資料集の間違い(11) 帝国書院『アクセス現代社会2009』
資料集の間違い 帝国書院『アクセス現代社会2009』
枝葉末節にこだわるのはいいのですが、典型的に「木を見て森を見ず」という資料集が出来上がります。全体を貫く、「経済学」という背骨が無いのです。「経済現象」を並べただけなので、それを教える先生も、教えられる生徒も、そのような教育を受けて大人になった出版社の編集者も、「経済の全体像」がわかっていません。
だから、「貿易黒字はもうけ、貿易赤字は損」「国債は国の借金」「(アメリカの)双子の赤字で不況」などと、論理的に成り立たない表現が出てきます。
私が指摘すると、どの出版社も、その表現を「ちょこちょこ」っと訂正するのですが、根本のところが直っていないので、いつまでたっても、論理的に成り立たない表現が、次から次へと出てくる のです。
その理由のひとつとして、「大学教授が教科書・資料集を書いていない」ことがあげられます。
経済教育ネットワークHP 新井明『教育系学生はなぜ経済がきらいか―ある社会科教育法講義における「論争」からー』にこのように書かれています。
…大学教員側もはじめてきちんと高校の教科書を読んだという感想を発言していたし、日本の世論がなぜ市場経済のメリットよりもマイナスに傾くのか、その理由が教科書の記述にあることがはじめて分かったという感想も述べていた(注)。
(注)講師の一人であった大竹文雄大阪大学経済研究所長は、日本の教科書をあらためて読んでみて、市場メカニズムが資源の最適配分の構造を持つとは書いてあるが、どうしてそれが言えるのか、また、最適配分が社会的にどんな意味を持つのかを きちんと書いている教科書は一つもなく、すぐに独占や寡占の問題、さらには市場の失敗の論に行ってしまう。このような教科書で教えられたら、市場経済のメリットはほとんど理解されないで、市場の限界だけを頭に入れてしまう高校生が増える だろうなということが良く理解できた。
経済学を知らない人(高校の先生)が、経済現象を語っているのです。
小塩隆『高校生のための経済学入門』ちくま新書2007p14~にも、このような記述があります。
…「政治・経済」の教科書や資料集を見せてもらった…そこに書いてある経済や経済学の説明にまったく魅力を感じません…中身が断片的…ここ数年の経済ニュースを適当に散りばめ…経済や経済学に興味を持たせるような仕組みはほとんど存在しないようです。
帝国書院の資料集で検証してみましょう。
P90 三面等価の原則が取り上げられています。

しかし、大切なのは、表面ではなく、その中身ISバランスです。三面等価の図を見て下さい。

これを載せないから、いつまでたっても、間違い記述が出てくるのです。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
貯蓄超過= 財政赤字 +経常黒字
国民が貯蓄したSが、①企業投資Iであり、②政府消費・投資(G-T)であり、③(EX-IM)経常(貿易)黒字なのです。
と同時に、①企業Iへの貸付であり、②公債(G-T)への貸付であり、③(EX-IM)海外への貸付なのです。
だから、①企業投資I=国民の貸付、②公債(G-T)=国民の貸付、③(EX-IM)経常(貿易)黒字=国民の海外への貸付なのです。
これが、マクロ経済学上、最も大切な「ISバランス」式です。
そうすると、②公債=国民の財産、 ③貿易黒字=資本収支赤字(海外への資本移転)となります。「貿易黒字はもうけ、貿易赤字は損」「国債は国の借金」が、根本的に成り立たないのがわかります。
国民が、所得をすべて使わず、貯蓄する(貯蓄超過)と、財政赤字と、経常(貿易)黒字は必ず発生するのです。
ここが理解できないので、次のような記述になります。
「アメリカの『双子の赤字』による景気後退が世界経済に混乱を与えるp94」「財政赤字と貿易赤字という『双子の赤字』を抱え、特に対日貿易赤字は突出p238」「 『双子の赤字』といい、アメリカ経済を表すことばとしてたびたび用いられるp239」
こんなことを書くから、『双子の赤字』は「悪いこと」としか理解できなくなります。これは全くの間違い です。「景気後退」どころか、「双子の赤字を抱え、アメリカ経済は未曽有の経済成長(GDP増=国民所得GDI増)をしていた」のです。「双子の赤字」は、経済成長とは無関係なのです。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
貯蓄超過= 財政赤字 + 経常黒字
ゼロ = プラス + マイナス
マイナス1= プラス1 + マイナス2
「双子の赤字」とは、こうなるだけです。それは、レーガン政権下、クリントン政権前半、昨年の金融危機以前も、いつも成立していました。しかし、その間、アメリカは日本を突き放してものすごく経済成長(GDP増=国民所得GDI増)している」のです。
東京書籍 資料集『最新ダイナミックワイド 現代社会 』2007 p20
アメリカGDP・貿易赤字推移(単位億ドル)データ出典JETRO
ポ-ル・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫2009p223
「財政赤字は一般に想像されているような怪物では決してない のであるp244」
GDPは、次のように算出されます。
①労働力×②資本×③労働生産性=GDP(=国民所得GDI)
さいころをイメージして下さい。経済成長はこのさいころを大きくすることです。
「双子の赤字」と、サイコロは、どこに関連があるのでしょうか?逆に「貿易黒字」はこのさいころのどこに関係があるのでしょうか?
「双子の赤字」も、「貿易黒字」も、サイコロの表面図であり、「サイコロ」を大きくする要因ではない のです。結果として「双子の赤字」・「貿易黒字」になるだけのことです。
枝葉末節にこだわるのはいいのですが、典型的に「木を見て森を見ず」という資料集が出来上がります。全体を貫く、「経済学」という背骨が無いのです。「経済現象」を並べただけなので、それを教える先生も、教えられる生徒も、そのような教育を受けて大人になった出版社の編集者も、「経済の全体像」がわかっていません。
だから、「貿易黒字はもうけ、貿易赤字は損」「国債は国の借金」「(アメリカの)双子の赤字で不況」などと、論理的に成り立たない表現が出てきます。
私が指摘すると、どの出版社も、その表現を「ちょこちょこ」っと訂正するのですが、根本のところが直っていないので、いつまでたっても、論理的に成り立たない表現が、次から次へと出てくる のです。
その理由のひとつとして、「大学教授が教科書・資料集を書いていない」ことがあげられます。
経済教育ネットワークHP 新井明『教育系学生はなぜ経済がきらいか―ある社会科教育法講義における「論争」からー』にこのように書かれています。
…大学教員側もはじめてきちんと高校の教科書を読んだという感想を発言していたし、日本の世論がなぜ市場経済のメリットよりもマイナスに傾くのか、その理由が教科書の記述にあることがはじめて分かったという感想も述べていた(注)。
(注)講師の一人であった大竹文雄大阪大学経済研究所長は、日本の教科書をあらためて読んでみて、市場メカニズムが資源の最適配分の構造を持つとは書いてあるが、どうしてそれが言えるのか、また、最適配分が社会的にどんな意味を持つのかを きちんと書いている教科書は一つもなく、すぐに独占や寡占の問題、さらには市場の失敗の論に行ってしまう。このような教科書で教えられたら、市場経済のメリットはほとんど理解されないで、市場の限界だけを頭に入れてしまう高校生が増える だろうなということが良く理解できた。
経済学を知らない人(高校の先生)が、経済現象を語っているのです。
小塩隆『高校生のための経済学入門』ちくま新書2007p14~にも、このような記述があります。
…「政治・経済」の教科書や資料集を見せてもらった…そこに書いてある経済や経済学の説明にまったく魅力を感じません…中身が断片的…ここ数年の経済ニュースを適当に散りばめ…経済や経済学に興味を持たせるような仕組みはほとんど存在しないようです。
帝国書院の資料集で検証してみましょう。
P90 三面等価の原則が取り上げられています。

