世の中の経済入門書やネットの経済解説がすべてデタラメのわけ

<世の中の経済入門書やネットの経済解説がすべてデタラメのわけ>

 前回、高橋洋一や、田中秀臣、浜矩子、池田信夫などの自称「経済学者」や、池田彰や上念司ほか「自称経済解説者」など、まったく「経済学」としては使えない、はっきり言えば、「でたらめ」であることを説明しました。

 日本のマスコミレベルの「経済論」など、使い物になりません。ましてや、ネットにはびこるシロウト経済論など、論外です。教科書を学んでいないからです。現代経済学は、その「教科書」以外には載っていないからです。

 とにかく、マスコミ上・ネット上にはびこるシロウト論は徹底しています。「教科書読まない」「読んだことがない」「読むつもりがない」です。

 自動車の運転免許を取るにも、教習所に行って「教則本」を学びます。ユーキャンの資格取得にしても、「テキスト」で学びます。ところが、シロウト経済論は、そのテキストを「読まない・読めない」のです。

 それで、「自分の運転は大丈夫だ、うまいだろう」と言っているのですから、お話になりません。危なくてそんな車には近づけないのに、乗っている本人だけが気づかない・・そういうことです。


 デタラメというのは、彼らには「現代経済学」が全く理解できないというところにあります。現代経済学=DSGE=動学的一般均衡です。動学=時間軸を考慮した一般均衡(ミクロの需給均衡の概念)ですから、いわゆるミクロの「一般均衡」とは別物です。

 この40年間で、経済学は、一変しました。コペルニクス的転換=180度違ったものになったといってもよいでしょう。それが、彼らには全く理解できていません。

 その本質は「未来が現在を決める」ということです。これが現代経済学のエッセンスです。

未来が確定すると、現在の行動が変わるのです。

①インフレ・ターゲット
②●年●月に「オリンピック」
③●年●月に、都市圏「新線」「新駅」「新道」完成

 これらのようなことがあると、今の我々の行動が変わります。

 学生が試験勉強をするのは、「未来時点」のテストでいい点数がとりたいからです。「未来時点でこうなりたい=定期考査でいい点数を取る、いい大学に入る、競争倍率の高い企業に入社する」・・・

 未来が現在の「試験勉強をする・・」につながります。

 プロ野球選手・サッカー選手は「今シーズンに良い成績を収める、チームとしても優勝を狙う」という「未来」を実現するために今「練習」をします。

 会社の「投資」は、「未来予測」に基づいて行われます。学生募集(5年後10年後の戦力を育てる)も、工場建設も店舗拡張も、すべて「未来予測」です。将来の「見通し=売上見込み」のために、「今」投資をするのです。「今」投資をすれば、「未来が変わる」から・・・という考えに基づくものではありません。

 勉強・練習をするのは、「今勉強・練習すれば、将来はこうなるだろう(不確定)」ではなく、「将来にこうなりたい(資格試験・大学偏差値:目標クリア)ので、今勉強・練習する」のです。客観的な数値(未来段階でクリアする目標)に基づいて、今「勉強・練習」するのです。

 納期に合わせて今日生産する、プレゼンに合わせて今日資料を作る、1年後の出荷に合わせて、今日しいたけの菌をつける、コンテストに合わせて今日練習する、運動会に合わせて今日練習する・・・。

「未来」の目的を実現するために「今」の生活をする・「今」の生活を変えるのです。これが現代経済学の本質です。

 オールド・ケインジアンや、市場原理主義?なるものに、この「未来」は考慮されていません。静学均衡なのです。

 ところが、この現代経済学(動学)は、解析力学・ラグランジュ論や、微分積分を使用するため、「経済学の教科書」で解説するしか、その全容を伝えきれません。一般的な「新書」や、「経済入門本」で解説するのは、「無理」なのです。

DSGE モデル.jpg

1)ワルラス一般均衡論(新古典派=ミクロ) = ニュートン物理学(どんぶり勘定)

ワルラス均衡理論は、財市場・貨幣市場・労働市場・・・と複数均衡を扱います。ところが、ニュートン物理学では、「2つの引力」を分析できるのみで、「3つ以上の引力=均衡」は、理論的に扱えないのです。しかし、太陽系の場合、太陽の引力があまりにも巨大で、太陽と金星、太陽と水星、太陽と地球・・・とそれぞれ「2個の引力=ニュートン物理学」を使って解析し、それを寄せ集めて、「太陽系」を説明したのです。

ですから、ワルラス均衡も、それぞれの市場を分析し、それを無理やり「すべての市場均衡=複数均衡」として扱っただけで、もともと、原理的(2個の均衡しか扱えないニュートン物理学に依存)に、「無理」があるのです。

「ミクロ的基礎付け=ある理論からすべてを説明する演繹法」を装ってはいますが、最初から「誤謬」が生じるような理論なのです。


2)ケインズマクロ=帰納法(理論ではなく、実証から作った帰納法)

 一方、ケインズの理論=マクロ経済学は、帰納法です。つまり、実証から導き出した、「ミクロ的基礎付け=ある理論からすべてを説明する演繹法」ではありません。「投資の増減が不況につながる」のを発見し、では、投資を回復させるには・・・という帰納法です。理論などありません。世界大恐慌=不況を克服できれば、それでよいという、ざっくり論です。

 ケインジアンは、とりあえず、ミクロ=ワルラス均衡と、ケインズマクロを結び付け「古典派総合」として活用しますが、これらは原理的に「水と油」でした。

 だから、ルーカスらが、「マクロ経済学のミクロ的基礎付け=ある原理理論の演繹法によってマクロ理論にする」ことを、要請したのです。そこから、現代経済学が始まります。


3)動学的一般均衡
 
これが、現代の「マクロ経済学のミクロ的基礎付け」、ルーカス以後の現代経済学理論です。「動学=今と未来」を考慮したモデルです。

動学的予算線


この、理論には、

 ①フェルマーの定理
 ↓
 ②解析力学
 ↓
 ③ラグランジュアン


という、「ミクロ的基礎付け=演繹」が導入されています。


フェルマー

「フェルマーの原理=光は最少の時間で通過する=光の入射角と反射角は必ず同じになる=均衡は1つになる」という「たった1つの統一理論」で、ミクロ経済学の「最適化」論理を構成できるのです。原理を1つだけ要請すれば、そこから先は、光やものごとがたどる曲線が絵筆で描いたかのように簡単に導き出され、反射や屈折の法則は、ミクロ的原理から導けるということになるのです。

