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小黒一正説

http://news.livedoor.com/article/detail/9575233/

新安倍政権、本性が試される「1月の試練」 財政危機深刻化、国債市場枯渇の恐れ

(文=小黒一正/法政大学経済学部准教授)


12月に緊急出版した拙著『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書)で説明しているが、政府債務の多くはいうまでもなく国債であり、これだけ大量の国債を発行すれば、国債価格が下落し長期金利が上昇しても不思議ではない。約1000兆円もの政府債務がある状況で長期金利が急上昇すれば、借金の利払いも急増し、財政が危機的な状態に陥るのは明らかである。

 しかし現在、長期金利は1%を切る水準で低下している。この理由は、アベノミクスの第一の矢、つまり日本銀行が異次元緩和で大量の国債を市場から買い入れていることにある。市場に流通する国債が減るため、国債価格は上昇し、長期金利は低下するからだ。

 さらに10月31日に日銀は年間のマネタリーベース(「日銀が供給する通貨」、具体的には「現金通貨+中央銀行預け金の合計」を指す)の増加額をこれまでより年間で約10~20兆円多い、約80兆円まで拡大すると発表した。12年末に約130兆円(うち保有する長期国債は89兆円)だったマネタリーベースについて、14年末に275兆円(同200兆円)に増やすことになる。また、同時に日銀は、これまで年間約50兆円のペースで増やすとしていた長期国債の保有残高を同80兆円規模になるペースで増加するよう買い入れを行う予定である。そのためには日銀が保有する長期国債のうち償還分も買う必要があり、実質的な買い入れ総額(グロス)は110兆円程度になるはずだ。そして、長期国債の平均残存期間(満期になって償還されるまでの時間。デュレーションともいう)も現状の7年程度から7~10年程度に延長する。

●国債市場が干上がる可能性

 だが、この異次元緩和にも限界がある。なぜなら、このまま日銀が買い入れ額を増やしていけば、近い将来、市場で取引される国債は底を突くからだ。

 理由は単純である。大雑把であるが、財政赤字(新規の国債発行額)が約30兆円としよう。日銀が異次元緩和で市場から毎年約80兆円の国債を買い入れると、金融機関が保有する国債のうち50兆円(80兆円-30兆円)を日銀が吸収してしまう。14年時点で国債発行残高は約800兆円であり、すでに日銀は約200兆円の長期国債を保有しているから、「(800-200)兆円÷50兆円」という単純計算の結果、約12年間で日銀はすべての国債を保有し、国債市場が干上がってしまうことになる。
 もちろん今後の財政赤字の状況や、日銀以外の各保有者の動向によっても、結果は違ってくる。例えば生命保険会社等は、資産運用のために国債が必要だ。だから実際には12年も待たないうちに国債市場は枯渇することになる。



 なんで、日銀が「2年間」と限定しているのに、その後も国債を買い続けなければいけないのか?それも12年間?何のために?
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日経H23.8.16『限界に近づく日本財政 国民貯蓄減で生産縮小も』

 小黒一正 一橋准教授

日経H23.8.16『限界に近づく日本財政 国民貯蓄減で生産縮小も』

…日本経済の国債消化は限界に近づきつつある可能性が高い。国民総所得 (GNI) に対する「国民貯蓄」(民間貯蓄と政府貯蓄の合計から固定資本減耗分を除いた純貯蓄)の推移を見ると明らかだ。バブル崩壊後の90年以降、少子高齢化の進展で国民貯蓄は次第に減少し、2009年はついにマイナスに転落した。

…その際、貯蓄・投資バランス (ISバランス) に基づけば、「国民貯蓄=(投資-固定資本減耗)+経常収支」という関係式を導ける。日本の国民貯蓄は赤字で経常収支は黒字だから、もはや日本経済には資本ストック(企業の生産設備や住宅、堤防や道路などのインフラの合計)の更新費用を賄えない状況(投資<固定資本減耗)に陥っている事実を示す。

