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アベノミクスの懸念・・・定番批判・・・理論的にはですが・・・

<アベノミクスの懸念>

日経H25.3.5
日経H25.3.5.jpg


 アベノミクス3本の矢「財政政策・金融政策・成長政策」の一つ、大胆な金融緩和への批判です。

 「国債発行→市場を通じて日銀が購入→通貨発行=金融緩和」に対し、財政規律が乱れ、金利が高くなり(国債価格下落)、日本経済は落ち込む・・・


※国債価格下落=金利上昇とは?

この金利上昇とは、どういうことか、見てみましょう。

国債価格下落=金利上昇

 上の図で、額面100万円の国債が発売されたとします。この国債には、「○○%の利率をつけます」と、財務省がアナウンスします。

 
 証券会社は、その利率と、市場動向を考慮し、応札価格(買ってもよい価格)を決め、日銀ネットに数字を打ち込みます。

 「表面利率20%・100億円(表面価格)」の国債は、1年後に利息を含め、「120億円」返ってきます。この1年後に「120億円」返ってくる国債を、いくらで買うかを、オークションするわけです。

 この「120億円返ってくる国債」を、「110億円(取引価格)」で落札すると、実際の利率は「9.09%=利息10億円」となります。

 この取引価格が高くなると、金利は低くなります。つまり、国債の人気が高いと、取引価格は高くなり、実際の利率は低くなるということになります。



 「国債価格下落=金利急騰」、これは、この「希」さんだけが言うのではなく、「金融緩和」に批判的な人は、皆さんが言います。本を出す立場の方もそうです。

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良書悪書 財政ファイナンスはすでに始まっている - 『金融緩和で日本は破綻する』池田 信夫 野口 悠紀雄本 批評

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日本国債暴落!?

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株バブル勃発、円は大暴落(新刊まえがき)


 理論的には、そうなのかもしれませんが、市場はそう見ていません。日本国債は最高値を更新(金利は最低)しています。上記の大機小機「希」さんの隣の記事が、それを書いています。

日経H25.3.5
日経H25.3.5その2.jpg


 これを、「マッチ・ポンプ」と言います。なぜ、彼らが主張するように、「国債下落」とならないのか・・・。現実に起きているのは、「国債価格上昇」なのに、記事では「国債価格下落懸念の危険」・・・正反対に書いて、おかしいとは思わないのでしょうか?


 市場が一番正確なのではありませんか?「起きていることはすべて正しい」という意味で。日本の債券市場売買額は、毎年8000兆円を超え、最盛期には1京円!(リーマンショック前2007年)を記録している、世界最大マーケット(米に次ぐ)です。

 ここが、日本国債にそっぽを向く(国債価格下落=金利上昇)ならともかく、マーケットは日本国債への信認を、逆に高めています。

日経H25.3.6長期金利下落

 日経H25.3.6『住宅金利、最低更新も』

 長期金利が急低下している。指標となる新発10年物国債利回りは5日、一時0.585%まで低下し、2003年6月以来約9年8か月ぶりの低水準まで下がった。日銀が新体制の下で金融緩和を強化し、大量の国債を買い入れるとの見方が強まっているためだ。

 『国債買い入れ金利ほぼゼロ』

 日銀が市場への資金供給のために実施している国債買い入れオペ(公開市場操作)で、日銀による国債の落札金利がマイナスになる可能性が高まってきた。…黒田氏…日銀が大胆な金融緩和に踏み切るとの観測から…市場実勢を超える高い価格(低い利回り)で国債の買い入れオペに応札する傾向がみられ始めたためだ。



 国債価格高すぎて、マイナス金利!!!ですよ。 

 金融政策を批判する人は、この事実は徹底的に無視、もしくは、「現実がおかしい」と言います。昔の日本のマルクス経済学者が、「現実が間違っている」と言ったように。

<「教科書に載っている」「理論は正しい」論の誤謬>

 「円高→輸出減ではない」とデータで説明しても、「バカか?為替の影響について国際経済学教科書では必ず扱っている・・・」など、「理論至上主義者」=あたまでっかちのひとがたくさんいます。

 理論的には、「変動為替相場制=貿易不均衡を是正する働きがある」です。これも、国際経済学の教科書には、必ず載っています。

 「日本の輸出が増える→貿易黒字になる→日本の企業に支払うために円買いドル売りになる→円高ドル安になる→円高で日本の輸出は減る→貿易不均衡が是正される」というものです。

 こんなこと、現実には「全くありません」。

読売『G20 成長に軸足 新興国に内需拡大に期待』H22.6.28 
経常収支不均衡 予測.jpg

 経常収支の不均衡は、是正される気配は全くなく、むしろ拡大します。では、「現実がおかしい」ですか?

 説明しましょう。

現実は、モノ・サービス取引<資本取引ですから、為替は、カネ取引=資本取引で決まります。

実物取引<資本取引.jpg

 2010年、世界の貿易額は15兆495億ドル、1日当たり412億ドルです(JETRO)。一方、同年の為替取引は、1日当たり4兆ドル(BIS調査)です。実物取引のおよそ95倍です。

