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猪突『大機小機 東京市場国際化の功罪』日経H22.4.27

猪突『大機小機 東京市場国際化の功罪』日経H22.4.27

 東京証券市場を国際化し、金融産業を将来の成長産業に育てようという政府の戦略は、残念なことに戦略的発想に欠けていた。
…欧米市場追随が国際化だという誤った戦略のもとで、海外の投資家が喜びそうなルールを次々に導入した。そのツケが様々なところに表れている。確かに海外の投資家の売買シェアは増えたが、その結果、企業業績とは無関係な売買が
増えてしまった。円が下がれば日本株が買われ、円が上がれば売られるというパターンが定着しつつある。
…結果として、国内の投資家には参加しにくい怖い市場になってしまい、ますます海外投資家に依存するという悪循環が起こっている。
 個別企業を評価するという市場本来の機能は低下している。この機能を取り戻すには、国内の投資家が参加しやすい市場をつくる必要がある。
…国際化戦略の誤りのもっと深刻な問題は、海外の投資家に迎合したルールが日本企業を痛めていることだ。デフレ経済下での時価会計は長期投資の意欲をなえさせてしまった。
…海外の投資家が喜ぶと思って導入した制度は、本当に海外の投資家が望むものであったかどうか、冷静に反省してみる必要がある。

<外国資本の導入は不可避>

 確かに、東証の株式市場で、保有比率が一番高いのは、「外国人=外国の会社・個人etc」です。企業や銀行による株式の持合が減り、その代わり、外国人投資家や、個人投資家の比率が高くなりました。

株式保有割合

 ですが、この流れは不可避です。なぜなら、日本の貯蓄率が低下し、日本は、いずれ間違いなく、貿易赤字=資本黒字(外国からの資本流入超過)になるからです。


新聞を解説 『国の借金 家計の貯蓄頼み限界』日経H22.12.30

 政府が家計の貯蓄に頼って借金を重ねる構図に限界がみえ始めた。政府の負債残高が膨張し…家計資産に対する比率は66%まで上昇した。…少子高齢化で家計の貯蓄率は07年度に過去最低の1.7%まで低下。「3~5年後にはマイナスに転じる」との見方もある。…日生基礎研究所の櫨浩一経済調査部長は「貯蓄率がマイナスになれば、海外からの投資増が必要になる…」と語る


<貯蓄率が低下すると・・・>

三面等価 2008

 貯蓄Sが、①企業の借金:I・②政府の借金:G-T・③外国の日本に対する借金:EX-IMの原資です。国民が、政府に貸しているのです。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)

 現在は、左辺がプラスなので、右辺の財政赤字・貿易黒字もプラスです。

ところが、「…少子高齢化で家計の貯蓄率は07年度に過去最低の1.7%まで低下。「3~5年後にはマイナスに転じる」との見方もある。」ということです。

櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

2020年頃には家計貯蓄率はゼロに
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106.jpg
  
櫨浩一2006年 p106
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

 現在の、S-Iがゼロ、あるいはマイナスになると言うことです。国民の貯蓄だけで、投資がまかないきれなくなるということです。

(S-I)=(G-T)+(EX-IM)

(1)左辺マイナス=財政赤字プラス+貿易黒字マイナス
(2)左辺マイナス=財政赤字ゼロ+貿易黒字マイナス

 このように,左辺と右辺は必ず等しくなるので,日本は,必ず「貿易赤字」になります。
貿易赤字=資本収支黒字なので、外国から日本への投資が、増えることを示します。
「櫨浩一経済調査部長は「貯蓄率がマイナスになれば、海外からの投資増が必要になる…」と語る」というのは、海外からの投資黒字=貿易赤字国になるということです。日本は、必ずそうなります。今のイギリスや、アメリカのようにです。

