日本経済新聞の暴走その3

<日本経済新聞の暴走その3>

 日本を代表する?経済紙が、18世紀の「重商主義」思想にそまり、暴走しています。2011年1月1日の社説や、特集記事で主張しているのですから、「一番主張したいこと」であるのは間違いありません。
ですが、完璧に間違いです。日経の主張は、すでに200年も前の、アダム・スミスによって否定された「重商主義」 そのものです。

岩田規久男(学習院大学教授)『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p34,36
「政治家…世論をリードする大新聞や主要雑誌の経済担当記者などは…最低限,経済学の知識を持って仕事をしてもらいたいものである」
 「日本は,正統派経済学の知見なしには書けないはずの記事が新聞・雑誌に満載されている不思議な国である」


 本当に、情けなくなります。

日経H23年1月1日 一面トップ記事 『先例なき時代に立つ』

…19世紀半ばまで「世界の工場」だった英国は、米独の追い上げで貿易赤字となった。それでも、海外からの利子や配当で貿易赤字を補い、20世紀初頭まで経常収支の黒字を維持した。

日経H23年1月1日 社説 『先例なき時代に立つ』

…なすべきことが見える。…貿易自由化で外の成長力を取り込む。
日本は貿易立国のはずだが、GDPに占める輸出の割合は、10%台と、30%台のドイツ、40%台の韓国に比べ、今やかなり低い

日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』

輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる
…日本は中国など新興国の追い上げに直面しているものの、まだ貿易赤字には転落していない
…こうした状況下でも所得収支の黒字を拡大できれば、経常黒字も維持できる。05年度からは貿易黒字より所得収支の黒字の方が大きい。09年度の所得収支の黒字は貿易黒字の2倍近い12兆円余りに達した。
…中国などに追い上げられ、貿易赤字が大きくなれば、所得収支の黒字では埋めきれずに経常赤字に転落するとの予測もある。
経常収支の赤字転落は日本全体に無視できない影響を及ぼす。


 どうですか?「経常黒字至上主義」「貿易黒字至上主義」に凝り固まっているのが分かりますか?

 この 「経常黒字至上主義」「貿易黒字至上主義」を「重商主義」といいます。経済学的には、200年以上も前に、とっくに否定されたトンでも論です。

竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
…アダム・スミスは邦訳『国富論』全体の約2割に相当する200ページを割いて、重商主義攻撃を展開している。
…重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。

アダム・スミス『国富論』山岡洋一訳 日本経済新聞出版社 2007 p1
 どの国でも、その国の国民が年間に行う労働こそが、生活の必需品として、生活を豊かにする利便品として、国民が年間に消費するもののすべてを生み出す源泉である。


 重商主義=貿易黒字至上主義は、「海外資産増至上主義」です。

注)H23.1.19 ブログ 日本経済新聞の暴走その 参照

 アダム・スミスが、「そうじゃあないだろう」と批判しました。そして、「富=労働=生産量=消費量」として、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が富だ!と、もっともまともなことを主張したのが、1776年です。

 現代風に言えば、「貿易黒字なんてどうでもいい、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が大事だ」ということです。

<貿易赤字だろうが、黒字だろうが、豊かさには無関係>

 豊かさの指標は、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)です。GDPがなぜ大切かと言うと、GDIその国の国民の総所得、つまり簡単に言えば私たちの給料の総額だからです。
 これが伸びない=成長率0%ということは、「誰かの所得が増えれば、誰かの所得が減る」という、ゼロ・サムゲームを続けることになります。
 一方、高度経済成長時のように、成長率10%ということは、我々の給料も毎年10%ずつ増えるということです。
 日本の場合、貿易黒字なんて、このGDP成長に全く関係ありません

注 純輸出(貿易黒字)は、GDPの構成要素の一つです。ですから、GDPに関係しています。ですが、「純輸出が伸びれば、GDPが伸びる」ということではありません。「純輸出が減れば(貿易赤字になれば)GDP減少ということでもありません。

<高度経済成長>

日本 GNP 貿易収支 高度成長
 日本が、平均で、10%以上も経済成長を達成した、高度経済成長期のGNP(当時の指標)と、貿易黒字です。このグラフを縦に大きくしたのは、「貿易黒字」が小さすぎて、見えないかったからです。

 どうですか?GNI=我々の給与総額は、恐ろしいほどの伸びを示しています。一方、貿易黒字はGNPに比べ、「ごみ」みたいな数値です。加えて、1961年と、1963年は、「貿易赤字」です。貿易赤字なのに、経済成長しているのです。

 でも、反論がありそうです。「当時は1ドル=360円」の固定相場制だった。だから、「国際収支の天井」があって、日本は「外貨準備以上」に輸入額が大きくなろうとすると、「為替制限=資本制限」をして、輸入量を規制し、その結果、材料を輸入して製品を組み立て「加工貿易」をした日本は、「輸出」が伸びず、「貿易赤字」になったのだと。

 それでもけっこうです。でも事実は、「貿易赤字」でも、国民が豊かになっていることです。どうしてでしょう?

 このあと、日本は、1973年から、完全変動相場制に移行します。

日本 GDP 貿易赤字 高度成長期以後
 どうですか?日本は確実にGNP増=我々の給与増しています。
しかも、1973年、1974年は、オイルショックで、貿易赤字です。1979年、1980年も、第2次オイルショックの影響で「貿易赤字」です。

 相変わらず、貿易黒字なんて、GNPに比べたら、「ゴミ」みたいな数値です。そうです、新聞が力説する「貿易黒字」なんて、日本経済にとって、この程度の数値なのです。しかも「黒字」だろうが、「赤字」だろうが、給与総額に全く関係ありません。

日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』
輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。


 この記事が「うそ」なのがわかりますか?「輸出立国・多額の貿易黒字」は神話なのです。

日経H23年1月1日 社説 『先例なき時代に立つ』

…なすべきことが見える。…貿易自由化で外の成長力を取り込む。
…日本は貿易立国のはずだが、GDPに占める輸出の割合は、10%台と、30%台のドイツ、40%台の韓国に比べ、今やかなり低い。


これも「うそ」です。

そもそも、GDPに占める、輸出額は、どのようなものなのでしょう。

出典内閣府 国民経済計算
GDP 貿易黒字 1980~.jpg


 この上のほうの赤い部分が、日本の「輸出額」です。こうみると「輸出立国」なるものに見えそうです。ですが、輸出額/GDP比は、下記のグラフ程度です。
 ドイツや韓国の30%とか、40%になったことなど、一回もありません。

輸出額/GDP比.jpg
輸出/GDP 各国.jpg

「今やかなり低い」ではなく、そもそも「貿易立国」だったことなど、ないのです。

日本 輸出・輸入額

 このグラフで分かるように、輸出が伸びれば、輸入も伸びます。例の「輸出増=輸入増」という、貿易の黄金律です。
 ブログカテゴリ:リカード比較生産費説 14 >「輸出増=輸入増」参照

竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
…アダム・スミスは邦訳『国富論』全体の約2割に相当する200ページを割いて、重商主義攻撃を展開している。
…重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。