そこから、さらに解析力学は進化します。通過「時間T」に相当する部分が、のちの「解析力学」における「ラグランジュアン=L=量」になります。たとえばロケットの燃料消費「量」を最小にしたいとき…というように「量」を「最小化すべき量」として設定し、最適な「量」を数値化・グラフ化できます。つまり、ラグランジュアンを応用することで、「神から与えられた法則=T」ではなく、人間が「量=L」を自由に決められることになります。企業がコストを最小限にしたいときは、それを人間が自由に設定することができます。このように、「フェルマーの原理」が、解析力学へと発展したのです。

動学 

 それが、現在のラグランシュを使用した「マクロ経済学のミクロ的基礎付け」になるのです。

 新しい古典派の時代に登場する、動学的確率的一般均衡論(DSGE)は、新しい古典派も、ニュー・ケインジアンも同様に使います。「動学=時系列的な動きがある=現在と将来を見据えて考える理論」は、オールド・ケインジアンが使った「今現在」しか考えていない理論とは別物です。

 ところが、DSGE理論は、「数学=微積分」をふんだんに使う理論ですから、新書や一般的な経済解説本で扱うのは不可能です。「本質だけを紹介するという簡易化」が不可能ですから、世の中にある「簡単解説」経済本は、すべて「ケインズ→フリードマン(マネタリズム・市場経済重視)」までの枠組みで止まっています。はっきり言えば、「70年代」の「常識」で止まったままです。

 ですから、経済学を勉強したことのない一般人の枠組みは、それら本・雑誌に掲載される「古い経済学的常識」に基づいています。そのため、雑誌やネット上にはびこる論調は、市場原理をやみくもに批判したり、ケインズが「不況期」にしか使えない理論であることを無視して、とにかく「公共投資が重要だ」など、「経済学」を踏み外した議論が大手を振って論じられています。「古い話で使えない」のですが、「古い枠組み」しか理解できていないので、自分達の話がとんちんかんであることに気づいていないのです。

「市場原理主義」についてです。ここで述べられている「市場」は、実証的・現実的には「無い」、あくまでも理論上の話でした。

帝国書院『アクセス現代社会2015』
完全競争市場が成立するための条件

①市場に多数の売り手と買い手がおり、すべての売り手がプライス・テイカーである。
②財・サービス(商品)が同質である。
③売り手も買い手もすべての商品の品質や価格に関する情報をすべてもっている(完全情報)
④取引費用(情報収集など、商品の購入にかかったお金以外の費用)がほぼゼロである。
⑤市場への新規参入や撤退が自由である。



清水書院『政治経済資料集2015』p227 

 …こうした完全競争市場は、理論的モデルであって現実には存在しない。…にもかかわらず、完全競争市場を理解しなければならないのは、それが市場構造を評価するベンチマークだからである。現実の企業が直面するほとんどの市場は、完全競争市場の条件のいずれかを欠いている不完全競争市場なのである。


 
 現実にある市場は、ほとんどが「不完全競争市場(独占的競争市場や、寡占市場)」です。つまり、「不完全競争市場」こそが、経済学が研究の対象としている「市場」なのです。市場原理主義?なる「市場」など、実際には、どこにもないのです。ないものを相手に「市場原理主義批判?」なのですから、現代のドン・キホーテのような話です。

 世間では、「失われた20年」について、「市場原理主義、小さな政府を志向し続ける経済学、経済学者が悪い」「経済学など使い物にならない」「経済学など宗教のようなものだ」と批判されますが、実際には、「最新経済学を使えなかったので、日本だけが停滞してしまった」というのが、本当の所です。

<現代経済学>

では、「現代経済学=DSGE」とは何か、解説していきましょう。

クリック

DSGEモデル入門セミナー 平成27年12月18日 内閣府経済社会総合研究所

のページにある、講師:藤原一平(慶應義塾大学・オーストラリア国立大学教授)のPDFファイルを開いてください。

その4「ニューケインジアンモデル」を見ましょう。P50~です。そのP63に、現代の各国中央銀行が使用している理論の3本柱が載っています。

1)動学IS曲線=ニューIS-LMモデル(IS-MPのこと)

2)ニューケインジアン フィリップス曲線 NKPC

3)テイラールール


です。

 この理論については、拙著「図解使えるマクロ経済学KADOKAWA」のp218~223を参照してください。

2) ニューケインジアン フィリップス曲線 NKPC

フィリップス曲線 新

 フィリップス・カーブも、今は「昔」のモノではありません。「インフレだとよい」ではなく、大切なのは、「インフレ率=変化率」なのです。

実質=名目-期待(予想)変化率

インフレでありさえすればよい(実証にすぎないフィリップス・カーブ)では、70年代の「インフレなのに不況=高失業率」を、説明できませんでした。

1%=3%(名目価格)-2%(変化率)

大切なのは、「乖離=ギャップ」なのです。だから「インフレという事実」が大切なのではなく、「インフレ率という変化=動学」が大切なのです。

「実質」が大切なのは、労働市場でも同じです。①実質賃金が高止まり=失業率高(デフレ)→②実質賃金低下→失業率低下(回復期)→③実質賃金上昇=完全雇用(限界費用増)になります。

参照
クリック

池田信夫を銃殺せよ(クルーグマン風に言うと)その3

それで、マンキューが単なる「実証」だったフィリップス曲線を「限界費用増=変化率増=失業率低」という「理論」で、再構築したものが、ニューケインジアン・フィリップス曲線=NKFCです。大切なのは、「インフレ」ではなく「変化率」なのです。

その変化率は、「現在」と「未来」の間で「生じる」のです。

経済は、「未来に依存する」というのが、現代の経済学の必須事項なのです。だから、最新の「動学的確率的一般均衡=DSGE」では、2つの変数の1つ(XとY)は必ず「変化率」なのです。

この「本質=未来が現在を決める」について、解説します。

1)動学IS曲線=ニューIS-LMモデル(IS-MPのこと)

