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新聞の間違い(8) 日経新聞のでたらめその4

一直 『貿易赤字は問題なのか 大機小機欄』日本経済新聞 H21.5.1

(5)日経が、主張を変えた。

 さて、このブログで、日経の記事の間違いを指摘してきました。また、同内容について、日経にメールで問い合わせました。
 本日の同新聞で、『貿易赤字は問題なのか』と題する、主張を180度変えた記事を掲載しました
 この『大機小機』欄について、あまりにも間違いが多いので、以前、日経に問い合わせたところ、「外部の人が執筆しており、その内容については、日経は責任を負えません」「執筆者に意見をお送りすることは可能です」という内容の返事をいただいたことがあります。
 『大機小機』欄に載ったからといって、日経の主張ではないのですが、とりあえず、一歩前進といったところでしょうか。
 ただ、結論は正しいのですが、理由が間違っています。

同記事です。

…日本の貿易収支が第二次石油ショック時以来、二十八年ぶりの赤字となったことが明らかになった。この問題をどう考えたらよいのだろうか。
…マクロで見ると貿易収支はそれ自体が問題なのではない。…貿易収支が黒字でも、その原因が貯蓄の増加か、投資の減少かで将来の成長力に与える影響は大きく異なる
 投資の不足が黒字の原因なら将来の成長力は低下する。逆に貿易収支が赤字でも、国内での投資が活発なら、成長力は高まる。米国の九十年代の貿易赤字は…旺盛な革新投資がもたらした結果であり…成長力強化につながった。
 日本は…一昨年までの景気拡大の過程では投資を含め内需が十分には盛り上がらなかった。一方で…財政赤字があまりにも拡大すると、民間投資が阻害され、成長力は低下する
…景気対策もあって財政赤字は…拡大せざるをえまい。…成長力を高めるには技術革新を促し国内投資を盛り上げるしかない。その結果、貿易収支が赤字になっても問題はないのである

間違いは赤正解は青で示しました。

間違いその1
 …貿易収支が黒字でも、その原因が貯蓄の増加か、投資の減少かで将来の成長力に与える影響は大きく異なる。
 (S-I)=(G-T)+(EX-IM)です。
貯蓄超過=財政赤字+貿易黒字です。原因がSの増加であっても、Iの現象であっても、結果は同じです。どちらがよい悪いの問題ではありません
S=①I+②(G-T)+③(EX-IM)なので、国民の貯蓄=①企業の投資+②政府の投資+③外国の投資・消費です。①が減るなら、②を増やせばよいだけのことです。

 ①には金利がつきます。企業が投資をするのは、金利<もうけが見込める場合です。上場企業は、自己資本40%+他人資本(借金)60%くらいで、みな借金しています。(中小企業は、これより多い割合で借金しています)
でも、例えば、日立や東芝や、楽天を「借金経営」と、誰が非難しますか?借金は企業の血液です。金利は、銀行や、社債を買った人の収入=GDP(GNI)です

  ②公債にも金利がつきます。公債金利<経済成長率なら、公債は政府にとって全く負担にならないのです。民間が消費せず、貯蓄したお金を、政府が金利を払って借りて、投資しているのです。①の企業と、全く同じ原理です。国債金利は、日銀・銀行・郵貯銀行・保険会社の収入=GDP(GNI)です借りたのは政府ですが、貸したのは国民であり、金利は国民の収入なのです。
 ついでですが、③も収入になります。日本が外国に資金提供します。外国債や、外国株や、外国社債や、外国への貸付額が(EX-IM)=貿易黒字額なのです。これらは、日本の海外資産の増加であり、額は07年で250兆円超、世界一です。それらは、配当や利子を生み、日本の収入となります(GNI=GNP)。所得収支といいます。所得収支は、05年約13兆円となっています。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)
財政赤字と、貿易黒字が増加したのは、国民の貯蓄超過だからです。高度成長期に、両者とも無かったのは、(S-I)が「ゼロ」だったからです左辺がゼロならば、右辺もゼロ、財政赤字も貿易黒字も生じません。高度成長期は、投資が活発で、国民の貯蓄を全て投資Iが使い切ったからです。時には足りずに、(S-I)がマイナス、つまり、貿易赤字でした。
Sが大きかろうが、Iが減少しようが、結果として財政赤字と、貿易黒字が増加するのは同じです。「将来の成長力」とやらに影響云々ではない のです。日本の輸出入


