新聞の間違い 『大機小機 違和感あるアジア内需論』日経H22.4.9
『大機小機 違和感あるアジア内需論』日経H22.4.9 数字は筆者
…「アジアの内需を日本の内需と位置づけるべきだ」という議論が流布しつつある。こうした議論を「アジア内需論」と呼ぶことにする。
…アジアの内需はアジアの人々を豊かにするのであり、その一部を日本からの輸出で賄った場合、それが日本の外需となる。①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
…アジア内需論は次のような点で違和感がある。第1に…アジア諸国がどんどん日本への輸出を増やしてもかまわないと言うだけの度量があるのだろうか。第2に…アジアの人々が…生活を豊かにすることは、日本人の生活が豊かになるのと同じように喜ばしい…そう言い切るだけの度胸があるのだろうか。第3に、要するにアジア内需論は,輸出主導型の成長戦略である。その一方で「輸出主導から内需主導へ」とスローガン…矛盾しないよう…言い換えただけではないのか。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
<混乱しています>
…「アジアの内需を、日本の内需と位置づけるべきだ」…アジアの内需はアジアの人々を豊かにするのであり、その一部を日本からの輸出で賄った場合、それが日本の外需となる。
これはその通りです。が、
①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
というのが、成り立ちません。外需は,日本に環流しないカネなのです。
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
<内需/外需とは>

では,総供給=総需要を示した上図をもとに, 支出(購入)面を見てゆきましょう。
まず,総供給(売り手)ですが,2つしかありません。それは,「日本で生産されたモノ・サービス」と,「外国で生産されたモノ・サービス」です。
私が今,この原稿を書いている時に使用しているのは,パソコンです。NEC製ですので,日本で生産されたモノです。一方,ワープロソフトは,「Windows・Word」を使用しています。これは,「外国で生産されたソフト(モノ・サービス)」です。飲んでいるお茶は日本産ですが,コーヒーは外国産です。このように,総供給(売り手)は「日本産」か,「外国産」かの,どちらかになります。このうち,「日本で生産されたモノ・サービス」はGDP=Yです。また,「外国で生産されたモノ・サービス」は「輸入」です。英語では,Importなので,IMで示します。
総供給=国内総生産+輸入=Y+IM…式a
次に総需要(買い手)です。日本国内の買い手は,家計・企業・政府の三者でした。この三者が,「消費」・「投資」をします。
家計は,個人,消費者のことです。つまり,我々一人一人のことですが,主に「消費」の主役です(住宅を購入する,住宅投資を行うこともあります)。
企業は消費もしますが,主に「投資」の主体です。工場・機械・店舗・車などの「設備投資」,品切れを防ぐための「在庫投資」などがあります。
政府は,橋や道路や,港湾を建設する「投資」を行うほか,モノ・サービスを購入する「消費」も行います。
三者の行動は,「消費(家計が主)」・「投資(企業が主)」・「政府(による投資と消費)」とまとめられます。「消費を英語のConsumptionの頭文字C,投資をInvestmentのI,政府をGovernmentのG」であらわします。すると,総需要(買い手)は「C+I+G」という式になります。
以上に加えて,海外の人々がいます。「日本で生産されたモノ・サービス」を外国の人も購入します。車や,家庭電化製品は,海外のお客さんも購入しますね。これは「輸出」にあたります。英語では,Exportなので,EXで示します。総需要(買い手)は「C+I+G」と「EX」がそのすべてです。
総需要=消費+投資+政府 +輸出=C+I+G+EX…式b
以上で,総供給=総需要の中味が分かりました。式a=式bになります。そうすると,総供給=総需要です。
Y+IM=C+I+G+EX
ここで,IMを右辺に移項すると,
Y = C + I + G +(EX-IM)
総生産 = 消費+ 投資+政府 + 輸出-輸入
となります。日本の国内総生産への支出は,外国からの輸入を差し引いた分になります。これが国内総支出です。
「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字になるのです。

日本の経済規模に占める,貿易額は,どの程度になるのでしょうか。

これを,グラフにします。

<輸出だけを伸ばすことは出来ない>
リカード比較生産費説で示したとおりです。(このブログ カテゴリー リカード-14 輸出増=輸入増 参照)
輸出拡大には,生産量拡大が必要です。生産量拡大には,労働力が必要です。労働力はどこから持ってきますか?それは,比較劣位産業からしか持ってこられません。「比較優位な産業に特化しなければ,輸出は成り立たない」=「輸入をしなければならない」ということなのです。

輸出と,輸入がセットということは,輸出拡大と,輸入拡大もセットということです。
図50 浜島書店 資料集『最新図説 政経』2006 p309

棒グラフの左側は輸出,右側は輸入
日本の貿易額は,年を追って拡大してきました。その際,「輸出の拡大と輸入の拡大」はセットになっていることがわかりますか?「輸出を拡大する=特化する」ということは,「比較劣位産業を縮小しなければばらない=輸入を拡大する」ことなのです。日本は,繊維製品(当初),鉄鋼,造船,家庭電化製品,自動車に特化する一方,繊維製品・石油・鉄鉱石・石炭・農業産品など,劣位産業を縮小し,輸入を拡大してきたのです。
日経H22.2.25

