コンクリートかヒトか その2


日本は、2011年、EX-IMが貿易赤字になりました。燃料の輸入は、原発が動かない以上、今後も続きますので、貿易赤字体質も最低でも数年は続くと思われます。
輸入IM+総生産Y = C+I+G+輸出EX
なので、左辺のIMを右辺に移項すると、
総生産Y=C+I+G+(EX-IM:マイナス)
となり、上記の図のようになります。この図を頭に入れた上で、コンクリートかヒトかを検証します。
2009 経済財政白書(引用文・グラフとも)
まず、日本では、景気回復期は、消費(C)よりも、投資(I)の伸びが大きいことが分かります。

消費は、変わりませんが、I(設備投資)が伸びれば、景気が回復する時期だということが、分かります。Iには、民間と公共事業が含まれます。日本の景気回復を起こすのは、消費C
ではなくて、Iの伸びだということが分かります。
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投資拡大→GDP増参照
国内総生産を、支出側から見ると、Y=C+I+G+(EX-IM)です。
Y=C+I+G+(EX-IM)
C=民間消費
I=投資
G=政府
EX-IM=純輸出
では、 「景気」にもっとも影響のある指標は何でしょうか。グラフを見ると、一目瞭然です。I(投資)です。

<投資>


この2つのグラフは、双子のようです。投資Iと、GDPの間は、このように結びついています。投資が、景気変動によって、大きく変動しています。
政府の歳出が、「ヒト(C)」から、「コンクリート(I)」へ回る方が、結局、我々の所得を増やすのです。下記は、Iの中身を、政府の公共投資と、民間の設備投資に分けています。
設備投資、輸出は個人消費より雇用者所得を多く創出
GDP の項目別に、それらが1 単位増加したときに雇用者所得がどの程度生み出されるかを示す「最終需要項目別の雇用者所得誘発係数」を、産業連関表を用いて試算してみよう。

これによると、公需や設備投資、輸出は、個人消費と比べると、雇用者所得をより多く生み出すことが分かる。
公需(G)や設備投資(I)=「コンクリート」は、「ヒト」(C)に回すより、雇用者所得を増やすのです。

なぜなのか、分析されています。
…個人消費の過半はサービスであり、サービスは労働集約度が高いと見られる。にもかかわらず、設備投資、輸出のほうが雇用者所得を多く生み出すのはなぜだろうか。
第一に、加工型製造業が雇用者所得を生み出す力はそれほど小さくないのではないか。だからこそ、そのシェアが圧倒的な輸出の雇用者所得誘発係数が個人消費と比較して大きかった。
第二に、輸出自体に占めるサービスのシェアは低いものの、加工型製造業等の輸出は事業所サービス等の需要、ひいてはそうした業種での雇用者所得を大きく誘発すると考えられる。
第三に、建設が雇用者所得を生み出す力は大きいと見られ、これが設備投資の雇用者所得誘発係数が高い一因となっている
結局、公共投資の拡充は、我々の所得を増やすのです。「ヒトからコンクリート」の方が、効率が良いのです。
よく考えると、当たり前です。「コンクリートからヒトへ」は、税金を集めて、ただ、ばら撒くだけだからです。農業の就業者への所得補償、高校授業料無料化などは、消費者にただ「カネ」を渡すだけで、それこそ、右から左へとカネが動くだけです。

社会保障も同じなのです。年金や、医療費、生活保護費がいくら増えたところで、これも右:税金→左:消費に回すだけで、次年度に、何かを産み出す原資になるわけではありません。
ばら撒いても、次期GDPには貢献しないのです。
日経H24.7.13

コメが取れたら、それをその年に食べてしまう消費と、次の年にまたコメを産む苗(投資)に分けます。全部食べて(消費)しまったらそこで終わりですが、苗は、次の年に新たなコメを産む原資(投資)です。
だから、「成長」するには、「消費」ではなく「投資」が必要なのです。