 輸出を伸ばし、輸入を抑え、貿易黒字を稼ぐなんて言うことは、原理上「無理」なのです。だから、アダム・スミスが、「重商主義」を批判したのです。
ブログカテゴリ アダム・スミス 「自由放任・見えざる手」 (3)参照

 以下は、経済学の黄金律=絶対的な事実:経済学者が100%同意する事実です。

N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学』東洋経済新報社 2008 p18

第8原理:生活水準は財サービスの生産能力に依存している

 世界全体を見渡した時、生活水準の格差には圧倒されるものがある。2000年のアメリカ人の平均所得は約34100ドルであった。…ナイジェリア人の平均所得は800ドルであった。平均所得に現れた、この大きな格差が、生活の質を測るさまざまな尺度にされているといっても驚くには当たらないだろう。

…国や時代の違いによって生活水準に大きな格差が変化があるのはなぜだろうか。その答えは驚くほど簡単である。生活水準の格差や変化のほとんどは、各国の生産性によって説明できる生産性とは1人の労働者が1時間あたりに生産する財・サービスの量である。労働者の1時間当たりの生産量が多い国ではほとんどの人々が高い生活水準を享受している。労働者の生産性が低い国ほとんどの人が、最も低い生活水準を甘受しなければならない。同様に、一国の生産性の成長率は平均所得の成長率を決定する。

アメリカの所得が1970年代と1980年代に低成長だったのは、日本をはじめとする外国との競争のせいであると主張する評論家たちがいる。しかし、本当の悪者は海外との競争ではなく、アメリカ国内における生産性の成長率の低下なのである。
 

 生活水準の向上は、「貿易黒字」ではなく、GDP成長なのです。そのGDPは3つの要素で構成されます。①労働力投入×②資本投入×③生産性(技術力)です。これが、その国の「豊かさ」を決定します。
GDP 三要素

ブログカテゴリ 2010-04-25 5 GDP 経済成長 参照

 我々の豊かさは「貿易黒字」にはありません。「GDP(GNI)」にあるのです。

<経常赤字になると>

日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』

 輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる
…日本は中国など新興国の追い上げに直面しているものの、まだ貿易赤字には転落していない
…中国などに追い上げられ、貿易赤字が大きくなれば、所得収支の黒字では埋めきれずに経常赤字に転落するとの予測もある
…経常収支の赤字転落は日本全体に無視できない影響を及ぼす。


 経常赤字になると、「無視できない影響」が起きるのでしょうか。

国際収支推移 世界経済ネタ帳
 これらの欧米諸国は、すべて「経常赤字」です。これらの国は、大変なことになっているのでしょうか。
 さらに、これらの国どころではない、大変な赤字国があります。アメリカです。

国際収支推移 アメリカ含む 世界経済ネタ帳

 アメリカは、大変なことになっているようです。経済崩壊の「国際収支赤字」ですね。

 ところが、これらの国は、日本よりも豊かなのです。

1人当たりgdp

 一人当たりのGDP(GDI:国民所得)です。日本は、米国にはもちろん、英国にも、フランスにも、オーストラリアにも、イタリアにも抜かれてしまいました。

 これこそ、「豊かになっていない」証拠です。アジア一豊かな国は、「シンガポール」です。

 おかしいですよね。米国、英国、フランス、オーストラリア、イタリアは「国際収支」赤字の国でしたよね。日本は「黒字の国」でしたよね。

アメリカ GDP 貿易赤字
英国 GDP 経常赤字
オーストラリア GDP 経常赤字
フランス GDP 経常赤字
イタリア GDP 経常赤字

これらの国は、みな「経常収支赤字」国です(フランスは2005年~)。
でも、リーマン・ショック後を除き、みな成長しています。一人当たりGDPも、日本より上です。一方日本です。
日本 GDP 経常黒字

 なぜ、「経常黒字」を出し続けているのに、GDP(GDI:国民所得)は伸びないのでしょう?。

「経常黒字・赤字」など、その国の豊かさに、全く影響はないのです。


アダム・スミス『国富論』山岡洋一訳 日本経済新聞出版社 2007 p1
 どの国でも、その国の国民が年間に行う労働こそが、生活の必需品として、生活を豊かにする利便品として、国民が年間に消費するもののすべてを生み出す源泉である。


 重商主義=貿易黒字至上主義は、「海外資産増至上主義」です。アダム・スミスが、「そうじゃあないだろう」と批判しました。そして、「富=労働=生産量=消費量」として、GDP(国内総生産)=GNI(国内総所得)が富だ!と、もっともまともなことを主張したのが、1776年です。

 現代風に言えば、 「貿易黒字なんてどうでもいい、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が大事だ」ということです。

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theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

日本経済新聞の暴走その2

<日本経済新聞の暴走その2>

 日本を代表する?経済紙が、18世紀の「重商主義」思想にそまり、暴走しています。2011年1月1日の社説や、特集記事で主張しているのですから、「一番主張したいこと」であるのは間違いありません。

 ですが、完璧に間違いです。日経の主張は、すでに200年も前の、アダム・スミスによって否定された「重商主義」そのものです。

岩田規久男(学習院大学教授)『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p34,36
「政治家…世論をリードする大新聞や主要雑誌の経済担当記者などは…最低限,経済学の知識を持って仕事をしてもらいたいものである」
 「日本は,正統派経済学の知見なしには書けないはずの記事が新聞・雑誌に満載されている不思議な国である」
 

 本当に、情けなくなります。

<日経元旦紙面>

日経H23年1月1日 一面トップ記事 『先例なき時代に立つ』

…19世紀半ばまで「世界の工場」だった英国は、米独の追い上げで貿易赤字となった。それでも、海外からの利子や配当で貿易赤字を補い、20世紀初頭まで経常収支の黒字を維持した。
…「製造業がグローバル市場で稼ぎ、富を国内に還流させる」(日本総研ビジネス戦略センター所長の山田久)
 日本も05年以降は、貿易よりも所得収支の黒字のほうが大きくなっている。外で作って稼ぎ、内でより高度なものや価値を作る。これなら円高も怖くない。

日経H23年1月1日 社説 『先例なき時代に立つ』

…なすべきことが見える。…貿易自由化で外の成長力を取り込む。
日本は貿易立国のはずだが、GDPに占める輸出の割合は、10%台と、30%台のドイツ、40%台の韓国に比べ、今やかなり低い



