<玉石混淆の経済学者>
さて、アベノミクスが始まって(政権就任2012年末、金融政策開始2013年4月)から4年半~5年になります。
始まった当初に「ああでもない、こうでもない」と論争していた時期に比べれば、十分に「長期」と言える水準です。
経済学教授でも、「ダメ」なヒト、「まとも」なヒトがはっきりしつつあります。「時間の判定を受ける」、大げさに言うと「歴史的判断を受ける」とはこういうことです。
アベノミクス導入期に、その政策を批判したヒトです。
日経 経済教室 2013.4.16
齋藤誠 一橋大学教授
『資金、実体経済に回らず』
日本経済は…1997年以降、15年以上の長きにわたってデフレ状態に陥ったといわれている。
…物価下落は「物価安定」といった方がふさわしいほど軽微だったにもかかわらず、「深刻な物価下落」にすり替えられた。
…金融緩和で、どのような資金循環がもたらされるのであろうか。
…資金が経済全体に行き渡り、経済活動を刺激するわけではない。もちろん物価水準への波及効果も期待できない。
…仮に昨今の急激な円安や株高が本当に「インフレ期待」の高まりを反映したものであるとすれば…「期待」に反して実際には物価上昇がおきなければ、物価安定と整合的なように為替や株価が円高・株安に向けて再び修正される…。
…大規模な金融緩和は物価波及効果がないばかりか、副作用も甚大である。…国債のイールド(利回り)カーブは満期の短い方から40年債までゼロ%近辺でフラットになる。…そのような超低金利水準は均衡とはいえないので、いずれは何かのきっかけから国債利回りの急騰(価格の暴落)で、暴力的な均衡回復が起きる…。
…例えば…企業の資金回復などで民間銀行がより有利な資金運用先を求めて日銀当座預金から資金を引き出してしまえば…。そうなれば国債価格の下落に一層拍車がかかる。
…無節操な金融緩和に安易な課題解決を求めた代償はとてつもなく大きい。
齋藤誠 『経済学は無力か』 2013.2.27 朝日新聞 オピニオン
…株高の要因となった円安は政策効果とはいいがたい。すでに昨夏から全通貨ベースの円安は進んでいました。理由は、欧州債務危機が最悪期を脱し、米経済に復調の兆しが見えてきたこと。投資家が円に逃げる必要がなくなったためです。政権も自らの政策効果などと言わず自然体で臨めばいい」
…エネルギー、食料の価格が上昇しているところに円安が進めば、ガソリンや灯油、野菜の値段はさらに上がる。給与明細の額が増えても必需品価格がもっと上がれば、暮らし向きは悪くなります。株高や輸出回復で勝ち組が出ても、一方で負け組も出る。小泉構造改革で問題になった『格差』がもっと顕著になる可能性があります。円安一辺倒でやっていいのかどうか」
…2008年のリーマン・ショックまで数年間のデフレの要因は、日本経済の国際競争力が弱くなったからです」
(取材を終えて)
斉藤さんは現実経済にも真摯に取り組む学者だ。…その人が経済学、経済政策にはできること、できないことがあると自重する。政策を魔法の杖のように吹聴する学者が脚光を浴びがちだが、原点を忘れぬ学者の言葉をよくかみしめておきたい。
(編集委員・原真人)
アベノミクス金融緩和で、国債は暴落するそうです。しかも「暴力的」におこるそうです。デフレは軽微だから、問題はなかったそうです。
国債のイールド(利回り)カーブは満期の短い方から40年債までゼロ%近辺でフラットになる。…そのような超低金利水準は均衡とはいえないので、いずれは何かのきっかけから国債利回りの急騰(価格の暴落)で、暴力的な均衡回復が起きる
イールド・カーブ(全期間の国債金利を結んだカーブ)など、もう4年以上0%近辺~マイナスに張り付きっぱなしです。
今の様子
↓
https://jp.investing.com/rates-bonds/japan-government-bonds

これが高金利(国債価格下落)に、暴力的に回復するって、いつのことを示しているのでしょうね。
しかも、景気が回復し、民間の資金需要が活発になれば、国債価格はより一層下落(高金利)するそうです。
…例えば…企業の資金回復などで民間銀行がより有利な資金運用先を求めて日銀当座預金から資金を引き出してしまえば…。そうなれば国債価格の下落に一層拍車がかかる。



民間の資金需要、マネーストックは、アベノミクス導入後、順調に増えています。
これだけ、現在の結果とは違う「理論的予測」らしきものをした大学教授。終わっています。こういう人は、教科書だけ書いていればいいのです。教科書は「過去の出来事」だけ書くからです。
この人の書いたものは、経済学に基づいた「理論的予測」ではなく、単なる「個人的願望」だったことが明らかになりました。
玉石混淆・・・もちろん、この人は石です。
新井明
ネットワークメンバーの北海道の菅原晃先生が、新著『中高の教科書でわかる 経済学ミクロ編』河出書房新社、を出版されました。菅原先生の『高校生から わかるマクロ・ミクロ経済学』はベストセラーになりましたが、新著では、その精神を 受け継いで、ビジネスパーソンに役立ち、かつ「中高の先生の虎の巻」を目指してい るとのことです。ミクロは過剰、マクロはスカスカという教科書の問題点指摘などもしっ かり書かれています。 それにしても、現場の人間がこれだけの著作を刊行してゆく、その研 鑽ぶりに頭が 下がります。マクロ編も続けて刊行されるとのこと。注目したいと思います。 (新井)