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服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その5

服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その5

服部.jpg

<住宅ローンが消費減の原因だと?>


p46~
住宅投資は負の遺産
日本は7軒に1軒は空き家と言う空き家大国である。…新築物件は借り手がすぐに見つかるであろう。しかし、その分、中古物件の空き家が増加する。…空き家が増加すると、地域の環境が悪くなり、治安も悪化し、住宅価格も下がる。これ以上空家を増やしてどうするのだろう。…今のマイナス金利も、しばらくすると空き家と街の破壊という形で負の遺産を作るのではないだろうか。



住宅投資は、C(消費)+I(投資)+G(政府)+NX(純輸出) において、I投資に入ります。

で、「住宅投資は負の遺産だから、これ以上増やしてどうする!」ですか!民間市場の動きを「価値観」で批判ですか。

 そりゃ、バブルも、リーマンショックも、すべて「民間」が「もうけ」をねらって引き起こすものです。結果的には、破裂して大混乱をもたらしました。事後で見ると「良くなかった」ことは間違いありません。

だからと言って、住宅投資Iを「増やすな!」と、民間の投資行動を「やめろ!」と言うのですか?


P49
異次元緩和は長期金利と住宅金利を押し下げた。しかし空き家大国の日本では住宅建設はさほど増加しなかった。



11 住宅投資


>しかし空き家大国の日本では住宅建設はさほど増加しなかった。

 2兆円を「さほど・・」。どうして、この人は経済分析に「価値判断」を入れるのでしょうね。論文として、こんなものを学生が書いたら、×ペケでしょうに。

 論文(小論文)に、いいとか悪いとか、価値判断を入れれば、それだけで「ダメ論文」です。主観は、入れてはダメなのです。

 ただし、「私はこう考える、なぜなら●●だからだ」は、OKです。大学入試の小論文などこの形式です。
 
「18歳(現在は投票権あり)のタバコ・酒についてどう考えるか」について、「賛成だ、なぜなら・・・」「反対だ、なぜなら・・・」と自分の意見を書きます。

 この場合、どっちが正しいかなど、どうでもいいのです。どっちが良い悪いという問題ではありません。試験で判定しようとしているのは、「なぜなら・・・・」の論理性です。

 閑話休題


P49
異次元緩和は長期金利と住宅金利を押し下げた。…家計の住宅ローンの急増が消費を抑圧した

P176
最近の若者世帯を中心とした消費削減は、住宅ローンの負担が原因である…。



 消費が「家計の住宅ローン」に抑圧された。「若者の消費が伸びないのは住宅ローンが原因」だ。

ウーン、アベノミクスを否定するために、ここまで言う・・・。論理としてめちゃくちゃですね。風が吹けば桶屋が儲かる並み・・・。

<輸入増でGDP減だと?>


P17
安倍政権の誕生前には、1ドル80円だった為替レートが、一時期には120円程度まで円安にシフトした。急速な円安は輸出価格を引き上げることを通じて、名目GDPを増加させる。輸入価格はGDPのマイナス項目なので、輸入価格の上昇は名目GDPを減少させる



13 輸出 輸入

>輸入価格はGDPのマイナス項目なので、輸入価格の上昇は名目GDPを減少させる。

Y=C家計消費+I企業投資+G政府+(EX輸出-IM輸入)

Y=C+I+G+(EX-IM)

>安倍政権の誕生前には、1ドル80円だった為替レートが、一時期には120円程度まで円安にシフトした。急速な円安は輸出価格を引き上げることを通じて、名目GDPを増加させる。

確かに、「輸出」は、需要GDP(=GDE支出)の構成項目です。ですから、輸出業者の80万円だった利益が、円安で120円になったら、見かけ上「GDP」は増えます。

14 輸出数量

  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
輸出額 (10億円) 67400 65546 63748 69774 73093
輸出数量(2010年=100) 100 96.2 91.6 90.2 90.7
為替(1ドル 年平均) 87.7799 79.807 79.7905 97.5957 105.9448


このグラフは、2010年の輸出額・輸出数量・為替を100として、その後の変化を示したものです。2013年、アベノミクスの金融緩和によって円安になりました。それにともなって、輸出額が伸びています。しかし輸出量は2012年→13年は減り、13年→14年は微増に過ぎません。

これは、円安によって、見かけ上、「額が伸びる」ということを示します。

ただし・・・

>輸入価格はGDPのマイナス項目なので、輸入価格の上昇は名目GDPを減少させる。
Y=C+I+G+(EX-IM)

輸入は、「控除項目」です。しかし、輸入(額面額)が増えると、GDPが減るわけではありません。この教授は、基礎基本を踏み外しています。

13 輸出 輸入


「総需要から、輸入を控除」するのは、GDPを算出するためであって、「輸出から輸入を引く」のではありません。

Y=C+I+G+(EX-IM)
9= 4+3+1+(2-1)


は、もともとは、

IM+Y=C+I+G+EX
 1+9=4+3+1+2


です。

では、輸入(額面)が増える(例えば1から2になる)と、Y(GDP)を減少させる???