日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』

 輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる
 外国との間でやりとりするモノ、サービス、利子・配当の収支尻をそれぞれ貿易収支、サービス収支、所得収支と呼ぶ。これらを合計したのが経常収支だ。
 日本は中国など新興国の追い上げに直面しているものの、まだ貿易赤字には転落していない
 ただ、新興国との競争が激しくなる中で、企業は生産拠点を海外に移しており、このままでは輸出が減る。貿易構造の変化に加え、高齢化で生産活動に従事せずに貯蓄を取り崩して消費する層が増えれば、消費分を国内だけでは賄えず、より多くの輸入に頼ることになる。
 こうした状況下でも所得収支の黒字を拡大できれば、経常黒字も維持できる。05年度からは貿易黒字より所得収支の黒字の方が大きい。09年度の所得収支の黒字は貿易黒字の2倍近い12兆円余りに達した。
 所得収支の黒字のもとになるのが、海外の株式や債券などからの収益やグローバル化した日本企業の海外拠点のもうけのうち日本に還流する配当などだ。国際競争を考えれば、製造業などが海外でモノを作るように動くのは避けられない。
 中国などに追い上げられ、貿易赤字が大きくなれば、所得収支の黒字では埋めきれずに経常赤字に転落するとの予測もある。
 JPモルガン証券の菅野雅明氏は「5年以内」と予測する。経常赤字を避けるには、海外進出企業などが稼いだ富を国内に還流させ、それを生かして国内産業の高度化につなげることが重要になる。そうすれば高度化した商品を輸出できるようになり、結果的に貿易収支でも黒字を維持できる可能性が出てくる。
 経常収支の赤字転落は日本全体に無視できない影響を及ぼす。巨額の財政赤字を抱えながら低金利を維持できたのは、豊富な貯蓄を景に国内で資金を調達できたからだが、経常赤字になれば資金を海外に頼らざるを得なくなる。
 外国への資金依存度が高まると、経済が変調をきたした場合の「日本売り」の圧力が強まり、金利が急上昇したり、円が急落したりする可能性が高まる。


 もう、どこから解説していいか、手も付けられないほどの、「重商主義」の「トンでも」論に染まっています。

 この新聞の欠点は、経常収支=広義資本収支(資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏)という、モノ・サービス面の反対、カネ(資本)面が全く見えていないことです。

2009 国際収支表 シンプル

 新聞は、上記国際収支表の、左側しか、見えていません。テストで言えば、「50点」です。自信満々で書いた答案は、「事実」ですが、「正解」ではありません。

 問題は、正しい経済学が教えられていないことにあります。 

週間ダイヤモンド2010.3.27 p61
経常収支=資本収支.jpg

 東大生でも、正答率は11.8%です。高校時代に、「政治経済」や「現代社会」で教えられていないんですね。

 「黒字」は、どこに行ったのでしょう?上記国際収支表を見ると、資本(カネ)は△13兆2867億円の赤字です。赤字ですから、日本に入ってきたカネ<日本から出て行ったカネのことです(出ていくというのは、分かりやすい表現にしただけで、本当は違います)。

 国際収支表の左側、「モノ・サービス」で「稼いだ?」黒字は、海外に出て行ったカネと同額です。そうです。「黒字はどこへ行ったか」の答えは、「海外資産になった」です。

伊藤元重(東大教授)編著『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』 東洋経済新報社1994 
 p27 黒字はどこにいったのかといえば,「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。

 p89 「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから,日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。


2009 国際収支表 対外純資産バージョン

 このように、経常収支黒字資本収支赤字は、日本国に還流しないカネです。

 ですから、貿易黒字(経常収支でも同じ)が増えても

「日本人の生活そのものが豊かになることを,必ずしも意味しない(岩田規久男(学習院大学教授『国際金融入門』岩波新書 1995 p44)」
のです。

<経常収支≡資本収支>のメカニズム

(1)ISバランス

 まず、日本のGDPの三面等価図を見てみましょう。

2009 名目GDP 内閣府 貿易黒字版.jpg

(S-I) = (G-T)  + (EX-IM)
(貯蓄-投資)     (公債)     +     (貿易黒字
(貯蓄超過)   (政府への貸し出し+   (外国への貸し出し

 我々が、消費せず、税金にも回さなかったお金を、貯蓄Sと言います。その国内のS(貯蓄)が、I(企業の投資)、(G-T:公債)、(EX-IM:輸出―輸入:経常黒字:海外への資金の貸し出し)になるのです。S=99兆8880億円、それがIの95兆円、G-T3.4兆円、EX-IM1.4兆円に回るのです。EX-IM1.4兆円は、海外へのお金の貸し出し なのです。
外国債・外国株・外国社債などの購入や、外国への貸付額がEX-IM1.4兆円なのです。

 これらは、銀行などの金融機関、生命保険会社・投資信託などの機関投資家、政府、企業、個人です。これらは、資本収支赤字=海外資産増加になります。

 一方、「EX-IM」は貿易黒字です。Y GDP(国内総生産)GNP(国民総生産)のうち、我々が、消費せず、税金にも回さなかったS部分は、我々個人に代わり、誰かが購入(消費・投資)しています。I(企業)が購入し、(G-T:公債)政府が購入し、(EX-IM:輸出―輸入)外国が購入しています。EX-IM1.4兆円は、輸出―輸入ですから、海外が日本から多く買ったこと、すなわち貿易黒字です。

 ですから、 (EX-IM)は,貿易黒字ですが,同時に日本の,海外への資金の貸し出し(外国の日本に対する借金)になるのです。

貿易黒字額=外国への資金の貸出額

 「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字・海外への資金流出に等しくなるのです。

「総生産額-総消費」=「国全体の貯蓄超過」=「貿易黒字」

 日本全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。日本が「貿易黒字」を生み出すのは,日本人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。

『昨年の海外直接投資 途上国向けが先進国上回る』 日経H23.1.18 表も
直接投資額

…海外直接投資…世界の合計は0.7%増の1兆1220億ドル…。…海外直接投資は国境を越えたM&A(合併・買収)や現地法人設立などの費用。
 

 この表にあるように、海外が米国や中国に投資するのは、「儲けよう」とするからです。「経常(貿易)黒字」額が余っているから投資しようとするのではありません。アメリカに「チャンスがある」から、投資します。アメリカへの投資額(14兆円以上)>アメリカからの投資額なので、「資本収支赤字になります。そして、この「資本収支赤字」=「経常収支黒字になります。アメリカが「資本黒字」なのは、「資本受入額が多い=ビジネスチャンスが大きい」からです。

 ですから、「インバランス=貯蓄投資差額」は、今後も拡大が予想されています。同時に、「貿易黒字(赤字)」も拡大します。
読売『G20 成長に軸足 新興国に内需拡大に期待』H22.6.28 グラフも

経常収支不均衡 予測.jpg



 だから、日経が「貿易黒字増」を主張するのは、「海外貸付額を増やせ」を主張する事になります。「海外資産(貸付)」も大切ですが、「海外貸付額」だけ増やしてどうしようとしているのでしょう?