2)ニューケインジアン フィリップス曲線 NKPC

3)テイラールール


ニューケインジアン IS-LM

 この古いIS-LMモデルの式は、次の通りです。

1) Yt+1 = a1Yt - a2(it - E[πt+1]) + ϵt+1
2) πt+1 = b1πt + b2Yt + νt+1
3)  it = q1Yt + q2πt + ηt
4) ηt +1 = ϕt + εt+1

 しかし、この古いIS-LM拡張モデルでは、ルーカス批判(動学を無視している)に耐えられません。

 そこで、動学を取り入れた、ニューIS-LMモデルになります。この式は次の通りです。

5) Yt = E[Yt+1] -σ(it - E[πt+1]) + ϵt
6) πt = E[πt+1] + αYt + νt
7) it = q1Yt + q2πt + ηt
8) ηt +1 = ϕηt + εt+1

 このうち、最も大事なのは、6)です。不完全競争市場における「価格の粘着性」に「ミクロ的基礎」を与えました。この新しい「貨幣実体説」は、先進国中銀の金融政策「インフレ・ターゲット」「量的緩和」策の理論的根拠となっています。

 この「オールドIS-LM」と「ニューIS-LM」の決定的な違いは、因果関係の逆転にあります。IS-LM モデルでは現在tが未来t + 1 を決定しますが,ニュー IS-LM モデルでは未来t + 1 が現在t を決定しています。
 
これが、「40年も前の古い経済学」と「現代経済学」を分ける、決定的な違いです。残念ながら、この部分が、「新書」や「経済学入門本」や、「マスコミ論談」や「ネット上の経済井戸端会議」には、決定的に「欠けている」のです。

新 現代経済学

株価、先物取引、投資をどうするか、貯蓄すべきか、それとも消費するか・・・このように、経済活動はすべて「現在と未来予想」で動きます。そして、「未来予想(この予想を経済学では期待=expectationと表現します)」が、現在の私たちの行動を決定します。

「年金制度が不安だから、消費せずに貯蓄しておこう」、「消費増税があるので、今のうちに買いだめしておこう」「2020年の東京オリンピックに向けて、日本の投資は活発になるだろうから、わが社の今季投資計画・採用計画を決定しよう」・・・。このように、「未来が私たちの現在の行動を確実に変化させている」のです。この「未来」を「一般均衡=最適化行動」に組み入れたのが、現在の「動学的一般均衡=未来と現在を見据えた最適化行動」モデルなのです。

この理論を具体化(実践化)したものが、1990年代初頭に各国中央銀行が採用した「インフレ・ターゲット」です。現在は、アメリカの中央銀行FRB、EUの中央銀行ECBもとっくに採用し、日本も遅ればせながらようやく2013年に採用しました(タイムラグが20年あります。これが「失われた20年」です)。

インフレ・ターゲット

 このインフレ・ターゲットの本質は「不確定な未来を確定させる」ことにあります。未来の確定によって、現在の私たちの行動が変わるのです。このインフレ・ターゲット理論が「なぜ」採用されたのか、ちまたにある新自由主義・市場原理主義」批判者、ケインジアン主義者の解説では、一切登場しません。これらの古い経済学では、「動学的一般均衡」が、理論的に説明できないのです。

 このように、世の中にある「一般的経済学解説書」「新書」「経済学入門」は、すべて古い経済学の段階で止まっています。経済学者の書くぶあつい「教科書」や「解説書」以外では、現代経済学は扱われていないのです。これらは、一般の読者が読む代物ではありません。

 経済は、「②未来(予想)」が「①現実(今現在)」に作用して動くのです。ですから、「②未来(予想)」を絶対にはずせなくなっているのが、現在経済学の本質なのです。「フォワード・ルッキング」「フォワード・ガイダンス」と呼ばれています。

 この「動学的一般均衡=未来を加味した理論」=現代経済学では必須事項なのに、なぜ、世間一般では、「現代経済学」が、理解されていないのでしょうか。それは、今の、「動学的一般均衡」は、微分積分を多用するので、「一般的経済学解説書」「新書」「経済学入門」レベルでは、扱いきれないからです。

 では、この新しい(といってももう30年以上もたっていますが)現代経済学=ニューIS-LMで、インフレターゲット・量的緩和という政策論が、どのように導き出されるのか、下記を見ましょう。

クリック

インフレ予想とデフレ脱却〜レジーム・チェンジの経済学〜 矢野浩一(駒澤大学経済学部) 国民経済計算研究会 2015年3月14日


P29~になります。

ネットなど、こんなアホ論ばかりです。

http://blogos.com/article/208465/

近藤駿介

トランプ大統領の標的となった日銀緩和 ~ 止めるは恥だが役に立つ




高橋洋一や、田中秀臣、浜矩子、野口悠紀雄・・・などの自称「経済学者」や、池田信夫、池田彰、上念司、大前研一、久保田博之・・・「自称経済解説者」など、「でたらめ」であることが、理解できましたか?

<直接民主制など、大馬鹿>

イギリスのEU離脱の国民投票

イタリアの首相が憲法改正案を提示し、否決されれば辞任を明言。

はっきり言います。直接民主制は、やってはだめです。

理由は、「情報の非対称性」です。

私たちは、普段、ほかの仕事についているので、政治課題について、じっくり検討する時間がありません。

だから、私たちは、「代表民主制」「民主主義」というシステムを採用しているのです。

選ばれた人たちに「信託(ロック)」し、私たちの「自然権」を守るのです。

選ばれた人たち(選民)は、私たちよりはるかに「政治課題」について、勉強する時間があります。情報の集約が、われわれ一般人とは、雲泥の差があります(あの、まともな政治家なら・・・の話です。中にはひどい人もいるでしょうが、それでも一般人よりははるかに時間があります)。

 そもそも、その「国会議員」であっても、1国会期間中に出される200本近い法律案をすべて理解するのは、無理です。だから 法務委員会・厚生労働委員会・・・などの委員会でそれぞれの法案を「勉強した」議員が、専門的に審議します。それが本会議に出て、「よく知らない議員」が、「専門議員」にゆだねた法律案を決済します。

 議員でさえ、「情報の非対称性」に埋もれているのですから、マスコミの「評論家」など、法律案をすべて知っているものなど、皆無です。いい加減な知識で、意見を述べているだけです。

 国会議員でも、「勉強」をしている議員であれば、忙しくて「ツイッター」で相手を非難する時間ももったいないですし、ましてや「会議中」にツイッターなど、できるわけがありません。