IM+Y=C+I+G+EX
 1+9=4+3+1+2
    
   ↓
 2+9=(4+3+1+2)
         ↑

こちらの需要も、どこかの項目が+1にならなければならない。

輸入(額)が増えると、GDPが減ることは、ないのです。
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服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その4

<服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その4>


P71~
雇用増は見せかけ
延べ就業時間は…アベノミクスが始まると減少に転じた。ただし、15年以降は微増に転じているが、未だに12年の水準には戻っていない。理論的に正しい雇用の指標を使えば、アベノミクス期には雇用が全体として減少していることがわかる。



17 労働


>「雇用が全体として減少している」とは、延べ就業時間の減少を示しています。

グラフを見ると、赤丸のところは、現在と同じ就業者数です。一方、同じ就業者数で延べ就業時間は減っている・・・ということは、1人当たりの「総労働時間が減少=労働生産性が上昇」ということを示します。グラフもその通りです。

 この状況を、「雇用増は見せかけ」とか、「アベノミクス期には雇用が全体として減少している」というのは、どう見ても屁理屈でしょう。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の類たぐいです。

一方、


P93
 過労死問題を解決すべく、現在の政府は長時間労働をなくすべく努力をしている。これはよい政策だと筆者は評価するが、こうした政策が成功するほど、延べ就業時間は短くなる



 このように、書いています。支離滅裂、理解不能です。

<GDP成長>


P187
アベノミクスが始まる前の日本の成長率は、アベノミクス期よりも高い。

P205
政府・日銀の認識では、現在の日本経済は緩やかな回復過程にある。…しかし、一部の時期を除くと、アベノミクス前の日本経済もこの程度の成長はできていた。



12 成長率

>アベノミクスが始まる前の日本の成長率は、アベノミクス期よりも高い。

確かに「実質GDP」の成長率は、アベノミクス期よりも高いです。しかし、それは「当然」なのです。デフレだからです。

実質成長率=名目成長率-インフレ率
 
 実質成長率は、名目GDP成長率が「ゼロ」でも、物価が「-2%」下落すると、2%の成長率になってしまうからです。

実質2%=名目0%-(インフレ率-2%)

 こんな成長、嬉しくもなんともありません。あなたの借金(奨学金や車のローンや、住宅ローン、学資ローン、会社の借入金・・・)は、名目値ですから、デフレは、実質的な借金増なのです。給料が額面上(名目上)変わらないのに、利払いが2%も増えていることになる・・・これがデフレです。

GDPを見る場合にも、インフレ期は、「名目値」ではなく「実質値」、成長率も「名目成長率」ではなく「実質成長率」を重視します(名目と実質の乖離(かいり)がGDPデフレーターです)。ただしこれは、インフレの場合であり、デフレの場合は、逆に「名目成長率」を重視します。

数研出版 現代社会 P230
国内総生産(GDP)…を経年比較して得られた数値が経済成長率である。単純に比較されたものが名目経済成長率、物価上昇率を考慮に入れたものが実質経済成長率となる。例えば経済活動の水準は同じでも物価水準が2倍になると名目上は経済規模が2倍となり経済成長率は100%となる。しかし、実際の成長は0%であり、経済実態を知るためには、実質経済成長率をみる必要がある。ただしデフレ経済(物価下落の続く経済状況)の場合、名目経済成長率が重視される…。




 その「名目値」が、「実質値」を下回るのがデフレです。デフレになればなるほど、実質成長率は高くなるのです。

>アベノミクスが始まる前の日本の成長率は、アベノミクス期よりも高い。

これは、もはや言いがかりです。ふざけています!

