新聞を解説(58) 藤井彰夫 『不均衡是正永遠の課題?』21.11.1
新聞を解説 藤井彰夫 『不均衡是正永遠の課題?』21.11.1
<不均衡とは、お金の貸し借り>
「ドルは我々の問題である。しかし問題は欧州にある」…1971年のこと…米貿易収支の赤字が増え、ドル切り下げ圧力が強まっていたが、コナリー(財務)長官は米国の責任を認めようとしなかった。
…米国が不均衡問題を持ち出す場合は、決まって相手国に内需刺激策を求めると同時に,相手国通貨の対ドル相場切り上げのカードをちらつかせる。
…77年…日独に米国と並ぶ世界経済のけん引役を引き受けるよう…(サミット)などで内需拡大を求めた。
…ドル高是正と内需拡大をセットにした…プラザ合意(85年)。
…90年代前半…日本に再三、財政出動による内需拡大を要請…。
…9月…20カ国・地域(G20)首脳会議…主要な相手国とにらんだのは中国…。…内需主導の成長を求め…人民元切り下げの圧力も…。
…ドイツは…プラザ合意後…日本とともに内需拡大…政策協調を求められた。…圧力に嫌気がさした西独は…協調から距離を置く…。…87年秋には、それが一因となって株価暴落(ブラックマンデ-)が起こった。
…G20…後、米国がどの程度、ドイツに圧力をかけるかだろう。
…世界経済の永遠のテーマのように見える「不均衡是正」。
「インバランス(不均衡)」問題は、資本取引・貿易取引の自由化を選択する限り、なくなりそうもありません。
チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
世界全体でみたら、貯蓄と投資は常に等しくならなければならない。なぜなら貯蓄は投資の財源として必要で、ある額の投資(設備投資、住宅投資、公共投資など)を行うには、同額の貯蓄が必要だからである。一方、(1)ある国において投資と貯蓄が常に一致する必要はない。貯蓄が投資を上回れば、余った貯蓄を海外に提供し、逆に投資が貯蓄を上回れば、貯蓄の不足分を海外から借り入れればよい。
(注)以下、貯蓄をSavingのS、投資をInvestmentのIで補足します。
経済学で「貯蓄」とは、「所得のうちで、財・サービスの購入に支出されなかったすべて」です。タンス預金でも、財布に入っていても、株や社債の購入にあてても、銀行預金しても、すべて「貯蓄」に含めます。
…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないため、ISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、(2)資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない。
上記(1)部分が、(2)①資本収支収支赤字=経常(貿易)黒字国、②資本収支黒字国=経常(貿易)赤字国になります。
①は日本、中国,ドイツなどの経常(貿易)黒字国、②はアメリカなどの経常(貿易)赤字国になります。そのインバランス(不均衡)是正しようというのが、下記記事になります。
…G20は世界経済の不均衡是正に向けた国際協調の検討…米国などの経常赤字国が消費を抑制し輸出を増やす一方、中国などの経常黒字国が内需を拡大し輸出依存を引き下げる。
…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識が米提案の背景…
…しかし、ガイトナー長官は24日、日米財務省会談後に「強いドルは米国にとって非常に重要だ」と強調した。財政資金の半分を中国や日本など海外マネーに依存する米国にとって資金流入の減少につながるドル安政策に動きにくい…不均衡是正の有効な策は見いだせないのが現状だ。
世界経済の不均衡 日経H21.9.26


(グラフも)
…国際収支上は、米国が巨額の経常赤字を抱える一方で、日本などが経常黒字を計上する格好となる。過剰消費を繰り返す米国に対して中国などで過剰貯蓄が続く構図は、世界経済の不均衡(グローバル・インバランス)と呼ばれている。
<お金の貸し借りが原因、貿易黒字(赤字)は結果>
竹森俊平 慶大経済学部教授 『世界的な需要大幅減の背後に奇妙なるグローバルインバランス』週間ダイヤモンド 2009.4.4
…世界的な問題には…米国を中心とした近年の国際貸借の増加、いわゆる「グローバルインバランス」問題がありました。
…「インバランス」というと、なにか悪いことのように感じられますが、海外から資本を借りている国もあれば、貸している国もあること自体は、国際資本取引の上ではおかしな話ではありません。
お金の貸し借りは、善いとか悪いとかの対象ではありません。お金の貸し借りは、財(モノ・サービス)の面から見れば、貿易赤(黒)字になるのです。
ただ、米国だけが、世界中の投資を,1人で引き受ける(裏には貿易赤字)と、アメリカ国内の住宅バブル崩壊で、世界中に金融危機が波及するという事態を、招いてしまいます。要は「行き過ぎ」はまずいということですね。
インバランスは「国際間のカネの貸し借り」が原因です。これが、貿易不均衡という結果を招きます。ですから、「貿易不均衡がまずいというのは、お金の貸し借りはまずいと言っているのとおなじこと (野口旭『グローバル経済を学ぶ』ちくま新書2007 p188)」になります。


経常(貿易)黒字は、貯蓄超過から生まれ、海外への貸し出し額と同意なのです。
