週刊エコノミスト6/29日号 その3 『国債暴落のウソ これだけあるギリシャとの違い』

<国債暴落のウソ>
2010.6.29号
P28
国債選好は…金融不安や信用不安の中で、流動性の優れた安全資産に資金が流れやすい傾向になっていること。
…金利上昇(国債価格下落)…については…マイルドなペースでの金利上昇であれば、…投資サイドからすると、歓迎とでもいうべき事象となる。…問題は…一瞬にして大幅な金利上昇(国債暴落)が起きる…。しかしながら、現状ではリアリティーのある議論とは言えない。
…対外純資産が266兆円とダントツの世界1位で徴税基盤も盤石な日本財政…グローバルに議論されているソブリン問題とは本質的に違う。
『設備投資 空前の低水準』日経H22.6.29 グラフも

企業の設備投資が低空飛行を続けている。…2010年1~3月期の設備投資は1988年1~3月期並みの低水準…。
…「デフレ脱却が重要だ」と語るのはドイツ証券の安達誠司氏。物価が継続的に下落し、国内市場の縮小が続くようでは、企業も設備投資に踏み切れない。
設備投資=I Investigation が伸びません。
GDPの三面等価を見てみましょう。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)
です。貯蓄SをI投資で使い切らないと、(G-T)財政赤字+(EX-IM)貿易黒字がのびることになります。
上記グラフで減価償却額>設備投資額となっています。減価償却とは、「工場や機械を使い続けると、資産価値が低下する。その分を費用として処理するのが減価償却で、現在の設備を維持するのに必要なコスト」ですから、もっとも単純化していえば、「現金の積立」です。
現金積立>設備投資額です。企業はなぜこのような行動をとるのでしょう。
<デフレ下の企業行動>
日本はデフレです。前回(22年7月7日のブログ記事)で、デフレのもとでの企業・個人の合理的行動について説明しました。
出典:世界経済ネタ帳
このようなデフレ下、個人も機関投資家も、デフレに強い資産「現金・預貯金・国債(社債)」などの安全資産を購入します。これが最も合理的な行動になります。
デフレ下の合理的行動
株や土地への投資を控え、現金・預金・国債(社債)をため込む
企業の場合は、
設備や技術への投資を抑え、現金をためる(あるいは資金を返済に回す)
です。
日本は、史上最低の短期金利(長期金利)を採用していますが、実は、高金利なのです。
日経22年6月26日記事

<名目金利と、実質金利>
実質金利=名目金利-インフレ(デフレ)率
名目金利は、消費者にとっては、銀行預金金利と考えて良いでしょう。
たとえば、金利10%だとします。100万円預ければ、1年後に110万円になります。
一方、1年間に、モノの値段が10%上がれば(インフレ率10%)、110万円で買えるものは、1年前の100万円のモノです。名目で10万円(10%)増えても、実質的には0%の利率になります。
実質金利=名目金利-インフレ率
0% = 10% - 10%
お金が増えても、何のありがたみもありません。
逆に、モノの値段が下がる(デフレ)状態だとします。モノの値段が10%下がる(100万円→90万円)と、110万円で買えるのは、1.22個分です。1年前には100万円のモノを1個買えたのですが、名目金利が10%つき、デフレで10%モノの値段が下がると、1.22個買えるのです。モノの価値<カネの価値です
実質金利=名目金利-インフレ率
20% = 10% -(-10)%
デフレの時は、名目金利がたとえ0%でも、モノの下落率分、金利がつくのと同じことなのです。
参考・引用文献 角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009
では、日本の政策金利(長期金利)はどのようになっているでしょうか。
p166www.kanetsu.co.jp/forex/interest_rate/BOJ.html

members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/HOMEPAGE1.ppt

政策金利=0.1%と、「ゼロ金利」政策が続いています。ですが、金利をゼロにしても、モノの値段が1.2%下がれば、金利は1.3%%ついていることになるのです。日本のデフレ率が1.2%ということは、金利が1.3%ということです。(5月の消費者物価を利用した、単純計算です)
長期金利でも同じです。6月30日現在、長期金利は1.095%、史上最低です。ですが、デフレが1.2%なので、単純計算ですが、長期金利が2.295%になっているのです。
日経 6月29日

デフレ下の合理的行動
株や土地への投資を控え、現金・預金・国債(社債)をため込む
企業の場合
設備や技術への投資を抑え、現金をためる(あるいは資金を返済に回す)です。
企業が上記の行動をとるのは当たり前です。
カネを借りる金利<もうけなら、企業は投資します。商品価格が低下(デフレ)すると、「もうけ」が少なくなります。投資に慎重になります。
一方、カネの価値は上がります。現金をためる(あるいは資金を返済に回す)のは合理的行動です。
デフレだと、実質金利が高くなり、企業の投資が抑えられます。借金の額は目減りしません(名目)。
さらに、バランスシート上、デフレになると、困ってしまいます。
上場企業の資産と,負債を示した,貸借対照表(バランス・シート)です。
出典『日本経済新聞』H21.4.14 2008年9月末現在。金融機関を除く,1690社が対象。

①が、社債や、銀行からの借り入れです。②が、資本金です。そのように調達したお金を,土地・工場・機械・店舗・車・広告などに投資し,財やサービスを産み出します。左側の資産です。
ここで、デフレで土地や建物の額が下がるとします。単純に、土地建物代が358兆円として、10%デフレで値下がりすると、バランス・シートは次のようになります。

一方、 ①借金の額は全く変化しません。資産における自己資本(②純資産)比率が悪化します。デフレは、企業のバランス・シートを悪化させるのです。
ですからデフレ下では、資産として、「現金・預金・国債・社債」などを購入するのです。左の資産部分が「目減り」しないからです。
企業が、 「現金積立>設備投資額」にしているのは、このような理由からです。
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