 その際に、外国資本を導入するには、外国人が分かりやすいルール・システムにする必要があります。日本人が、新興国に投資する場合、「分かりやすいルール」「分かりやすい財務諸表」「分かりやすいバランスシート・損益計算書」でなければ、投資に二の足を踏みます。世界中が、同じルールで運営されていれば、日本の企業と、外国企業を比較検討し、投資先を選ぶことが可能です。ある新興国が「独自のルール」を採用していれば、比較検討が出来ません。
 資本不足(貯蓄不足)が将来的に確実な日本は、国際的標準ルール=グローバル・スタンダードな会計を導入せざるを得ないのです。


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新聞を解説(58) 藤井彰夫 『不均衡是正永遠の課題?』21.11.1

新聞を解説 藤井彰夫 『不均衡是正永遠の課題?』21.11.1

<不均衡とは、お金の貸し借り>

 「ドルは我々の問題である。しかし問題は欧州にある」…1971年のこと…米貿易収支の赤字が増え、ドル切り下げ圧力が強まっていたが、コナリー(財務)長官は米国の責任を認めようとしなかった。
…米国が不均衡問題を持ち出す場合は、決まって相手国に内需刺激策を求めると同時に,相手国通貨の対ドル相場切り上げのカードをちらつかせる。

…77年…日独に米国と並ぶ世界経済のけん引役を引き受けるよう…(サミット)などで内需拡大を求めた。
…ドル高是正と内需拡大をセットにした…プラザ合意(85年)。
…90年代前半…日本に再三、財政出動による内需拡大を要請…。
…9月…20カ国・地域(G20)首脳会議…主要な相手国とにらんだのは中国…。…内需主導の成長を求め…人民元切り下げの圧力も…。
…ドイツは…プラザ合意後…日本とともに内需拡大…政策協調を求められた。…圧力に嫌気がさした西独は…協調から距離を置く…。…87年秋には、それが一因となって株価暴落(ブラックマンデ-)が起こった。
…G20…後、米国がどの程度、ドイツに圧力をかけるかだろう。

世界経済の永遠のテーマのように見える「不均衡是正」


 「インバランス(不均衡)」問題は、資本取引・貿易取引の自由化を選択する限り、なくなりそうもありません。

チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30

 世界全体でみたら、貯蓄と投資は常に等しくならなければならない。なぜなら貯蓄は投資の財源として必要で、ある額の投資(設備投資、住宅投資、公共投資など)を行うには、同額の貯蓄が必要だからである。一方、(1)ある国において投資と貯蓄が常に一致する必要はない。貯蓄が投資を上回れば、余った貯蓄を海外に提供し、逆に投資が貯蓄を上回れば、貯蓄の不足分を海外から借り入れればよい


(注)以下、貯蓄をSavingのS、投資をInvestmentのIで補足します。
経済学で「貯蓄」とは、「所得のうちで、財・サービスの購入に支出されなかったすべて」です。タンス預金でも、財布に入っていても、株や社債の購入にあてても、銀行預金しても、すべて「貯蓄」に含めます。

…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないため、ISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、(2)資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない

 上記(1)部分が、(2)①資本収支収支赤字経常(貿易)黒字国、②資本収支黒字国経常(貿易)赤字国になります。

 ①は日本、中国,ドイツなどの経常(貿易)黒字国、②はアメリカなどの経常(貿易)赤字国になります。そのインバランス(不均衡)是正しようというのが、下記記事になります。

…G20は世界経済の不均衡是正に向けた国際協調の検討…米国などの経常赤字国が消費を抑制し輸出を増やす一方、中国などの経常黒字国が内需を拡大し輸出依存を引き下げる。
…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識が米提案の背景…
…しかし、ガイトナー長官は24日、日米財務省会談後に「強いドルは米国にとって非常に重要だ」と強調した。財政資金の半分を中国や日本など海外マネーに依存する米国にとって資金流入の減少につながるドル安政策に動きにくい…不均衡是正の有効な策は見いだせないのが現状だ。


 世界経済の不均衡 日経H21.9.26

9.26経常収支不均衡.jpg

9.26 不均衡の構図.jpg
(グラフも)