…資本、おカネの流れは、財の流れという側面から見ることもできます。
そもそも米国に流れ込んだアジアの国々のおカネ(上図③)とは、本質的には過剰貯蓄、つまり消費(上図①)にも投資(上図②)にも使われないおカネです。過剰貯蓄の存在は、そのぶんだけ生産されたモノ(上図④)に対する需要が欠如している状態を意味します。
「経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額」と頭にいれておいてください。
はい、ここで、竹森先生の、重要な式が、提示されました。アメリカの場合は下記の式でA側から見た見方になります。一方、日本や中国、ドイツは、全く逆のBからの方向になります。
A→経常収支の赤字=海外からの純借入額≡国内投資の国内貯蓄超過額←B
…生産所得(上図④)のうち消費で使われないぶん(上図⑤)つまり貯蓄に見合った投資(上図②=政府の投資と企業の投資)があれば、生産所得と総支出は均衡することになります。
貯蓄額=投資額なら、経常黒字(海外への貸し出し)は生まれません。
…アジアの国々が国内投資を抑制し、国内貯蓄を余らせた状態(過剰貯蓄)…しかるにそのとき、米国はアジアの余剰貯蓄を借り入れる一方、自国の貯蓄は減らしてそのぶん消費を増やし、投資も旺盛に行っていた。その結果、世界経済の生産余剰を米国の投資と消費が埋め…要するに…表裏一体の現象なのです。
「貯蓄>投資」国≡「貯蓄<投資」国
ですから、貿易黒字はもうけではなく、海外への貸し付け額なのです。例えば、日本国内/中国国内・ドイツ国内には環流しないおカネなのです。
海外への貸し付け(投資)とは、外国の国債、社債、株、外国銀行への預金(外国銀行から見たら負債です)などです。
投資してもらっている国から見ます。
ある会社の株式が、外国人によって買われているということです。
ある会社の社債を、外国人が購入している状態です。
ある銀行の預金を、外国人がしていることです。
ある国の国債を、外国人が購入している状態です。
ある国の不動産の持ち主が、外国人の場合です。
株式の50%超を外国人が持っている、ヤマダ電機や、日産は、外国企業です。日本の国債の4%~7%ほどは、外国人が購入しています。北海道のニセコにある長期滞在型のホテルやコンドミニアムは、オーストラリア人が購入しています。
日本から見たら、「負債」になります。しかし、日本のGDI(国内総所得)は伸びます。企業も、銀行も、建設、不動産業もです。これらの企業にとって、買ってくれるのは、日本人であれ、外国人であれ、誰でもかまわないのです。
だから、「貿易黒(赤)字と、経済成長は無関係」なのです。
<不均衡とは、お金の貸し借り>
「ドルは我々の問題である。しかし問題は欧州にある」…1971年のこと…米貿易収支の赤字が増え、ドル切り下げ圧力が強まっていたが、コナリー(財務)長官は米国の責任を認めようとしなかった。
…米国が不均衡問題を持ち出す場合は、決まって相手国に内需刺激策を求めると同時に,相手国通貨の対ドル相場切り上げのカードをちらつかせる。
…77年…日独に米国と並ぶ世界経済のけん引役を引き受けるよう…(サミット)などで内需拡大を求めた。
…ドル高是正と内需拡大をセットにした…プラザ合意(85年)。
…90年代前半…日本に再三、財政出動による内需拡大を要請…。
…9月…20カ国・地域(G20)首脳会議…主要な相手国とにらんだのは中国…。…内需主導の成長を求め…人民元切り下げの圧力も…。
…ドイツは…プラザ合意後…日本とともに内需拡大…政策協調を求められた。…圧力に嫌気がさした西独は…協調から距離を置く…。…87年秋には、それが一因となって株価暴落(ブラックマンデ-)が起こった。
…G20…後、米国がどの程度、ドイツに圧力をかけるかだろう。
…世界経済の永遠のテーマのように見える「不均衡是正」。
「インバランス(不均衡)」問題は、資本取引・貿易取引の自由化を選択する限り、なくなりそうもありません。
チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
世界全体でみたら、貯蓄と投資は常に等しくならなければならない。なぜなら貯蓄は投資の財源として必要で、ある額の投資(設備投資、住宅投資、公共投資など)を行うには、同額の貯蓄が必要だからである。一方、(1)ある国において投資と貯蓄が常に一致する必要はない。貯蓄が投資を上回れば、余った貯蓄を海外に提供し、逆に投資が貯蓄を上回れば、貯蓄の不足分を海外から借り入れればよい。
(注)以下、貯蓄をSavingのS、投資をInvestmentのIで補足します。
経済学で「貯蓄」とは、「所得のうちで、財・サービスの購入に支出されなかったすべて」です。タンス預金でも、財布に入っていても、株や社債の購入にあてても、銀行預金しても、すべて「貯蓄」に含めます。
…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないため、ISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、(2)資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない。