<少子化とは?>

1 少子化
1 少子化2


少子化とは、このようなことをいいます。「出生率回復」とか、「地方再生」など、所詮空理空論、夢物語になります。
 政治は、この数値を「前提」に、制度設計をすることです。

服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その3

<服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その3>

服部.jpg


P49
利益が急増した企業も、需要が停滞する状況では設備投資をさほど増加せずに、内部留保を急増させている。

P155
企業の内部留保は積み上がる
 …企業の利益は空前の水準まで増加した。しかし、企業はその利益を従業員の給与や設備投資に使わず、内部留保として蓄えている。これが経済の回復を阻害しているという意見…これは正しいと筆者も考えている。

P176
円安による経済回復のルートは途絶えた。…円安は企業、特に輸出企業の利益を急増させた。しかし、特に巨大企業は、巨額の利益を設備投資や賃上げに回さず、内部留保に回している。


P177
 経済政策の評価は何をもって成功とするのかという価値観に依存する。すでに多額の内部留保を蓄積している巨大企業の利益をさらに増加させることや、一部の富裕層の所得や富をさらに拡大させることを成功とするならば、アベノミクスは成功したといえるであろう。



 もう、「内部留保」ということばを使っている時点で、「経済学者失格」です。内部留保などということばは、経済学にも、簿記・会計(これらは経済学部必修or選択科目)にもない言葉です。つまり経済学者は「内部留保」ということばは「使ってはいけませんよ、間違ってしまいますよ」と言わなければならない立場のヒトを示します。

 だからこの教授は、「学部は経済学部ではない、基礎基本をすっ飛ばしているのでは?」と類推する根拠になります。

<内部留保とは>


http://www.kabuciao.com/fanda/riekijoyo.html
利益剰余金とは、純資産から資本金と資本準備金を差し引いた残りの金額のことです。剰余金と略されて呼ばれる場合もあります。毎年度の利益や損失、または積立金などが積み重なったものが剰余金となります。

2005年の改正前の商法においては、剰余金とは、株式会社で、貸借対照表の資本を構成する区分の一つで、資本とは資本金、資本剰余金、利益剰余金に区分されていました。

内部留保は、利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金のいずれかの形で貸借対照表上、純資産として計上されます。
内部留保=企業の貯金(へそくり)のようなものだと思っている人も多いと思いますが、内部留保は現金として保管されているとは限りません。

たとえば、
◦1億円の商品を仕入れた
◦その商品を売って、2億円の現金を得た
◦得た2億円から1億円を使い建物を購入した
◦1 の取引により企業は1億円の費用が掛かった
◦2の取引により企業は2億円の収益を得た
◦企業はその1億円を利益として得た
◦しかし、企業はその1億円で建物を購入している
◦建物の購入は費用として計上されない為、利益額1億円はそのまま

損益計算 : -1億円+2億円=+1億円
現金計算 : -1億円+2億円-1億円=0円

内部留保とは、過去の利益の積み重ねではありますが、自由に使える手元資金(現金・預金)とは性質が異なるものなのです。




http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/30345738.html
中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

現金と内部留保を混同しているわけだ。何を細かい話をごちゃごちゃと・・・と思われるかもしれないが、これは会計の基礎の基礎で、ここを間違っている人間のいうことは一切信用しない方が良い。頭の良い小学生が理解できる程度のことを間違っているならば、それ以外の言説も全て間違っていると考えるのが安全だ(自分の感覚では九九を間違うレベル)。内部留保も現金もどうせ似たようなモノだろう、と思っている人はこちらの記事で利益とキャッシュフローの違いを勉強して欲しい。今時そんな事を言ったら恥をかきますよ、とだけアドバイスはしておく(会計上の数字である利益と実際の現金の動きは全く異なる)。



内部留保 新

 内部留保という、言葉自体が経済学には存在しません。図の利益剰余金が、相当するようです。

 見て分かるように、利益剰余金とは、会社の「資金調達」方法の1つです。資本金と同じように、株式や借入金、社債のように出資者に「返金」しなくてもよい資金です。

 この資金を使って、土地や建物や、生産するための原材料を購入します。ですから、利益剰余金=現金ではありません。株式調達金=現金ではないのと同じです。

 よく、「企業は内部留保をため込み、けしからん」とか「内部留保の1割でも従業員に回せば13兆円も所得が上がる」とか、「内部留保に課税しろ」などの声がありますが、ナンセンスであることがお分かりだと思います。

「資本金をため込み、けしからん」とか、「社債を従業員給与に回せ」とか、「株式に課税しろ!」と言っているのと同じだからです。


http://blog.livedoor.jp/sharescafe/archives/30345738.html
中嶋よしふみ シェアーズカフェ・オンライン編集長 ファイナンシャルプランナー