それでも、法律案を勉強する時間は、私たち一般人より、はるかに恵まれています。その人たちに「議論」してもらうのが、「民主主義」「代表民主制」です。

民主主義など、「よくわからない者の、よく分かっていない者による、よくわかっていない者のための政治」にしか過ぎないのです。完全情報など、「神」しか持っていません。

要するに、政治のプロ(課題を解決するための方策を考えるプロ)に、ゆだねるしかないのです。

病気は、医者にゆだねる、法律は法曹にゆだねる、自動車修理はプロにゆだねる・・・

私たちは、専門業に特化している(1日8時間、その仕事に時間を費やす)ので、「政治課題」について、すべての人々が「選民」よりも情報を持つのは、物理的に「無理」なのです。

住民投票、国民投票にゆだねるなど、民主主義(間接民主制)の原則を無視した、自殺行為です。
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洋の東西を問わず、同じ その2

<洋の東西を問わず、同じ 2>

さっさと不況を終わらせろさっさと不況を終わらせろ
(2012/07/20)
ポール・クルーグマン

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ペイン:じゃあピーター、あなたはインフレに対しては、どういう立場なんですか。これが2010年の大きな問題になると思いますか。

シフ:だからね、つまり、私は2010年にインフレが悪化すると確信してるんです。それが手に負えなくなるか、あるいは2011年か2012年までかかるかもしれないけれど、大規模な通貨危機が間もなくやってくるの私にはわかってます。金融危機なんかがかすんで見えほどのものになり、消費者物価は完全に常軌を逸したものになり、金利と失業もそうなります。

「オーストリア派」の経済学者ピーター・シフ、ラジオトークショー、「グレン・ベック」にて、2009年12月28日



 FRBが、QE2、QE3で金融緩和をすると、制御できないインフレになるという説です。

参照ください

日銀理論

日本でも同じです。

参照ください

 池田信夫 インフレは起こらないがハイパーインフレは起こる


 日本では、金融緩和はしてはいけない、効かないという説も、たくさんあります。

週刊ポスト12月14日号 
「アベノミクスで景気回復か地獄への転落か」

小幡績(慶大)

 デフレが貨幣現象だというのは、学会では否定されています。マネーの量を増やしただけでは、物価は動かない。また、世界の中央銀行の中では日銀の評価は高い。
…安倍さんの金融政策は、経済を破綻させるリスクがある。…おカネをいっぱい刷ると「モノ」の値段が上がるんじゃなくて、「資産」の値段が上がる。…実体経済へのプラス効果は非常に小さいので、持たざる者にとっては家が買えなくなり、家賃も払えなくなりマイナスです。
…資産インフレが起きると、現金に近い日本国債が売られることです。…国債の暴落リスクが出てきます。国債を大量に保有する銀行が破綻し、国有化される。
…財政危機から金融危機という、ヨーロッパで起きた流れが日本で同じか、それ以上の規模で起こることを憂慮しています。



朝日新聞H24.12.9
上野泰也 みずほ証券

マインドコントロールのようなインフレ期待で物価が上がるというのは幻想だ。円の信用が失われ、金利も急上昇して財政危機に陥りかねない。人口減少を食い止めて成長産業を興すべきで、それは政府の役割だ。



 一方で、学会では否定されている??そうですが、下記の先生は、金融緩和を支持しています。

日経H25.1.16『大胆な金融緩和 一致』

 4月8日に任期満了を迎える白川方明日銀総裁の公認選びが本格化した。・・・デフレ脱却に向け、大胆な金融緩和が必要との意見で大筋一致した。

金融専門家会合




読売新聞H24.12.5
若田部昌澄(早大)『金融緩和でデフレ脱却』

…デフレを脱却し本来の成長軌道に戻すため、金融政策などを駆使したリフレーション政策をとるべきだ。
リフレ政策については、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン博士の著名な論文「日本が陥った罠」が論点を整理している。①ゼロ金利下では、単純な貨幣数量説に基づく金融政策は効果がない。単に資金を供給するだけでは物価は上がらない。②だからインフレ目標でインフレ期待を高めるのが有効。③補助的な手段として財政政策もある-というものだ。

日銀の政策は①にとどまっている。金融緩和が効かないと言っているだけだ。②に踏み込んだ自民党の安倍総裁の方向性は正しい。長期国債を買うとか、外債を買うとかといった手段は日銀に任せるべきだが、政府と日銀が政策協定(アコード)を結び、インフレ目標を共有することは絶対必要だと思う。




同書では、ほかにも、このような説を唱える人が紹介されています。

…金融経済学者として有名で、 FRB の歴史にも詳しいアラン・メルツァーは2009年5月3日に「ニューヨークタイムズ」紙に寄稿して恐ろしげなメッセージを出した。

FRB が左右する金利はゼロ近い。そして銀行準備金の急増 -FRB による国債や住宅ローン購入で生じたもの-は、このままではまちがいなく激しいインフレをもたらす。(中略)我が国のように巨額の財政赤字、マネーサプライの急増、持続的な通貨下落の見通しに直面した国で、デフレを経験した国はない。こうした要因はインフレの先駆けなのである。

 でも、彼は間違っていた。この警告から2年半後に FRB の左右する金利は相変わらずゼロ近い。 FRB は国債や住宅ローン購入を続けていて、銀行準備金を増やし続けている。そして財政赤字が巨額のままだ。でもこの間の平均インフレ率はたった2.5%…。




とはいえメルツァーの警告は、なかなかもっともらしく聞こえますよね?

