米国債を売れ 外貨準備を復興財源に
<米国債を売れ>

外貨準備約90兆円を、震災の復興財源に使えと言うものです。可能かどうか、検証してゆきましょう。
根津利三郎 富士通総研経済研究所のエグゼクティブ・フェロー『復興財源に外貨準備を活用せよ』p18
数字は筆者挿入
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
① まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
② もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
③ 3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
<外貨準備とは>
まず、外貨準備金とは、何でしょうか。

ウィキペディアより 図も
外貨準備(がいかじゅんび foreign reserve)とは、中央銀行あるいは中央政府等の金融当局が外貨を保持すること。保持している外貨の量を外貨準備高(がいかじゅんびだか)という。
円高を阻止するために、当局が「円売り・ドル買い」をした結果が、外貨準備高になります。 日本は、2003年~2004年にかけて、32兆8694円の為替介入を行いました。また、2010年にも野田財務大臣の元で、円高を回避するために、為替介入を行いました。

大規模な介入は2003年04年です。ですが、その後毎年「外貨準備」が増えるのは、その外貨=簡単に言えばドルを、証券や預金で運用するから(結果論)です。ドルをどこに持つかですが、日銀の金庫には保管しません。外国債や銀行口座に置くことになります。これが1,096,185百万ドルですから、黙っていても、利子を生みます。為替介入をしなくても、外貨残高はどんどん増えるのです。
これが、日本の「対外純資産」の一部を構成します。日本の約260兆円の対外純資産のうち、外貨準備は約100兆円を占めます。

<原資は>
谷内満 早稲田大学商学部学術院教授『政府は、外貨準備の8割を売却せよ』p26
…為券は、政府短期証券と呼ばれる短期国債の一種である…。
為替介入を行う際に、政府は、外国為替資金証券という、返済期間3~6ヶ月の政府短期証券(短期国債)を発行します。これを公募入札で金融機関に販売し、残りは日銀が引き受けます。この「円」で、外債を購入します。
つまり、短期国債が、外貨準備に化けるのです。

週間エコノミストp24

この、長期金利>短期金利が、日本の利ざや(もうけ)になります。
谷内満 同
為券の調達金利より米国債などの金利が高ければ運用益が生まれる…。これまで日米の金利差は日本の方が低金利であったため、10年2月までの累計で約52兆円の運用収益が生まれている。
…この運用収益のうち約32兆円は一般会計に繰り入れられ一般財源の一部としてすでに使われている。残り約21兆円は外為特会の積立金として計上され、財投に預託されている。
…累計は約52兆円で為替評価損を上回っており、全体としては利益を産んでいる。しかしその過半は一般会計への繰り入れですでに使われており(筆者注:31.5兆円が過去の一般会計予算に繰り入れずみ)、残る積立金は評価損を約15兆円も下回っている。
…外為特会は事実上、15兆円の債務超過に陥っているのである。
短期的・過去には、儲かっています(きた)が、現在時点では債務超過になっています。(上記バランス・シートの、左「為替評価損35.9兆円」-右「積立金20.6兆円」=約15.3兆円
<外債を売ることは可能か>
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
①まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
榊原英資 青山学院大教授 『外貨準備を減らせば、円高になる 日本が持つ外貨準備を売却すれば必ず円高になる。将来の極端な円安に備える意味でも現在の水準を維持しておくべきだ』p30
…兆円単位で外貨準備をとり崩したら、為替市場におけるドル売り介入になり、必ず円高になる。
円売りドル買いや、ドル売り円買いなどの為替介入は、超短期1ヶ月や2ヶ月程度の相場に影響を与えることはできますが、長期的にはまったく影響を与えることはありません。
http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日』
2010年9月15日に実施された日銀の為替介入で円高に歯止めがかかりました。しかし、過去、介入によって長期トレンドを捻じ曲げられたことはないのです。

…たとえば、前回日本が行った大規模な介入時の為替推移は上記URLのようでした。2003~2004年春にかけて総額35兆円もの大規模な介入がなされ、その都度短期的な効果はあったのだと思いますが、月足で見ると何の効果も見えず、円高はこの間ぐんぐんと進みました。
…結局大海である市場の波の向きは水鉄砲では変えることはできず、政府が為替介入を一切しなくなった2005年から、1円の政府預金を減らさずとも自然に円安に戻って行ったのです。このように為替の長期トレンドを決めるのは市場であって介入ではありません。市場はその時々のファンダメンタルズによって決まるのです。
つまり、10兆円程度ずつ、売ることは可能です。
②もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
橋本竜太郎首相(当時)が、’97年6月23日に「米国債を売りたい誘惑にかられたことがある」と発言し、翌日、NY株式市場が’87年のブラックマンデー以来の下げ幅を記録しました。その後、影響力の大きさに驚いた、日本政府は、「米国債売却」をタブーにしてきたというのですが。
p23