 日本の場合、「貿易黒字は年12兆円…1日あたりの円とドルの取引は16兆円:日経子どもニュース H22.9.4」あります。

 ですから、

円高になる→日本の輸出が減り、輸入が増える→貿易黒字が縮小する→貿易不均衡が是正される

 など、あり得ないのです。

 ついでに、「円高→輸出減」にならないのはなぜかも説明しましょう。

 日本の輸出品は、完成品ではなく、部品のような素材が圧倒的に多いのです。

安藤光代 慶大 日経H25.3.5『経済教室 東アジア生産、成長の鍵』

筆者注)今、中国は、アメリカを抜き、日本にとって世界最大の貿易相手国です。

2011年東アジア(14か国)向け輸出
 部品・中間財60%、完成品31%

…部品・中間財の退出効果は、他の製品と比べて格段に小さいことが分かった。退出効果とは、ある項目の輸出が途切れたことにより全体の輸出が押し下げられる効果を示し、これが小さければ危機に直面しても取引関係が途切れにくいと言える。…世界金融危機時…全製品の対世界輸出は実質ドルベースで約4割減…。…対東アジア部品輸出の退出効果による減少幅は0.7%…。それだけ東アジアとの部品・中間財の取引関係は安定的であるとみることができる。
…2つの危機下(筆者注:リーマンショックと東日本大震災)…東アジア諸国の中でも生産網に深く関与している国との取引関係ほど、輸出が継続される傾向にあり、いったん止まったとしても、復活する確率が高いことが分かった。



過去の記事です。

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浜矩子 「ユニクロ型デフレで日本は沈む」 文芸春秋 2010年1月7日記事
 
 しかも、日本の輸出は、パナソニックやトヨタなど、一般消費者向けの商品ではありません。7割以上が、工業用原料と、資本財(5割)です。(参考資料 JETRO)

 資本財とは、半導体の原材料、鉄鋼、工作機械、プラントなどです。これらを含め、日本の輸出の7割は、「企業相手」であり、しかも、これらは、「日本企業の独壇場」です。シリコン・ウエハー(DRAMの心臓)や、金属並みの強度を持つ繊維(旅客機用)、コマツの建機、中国が自動車を生産するときの金型etc。これらがないと、韓国も中国も、輸出国足り得ません。


 だから、「円高→輸出減」にはならないのです。

 ほかにも、あります。

 理論的には、「株高=国債安」です。なぜなら、景気がよくなると企業の株が買われます。また投資が活発化するため、国債を売って、キャッシュに変える動きが活発化します。キャッシュ需要が高い=金利高=国債価格下落のはずです。

 しかし、現実に起こっているのは、株高&国債高です。上記理論(理屈)では説明できません。

 Dena株は、今年に入り、下落し、これだけ株高なのに、去年の数値に戻していません。3月期の決算では、「過去最高益」だったのにです・・・

 「理論が正しい、現実が間違い」という人は、どうぞ、投資でもして、がんがん損してみてください。
 
<現実が正しい、理論が間違い>

 現実に起こっていることは、100%正しいのです。「現実に起きている」という意味で。

 次期日銀総裁の黒田氏の、インフレ目標2%を目指す金融緩和に対する批判記事です。

読売H25.3.5
読売H25.3.5 1.jpg

 ところが、この記事の真上に、「市場期待 円安・株高進む」と、黒田答弁を受けた、市場の動きが、記載されています。

読売 H25.3.5 2.jpg

 おまけに、5年物国債は、「国債価格上昇=金利下落」で、金利は「これまでの最低更新」です。

読売 H25.3.5 3.jpg


 マーケット(現実)は、常に正しい(起こっているという意味で)のです。理論は、その現実を説明するためのものです。現実が先、理論は後なのです。
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theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

ギリシャ、これじゃあ、ドイツも怒るなあ

<ギリシャ、これじゃあ、ドイツも怒るなあ>

 ギリシャ、どれくらいやりたい放題だったか、検証してみましょう。

・・・でも、ドイツだって、「いい思い」はしてました。どっちもどっちであることは間違いありません。

参考・引用文献 
白井さゆり『ユーロ・リスク』日経プレミアシリーズ2011
有田哲文『ユーロ連鎖危機』朝日新聞出版2011
内閣府『世界経済の潮流2010』


http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-627.html
「欧州危機 抜本先送り」参照


 ユーロのスタートは1999年、11カ国から始まりました。
 ギリシャがユーロ参加をしたのは、02年のことです。00年に欧州理事会が「ギリシャは高い水準で持続的な収斂性を有しており、ユーロの導入に必要な状況になった」と述べ、2001年にギリシャ国内で決定し、02年に参加(法定通貨)が認められました。

 でもその為には「ユーロ参加基準」というハードルがあります。

(1)財政赤字・政府債務の削減
(2)(以前の)通貨の安定
(3)インフレ率・長期金利の引き下げ



 (1)財政赤字については、GDP比3%以下、政府債務についてはGDP比60%以下にすることが求められ、加盟後であっても、是正勧告に違反する場合は、制裁として供託金(罰金)が課せられる仕組みとなっていました。
後になって分かりましたが、ギリシャは「虚偽の数値」で参加申請していました。

 この制裁は、実際には、ゆるゆるで、99年以来、財政赤字GDP比3%超えでも、厳格な適用は行われていませんでした。何しろ、2002年以降、EUは、行け行けどんどんの経済成長をしていましたので、なあなあでした。今となってはこれをしなかったのが問題でした。


 ギリシャがユーロに加入するメリットとして

(1)為替リスクの低減
(2)財政の信任による金利低下


 があります。

(1)「1ユーロ=○○ドラクマ」の変動を気にする事無く、安定して投資資金を呼び込むことができ、(2)資金を借り入れる際の、国債金利低下・それにともなう各種長期金利の低下がもたらされます。