 FRBがやたらにお金を刷り-というのもざっといえば、 FRB は国債や住宅ローンを買うのにお金を刷るからだ。連邦政府が1兆ドルを超える赤字支出をしているのに、なぜインフレが急上昇していないんだろうか。

 答えは不況の経済学にある。特にすでにおなじみになったと願いたい「流動性の罠」の概念にある。…「流動性の罠」にはまっていなければ、確かにお金をたくさんすれば本当にインフレになる。でも罠にはまっていたらそうはならない。実は FRB が刷るお金の量は、ほとんどどうでもよくなる。





流動性の罠については、こちらをご参照ください。

参照ください

岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1
岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その2
岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その3
岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その4



 また、金利を上げろという説もあります。

たとえば、シカゴ大の ラグラム・グラシャンは「フィナンシャルタイムズ」紙に「バーナンキは超低金利時代を終わらせなくてはならない」と題する記事を載せた。その中で彼は低金利が「リスクの高い行動を招き、資産価格を高騰させる」と警告した。

…要するに、現在の雇用なき回復が示唆しているのは、アメリカが根本的な構造改革を行ってサプライサイド(供給側)を改善しなくてはならないということだ。金融セクターの質、その物理的インフラと人的資本は、全て大規模で政治的にもむずかしい改革が必要だ。もしそれを目指したいなら、惨劇に繋がったのと同じ金融政策を採って不景気前の需要パターンを復活させようとするのとは懸命とは言えない。

…特にラジャンの議論は、ジョセフ・シュンペーターの悪名高い一節を忠実になぞっているのだ。

…ここで分析した2例だけではなく、あらゆる場合に回復はひとりでにやってきた。…我々の分析を見ると、回復がしっかりしたものであるのはそれがひとりでにやってきた場合だけである。

…この学派は要するに、不況で起こる苦しみはよいもので自然であり、それを解消するようなことをやってはいけないと主張する。

…もう一つ別の説明を追加してみよう。オーステリアン(緊縮論者)たちの求めるもの-雇用創出よりは財政赤字に注目、インフレのかけらですら偏執狂的に抑えようとし、大量失業に直面しても金利引き上げを求める。



 日本でも、同じ議論があります。

(1)

読売新聞H24.12.5 
河野龍太郎BNPパリバ証券「潜在成長率引き上げを」

 …金融・財政政策の本質は、所得の先食い、需要の前倒しでしかない。マクロ安定化策だけで豊かになった国はいない。…低成長社会を認めたくないので、即効性を求め、政治は金融、財政政策で対応しようとして事態を悪化させてきた。



(2)

参照ください

内需刺激へ金利正常化を? 金利UP?の主張


 前回と今回、2回にわたって取り上げてみましたが、議論の本質は、洋の東西を問わず、同じようです。





theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

洋の東西を問わず、同じ

<洋の東西を問わず、同じ>


さっさと不況を終わらせろさっさと不況を終わらせろ
(2012/07/20)
ポール・クルーグマン

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 この本を読むと、アメリカも緊縮財政派(彼はオーストリア学派と表現)がおり、財政出動派がおり、金融緩和派がおり、金利引き上げ派がおり・・・結局、論じられていることは、日本と同じだということが分かります。民間エコノミストから、経済学者まで、まあ、様々な意見の対立があります。
 
 彼と同じ立場に立つ、日本人の学者もいます。

 クルーグマンは、ミクロ経済学(ヒトは合理的)をベースにしたマクロ経済学について、全く信用していません。

<新古典派「最先端モデル」VSニューケインジアン>

吉川洋(東大)『木を見て森を見ない経済学は有害』週刊ダイヤモンド2012/7/21

…経済学の流れを大まかに振り替えると、戦後から1960年代までは、国家などの経済全体を扱うマクロ経済学と、個人や企業などの個々の経済活動とそれらからなる市場を扱うミクロ経済学の二刀流でした。

…それが70年頃から世界の経済学は大きく変わりました。…「新古典派」的な経済学が主流になったのです。
…現在主流の新古典派経済学はそもそも方法論的に間違っているのです。典型的な主流派の主張はマクロ経済学とミクロ経済学は一つであり、基礎となるのはミクロ経済学の価格や市場のメカニズムだというものです。

…新古典派は人々や企業は合理的戦略的に行動し、その結果経済は最適化されると仮定します。“市場経済は基本的にうまくいく”という考え方が強いため、問題を問題として認識しない。例えば、不況の状態も景気循環の一課程として“最適”であり問題ではないという考え方です。

…主流派の経済学は個々の企業や消費者の行動を詳細に分析し、それを拡大して全体に当てはめるという、逆のことをやってきた。まさに木を見て森を見ずです。一般の人々が経済学に疑問を持つのは当然です。



 さて、クルーグマンの書では、どのように論じられているのでしょう?はっきり言ってむちゃくちゃに批評されています。

 マクロ経済学は1940年代に大恐慌への知的な対応の一部として独自の分野としての成立を見ました。当時、マクロ経済学という用語は、あの経済的な惨劇の再現を防ぐと期待された知識と技能の集積を指していたのです。

 この講義の私の主張は、この当初の意味でのマクロ経済学が成功したということです。不況予防という中心的な課題は、あらゆる実務的な目的においては解決されており、実際にも過去数十年にわたり解決されていたのです。

ロバート・ルーカス、アメリカ経済学会会長演説2003年



2003年、リーマンショック前の演説です。クルーグマンは、こう言います。

 いまのぼくたちの知っていることから見れば、ロバート・ルーカスによる不況など過去のものだというこの自信たっぷりの宣言は、目を覆いたくなるイタい発言のように思える。実は、ぼくたちの一部にとっては、発言当時からすでにかなりイタい発言としか思えなかった。

…1970年代と、1980年代の相当部分に渡ってマクロ経済学に君臨したとさえいえる巨人だったノーベル経済学賞受賞のルーカス…多くの主導的な経済学者たちは金融規制緩和が経済をますます危機に対して弱くしてしまっているのに、さらに規制緩和を支持し続けた。そして危機が起こってしまったら、余りに多くの高名な経済学者たちが、有効な対応策全てに対し強力かつ無知な形で反対論を展開した。悲しいかな、そうした無知で破壊的な議論を展開している1人がほかならぬロバート・ルーカスだ。

…一部の有力なマクロ経済学者…彼らは何十年もかけて、経済の仕組みについての見方を推し進めてきたが、それが最近の出来事で完全に否定されてしまい、それでも同じように自分たちの判断ミスを認めたくはないのだ。でもそれだけじゃない。自分たちの間違いを擁護する中で、彼らはまた、目下の不況に対する有効な対応策を潰すのに大きな役割を果たしてしまった。



 この、経済学の流れについては、下記を参照ください(時間があれば、カテゴリー「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」について、全て見ていただけるとありがたいですが、ちょっと専門的になり、難しいです)。