…国際収支上は、米国が巨額の経常赤字を抱える一方で、日本などが経常黒字を計上する格好となる。過剰消費を繰り返す米国に対して中国などで過剰貯蓄が続く構図は、世界経済の不均衡(グローバル・インバランス)と呼ばれている。

<お金の貸し借りが原因、貿易黒字(赤字)は結果>

竹森俊平 慶大経済学部教授 『世界的な需要大幅減の背後に奇妙なるグローバルインバランス』週間ダイヤモンド 2009.4.4 

…世界的な問題には…米国を中心とした近年の国際貸借の増加、いわゆる「グローバルインバランス」問題がありました。
…「インバランス」というと、なにか悪いことのように感じられますが、海外から資本を借りている国もあれば、貸している国もあること自体は、国際資本取引の上ではおかしな話ではありません。


 お金の貸し借りは、善いとか悪いとかの対象ではありません。お金の貸し借りは、財(モノ・サービス)の面から見れば、貿易赤(黒)字になるのです。
 ただ、米国だけが、世界中の投資を,1人で引き受ける(裏には貿易赤字)と、アメリカ国内の住宅バブル崩壊で、世界中に金融危機が波及するという事態を、招いてしまいます。要は「行き過ぎ」はまずいということですね。

 インバランスは「国際間のカネの貸し借り」が原因です。これが、貿易不均衡という結果を招きます。ですから、「貿易不均衡がまずいというのは、お金の貸し借りはまずいと言っているのとおなじこと (野口旭『グローバル経済を学ぶ』ちくま新書2007 p188)」になります。

三面等価 汎用.jpg

22.1.24用

 経常(貿易)黒字は、貯蓄超過から生まれ、海外への貸し出し額と同意なのです。

…資本、おカネの流れは、財の流れという側面から見ることもできます。
 そもそも米国に流れ込んだアジアの国々のおカネ(上図③)とは、本質的には過剰貯蓄、つまり消費(上図①)にも投資(上図②)にも使われないおカネです。過剰貯蓄の存在は、そのぶんだけ生産されたモノ(上図④)に対する需要が欠如している状態を意味します。
「経常収支の赤字=海外からの純借入額=国内投資の国内貯蓄超過額」と頭にいれておいてください。


はい、ここで、竹森先生の、重要な式が、提示されました。アメリカの場合は下記の式でA側から見た見方になります。一方、日本や中国、ドイツは、全く逆のBからの方向になります。

A→経常収支の赤字=海外からの純借入額≡国内投資の国内貯蓄超過額←B

 …生産所得(上図④)のうち消費で使われないぶん(上図⑤)つまり貯蓄に見合った投資(上図②=政府の投資と企業の投資)があれば、生産所得と総支出は均衡することになります。

 貯蓄額=投資額なら、経常黒字(海外への貸し出し)は生まれません。

…アジアの国々が国内投資を抑制し、国内貯蓄を余らせた状態(過剰貯蓄)…しかるにそのとき、米国はアジアの余剰貯蓄を借り入れる一方、自国の貯蓄は減らしてそのぶん消費を増やし、投資も旺盛に行っていた。その結果、世界経済の生産余剰を米国の投資と消費が埋め…要するに…表裏一体の現象なのです。

 「貯蓄>投資」国≡「貯蓄<投資」国

 ですから、貿易黒字はもうけではなく、海外への貸し付け額なのです。例えば、日本国内/中国国内・ドイツ国内には環流しないおカネなのです。
 海外への貸し付け(投資)とは、外国の国債、社債、株、外国銀行への預金(外国銀行から見たら負債です)などです。

投資してもらっている国から見ます。

 ある会社の株式が、外国人によって買われているということです。
 ある会社の社債を、外国人が購入している状態です。
 ある銀行の預金を、外国人がしていることです。
 ある国の国債を、外国人が購入している状態です。
 ある国の不動産の持ち主が、外国人の場合です。

 株式の50%超を外国人が持っている、ヤマダ電機や、日産は、外国企業です。日本の国債の4%~7%ほどは、外国人が購入しています。北海道のニセコにある長期滞在型のホテルやコンドミニアムは、オーストラリア人が購入しています。

