<リカード 比較優位 比較生産費説 その9>
<リカード 比較優位 比較生産費説 その9>
<比較生産費費←ミクロ経済学を使用(1)>
清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152
間違い×「生産量が増え,交換すれば利益を得る」
正解 ○「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
では,改めて,リカードの表を検証してみましょう。

この特化する前の,両国の生産量は次のようになります。

では特化する前の状態を,グラフにしてみましょう。

両国は,ワイン1㍑とウール1㍍をそれぞれ生産していますので,図のa点がポルトガルの生産量を,そして図のb点が,イギリスの生産量を示しています。このたった一つの点が,両国の生産の選択肢であり,同時に両国民の消費量でもあるのです。見るからにきゅうくつな生産状態だということがわかると思います。
実は,両国は,自由に労働力を動かせるのです。その極端な例が,すべての労働力を,どちらか一方の商品の生産に振り向けるというものでした。ウール作りに専念すれば,ワインの生産量は0です。逆に,ワイン作りに専念すれば,ウールの生産量は0になります。その中でも,得意分野の生産に,すべての労働力を投入することを,特化と言いましたね。労働力を極端に振り向けた場合,次のようになります。

この表を,グラフで表してみましょう。

この三角形で示された①②部分は,両国の生産可能領域(生産フロンティア)を示し,これが両国の最大生産量(斜辺部分)です。
ポルトガルの場合は,すべての労働者をワイン作りに専念させると(特化),3㍑生産でき,逆に不得意なウールにすべての労働者を振り向けると,1.5㍍生産できます。線分αAの内側なら,どこを選択しても可能です。a点は,ワイン1㍑とウール1㍍を生産した場合です。A点は,もっとも生産が得意な商品(比較優位)の,ワイン作りに,すべての労働者を振り向けた場合です。同様に,イギリスにおけるB点は,もっとも生産が得意な商品(比較優位)の,ウール作りに,すべての労働者を振り向けた場合を示します。線分βBのうち,b点は,ワイン1㍑とウール1㍍を生産した場合です。
ここで重要なことは,まだ両国で貿易をしていないので,この生産量は,同時に両国の消費量ということです。つまり,自給自足の場合生産量≧消費量,これが両国にとって越えられない壁です。生産量以上に,消費はできないのです。三角形①が,ポルトガルの消費量域であり,三角形②が,イギリスの消費量域なのです。
生産量≧消費量ですから,消費の無差別曲線でも,分析できます。では,消費者側から見た,両国国民の消費の無差別曲線は,どのようになるでしょう。

ポルトガルでは,U1イギリスではU2が両国国民の消費の無差別曲線となります。また,それぞれの国の家計(消費者)は,消費の最適点a点と,b点を選んでいます。
貿易前は・・
生産量≧消費量であり,生産量以上に消費はできない
では,次に両国が貿易をした場合を検証してみましょう。リカードは,国と国の間でも,得意な商品の生産に特化することを主張しました。両国は,国際的に分業し,その後貿易を行えば,「貿易をすれば,必ず利益がもたらされる」状態になるというのです。それはどのような状態でしょうか。

両国が特化した場合は,図26・27において,ポルトガルなら,ワインの生産量が3㍑のA点,イギリスならウールの生産量が,2.25㍍のB点となります。ポルトガルは,3㍑のワインを,イギリスのウール2.25㍍と交換(売買)します。これが貿易です。同じように,イギリスもウール2.25㍍と,3㍑のワインを交換(売買)します。それぞれの,貿易のパターン(どのような割合で交換するか)は,A点と,B点を結ぶ線で示すことができます。
貿易する = 交換する
ポルトガルのワイン3㍑ ⇔ イギリスのウール2.25㍍
A点 結ぶ B点