国民貯蓄推移.jpg


…日本の「トレンドの推移」が示すように2年後の13年にはマイナスに転落することがわかる。

日本の国民貯蓄がマイナスのまま継続するということは、資本ストックの食いつぶしが進むことを意味する。
日本が資本ストックを維持するため、国内投資を過去の蓄えである対外純資産(累積経常収支)の取り崩し(または海外からの借り入れ)で賄うこともできる。

 資本ストックの維持には最低限、その固定資本減耗に見合う投資が必要であるが、国民貯蓄がマイナスの場合ISバランス式で無理に「投資=固定資本減耗」とすると、国際経済において日本の富の象徴であった、経常収支は赤字となってしまう。
 要するに、資本ストックを維持しようと投資を拡大すると、経常収支は赤字に転落し経常収支の赤字を回避しようとすると資本ストックが食い潰され、国内の生産が縮小していくというジレンマに陥る。



 貯蓄率の低下、これが、日本経済の形を変えようとしています。それは間違いないのですが、この方、ちょっと怪しいことを話します。解説と指摘をします。

<貯蓄率低下>

2009 三面等価 正 名目GDP .jpg

 上記の図で、国民の貯蓄S (99,888十億円)が政府の財政赤字G-T(3,339十億円)、I投資(95,113十億円)、EX-IM(1,437十億円)に回っていることが分かります。

 Sというのは、消費Cや税金・保険料Tに回らなかった全てのカネのことです。株式や債券購入、タンス預金、財布のカネを含みます。

S=(G-T)+I+(EX-IM)

S-I=(G-T)+(EX-IM)


 この貯蓄率が低下しています。日本の財政赤字は、一応国内資金(S)でまかなわれています(95%ほど)が、このSが少なくなってくると、日本国内資金だけで財政赤字をまかなうのが困難になってきます。

<日本は、貿易赤字になる…>

東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313
東学 資料集『資料政・経2008』 2008年 p313.jpg

 日本の貯蓄率は,先進国の中で,最も高い水準だったのです。その貯蓄率は,今後どうなるでしょうか。実は,日本の貯蓄率は,すでにドイツ・フランスを下回り,2020年には家計貯蓄率はゼロになると予測されています。

独仏を下回った日本の家計貯蓄率

櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106.jpg

2020年頃には家計貯蓄率はゼロに  

櫨浩一2006年 p106
櫨浩一『貯蓄率ゼロ経済』日本経済新聞社 2006年 p11 p106

 これもやはり,少子高齢化が影響しています。一般に,若いときは働いて貯蓄し,年をとってからは,その貯蓄を取り崩して生活します。高齢層の比率が高まると,若い世代は貯蓄をしても,高齢者世代が取り崩すので,全体として貯蓄率は低下するのです。
isバランス新.jpg

日本貯蓄超過

 現在の日本では,左辺のSが高い(貯蓄率が高い)ので,右辺がプラスでしたね。2005年の民間貯蓄は,約144兆円,GNIの28%にあたります。しかし,この貯蓄率,特に個人の貯蓄率が低下しています。2020年にはゼロになることが予測されています

 そうすると,上記の式はどうなるでしょうか。左辺が縮小,もしくはゼロ,またはマイナスになります。財政赤字が少し減ったと予想してみましょうか。そうすると・・
日本貯蓄超過今後

 このように,左辺と右辺は必ず等しくなるので,日本は,必ず「貿易赤字」になります。

 貿易赤字=資本収支黒字なので、外国から日本への投資が、増える,「外国からの投資>日本から外国への投資」ということを示します。



…その際、貯蓄・投資バランス (ISバランス) に基づけば、「国民貯蓄=(投資-固定資本減耗)+経常収支」という関係式を導ける。日本の国民貯蓄は赤字で経常収支は黒字だから、もはや日本経済には資本ストック(企業の生産設備や住宅、堤防や道路などのインフラの合計)の更新費用を賄えない状況(投資<固定資本減耗)に陥っている事実を示す。 