 日本から見たら、「負債」になります。しかし、日本のGDI(国内総所得)は伸びます。企業も、銀行も、建設、不動産業もです。これらの企業にとって、買ってくれるのは、日本人であれ、外国人であれ、誰でもかまわないのです。

 だから、「貿易黒(赤)字と、経済成長は無関係」なのです。

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ISバランス論 『越渓:民主党の経済政策の実現性』日経H21.9.26

『越渓:民主党の経済政策の実現性』日経H21.9.26

…民主党は財源については…特別会計…埋蔵金、…公務員の天下りの禁止などによって賄えると主張している。…妥当性は疑わしい。
…こうしたことを考えれば、財源として長期の国債に依存すべきではないだろうか。…公債依存は負担を子孫に回すばかりで、その負担は年々積み重なり、国家の破産を招くという。だが仮に毎年20兆円の公債を発行すれば、それを買う国民の金融資産を年20兆円増やすわけで、借金の先送りではない。…P・サミュエルソンやJ・スティグリッツのような有力な学者は、現在の日本では国債の増発が唯一の解決策だと言っている。


<国債は借金ではない>

日本は「貯蓄超過」なのです。
三面等価の図を見ましょう。
三面等価 汎用.jpg
三面等価 数値入り.jpg
日本貯蓄超過

ここから、(S-I)=(G-T)+(EX-IM)という関係がわかります。左辺(S-I)が0(つまり、国民の貯蓄を、企業投資で使い切っている状態)なら、財政赤字(G-T)と、貿易黒字(EX-IM)の合計は0です。

 国民の貯蓄超過がなくならない限り、財政赤字(G-T)+貿易黒字(EX-IM)は必ずトータルプラスで発生します。

 三面等価の図を見ましょう。ここから、S-I=(G-T)+(EX-IM)という関係がわかります。国民の貯蓄(S)が(G-T)に充てられています。ですから、 「国債は政府の借金=国民の財産」です。

 この借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。我々が預貯金をしたり、生命保険金を支払ったりしたお金が、国債の購入に当てられています。しかも、国債の金利は、銀行や郵貯、保険会社の利益(GDPに算入)です。将来の世代が、その利子を受け取るのです。

 約668兆円の国債のうち、94%=約628兆円は、我々日本人が持っているのです(海外の6%を除く 下記グラフ参照)。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約45%は国債なのです。

帝国書院『アクセス現代社会2009』P134帝国書院『アクセス現代社会2009』P134 家計の金融資産残高の推移.jpg

日経21.6.27
国債購入者 日経21.6.27

家計→金融機関→国債購入なのです。

<貯蓄超過のプラス・マイナス面>

竹森俊平『経済危機は9つの顔を持つ』日経BP社 2009

竹森俊平と、竹中平蔵の対談です。

P430
竹中
 ・・・昔、大蔵省の時代、財政金融研究所にいたとき、変なリサーチをやらされたことがあります。それは経済学の手法なんかは全然使わないもので、こんなリサーチに意味があるのかと最初は反発したのですが、やってみてすごく面白かった。
 それは、ナポレオン戦争後のフランス、あるいは、第一次世界大戦の後のイギリスは、どのようにして赤字問題を解決したのかというものです。よく赤字を減らすとか、借金を返すとか言いますが、借金を返した国なんかないんです。借金を返すことなんてできません

竹森 
 残高が相対的に小さくなっていったということですね。

竹中 
 そういうことです。残高を増やさないようにして、その間に経済成長するから、2%成長で30何年したらGDPが2倍になるから半分になると。この手法しかありません。やっぱり成長をすることは、ものすごく重要なことだと思うんです。


 昨年のリーマン・ショック以降の金融危機で、外国資本に依存していた国では、とんでもないことが起こっています。参考文献:竹森俊平『経済危機は9つの顔を持つ』日経BP社 2009