間違いその2
一方で…財政赤字があまりにも拡大すると、民間投資が阻害され、成長力は低下する
S=①I+②(G-T)+③(EX-IM) 
  その1で、企業であれ、政府であれ、外国であれ、日本の貯蓄を使ってくれているところは、日本人に所得(GDP=GDI)をもたらすことを示しました。Sを、①Iが使うか、②(G-T)は問題ではありません。「(G-T)が多くなると、民間資金Sの残りが少なくなり、少ない金の奪い合いで金利が高騰し、結果民間投資Iが減る」、クラウディングアウトと呼ばれる現象が起きることを懸念しています。
 では、今まで、このクラウディングアウトが、日本に起こったでしょうか?97年当時、小渕政権が大量の国債を発行し、「世界一の借金王」と騒がれていました。国債は当時でも「大変だ大変だ」と言われ、発行残高は約300兆円でした。
 今年度予算では、税収より、国債発行額が多くなり、残高は約600兆円になります。この間クラウディングアウトは、起こっていません。GDP増=経済成長しているのにです。なぜでしょう?
 やはり、日本は貯蓄超過なのです。民間企業が借り、政府が借り、なおあまり外国が借りています。金余りなので、金利も諸外国に比べて低いのです。さらに政策金利は、現在0.1%に据え置きです。実際にはカネ借り放題なのです。日銀も積極的に国債を引き受けています。


三面等価

 
 そもそも、公債を発行しなくてすむ方法があります。三面等価の図を見て下さい。(G-T)は32兆円です。政府(国・地方)で115兆円使って、83兆円の(税・保険収入)ですから、もともと、足りないのです。だったら、32兆円分増税すればよいだけの話です。消費税13%分です。国民所得(GNP=GNI)がS貯蓄に回るか、T税金に回るかの違いです。「税金の無駄遣いを減らせ」はそうなのですが、どうやって32兆円もの税収不足を補えるのですか?
  政府が税金Tで集めて使うか、公債(G-T)で集めて使うかの違いでしかありません。税金が高くなると、消費が減る?じゃあ、Sが増え、改めて①I+②(G-T)+③(EX-IM)のどれかが増えるだけです。
 税金が高くても、経済成長を達成している国があります。スウェーデンです。スウェーデン 
データ出典JETRO
 
 同国の付加価値税(日本の消費税)の最高税率は25%税金と社会保障の国民所得(NI)に対する国民負担率は、04年で70.2%(日本は07年39.7%)です。
 同国は財政黒字です。税金Tのほうが、支出Gより多いのです。
 (S-I)  = (G-T) +(EX-IM)
 少しプラス  マイナス   プラス 
 となります。何も問題はありません。

 貿易黒字(赤字)だろうが、財政黒字(赤字)だろうが、関係ないのです。貯蓄超過なら、資本収支赤字=貿易黒字、貯蓄不足なら、資本収支黒字=貿易赤字になるだけのことです

 要するに、GDP(GDI=GDE)を増やせばいいだけの話です。GDPは①労働力×②資本×③生産性で約510兆円です。
 だから、新聞の最後の結論「…景気対策もあって財政赤字は…拡大せざるをえまい。…成長力を高めるには技術革新を促し国内投資を盛り上げるしかない。その結果、貿易収支が赤字になっても問題はないのである」は正解なのです。「③の生産性を高め、②の資本を投下しろ」と言っていることと等しい のですから。
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