新聞の間違いその2 日経 大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

日経大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

…政府の財政赤字が先進国で最悪の状況にあることはよく知られている。これは2つの面で経済状況をさらに悪化させる可能性が大きい。
…第1は、国民の貯蓄の大きな部分を財政が食ってしまうことにより、民間設備投資への資金供給のパイプが細くなり、日本経済の潜在成長率を低下させてしまうことだ。

…財政赤字削減に向けての具体的プログラムを策定することだろう。
…巨大な財政赤字と失業に見舞われていたクリントン政権が最初に取り組んだ最重要テーマがこれだった。
クリントン政権は、財政赤字を放置すると、金融市場の混乱を通じて金融危機を招来し、国民の雇用を守れなくなるという論理で議会を説得し、増税および歳出削減を実現させた。


<クラウディング・アウト>

…第1は、国民の貯蓄の大きな部分を財政が食ってしまうことにより、民間設備投資への資金供給のパイプが細くなり、日本経済の潜在成長率を低下させてしまうことだ。

 財政赤字が拡大する(国債発行)と、民間投資に回るはずのカネが足りなくなり(資金枯渇)、利率が上昇し、投資の減退に繋がるとする理論を、「クラウディング・アウト」といいます。
 ですが、日本で、「クラウディング・アウト」が生じたことはありません。日本は、「カネ余り=最低の金利」が続いています。

 政策金利(短期金利)も、長期金利も、「史上最低」です

日本 政策金利 推移
各国 長期金利 推移

企業にとっては、カネ借り放題です。

 本来、企業に貸し出されるはずのカネが、銀行にとどまっています。

日経 H22.1.13
『債券相場の上値重く』
…12日の債券市場では…新発10年もの国債の利回りが一時、前週末比0.025%低下(価格は上昇)…。

国内大手銀行は引き続き余剰資金を抱えている。日銀が12日に発表した昨年12月の「貸出・資金吸収動向」によると、大手銀が個人や企業などから集めた預金(実質預金+譲渡性預金)の平均残高は貸出残高を上回り、差は4ヶ月ぶりの大きさに広がった。…「景気回復の期待が薄い日本では、国債投資が増え、金利は押し下げられる」(シティグループ証券の佐野和彦氏)との見方…。

貯蓄超過 資金余剰

 日本は、投資先がない、貯蓄超過なのです。貸出先がないので、銀行は「国債」を購入します。

金余り=金利安

三面等価 2008

 この三面等価の図を見ても、 「国民の貯蓄の大きな部分を財政が食ってしまうことにより、民間設備投資への資金供給のパイプが細くなり」という、財政赤字が、企業の投資額を食ってしまう心配はまったくないことが分かります。

<クリントン時代>

グラフデータ出典 2005年版通商白書および世界経済ネタ帳
アメリカ 財政赤字

 このグラフを見ると、クリントン末期時代(1998~2001)に財政赤字は生じていないことが分かります。冷戦構造の終結による軍事費削減と、経済回復によるものです。
 ですが、そのあと米国の財政は、赤字になり、今も赤字です。2001年以降の、対テロによる、軍事費拡大が主な理由です。

グラフ出典 世界経済の潮流2009年 II-雇用危機下の出口戦略:景気回復はいつ?出口はどのように?- 
平成21年11月内閣府

アメリカ 財政赤字

 ですが、アメリカのGDPは伸び続けています。
アメリカ 日本 GDP

 経済成長と、財政赤字は関係がないことが分かります。財政が赤字になろうが、黒字になろうが、経済成長率とは関係ありません

「財政赤字+経常赤字=双子の赤字」など、経済成長=所得増加にまったく関係のないことが分かります。ブログカテゴリ レーガノミクス双子の赤字参照
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新聞の間違い 日経 大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