 アイルランドでは、国が預金の全額保証、銀行間取引の信用を保証、金融機関に対する資本注入を決めます。しかし、「アイルランド政府がそれに耐えられるかどうか」という財政不安から、アイルランド国債金利が上昇します。その不安を鎮めるため、アイルランド政府は増税を迫られています。「大不況下で、増税しなければならない」など、経済政策としては、もっともやってはいけないことをやらざるを得ないかもしれません。

 イギリスも同様です。銀行の保護策を発表後、国債金利が上昇します。景気刺激策の一方で、増税しているのです。イギリスは、国債のトリプルAからの格下げを心配する状態に陥っています。

P410
竹森 
 ・・・今回の危機において、危機前に海外から資本を大々的に借り入れていた国は、深刻な不況の最中に増税を迫られるような状況にたたされているわけです。資本借り入れ国にとっては、トリプルAから一段下げられることすら心配・・・トリプルAを外されれば、MMFのポート・フォリオに組み込むことさえできない
(筆者注:資産と見なされない)でしょうから。

 1997年のアジア金融危機も同様でした。タイを始め、外国は新興国から一斉に資本を引き上げました。タイや韓国は「国庫が破産」状態になり、IMFから緊急融資をしてもらい、なんとか危機をしのいだのです。韓国では「国民の貴金属を国に提供する」といったキャンペーンまで行われました。

 ところが、日本は、貯蓄超過(S-Iがプラス)です。外資を引き上げられた国は、上記のように、瞬く間に危機に陥りますが、日本の「失われた10年」の際には、危機的状況に、追い込まれませんでした。国内資本の貸し借り問題だったからです。

 その一方、解決に10年もかかってしまったのも、貯蓄超過があったからです。

P412~
竹中 
 なぜ「失われた10年」になったかというと、危機にならなかったからです。

竹森 
 それは貯蓄があったからですね

竹中 
 そうです。貯蓄があったからです。国内でファイナンスできる。・・・財政赤字というのは政府部門の負の貯蓄(筆者注:借り入れのこと)です。これを補うために、これは貯蓄投資バランスの鉄則(筆者注:GDPの三面等価・貯蓄投資バランス・ISバランスのこと)として、誰かがどこかで貯蓄していなければいけませんね。・・・日本は貯蓄投資のバランスから考えて、国内に非常に大きなプラスの貯蓄がある。それでファイナンスできたのです。・・・日本は通貨の価値は落ちませんでした。むしろ上がり、1995年が円高のピークです。

三面等価 数値入り.jpg

 また、「内需」か「外需」かについても、貯蓄が絡みます。

P414
竹森 
 今回の危機で、日本の輸出が大きく落ち込んだから、これからは日本経済を内需型にしようという議論があります。・・・内需型経済というのは、要するに国内の貯蓄が国内の投資にほとんど向かい、場合によっては海外の貯蓄まで引っ張ってくる経済(注)ということですから、それだけの資金を国内の投資先に引きつける金融市場がなければならない。

竹中 
 おっしゃるとおりです・・・金融がしっかりすることが求められているわけです。


注)S-Iがゼロの状態日本の高度成長期は、投資(I)が盛んで、国内貯蓄をほとんど使い切っていた。だから、財政赤字=公債(G-T)も、貿易黒字(EX-IM)も、高度成長期には、発生しなかった


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貯蓄-投資差額論(ISバランス論)を学ぶ その4

次回の記事の更新は、11月3日(火)になります。


新聞を解説 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』その4 日経H21.9.30

<貯蓄-投資差額論(ISバランス論)を学ぶ その4>

…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないためISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、 (2)資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない

日本の貯蓄投資バランス推移.jpg

 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』日経H21.9.30
世界全体でみたら、貯蓄と投資は常に等しくならなければならない。なぜなら貯蓄は投資の財源として必要で、ある額の投資(設備投資、住宅投資、公共投資など)を行うには、同額の貯蓄が必要だからである。一方、 (1) ある国において投資と貯蓄が常に一致する必要はない。貯蓄が投資を上回れば、余った貯蓄を海外に提供し、逆に投資が貯蓄を上回れば、貯蓄の不足分を海外から借り入れればよい