 バランスシートの右と左の違いも分からないような政治家が国を動かしていると思うと怖くなった。これは一部の経済学者も同様だ。簿記3級は小学生でも取得する資格だ。つまりバランスシートの左右の見分けもつかない政治家・経済学者は小学生にも負けるということだ。



内部留保という、経済学の使用禁止用語を、大学教授が使うとは・・・終わっています。

服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』 のでたらめ その2

<服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』岩波新書>

P8
「実質GDPの伸び悩みの原因は、支出が伸びていないことにある。現在、消費や輸出が伸び悩んでいることは、多くの人が抱く共通認識であろう」

「p9 金融緩和は、消費や輸出などの支出の拡大を通じて、経済を刺激する。消費、輸出…の停滞を認めながら、雇用の拡大が異次元緩和の成果だと主張するのは奇妙な話だろう」


 
 もう、最悪です。

(1) 総需要ADと、総供給ASの区別ができていない。

5 AS AD曲線

この、

実質GDPの伸び

つまり、「増える」というのは、供給曲線が、右側にシフトすることです。反対に「減る」場合には、供給曲線は左側にシフトします

6 AS AD シフト

 需要ADが「増え(伸び)る」のと、「実質GDPの伸び」る(増える)のは、別の話です。

4 総供給 総需要

「実質GDPの伸び悩みの原因は、支出が伸びていないことにある」
「消費や輸出などの支出」


が、支出「C(消費)+I+G+NX(純輸出)」=ADの話であることがわかります。

そうすると、

「支出ADが伸びないから、AS=実質GDPが伸びない」と言っていることになります。

6 AS AD シフト

AD曲線(支出)をマクロ経済政策で右にシフトさせれば、AS曲線=GDP(実質GDP)が、動く(伸びる)??????

 どこから、こんな話が出てくるのでしょうか?

経済学では、このように考えています。

横山昭雄 「真説 経済・金融のしくみ」 日本評論社 2015 P27~
 …とかく通説ではGDP動向を論ずるのに、…最終需要の側面だけを分析して能事了れり、とする趣が強い。曰く,GDPの6割を占める消費の勢いがないため、景気が悪い。…需要は、“創世され、分配されたGDP”の従属変数であって、独立変数ではない。“消費が弱いから景気が悪い”というのは、“雨が降る日は天気が悪い”というようなもの



需要(支出)を伸ばせば、実質GDP(生産)が伸びるということは「この世にない」のです。

(2)


p24

一般的に経済の停滞の原因は需要の停滞にある。そして、異次元緩和は需要創出に失敗したから機能しないのである。今では経済が停滞していることも、その原因が消費と輸出の停滞にある…」

p31
消費が遅滞し、それが経済の回復を妨げているということは、今やマスコミの常識となっているだろう。


「p9 金融緩和は、消費や輸出などの支出の拡大を通じて、経済を刺激する」



 経済を刺激するのは合っています。マクロ経済政策は、「総需要(支出)」を刺激するものだからです。

マクロ政策

 ただし、金融緩和や財政政策というマクロ政策が刺激する主目標は、投資Iです。

10 消費 投資

 不況は、C(消費)+I(投資)+G(政府)+NX(純輸出)のうち、Iが減ることで生じます。

一方、消費Cは、不況でも変化しないのです。食費・医療費・光熱費・家賃・交通費・・・など、不況だからと言って削るわけにはいかないからです。
 
「不況=投資Iの減少が原因」というのが、ケインズが見つけた実証です。

だから、民間投資Iの減少に対し、①財政政策(公共投資)・政府投資の拡大+②金融政策(低金利導入)・民間投資の刺激と、財政政策+金融政策=総需要管理政策なのです。

マクロ政策

7 アベノミクス 投資

8 アベノミクス 投資


  C(消費)+I(投資)+G(政府)+NX(純輸出) ←刺激する。


「p9 金融緩和は、消費や輸出などの支出の拡大を通じて、経済を刺激する」

p24
一般的に経済の停滞の原因は需要の停滞にある。そして、異次元緩和は需要創出に失敗したから機能しないのである。今では経済が停滞していることも、その原因が消費と輸出の停滞にある…」

p31
消費が遅滞し、それが経済の回復を妨げているということは、今やマスコミの常識となっているだろう。



 だから、消費や輸出を刺激するものではないのです。消費と輸出が停滞しているから経済が停滞しているわけではないのです。

 消費を刺激するとしたら、例えば財政政策としては「減税」です。たばこ税や酒税、所得税を減税したら、可処分所得が増えます。あるいは、消費税8%を思い切り下げれば、消費を回復させます。ただし、アベノミクスで、このような政策は採用されていません。