 それまで、ギリシャの「ドラクマ」は、ドイツに比べると信用はありませんでした。

第1-4-43図 ギリシャ国債利回りの推移
ギリシャ 国債 利回り


 ギリシャが借金(国債とか、その他長期金利)する時は、ドイツより高い利息(スプレッド)を上乗せしないと、借りられなかったのです。

 ところが、「ユーロ」で「一定の信頼がある」とお墨付きが出た結果、ギリシャは低い金利でカネが借りられる・・・例えると、サラ金(死語か?)でしか借りられなかった、危ないとみなされていた層の人たちが、優良金利で「借り放題」になったのです。

 そうすると、「この低い金利で借りられるうちに、財政再建しよう」と、なりそうですが(日本やドイツなら、そうするでしょう)、ギリシャは、まさにブラック債権者で、「使っちまえ!飲んでしまえ!歌ってしまえ!」と放漫財政を、さらに加速化させたのです。

↑ 日本、全然やっていませんでしたね・・・

公務員・市民天国

 何しろ、政治は、人気取り(組合重視)で、政権交代するたびに、支持者を公務員にするので、ユーロ加盟後に公務員増え続けました。財政赤字を拡大させ続けてです。

第1-4-40図 ギリシャの政府支出と公務員人件費

ギリシャ 公務員 人件費.jpg


 1110万人の人口に対し、公務員は100万人、労働人口の1/4が「公務員」です。財務省は「公務員を何人雇っているのか、正確にはわからない」のだそうです。

(1)学費は大学院まで無料
(2)医療費は格安、無保険でも国立病院で3ユーロ(345円)で診察可
(3)年金天国

  
  年金/現役時代の「年金代替率」
   ギリシャ90% 
   デンマーク80%
   スエーデン60%
   ドイツ 40%

 これはドイツが怒るでしょう。デンマーク・スェーデンは高福祉:高負担です。ですが、ギリシャは高福祉:低負担(借金)です。

 しかも、やたらと早く年金を受け取れます。特定職種は、「危険」な仕事だからだそうです。仕事に危険が伴い、健康を害すからだそうです。薬品を使うので美容師、マイクや楽器に細菌がついているのでラジオ司会者や管楽器演奏員・・・

 金融危機になって、ギリシャが危ないとみなされると、公務員退職者は、2~3倍増と、激増します。財政再建すると年金カットされるからです。

<脱税天国>

 これだけ手厚い市民保護なのに、税金はさっぱり入ってきません。脱税や制度設計の問題で、本来得られるべき税収が得られず、07年には310億ユーロ(GDP比15%:0ECD調べ)が漏れていました。

 09年、6万5千社がまったく納税をせず、領収書さえ渡していませんでした。贈収賄は当たり前、正規に法が適用されないインフォーマルセクターはGDP比25~37%に上り、脱税した方が得な税制です。

 2010年、GDPは2%ダウンだったのに、税収は8%増!です。こんなことが実際に起こりうる国って・・・

もう一度、「ユーロ参加基準」です。

(1)財政赤字・政府債務の削減
(2)(以前の)通貨の安定
(3)インフレ率・長期金利の引き下げ

(1)財政赤字については、GDP比3%以下、政府債務についてはGDP比60%以下にすることが求められていました・・・・・・・。

 ドイツ、怒るのが分かりますよね・・・ユーロの放蕩息子を「助ける必用があるのか!!」って。

<ドイツだって>

 でも、ドイツの銀行だって、大もうけしました。

第1-4-45図 経常収支の推移

ドイツ 黒字.jpg


 「経常収支黒字資本収支赤字」で、メカニズムは、「資本(カネ)移動→経常(実物)収支」でしたよね。 

ブログカテゴリ「貿易黒字はもうけではない」参照


 つまり、ドイツは、ギリシャやスペインが低利で借りられるようになったことをいいことに、南欧に投資しまくったのです。 
 南欧では、住宅投資や設備投資が増大し、スペインでは「住宅バブル」、ギリシャでは「市民・公務員天国」を作り出してしまいました。
 
 ベンツもBMWもアウディも、南欧で売れまくったのです。ドイツの貿易黒字が急拡大したのは、ユーロ導入の2001年以降です。ギリシャ・スペイン・ポルトガル様様だったのです。

ドイツ 貿易黒字 



 日本の貿易黒字は、「海外資産の積み上げ」だから、もうけではない!!!と何度も説明してきたので、みなさんもうおわかりのことと思います。海外資産は、日本国内に流通させることはできません。「日本国民の生活をすぐに豊かにするものではない」のです。

 ですが、ドイツが輸出で手にしたのは「ユーロ」です。「貿易黒字=もうけ」なのです。「ドイツ国民の生活をすぐに豊かにする」のです。

 ユーロ圏が広がることにより、ドイツは恩恵を十分に受けたのです。

ドイツ実質GDP推移
[世] ドイツの実質GDPの推移(1999~2011年)


 紆余曲折の末、11年10月、EUによる1300億ユーロ(13兆7500億円)の融資、ギリシャ債務の50%削減が決定されました。

<ベンツ・BMW・アウディ・VW>


朝日新聞 平成23年12月31日
『ユーロ一時100円割れ』
…欧州の共通通貨ユーロが一時99円97銭をつけ2001年6月以来約10年半ぶりに1ユーロ100円の大台を割り込んだ
・・・08年7月には1ユーロ169円台の最高値を付けた。・・・わずか3年半で4割も値下がりした。



 あの、これらの会社の車、全然値段下がってませんよね。4割下げろとは言いませんが、円高ユーロ安で、1~2割は下がっても、当然ではないでしょうか?

 なんでドイツのカローラであるゴルフが、日本では、「外車だから高くて当然」になるのですか?