上記(1)部分が、(2)①資本収支収支赤字経常(貿易)黒字国、②資本収支黒字国経常(貿易)赤字国になります。

 ①は日本、中国などの経常(貿易)黒字国、②はアメリカなどの経常(貿易)赤字国になります。そのインバランス(不均衡)是正しようというのが、下記記事になります。

…G20は世界経済の不均衡是正に向けた国際協調の検討…米国などの経常赤字国が消費を抑制し輸出を増やす一方、中国などの経常黒字国が内需を拡大し輸出依存を引き下げる。
…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識が米提案の背景…>…しかし、ガイトナー長官は24日、日米財務省会談後に「強いドルは米国にとって非常に重要だ」と強調した。財政資金の半分を中国や日本など海外マネーに依存する米国にとって資金流入の減少につながるドル安政策に動きにくい…不均衡是正の有効な策は見いだせないのが現状だ。


 世界経済の不均衡 日経H21.9.26(グラフも)
…国際収支上は、米国が巨額の経常赤字を抱える一方で、日本などが経常黒字を計上する格好となる。過剰消費を繰り返す米国に対して中国などで過剰貯蓄が続く構図は、世界経済の不均衡(グローバル・インバランス)と呼ばれている

9.26経常収支不均衡.jpg
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<お金の貸し借りが原因、貿易黒字(赤字)は結果>

…過剰消費体質の米国への輸出拡大で日本、中国、ドイツなどの経常黒字が膨らむ一方、米国は経常赤字が増え、借り入れが限界に来たことが金融危機を引き起こした-こうした認識

 という部分ですが、確か、今回の世界的金融危機の際に、ポールソン米財務長官も「中国などの過剰貯蓄が原因」という説を述べていました。

「金融危機の原因は中国の高貯蓄率」は責任逃れ
 まもなく任期を終えるポールソン米財務長官はこのほど、英紙「フィナンシャルタイムズ」のインタビューを受け、国際金融危機の原因の一部は、中国など新興市場国家の高い貯蓄率が世界経済の不均衡を呼び、米国にあふれた資金が米国の投資者に高いリスクの資産を買わせることにつながったことだとの見方を示した。これより1週間ほど前、米紙「ニューヨークタイムズ」には、「米国のバブルをふくらませた中国の貯蓄」と題した記事が発表された。この記事によると、FRBのバーナンキ議長は早い時期から「米国の債務問題は米国人の消費過剰のためではなく外国人の貯蓄過剰のためだ」と指摘していた。そしてこの「外国人」の代表格となるのは中国人だという。
人民網日本語版 http://j.people.com.cn/94476/6570538.html


9.26 不均衡の構図.jpg

 しかし、これは、やはり記事のとおり、「責任転嫁」でしょう。もともと、「米国に投資しよう」と呼びかけるようになったのは、米財務長官ルービンが就任し、「強いドル」政策を宣言して過剰消費大国になった95年からです。アメリカが金融緩和(銀行が投資会社や証券会社を子会社としてガンガン運営)をし、金融で儲ける構造改革を進めたのが先(原因)です。

<ルービン財務長官の登場>

1993年1月クリントン政権発足=アメリカ経済の再生
国家経済会議(National Econonomics Council)の新設
Robert Rubinゴールドマンサックス共同会長が議長就任(95年~99年:財務長官)

 彼は、「ウォール街を活性化させ、金融の力でアメリカ経済を再生」させるシナリオを持っていました。それまでの、

農界・製造界:ドル安 VS ウォール街:「ドル高」
の対立に決着をつけたのです。

 1995年には、:$1=79円という、記録的な円高ドル安になります。ルービン財務長宮は、ドル高政策『ドル高は国益だ、強いドルこそ国益だ』繰り返します

強いドル=対米資金流入 → 株高 + 金利引下げ = 経済成長
→経常収支赤字の制約を緩和=資本が入りファイナンスする

 当時の、ルービン財務長官の発言です。

“金融サービス業は21世紀型産業の真髄であります。その急速な成長は、IT と通信に基づくものであり、真にグローバルなのです。テレコム・サービス協定と情報技術協定に続く金融サービス協定の締結は、21世紀の経済基盤を構築するトリプルプレーの完成なのであります”(1997.3)