参照ください

マクロ経済学のミクロ的基礎づけその3/5
マクロ経済学のミクロ的基礎づけその4/5
マクロ経済学のミクロ的基礎づけその5/5

 従来ケインズモデルは、将来予測(財政出動しても、どうせ将来増税されるだろうと、財布のひもを引きしめるなどの、行動)を加味しておらず、1970年代後半に、ルーカスが批判しました。
 近年標準になっているのは、動学的確率的一般均衡(DSGE)モデルです。「市場の不完全性は一切存在しない」と「仮定」したモデルです。

 「へ?」というのが、クルーグマンの立場です。

 クルーグマンの書では、このあたりの解説が下記のようになっています。

 …1960年代のマクロ経済学者たちは、不景気とはどういうものかについて共通の見解を持っており…哲学的な違いじゃなかった。でもそれ以来マクロ経済学者者たちは二つの大きな派閥に分かれてしまった。「塩水派」経済学者(おもにアメリカ海岸部の大学にいる)は景気というものについて、おおむねケインズ派的な見方をしている。そして「淡水派」経済学者(おもに内陸部の大学にいる)はこの見方がナンセンスだと考える。

 淡水の経済学者は基本的には純粋自由放任主義者だ。あらゆるまともな経済分析は、人々が合理的で市場が機能するという前提から始まるというのが彼らの前提だ。彼らの見方では、正当な経済学においては総需要不足等というものは起こりえない-それは現実にも起こらない。

 …1970年代には、主導的な淡水派マクロ経済学者ノーベル賞受賞者のロバート・ルーカスは不景気は一時的な混乱から生じるのだと論じた。…そしてルーカスは景気循環に抵抗しようという試みは全て逆効果だと警告した。能動的な政策は、混乱を深めるだけだという。

 有名な話だが、ロバート・ルーカスは1980年に、セミナーの参加者たちは誰かがケインズ的な考え方を発表すると「ひそひそ話とくすくす笑い」を始める…ケインズやケインズを持ち出す人はすべて、多くの教室や専門紙からは、出入り禁止となった。

 だが反ケインズ勝利宣言をしている間にも、その当人たちのプロジェクトは破綻しつつあった。新しいモデルは、結局は景気の基本的な事実を説明できなかった。…今さら戻ってきてケインズ経済学が実はかなり有力らしいという単純な事実を認めるわけにはいかなかった。

 そこで彼らは…ますます不景気やその仕組みについての現実的なアプローチから離れていった。マクロ経済学の理論面のほとんど、現在は、「リアルビジネスサイクル」理論なるものに支配され…この理論はかっこいい 数学モデルが使えるのでリアルビジネスサイクルの論文は昇進と終身教授職への近道となった。そしてリアルビジネスサイクル理論家たちはやがて十分な勢力を持つようになり、今なおこれとは違う見方をする若い経済学者は、多くの主要大学にはなかなか就職できない。

 さて淡水経済学者たちも…一部の経済学者たちはルーカスプロジェクトの明らかな失敗を見て、現在はケインズ派のアイデアをもう一度見直して、化粧直しをした。「新ケインズ派」理論が、 MIT 、ハーバード、プリンストンなどの学校-そう、塩水近くや、政策立案を行う FRB や国際通貨基金(IMF)等の機関におさまった。

 …結果としてクリスティ・ローマーや、それをいうなら、ベン・バーナンキといった新ケインズ派は危機に対して有益な対応を提案できた。特に FRB による大規模な融資増と、連邦政府による一時的な支出増大がそれに当たる。残念ながら淡水派についてはそういうことは言えない。

 2009年初頭に、シカゴ大学の有力な経済学者2人、ユージン・ファーマとジョン・コクランは、なぜ財政刺激策がまったく効果がないかについてまるっきり同じ議論を展開した。…ハーバード大学のロバート・バローは、多くの刺激策は民間消費と投資の落ち込みで相殺されてしまうだろうと主張し…ロバート・ルーカスは刺激策など役に立たないと論じた…。

 …例えばコクランは、刺激策など「1960年代以降に大学院生が教わった内容には一切含まれていない。それら(ケインズ派の発想)はおとぎ話であり、まちがっていることが証明された。…」

…ルーカスはオバマの主任経済顧問で、大恐慌研究家として傑出しているクリスティ・ローマーの分析を「クズ経済学」だと一蹴…迎合屋といってローマーを非難した。…いま挙げた経済学者はみんな、政治的には保守派だ。こうした経済学者は実質的に共和党の提灯持ちをしていたわけだ。でも、もし経済学業界全体が、過去30年にわたりこれほどひどい迷子になっていなければ、彼らはそんなことを言いだそうとはしなかったはずだし、あれほど無知をさらけだしたりもしなかっただろう。

 …危機開始から4年たった今、財政政策に関するすぐれた研究(そのほとんどが若い経済学者によるものだ)がますます増えつつある-そうした研究は概ね、財政刺激は有効だと裏付けるもので、暗黙にもっと大規模な財政刺激をすべきだと示唆している。



 リーマン・ショック後の、財政政策と、金融政策は、下記をご覧ください。

参照ください

マクロ経済学のミクロ的基礎づけその5/5



FRB(ベン・バーナンキ議長、元プリンストン大学教授)の金融政策については、下記をご覧ください。

参照ください

日銀理論



 じゃあ、「新古典派『最先端モデル』VS ニューケインジアン」は、どっちが正しいの?となりますが、どっちも成り立ちます。前提となる「仮定」次第だからです。・・・だから、経済学は信用されないのか、はたまた、「この場合においては」と、正直なのか・・・

 ケインズは、モデルについてこのように述べています。

根井雅弘「20世紀をつくった経済学」ちくまプリマ―新書 2011

 経済学は、現代世界に適したモデルの選択技術と結びついたモデルによって志向する学問です。それがそうならざるをえないのは、典型的な自然科学とは違って、経済学が適用される素材が多くの点で時間を通じて同質的ではないからです。


 つまり、現実世界は多様であり、時間的にも、空間的にも、同じものなど存在しないということですね。

 モデルの目的は、半永久的ないし相対的に不変の要因を一時的ないし変動的な要因から分離することによって、後者について思考し、またそれが特定の場合において惹起(じゃっき)する時間的継起についての論理的な方法を開発することなのです。

 現実世界で、必要でないものや、一時的な要因などを捨象することによって、本質をあぶり出し、その本質について考え、相次いで起こる現実(例えば、リーマン・ショックや、EU危機)について論理的に考えようというものです。だから、道具なのです。