<不況=貿易黒字増>

2009 名目GDP 内閣府 貿易黒字版.jpg

(S-I) = (G-T)  + (EX-IM)

 さて,景気によって,上記の数値はどのように動くのでしょうか。景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。

 ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。

(S-I) = (G-T)  + (EX-IM)

 ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。

 逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国債+貿易黒字)も拡大します。つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。

GDP増 貿易黒字減 ~2010

 リーマン・ショックを受けて、2009年のGDP471兆円は、08年の505兆円よりも、34兆円も減ってしまいました。戦後初めての「大不況」です。
 ところが、同年、貿易黒字は、736憶円から1436億円に増えています。

 中国も同じです。

 日経H23.1.11『中国輸出、2年連続世界一』
…09年に続きドイツを上回り世界一となったのは確実。…中国の貿易黒字は09年世界金融危機受け…6年ぶりに前年割れした。…10年通年の貿易黒字は2年連続のマイナスとなった。


出典 世界経済ネタ帳

[世] [画像] - 中国の実質GDPの推移(2008~2010年)
[世] [画像] - 中国の国際収支の推移(2008~2010年)


日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』
輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。


 日経が不安がる原因の、貿易黒字を増やそうと思えば、「不況にすればよい」のです。ばかばかしくて、お話になりません。「重商主義」が「トンでも」論だということが、分かります。

竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
…『貿易によるイングランドの財宝』という有名な本を書いたトマス・マンによれば、重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。
 

 日経が「トンでも新聞」だということが分かります。

<国際収支表の記入方法>

 続いて、国際収支表を使用して、経常収支≡広義資本収支ということを見ていきましょう。

 国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。
 モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。ですから、経常収支黒字額資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。

だから、2009年の日本は

2009 国際収支表 シンプル

 となるのです。△は外国カネ(資産)増と覚えれば間違いないでしょう。ドル・ユーロや、外国国債、外国社債、外国株の購入額のことです。

例ア
 日本の自動車会社が,車をアメリカに輸出します。代金は,10万円です。
  自動車の輸出→財(モノ)の欄→貸し方(+)ア10
  預金証書輸入→その他投資の欄→借り方(-)ア10

例イ
 日本の輸入会社がアメリカの航空機を使い,代金を払う。代金は5万円です。
  輸送サービス輸入→サービスの欄 →借り方(-)イ5
  預金証書輸出  →その他投資の欄→貸し方(+)イ5

例ウ
 日本が,地震に際し,食料援助を受けました。感謝状を輸出します。代金は3万円です。
  食料の輸入 →財(モノ)の欄→借り方(-)ウ3
  感謝状の輸出→経常移転の欄→貸し方 (+)ウ3

例エ 
 日本企業が,タイに子会社を作るため,子会社の株を買い,代金をタイの銀行に振り込みます。代金は2万円です。
  株券の輸入 →直接投資の欄  →借り方(-)エ2
  預金証書の輸出→その他投資の欄→貸し方(+)エ2

例オ
 イギリスの投資家が,日本企業の株を購入します。代金は4万円です。
  株券の輸出 → 証券投資の欄→貸し方(+)オ4
  預金証書輸入→その他投資の欄→借り方(-)オ4 

例カ
 日銀が,民間銀行との間で,円売り・ドル買いをします。金額は1万円です。
日銀のドル輸入円輸出 →準備資産の欄  →借り方(-)カ1
民間銀行のドル輸出円輸入→その他投資の欄→貸し方(+)カ1

国際収支表 記入方法 メカニズム

上記の表で、経常収支+5=資本収支-5になります。

「経常勘定(かんじょう)」の欄に記載された取引きは,経常移転収支(お金の無償援助)を除いて,資本勘定の欄に記載されるということです。つまり,経常収支+は,資本収支-に記載され,経常収支-は,資本収支+に記載されるのです。

 正しい見方は,「国際収支表は,複式簿記で,プラス・マイナスが同時に記入される。だから,経常収支黒字ならば,資本収支赤字(経常収支赤字=資本収支黒字)になる」というものです。

 その結果,「経常収支+資本収支(外貨増減・誤差脱漏含む)=0」に,必ずなります。

国際収支=0= 経常収支 + 資本収支

貿易黒字額 = 外国への資金の貸出額(海外投資額)

 次回は、 「経常黒字だろうが、赤字だろうが、経済成長には全く関係ない」についてです。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

日本経済新聞の暴走その1

<日本経済新聞の暴走その1>

 日本を代表する?経済紙が、18世紀の「重商主義」思想にそまり、暴走しています。2011年1月1日の社説や、特集記事で主張しているのですから、「一番主張したいこと」であるのは間違いありません。
 ですが、完璧に間違いです。日経の主張は、すでに200年も前の、アダム・スミスによって否定された「重商主義」そのものです。

岩田規久男(学習院大学教授)『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009 p34,36
「政治家…世論をリードする大新聞や主要雑誌の経済担当記者などは…最低限,経済学の知識を持って仕事をしてもらいたいものである」
 「日本は,正統派経済学の知見なしには書けないはずの記事が新聞・雑誌に満載されている不思議な国である」


 本当に、情けなくなります。

<日経元旦紙面>

日経H23年1月1日 一面トップ記事 『先例なき時代に立つ』

…19世紀半ばまで「世界の工場」だった英国は、米独の追い上げで貿易赤字となった。それでも、海外からの利子や配当で貿易赤字を補い、20世紀初頭まで経常収支の黒字を維持した。
…「製造業がグローバル市場で稼ぎ、富を国内に還流させる」(日本総研ビジネス戦略センター所長の山田久)
 日本も05年以降は、貿易よりも所得収支の黒字のほうが大きくなっている。外で作って稼ぎ、内でより高度なものや価値を作る。これなら円高も怖くない。

日経H23年1月1日 社説 『先例なき時代に立つ』

…なすべきことが見える。…貿易自由化で外の成長力を取り込む。
日本は貿易立国のはずだが、GDPに占める輸出の割合は、10%台と、30%台のドイツ、40%台の韓国に比べ、今やかなり低い



日経H23年1月1日 特集 『経常赤字転落を避けるカギは』

 輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる
 外国との間でやりとりするモノ、サービス、利子・配当の収支尻をそれぞれ貿易収支、サービス収支、所得収支と呼ぶ。これらを合計したのが経常収支だ。
 日本は中国など新興国の追い上げに直面しているものの、まだ貿易赤字には転落していない
 ただ、新興国との競争が激しくなる中で、企業は生産拠点を海外に移しており、このままでは輸出が減る。貿易構造の変化に加え、高齢化で生産活動に従事せずに貯蓄を取り崩して消費する層が増えれば、消費分を国内だけでは賄えず、より多くの輸入に頼ることになる。
 こうした状況下でも所得収支の黒字を拡大できれば、経常黒字も維持できる。05年度からは貿易黒字より所得収支の黒字の方が大きい。09年度の所得収支の黒字は貿易黒字の2倍近い12兆円余りに達した。
 所得収支の黒字のもとになるのが、海外の株式や債券などからの収益やグローバル化した日本企業の海外拠点のもうけのうち日本に還流する配当などだ。国際競争を考えれば、製造業などが海外でモノを作るように動くのは避けられない。
 中国などに追い上げられ、貿易赤字が大きくなれば、所得収支の黒字では埋めきれずに経常赤字に転落するとの予測もある。
 JPモルガン証券の菅野雅明氏は「5年以内」と予測する。経常赤字を避けるには、海外進出企業などが稼いだ富を国内に還流させ、それを生かして国内産業の高度化につなげることが重要になる。そうすれば高度化した商品を輸出できるようになり、結果的に貿易収支でも黒字を維持できる可能性が出てくる。
 経常収支の赤字転落は日本全体に無視できない影響を及ぼす。巨額の財政赤字を抱えながら低金利を維持できたのは、豊富な貯蓄を景に国内で資金を調達できたからだが、経常赤字になれば資金を海外に頼らざるを得なくなる。
 外国への資金依存度が高まると、経済が変調をきたした場合の「日本売り」の圧力が強まり、金利が急上昇したり、円が急落したりする可能性が高まる。


