アベノミクスの懸念・・・定番批判・・・理論的にはですが・・・
日経H25.3.5

アベノミクス3本の矢「財政政策・金融政策・成長政策」の一つ、大胆な金融緩和への批判です。
「国債発行→市場を通じて日銀が購入→通貨発行=金融緩和」に対し、財政規律が乱れ、金利が高くなり(国債価格下落)、日本経済は落ち込む・・・
※国債価格下落=金利上昇とは?
この金利上昇とは、どういうことか、見てみましょう。

上の図で、額面100万円の国債が発売されたとします。この国債には、「○○%の利率をつけます」と、財務省がアナウンスします。
証券会社は、その利率と、市場動向を考慮し、応札価格(買ってもよい価格)を決め、日銀ネットに数字を打ち込みます。
「表面利率20%・100億円(表面価格)」の国債は、1年後に利息を含め、「120億円」返ってきます。この1年後に「120億円」返ってくる国債を、いくらで買うかを、オークションするわけです。
この「120億円返ってくる国債」を、「110億円(取引価格)」で落札すると、実際の利率は「9.09%=利息10億円」となります。
この取引価格が高くなると、金利は低くなります。つまり、国債の人気が高いと、取引価格は高くなり、実際の利率は低くなるということになります。
「国債価格下落=金利急騰」、これは、この「希」さんだけが言うのではなく、「金融緩和」に批判的な人は、皆さんが言います。本を出す立場の方もそうです。
クリック
↓
良書悪書 財政ファイナンスはすでに始まっている - 『金融緩和で日本は破綻する』池田 信夫 野口 悠紀雄本 批評
クリック
↓
日本国債暴落!?
クリック
↓
株バブル勃発、円は大暴落(新刊まえがき)
理論的には、そうなのかもしれませんが、市場はそう見ていません。日本国債は最高値を更新(金利は最低)しています。上記の大機小機「希」さんの隣の記事が、それを書いています。
日経H25.3.5

これを、「マッチ・ポンプ」と言います。なぜ、彼らが主張するように、「国債下落」とならないのか・・・。現実に起きているのは、「国債価格上昇」なのに、記事では「国債価格下落懸念の危険」・・・正反対に書いて、おかしいとは思わないのでしょうか?
市場が一番正確なのではありませんか?「起きていることはすべて正しい」という意味で。日本の債券市場売買額は、毎年8000兆円を超え、最盛期には1京円!(リーマンショック前2007年)を記録している、世界最大マーケット(米に次ぐ)です。
ここが、日本国債にそっぽを向く(国債価格下落=金利上昇)ならともかく、マーケットは日本国債への信認を、逆に高めています。

日経H25.3.6『住宅金利、最低更新も』
長期金利が急低下している。指標となる新発10年物国債利回りは5日、一時0.585%まで低下し、2003年6月以来約9年8か月ぶりの低水準まで下がった。日銀が新体制の下で金融緩和を強化し、大量の国債を買い入れるとの見方が強まっているためだ。
『国債買い入れ金利ほぼゼロ』
日銀が市場への資金供給のために実施している国債買い入れオペ(公開市場操作)で、日銀による国債の落札金利がマイナスになる可能性が高まってきた。…黒田氏…日銀が大胆な金融緩和に踏み切るとの観測から…市場実勢を超える高い価格(低い利回り)で国債の買い入れオペに応札する傾向がみられ始めたためだ。
国債価格高すぎて、マイナス金利!!!ですよ。
金融政策を批判する人は、この事実は徹底的に無視、もしくは、「現実がおかしい」と言います。昔の日本のマルクス経済学者が、「現実が間違っている」と言ったように。
<「教科書に載っている」「理論は正しい」論の誤謬>
「円高→輸出減ではない」とデータで説明しても、「バカか?為替の影響について国際経済学教科書では必ず扱っている・・・」など、「理論至上主義者」=あたまでっかちのひとがたくさんいます。
理論的には、「変動為替相場制=貿易不均衡を是正する働きがある」です。これも、国際経済学の教科書には、必ず載っています。
「日本の輸出が増える→貿易黒字になる→日本の企業に支払うために円買いドル売りになる→円高ドル安になる→円高で日本の輸出は減る→貿易不均衡が是正される」というものです。
こんなこと、現実には「全くありません」。
読売『G20 成長に軸足 新興国に内需拡大に期待』H22.6.28

