アダム・スミス 「自由放任・見えざる手」 (12)

<アダム・スミス 自由放任と見えざる手>

 2006年より、各教科書会社に、①「アダム・スミスの思想を自由放任ととらえる」こと、及び②「『神の見えざる手』は市場機構のこと」の誤りを指摘してきました。
 また、拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学』および、このブログでも、スミス思想を、原典に忠実に解説してきました。

 「素人の解釈について、聞く耳を持たない」という教科書会社があることは事実です。もしも、「権威者(クロウト)の解説しか採用しない」姿勢であれば、「権威者(クロウト)」はスミス思想についてどう捉えているのかを、ご紹介しましょう。根井さんです。専攻は「経済思想史」ですから、まさに保守本流です。

<見えざる手について>

根井雅弘 京大院経済学研究科教授 
『経済学とは何か』中央公論社2008

p6
…スタンダードな経済学の入門書をひもといた途端に資本主義の根幹をなす「市場メカニズム」…の説明がアダム・スミスの「見えざる手」という言葉とともに出てくることである。例えば、N・グレゴリー・マンキューの有名な教科書…
p8
…レオン・ワルラスの流れをくむ現代の一般均衡理論がこのような「価格メカニズム」(=スミスの「見えざる手」)の魔力を解き明かしたのだと説明されているかもしれない。

…だが、このような説明に接すると…スミスの「見えざる手」が独り歩きしているという印象を拭う事ができない。…一般均衡理論の眼でスミスの「見えざる手」(=「価格メカニズム)を捉えてしまうと…どの文脈で使われているのかが全く見えてこない
(注:このあと、―「国富論」見えざる手の部分を引用-)
P10-11-12
…すなわち、スミスの「見えざる手」は、この文章にあるように、各個人が最大の利潤を求めて資本を自由に動かすこと(これが本来の古典派の「競争」である)との関連で出てくる言葉であり、「価格」のバロメーター機能のみに注目する一般均衡理論とは着眼点が異なっているのである。

…スミスには、「資本投下の自然的順序」こそが富裕に至る自然的進歩の理想であるという思想があった。

スミスの「見えざる手」は、このような富裕の自然的進歩の思想(筆者注:自分の資本【カネ】をより効率的に投資する事)…を正確に理解しなければ、その言葉がスミスを離れて独り歩きする…。

…それにもかかわらず、ある政治的目的をもった人たちは、スミスの「見えざる手(=「市場メカニズム」)が…完璧に機能するという「レッセ・フェール」の思想を正当化するために利用してきた


 スミスの「見えざる手」は「価格(市場)メカニズム」ではなく、「資本主義(資本をより効率的=儲かるところに投下する事)」と述べられています。「市場主義(注)」ではなく「資本主義」のことなのですね。
 
注「市場主義、市場原理主義、新自由主義…これらも、経済学上実態のない造語」です。
参考:根井『市場主義のたそがれ』中公新書2009 p92-96


 拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学』および、同名ブログに述べた、スミスの「見えざる手」については、以下の通りです。

①「自分の儲けを追求すれば(スミスは,この部分で,労働者に対する投資=給与を説明しています),知ら  ず知らずのうちに(見えざる手に導かれ)公共の利益が促進される」というのが本来の趣旨です。「利己心を追求すると,社会が発展する」ということですね。

個人の利益+個人の利益+個人の利益・・・=国全体の利益(GDP)

③見えざる手=市場機構ではなく、見えざる手=自然法則(経済法則)であり、見えざる手>市場機構なのです。

<自由放任について>

『経済学はこう考える』ちくまプリマー新書2009

P27-30
 経済思想の解説書のなかには、ケインズ以前の「古典派」(スミス・リカード・ミルなど)はいうまでもなく…ピグーなどに至るまで、すべて「自由放任主義」を奉じていたかのように書かれているものがあります。…残念ながら、ケインズの有名なパンフレット『自由放任の終焉』のイメージが誤解されて伝わった学説史上の誤解の一つです

…政府の最低限の義務を三つ(「国防」「司法行政」「公共事業」)挙げましたが…これ以外の介入をまったくおこなわないことを「自由放任主義」と呼ぶのならば、当のスミスでさえ、自由放任主義者ではないことになります。『国富論』の全体を精読するならば

…たしかに、『国富論』のなかには、有名な「見えざる手」という言葉が登場しますが…自由放任主義によって「自然的自由の制度」と彼が呼んだ一つの理想状態におのずと導かれるかのように誤解されたのは、思想史上の「悲劇」と言ってよいかもしれません。



 拙著『高校生からのマクロ・ミクロ経済学』および、同名ブログに述べた、スミスの「自由放任(レッセ・フェール)」については、以下の通りです。

スミスが批判したのは,当時の重商主義政策です。そこでは,自国の商業的な利益を守るため,関税をかけ,国内産業の独占を許すなど,保護貿易主義をとっていました。保護貿易は,社会的な利益の増加につながらないと,彼は考えたのです。

