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資料集の間違い(12) 帝国書院『アクセス現代社会2009』

帝国書院の資料集で検証してみましょう。
帝国書院『アクセス現代社会2009』 P90 三面等価の原則が取り上げられています。
三面等価 資料集

 しかし、大切なのは、表面ではなく、その中身ISバランスです。三面等価の図を見て下さい。これを載せないから、いつまでたっても、間違い記述が出てくるのです。
三面等価
      (S-I)   = (G-T)  +  (EX-IM)

    貯蓄超過  =財政赤字 + 経常黒字


  国民が貯蓄したSが、①企業投資Iであり、②政府消費・投資(G-T)であり、③(EX-IM)経常(貿易)黒字なのです。
と同時に、①企業Iへの貸付であり、②公債(G-T)への貸付であり、③(EX-IM)海外への貸付なのです。
だから、①企業投資I=国民の貸付、②公債(G-T)=国民の貸付、③(EX-IM)経常(貿易)黒字=国民の海外への貸付なのです。

これが、マクロ経済学上、最も大切な「ISバランス」式です。

 そうすると、②公債=国民の財産、③貿易黒字=資本収支赤字(海外への資本移転)となります。「貿易黒字はもうけ、貿易赤字は損」「国債は国の借金が、根本的に成り立たないのがわかります。
国民が、所得をすべて使わず、貯蓄する(貯蓄超過)と財政赤字と、経常(貿易)黒字は必ず発生する のです。
三面等価の図を見ましょう。
三面等価

<国債は政府の借金=国民の財産>

この借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。我々が預貯金をしたり、生命保険金を支払ったりしたお金が、国債の購入に当てられています。しかも、国債の金利は、銀行や郵貯、保険会社の利益(GDPに算入)です。

  約668兆円の国債のうち、95.4%=約637兆円は、我々日本人が持っているのです(海外の4.6%を除く 2006年3月末現在)。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約42%は国債なのです。
帝国書院『アクセス現代社会2009』P134 家計の金融資産残高の推移
カラー0004
家計→金融機関→国債購入なのです。

 この原理をわかっていないので、同資料集では、このように説明されます。P126『国債乱発の問題点』
①財政破綻! 後世代の国民へ返済のツケを残す。
③インフレ発生! 国債の償還のために通貨を増発することで、インフレーションが発生する。

①についてです。借金(元金)を返してもらう,あるいは,利息を受け取る世代も,やはり孫の世代,将来世代なのです。その利息は日本のGDP(国民所得)になります「後世代の国民へ返済のツケを残す」は「後世代の国民へ収入の原資を残す」ことになります。

③についてです。国債の購入費は、その年度のGDI(GNI)=フローでまかなわれています。国債の借換え債についても、同様です。国債は充分に消化されています。
  また、「償還のために通貨を増発」とありますが、これも間違いです。
  日銀のバランスシート(平成21年5月20日現在)を見てみましょう。資産の部に、国債が65兆2268億円分あります。一方、負債の部に、発行銀行券残高が75兆,7394億円とあります。日銀は、国債を買い取り、ベースマネーを供給しています(買いオペ)。国債と市中通貨(マネーストック)をやり取りしているだけです。なぜ、「通貨を増発」しなければならないのでしょうか。
  日銀法第2条、日銀の目的は「物価の安定」です。物価の安定=通貨の安定です。「通貨を増発する・インフレーション発生」と、この法律は全く正反対のことを述べています。
 
 資料集が、間違っていることが、お分かりでしょう。
  さらに、同書では、「日本の財政を月収40万円の家計に置き換えるという、典型的なあやまり の説明をします。
「借金は18万円」「借金残高1800万円」「月々の収入では家計を維持できず、借金にたよって生活していることになる」p124としています。
 仕方が無いので、政府の借金を、「家計」に置き換えて、無理やり説明してみましょう。 18万借金をしているのも家計」「18万貸し出しているのも家計」「借金残高1800万円」「資産残高1800万円」という、わけのわからない説明文になってしまいます。

山崎元『なぜ必ず儲かる話は儲からないのか』プレジデント2009.5.18号
…日本人が日本人から借りて、日本国内で支出している。一家に喩えると、夫が妻から借金をしてこどもに小遣いを上げているような状況です。

 このように、間違って説明してしまうのは、三面等価といいながら、「GDP国民総生産=GDI国民総所得=GDE国民総支出」その中身を説明していない からです。

強調文S-I=(G-T)+(EX-IM)という、貯蓄投資バランス式=ISバランス式頭に入っていないから、「政府にカネを貸しているのは、国民」「公債原資=国民の預貯金」を説明できないのです。

 それを高校生が学ばないので、誤解した大人になってしまうのです。そしてそのような大人が、「借金で破産する?」などと、教科書や資料集に書いてしまいます。

岩村充 『貨幣の経済学』集英社 2008 p153 
「国はいくら国債を発行しても倒産することはないと考えて良いのでしょうか。結論から言えばそのとおりです。現代の管理通貨制の下では自国通貨建ての国債をいくら発行してもそれが理由で国が倒産することはありえ (下線部筆者)」ないのです。

 同書では,「国債は政府の株式」に例えられています。また、国債は通貨制度のアンカー(昔の金本位制度における金)だと喝破しています。

 消費税を7%上げれば、(全部で12%の税率)基礎的財政収支は黒字になり、まあったく問題ないのです。(このことについては、後日「新聞を解説」で説明します)

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資料集の間違い(7) とうほう『政治・経済資料2009』