輸出額が増えると、必ず輸入額も増えるのです。だから、日本の「輸出額-輸入額=貿易黒字=外需」も、極小なのです。
実教出版 資料集『新政治・経済資料』p2008 p259

世界の中で比較しても同様です。「一人あたり輸出額の大きい国は,輸入額も大きい,輸出額が小さければ,輸入額も小さい」という相関関係がみてとれると思います。
<貿易黒字は海外資産になる>
「貿易収支や、所得収支の黒字」は、必ず、「同額で海外資産の増加」を意味します。海外資産がいくら増えても、我々日本人の生活が「直ちに豊かになる」ことを意味するものではないのです。
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
経常収支黒字(貿易黒字)=資本収支赤字


経常黒字は、「国内に還流しないカネ=対外債権」なのです。ですから、経常黒字は「良いこと・悪いこと、損だ・得だ」という対象ではありません。
まず,経常黒字は日本国内で消費されなかった生産財・サービスを外国が消費(購入)すること、あるいは無償で提供すること(経常移転収支)です。と同時に,外国が,日本に外国債や株式・社債を購入してもらったり,直接投資(海外に工場を建てるなど)でも株式を購入してもらったりしています。日本からみると海外に貸していることです。
ということは,日本が「経常黒字」を出せば出すほど,日本の海外での「財産」が増えることになります。そして,実際にその通りになっています。
以上のような投資(海外へのお金の貸し出し)が,日本の対外資産です。その残高は約610兆4920億円(07年末)で,世界一となっています。そのうち,直接投資(海外の工場建設など)は,約55兆円です。また,外貨準備1兆39億ドルのうち,証券(外国国債含む)は8588億ドル,約86%を占めています。

日経H22.5.26
日本の対外純資産残高が2009年末時点で266兆2230億円となり、前年末比18.1%増えた。…過去最高を更新した。…日本は19年連続で世界最大の債権国となった。
①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
というのが、成り立ちません。外需は,日本に環流しないカネなのです。
…「アジアの内需を日本の内需と位置づけるべきだ」という議論が流布しつつある。こうした議論を「アジア内需論」と呼ぶことにする。
…アジアの内需はアジアの人々を豊かにするのであり、その一部を日本からの輸出で賄った場合、それが日本の外需となる。①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
…アジア内需論は次のような点で違和感がある。第1に…アジア諸国がどんどん日本への輸出を増やしてもかまわないと言うだけの度量があるのだろうか。第2に…アジアの人々が…生活を豊かにすることは、日本人の生活が豊かになるのと同じように喜ばしい…そう言い切るだけの度胸があるのだろうか。第3に、要するにアジア内需論は,輸出主導型の成長戦略である。その一方で「輸出主導から内需主導へ」とスローガン…矛盾しないよう…言い換えただけではないのか。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
<混乱しています>
…「アジアの内需を、日本の内需と位置づけるべきだ」…アジアの内需はアジアの人々を豊かにするのであり、その一部を日本からの輸出で賄った場合、それが日本の外需となる。
これはその通りです。が、
①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
というのが、成り立ちません。外需は,日本に環流しないカネなのです。
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
<内需/外需とは>

では,総供給=総需要を示した上図をもとに, 支出(購入)面を見てゆきましょう。
まず,総供給(売り手)ですが,2つしかありません。それは,「日本で生産されたモノ・サービス」と,「外国で生産されたモノ・サービス」です。
私が今,この原稿を書いている時に使用しているのは,パソコンです。NEC製ですので,日本で生産されたモノです。一方,ワープロソフトは,「Windows・Word」を使用しています。これは,「外国で生産されたソフト(モノ・サービス)」です。飲んでいるお茶は日本産ですが,コーヒーは外国産です。このように,総供給(売り手)は「日本産」か,「外国産」かの,どちらかになります。このうち,「日本で生産されたモノ・サービス」はGDP=Yです。また,「外国で生産されたモノ・サービス」は「輸入」です。英語では,Importなので,IMで示します。
総供給=国内総生産+輸入=Y+IM…式a
次に総需要(買い手)です。日本国内の買い手は,家計・企業・政府の三者でした。この三者が,「消費」・「投資」をします。
家計は,個人,消費者のことです。つまり,我々一人一人のことですが,主に「消費」の主役です(住宅を購入する,住宅投資を行うこともあります)。
企業は消費もしますが,主に「投資」の主体です。工場・機械・店舗・車などの「設備投資」,品切れを防ぐための「在庫投資」などがあります。
政府は,橋や道路や,港湾を建設する「投資」を行うほか,モノ・サービスを購入する「消費」も行います。
三者の行動は,「消費(家計が主)」・「投資(企業が主)」・「政府(による投資と消費)」とまとめられます。「消費を英語のConsumptionの頭文字C,投資をInvestmentのI,政府をGovernmentのG」であらわします。すると,総需要(買い手)は「C+I+G」という式になります。
以上に加えて,海外の人々がいます。「日本で生産されたモノ・サービス」を外国の人も購入します。車や,家庭電化製品は,海外のお客さんも購入しますね。これは「輸出」にあたります。英語では,Exportなので,EXで示します。総需要(買い手)は「C+I+G」と「EX」がそのすべてです。
総需要=消費+投資+政府 +輸出=C+I+G+EX…式b
以上で,総供給=総需要の中味が分かりました。式a=式bになります。そうすると,総供給=総需要です。
Y+IM=C+I+G+EX
ここで,IMを右辺に移項すると,
Y = C + I + G +(EX-IM)
総生産 = 消費+ 投資+政府 + 輸出-輸入
となります。日本の国内総生産への支出は,外国からの輸入を差し引いた分になります。これが国内総支出です。
「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字になるのです。