 マネー・フローは、経常黒字国から、赤字国に流れます。アメリカの経常収支赤字額<対米資金流入額となり、1997年には、その額は経常収支赤字の5.4倍にも上ります。これが、アメリカによる海外投資の原資になります。

黒字国→赤宇国(アメリカ)→海外投資

 当時、バブルとも言われたアメリカ株は、有望な投資対象でした(IT関連企業株式)。相対的に安全で流動的な金融資産を、相対的に高い利回りで提供していたのです。
         
 黒字国からの資金流入→資金運用の場=アメリカ(金融仲介業)→世界に再投資(アジア、ラテンアメリカ=エマージング諸国)

 アメリカのプロの金融機関が、ショックを吸収しながら、世界中の資金を運用していたんですね。

新聞を解説 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』その3 日経H21.9.30

新聞を解説 チャールズ・ユウジ・ホリオカ『経済教室』その3 日経H21.9.30

<貯蓄-投資差額論(ISバランス論)を学ぶ その3>

…ある経済またはある制度部門の貯蓄投資差額(貯蓄-投資)は「ISバランス」という。なお、経済全体のISバランスはネットで貯蓄がどのくらい海外に流れているかをとらえており、資本収支の赤字を意味する。また、国際収支は全体として均衡しなければならないためISバランスが正(筆者注:プラス、貯蓄超過の状態)であり、資本収支が赤字であれば、貿易収支を含む経常収支はほぼ同額の黒字にならなければならず、逆にISバランスが負であり、資本収支が黒字であれば、経常収支はほぼ同額の赤字にならなければならない

日本の貯蓄投資バランス推移.jpg


…では、今後はどのように推移するのであろうか。経済全体のISバランス・経常収支の推移は各制度部門の貯蓄と投資の推移に依存する…まず、貯蓄について考えると、今後人□がさらに高齢化し、日本は世界一の超高齢社企になると予測されており、家計貯蓄は一段と減少すると考えられる。

…経済全体で貯蓄が減少し、投資が増加すれば、ISバランスのプラス幅が縮まり、結局、経常収支の黒字も減少すると考えられる。つまり、01年以降のISバランス・経常収支の黒字の拡大は一時的な現象で、近く終息し、赤字に転じる可能性も十分あると考える。


<日本は、貿易赤字になる…>

東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313
東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313.jpg

 日本の貯蓄率は,先進国の中で,最も高い水準だったのです。その貯蓄率は,今後どうなるでしょうか。実は,日本の貯蓄率は,すでにドイツ・フランスを下回り,2020年には家計貯蓄率はゼロになると予測されています。

独仏を下回った日本の家計貯蓄率

櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106.jpg

2020年頃には家計貯蓄率はゼロに  

櫨浩一2006年 p106
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

 これもやはり,少子高齢化が影響しています。一般に,若いときは働いて貯蓄し,年をとってからは,その貯蓄を取り崩して生活します。高齢層の比率が高まると,若い世代は貯蓄をしても,高齢者世代が取り崩すので,全体として貯蓄率は低下するのです。
isバランス新.jpg

日本貯蓄超過

 現在の日本では,左辺のSが高い(貯蓄率が高い)ので,右辺がプラスでしたね。2005年の民間貯蓄は,約144兆円,GNIの28%にあたります。しかし,この貯蓄率,特に個人の貯蓄率が低下しています。2020年にはゼロになることが予測されています

 そうすると,上記の式はどうなるでしょうか。左辺が縮小,もしくはゼロ,またはマイナスになります。財政赤字が少し減ったと予想してみましょうか。そうすると・・
日本貯蓄超過今後

 このように,左辺と右辺は必ず等しくなるので,日本は,必ず「貿易赤字」になります

 貿易赤字=資本収支黒字なので、外国から日本への投資が、増えることを示します。
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