②つまり,「自由にする」ということは,障害を取り除くことであり、重商主義貿易の,「独占」に反対したのです。それが,結果的に「労働力をムダ」に使い,「収入を増やさない」ことを「自由貿易」との対比で述べたのです。

③しかも,愚かな人定法であるはずの「航海条例」については,「国防は,豊かになることよりも重要」だから,自由貿易を制限してもかまわないとさえ言っているのです。
 「航海条例」は,イギリスと植民地との交易を,イギリスまたはイギリス植民地の船に限定する法律です。この独占の結果,輸出財の価格の高騰を招き,売買が減り,そのもうけを分配される労働者は低賃金しかもらえないと言います。にもかかわらず,このような条例は国家にとって有用と考えているのです。

<教科書、資料集の記述>

第一学習社『高等学校 改訂版 現代社会』平成20年 p76
アダム=スミス
自由放任政策
・小さな政府
・国家からの自由

 清水書院『現代政治・経済』H21年 p94 
 イギリスのアダム=スミスは、『諸国民の富』において、資本主義経済の自由な競争が「見えざる手」のはたらきにより社会全体の調和をもたらす、と述べた。このばあいの「見えざる手」とは市場機構のことである。個人が自由に自らの利益の拡大を追求することにより、社会全体の利益が増すので、国家は個人の経済活動に介入すべきではない。その際、国家の役割は国防・治安維持など必要最小限の活動にとどめ、「経済に対してはいわゆる自由放任でのぞむべき」である、と考えられた。

清水書院『新 政治・経済』H22度用見本 p85 
…アダムスミス…は、著書『諸国民の富(国富論)』のなかで、労働が価値を生むという説にもとづき、個人が利己心を自由に発揮して活動すれば「見えざる手」によって社会の調和が確保され、全体の利益も増大すると述べた。さらに、従来の重商主義的な保護政策に反対し、自由放任の政策を唱えるとともに…

とうほう『政治・経済資料2009』2009年度審査用見本 p178
 「個人の利己的な利益の追求こそが、“神の見えざる手”に導かれ、国家の富を推進する」と主張、重商主義的統制を批判し自由放任を説いた。

清水書院『新 現代社会』H20 p111 
 イギリスの経済学者アダム=スミスである。彼は価格機構によって経済は調整されると考え、経済活動には政府はかかわらない自由放任政策をよしとした。政府は警察や軍事のような最小限の仕事だけすればよく、その規模も小さいほどよいとされた(夜警国家論)。

浜島書店『最新図説現社』07.10.10 p250
 人々の自由な経済活動に任せておけば神の『見えざる手(市場の働きのことをこう読んだ)』の導きによって、市場はおのずと均衡が保たれてゆくとし、自由放任(レッセ・フェール)政策を主張した。
p137 
…価格の動きによって需要量と供給量が調整された。これを価格の自動調整機能といい、アダム=スミスはこの機構(市場機構、価格機構、プライス=メカニズム)を著書『諸国民の富(国富論)』の中で神の「見えざる手」とよんだ。

山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p89
 アダム=スミスは…政府が経済に干渉しない自由放任主義を唱えた
p99
 市場価格が需要と供給を調整する働きを価格の自動調節機能といい、アダム=スミスはこれを神の「見えざる手」にたとえた。

東京書籍『最新ダイナミックワイド現代社会』2008.2.1 p109 このような価格メカニズムを『価格の自動調節機能』(プライスメカニズム)とよび、これをアダム・スミスはその著書である『諸国民の富(国富論)』で神の『見えざる手』と名づけた


山川出版社『新版 現代社会』22.23年度用見本 p64
 また、価格は、供給量と需要量を調整し、資源の最適配分をおこなうように作用する。この働きを価格の自動調節機能といい、アダム=スミスはこれを神の「見えざる手」とよんだ。


実教出版「高校政治・経済」H21.1.25 p105 
…需要と供給の不均衡を解消する価格(市場)の自動調節機能がある。アダム=スミスはこの機能を神の「見えざる手」と呼んだ。

教育出版「政治経済 明日を見つめて」H20.1.20
 このように価格が自動的に調節して需要と供給を均衡させようとする働きを市場の自動調節機能(価格メカニズム①)とよぶ。注①アダム=スミスはこの価格のはたらきを「見えざる手」と形容した。

帝国書院「高校生の新現代社会」H20.1.20 p65 
 このように消費者の需要量と生産者の供給量が、価格の働きをなかだちにして自動的に調整されることを価格の自動調整機能②といいます。注②アダム=スミスは…このはたらきを「見えざる手」に導かれた調整とよびました。

 教科書記述では、アダム・スミスは、「価格の自動調整機能」を『見えざる手』といい、『自由放任政策』を主張したことが定番となっています。

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