 
注)変動相場制においては、金融政策のカバーする範囲が広くなりました。①金融緩和→円安→輸出増ラインと、②金融緩和→円安→株高→所得効果→消費増ラインも加わります。アベノミクスは、そこも狙っています。
ただし、これは「民間投資I」が主目的であること、①②ラインは、付随したものであるという本質は変わっていません。効果の「程度」には質的・量的な差があります。



p31
消費が遅滞し、それが経済の回復を妨げているということは、今やマスコミの常識となっているだろう。



 そのマスコミの常識=経済学の非常識を訂正するのが、経済学者の役割なのに、マスコミの常識に乗っかって「アベノミクス批判」ですから、もはやエセ評論家で、経済学者ではありません。

< 中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇 書評>

よなごらいふ

僕は小学校で教えていたこともあってか、教科書が好きだ。「英知を集めて作られた本」それが教科書だと思っている。中学校、高校には公民あるいは政治・経済という授業がある。その教科書の使える部分だけ用いた本だ。「引用」→「解説」の授業方式になっているので、わかりやすい。

「教科書でわかる」だが、教科書以外の入門書、白書の引用もあり、中高レベルを超えた内容も扱っている。

服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』岩波新書 のでたらめ その1

<服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』岩波新書 2017>

服部.jpg

 ひどい本です。経済学者を名乗るのに、「経済学の基礎基本」を理解していません。想像ですが、学部は他学部で、院だけ経済学部なのかもしれません。
 
 例)学部は工学部・経営学部・法学部・政治学部etc 大学院が経済学部

そんなヒトはごろごろいますが、みな、「基礎基本=土台」を学んでいないので、やってること・言ってることが、ムチャクチャになります(本人自覚なし)。

 例えは変ですが、用心棒あがりや格闘技の経験がない「プロレスラー」は、ガチンコ(真剣勝負)だと、アマレスや柔道や相撲出身の「同業者」には、歯が立たないようなものでしょうか? 
一見「華やか」に見えても、中身は所詮「シナリオのある興業=パフォーマンス」にすぎません。本当は、本物の格闘技者には手も足も出ません。

 では、間違い点を挙げていきましょう。

1.
まえがきP5
アベノミクスと日銀の金融緩和…デフレ脱却にも、実体経済の復活にも失敗した。


2.
まえがきp7
筆者の考える政策評価の基準は次の四点である。
1 目標を達成したかどうか
2 目標が持続的に達成できているかどうか
3 より大きな目標を阻害してないかどうか
4 どのような経路で目標が達成できたのか

 
 ここで筆者は、1消費者物価は上がっていない、2雇用の回復は政策の成果ではない、3企業利益の回復もその増加はわずかだとして、

「p9アベノミクスの成果と言えるものは存在しないのである」

と言います。

 この教授、「マクロ経済政策とはそもそも何か? 何を目標にしているのか?」を全く理解していません。マクロ経済政策とは、次のことです。

齋藤誠他「マクロ経済学」有斐閣2010 p646
マクロ経済学の最大公約数的な考え方。実際のGDPが潜在GDP(筆者注:日本の持つ労働者や工場などの生産資源を過不足なく使った供給力)を下回る不況、その場合、財政政策や金融政策のマクロ政策によって、実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げることは、理論的にも実証的にも正当化できる。しかしマクロ経済政策には、潜在GDPを増大させる効果がない。

井堀利宏 「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」 KADOKAWA 2015p204
拡張的な財政金融政策によっては、長期的にはGDPを増加させることは不可能になります。総需要を刺激する財政金融政策は短期的な効果はあっても長期的な効果はないのです。



2 マクロ政策


マクロ経済政策の目標は、

「実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げること」

です。つまり、潜在GDP=完全雇用の達成のことです。

 日本の現在の状況は、失業率が2.8%とか3.1%の水準であり、すでに完全雇用状態=潜在GDP水準を達成できている状態です。

ですから、経済成長=GDP増をどんなに望んでも、この「完全雇用GDP=潜在GDP」を超える成長は不可能です。これが供給制約です。

数研出版 現代社会 p231
…景気の拡大はやがて壁にぶつかる。景気拡大を制約し、好況から景気の後退へと転換させる要因には、生産能力の上限などがある。また労働の供給や原材料の供給の制約によっても、生産活動の拡大は止まる

