかの額にとどまっています。なおかつ,1960年と,1963年は,「貿易赤字」です。簡単に言うと,われわれの給与総額(GNP・GNI)は「貿易赤字」の年も拡大しています。高度成長は「輸出拡大による貿易黒字増大」によって,達成したのではないのです。
日本は,内需の拡大で経済成長しました。日本が経済成長を達成したのは,国内市場の拡大によるものです。
貿易額だけに目をやると、その額が巨大なので、誤解します=貿易摩擦。「木を見て森を見ず」の経済理解による新聞記事の一例です。
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