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新聞の間違い(36) 論説委員長平田育夫 その2 『日本国債いつ火を噴くか』日経2009年12月20日

 論説委員長平田育夫『日本国債いつ火を噴くか』日経2009年12月20日

 …日本は、外貨建ての国債を出していないし、国債の93%も国内の金融機関や、個人が持つ。だから、両国の(筆者注:外国資本が、逃げ出し長期金利の上昇した、ギリシャ・スペイン)のようにはならない、というのが、常識的な見方だ。
 …個人の金融資産は、個人負債を除き、1065兆円。一方、国と地方の長期債務残高は、825兆円で今後も増える。2010年代中には、個人資産を、全部充てても、公債費を、買い切れなくなる
 …日銀の国債買い入れ拡大も、もろ刃の剣。これまでの買い入れ拡大は、賃金の上昇を押さえるのに役立ったという見方もある。だが、やり過ぎれば、制御不能のインフレや、金利上昇を招く
 …いま、年1.2%台の10年物国債利回りが、米国と同じ。3.6%になるとしよう。国の利払い費は新規国債を出さなくても、7~8年後には、約12兆円膨らむ。今年度の消費税収9.4兆円を上回る額で、財政をさらに悪化させ、後世代の負担を増やす。金利の上昇は、設備投資を冷やすなど経済への打撃も大きなものになる
 …財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。


あまりにも間違いが多いので、赤で示しました。


…日銀の国債買い入れ拡大も、もろ刃の剣。これまでの買い入れ拡大は、賃金の上昇を押さえるのに役立ったという見方もある。だが、やり過ぎれば、制御不能のインフレや、金利上昇を招く

…財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。


 債券価格下落=金利上昇

国債価格下落=金利上昇

 ですから、債券の人気高い=金利低い、債券人気下落=金利上昇となります。いくら、10%の金利のクーポンだとしても、世の中の金利が、1年後に、15%に上がっていれば、この国債は、100万円では絶対に売れません。だまっていてもお金を貸せば15%の金利が手に入るのに、わざわざ金利10%の商品を買う人はいません。最低でも、世間の金利(この場合15%)がつかないと、この国債を買う人はいません。結果、国債の価格を下げて売ることになります。

 さて、新聞記事は、「国債の価格下落(買い手がいない)→長期金利上昇、インフレ→大変なことになる」と、例によって危機感をあおりますが・・・

…いま、年1.2%台の10年物国債利回りが、米国と同じ3.6%になるとしよう。国の利払い費は新規国債を出さなくても、7~8年後には、約12兆円膨らむ。今年度の消費税収9.4兆円を上回る額で、財政をさらに悪化させ、後世代の負担を増やす。金利の上昇は、設備投資を冷やすなど経済への打撃も大きなものになる。

…財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出すインフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。

 このようなことは、起こりません。「国債価格下落=金利上昇」がもし現実に起こるとすれば、それは日本が好景気=不況脱出後の話なのです。ということは、「国債価格下落=金利上昇」事態は、日本にとって望ましい状況だということです。

<金利の上下>

参考・引用文献 角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009

 金利=資本(カネ)の値段ですから、需要と供給によって動きます。では、金利はどのような場合に「上下」するのでしょうか。

①不景気になれば、金利は下がる

 これは、日銀の金融政策です。
「不景気→金融緩和→企業の投資促進→景気回復」
これは、景気回復へのスタンダードな処方箋です。

 では、日本の政策金利(長期金利)はどのようになっているでしょうか。

p166www.kanetsu.co.jp/forex/interest_rate/BOJ.html
日本 政策金利 推移

members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/HOMEPAGE1.ppt
各国 長期金利 推移

 史上最低の金利が続いています。ということは、戦後最低の経済の低迷期ということです。

②好景気には、金利は上昇する

 これも、スタンダードです

 景気が良い、上昇→財・サービスの売れ行き増→設備投資・運転資金増→資金需要増→金利上昇

 景気が良いと、企業は金融機関から資金を借り入れたり、手持ちの債券などを売ります。借り入れ需要が高くなると、銀行は金利を上げます。借り手は多くいるからです。銀行も、貸し出し資金を確保するために、手持ちの債券(社債・公債)を売ります(注)。これも、金利上昇の圧力となります。

(注)株券は売りませんよ。なぜなら、景気が良くなる=株価が高くなる=含み益が出るからです。

③インフレで金利は上昇する(デフレで金利は低下する)

 モノ・サービスの値段が上昇傾向です。工場や店舗を建てるのも、資材を購入するのも、「早めにしておこう」となります。投資が活発化します。

A 銀行への資金の借り入れ需要が増大します。需要増→金利上昇です。
B 債券価格は下落します。債権を売却し、現金需要が高まるからです。金利は上昇します。
C 貯蓄意欲は減少します。銀行は金利を引き上げて、資金を集めようとします。

グラフp171
インフレと長期金利角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009.p171

④株安になれば、金利は下がる

 株価が下落します。今後も、株価の下落が予測されます。株式の売りが多くなります。その資金の一部が債権に回ります。(機関投資家は、株でも債権でも、少しでも儲かるほうに投資します…というより、しなければ、年金や満期保険を支払えません)債券価格上昇=金利低下です。