<新聞の間違い>

 日経 大機小機『財政赤字削減の道筋を早く』H22.6.5

…政府の財政赤字が先進国で最悪の状況にあることはよく知られている。これは2つの面で経済状況をさらに悪化させる可能性が大きい。
…このままではまもなく長期債務残高は、国内総生産(GDP)の2倍に達する。欧州諸国の過去の経験から、2.5倍を超えると管理不能になるという研究がある。国民の間に債務不履行の疑念が少しでも出てくると、金融市場の混乱や金利の大幅上昇を通じて、債務が債務を膨らませるという最悪の状況に陥りかねない。



<国債は政府の借金=国民の財産>

「国債は政府の借金=国民の財産」です。これらの借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。約846兆円のうち、94.8%=約802兆円は、我々日本人が持っているのです(単純計算です。国債を海外が購入している、5.2%という数値を使用しました)。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約50%は国の借入金なのです。

日経H22.5.11

米国 国債 保有状況

債務残高 GDP比.jpg

<国債増はどこまで可能か>

「国はいくら国債を発行しても倒産することはないと考えて良いのでしょうか。結論から言えばそのとおりです。現代の管理通貨制の下では自国通貨建ての国債をいくら発行してもそれが理由で国が倒産することはありえ (下線部筆者)」
ないのです。
岩村充 『貨幣の経済学』集英社 2008 p153 

 同書では,「国債は政府の株式」に例えられています。また、国債は通貨制度のアンカー(昔の金本位制度における金)だと喝破しています。


 日本円の通貨価値を支えているのが国債です。日銀は国債を購入し(資産)、日本円を発行(負債)しています。国債暴落=日本円暴落=日本円価値下落(インフレ)、最悪の場合、日本円が紙切れ=国債が紙切れになって終わりです。
2010.5.12 本ブログ記事参照

 日本国がデフォルト(債務不履行)になるわけではありません。

 ですが、実際には、発行額がどの程度大丈夫なのかは、「わからない」というのが、経済学による回答です。答えられないんですね。「2.5倍を超えると管理不能になるという研究」も、実際にはありません。

西孝『マクロ経済学講義 イントロダクション』日本評論社 2002
p37-38
…財政赤字はいかに巨額になっても全く問題ないのでしょうか。そうではありません。以下のような問題が指摘されています。
1.政府が借金を返済できず、破産する。
2.政府支出の大半が借金の返済に向けられるため、本来の目的に使えない。
3.借金返済のため増税される人と、返済を受け取る人との間で、望ましくない所得の再分配が生じる。


1について

…どのくらいの借金が本当に危険信号であるかについては、あまり確実なことはわかっていないというのが実情です。

 
竹森俊平と、竹中平蔵の対談です。

竹森俊平『経済危機は9つの顔を持つ』日経BP社 2009P430
竹中
・・・昔、大蔵省の時代、財政金融研究所にいたとき、変なリサーチをやらされたことがあります。それは経済学の手法なんかは全然使わないもので、こんなリサーチに意味があるのかと最初は反発したのですが、やってみてすごく面白かった。
 それは、ナポレオン戦争後のフランス、あるいは、第一次世界大戦の後のイギリスは、どのようにして赤字問題を解決したのかというものです。よく赤字を減らすとか、借金を返すとか言いますが、借金を返した国なんかないんです。借金を返すことなんてできません
竹森 残高が相対的に小さくなっていったということですね。
竹中 そういうことです。残高を増やさないようにして、その間に経済成長するから、2%成長で30何年したらGDPが2倍になるから半分になると。この手法しかありません。やっぱり成長をすることは、ものすごく重要なことだと思うんです。


2について

「だったら、さらに借金すればいいじゃないか」という人がいそうですが、それは雪だるま式に1.の危険を高めることになります。借り続けるためには、信用が大事なのです。

3について

…だれが便益を受けて、だれがどれだけ負担をし、それが公正であるかどうかを判断するには、たんに「将来世代」などという漠然とした表現では不十分なのです。「どの世代にどのような便益と負担が生じるか」という問い方でなければなりません。