 もう、どこから解説していいか、手も付けられないほどの、「重商主義」の「トンでも」論に染まっています。

 まず、シロウトが引っかかってしまう、 「重商主義」とは何でしょうか。

竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
アダム・スミスは邦訳『国富論』全体の約2割に相当する200ページを割いて、重商主義攻撃を展開している。
『貿易によるイングランドの財宝』という有名な本を書いたトマス・マンによれば、重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。


 著者が、一番述べたいことは、本の冒頭部分に書かれます。スミスが言いたかったこと、一番大切なことが、国富論の最初の1ページ目に書かれています。

アダム・スミス『国富論』山岡洋一訳 日本経済新聞出版社 2007 
 どの国でも、その国の国民が年間に行う労働こそが、生活の必需品として、生活を豊かにする利便品として、国民が年間に消費するもののすべてを生み出す源泉である。消費する必需品と利便品はみな、国内の労働による直接の生産物か、そうした生産物を使って外国から購入したものである。


『世界の名著 アダム・スミス(国富論)』中央公論社 S62 p388
…すべてどの社会も、年々の収入は、その社会の勤労活動の年々の全生産物の交換価値とつねに正確に等しい、いやむしろ、この交換価値とまさに同一物なのである。


GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)=GDE(国内総支出)が富ということです。


 竹中平蔵 同
P45~
 今では当たり前の話だが、富の源泉は労働だということを明示的に示している。つまり、重商主義がいうように貿易差額(黒字)で金銀を稼ぐことが富の源泉なのではなく労働こそが富の源泉であるという、世の中の基本的な視点が冒頭で書かれている。
富とはどこから生まれるのか、そして富とはどういう性格を持っているのか、それについて考察することが『国富論』の目的であり、その答えとして、労働こそが富の源泉だということを冒頭で示したのだ。
 これはいまの経済学にとってきわめて重要なポイントである。
P58
…そして重商主義に対する決定的批判として、人々は生産者の利益ではなくて、消費者の利益のために労働していると主張する。「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり、生産者の利益は消費者の利益をはかるために必要な範囲でのみ配慮されるべきである」…と。
 ところが重商主義では、消費者の利益はほぼつねに生産者の利益のために犠牲にされている。そして消費ではなく生産こそがすべての産業と商業の最終的な目的だと考えられているかのようである」 …と、アダム・スミスは批判するのである。


 竹中先生は、「重商主義がいうように貿易差額(黒字)で金銀を稼ぐことが富の源泉なのではなく、労働こそが富の源泉であるという、世の中の基本的な視点」と書きます。しかし、これは竹中先生的常識=「経済学的視点」であり、世の中の常識=「世の中の基本的な視点」とは180度違います。もちろん、間違いは後者です。

 日経を見てわかるように、「世の中の視点」は、いまだに「重商主義がいうように貿易差額(黒字)で金銀を稼ぐことが富の源泉」だとしています。経済学とは、180度異なる見方が、「世の中の視点」なのです。

 日本の農業を見てもわかるように、本当は、
「消費こそがすべての生産の唯一の目的であり、生産者の利益は消費者の利益をはかるために必要な範囲でのみ配慮されるべきである」

 のに、「高い農産物を強要され、その価格を支持するために、高い税金を払わされて」いる消費者利益は、完全に無視されています。

「消費者の利益はほぼつねに生産者の利益のために犠牲にされている。そして消費ではなく生産こそがすべての産業と商業の最終的な目的だと考えられているかのようである」

 スミスが生きていたら、日本の農業政策を、上記のように批判することでしょう。

ポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)『良い経済学悪い経済学』日本経済新聞出版社2008  P172

 実業界でとくに一般的で根強い誤解に,同じ業界の企業が競争しているのと同様に,国が互いに競争しているという見方がある。1817年にすでに,リカードがこの誤解を解いている。経済学入門では,貿易とは競争ではなく,相互に利益をもたらす交換であることを学生に納得させるべきである。もっと基本的な点として,輸出ではなく,輸入が貿易の目的であることを教えるべきである。



 現代風に言えば、「貿易黒字なんてどうでもいい、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が大事だ」ということです。

 日経記者は、まず、自分の会社で発行している「国富論」「クルーグマン」を読め!と批判したいところです。

 では、どこがでたらめなのか、見ていきましょう。

<経常収支黒字とは>

 まず、2009年のGDP(国内総生産=GDI国民総所得)と、経常収支の関係を見てみましょう。

2009 名目GDP 経常黒字版.jpg

 経常収支黒字は、日本のGDPの「2.8%」です。体重60キロの人の1690グラム相当です。
まあ、少ない数値ではありませんので、「経常赤字転落を避ける」と、新聞が吠えるのも、仕方ないかと思いますが、日本は、そんなレベルではないダメージを被っています。「リーマン・ショック」で、世界的不況に飲み込まれ、GDP(国内総生産=GDI国民総所得)自体が、激減したのです。

2007→2009 名目GDP.png

 09年の471兆円は、07年の516兆円よりも、46兆円も減ってしまいました。これは、471兆円の10%に匹敵する減少です。GDPというのは、GDI(国内総所得)、我々の給料の総額です。これが10%減ったのですから、この2年間は、戦後初めての「大不況」です。

 09年の体重60キロは、07年の体重65.7キロから、5.7キロも体重が減ってしまった状態です。これは、意識してダイエットでもしない限り、何か病気を疑ってもいい数値です。
 
 その中で経常収支黒字の意味付けです。

「外国との間でやりとりするモノ、サービス、利子・配当の収支尻をそれぞれ貿易収支、サービス収支、所得収支と呼ぶ。これらを合計したのが経常収支だ」
 
 新聞が言うように、この説明は、事実です。経常収支は「①貿易・サービス収支、②所得収支、③海外への無償援助などの経常移転収支」の3つから構成されているからです。ですが、この新聞の欠点は、経常収支=広義資本収支(①資本収支+外貨準備増減+誤差脱漏)という、モノ・サービス面の反対、カネ(資本)面が全く見えていないことです。

2009 国際収支表 シンプル
 
 新聞は、上記国際収支表の、左側しか、見えていません。テストで言えば、「50点」です。自信満々で書いた答案は、「事実」ですが、「正解」ではありません

「輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる。」「所得収支の黒字を拡大できれば、経常黒字も維持できる。05年度からは貿易黒字より所得収支の黒字の方が大きい。09年度の所得収支の黒字は貿易黒字の2倍近い12兆円余りに達した。」