両国は,貿易により,線AB上のあらゆる点を,選ぶことができます。三角形が大きくなっていることは,一目瞭然ですね。<リカード比較生産費説6 ミクロ経済学 予算線>で説明したように,三角形が大きくなるということは,実質所得が増え,商品購入の選択肢が拡大したことを示すのです。
しかも,生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。貿易前は,生産量≧消費量で,三角形①・②が両国の,最大の消費量でした。
ところが,貿易すると,三角形③・④の部分も消費できるのです。この三角形③・④部分は,貿易をする前は,両国の国民が,絶対に手に入れることができない部分でした。
それが,貿易をすることにより,こんなに大きな三角形部分まで,消費可能となる のです。自分の国の生産量を大幅に上回る消費量を手にすることができるのです。
つまり,生産量<消費量となったのです。「自分たちが作った量以上に,手に入れることができる」こんな不思議なことが可能になったのです。
しかも,消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。消費者の満足度(効用)が高くなりました。消費の最適点も高くなっています。まとめると,三角形が大きくなり,実質所得が増え,商品購入の選択肢が拡大するとともに,消費者効用も増大したのです。
これが,リカードの主張する「利益」なのです。
貿易すると・・
①三角形が大きくなる→生産量<消費量となる
②満足度(効用)が大きくなる
↓
リカードの魔法のような理論
生産に特化(専念)し,これを貿易によって不利な産業の商品と交換しあえば,すべて自給するより,貿易当事国の双方に利益をもたらすことになる清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152
リカードが,「貿易をすれば,必ず利益がもたらされる」と言ったのは,こういうことだったのです。
「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」ということなのです。そして,これが,「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」という「魔法のような理論」の一番大切なところなのです。
<追記>
上記で説明した「貿易三角形」理論は、ポール・クルーグマン(プリンストン大教授:ノーベル経済学賞)の最新刊(版)でも扱われています。リカード理論を説明する経済学書は数あれど、「貿易三角形」で解説している経済学入門書は、私が知る限り、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』シリーズと、クルーグマンのみです。
P・クルーグマン「クルーグマンの国際経済学 理論と政策(上) 貿易編」ピアソン 2010
P47

<比較生産費費←ミクロ経済学を使用(1)>
清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152

間違い×「生産量が増え,交換すれば利益を得る」
正解 ○「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」
では,改めて,リカードの表を検証してみましょう。

この特化する前の,両国の生産量は次のようになります。

では特化する前の状態を,グラフにしてみましょう。

両国は,ワイン1㍑とウール1㍍をそれぞれ生産していますので,図のa点がポルトガルの生産量を,そして図のb点が,イギリスの生産量を示しています。このたった一つの点が,両国の生産の選択肢であり,同時に両国民の消費量でもあるのです。見るからにきゅうくつな生産状態だということがわかると思います。
実は,両国は,自由に労働力を動かせるのです。その極端な例が,すべての労働力を,どちらか一方の商品の生産に振り向けるというものでした。ウール作りに専念すれば,ワインの生産量は0です。逆に,ワイン作りに専念すれば,ウールの生産量は0になります。その中でも,得意分野の生産に,すべての労働力を投入することを,特化と言いましたね。労働力を極端に振り向けた場合,次のようになります。

この表を,グラフで表してみましょう。

この三角形で示された①②部分は,両国の生産可能領域(生産フロンティア)を示し,これが両国の最大生産量(斜辺部分)です。
ポルトガルの場合は,すべての労働者をワイン作りに専念させると(特化),3㍑生産でき,逆に不得意なウールにすべての労働者を振り向けると,1.5㍍生産できます。線分αAの内側なら,どこを選択しても可能です。a点は,ワイン1㍑とウール1㍍を生産した場合です。A点は,もっとも生産が得意な商品(比較優位)の,ワイン作りに,すべての労働者を振り向けた場合です。同様に,イギリスにおけるB点は,もっとも生産が得意な商品(比較優位)の,ウール作りに,すべての労働者を振り向けた場合を示します。線分βBのうち,b点は,ワイン1㍑とウール1㍍を生産した場合です。
ここで重要なことは,まだ両国で貿易をしていないので,この生産量は,同時に両国の消費量ということです。つまり,自給自足の場合生産量≧消費量,これが両国にとって越えられない壁です。生産量以上に,消費はできないのです。三角形①が,ポルトガルの消費量域であり,三角形②が,イギリスの消費量域なのです。
生産量≧消費量ですから,消費の無差別曲線でも,分析できます。では,消費者側から見た,両国国民の消費の無差別曲線は,どのようになるでしょう。