西孝『マクロ経済学講義 イントロダクション』日本評論社 2002  p37-38
 いずれにしても、「国の借金がこんな膨大になってけしからん」といった議論には気をつけましょう。それを肯定する議論も否定する議論も、それほど単純ではないのです。残念ながら現在のマクロ経済学は、これにちゃんとした答えを出せていません


<どうすればよいのか>

1 経済成長率>国債利率

 企業が借金をするのを、借金経営とはいいません一部上場企業における他人資本の割合の平均は、6割です。借金をしていない企業は、ないといっても良いでしょう。

上場企業の資産と,負債を示した,貸借対照表(バランス・シート)です。
出典『日本経済新聞』H21.4.14 2008年9月末現在。金融機関を除く,1690社が対象。
企業 借金

 ②部分に,資本金が含まれます。いわゆる,株式です。①部分が,銀行や,ほかの会社,国民から借りた負債です。社債や,借入金です。

 企業が借金をするのは、金利<売り上げが見込めるからです。金利と売り上げの差が、利益だからです。(これはものすごく単純化しています)
 100万借りて、105万売り上げ、102万返す。3万円が利益です。このような企業の活動を「借金経営」と避難することはありません。

 国債も同様です。日本政府が借りて投資(消費)をします。日本国全体のGDP成長率が、金利を上回れば、公債費は財政にとって負担にはならないのです。成長率>金利です。金利が現在1.2~1.3%台なのですから、GDP成長率はこれを上回ればよいのです。

2 消費税増税


 日本の2008年の財政赤字(G-T)は6兆1310億円です。

三面等価 2008

 日本の消費Cは、約291兆円です。消費税を2%引き上げると、財政赤字(G-T)の6兆1310億円が補えることがわかります。国と地方が、現在発行しなければならない債務を、消費税を7%にすることで、「無借金経営」にすることが出来ます。これは、不可能な数字ではありません。財政赤字は、消費税にしたら、2%~多くても5%程度の額です。

 大竹文雄(大阪大学教授)『ニッポン復活の10年』日本経済新聞H22.1.9
日本の財政赤字が突出して大きいのは政府の規模が大きいからではなく,税収があまりにも少ないため。国債相場が暴落しないのは,消費税率などを国際標準に合わせてゆけば十分に税収があがるという合意が市場関係者にあるからだ。


消費税率

「国債相場が暴落しないのは,消費税率などを国際標準に合わせてゆけば十分に税収があがるという合意が市場関係者にあるからだ」というのは,上記のグラフを見れば明らかです。

 これを見れば,8~13%,10~15%程度でしたら,現実的な選択肢として十分にあり得ることがわかります。財政赤字(G-T)を無くすなら,10%程度で十分です。日本国として,決して実現不可能な数値ではありません。

消費税を2%~多くても5%程度増やせばいいのです。税率7%~10%で財政赤字は0なのです。

<日銀法>

 日銀法第2条で、日銀の目的は「物価の安定」とされています。「物価の安定」=「通貨価値の安定」のことです。国債暴落=日本円暴落です。これは「日銀法違反」になります。日銀は法律違反しても、「国債暴落」を容認するのでしょうか?

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新聞の間違い 読売 社説『ギリシャ危機の飛び火を防げ』H22.5.8

<新聞の間違い>

読売 社説『ギリシャ危機の飛び火を防げ』H22.5.8 数字は筆者

 欧州各国と国際通貨基金 (IMF) が深刻な財政危機にあえぐギリシャに最大1100億ユーロ(約13兆円)の支援を決めたというのに、世界の金融市場で動揺が続いている。
①6日のニューヨーク市場は…ダウ平均株価は一時10000ドルの大台を割った。…7日の東京市場は全面安となり、平均株価の下げ幅は一時400円を超えた。
 上海や香港などアジアの主要市場も軒並み下落し、世界同時株安の様相を見せている。ギリシャから始まった欧州発の混乱は日本にとって決して「対岸の火事」ではない。
…景気に不安を抱える②日本は財政悪化も深刻だ。日本の国債は95%が国内で安定的に消化されており、7割を海外の投資家が所有するギリシャ国債と事情が違う。だが、ギリシャの経済混乱は国債の格付が引き下げられることがきっかけだ。日本も二の舞にならないよう他山の石としなければならない。