日本の経済規模に占める,貿易額は,どの程度になるのでしょうか。

これを,グラフにします。

<輸出だけを伸ばすことは出来ない>
リカード比較生産費説で示したとおりです。(このブログ カテゴリー リカード-14 輸出増=輸入増 参照)
輸出拡大には,生産量拡大が必要です。生産量拡大には,労働力が必要です。労働力はどこから持ってきますか?それは,比較劣位産業からしか持ってこられません。「比較優位な産業に特化しなければ,輸出は成り立たない」=「輸入をしなければならない」ということなのです。

輸出と,輸入がセットということは,輸出拡大と,輸入拡大もセットということです。
図50 浜島書店 資料集『最新図説 政経』2006 p309

棒グラフの左側は輸出,右側は輸入
日本の貿易額は,年を追って拡大してきました。その際,「輸出の拡大と輸入の拡大」はセットになっていることがわかりますか?「輸出を拡大する=特化する」ということは,「比較劣位産業を縮小しなければばらない=輸入を拡大する」ことなのです。日本は,繊維製品(当初),鉄鋼,造船,家庭電化製品,自動車に特化する一方,繊維製品・石油・鉄鉱石・石炭・農業産品など,劣位産業を縮小し,輸入を拡大してきたのです。
日経H22.2.25

輸出額が増えると、必ず輸入額も増えるのです。だから、日本の「輸出額-輸入額=貿易黒字=外需」も、極小なのです。
実教出版 資料集『新政治・経済資料』p2008 p259

世界の中で比較しても同様です。「一人あたり輸出額の大きい国は,輸入額も大きい,輸出額が小さければ,輸入額も小さい」という相関関係がみてとれると思います。
<貿易黒字は海外資産になる>
「貿易収支や、所得収支の黒字」は、必ず、「同額で海外資産の増加」を意味します。海外資産がいくら増えても、我々日本人の生活が「直ちに豊かになる」ことを意味するものではないのです。
『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』伊藤元重編著 東洋経済新報社1994 p27
黒字はどこにいったのかといえば、「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
同p89
「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから、日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。
経常収支黒字(貿易黒字)=資本収支赤字


経常黒字は、「国内に還流しないカネ=対外債権」なのです。ですから、経常黒字は「良いこと・悪いこと、損だ・得だ」という対象ではありません。
まず,経常黒字は日本国内で消費されなかった生産財・サービスを外国が消費(購入)すること、あるいは無償で提供すること(経常移転収支)です。と同時に,外国が,日本に外国債や株式・社債を購入してもらったり,直接投資(海外に工場を建てるなど)でも株式を購入してもらったりしています。日本からみると海外に貸していることです。
ということは,日本が「経常黒字」を出せば出すほど,日本の海外での「財産」が増えることになります。そして,実際にその通りになっています。
以上のような投資(海外へのお金の貸し出し)が,日本の対外資産です。その残高は約610兆4920億円(07年末)で,世界一となっています。そのうち,直接投資(海外の工場建設など)は,約55兆円です。また,外貨準備1兆39億ドルのうち,証券(外国国債含む)は8588億ドル,約86%を占めています。

日経H22.5.26
日本の対外純資産残高が2009年末時点で266兆2230億円となり、前年末比18.1%増えた。…過去最高を更新した。…日本は19年連続で世界最大の債権国となった。
①アジアへの輸出によって得た所得を元に日本の内需が増えて初めて我々の生活は豊かになる。
②アジアへの輸出を増やすことによって日本の内需を拡大し、アジアからの輸入もまた増やす。
というのが、成り立ちません。外需は,日本に環流しないカネなのです。
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