相関関係と因果関係は違う
相関関係と因果関係。ここをごちゃごちゃにして話す例がよく見られます。相関関係は因果関係ではありません。
相関があるからといって、そこから因果関係を引っ張り出してはダメです。また、因果が成立するからといって、結果と原因をひっくり返してはダメです。
きちんと整理しましょう。
相関関係とは、「Xが増えればYも増える」です。「X増=Y増」「X減=Y減」です。例として私がよく挙げているのが、「輸出増=輸入増」です。


例 気温とエアコンの販売台数(正相関)
エコカー販売と、ガソリンスタンド客数(負相関)
因果関係とは、「Xが増えたのが(原因)で、Yも増える(結果)」です。「X増→Y増」です。例えば、「X:来店客数が増えた(原因)」ので、「Y:売上が増えた(結果)」です。
ここから、「売上を伸ばすには、来店客数を増やせばいい」と対策を講じることができます。
ただし、「X(原因)→Y(結果)」の因果の場合、「Y(原因)→X(結果)」とひっくり返してはいけません。「来店客数を増やすには、売上を伸ばせばいい」とはなりません。
「血が出る(結果)ためには、ぶつける(原因)、」のであって、「ぶつける(結果)ためには、血が出る(原因)、」のではありません。
例 シートベルト着用率と、乗用中の死亡率(負相関の因果関係)
ところが、この両者、グラフにすると一緒に見えるので、「相関関係」から、「因果関係」を無理やり導き出してしまうということが、往々にして起こります。
小林慎哉『日本経済のデータ分析と経済予測』文眞堂2011
P82

この部分を、整理していきましょう。

(1)相関関係
相関とは、「Xが増えればYも増える(片方が減れば片方も減る)」です。Y=Xとか、Y=2X+a とか、中学校の一番最初にならう、比例グラフを思い出してください。
Y=X

Y=2X+1

XとYにどのくらいの関係(相関)があるのかを相関係数といいます。
相関係数rは、-1≦r≦1で、1(-1)に近づけば近づくほど、「完全相関」といいます。
鳥居泰彦『統計学』慶応大学出版2005 P254

だから、中学校の比例グラフは「完全相関」です。
この相関関係は、rの値が低くなればなるほど、「相関関係は薄い」「相関はない」となります。

(2)相関の具体例
①
こんな風に使われます。
齊藤淳 経済教室 「痛み緩和へ補償 透明に」日経H23.12.16

…国内総生産(GDP)に占める輸出入の割合(貿易依存度)と政府支出の割合の間には、正の相関関係があることが指摘されてきた。貿易自由化により比較劣位にある国内産業が退場を迫られた場合に、構造調整を促すための安全網が必要となるためだ。
②

夫の年齢(X)と、妻の年齢(Y)です。夫の年齢と、妻の年齢は、ほぼ同じように変化することが分かります(直観的にわかると思います)。
「夫の年齢が増えると、妻の年齢も増える」
「夫の年齢増=妻の年齢増」です。
このことを、「夫の年齢と、妻の年齢は相関関係がある」といいます。
ただし、この相関関係は「因果関係」ではありません。
夫の年齢が増加する(結果)のは、妻が原因ではないですね。逆に妻の結果は夫が原因ではありません。お互いに原因でも結果でもありません。
ここをごちゃごちゃにすると、トンでも論にひた走ることになります。
(3)トンでも論の例
①
ある、教員向け教育相談講習で、「トンでも」論に出会ったことがあります。

Yは、お菓子や炭酸飲料の摂取量です。Xは生徒の点数です。「お菓子や炭酸飲料の摂取量が増える」と「テストの点数が低くなる」というものです。
肥満なのは、家に帰って、お菓子や炭酸飲料を過剰摂取しているからだそうです。つまり、親が共働きだったり、片親だったり、収入が低かったりして、親の目の届かない生活をすると、お菓子や炭酸飲料の摂取が増え、肥満度が高くなるのだそうです。
だから、「お菓子や炭酸飲料の摂取量が増える(原因)」から、「テストの点数低くなる(結果)」だそうです。
会場から、「そういえば、ウチの学校(底辺校)、肥満が多い」との声が出ました。
これ、どう考えても「変」です。因果だとしたら、「テストの点数高くする」ためには、「お菓子や炭酸飲料の摂取量減らせ!」となります。
こんなバカなことはありません。
テストの点数が低い子だから、お菓子や炭酸飲料を飲む生活をしているのかもしれません。
単なる相関で、「因果」ではない例です。
②
藤本大成
「相関経済学の金利・インフレ率・経済成長率比例法則と金融不全時の金融財政拡大政策」
銀行貸出金利と、名目成長率です。

確かに、「金利が高い状態では、経済成長率も高くなっている」という相関関係が見られます。
さて、これを、因果関係にしてみますか?
「経済成長率を高めるには(結果)、金利を高くしろ(原因)」
どうですか?こんな話、大真面目に語られているのを、見たことがありませんか?
続いて、インフレ率と成長率です。相関があります。

では因果にしてみましょう。
「成長率を上げるには(結果)、インフレにすればよい(原因)」
?
(4)因果関係
これは「原因」があって、「結果」が生じるものです。ただ、相関関係と形は同じになります。
小林慎哉『日本経済のデータ分析と経済予測』文眞堂2011
P82

鳥居泰彦P251

10時間働く肉体労働者の、作業中の休息時間と、就寝前の血圧です。
「休息時間が長いほど、血圧は低くなる」
「休息時間が短いほど、血圧は高くなる」
という相関関係があることが分かります。
ここから、「休息時間を長くする(原因)」と、「血圧が低くなる(結果)」という関係が分かります。原因(X)→結果(Y)です。XだからY。
因果論は、「一方通行」になります。
「血圧を低くする(原因)」と「休息時間が長くなる(結果)」ということはあり得ません。
XだからYが成り立つ場合、YだからXは成り立たないのです。
①
世帯主の年収(X)と家族の消費(Y)
「年収を増やす」と、「消費が増える」とは言えますが、「消費を増やす」と「年収が増える」にはなりません。
②
気温とエアコンの売れ行き
「気温があがる」と「エアコンの売れ行き」伸びますが、「エアコンの売れ行き」を伸ばせば「気温が上がる」ということはありません。
③
CO2が増えると、温度が高くなる
このような相関さえ、もうありません。
<追記 2010年GDP確報>
2010年 GDP確報値が、内閣府より発表されました。

民主党政権になってから、(G-T:財政赤字)が突出していることが分かります。

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