<日本は、財政破綻できない>

 矛盾しています。世界同時株安⇒投資家は、安心する銘柄に投資⇒日本国債へマネー流入と、同じ紙面ページに書いてあります。ですが一方で「日本も二の舞」と表現します。同日同紙面同ページ記事です。

『投資マネー、一気に逃避  世界株安 日米債権・金へ流入』数字は筆者

日米欧で株価の下落が続き、ギリシャの財政危機をきっかけにした金融市場の動揺が収まらない。③…投資家が、マネーを、株式から「安全資産」である日米の債権などに逃避させる動きが鮮明になってきた。
…欧州各地で財政問題が深刻化するとの懸念も強い。7日の欧州債券市場ではギリシャ国際(10年物)が早朝に一時、2001年にユーロ圏入りして以来で最高の年15%台(筆者注:金利のこと)まで急騰したほか、財政が悪化しているポルトガル国債も年7%台、アイルランド国債も年6%台まで一時上場した。
④…国内外の投資家が各国株式市場でリスクを取って投資することを避け、安全資産にマネーを逃避させる姿勢が鮮明になっている。…日本国債(10年物)も7日の終値で年1.28%と低い水準だった。欧州のマネーが日米の債券市場に流れ込んでいる構図だ。


 「日本国債は安全資産」だと、言っています。

金利が高い=国債価格下落(信用失墜)、金利が低い=国債価格上昇のことです。

国債価格下落=金利上昇

 ですから、債券の人気高い=金利低い、債券人気下落=金利上昇となります。
 いくら、10%の金利のクーポンだとしても、その国が、本当にその国債のクーポンを払ってくれるかどうか、また、国債を完全に償還してくれるのかどうか、不安になると、国際価格は下落します。
 これが、ギリシャやポルトガル、アイスランドの国債価格下落=金利上昇です。では、日本の国債はどうなのでしょうか。

④…国内外の投資家が各国株式市場でリスクを取って投資することを避け、安全資産にマネーを逃避させる姿勢が鮮明になっている。…日本国債(10年物)も7日の終値で年1.28%と低い水準だった。欧州のマネーが日米の債券市場に流れ込んでいる構図だ。

 欧州国債と、まるっきり反対です。国債価格上昇=金利低下です。つまり、 「日本の国債」は、世界一「安全な資産」だから、マネーが殺到し(人気があるので、国債価格上昇)=金利が低下しているのです。

ギリシャ危機後 日本国債利回り 日経H22.5.8グラフ
ギリシャ金融危機後 日本国債金利

ギリシャ国債 利回り 日経H22.5.12グラフ

ギリシャ 国債.jpg


 投資家は、日本国債を買っています。日本国債価格上昇=金利低下です。

同じく、同日の読売記事です。
読売 『株「不安が不安呼ぶ」世界同時安』H22.5.8 グラフも

…株価は当面、下落基調を続けるとの見方が多い。市場では資金の「質への逃避」が進み、安全資産の金や日米などの国債に資金が流入しているほか…円買いが強まっている


ギリシャ金融危機後 日本円高

 日本国債購入=日本円高です。安全資産=日本円=日本円高(低金利の日本円購入し、外国に投資していたカネが、日本円に戻っている)です。

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新聞の間違い(36) 論説委員長平田育夫 その2 『日本国債いつ火を噴くか』日経2009年12月20日