2008年 6月17日販売終了モデル

ゴルフ 2004年モデル TSI トレンドライン価格:2,480,000

ゴルフ


ゴルフ 2009年モデル TSI Trendline Premium Edition
価格:2,630,000



 ベンツなんか、ユーロ安なのに、逆に値上げ!してます

Cクラス セダン 2007年モデル
2007年6月発売~現在販売中のモデル

C 200 BlueEFFICIENCY

ベンツ




マイナーチェンジ前 2011年~5月価格:4,400,000
マイナーチェンジ後2011年5月~価格:4,450,000

 これなんか、もともと、2007年6月の値付けなのだから、今年春には、300万程度になっていても、全くおかしくありません。

ドイツ車、ふざけてませんか?

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欧州危機 抜本先送り

 ギリシャがとんでもないことになっていますね。

日経H23.9.13

『ギリシャ債務不履行警戒』
 …ギリシャ政府は追加的な財政再建策を発表し、欧州連合(EU)は支援を続ける構えを示すが、市場はほとんど評価していない。
…債務危機に陥る南欧国債の利回りが上昇(価格は下落)。ギリシャの2年も国債の利回りは前週末から15%も上がり70%を超えた。

ギリシャ2年もの国債.jpg


読売H23.9.18

『欧州危機 抜本先送り』
…EUが一連の会合で打ち出した具体策の一つは、ギリシャが当面必要とする80億ユーロを10月に融資する姿勢を示したことだ。受け取れなければギリシャは、直ちに財政資金が足りなくなり、債務不履行(デフォルト)に陥る危険性がある。


ギリシャ 長期国債



 ギリシャについては、昨年来、このブログで取り上げています。

(1)ギリシャがデフォルトする可能性があるのは、債券を外国が買っている(約2/3)から

http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-310.html
正直知哉 その2 ピムコジャパン マネージングディレクター 『政権 改めて論点を問う』日経H22.2.1
2010-02-16
国債価格下落=長期金利上昇



(2)ギリシャの10年もの国債の金利は、2010年5月で14%程度だった。

http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-362.html
2010-05-11
読売 社説『ギリシャ危機の飛び火を防げ』H22.5.8




(3)もともとアバウトなギリシャ

http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-389.html
日経H22.6.21 『ユーロ危機 上 国民説得へ「徴税大作戦」』
2010-06-27
国債価格下落=長期金利上昇



 財政再建策を打ち出したのですが、なかなか市場の信任を得ていないようです。そもそも、ギリシャのGDPは、EUのわずか3%程度です。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4550.html 

 そのGDPの絶対額(2008年)は、35兆円程度、日本で言えば、大阪府38兆円と、愛知県33兆円程度に過ぎません。

 3%程度という規模を見ると、日本504兆円の3%=約15兆円、静岡県16.5兆円程度です。イメージとしては、静岡県の財政破綻問題が、日本全体を揺るがす?というような感じです。

<国債価格下落=金利上昇>

 それにしても、この金利の高さは異常です。以下の説明は、あくまでもイメージととらえて下さい。

ギリシャ2年もの国債.jpg


 2年債で、70%というのは、100万円借りて、来年70万円の金利、再来年70万円の金利、合わせて金利だけで140万円返済しなくてはならないというものです。

ギリシャ 長期国債

 同じく、長期金利(10年もの)が25%ということは、100万円借りて、毎年25万円の金利を払わないと、借りられないということです。

 これは、もう市場には、「ギリシャに貸してあげよう=ギリシャ国債を買ってあげよう」という金融機関がないということです。

 この金利上昇とは、どういうことか、見てみましょう。

  国債価格下落=金利上昇



上の図で、額面100万円の国債が発売されたとします。この国債には、「○○%の利率をつけます」と、財務省がアナウンスします。

 国債はオークションで取引されています。1年に100回程度新規国債が発行され、1回に数千億円~2兆円ほどの国債が売りに出されます。
 財務省は、プライマリーディーラーと呼ばれる、オークションに参加できる、許可を受けた銀行や、大手証券会社にアナウンスします。ディーラーは、購入した国債を、機関投資家(銀行、保険会社、証券会社などの金融機関)に売ることができます。日本国債は95%が、この国内機関投資家によって保有されています。

 国債取引は、電子化され、財務省から発行を委託された日本銀行のデータ上に額と所有者が記録されています。ディーラーは、日銀金融ネットワークシステムというオンラインで結ばれています。

 国債の発行額と、クーポンに相当する利率はオークション当日の午前中に明らかになります。例えば、「30年もの国債・表面利率20%・100億円(表面価格)」と発表されます。

 証券会社は、その利率と、市場動向を考慮し、応札価格(買ってもよい価格)を決め、日銀ネットに数字を打ち込みます。

 プライマリーディーラーは、各自価格(実際の取引価格)を提示し、高い価格をつけたディーラーから落札していきます。国債価格(取引価格)は、常に変動しているのです。

 「表面利率20%・100億円(表面価格)」の国債は、1年後に利息を含め、「120億円」返ってきます。この1年後に「120億円」返ってくる国債を、いくらで買うかを、オークションするわけです。

 この「120億円返ってくる国債」を、「110億円(取引価格)」で落札すると、実際の利率は「9.09%=利息10億円」となります。

 この取引価格が高くなると、金利は低くなります。つまり、国債の人気が高いと、取引価格は高くなり、実際の利率は低くなるということになります。




日経H23.2.24

『固定金利オペ応札倍率最高に』
 日銀は23日固定金利オペ(公開市場操作)の6ヶ月もの入札を実施。8000億円の予定額に対し、3兆7630億円の応札があり…。応札倍率は…4.69倍で…最高の倍率になった。