上記(1)部分が、(2)①資本収支収支赤字=経常(貿易)黒字国、②資本収支黒字国=経常(貿易)赤字国になります。
①は日本、中国,ドイツなどの経常(貿易)黒字国、②はアメリカなどの経常(貿易)赤字国になります。そのインバランス(不均衡)是正しようというのが、下記記事になります。
…G20は世界経済の不均衡是正に向けた国際協調の検討…米国などの経常赤字国が消費を抑制し輸出を増やす一方、中国などの経常黒字国が内需を拡大し輸出依存を引き下げる。
…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識が米提案の背景…
…しかし、ガイトナー長官は24日、日米財務省会談後に「強いドルは米国にとって非常に重要だ」と強調した。財政資金の半分を中国や日本など海外マネーに依存する米国にとって資金流入の減少につながるドル安政策に動きにくい…不均衡是正の有効な策は見いだせないのが現状だ。
世界経済の不均衡 日経H21.9.26


(グラフも)
…国際収支上は、米国が巨額の経常赤字を抱える一方で、日本などが経常黒字を計上する格好となる。過剰消費を繰り返す米国に対して中国などで過剰貯蓄が続く構図は、世界経済の不均衡(グローバル・インバランス)と呼ばれている。
<お金の貸し借りが原因、貿易黒字(赤字)は結果>
竹森俊平 慶大経済学部教授 『世界的な需要大幅減の背後に奇妙なるグローバルインバランス』週間ダイヤモンド 2009.4.4
…世界的な問題には…米国を中心とした近年の国際貸借の増加、いわゆる「グローバルインバランス」問題がありました。
…「インバランス」というと、なにか悪いことのように感じられますが、海外から資本を借りている国もあれば、貸している国もあること自体は、国際資本取引の上ではおかしな話ではありません。
お金の貸し借りは、善いとか悪いとかの対象ではありません。お金の貸し借りは、財(モノ・サービス)の面から見れば、貿易赤(黒)字になるのです。
ただ、米国だけが、世界中の投資を,1人で引き受ける(裏には貿易赤字)と、アメリカ国内の住宅バブル崩壊で、世界中に金融危機が波及するという事態を、招いてしまいます。要は「行き過ぎ」はまずいということですね。
インバランスは「国際間のカネの貸し借り」が原因です。これが、貿易不均衡という結果を招きます。ですから、「貿易不均衡がまずいというのは、お金の貸し借りはまずいと言っているのとおなじこと (野口旭『グローバル経済を学ぶ』ちくま新書2007 p188)」になります。


経常(貿易)黒字は、貯蓄超過から生まれ、海外への貸し出し額と同意なのです。
…資本、おカネの流れは、財の流れという側面から見ることもできます。
そもそも米国に流れ込んだアジアの国々のおカネ(上図③)とは、本質的には過剰貯蓄、つまり消費(上図①)にも投資(上図②)にも使われないおカネです。過剰貯蓄の存在は、そのぶんだけ生産されたモノ(上図④)に対する需要が欠如している状態を意味します。
「経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額」と頭にいれておいてください。
はい、ここで、竹森先生の、重要な式が、提示されました。アメリカの場合は下記の式でA側から見た見方になります。一方、日本や中国、ドイツは、全く逆のBからの方向になります。
A→経常収支の赤字=海外からの純借入額≡国内投資の国内貯蓄超過額←B
…生産所得(上図④)のうち消費で使われないぶん(上図⑤)つまり貯蓄に見合った投資(上図②=政府の投資と企業の投資)があれば、生産所得と総支出は均衡することになります。
貯蓄額=投資額なら、経常黒字(海外への貸し出し)は生まれません。
…アジアの国々が国内投資を抑制し、国内貯蓄を余らせた状態(過剰貯蓄)…しかるにそのとき、米国はアジアの余剰貯蓄を借り入れる一方、自国の貯蓄は減らしてそのぶん消費を増やし、投資も旺盛に行っていた。その結果、世界経済の生産余剰を米国の投資と消費が埋め…要するに…表裏一体の現象なのです。
「貯蓄>投資」国≡「貯蓄<投資」国
ですから、貿易黒字はもうけではなく、海外への貸し付け額なのです。例えば、日本国内/中国国内・ドイツ国内には環流しないおカネなのです。
海外への貸し付け(投資)とは、外国の国債、社債、株、外国銀行への預金(外国銀行から見たら負債です)などです。
投資してもらっている国から見ます。
ある会社の株式が、外国人によって買われているということです。
ある会社の社債を、外国人が購入している状態です。
ある銀行の預金を、外国人がしていることです。
ある国の国債を、外国人が購入している状態です。
ある国の不動産の持ち主が、外国人の場合です。
株式の50%超を外国人が持っている、ヤマダ電機や、日産は、外国企業です。日本の国債の4%~7%ほどは、外国人が購入しています。北海道のニセコにある長期滞在型のホテルやコンドミニアムは、オーストラリア人が購入しています。
日本から見たら、「負債」になります。しかし、日本のGDI(国内総所得)は伸びます。企業も、銀行も、建設、不動産業もです。これらの企業にとって、買ってくれるのは、日本人であれ、外国人であれ、誰でもかまわないのです。
だから、「貿易黒(赤)字と、経済成長は無関係」なのです。
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