 論説委員長平田育夫『日本国債いつ火を噴くか』日経2009年12月20日

 …日本は、外貨建ての国債を出していないし、国債の93%も国内の金融機関や、個人が持つ。だから、両国の(筆者注:外国資本が、逃げ出し長期金利の上昇した、ギリシャ・スペイン)のようにはならない、というのが、常識的な見方だ。
 …個人の金融資産は、個人負債を除き、1065兆円。一方、国と地方の長期債務残高は、825兆円で今後も増える。2010年代中には、個人資産を、全部充てても、公債費を、買い切れなくなる
 …日銀の国債買い入れ拡大も、もろ刃の剣。これまでの買い入れ拡大は、賃金の上昇を押さえるのに役立ったという見方もある。だが、やり過ぎれば、制御不能のインフレや、金利上昇を招く
 …いま、年1.2%台の10年物国債利回りが、米国と同じ。3.6%になるとしよう。国の利払い費は新規国債を出さなくても、7~8年後には、約12兆円膨らむ。今年度の消費税収9.4兆円を上回る額で、財政をさらに悪化させ、後世代の負担を増やす。金利の上昇は、設備投資を冷やすなど経済への打撃も大きなものになる
 …財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。


あまりにも間違いが多いので、赤で示しました。


…日銀の国債買い入れ拡大も、もろ刃の剣。これまでの買い入れ拡大は、賃金の上昇を押さえるのに役立ったという見方もある。だが、やり過ぎれば、制御不能のインフレや、金利上昇を招く

…財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。


 債券価格下落=金利上昇

国債価格下落=金利上昇

 ですから、債券の人気高い=金利低い、債券人気下落=金利上昇となります。いくら、10%の金利のクーポンだとしても、世の中の金利が、1年後に、15%に上がっていれば、この国債は、100万円では絶対に売れません。だまっていてもお金を貸せば15%の金利が手に入るのに、わざわざ金利10%の商品を買う人はいません。最低でも、世間の金利(この場合15%)がつかないと、この国債を買う人はいません。結果、国債の価格を下げて売ることになります。

 さて、新聞記事は、「国債の価格下落(買い手がいない)→長期金利上昇、インフレ→大変なことになる」と、例によって危機感をあおりますが・・・

…いま、年1.2%台の10年物国債利回りが、米国と同じ3.6%になるとしよう。国の利払い費は新規国債を出さなくても、7~8年後には、約12兆円膨らむ。今年度の消費税収9.4兆円を上回る額で、財政をさらに悪化させ、後世代の負担を増やす。金利の上昇は、設備投資を冷やすなど経済への打撃も大きなものになる。

…財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出すインフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。

 このようなことは、起こりません。「国債価格下落=金利上昇」がもし現実に起こるとすれば、それは日本が好景気=不況脱出後の話なのです。ということは、「国債価格下落=金利上昇」事態は、日本にとって望ましい状況だということです。

<金利の上下>

参考・引用文献 角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009

 金利=資本(カネ)の値段ですから、需要と供給によって動きます。では、金利はどのような場合に「上下」するのでしょうか。

①不景気になれば、金利は下がる

 これは、日銀の金融政策です。
「不景気→金融緩和→企業の投資促進→景気回復」
これは、景気回復へのスタンダードな処方箋です。

 では、日本の政策金利(長期金利)はどのようになっているでしょうか。

p166www.kanetsu.co.jp/forex/interest_rate/BOJ.html
日本 政策金利 推移

members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/HOMEPAGE1.ppt
各国 長期金利 推移

 史上最低の金利が続いています。ということは、戦後最低の経済の低迷期ということです。

②好景気には、金利は上昇する

 これも、スタンダードです

 景気が良い、上昇→財・サービスの売れ行き増→設備投資・運転資金増→資金需要増→金利上昇

 景気が良いと、企業は金融機関から資金を借り入れたり、手持ちの債券などを売ります。借り入れ需要が高くなると、銀行は金利を上げます。借り手は多くいるからです。銀行も、貸し出し資金を確保するために、手持ちの債券(社債・公債)を売ります(注)。これも、金利上昇の圧力となります。