『残存期間別国債買いオペ』
…「1年超10年以下」の入札では、2500億円の予定額に対して1兆761億円の応札

『最高落札利回りが低下』
…3ヶ月もの国庫短期証券の入札は最高落札利回りが0.163%になり…低下した(筆者注:証券価格上昇)。落札額は4兆4600億円。応札倍率は4.33倍…。


国債価格.jpg


 以下は、実際の日本の国債取引です。 「30年もの国債・表面利率2.2%・7000億円(表面価格)」の国債は、1年後に利息を含め、7154億円返ってくることになります。この1年後に「7154億円」実際に、「利率2.09%で落札されることになった」場合、「7007.5億円」で購入したことになります。「7007.5億円+金利2.09%相当分146.5億円=7154億円」となるわけです。

 日本国債の実際の利率は、世界最低水準です。ということは、国債価格が高い=人気がある=市場からの信頼が厚いということになります。

 ギリシャの場合は、2年物で利率が70%です。ということは、1年後100万ユーロ返ってくる国債が、58.8万ユーロの価格しか付かないということです。

ギリシャ国債.jpg


 60万円借金する場合、利息40万円を払わないと貸してもらえない状態です。いかにむちゃくちゃな高金利か分かります。日本では、「闇金」にでも頼まないと、貸してくれる金融機関はないという状態です。

 危機前(2009年)のギリシャの国債発行額は、2700億ユーロ(30兆円)でした。
アメリカは2011年3月時点で、14兆ドル(1000兆円以上)、日本では760兆円です。

 資本の自由化(国債移動)に伴い、この国債は、世界市場で売買されます。ギリシャ国債の約2/3は外国が買ってます。ギリシャがデフォルトすると、困るのは、ドイツやフランスの銀行です。ですから、ギリシャ危機で、フランスの銀行の株価が下落するのです。

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920014&sid=awPvftgbDnFM
『仏銀3行、格下げでも株価は限定的な下げにとどまる公算-市場関係者』

 9月12日(ブルームバーグ):BNPパリバとソシエテ・ジェネラル、クレディ・アグリコルのフランス大手銀行3行は、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによって格付けが引き下げられたとしても、株価はこの3カ月で既に40%余り下落していることから限定的な下げにとどまる可能性がある。市場関係者がこうした見方を示した。
 事情に詳しい関係者2人が明らかにしたところによると、時価総額で仏銀1-3位を占めるこれら3行は、今週にもギリシャへの投資を理由に格付けが引き下げられる可能性がある。



<国債は孫の世代の借金> 

 この国債の利率について、見てみます。実際に日本で売買されている国債は「30年もの国債・表面利率2.2%・7000億円(表面価格)」というものです。1年後に利息を含め、7154億円返ってくることになります。

 この「金利」は、1年に付き2.2%ということです。実際に、30年間で返済する事になりますので、1年154億円×30年=4620億円、7000億円借りて、金利4620億円を足して1兆1620億円返すことになります。
 
(住宅ローンだって同じようなものです。3000万借りて、30年で返済・利率2%で借りた場合、単純計算で、金利分だけで1800万円、合計4800万円の返済になります。元利金等返済にした場合、最初は、金利だけを返済し、元本は減っていないことになります)


 その国債が、「利率2.09%で落札された」のですから、「7007.5億円+金利2.09%相当分146.5億円=7154億円」ということになりました。

 この金利146.5億円は、1年毎にかかります。ですから、本当は、「国債7007.5億円+1年間金利146.5億円×30年」ですから、「金利だけで4395億円」、合計国は1兆1620億円返済するのです。

 しかも、実態はもっと複雑です。この30年もの国債は、本当は、60年間で返済されることになります。借換債です。

 https://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/saimukanri/2006/saimu02b_01.pdf#search='第2章 国債'
国債 60年ルール.jpg

「10年満期=6兆円」という国債があったとしても、その償還は、「60年」償還ルールによって、完全に返済されるのが、60年後です。6兆円のうち、10年後に償還されるのは、6000億円、あとの5兆4000億円は、その時点で、「借換債」になります。

 2011年度一般会計予算案で、租税収入409,270 公債金442,980と、「公債金>租税」の予算案と言われています。これを見ると、「日本は1年間に約44兆円の国債を発行しているのだ」と考えそうです。
 
 ですが、日本で1年間に発行されている国債額は、「170兆円」です。

参考引用文献:日経H22.12.2 グラフ・図も
『国債発行額 最大に』
 2011年度の国債発行総額が170兆円台に乗せ、過去最大に膨らむ見通しとなった。…過去に発行した国債の借り換えが、10兆円程度増える…。
 


 このように、実際には、毎年40兆円新規国債を発行し、同じく国債償還も約20兆円ですから、差し引き「毎年20兆円の国債が積みあがっていく」のではなく、「毎年雪だるま式に国債残高は増えていく」ことになるのです。金利分がどんどん増えるからです。

国債発行額

 図にあるように、国債は①新規国債②借換債③財投債の3種類があり、市場から見れば金融商品としては同じで、違いはありません。このうち、②の借換債は、2011年度110兆円以上に上ります。③の財投は15.5兆円程度です。圧倒的に借換債が多いことが分かります。


 しかも、日本は少子高齢化で、将来世代は、ますます減っていきます。

 成長期は、次のようになります。

人口増 国債.jpg

 国債残高が増えても、一人当たりにすると、そんなに変わらないことになります。
ですが、少子高齢化だと・・

人口減 国債.jpg

 見るからに、きついですね。国債は、将来世代へのツケであることは間違いありません。

 ただ、国債を買っているのは、「国民」です。

 我々の預貯金→銀行・生保・公的年金・投資信託→国債購入825兆円分(海外を除くと775.5兆円)。「国債は政府の借金=国民の財産」です。これらの借入金を買っているのは誰でしょう?それは我々1人1人の国民なのです。簡単に言えば、約1500兆円に及ぶ、日本人の個人資産の約53%は国の借入金になっているのです。