ポルトガルでは,U1イギリスではU2が両国国民の消費の無差別曲線となります。また,それぞれの国の家計(消費者)は,消費の最適点a点と,b点を選んでいます。
貿易前は・・
生産量≧消費量であり,生産量以上に消費はできない
では,次に両国が貿易をした場合を検証してみましょう。リカードは,国と国の間でも,得意な商品の生産に特化することを主張しました。両国は,国際的に分業し,その後貿易を行えば,「貿易をすれば,必ず利益がもたらされる」状態になるというのです。それはどのような状態でしょうか。

両国が特化した場合は,図26・27において,ポルトガルなら,ワインの生産量が3㍑のA点,イギリスならウールの生産量が,2.25㍍のB点となります。ポルトガルは,3㍑のワインを,イギリスのウール2.25㍍と交換(売買)します。これが貿易です。同じように,イギリスもウール2.25㍍と,3㍑のワインを交換(売買)します。それぞれの,貿易のパターン(どのような割合で交換するか)は,A点と,B点を結ぶ線で示すことができます。
貿易する = 交換する
ポルトガルのワイン3㍑ ⇔ イギリスのウール2.25㍍
A点 結ぶ B点

両国は,貿易により,線AB上のあらゆる点を,選ぶことができます。三角形が大きくなっていることは,一目瞭然ですね。<リカード比較生産費説6 ミクロ経済学 予算線>で説明したように,三角形が大きくなるということは,実質所得が増え,商品購入の選択肢が拡大したことを示すのです。
しかも,生産量はそれぞれ三角形①・②で示した部分です。貿易前は,生産量≧消費量で,三角形①・②が両国の,最大の消費量でした。
ところが,貿易すると,三角形③・④の部分も消費できるのです。この三角形③・④部分は,貿易をする前は,両国の国民が,絶対に手に入れることができない部分でした。
それが,貿易をすることにより,こんなに大きな三角形部分まで,消費可能となる のです。自分の国の生産量を大幅に上回る消費量を手にすることができるのです。
つまり,生産量<消費量となったのです。「自分たちが作った量以上に,手に入れることができる」こんな不思議なことが可能になったのです。
しかも,消費の無差別曲線も右上にシフトしています(U1<U3,U2<U4)。消費者の満足度(効用)が高くなりました。消費の最適点も高くなっています。まとめると,三角形が大きくなり,実質所得が増え,商品購入の選択肢が拡大するとともに,消費者効用も増大したのです。
これが,リカードの主張する「利益」なのです。
貿易すると・・
①三角形が大きくなる→生産量<消費量となる
②満足度(効用)が大きくなる
↓
リカードの魔法のような理論
生産に特化(専念)し,これを貿易によって不利な産業の商品と交換しあえば,すべて自給するより,貿易当事国の双方に利益をもたらすことになる清水書院 教科書『現代政治・経済』2008 p152
リカードが,「貿易をすれば,必ず利益がもたらされる」と言ったのは,こういうことだったのです。
「特化前は,生産量≧消費量だったものが,特化後は生産量<消費量となり,消費者効用が増大する」ということなのです。そして,これが,「自由貿易によって,全ての国が利益を得ることができる」という「魔法のような理論」の一番大切なところなのです。
<追記>
上記で説明した「貿易三角形」理論は、ポール・クルーグマン(プリンストン大教授:ノーベル経済学賞)の最新刊(版)でも扱われています。リカード理論を説明する経済学書は数あれど、「貿易三角形」で解説している経済学入門書は、私が知る限り、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門』シリーズと、クルーグマンのみです。
P・クルーグマン「クルーグマンの国際経済学 理論と政策(上) 貿易編」ピアソン 2010
P47

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