同じ表現が、ハロッドへの書簡として述べられています。

吉川洋『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』ダイヤモンド社2009

 経済学は、理論モデルを通して考える科学と、現実の世界を理解するうえで適切なモデルを選ぶ技術がむすびついた学問だ。経済学はこうしたものにならざるをえない。なぜなら自然科学と違って分析対象が多くの点で時間とともにその性質を変えてしまうからだ。

 理論モデルの目的は、ほぼ一定の要素を、一時的あるいは変動する要素から分離することにより後者について論理的に考え、またそうした要因がそれぞれ個別のケースでどのように現れてくるのかを理解する道順をつけるところにある。優れたエコノミストがほとんどいないのは、注意深い観察を通して適切な理論モデルを選ぶ能力を持つ人が、特に専門的な技術を必要とするわけではないにもかかわらずほとんどいないからだ。


江口允崇(慶大)
日経「やさしい経済学」

 経済学というのは、前提によって結果が全く変わる。伝統的モデルにしろ、DSGEモデルにしろ、完璧なモデルなど存在しない。有用な点と間違っている点があるので、使いようが肝心なのである。


 

 軽貨物車と、高級セダンのちがいです。街中の配達には、小回りが利く軽自動車が有利ですし、高速道路を使ったドライブには、高級セダンが楽です。どっちも「必要」ですよね。

 洋の東西を問わず、同じなんですね。

渡辺努『デフレ是正へ新たな手段』日経H22.9.27 

…金利ゼロの世界での金融政策は中央銀行にとって未踏の領域であり、試行錯誤で進まざるを得ない。未踏の領域で当惑しているのは研究者も同じであり、金利ゼロの経済でいかにして物価を制御するかについてコンセンサスはいまだ得られていない。

…ポール・クルーグマン米プリンストン大学教授はゼロ金利の世界を、常識と非常識が交錯する「アリスの『鏡の国』にたとえた…。







theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

マクロ経済学のミクロ的基礎づけ 教科書編 その2

<マクロ経済学のミクロ的基礎づけ 教科書編 その2>

<大学レベルと、世間知の乖離(かいり)>

高校→大学 経済学 正.jpg


<大学の経済学の様子>

 大学生の入門編や、例えば文学部の生徒向けに経済学を講義する場合、入門編のマクロ経済学の教科書が使われます。
 ためしに、書店の経済学のコーナーを除いてみてください。入門編教科書・入門編経済書は、ズラーっと並んでいます。
 ですが、これらの教科書は、いわゆる「どマクロ」で、IS-LM分析程度までしか扱われていないことが分かると思います。入門の入門です。

 IS-LMは、今まで見てきたように、「価格が硬直的」な世界を前提にしたモデルです。ですから、価格が持続的に下落する状態「デフレ」に適用させることができません。

 余談ですが、このデフレについて、さらに、めちゃくちゃなことが、主張されています。 「デフレ=スパイラル」というものです。注)いちばん最後を参照ください。

 また、Y=C+I+G(閉鎖経済)を考えた場合、Gの支出を増やせば、Yはどんどん増えることになります(乗数効果もプラス)。Gを2倍3倍・・・に増やせば、不況(潜在GDPと現在GDPとの乖離)は、理論上あり得なくなります。さらに、時間の経過による、累積債務の問題を扱うことはできません。 

 未だにIS-LMが全盛なのは、公務員試験や、中小企業診断士などの試験で、出題されるからです。簡単な連立方程式ですので、出題者も問題を作りやすい→教科書・参考書もそれに沿って作られる(売るため)→出題者も作りやすい・・・となっているからです。

 さらに、このモデルは、大学の講義時間の制約下、教員にも生徒にも「分かり易い」ということも、理由の一つです。政策実践を理解するにも、分かり易いし、入門編としても取り扱いやすいのです。
 大学の定期試験も作りやすい、出題しやすいので、テスト対策の「サルでもわかる?経済学入門書?」も多数出版されることになります。

 何度も言いますが、間違いではないものの、真の経済学を学ぶために必要な「玄関」みたいなモデルです。経済学のカン所、「完璧な経済学(モデル)」はないし、モデルが発展すればするほど、難しくなるということです。

DSGE モデル.jpg
DSGE(動学的一般均衡モデル)

 だから、上記に出てくる歴史的経緯から、「IS-LM」モデルだけの教科書:例えばサミュエルソンの教科書は、一世を風靡したものの、今では大学の図書館で埃をかぶっています。
 同じく、マネタリストや、新しい古典派の理論による「教科書」も、今では「?」となっていることが、お分かりになると思います。

 日本の、60歳代70歳代80歳代の方が書いた教科書や本なんて、悲惨なものです。マルクス経済学世代が、未だに大学の教授で残っています。もちろん、彼らの頭の中の枠組み(カテゴリー)では、現在の最新のモデルは「理解しようにも、理解できない」領域になっています。

 そうすると、竹中・白川(日銀総裁で、フリードマンに師事)吉野直行世代の本・考え方も・・・・白川さんがなぜ、「デフレは貨幣政策ではなく、構造改革により解決するものだ」と主張し続けるのか、吉野直行(慶大)が「『国債を、家計に例えると』という風に解説するようになったのは、私の進言」というのも、なんとなく理解できそうですよね。吉野先生には、ISバランス論の質問にも答えてもらえなかったのですが・・・

<上級教科書>

 今、大学の講義レベルで使われている、DSGE(動学的一般均衡モデル)の教科書は、マンキュー・スティグリッツ・ローマー(ニューケインジアン)などの、教科書です。日本人が書いた教科書では、齋藤誠・岩本康志・大田總一・柴田彰久のマクロ経済学があります。
 上級と言っても、マンキューは本当に親切に書かれています(個人的には一番のおすすめです)。スティグリッツは、私は持っていませんが、有名です。ローマーは、最新版(2010年)をお勧めします。
 日本では、私とはちょっと見解が違うのですが、齋藤誠版があります。


http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-%E7%AC%AC2%E7%89%88-II%E5%BF%9C%E7%94%A8%E7%AF%87-N%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC/dp/4492313346/ref=sr_1_9?ie=UTF8&qid=1307326581&sr=8-9