 も、「稼ぐ」とか「転落」「貿易黒字の2倍近い12兆」を除けば、事実です。日本は、貿易・サービス収支で黒字ではなく、海外からの利子や配当で黒字を産み出す、「過去の対外純資産からの配当」を受け取る「資産国家」です。

 ですが、その「黒字」は、どこに行ったのでしょう?上記国際収支表を見ると、資本(カネ)は△13兆2867億円の赤字です。赤字ですから、日本に入ってきたカネ<日本から出て行ったカネのことです(出ていくというのは、分かりやすい表現にしただけで、本当は違います)。

 国際収支表の左側、「モノ・サービス」で「稼いだ?」黒字は、海外に出て行ったカネと同額です。そうです。 「黒字はどこへ行ったか」の答えは、「海外資産になった」です。

伊藤元重(東大教授)編著『貿易黒字の誤解-日本経済のどこが問題か-』 東洋経済新報社1994 
p27 黒字はどこにいったのかといえば,「海外への資産の蓄積になった」という答えになる。
p89 「日本は多くの産業において強い競争力を持っており国際経済で一人勝ちしているから,日本の貿易収支や経常収支は黒字である」というのがいかにばかげた議論であるか…わかることだろう。


2009 国際収支表 対外純資産バージョン

このように、経常黒字=海外への投資額(海外から見れば、借りたカネ)ですから、日本の毎年の経常黒字は、同じように毎年、「対外純資産」として積み上がります。もちろん、2009年末の、266,兆2230億円は、世界一の額です。つまり、世界一の「対外資産金持ち」です。

 注)グラフのように、対外純資産に、いきなりの増減があったり、額が一定しないのは、ドル安(円高)・ドル高(円安)によるものです。円高になると、円で示すと見かけ上「減少」します。ドル(ユーロ)建て資産が変わったわけではありません。また、外国株価や債券の価格変動も影響します。
 また、順当に増えるのは、過去の「外国の社債・株式・国債」などの運用益がさらに「所得収支」として積み上がるからです。266兆円の配当・利息は、12兆3254億円の「所得収支」を生みます。それがまた、「対外純資産」増になります。ドルやユーロ増のことです。


投資(カネを貸)してもらっている国から見ます。

○○国の新工場や店舗を、日本人が建てることです。
○○国の会社の株式が、日本人によって買われているということです。
○○国の会社の社債を、日本人が購入している状態です。
○○国の銀行の預金を、日本人がしていることです(○○国銀行の預金は、銀行から見たら負債です)。
○○国の不動産の持ち主が、日本人の場合です。
○○国の国債を、日本人が購入している状態です。

 たとえば、日本企業が外国から投資された場合、以下のようになります。

外国人の株保有率 出典 日経H22.6.19 2010年3月末現在
オリックス 50.5%
パイオニア 31.3
日本電気硝子 44.4
三井化学 31.5
住友重機械工業36.6
日本郵船35.2
野村HD 44.1
レオパレス21 32.4

 これらの企業は、すでに「外国企業」です。日本人が、外国会社の株や社債を買ったり、M&A(買収・提携)したり、海外に工場や店舗を建てる直接投資(海外に株式会社を作る)ことが投資(カネを貸す)です。

 最後の、「外国の国債を購入」ですが、これは、おもに国際収支表では、「外貨準備」になります。日本政府(日銀)のドル・ユーロのことです。110兆1031億円の外貨準備のうち、1,02兆6,365億円が、証券(外国債)になっています(22年 財務省)。

 ドル札や、ユーロ紙幣をそのまま持っていても意味がありませんので、債券で運用します。この債券は、当然配当・利息を生みます。100兆円ですから、3%でも3兆円になります。22年度予算ベースでは、2兆5759億円分になりました。(財務省HP外国為替資金特別会計)これが「埋蔵金」とか称され、23年度一般会計予算に組み込まれたのは、新しいところです。

注:その配当金分は、ドル⇔円交換しています。じゃあ、100兆円分のドル資産は、国内に流通できるじゃないか!と言っても、100兆円分円に換えると、ドル売り円買いなので、人為的「円高」になってしまいます。100兆円分、アメリカ国債が売られたら、アメリカ国債暴落!になっていまい、日本も大損します。手放すに手放せないカネなのです)

2009 名目GDP 経常黒字版.jpg
2009 国際収支表 対外純資産バージョン

 このように、経常収支黒字=資本収支赤字は、日本国に還流しないカネです。

 ですから、貿易黒字(経常収支でも同じ)が増えても、

「日本人の生活そのものが豊かになることを,必ずしも意味しない(岩田規久男(学習院大学教授『国際金融入門』岩波新書 1995 p44)」
のです。

「製造業がグローバル市場で稼ぎ、富を国内に還流させる」(日本総研ビジネス戦略センター所長の山田久)

 ということではありません。

 輸出立国・日本は、長い間、多額の貿易黒字を稼いできた。ただ、新興国の追い上げなどで輸出競争力が低下すると、貿易収支の黒字が減少したり、赤字になったりする可能性が高まる。これを補うのが海外からの利子や配当など所得収支。同収支で黒字を稼ぐことができれば、経常収支の赤字転落を避けられる。」

 のですが、「経常黒字分(資本収支赤字分)、海外資産を増やせ!」「経常赤字転落=海外資産減少を防げ!」と言っていることです。

 資産が増えるのは、結構ですが、「経常黒字=海外資産」に固執して、「海外資産」を増やして、どうしろというのでしょう?

竹中平蔵『経済古典は役に立つ』光文社新書2010
P37
アダム・スミスは邦訳『国富論』全体の約2割に相当する200ページを割いて、重商主義攻撃を展開している。
…重商主義とは、「貿易黒字を出すことが富を築くことである。貿易にあたっては、外国製品の購入以上に国産品を海外で販売することを旨とすべきである」という考え方だ。つまり、ひとことで言えば、重商主義とは、貿易黒字至上主義だと考えればいい。


『世界の名著 アダム・スミス(国富論)』中央公論社 S62 p388
…すべてどの社会も、年々の収入は、その社会の勤労活動の年々の全生産物の交換価値とつねに正確に等しい、いやむしろ、この交換価値とまさに同一物なのである。


 重商主義=貿易黒字至上主義、「海外資産増至上主義」です。アダム・スミスが、「そうじゃあないだろう」と批判しました。そして、 「富=労働=生産量=消費量」として、GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が富だ!と、もっともまともなことを主張したのが、1776年です。

2007→2009 名目GDP.png
2009 名目GDP 経常黒字版.jpg

 貿易黒字(財務省:2兆1249億円、内閣府1兆4370億円と違っているのですが…)は、日本のGDPの0.5%にも満たない数値です。

 「貿易黒字」だとか、「経常黒字」だとか、「赤字転落を避けよ」「海外資産を増やし続けろ」なんて、会社の利益にたとえると、0.5%だけに目を向け、それを時間を使って延々と主張する人がいたら、『異様』です。確かに「間違いではないのですが、本質は違うでしょう」ということです。