(注)株券は売りませんよ。なぜなら、景気が良くなる=株価が高くなる=含み益が出るからです。

③インフレで金利は上昇する(デフレで金利は低下する)

 モノ・サービスの値段が上昇傾向です。工場や店舗を建てるのも、資材を購入するのも、「早めにしておこう」となります。投資が活発化します。

A 銀行への資金の借り入れ需要が増大します。需要増→金利上昇です。
B 債券価格は下落します。債権を売却し、現金需要が高まるからです。金利は上昇します。
C 貯蓄意欲は減少します。銀行は金利を引き上げて、資金を集めようとします。

グラフp171
インフレと長期金利角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009.p171

④株安になれば、金利は下がる

 株価が下落します。今後も、株価の下落が予測されます。株式の売りが多くなります。その資金の一部が債権に回ります。(機関投資家は、株でも債権でも、少しでも儲かるほうに投資します…というより、しなければ、年金や満期保険を支払えません)債券価格上昇=金利低下です。

 企業はどうでしょうか。自社の株価が安くってゆけば、株の新規発行も滞ります。その会社の株は、将来的に安くなることが見込まれるからです。そんな株を買う人はいません。会社の設備投資も減少します。
個人も、株安で、含み益が減少すると、消費を抑えます。

株安で、このように、景気が後退局面に入ります。日銀は金利を低下させます。株安→金利低下です。

グラフP174
株価と長期金利 角川総一『なぜ金利が上がると債券は下がるのか』ビジネス教育出版社2009 p174

 では、以上の分析から、金利上昇時は、どのような状態かを示します。

 金利上昇時=好景気・インフレ・株高

 これが、新聞の心配する「惨劇」状態です。そもそも、「日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する」。ですが、「国債価格下落=金利急騰」は、どの程度の金利を示すものか、本人もわかっていないはずです。日本の長期金利や、短期金利の目安だった公定歩合の、近年の頂点は、1990年です。それは、バブル退治の時でした。

 公定歩合は、プラザ合意後、円高不況を回避するため、5%から、1987年に2.5%に引き下げられました。その後バブル景気となり、今度は急激に公定歩合を引き上げ、1991年に6%になりました。長期金利も8%台になっています。思惑通り、景気の過熱は抑えられたのですが、今度はバブル崩壊→長期不況(失われた10年)に突入しました。
 今、短期金利FFレートは、0.1%、長期金利は1.2%台です。どこまで上がれば、「急騰」なんでしょう?

p166www.kanetsu.co.jp/forex/interest_rate/BOJ.html
日本 政策金利 推移

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各国 長期金利 推移

 さらに、「国債価格下落=金利上昇」についてです。

 国債を購入しない(あるいは手放す)、「機関投資家」(銀行・保険・投資信託・証券会社・年金etc)は、では、代わりに何を購入するのでしょう?

 前述したように、保険会社や年金基金は、必ず運用益を出さなければなりません。
(銀行もそうですが、銀行の場合、融資の方が、債券保有より利率が良ければ、債券を手放して融資を増やします)

 保険会社や年金基金は、手持ちの資金を「運用」するしか「益」を出せません。現金だけを持っていても、「益」は出ません。では、国債を手放して「益」が出せるとしたら、それは何で、いつでしょうか。三面等価の図を見てみましょう。
三面等価 2008

「消費を英語のConsumptionの頭文字C,貯蓄をSavingのS,税金をTaxのT」であらわします。すると,分配(所得)は「C++T」という式になります。
 
 経済学で「貯蓄」とは、「所得のうちで、財・サービスの購入に支出されなかったすべて」です。タンス預金でも、財布に入っていても、株や社債の購入にあてても、銀行預金しても、すべて「貯蓄」に含めます。