固定資本減耗.jpg

 確かに(投資<固定資本減耗)ですね。

…日本の国民貯蓄がマイナスのまま継続するということは、資本ストックの食いつぶしが進むことを意味する。
 日本が資本ストックを維持するため、国内投資を過去の蓄えである対外純資産(累積経常収支)の取り崩し(または海外からの借り入れ)で賄うこともできる。
 資本ストックの維持には最低限、その固定資本減耗に見合う投資が必要であるが、国民貯蓄がマイナスの場合ISバランス式で無理に「投資=固定資本減耗」とすると、国際経済において日本の富の象徴であった、経常収支は赤字となってしまう。
 

 ところが、処方箋のこの部分が間違いです。


 経常収支赤字資本収支黒字です。資本収支黒字は、海外からの借り入れですが、それによって、「対外純資産」を取り崩すのではありません


<国際収支表の記入方法>

国際収支表 記入方法

経常収支黒字資本収支赤字に記載されます(100万円)。
逆に経常収支赤字資本収支黒字に記載されます(50万円)。


 資本取引の場合、資本(カネ)を国内に持つか、海外に持つかの違いで、資産総額が変わるわけではないので、資本(カネ)収支(+)は資本収支(-)、資本(カネ)収支(-)は資本収支(+)に記載され、相殺されます。結果、日本の国際収支は、次のようになります。


G:\ブログ 絵\2009年 国際収支表.jpg

 でも実は、モノ・サービス取引<資本取引ですから、この国際収支表は、表面に出ない分を見ると、次のようになります。

実物取引<資本取引.jpg

 2010年、世界の貿易額は15兆495億ドル、1日当たり412億ドルです(JETRO)。一方、同年の為替取引は、1日当たり4兆ドル(BIS調査)です。実物取引のおよそ95倍です。


 日本の場合、「貿易黒字は年12兆円…1日あたりの円とドルの取引は16兆円:日経子どもニュース H22.9.4」あります。

<資本取引>

なぜ、日本に資金が流入しているのでしょうか? デフレや金利差が要因です。

日経H23.9.2
高金利.jpg

http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-entry-590.html
2011-05-01  デフレとは
「内需刺激へ金利正常化を」参照


 実際の資金の動きです。

日経H23.9.2
資金流入.jpg


 一方、こちらは「実物に近い?」資金投資です。

H23.9.1日経『企業の直接投資 新興国が6割に』

 日本国企業による海外直接投資の新興国シフトが加速している。
…国際収支統計によると、2010年度の海外直接投資は…4兆8639億円
…4月~8月に日本企業がアジアで実施したM&Aは100件と、前年同期に比べ8割増えた。


これが、資本取引です。M&Aは直接投資です。

 日本人が、外国会社の株や社債や国債を買ったり、M&A(買収・提携)したり、海外に工場や店舗を建てる直接投資(海外に株式会社を作る)ことが投資(カネを貸す)です。

G:\ブログ 絵\2009年 国際収支表.jpg

 国際収支表では上記のようになっています。この経常黒字は同時に資本赤字のことで、要するに海外資産(株や債券・土地や建物・海外通貨)の積み上げのことです。日本国内に流通するカネではありません