 日経という、日本を代表する?経済紙の主張が、『異様』だということが分かると思います。

 次回は、「経常黒字≡資本赤字」のメカニズムについてです。

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福田和也『世間の値打ち』週刊新潮 2010.9.23

(1)福田和也『世間の値打ち』週刊新潮 2010.9.23
…「じゃあ、いいのは中国とか、インドだけですか」
「でも中国は…内需主導に転換すべきなんだけど、それにはかなりの手間と時間が必要じゃないかな」

…「どうすれば、いいんですか」
「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。いよいよ国内需要を喚起するために動かないといけなくなる」

(2)童『大機小機:人民元と中国の経済構造調整』日経H22.7.13 

 半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。その過程で、生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着した。…人民元上昇が限定的であれば、外需依存体質からの脱却は難しい。米中間の貿易不均衡は期待ほどには縮小せず、結果を求める米国は人民元の切り上げ圧力を緩めないだろう。


 間違い部分は、赤で示しました。「輸出立国」は神話です。

<中国は内需拡大で成長した>

半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長…。…生産力に内需が追いつかず、貿易黒字が定着…。

中国 GDP 輸出 輸入額

 一目瞭然です。青い色のGDPから、(輸出-輸入=外需)を引いたものが、中国の「内需」です。内需が爆発的に増加していることが分かります。中国の経済成長とは、内需拡大(国内の経済規模が大きくなる)のことなのです。
中国 GDP 貿易黒字

GDPに占める、内需の割合は、2005年95.44%、2006年93.35%、2007年92.3% 2008年93.2%です。

中国 内需 外需割合

 2007年⇒2008年は、内需の割合が拡大しています。「投資・輸出依存型から、消費・内需主導型に変える」という日経記者の主張は、内需の割合を何%にすることを指しているのでしょうか?

 2009年は、さらに「黒字が縮小」しました。2009年のGDPは増えていますので、内需割合はさらに高くなっているはずです。(2009年、中国GDPのドルデータがないため、下記の記事を参照)

チャイナ・プレス http://www.chinapress.jp/finance/19847/
2010年1月21日、中国国家統計局は2009年経済データを発表した。データによると、2009年の国内総生産(GDP)は33兆5353億元(約449兆7022億円)に達し、前年比8.7%成長を遂げた。


日経H22.4.20『GDPに占める経常黒字の比率 中国2年連続低下』グラフも
中国…が発表した2009年の国際収支報告…。貿易黒字の大幅な減少が響き…前年を下回った。…モノの貿易の貿易黒字が31%減った…。

中国 経常黒字 減少

 中国が成長したのは,やはり,内需の拡大によるものです。

 貿易黒字が,なぜ生じるか,もう一度思い出してみましょう。

 中国が貿易黒字を増大させているのは,GDP(国内総生産)=GDI(国内総所得)が拡大したのに,国民がその所得を消費に回さず,貯蓄に回していることが原因です。所得が増えたので,貯蓄も増やしているのです。

『中国貯蓄率最高の28.8%』 日本経済新聞21.4.7
中国の家庭で,消費よりも貯蓄を優先する傾向が続いている。2008年の家計
貯蓄率は28.8%と過去最高を記録した。…貯蓄率は家計の収入から,税金などを差し引いた可処分所得のうち,モノやサービスの消費に使わず貯蓄に回した割合。…最大の理由は,医療や年金など社会保障制度の未整備にある。

黒田東彦 アジア開発銀行総裁『月曜:経済観測』日本経済新聞H21.9.7
…中国は消費を拡大する必要がある。…貯蓄が過剰で国内総生産(GDP)の10%
前後の大幅な経常黒字が出ている。…貯蓄率の上昇は中長期に続く。


 GDPの三面等価を見てみましょう。
三面等価 2008

 ①貸した(総額)=借りた(総額)②生産の残り相当分=消費した人(主体)から,言えること,貿易黒字についてです。
(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字含む)ですが,同時に日本の,海外への資金の貸し出し(外国の日本に対する借金)になるのです。

貿易黒字額=外国への資金の貸出額

「総生産額」から,国内の「総消費(投資)」(家計・企業・政府)を差し引いたものが,(EX-IM)=貿易黒字・海外への資金流出に等しくなるのです。

「総生産額-総消費」=「国全体の貯蓄超過」=「貿易黒字」

 日本全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。日本が「貿易黒字」を生み出すのは,日本人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。

 これが,貿易黒字の正体です。ですから,日本という部分を,中国に置き換えると,

(EX-IM)は,経常黒字(貿易黒字)ですが,同時に中国の,海外への資金の貸し出し(外国の中国に対する借金)になるのです。

 中国全体の所得と支出の差は,貯蓄であり,それは(EX-IM)「貿易黒字」なのです。中国が「貿易黒字」を生み出すのは,中国人が,その支出を,所得以下におさえ,海外への貯蓄供給=海外投資をした結果です。

と,なります。「貿易黒(赤)字と,経済成長は無関係」なのです。

<日本は内需拡大で成長した>

 半世紀前の日本も、近年の中国も、通貨の過小評価によって輸出主導の高度成長を果たした。

「ざっくり言えば、輸出依存からの脱却だろうね。かなりたいへんだけど。日本は戦後ずっと、輸出立国で国内の矛盾をごまかしてきたから。」


 日本は、「外需で経済成長」したのではありません。大阪万博(1970)以後の、バブル経済直前までの、日本の内需と外需です。

日本 GNP 貿易収支額

「内需=GDP-貿易収支(外需)」です。これのどこが、「内需拡大が進まず」なのでしょうか?

日本 内需 外需 1970年以降


 このグラフの赤い部分が「外需」です。内需は安定しています。日本のGNP(当時の統計)にとって、外需の割合は、「きわめて低い」のです。

 日本の高度成長も、同じです。「内需拡大」で達成したのです。貿易赤字の年でも「内需は拡大」しているのです。
日本 GNP 貿易収支 高度成長

 日本は,高度成長期,GNPが,平均して年率10%成長する経済成長を達成しました。国際的にも極めて高い経済成長率です。
 しかし,「貿易黒字」は,GNPに対して,ごくわずかの額にとどまっています。なおかつ,1960年と,1963年は,「貿易赤字」です。簡単に言うと,われわれの給与総額(GNP・GNI)は「貿易赤字」の年も拡大しています。高度成長は「輸出拡大による貿易黒字増大」によって,達成したのではないのです。

 日本は,内需の拡大で経済成長しました。日本が経済成長を達成したのは,国内市場の拡大によるものです。

 貿易額だけに目をやると、その額が巨大なので、誤解します=貿易摩擦。「木を見て森を見ず」の経済理解による新聞記事の一例です。

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飯島英胤 日韓経済協会名誉会長(東レ元会長)『論点 貿易立国の明日』読売H22.8.24