滝川好夫 「超超入門ミクロ経済学+マクロ経済学」 泉文堂 平成24年 第2部p20
 日本経済を車に例えて言えば、潜在成長率は日本経済という車がフルスピードで走った時の速さです。潜在成長率(フルスピード)を決定しているのは、労働投入量、資本投入量、TFP(全要素生産性:技術)の3つです。



 しかも、動かせるのは、「総需要AD」であり、総供給=実際のGDPや潜在GDP(垂直のAS曲線)を動かす方法など、経済学のどこを探してもありません。当然ですが、「マクロ経済政策の目標」には「物理的にできない」のです。

3 潜在成長率


 P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009
 経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかということや、経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない




 日本の潜在成長率は、0.8%程度です。

「内閣府 月例経済報告(平成29年6月14日更新)」
1 潜在成長率

 すでに、業種によっては「人手不足倒産」も生じている状態です。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/10/news136.html

「人手不足」による倒産、17年上半期は大幅増の49件

2017年上半期(1月~6月)に従業員の離職や採用難など人手不足が原因で倒産した企業は、前年同期比44.1%増の49件だった。集計結果が40件を超えるのは、13年の調査開始以来初めて。
業種別では、4年半累計で「建設業」(105件、36.2%)がトップ。「サービス業」(92件、31.7%)も多く、この2業種で全体の7割弱を占めた。




 日本は、もうフル・スピード状態に突入しているのに、

まえがきP5
アベノミクスと日銀の金融緩和…デフレ脱却にも、実体経済の復活にも失敗した。


p9アベノミクスの成果と言えるものは存在しないのである

「p203
「…初めの予想通り、異次元緩和は経済復活にもデフレ脱却にも失敗したと、最終的に結論することができる

P68
アベノミクス下の日本経済は危機もないのに低成長と言う異常な事態を迎えている。

P175
アベノミクスの真実は単純である。…デフレ脱却にも、実体経済の回復にも失敗した


「高度経済成長なみ、中国なみの成長を達成しないと、成功したとはいえないんだ!」と定義するのでしょうか?

http://jp.reuters.com/article/imf-g20-outlook-idJPKBN17K29B
2017年 04月 19日 03:31 JST
ロイター

IMF、17年の世界経済成長見通し3.5%に引き上げ 保護主義を警戒

17年の日本の成長率見通しは1.2%で、1月時点から0.4%ポイントの上方修正。ユーロ圏と中国は1.7%と6.6%を見込んでいる。ともに0.1%ポイント引き上げだった。一方、米国の見通しは2.3%に据え置いた。



一方で、

「P205
 …現在の日本経済は緩やかな回復傾向にある。経済成率は1%程度で低いが、プラス成長だから、この認識は間違っているわけではない

「p15 そして、ほぼ完全雇用が実現したために、経済成長の余力がなくなり、現在の低成長が生じているのである」

P68
それは日本経済に成長余力がなくなっている結果であって、これからも持続する可能性が高いであろう。


と言います。

しかも実は、日本の成長は、「実はすごい」とも言います!

P52
 2000年代からの日本の経済成長は人口1人当たりで見れば、アメリカに匹敵する。しかも日本で人口が増加しているのは老人である。現役世代(15-64歳)人口1人当たりの経済成長ならば、日本の方がアメリカよりも高くなる。この事実は今では欧米の経済学者の間では広く受け入れられている。



何を言いたいのか、さっぱりわかりません。

本当に、大丈夫でしょうか?

<中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇 書評>

坂上二郎ラモ
素晴らしい内容。ねちっこいくらいに中学高校の教科書類を丁寧に引用して、解説を加えていく手法は類書を見ません。もっと詳しく説明して欲しいというところもありますが、時事問題から経済モデルの説明をするスタイルはかなり好印象です。図表の意味の説明などはもっと言葉を尽くして説明してくれる方が判りやすいだろう。誤植の多さ、本の紙圧の選択の拙さも含め、もう一工夫出版社には期待したいけど…是非お勧めしたい1冊。巻末付近の「政府の失敗」は加計の「問題化」の愚かしさを知る上での基礎知識が得られます。それだけでも必読だ。
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