この貯蓄Sというのが、 ①企業の投資(I:Investment)②政府の公債(G-T)③外国の消費・投資(EX-IM)の原資になります。

これらは、政府・企業・外国の「借金」になります。借金して、「港・道路・工場・機械・店舗・パソコン・照明・車両etc」の購入をしています。
ただし、2011年は、EX-IMはマイナス、貿易赤字でした。これは、「日本から外国への投資<海外から日本への投資」を示します。日本は「外国から借りた」となります。
しかし、日本投資=日本の株式購入・国債購入・土地や建物購入のことですから、貿易赤字=外国への借金というわけではありません。別に返す必要のないカネのことです。

では、最初に戻って、このSはどのように産み出されたものだったでしょう?それは、新しい付加価値(GDP)でした。つまり、貯蓄は、私たちが得た給料から、産み出されるのです。しかもその給料は私たちが新しく生産したモノ・サービスから、生まれています。何かを新しく作り出し、そのもうけ(総生産-中間生産物)がGDPでした。つまり、貯蓄Sは、財(実物財:サービスという形のない財も含む)なのです。

そして、毎年毎年、生産した一部の財(モノ)が、インフラストラクチャーとして、社会の基盤になって残ります。これを国富と言います。

とうほう『政治・経済資料2010』p201

ですので、毎年毎年、国富は増えます。例外は、大震災のような自然災害で国富が失われた時:今回の大震災で、東北地方で失われた国富は16兆円だそうです。また、バブル崩壊により土地や建物の値段が下がると国富は目減りします。
さらに、「EX-IM:海外資産」も国富です。ここは少し変わっていて、港・道路・工場・機械・店舗など実物財のほか、株・債券・外貨などの金融資産も入ります。
さて、この原資ですが、国民の貯蓄Sでした。そのSから借金して、実物資産になります。

まず、①貯蓄Sは同時に②借金でもあり、③同時に形のある財であることを、押さえておきましょう。
次に、この「①貯蓄・②借金・③実物資産」ですが、③は「国富」になることを説明しました。①・②は、「金融資産」と言います。下の図では、③国富は「非金融資産」となっています。
清水書院『2010 資料政治・経済』p230


この国富(投資I)が、次年度に日本の新たなGDPを産むのです。
だから、税金から家計(消費)に回す分が増えれば増えるほど、経済成長は劣ることになります。
板谷淳一 北大『やさしい経済学 経済成長と税』日経新聞
…米ハーバード大のロバート・バロー教授…
…98か国のデータを分析して、公務員給料や医療保険の負担分など「政府消費」が国内総生産に占める割合と、成長率には負の関係があることも発見した。
…まず政府消費がある程度資源の浪費を含んでいるということだ。社会保障や年金への支出は単なる所得の移転で、生産性の向上や成長率の上昇に役立っていない。
江口允崇『やさしい経済学 社会保障の悪影響』日経新聞
…米ハーバード大のシルビア・アーダナ准教授の研究では、政府支出の中でも、公務員の人件費と失業給付などの社会保障費の増大は、むしろ国内総生産(GDP)や消費を減少させることを単純なDSGEモデルで示している。
…こうした支出の拡大はむしろGDPや消費に対してマイナス効果を持ち、削減すればGDPや消費が増えるのである。
…共同研究では、政府支出(筆者注:以下はどちらかというと投資)が家計の利用可能時間を増やす、もしくは労働の意欲を増加させることで政府支出乗数が上昇し、消費が正に反応しうることを示している。
例えば、政府が介護や託児所と言ったサービスを提供すれば、家計が家事労働から解放されるし、交通網が整備されれば通勤時間が節約される。…その分労働量が増え政府支出乗数が上がる。
社会保障が経済成長を阻害します。
下図は80年→01年の、OECD26か国の分析です。社会保障比増で、成長率低という負の相関になるそうです。
加藤久和『世代間格差』ちくま新書 2011

1 社会保障負担の増大による消費の低下
2 企業負担増による投資減
3 働くことのインセンティブ低下による労働供給減
4 年金などの充実は資本ストックの源泉である民間貯蓄を減少させる
5 所得再分配を促進するが、非効率な政府の関与拡大である
6 財政赤字をもたらし、市場の長期金利を上昇させる
などの要因が考えられるそうです。
直接給付よりも、投資が重要なのです。
続く
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