数字は筆者挿入。間違いは赤で示しました。

飯島英胤 日韓経済協会名誉会長(東レ元会長)『論点 貿易立国の明日』読売H22.8.24

 日韓はともに…経済の拠って立つ基盤が酷似している。…①貿易への依存割合が高い。ともに②国内市場が小さいから、国民の経済生活を高め、国家の反映を図るには、「③貿易立国が重要な柱」である。
…韓国の輸出の6割近くは、日本から輸入した部品・素材を使って、韓国で加工して最終製品にして輸出している。
 …一方で、これは韓国の対日貿易の赤字につながる。…④日本からの輸入を減らすには、韓国の技術で日本の部品・素材に代わるものを作れるのか…。もう一つ大事なことは、対日輸出の強化による均衡ある貿易拡大である。


<日本の国内市場は巨大>

②国内市場が小さいから

 日本は、世界で第2位の国内市場を持ちます。圧倒的な、経済大国です。

データ出典「グラフで見る日本経済」
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/economic_survey/

世界の総生産 日本の比率.jpg

 韓国のGDPとは、桁が違います

日本・韓国 GDP.jpg


上記の円グラフでは、日本は8%、韓国は1.5%になります。

<貿易依存割合の低い日本、高い韓国>

①貿易への依存割合が高い

 日本のGDP、輸出・輸入額は次のようになっています。

日本 GDP 輸出 輸入.jpg

 一方、韓国のGDP、輸出・輸入額は次のようになっています。

韓国 GDP 輸出 輸入.jpg

 一見して、韓国の方が、GDPに対して、輸出・輸入額の割合が高いことが分かります。

 GDPに対する、輸出額割合です。

日本 韓国 輸出/GDP 割合.jpg

韓国のその割合は、2008年で、45%を超えています。韓国は国内市場が小さい(日本に比較すると、人口が少ない)ので、モノづくり企業は、初めから、海外市場に目を向けてきました。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100611-00000001-president-bus_allプレジデント6月11日(金) 10時 0分配信

『なぜサムスンは日本の全電機メーカーの利益を上回るのか』

 サムスンの2009年12月期の売上高は、10兆9000億円、本業の儲けを示す営業利益は8736億円だ。
 一方、ソニー、パナソニック、日立製作所や東芝、シャープなど、電機大手9社の営業利益の合計は、6400億円(10年3月期見通し)。日本の電機大手が束になっても、サムスン1社の営業利益に届かないのである。


 一方、日本は、「巨大な内需の国」なので、「輸出立国」で成長する必要はありませんでした。

 日本は、「外需で経済成長」したのではありません。大阪万博(1970)以後の、バブル経済直前までの、日本の内需と外需です。

日本 GNP 貿易収支額

「内需=GDP-貿易収支(外需)」です。これのどこが、「内需拡大が進まず」なのでしょうか?

日本 内需 外需 1970年以降


 このグラフの赤い部分が「外需」です。内需は安定しています。日本のGNP(当時の統計)にとって、外需の割合は、「きわめて低い」のです。

 日本の高度成長も、同じです。「内需拡大」で達成したのです。貿易赤字の年でも「内需は拡大」しているのです。
日本 GNP 貿易収支 高度成長

 日本は,高度成長期,GNPが,平均して年率10%成長する経済成長を達成しました。国際的にも極めて高い経済成長率です。
 しかし,「貿易黒字」は,GNPに対して,ごくわずかの額にとどまっています。なおかつ,1960年と,1963年は,「貿易赤字」です。簡単に言うと,われわれの給与総額(GNP・GNI)は「貿易赤字」の年も拡大しています。高度成長は「輸出拡大による貿易黒字増大」によって,達成したのではないのです。

 日本は,内需の拡大で経済成長しました。日本が経済成長を達成したのは,国内市場の拡大によるものです。

 日本の貿易依存度は、世界で比較しても、圧倒的に低いのです。
林俊彦 同志社大 『超国籍化で日本経済強く』H22.8.30
…財貨について、輸出・輸入合計の国内総生産(GDP)比として世界銀行が計算する貿易依存度では、2008年の全世界の平均が52.5%であるのに対して、日本は31.5%である。これは世界190カ国中最下位から数えて7番目…。…輸出のGDP比で見ても、日本は米国とともに下位20カ国に入っている。


<日本は貿易立国ではない>

③貿易立国が重要な柱

 この10年間で,日本の外需(貿易黒字)のGDPに占める割合が一番多かったのは,2004年の1.93%です。同年の外需(貿易黒字)額は9兆6,260億円,GDPは498兆3,284億円(内閣府データ)です。
 リーマン・ショックに端を発した,世界的大不況に飲み込まれた2008年は,0.145%です(外需7,356億円,GDP 505兆1,119億円 同)。

内需99.855% 外需0.145%

 これが,日本の外需です。その比は,体重60キログラムの人の,87グラム相当です。近年の最大値,2004年の1.93%を使用すると,60キログラムの人の,1,158グラムです。

 世界で比較してみましょう。日本よりも,工業製品を輸出していないはずのイギリスでさえ,その輸出額/ GDP比率は,日本より上です。

輸出/GDP 各国.jpg

<輸出増=輸入増>

日本からの輸入を減らすには、韓国の技術で日本の部品・素材に代わるものを作れるのか…。もう一つ大事なことは、対日輸出の強化による均衡ある貿易拡大である。

 輸出増=輸入増です。韓国が輸出を伸ばそうと思ったら、別に日本からの輸入を減らす必要はありませんし、対日本の貿易赤字を減らす必要はありません日本からの輸入増=韓国の輸出増なのです。

リカード比較生産費説で示したとおりです。(このブログ カテゴリー リカード-14 輸出増=輸入増 参照)

 輸出拡大には,生産量拡大が必要です。生産量拡大には,労働力が必要です。労働力はどこから持ってきますか?それは,比較劣位産業からしか持ってこられません。「比較優位な産業に特化しなければ,輸出は成り立たない」=「輸入をしなければならない」ということなのです。
輸出増=輸入増
 
輸出と,輸入がセットということは,輸出拡大と,輸入拡大もセットということです。

図50 浜島書店 資料集『最新図説 政経』2006 p309
浜島書店 資料集『最新図説 政経』2006 p309無題.jpg
棒グラフの左側は輸出,右側は輸入

 日本の貿易額は,年を追って拡大してきました。その際,「輸出の拡大と輸入の拡大」はセットになっていることがわかりますか?「輸出を拡大する=特化する」ということは,「比較劣位産業を縮小しなければばらない=輸入を拡大する」ことなのです。日本は,繊維製品(当初),鉄鋼,造船,家庭電化製品,自動車に特化する一方,繊維製品・石油・鉄鉱石・石炭・農業産品など,劣位産業を縮小し,輸入を拡大してきたのです。

日経H22.2.25
 
日経H22.2.25 2010 1月 貿易統計.jpg

 輸出額が増えると、必ず輸入額も増えるのです。だから、日本の「輸出額-輸入額=貿易黒字=外需」も、極小なのです。

実教出版 資料集『新政治・経済資料』p2008 p259
実教出版 資料集『新政治・経済資料』p2008 p259無題.jpg

 世界の中で比較しても同様です。「一人あたり輸出額の大きい国は,輸入額も大きい,輸出額が小さければ,輸入額も小さい」という相関関係がみてとれると思います。

韓国 GDP 輸出 輸入.jpg


 韓国も同じです。

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