 企業はどうでしょうか。自社の株価が安くってゆけば、株の新規発行も滞ります。その会社の株は、将来的に安くなることが見込まれるからです。そんな株を買う人はいません。会社の設備投資も減少します。
個人も、株安で、含み益が減少すると、消費を抑えます。

株安で、このように、景気が後退局面に入ります。日銀は金利を低下させます。株安→金利低下です。

グラフP174
株価と長期金利 角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009 p174

 では、以上の分析から、金利上昇時は、どのような状態かを示します。

 金利上昇時=好景気・インフレ・株高

 これが、新聞の心配する「惨劇」状態です。そもそも、「日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する」。ですが、「国債価格下落=金利急騰」は、どの程度の金利を示すものか、本人もわかっていないはずです。日本の長期金利や、短期金利の目安だった公定歩合の、近年の頂点は、1990年です。それは、バブル退治の時でした。

 公定歩合は、プラザ合意後、円高不況を回避するため、5%から、1987年に2.5%に引き下げられました。その後バブル景気となり、今度は急激に公定歩合を引き上げ、1991年に6%になりました。長期金利も8%台になっています。思惑通り、景気の過熱は抑えられたのですが、今度はバブル崩壊→長期不況(失われた10年)に突入しました。
 今、短期金利FFレートは、0.1%、長期金利は1.2%台です。どこまで上がれば、「急騰」なんでしょう?

p166www.kanetsu.co.jp/forex/interest_rate/BOJ.html
日本 政策金利 推移

members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/HOMEPAGE1.ppt
各国 長期金利 推移

 さらに、「国債価格下落=金利上昇」についてです。

 国債を購入しない(あるいは手放す)、「機関投資家」(銀行・保険・投資信託・証券会社・年金etc)は、では、代わりに何を購入するのでしょう?

 前述したように、保険会社や年金基金は、必ず運用益を出さなければなりません。
(銀行もそうですが、銀行の場合、融資の方が、債券保有より利率が良ければ、債券を手放して融資を増やします)

 保険会社や年金基金は、手持ちの資金を「運用」するしか「益」を出せません。現金だけを持っていても、「益」は出ません。では、国債を手放して「益」が出せるとしたら、それは何で、いつでしょうか。三面等価の図を見てみましょう。
三面等価 2008

「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると,分配(所得)は「C++T」という式になります。
 
 経済学で「貯蓄」とは、「所得のうちで、財・サービスの購入に支出されなかったすべて」です。タンス預金でも、財布に入っていても、株や社債の購入にあてても、銀行預金しても、すべて「貯蓄」に含めます。

 国民が貯蓄したS、①企業Iへの貸付であり、②公債(G-T)への貸付であり、③(EX-IM)海外への貸付に回っていることがわかります。企業も、政府も、外国も、日本人の貯蓄から、お金を借りているのです。

 S=126兆円、それがI 119兆円、G-T6兆円、EX-IM700億円に回るのです。EX-IM700億円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM700億円なのです。

 国民の預貯金Sが、企業投資I、公債費G-T、外国への投資EX-IMの原資です。

 新聞の言うように、「国債価格下落=金利上昇」だとしたら、上記の図で、G-T部分が減ることです。国債を手放し、ほかに買えるものと言えば、I相当部分の社債・株式と、外国への投資EX-IM(外国債、外国株、外国預金、外国金購入)部分しかありません。

 おカネを投資できる箱は、3つしかないのです。(あとは、プラチナとか、金ですか?他には小麦や大豆や石油?残念ながら、これらの市場は世界の資本《クジラ並の大きさ、しかも何百頭も、何万頭もいます》が入るには小さすぎる《プールなみの大きさ》のです。
資本の投資先

 ですが、I(株・社債)が増えるときは、好況期なので、民間投資が活発化したときです。その場合、EX-IMは減少します。

 逆にEX-IMが増えるときは、不況期(民間投資Iの不活発)ですから、新聞が想定する「国債価格下落=金利上昇」時は、I相当部分の社債・株式の購入が増えるときです。それは社債の金利・株式価格の上昇局面です。

 このときを「好況」といいます。民間資金需要が活発化し、金利は高くなり、株価は高くなり、インフレになっているときです。これを新聞は「惨劇」と書いています。

「国債価格下落=金利上昇」は、単独では起こらないのです。株や社債、外国投資と連動して起こるのです。

<追記 貯蓄超過=金余り>

日経 H22.1.13
『債券相場の上値重く』
…12日の債券市場では…新発10年もの国債の利回りが一時、前週末比0.025%低下(価格は上昇)…。

国内大手銀行は引き続き余剰資金を抱えている。日銀が12日に発表した昨年12月の「貸出・資金吸収動向」によると、大手銀が個人や企業などから集めた預金(実質預金+譲渡性預金)の平均残高は貸出残高を上回り、差は4ヶ月ぶりの大きさに広がった。…「景気回復の期待が薄い日本では、国債投資が増え、金利は押し下げられる」(シティグループ証券の佐野和彦氏)との見方…。

貯蓄超過 資金余剰

日本は、投資先がない、貯蓄超過なのです。

金余り=金利安
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