 国民が貯蓄したS、①企業Iへの貸付であり、②公債(G-T)への貸付であり、③(EX-IM)海外への貸付に回っていることがわかります。企業も、政府も、外国も、日本人の貯蓄から、お金を借りているのです。

 S=126兆円、それがI 119兆円、G-T6兆円、EX-IM700億円に回るのです。EX-IM700億円は、海外へのお金の貸し出しなのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM700億円なのです。

 国民の預貯金Sが、企業投資I、公債費G-T、外国への投資EX-IMの原資です。

 新聞の言うように、「国債価格下落=金利上昇」だとしたら、上記の図で、G-T部分が減ることです。国債を手放し、ほかに買えるものと言えば、I相当部分の社債・株式と、外国への投資EX-IM(外国債、外国株、外国預金、外国金購入)部分しかありません。

 おカネを投資できる箱は、3つしかないのです。(あとは、プラチナとか、金ですか?他には小麦や大豆や石油?残念ながら、これらの市場は世界の資本《クジラ並の大きさ、しかも何百頭も、何万頭もいます》が入るには小さすぎる《プールなみの大きさ》のです。
資本の投資先

 ですが、I(株・社債)が増えるときは、好況期なので、民間投資が活発化したときです。その場合、EX-IMは減少します。

 逆にEX-IMが増えるときは、不況期(民間投資Iの不活発)ですから、新聞が想定する「国債価格下落=金利上昇」時は、I相当部分の社債・株式の購入が増えるときです。それは社債の金利・株式価格の上昇局面です。

 このときを「好況」といいます。民間資金需要が活発化し、金利は高くなり、株価は高くなり、インフレになっているときです。これを新聞は「惨劇」と書いています。

「国債価格下落=金利上昇」は、単独では起こらないのです。株や社債、外国投資と連動して起こるのです。

<追記 貯蓄超過=金余り>

日経 H22.1.13
『債券相場の上値重く』
…12日の債券市場では…新発10年もの国債の利回りが一時、前週末比0.025%低下(価格は上昇)…。

国内大手銀行は引き続き余剰資金を抱えている。日銀が12日に発表した昨年12月の「貸出・資金吸収動向」によると、大手銀が個人や企業などから集めた預金(実質預金+譲渡性預金)の平均残高は貸出残高を上回り、差は4ヶ月ぶりの大きさに広がった。…「景気回復の期待が薄い日本では、国債投資が増え、金利は押し下げられる」(シティグループ証券の佐野和彦氏)との見方…。

貯蓄超過 資金余剰

日本は、投資先がない、貯蓄超過なのです。

金余り=金利安

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新聞の間違い(35)  論説委員長平田育夫 その1 『日本国債いつ火を噴くか』日経2009年12月20日

日経2009年12月20日 論説委員長平田育夫『日本国債いつ火を噴くか』

 …日本は、外貨建ての国債を出していないし、国債の93%も国内の金融機関や、個人が持つ。だから、両国の(筆者注:外国資本が、逃げ出し長期金利の上昇した、ギリシャ・スペイン)のようにはならない、というのが、常識的な見方だ。
 …個人の金融資産は、個人負債を除き、1065兆円。一方、国と地方の長期債務残高は、825兆円で今後も増える。2010年代中には、個人資産を、全部充てても、公債費を、買い切れなくなる
 …日銀の国債買い入れ拡大も、もろ刃の剣。これまでの買い入れ拡大は、賃金の上昇を押さえるのに役立ったという見方もある。だが、やり過ぎれば、制御不能のインフレや、金利上昇を招く
 …いま、年1.2%台の10年物国債利回りが、米国と同じ。3.6%になるとしよう。国の利払い費は新規国債を出さなくても、7~8年後には、約12兆円膨らむ。今年度の消費税収9.4兆円を上回る額で、財政をさらに悪化させ、後世代の負担を増やす。金利の上昇は、設備投資を冷やすなど経済への打撃も大きなものになる
 …財政再建は進まず歳出の半分程度を国債に頼り続ける。日銀は大幅な国債購入に乗り出す。インフレ懸念や財政悪化懸念が高まり、長期金利も急騰する。その惨劇の幕が上がるのはズバリ来年、財政運営への不信感がきっかけになる。