日経H23.6.9 『日本の中長期国債 中国、買い越し最高』

中国が日本の中長期国債を積極的に買い増している。
…一方、米国債の保有残高は3月末まで、5ヶ月連続で減少した。…ドル以外の資産に分散している。
…米国債の保有は減る傾向だ。…昨年10月末に比べると、残高は約300億ドル落ち込んだ。
…中国政府は外貨準備の運用先を明らかにしていない…。
中国は、世界最大の米国債保有国(約1.5兆ドル=120兆円)です。そのうち、中国は300億ドル(2兆4000億円分)の米国債を売却しています。アメリカ政府の許可を得ているのでしょうか?「運用先を明らかにしていない」のですから、それはないのでしょうね。
米国が納得しようがしまいが、市場メカニズムによる行動は可能のようです。
③3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
問題は、この③番目の理由です。先に答を言うと、この「エコノミスト編集部」に問い合わせた所、結局、この③番目の理由どおり、新たに国債発行をしなければいけないことになり、この記事の主張自体、「?」と言うものでした。編集部が、「復興債にそのまま回すのは無理」と認めたことになります。つまり「マッチポンプ」です。

バランス・シートですから、必ず「資産」=「負債」になります。もしも、左側「外貨資産」79.9兆円を売れば、左側「政府短期証券(国債)」79.9兆円返済になります。つまり、このバランス・シートは、現在の「資産136.4兆円=負債136.4兆円」が、「資産56.5兆円=負債56.5兆円」になるのです。
さて、この短期証券を返済された方です。つまり、金融機関(銀行・保険会社・証券会社etc)はこの79.9兆円をどうしようとするのでしょうか。
まず、日本は、カネ余りです。貸出先がないので、金融機関は、国債を買って運用しています。
日本経済新聞「余剰マネー国債に流入」2010年.6月.25日
日本国債に投資マネーが流れ込んでいる。10年物国債利回りは前日比0.040%低下(債券価格は上昇)し、1.125%となった。2003年8月以来、6年10か月ぶりの低水準をつけた。
長期金利低下の理由の一つはカネ余りだ。個人や企業などが銀行預金などに資金を寝かせる一方、企業が設備投資を絞っていることから銀行の貸し出し需要は低迷。国内銀行の預金と貸出額の差額は4月末時点で前年同月比17.2%増の約159兆円となり、過去最大となった。
銀行はこの差額を国債に振り向けている。4月末時点で国内銀行が保有する日本国債の残高は約137兆円と27.6%増え、過去最高を更新した。

このグラフは,「都銀・地銀・第二地銀」の資金余りの状況を示しています。個人や企業から集めた預金額から,貸出額を差し引いたものです。130兆円のお金が,どこにも投資先がなく,放置されています。このお金は,銀行にとっては,ただ預かっているだけで,刻々と赤字になってしまう「お荷物のお金」です。預金者に金利をつけて返さなければいけないからです。銀行も,一刻も早くお金を借りてほしいのです。
日経H22.3.14

簡単に言えば、「借り手」がいないのに、「国債」を返却されても、金融機関は困ります。

そこで、「震災復興に、このカネを回せ」論が出てきます。
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
結局、このカネは、直接、①「復興に回る=企業や、家計が、借金し、工場を再開したり、家を立て直したりする」か、②国や地方自治体が借金して(税金では回収できない)、そのカネを復興(道路や港の再生=インフラ整備)に使うしか、使い道はありません。
でも、①に需要がそんなにあるとは思えません。倒産が相次いでいる状況で、再建するのは、並大抵のことではできないからです。2重ローン問題もあります。
日経H23.6.9

そうすると、②に期待するしかありません。例えば、2次補正予算は、「10兆~15兆円」が想定されています。
結局、外債を売り払った分、短期証券を返済し、さらに新たな国債を発行し、そのカネを財源に回すことになります。

結局、過去の借金の額(国債発行額)は、そんなに変わらない事になります。
ただし、外国債券運用による「長期金利 > 短期金利」よりも、 「復興による利益 > 短期金利」であれば、カネがより有効に使われることになります。
<追記 短期国債保有者>