2009 国際収支表 所得収支→対外純資産バージョン.jpg


 経常黒字資本赤字経常赤字=資本黒字なので、


 ストック(過去の金融資産)です。経常赤字だからと言って、日本国内の過去の金融資産が減ることはありません

金融資産 21年末現在

国際収支 経常赤字の場合.jpg

 21年末で、日本が持つ外国資産は、544兆8千億円、外国が持つ日本資産は288.6兆円、その差額が266兆2000億円、対外純資産です。

 経常収支赤字=資本収支黒字の場合、上記の外国が持つ日本資産:288.6兆円が増えることです。

 20××年の場合、12兆540億円、増えるのですから、301兆1千億円になることです。別に日本が持つ外国資産544兆8千億円が減るわけではありません

金融資産 21年末現在

上図の「純資産・対外資産」が減少するのです。国内の金融資産が減るわけではありませんし、日本が持つ外国資産、544兆8千億円(21年現在)が減ることもありません

対外資産1.jpg

     ↓

対外資産2.jpg

 日本の「対外資産」は、アメリカから見たら、「対外債務」になります。

外国の持つ日本国内資産は、日本の「対外債務」になります。

 対外債務とは、借金ではなく、アメリカ国内の「預金・株・国債・社債・土地・建物」の購入者が「外国人」であるということの意味しかありません。日産や、ヤマダ電機、三井不動産、花王、ソニーetcはすでに、外国企業です。

 しかも、外国の日本に対する債務というのは、返さなければいけないお金ではありません

高増明他『経済学者に騙されないための経済学入門』ナカニシヤ出版2005 
p20
…豊かさというのは、いろいろな財を消費して満足を得ることです。けっして、輸出が輸入より大きいことが豊かではないのです。…対外債務(筆者注:経常、貿易赤字=資本収支黒字)というのは、住宅ローンとは違って返済しなければいけないものではありません。対外債務というのは、たんに外国の企業が自国の土地や株を買ったということです。けっして日本人が(筆者注:外国が)外国からお金を借りてそれを毎月返済しなければならないということではないのです。


 投資(カネを貸)してもらっている国から見ます。

○○国の新工場や店舗を、日本人が建てることです。
○○国の会社の株式が、日本人によって買われているということです。
○○国の会社の社債を、日本人が購入している状態です。
○○国の銀行の預金を、日本人がしていることです(○○国銀行の預金は、銀行から見たら負債です)。
○○国の不動産の持ち主が、日本人の場合です。
○○国の国債を、日本人が購入している状態です。

 たとえば、日本企業が外国から投資された場合、以下のようになります。

外国人の株保有率 出典 日経H23.8.19
2011年7月末現在
大東建託 59.4%
ヤマダ電機 55.9%
HOYA  52.5%
オリックス 51.8%
三井不動産 48.3%
DMM.com 46.7%
花王 46.5%
アステラス製薬 45.8%
スズキ自動車 44.7%
ソニー 43.2%
コマツ 43.0%
三菱地所 42.0%
キヤノン 41.7%
セコム 41.3%

 これらの企業は、すでに「外国企業」です。日本人が、外国会社の株や社債を買ったり、M&A(買収・提携)したり、海外に工場や店舗を建てる直接投資(海外に株式会社を作る)ことが投資(カネを貸す)です。

 日本人が、外国人投資家に借金をして、借金を返済しているわけではありません。

…日本の国民貯蓄がマイナスのまま継続するということは、資本ストックの食いつぶしが進むことを意味する。
 日本が資本ストックを維持するため、国内投資を過去の蓄えである対外純資産(累積経常収支)の取り崩し(または海外からの借り入れ)で賄うこともできる。
 資本ストックの維持には最低限、その固定資本減耗に見合う投資が必要であるが、国民貯蓄がマイナスの場合ISバランス式で無理に「投資=固定資本減耗」とすると、国際経済において日本の富の象徴であった、経常収支は赤字となってしまう
 

1.何で、日本の企業や銀行や、投資家が、「儲けよう」と思って、海外に投資したのに、それを「取り崩さなければ」ならないのですか?

2.日本の「(日本が持つ外国資産:544兆8千億円からの利子収入など)―(外国が持つ日本資産:288.6兆円への利払い)など」から生じる所得収支は、「12兆円」にも上ります。貿易収支(2兆円)が赤字になることは十分に考えられますが、12兆円を赤字にするのは、相当難しい(かなり先の話)のでは?

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