帝国書院『アクセス現代社会2009』P134 家計の金融資産残高の推移帝国書院『アクセス現代社会2009』P134 家計の金融資産残高の推移.jpg

家計金融資産
   ↓
家計金融資産構成比.jpg
   ↓
国債保有者.jpg

日経21.6.27
国債購入者 日経21.6.27

国民→国債→国民.jpg

 国民から徴税して、金利をつけて、金融機関に返済します。金融機関(銀行・生命保険会社・損害保険会社etc)の利益は、国民に還元されます。自分たちで金利を払い、自分たちで受け取っている形になります。

 金利配当、元金返還の構図は,下記のようになっています。

 国債 国民の財産.jpg

 「持っている者」VS「もたない者」の構図ですが、税金の場合と、違っていることが分かります。「持てるもの」の利益(国債金利)は、国民の間に広く薄くいきわたります。この金利収入は、結局国民に還元され、その年のGDI(所得)=GDP(生産)になるからです。

国債 受益者.jpg



<追記 最新データ>

 外国人(海外)の日本国債保有比率が高まっています。

H23.9.22 日経
国債 保有 外国人



国と地方の借金、個人資産1110兆円上回る?
読売新聞 9月18日(日)23時47分配信

 五十嵐文彦財務副大臣は18日、テレビ朝日の番組に出演し、日本銀行が20日発表する6月末の統計で、国と地方自治体の借金の総額が、国内の個人の金融純資産額を初めて上回る可能性があるとの見通しを示した。

 五十嵐氏は「今年の(個人)金融資産は伸びていない」と指摘し、双方の数字が「クロスする可能性がある」と述べた。

 五十嵐氏が指摘したのは、日銀が発表する2011年4~6月期の資金循環統計(速報値)で、個人の金融資産から負債を引いた「純資産」と、国・地方の中長期債務残高に政府短期証券などを加えた「借金の総額」についてだ。

 個人金融純資産と国・地方の借金の差は縮まっている。3月末時点では個人金融純資産(1110兆円)に対する中長期債務残高(894兆円)と政府短期証券などの合計は1045兆円だった。 .最終更新:9月18日(日)23時47分

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米国 国債 デフォルト?

 日経 H23.6.6 『日米欧 債務の罠』グラフも

赤字国債 債務残高 各国[1]

…米国では、政府債務が法律で定める上限に達してしまったのに、民主・共和両党の財政赤字削減協議が前に進まない 

 5月16日、アメリカで、新規国債の発行ができなくなりました。アメリカでは、国債発行の限度額は、議会によって決められているのですね。

 オバマ大統領の下、リーマン・ショックに対応する財政政策として、2009年に総額7870億ドルの景気対策を行いました。
 今年度の財政赤字額は、過去最高の1兆4800億ドル(118兆4000億円)に達しています。この資金が、このままでは不足してしまうのです。
 さらに、新規だけではなく、過去の国債の償還もできなくなります。そうすると、「債務不履行=デフォルト」が懸念されます。
 
田中 宇『米国債政治デフォルトの危機(3)』
C:\Users\abc60w\Desktop\米国債政治デフォルトの危機(3).mht

「米財務省は、公務員年金用に積み立てておいた資金などを取り崩して他の財政支出用に使い、急場をしのいでいるが、そのやり方も8月2日までしか持たない。その後は米国債の償還金や利子の支払いができず、米国債がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が増す。」
「下院の共和党は6月1日、わざわざ否決する目的で、赤字上限を引き上げる法案を出して票決し、否決する政治ショーを展開した。」


他参考資料

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110603/mcb1106031934031-n1.htm
米国債大揺れ、財政改革暗礁に 米の信認は剣が峰


 アメリカ(アメリカ議会)は、どうしようとしているのでしょうか。

<アメリカの政治制度>

 アメリカの政治制度は、一言でいうと「バッラバラ」です。とにかく、権力の分散を図るので、あらゆる意味で、「バッラバラ」です。

 アメリカは、ご存じのように、ロックの思想(抵抗権)と、モンテスキューの思想(権力分立)で成り立っている、人工(理念)国家です。権力の分立は、大きく分けて、(1)「中央政府」と「地方政府(州)」、(2)中央政府の立法・行政・司法の三権分立があります。

(1)連邦制

 アメリカの正式名称は、UNITED STATES OF AMERICAで、アメリカ連合国です。50の州と、連邦国家で成り立っています。

 まず、州が先にありました。独立時の13州です。その13州(独立国家)を一つに束ねる必要性から、連邦政府が作られました。「人民の権利を守るために組織されたのが政府」です。ですから、人民の権利を侵すようなことがあれば、「抵抗権」がありますし、主役は一人一人の個人です。基本的人権の中で自由が最大の権利です(これはキリスト教と非常に深い関係があります:いつか扱いたいテーマです)。

 ですから、「政府は必要悪」なので、できるだけ小さいのが望ましい=身近な州政府が、カウンティ(郡)が、より望ましいのです。

 中央集権ではなく、連邦制が採用されたのは、中央政府を望む連邦派と主権を維持しようとする反連邦派の妥協の産物です。一定の権利を州から移譲させ、残りの権利を州に残したのです。だから、その境界はあいまいで、憲法にも規定されていないので、連邦政府⇔州政府の間で、権力がゆらゆらと行ったり来たりを繰り返しています。