しかし、大切なのは、表面ではなく、その中身ISバランスです。三面等価の図を見て下さい。

これを載せないから、いつまでたっても、間違い記述が出てくるのです。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
貯蓄超過= 財政赤字 +経常黒字
国民が貯蓄したSが、①企業投資Iであり、②政府消費・投資(G-T)であり、③(EX-IM)経常(貿易)黒字なのです。
と同時に、①企業Iへの貸付であり、②公債(G-T)への貸付であり、③(EX-IM)海外への貸付なのです。
だから、①企業投資I=国民の貸付、②公債(G-T)=国民の貸付、③(EX-IM)経常(貿易)黒字=国民の海外への貸付なのです。
これが、マクロ経済学上、最も大切な「ISバランス」式です。
そうすると、②公債=国民の財産、 ③貿易黒字=資本収支赤字(海外への資本移転)となります。「貿易黒字はもうけ、貿易赤字は損」「国債は国の借金」が、根本的に成り立たないのがわかります。
国民が、所得をすべて使わず、貯蓄する(貯蓄超過)と、財政赤字と、経常(貿易)黒字は必ず発生するのです。
ここが理解できないので、次のような記述になります。
「アメリカの『双子の赤字』による景気後退が世界経済に混乱を与えるp94」「財政赤字と貿易赤字という『双子の赤字』を抱え、特に対日貿易赤字は突出p238」「 『双子の赤字』といい、アメリカ経済を表すことばとしてたびたび用いられるp239」
こんなことを書くから、『双子の赤字』は「悪いこと」としか理解できなくなります。これは全くの間違い です。「景気後退」どころか、「双子の赤字を抱え、アメリカ経済は未曽有の経済成長(GDP増=国民所得GDI増)をしていた」のです。「双子の赤字」は、経済成長とは無関係なのです。
(S-I) = (G-T) + (EX-IM)
貯蓄超過= 財政赤字 + 経常黒字
ゼロ = プラス + マイナス
マイナス1= プラス1 + マイナス2
「双子の赤字」とは、こうなるだけです。それは、レーガン政権下、クリントン政権前半、昨年の金融危機以前も、いつも成立していました。しかし、その間、アメリカは日本を突き放してものすごく経済成長(GDP増=国民所得GDI増)している」のです。
東京書籍 資料集『最新ダイナミックワイド 現代社会 』2007 p20

アメリカGDP・貿易赤字推移(単位億ドル)データ出典JETRO

ポ-ル・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫2009p223
「財政赤字は一般に想像されているような怪物では決してない のであるp244」
GDPは、次のように算出されます。
①労働力×②資本×③労働生産性=GDP(=国民所得GDI)
さいころをイメージして下さい。経済成長はこのさいころを大きくすることです。
「双子の赤字」と、サイコロは、どこに関連があるのでしょうか?逆に「貿易黒字」はこのさいころのどこに関係があるのでしょうか?
「双子の赤字」も、「貿易黒字」も、サイコロの表面図であり、「サイコロ」を大きくする要因ではない のです。結果として「双子の赤字」・「貿易黒字」になるだけのことです。
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