<しっかりしましょう 日経>
日経H23.6.21『円、貿易赤字でも底堅く』
外国為替市場で円相場が下げ渋っている。…日本の貿易赤字が膨らみ円安が進むとの思惑が根強いものの…。…貿易などの実需取引が主導する相場になりにくくなっている。
実需(モノ・サービス)取引が、為替相場を主導するなんて、化石のような話です。
現在は、株・債券・外貨預金などの、「資本取引」が、為替相場を決めているのです。
『公社債売買 外国人が買い越し』
…5月の公社債投資家別売買高(短期証券を除く)によると、外国人が2兆7936億円の買い越しとなり、買越額は2008年8月以来の高水準だった。
外国人の買い越し額は、5月の一月で、短期証券を含むと、12兆6894億円です。

次は株です。
『北米・欧州投資家 株買越額急減』東京証券取引所が20日発表した5月の海外投資家の地域別売買動向…。
…北米投資家は…11ヶ月連続で買い越したが4月に比べ8割減の520億円だった。
…欧州の投資家は買越額が1518億円と約半減した。
8割減や半減で、この額です。
一方、実需(モノ・サービス)取引です。
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_trade-balance&rel=y&g=tha
財務省が20日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は、8537億円の赤字となった。
…輸出額は、前年同月比10.3%減の4兆7608億円。
…輸入額は12.3%増の5兆6145億円。
実需(モノ・サービス)取引額(輸出は円買い・輸入はドル買い:差額が貿易収支)なんて、債券取引市場とだけで比較しても、6.7%分しかありません。こんなもので、相場が動くわけではないのです。
日経記者は、数字を見ずに、観念論で書いていることが分かります。

外貨準備約90兆円を、震災の復興財源に使えと言うものです。可能かどうか、検証してゆきましょう。
根津利三郎 富士通総研経済研究所のエグゼクティブ・フェロー『復興財源に外貨準備を活用せよ』p18
数字は筆者挿入
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
① まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
② もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
③ 3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
<外貨準備とは>
まず、外貨準備金とは、何でしょうか。

ウィキペディアより 図も
外貨準備(がいかじゅんび foreign reserve)とは、中央銀行あるいは中央政府等の金融当局が外貨を保持すること。保持している外貨の量を外貨準備高(がいかじゅんびだか)という。
円高を阻止するために、当局が「円売り・ドル買い」をした結果が、外貨準備高になります。 日本は、2003年~2004年にかけて、32兆8694円の為替介入を行いました。また、2010年にも野田財務大臣の元で、円高を回避するために、為替介入を行いました。

大規模な介入は2003年04年です。ですが、その後毎年「外貨準備」が増えるのは、その外貨=簡単に言えばドルを、証券や預金で運用するから(結果論)です。ドルをどこに持つかですが、日銀の金庫には保管しません。外国債や銀行口座に置くことになります。これが1,096,185百万ドルですから、黙っていても、利子を生みます。為替介入をしなくても、外貨残高はどんどん増えるのです。
これが、日本の「対外純資産」の一部を構成します。日本の約260兆円の対外純資産のうち、外貨準備は約100兆円を占めます。

<原資は>
谷内満 早稲田大学商学部学術院教授『政府は、外貨準備の8割を売却せよ』p26
…為券は、政府短期証券と呼ばれる短期国債の一種である…。
為替介入を行う際に、政府は、外国為替資金証券という、返済期間3~6ヶ月の政府短期証券(短期国債)を発行します。これを公募入札で金融機関に販売し、残りは日銀が引き受けます。この「円」で、外債を購入します。
つまり、短期国債が、外貨準備に化けるのです。