資料集の間違い とうほう『政治・経済資料2009』P203
「GDPの三面等価とそこから見えてくるもの」
②「総生産=総支出」
…国内総支出をGDEと呼ぶ生産されたものは民間(家計や企業)・政府・海外の3つの経済主体のいずれかに需要され支出される。つまり民間や政府において消費されるか、次の期の生産活動に役立てるため投資に回されるか、海外へ輸出される。これを関係式で表すと、「総生産=総支出」の式 Y=C+I+G+(EX-IM)
Y=国内総生産、C=消費(Consumption )、I=投資(Investment)、G=政府最終支出、EX=輸出、IM=輸入
 この関係式からいえることは、Y(つまりGDP)を上げるには、C、I、G、EXのいずれかを増やす ということだ。…この「総生産=総支出」は、マクロ経済学の最重要公式でもある。

日本は借金で破産する? 」と題して、「国の借金 」とか、「雪だるま式の借金 」とか、「国債のツケは、後世の国民に重くのしかかるだろう 」とか(同書p221~222)、整合性のない解説をしています。

「国債のツケは、後世の国民に重くのしかかるだろう 」部分です。現在の国民が,借金をして,それを返済するのは,将来世代ということになるからです。「残される膨大な借金の支払請求は、その恩恵に浴さないか、一部しか浴せない将来の国民に回されるp223」という解釈です。
しかし,借金(元金)を返してもらう,あるいは,利息を受け取る世代も,やはり孫の世代,将来世代なのです。その利息は日本のGDP(国民所得)になります。ですから、前掲の文章は「残される膨大な貸出金の収入は、その恩恵に浴すか、一部でも浴した将来の国民に回されるp223」が成立してしまうのです。
三面等価の図を見てみましょう。三面等価
  だいたい、我々が給料を消費せずに、貯蓄すると、国債残高は増えるのです。貯蓄が、①企業の借金・②政府の借金・③外国の日本に対する借金の原資です。企業が100万借金するのは、金利2万円を返しても、105万売り上げて、3万もうけようとするからです。それを「借金経営」とは言いません(上場企業の資本のうち、6割は借金=他人資本です)。金利<売上げ利益なら、借金は負担ではありません。政府の借金も、金利<GDP成長率なら、政府にとって全く負担ではないのです。
 さらに、日本政府は、世界で一番の金持ち政府なのです。国会や、裁判所の土地建物、国道など、売れない資産を除き、現金・預金,有価証券,未収金,貸付金,運用寄託金,出資金など,流動性の高い資産(現金化できる)だけで,523兆3890億円あります。
高橋洋一『日本は財政危機ではない!』講談社 2008 p29

 柴山政行 『Google経済学』フォレスト出版 2008 p196
 国際的にしばしば使われている指標は「純債務:289兆円」で,財務省が主張する「粗(あら)債務:980兆円」ではありません。日本ほど,政府が多額の資産を持っている国はないのです。その資産を「粗債務」から引くと,債務超過額は289兆円になります。その額は,単純計算ですが,日本の国家予算82兆円の3.5倍程度になります。

  実は,日本が財政危機でない事を一番よく知っているのが財務省なのです(以下の内容は 高橋洋一『さらば財務省!-官僚すべてを敵にした男の告白』『日本は財政危機ではない!』講談社 2008)によります。。2002年,アメリカの格付け会社によって,日本国債の格付けが引き下げられました。それに反論した財務省の意見書です。
 「日本は世界最大の貯蓄超過国(筆者注:S-Iが黒字)であり,国債はほとんど国内で消化されている。また世界最大の経常収支黒字国(筆者注:外国への資金貸し出しが最大の国)であり,外貨準備も世界最高である
 このように,「純債務でみると日本は財政危機ではない」という,常に「財政危機だ」と言っている日本国内向けの説明と,全く違う説明を海外にしたのです。

 「国はいくら国債を発行しても倒産することはないと考えて良いのでしょうか。結論から言えばそのとおりです。現代の管理通貨制の下では自国通貨建ての国債をいくら発行してもそれが理由で国が倒産することはありえ (下線部筆者)」ないのです。
岩村充 『貨幣の経済学』集英社 2008 p153 同書では,「国債は政府の株式」に例えられています。

資料集の間違い(1)続き

資料集の間違い(1)続き

浜島書店『最新図説 政経』2008年10月10日印刷 p224 

個人金融資産が海外に移され、国債の買い手がいなくなれば、国債は暴落し、資金を調達できない日本の財政は破綻する

①日本人の1500兆円の金融資産(ストック)が海外に移されると・・・経済原理上、ありえません。1500兆は、預貯金・現金・株式・投資信託・公共債・保険(年金準備金)などで保有されています。「個人金融資産が海外に移され」ということは、それらを、外国の企業株式、外国の保険会社、外国の銀行、外国通貨、外国の国債に、振り向けるということです。
日本人が、自分の資産の10%(150兆円?)を外国に預ける…。これは事実上ありえるでしょうか

②現在、国債(地方債含む)代金は、毎年のGDP(国民所得:フロー)のうち、我々が貯蓄したお金から支出されています。例えば、’05年なら、貯蓄約144兆円のうち、32兆円が国債(地方債含む)の購入にあてられています。我々の金融資産1500兆円(ストック)を国債購入に振り向けてはいないのです。毎年のGDP(我々の所得の総額:フロー)で十分に購入:消化されているのです。買い手はその年の日本国民です。

③「国債は暴落し、資金を調達できない日本の財政は破綻する国債が暴落したら、我々の1500兆円の金融資産も暴落します。「国債は政府の借金=国民の財産」だからです
 だいたい、「暴落」とは、どの程度価格が下がることを想定して言っているのでしょうか?20%でしょうか?国債価格が20%下落すれば、金利は20%を超えます。国債価格+金利=国債の売買価格だからです。20%の金利?…90年代のロシアではあるまいし、日本の経済規模では、あり得ませんね。

結論 日本の財政が破綻することは、原理上あり得ません。なぜなら、国債は日本国の株式だからです

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