経常収支の不均衡は、是正される気配は全くなく、むしろ拡大します。では、「現実がおかしい」ですか?
説明しましょう。
現実は、モノ・サービス取引<資本取引ですから、為替は、カネ取引=資本取引で決まります。

2010年、世界の貿易額は15兆495億ドル、1日当たり412億ドルです(JETRO)。一方、同年の為替取引は、1日当たり4兆ドル(BIS調査)です。実物取引のおよそ95倍です。
日本の場合、「貿易黒字は年12兆円…1日あたりの円とドルの取引は16兆円:日経子どもニュース H22.9.4」あります。
ですから、
円高になる→日本の輸出が減り、輸入が増える→貿易黒字が縮小する→貿易不均衡が是正される
など、あり得ないのです。
ついでに、「円高→輸出減」にならないのはなぜかも説明しましょう。
日本の輸出品は、完成品ではなく、部品のような素材が圧倒的に多いのです。
安藤光代 慶大 日経H25.3.5『経済教室 東アジア生産、成長の鍵』
筆者注)今、中国は、アメリカを抜き、日本にとって世界最大の貿易相手国です。
2011年東アジア(14か国)向け輸出
部品・中間財60%、完成品31%
…部品・中間財の退出効果は、他の製品と比べて格段に小さいことが分かった。退出効果とは、ある項目の輸出が途切れたことにより全体の輸出が押し下げられる効果を示し、これが小さければ危機に直面しても取引関係が途切れにくいと言える。…世界金融危機時…全製品の対世界輸出は実質ドルベースで約4割減…。…対東アジア部品輸出の退出効果による減少幅は0.7%…。それだけ東アジアとの部品・中間財の取引関係は安定的であるとみることができる。
…2つの危機下(筆者注:リーマンショックと東日本大震災)…東アジア諸国の中でも生産網に深く関与している国との取引関係ほど、輸出が継続される傾向にあり、いったん止まったとしても、復活する確率が高いことが分かった。
過去の記事です。
↓
クリック
↓
浜矩子 「ユニクロ型デフレで日本は沈む」 文芸春秋 2010年1月7日記事
しかも、日本の輸出は、パナソニックやトヨタなど、一般消費者向けの商品ではありません。7割以上が、工業用原料と、資本財(5割)です。(参考資料 JETRO)
資本財とは、半導体の原材料、鉄鋼、工作機械、プラントなどです。これらを含め、日本の輸出の7割は、「企業相手」であり、しかも、これらは、「日本企業の独壇場」です。シリコン・ウエハー(DRAMの心臓)や、金属並みの強度を持つ繊維(旅客機用)、コマツの建機、中国が自動車を生産するときの金型etc。これらがないと、韓国も中国も、輸出国足り得ません。
だから、「円高→輸出減」にはならないのです。
ほかにも、あります。
理論的には、「株高=国債安」です。なぜなら、景気がよくなると企業の株が買われます。また投資が活発化するため、国債を売って、キャッシュに変える動きが活発化します。キャッシュ需要が高い=金利高=国債価格下落のはずです。
しかし、現実に起こっているのは、株高&国債高です。上記理論(理屈)では説明できません。
Dena株は、今年に入り、下落し、これだけ株高なのに、去年の数値に戻していません。3月期の決算では、「過去最高益」だったのにです・・・
「理論が正しい、現実が間違い」という人は、どうぞ、投資でもして、がんがん損してみてください。
<現実が正しい、理論が間違い>
現実に起こっていることは、100%正しいのです。「現実に起きている」という意味で。
次期日銀総裁の黒田氏の、インフレ目標2%を目指す金融緩和に対する批判記事です。
読売H25.3.5

ところが、この記事の真上に、「市場期待 円安・株高進む」と、黒田答弁を受けた、市場の動きが、記載されています。

おまけに、5年物国債は、「国債価格上昇=金利下落」で、金利は「これまでの最低更新」です。

マーケット(現実)は、常に正しい(起こっているという意味で)のです。理論は、その現実を説明するためのものです。現実が先、理論は後なのです。
theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育