週間エコノミストp24

この、長期金利>短期金利が、日本の利ざや(もうけ)になります。
谷内満 同
為券の調達金利より米国債などの金利が高ければ運用益が生まれる…。これまで日米の金利差は日本の方が低金利であったため、10年2月までの累計で約52兆円の運用収益が生まれている。
…この運用収益のうち約32兆円は一般会計に繰り入れられ一般財源の一部としてすでに使われている。残り約21兆円は外為特会の積立金として計上され、財投に預託されている。
…累計は約52兆円で為替評価損を上回っており、全体としては利益を産んでいる。しかしその過半は一般会計への繰り入れですでに使われており(筆者注:31.5兆円が過去の一般会計予算に繰り入れずみ)、残る積立金は評価損を約15兆円も下回っている。
…外為特会は事実上、15兆円の債務超過に陥っているのである。
短期的・過去には、儲かっています(きた)が、現在時点では債務超過になっています。(上記バランス・シートの、左「為替評価損35.9兆円」-右「積立金20.6兆円」=約15.3兆円
<外債を売ることは可能か>
外貨準備を復興財源に使うことについて反対論は大きく3つある。
①まずは為替相場への影響だ。米国債を一手に大量売却すれば、ドルの下落つまり円高になり、日本の輸出産業に大きなマイナスの影響を与える恐れがあるというものだ。
榊原英資 青山学院大教授 『外貨準備を減らせば、円高になる 日本が持つ外貨準備を売却すれば必ず円高になる。将来の極端な円安に備える意味でも現在の水準を維持しておくべきだ』p30
…兆円単位で外貨準備をとり崩したら、為替市場におけるドル売り介入になり、必ず円高になる。
円売りドル買いや、ドル売り円買いなどの為替介入は、超短期1ヶ月や2ヶ月程度の相場に影響を与えることはできますが、長期的にはまったく影響を与えることはありません。
http://allabout.co.jp/finance/gc/312608/『日銀の為替介入の効果とは?掲載日:2010年09月23日』
2010年9月15日に実施された日銀の為替介入で円高に歯止めがかかりました。しかし、過去、介入によって長期トレンドを捻じ曲げられたことはないのです。

…たとえば、前回日本が行った大規模な介入時の為替推移は上記URLのようでした。2003~2004年春にかけて総額35兆円もの大規模な介入がなされ、その都度短期的な効果はあったのだと思いますが、月足で見ると何の効果も見えず、円高はこの間ぐんぐんと進みました。
…結局大海である市場の波の向きは水鉄砲では変えることはできず、政府が為替介入を一切しなくなった2005年から、1円の政府預金を減らさずとも自然に円安に戻って行ったのです。このように為替の長期トレンドを決めるのは市場であって介入ではありません。市場はその時々のファンダメンタルズによって決まるのです。
つまり、10兆円程度ずつ、売ることは可能です。
②もう1つの反対論は、米国が納得しないというものだ。
橋本竜太郎首相(当時)が、’97年6月23日に「米国債を売りたい誘惑にかられたことがある」と発言し、翌日、NY株式市場が’87年のブラックマンデー以来の下げ幅を記録しました。その後、影響力の大きさに驚いた、日本政府は、「米国債売却」をタブーにしてきたというのですが。
p23

日経H23.6.9 『日本の中長期国債 中国、買い越し最高』

中国が日本の中長期国債を積極的に買い増している。
…一方、米国債の保有残高は3月末まで、5ヶ月連続で減少した。…ドル以外の資産に分散している。
…米国債の保有は減る傾向だ。…昨年10月末に比べると、残高は約300億ドル落ち込んだ。
…中国政府は外貨準備の運用先を明らかにしていない…。
中国は、世界最大の米国債保有国(約1.5兆ドル=120兆円)です。そのうち、中国は300億ドル(2兆4000億円分)の米国債を売却しています。アメリカ政府の許可を得ているのでしょうか?「運用先を明らかにしていない」のですから、それはないのでしょうね。
米国が納得しようがしまいが、市場メカニズムによる行動は可能のようです。
③3番目の反対理由は、外貨準備は政府が円建ての短期証券を発行して国内の金融市場から資金調達(借金)し、それを原資に外国資産を購入していたものだから、もし外貨準備を売って円にするなら、まずは債務を返済しなければならないというものだ。つまり、この財源として外貨準備を使うのはそれに見合う国債を発行するのと同じことになるという主張である。
問題は、この③番目の理由です。先に答を言うと、この「エコノミスト編集部」に問い合わせた所、結局、この③番目の理由どおり、新たに国債発行をしなければいけないことになり、この記事の主張自体、「?」と言うものでした。編集部が、「復興債にそのまま回すのは無理」と認めたことになります。つまり「マッチポンプ」です。