あまりにも間違いが多いので、赤で示しました。

(1)国債は、ストックではなく、フローで賄う


…個人の金融資産は、個人負債を除き、1065兆円。一方、国と地方の長期債務残高は、825兆円で今後も増える。2010年代中には、個人資産を、全部充てても、公債費を、買い切れなくなる


 日本のストック(金融資産)は2008年末現在、5515兆円です。そのなかで家計の資産は、1,433.5兆円。これが、「日本の家計の資産は約1500兆円」と言われるものです。

 一方、家計の負債は、同375.4兆円です。新聞記事の「個人の金融資産は、個人負債を除き、1065兆円」というのは、「資産-負債」のことです。これを国債購入に「全部充てても…買い切れなくなる」というのですが・・・。

 国債は、毎年のGDP(フロー:その年に稼ぎ出したお金)で購入されています。ですから、記事の言う1065兆円の中に、825兆円分(海外を除くと775.5兆円)の国債費は、すでに入っています。「個人資産を全部充てても買い切れない」ではなく、「個人資産の中に国債は含まれている」のです。新聞記事は不可能なことを述べています

 我々の預貯金→銀行・生保・公的年金・投資信託→国債購入825兆円分(海外を除くと775.5兆円)。「国債は政府の借金=国民の財産」です。これらの借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約53.%は国の借入金なのです。
帝国書院『アクセス現代社会2009』P134帝国書院『アクセス現代社会2009』P134 家計の金融資産残高の推移.jpg
日経21.6.27
国債購入者 日経21.6.27


 この金融資産をストックといいます。毎年の稼ぎはGDPフローです。国債購入費は、毎年のGDPフローによって賄われています。その残高が、825兆円(海外を除くと775.5兆円)という「政府の負債」=「国民の財産」となって、ストックに計上されます。
国債 フロー→ストック

 毎年のフロー(GDP)の中から、40兆円ほど公債購入に充てられます。その40兆円分は国民の資産=ストックになります。国民のストックを、国債購入費に充てているわけではありませんストックの中に、「過去の国債」が含まれているのです。「2010年代中には、個人資産を、全部充てても、公債費を、買い切れなくなる」ということは、やろうと思ってもできないことです。
 しかも、25兆円購入してもらい、20兆円ほど返しています(利払い含む)。国の純粋な借金は、5兆円ほどです。

財務省⑳年度予算 歳入
20年度予算 歳出

 公債(国債+地方債)は、毎年順調に、市場によって購入されています。しかも、先進国世界で、「最低の金利で」です(日本=10年もの1.25%内外:アメリカ3.67%、イギリス3.86%、ドイツ3.19% 21年12月22日現在)。
日本(外国)国債残高・金利 日経21.11.29

 債券価格上昇=金利低下

 ということは、「日本国債の人気が大変高い」ということです(ただし、その意味は、外国の国債に比べてではなく、日本国内のほかの金融商品に比べてということです)。こんなに低金利=その国の中では、一番人気がある商品が国債ということです。もちろん、その94%は国内資本で購入されています。

 日本は、貯蓄超過なのです。貯蓄超過=国内貯蓄Sを、民間投資Iで使い切っていないことです。要するに、企業が投資しない=不況ということですね。投資先がない日本国内の機関投資家(銀行・保険・年金・投資信託・証券会社etc)が、「国債売ってくれ」と、殺到しているので、国際価格高=金利安になっているのです。

カネ余り=金利安 

カネ供給>カネ需要

 逆に、資本(カネ)が不足している国は、金利高です。カネがないから、金利が高いのです。

 カネ不足=金利高 

 カネ需要<カネ供給

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