 カネの配分では、1929年時点で、連邦政府17%・州政府23%・州以外の地方政府60%が、2006年には66%・19%・15%と、連邦政府の権限の巨大化が示されています。

米政府予算比率.jpg

 一方、州政府の権限も相変わらず巨大です。死刑執行について、次のような事例があります。メキシコ人死刑囚の例です。
 2008年8月、テキサス州でメキシコ人の死刑執行が行われました。その流れです。

メキシコ政府はウイーン条約違反で、国際司法裁判所(ICJ)に提訴

2004年国際司法裁判所は、同州に判決見直しを命令

ブッシュ大統領(当時)も、ペリー州知事に執行延期を要請

2008年 連邦最高裁は 大統領が、ICJの判断受け入れを州に強制するのは無効と判断

ICJは2008年7月、再度死刑執行をしないよう、州に命令

知事は拒否、死刑執行へ

 アメリカの州は、国際機関・隣国・自国の連邦政府の要請を断れるほど、権限が強く、その権限は最高裁のおすみつきです。

連邦制.jpg

また、権力分立は、州政府間でも徹底されています。日本の都道府県と違い、競争相手です。不動産税や所得税が州の歳入ですが、他州と競争して内外の企業を誘致します。特定産業の優遇は当たり前、フロリダやネバダ州は所得税率「ゼロ」で、ワシントン州は法人税率「ゼロ」です。

 州法は、州間でバッラバラです。カリフォルニアの企業とニューヨークの企業間でトラブルがあった場合、どちらの法律が自社にとって有利かを巡って、さらに時間と費用が掛かります(弁護士がむちゃくちゃ必要とされるわけです)。

(2)憲法の三権分立

三権分立.jpg

 この三権分立は、当初は、立法権(議会)を制限しようというものでした。憲法制定者の1人ジェファーソンは、「173人の議員は、173人の専制君主であり、1人の専制君主と同じで、圧政になる」いう趣旨を述べています。

 一般的には、上図の「抑制と均衡」が有名ですが、さらに、抑制と均衡は細部にわたっています。

①の司法⇔行政間です。

  大統領は裁判所の判決履行を拒否できます
  大統領は恩赦を与えることができます

②の司法⇔立法間です。

  議会は判事の数を決定します
  議会は裁判所の決定回避のために、当該法を書き直すことができます

③の行政⇔立法間です。

  議会は、大統領弾劾権があります
  議会は、大統領を弾劾の結果、解任することができます
  法案提出権は、議員のみ  
  大統領は大統領命令を発布できます
  大統領は議会の招集・停会ができます
  上院議長は副大統領で、可否同数の場合、議決参加できます

 さらに、議会の上院と下院も、バッラバラ(抑制と均衡)です。

上院 下院.jpg
 
 上院と下院で、同じ法案・細部が違う法案が提出されます。年間に約4500件の法案が提出され、300件程度が成立します。

 提出できるのは、議員のみです。議員のスタッフによる法案、ロビイスト(業界利害関係者)による持ち込み法案、行政機関が作成した提出依頼法案などがあります。

 余談ですが、アメリカの政党には、「党議拘束」がなく、それゆえ、「圧力団体」が、銀個々人に働きかける余地が大きいとされています。圧力団体には、労働組合・経営者団体・農業団体・環境保護・NGO・NPOまで様々です。
 実は、この「圧力団体」というのは「誤訳」です。pressure groups というのが本来ですが、PRESSというのは、ご存じのように、出版社や、出版物(新聞・雑誌)、報道機関のことです。プレスリリースというのは、報道機関向け発表のことです。
 つまり、「意見表明」のことです。圧力団体というのは、何か票や・資金面の「圧力」をかけると誤解されていますが、「意見を表明する団体」のことです。「圧力」という、語感が「否定的(誤訳)」なので、最近は、「ロビー」(ロビーで待ち受け、議員に働きかけることから)と呼ばれています。
 日本では、経団連や、消費者団体、歯科医師会、環境保護団体などが、「意見表明団体」です。


<アメリカの議会の様子> 

 アメリカ連邦政府の予算案は、議会が決めます。提出権も、議会だけにあります。行政(大統領)は予算案が通らなければ、手も足も出せません。それほど、議会の権限は大きいのです。

 冒頭の、公債発行を巡るごたごたは、日本と同様、アメリカ議会も「ねじれ国会」にあることが、原因です。下院は、オバマ大統領の出身母体の「民主党」ではなく、「共和党」が多数派です。

 「オバマ大統領が、赤字削減を約束しないと、限度額引き上げには応じない」としてきた結果が、混乱につながっています。とにかく、共和党は、「小さな政府」が党是なので、徹底した財出削減(減税)を求めます。

 共和党の案は、政府予算を一挙に1000億ドル(8兆円)減らせというものです。これには、額が大きすぎ、景気が失速するとして、民主党が多数を握る上院が反対しています。
 
 なんとか、「政府債務上限法案」を改訂したいオバマ側(民主党側)は、2023年までに4兆ドル(320兆円)の赤字削減する案を提示し、野党共和党の協力を求めています。

 8月2日までに、両党が妥協しないと、国債の手当てができなくなります。とうとう、世界最優良の債権=米国債の格付けが低下するかもしれない(S&P)状態になっているのです。

 さて、米議会はどのような結論を導き出そうとしているのでしょうか。もっとも、自ら国難を作り出そうとはしないだろうという読みもあります。

日経『月曜 経済観測』H23.6.20
 ハーバード大 ケネス・ロゴフ
…政治はまひ状態。来年の大統領選が終わるまで何も起きないだろう。債務不履行(デフォルト)の可能性は極めて低い。回避する手立てを米国は多く持っている。
 