バランス・シートですから、必ず「資産」=「負債」になります。もしも、左側「外貨資産」79.9兆円を売れば、左側「政府短期証券(国債)」79.9兆円返済になります。つまり、このバランス・シートは、現在の「資産136.4兆円=負債136.4兆円」が、「資産56.5兆円=負債56.5兆円」になるのです。
さて、この短期証券を返済された方です。つまり、金融機関(銀行・保険会社・証券会社etc)はこの79.9兆円をどうしようとするのでしょうか。
まず、日本は、カネ余りです。貸出先がないので、金融機関は、国債を買って運用しています。
日本経済新聞「余剰マネー国債に流入」2010年.6月.25日
日本国債に投資マネーが流れ込んでいる。10年物国債利回りは前日比0.040%低下(債券価格は上昇)し、1.125%となった。2003年8月以来、6年10か月ぶりの低水準をつけた。
長期金利低下の理由の一つはカネ余りだ。個人や企業などが銀行預金などに資金を寝かせる一方、企業が設備投資を絞っていることから銀行の貸し出し需要は低迷。国内銀行の預金と貸出額の差額は4月末時点で前年同月比17.2%増の約159兆円となり、過去最大となった。
銀行はこの差額を国債に振り向けている。4月末時点で国内銀行が保有する日本国債の残高は約137兆円と27.6%増え、過去最高を更新した。

このグラフは,「都銀・地銀・第二地銀」の資金余りの状況を示しています。個人や企業から集めた預金額から,貸出額を差し引いたものです。130兆円のお金が,どこにも投資先がなく,放置されています。このお金は,銀行にとっては,ただ預かっているだけで,刻々と赤字になってしまう「お荷物のお金」です。預金者に金利をつけて返さなければいけないからです。銀行も,一刻も早くお金を借りてほしいのです。
日経H22.3.14

簡単に言えば、「借り手」がいないのに、「国債」を返却されても、金融機関は困ります。

そこで、「震災復興に、このカネを回せ」論が出てきます。
…震災で失われたインフラや仮設住宅の建設、放射能被害に対する保証などのために緊急に5兆円を超える財源が必要だという。復興のために特別国債を発行する案も提案されているが、結局は国の負債になることについては変わりない。まず考えるべきは、国が保有する外貨準備の取り崩しだ。現在日本の外貨準備は約90兆円に達しており、これは中国に次いで世界第2位だ。…外貨準備の約7割は米国債で運用されており、まったく有効に活用されていない。
結局、このカネは、直接、①「復興に回る=企業や、家計が、借金し、工場を再開したり、家を立て直したりする」か、②国や地方自治体が借金して(税金では回収できない)、そのカネを復興(道路や港の再生=インフラ整備)に使うしか、使い道はありません。
でも、①に需要がそんなにあるとは思えません。倒産が相次いでいる状況で、再建するのは、並大抵のことではできないからです。2重ローン問題もあります。
日経H23.6.9

そうすると、②に期待するしかありません。例えば、2次補正予算は、「10兆~15兆円」が想定されています。
結局、外債を売り払った分、短期証券を返済し、さらに新たな国債を発行し、そのカネを財源に回すことになります。

結局、過去の借金の額(国債発行額)は、そんなに変わらない事になります。
ただし、外国債券運用による「長期金利 > 短期金利」よりも、 「復興による利益 > 短期金利」であれば、カネがより有効に使われることになります。
<追記 短期国債保有者>

<しっかりしましょう 日経>
日経H23.6.21『円、貿易赤字でも底堅く』
外国為替市場で円相場が下げ渋っている。…日本の貿易赤字が膨らみ円安が進むとの思惑が根強いものの…。…貿易などの実需取引が主導する相場になりにくくなっている。
実需(モノ・サービス)取引が、為替相場を主導するなんて、化石のような話です。
現在は、株・債券・外貨預金などの、「資本取引」が、為替相場を決めているのです。
『公社債売買 外国人が買い越し』
…5月の公社債投資家別売買高(短期証券を除く)によると、外国人が2兆7936億円の買い越しとなり、買越額は2008年8月以来の高水準だった。
外国人の買い越し額は、5月の一月で、短期証券を含むと、12兆6894億円です。

次は株です。
『北米・欧州投資家 株買越額急減』東京証券取引所が20日発表した5月の海外投資家の地域別売買動向…。
…北米投資家は…11ヶ月連続で買い越したが4月に比べ8割減の520億円だった。
…欧州の投資家は買越額が1518億円と約半減した。
8割減や半減で、この額です。
一方、実需(モノ・サービス)取引です。
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_trade-balance&rel=y&g=tha
財務省が20日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は、8537億円の赤字となった。
…輸出額は、前年同月比10.3%減の4兆7608億円。
…輸入額は12.3%増の5兆6145億円。
実需(モノ・サービス)取引額(輸出は円買い・輸入はドル買い:差額が貿易収支)なんて、債券取引市場とだけで比較しても、6.7%分しかありません。こんなもので、相場が動くわけではないのです。
日経記者は、数字を見ずに、観念論で書いていることが分かります。
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genre : 政治・経済