 「国難よりも政局」は洋の東西を問わないようです。

<追記 妥協が成立しそうな米政界>

 日経H23.6.21『米財政赤字 10年で160兆円削減 軸に』

 米財政再建を巡る超党派協議は財政赤字を10年間で少なくとも2兆ドル(約160兆円)超削減する方向で調整に入った。・・・共和党としては大幅な譲歩となる。
 …オバマ大統領が超党派合意を急ぐのは、喫緊の課題である連邦債務残高の上限引き上げと不即不離になっているため。このためオバマ大統領と民主党は共和党の言い分をほぼ受け入れる形で2兆ドル超の財政赤字圧縮案で乗り切ろうとしているわけだ。
…ひとまず現実路線で歩み寄ろうとしている構図だ。
 

債務不履行という国難よりはずっとましですね。妥協で構わないのではないでしょうか。

<追記>

『米債務問題 打開見えず』日経H23.7.23

 債務上限引き上げを巡る米議会の協議は21日…再び硬直状態が強まった。
 …19日に上院超党派議員グループがオバマ大統領の意向をくみ10年間で3.7兆ドルの財政赤字を圧縮する大型削減案を出した直後は流れが大きく同案に傾いたとみられた。
 ところが…詳しい内容が明らかになるにつれ、下院の共和保守派が激しく反撃。…1.5兆ドルの増税が盛り込まれていることもあり、共和党側は一段と態度を硬化させている。


 上院と下院もバッラバラです。

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日経H22.6.21 『ユーロ危機 上 国民説得へ「徴税大作戦」』

『春秋』日経H22.6.25
 「いやもう家計は火の車なんだ。家に入れるお金をちょっと増やしてくれないかな。これまでは1万円ずつもらってきたけど、まあ、倍の2万円ってとこか」。ある日家族会議でお父さんが切り出した。「このままじゃ破産なんだよ」
 お父さんがしきりに引き合いに出すのは、放漫財政で行きづまった希臘(ギリシャ)さんという家のことだ。「あんなふうになっていいのか」。みんな希臘家の不幸はよく知っているから神妙に聞いている。…


<もともとアバウトなギリシャ>

 今年前半のユーロ圏の話題で最大のものは「ギリシャ危機」でした。

 現在のパパレンドウ政権が、前政権の膿を洗い出した結果、対GDP比3%台だったはずの、財政赤字は、実は12%台だったことがわかりました。粉飾決算です。

 ギリシャは長年有力家(グループ)2家による、政権の独占が続きました。長い間政敵でありつつ、もたれあいで、自分たち親戚一同グループの生活向上のみを図っていたのです。
 その結果、脱税、不正は当たり前で、公務員の給与は民間の4倍にものぼる高額所得者担っていました。そこを、リーマン/ショックがおそいます。
 
 一昨年の金融危機以後、世界各国は、不況打開のため、財政出動や、金融緩和措置をとりました。ギリシャも財政出動を行いましたが、そのため、もともとユーロ基準を上回る財政赤字だったのが、さらに赤字を拡大させたのです。

『ユーロ危機 上 国民説得へ「徴税大作戦」』日経H22.6.21 

 …ギリシャでは領収書なしで課税を逃れる地下経済が大きい。経済協力開発機構(OECD)の推計ではその規模は国内総生産(GDP)の25%に達し加盟国中で最大。実際には4割近くという見方すらある。



 図の赤線以下位からの部分が「地下経済」というのですから、何とも楽天的ですね。
ギリシャ GDP.JPG

 それで、現在はこのようになっているようです。

…「領収書をください」。アテネ市街のガソリンスタンド。…コンタクサキンさん…は、最近は給油のたびに領収書を請求するようになった。「これまでは領収書をくれなかったガソリンスタンドや小さな商店も出すようになった。でも集めるのが大変」と言う。

…「領収書革命」と呼ばれる税制改革だ。所得に応じ一定額以上の領収書提出を義務付け、その額に満たなければ罰金を、それを超えて集めた場合は一定額を所得税から控除する「アメとムチ」の政策だ。
…富裕層の脱税など国民の納税意識の低さとともに政府の徴税能力の問題が大きい。パパレンドゥ政権はこの問題に取り組むための「徴税大作戦」に乗り出したのだ。


 確かに、所得の一定額は、消費に回ります。日本の場合、収入の6割が消費に回ります。
 そうすると、年収400万円の人なら、240万円分消費しているので、240万円相当の領収書が溜まります(日本なら・・・です)。これ以上集めると控除、これ以下なら罰金というのですから、ギリシャは本当に、生産者が「領収書」を発行していなかったんですね。税収も低いわけです。

 さらに、富裕者の脱税は庶民の比ではないようです。

…「プールを探せ」。国税当局は富裕層の課税を強化するため、衛星写真で自宅にスイミングプールを保有している人を探し出す調査を始めた。こうした問題は長年放置されてきた。今回の財政緊縮策では年金給付削減や増税などで国民に幅広く負担を求めざるを得ないが、富裕層の所得隠し、課税逃れが続けば低所得者層を中心に反発が広がりかねない。

 「南欧っぽい」と言えばそうなのですが。これが、ユーロを揺るがしました。その経済規模はユーロ圏の2%ほどにすぎないのですが。

 欧州中央銀行は、今年5月9日、ギリシャ国債の買い切りオペレーションを実行しました。「加盟国を直接救う」という、今までにない政策を導入しました。中央銀行の役割に、新たな1ページが刻まれました。

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