教科書マンキュー.jpg
マンキューマクロ経済学(第2版)II応用篇 [単行本]
N・グレゴリー・マンキュー
(著), 足立 英之 (翻訳)

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%84%E5%85%A5%E9%96%80%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-%E7%AC%AC3%E7%89%88-J-%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%84/dp/4492313486/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1307326920&sr=1-1
教科書1.jpg
スティグリッツ入門経済学 <第3版> [単行本]
J.E.スティグリッツ (著), C.E.ウォルシュ (著), 藪下 史郎 (翻訳), 秋山 太郎 (翻訳), 蟻川 靖浩 (翻訳), 大阿久 博 (翻訳), 木立 力 (翻訳), 清野 一治 (翻訳), 宮田 亮 (翻訳)

http://www.amazon.co.jp/%E4%B8%8A%E7%B4%9A%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-%E3%83%87%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%89-%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC/dp/4535554935/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1307327216&sr=8-2
教科書2.jpg
上級マクロ経済学 [単行本]
デビッド ローマー (著), 堀 雅博 (翻訳), 岩成 博夫 (翻訳), 南條 隆 (翻訳)

http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-New-Liberal-Arts-Selection/dp/4641053723/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1307327638&sr=1-2
教科書3.jpg
マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection) [単行本(ソフトカバー)]
齊藤 誠 (著), 岩本 康志
(著), 太田 聰一
(著), 柴田 章久 (著)

 これらの教科書は、「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」に基づいて書かれています。
ソロー成長モデル、ラムゼーモデル、RBG(リアル・ビジネス・サイクル)モデル、新成長モデルなどがふんだんに扱われています。

 これらの教科書は、「長期分析」と「短期分析」に分けて説明しています。この「長期」「短期」は、昔の新古典派の「短期」「長期」とは違い、「統合した」モデルです。
 RBC(リアル・ビジネス・サイクル)モデルの登場により、経済成長と、経済循環(景気の変動)を分けるのではなく、経済成長モデルをベースとし、経済循環を述べる理論が標準となったことが分かる教科書です。

NK RGB 短期 長期.jpg

 例えば、このように、長期分析と、短期分析にそれぞれ適した理論を用い、説明しています。現在の経済学のスタンダードになっています。

 ちなみに、今の学生は、「新しい古典派」も「ケインズ経済学」も「聞いたことがない」人たちです。教科書がそうなっているからです。

 この事実を知るだけで、「世代間のカテゴリー」が全然違うことが分かります。隔世の感というものです。世代による理解の仕方(カントの言うUnderstanding=悟性)が全然違うのです。

 さらに、今の30代の学者さんは、最先端(院生レベル)を走っているのです。

http://www.amazon.co.jp/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E2%80%95%E5%8B%95%E5%AD%A6%E7%9A%84%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%9D%87%E8%A1%A1%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E5%85%A5%E9%96%80-%E5%8A%A0%E8%97%A4-%E6%B6%BC/dp/4492313702/ref=cm_cr_pr_product_top
教科書4.jpg
現代マクロ経済学講義―動学的一般均衡モデル入門 [単行本]
加藤 涼 (著)

 学部生レベルと、大学院生レベルでは、もう質的にも、量的にも明らかに差が付きすぎています。これら最先端モデルについて、まだ、一般的なレベルで説明した入門本や、教科書はありません(私の知る範囲ですので、事実ではないかもしれないです)。

 今の30代の研究者の方々が、教科書を書いた時、それが、新しい経済学が一般に普及する時代だと思われます。ただし、それらの方が「経済政策」に影響を及ぼす世代になるには、まだまだ時間がかかります。

 デフレは「構造改革で克服するもの」・・・残念ながら、未だにこの考え方しかできない世代が、言論や政策の中枢にどっかと腰を据えているのが現状です。

 理論の中身ではなく、「年功序列タテ社会」による実践の弊害は、こんなところにもあるのです。

経済学→政策2

注)

 この「デフレ=スパイラル」という言葉は、高校の教科書・資料集・参考書・用語集などに、当然のように、出てきます。

文英堂『理解しやすい政治・経済』2010
 しかし1990年代の日本経済には、デフレと不況が悪循環するデフレ=スパイラル(筆者注 太字で赤字)とよばれる現象が見られるようになった。これはデフレで物価が下落して一方で、企業の利益の減少→人員整理(リストラ)、給与の削減→労働者の所得の減少という形で、需要が回復せず、さらなる売上げの減少が、また所得の減少を招いて、需要の減少と物価下落の連鎖が断ち切れない状態をいう。
 

 こんなもの、経済学(モデル)では、示すことさえできない、「トンでも論」です。

(1)デフレで物価が下落
    ↓
(2)企業の利益の減少
    ↓
(3)給与削減
    ↓
(4)所得減少
    ↓
(5)需要減少
    ↓
(6)デフレで物価下落→(1)へ
 

 これを、大学初心者レベル「どマクロ」で説明しようとします。

需給曲線 需要 供給 曲線 1

 通常は、需給曲線はこのように描かれますが、デフ=レスパイラルの場合、 「物価が下がり、需要(量)が減少する」のですから、需要曲線は、右上がりになります。通常は、「物価が下がると、需要(量)が増える」です。

 また、供給曲線は、「物価は下落する」ので、強い右上がりになります。「物価が下落しにくい=価格が硬直的」なら、水平に近くなりますが、逆ですね。

デフレスパイラル1.jpg

 さて、ここで、「需要不足」だから、総需要拡大政策を採用します。財政出動です。政府の財政出動により、需要曲線は、右にシフトします。

デフレスパイラル2.jpg

 そうすると、物価も下落し、GDP(量)も下落するという、「トンでも」状態になることがわかります。

「デフレ=スパイラル」の定義通りに、高校・大学初心者レベルで分析すると、財政出動は、デフレをさらにすすめ、GDP減(不況になる)状態を加速することになるのです。リーマン・ショック以後の、各国政府による財政出動は、「やってはいけない最低政策」だったことになります。

「デフレ=スパイラル」論なるものが、経済学的なモデルのない「トンでも論」だということが分かります。

 と言うことは、大学センター入試試験には、絶対に出ないので、安心して下さい。

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genre : 政治・経済

マクロ経済学のミクロ的基礎づけ 教科書編 その1

<マクロ経済学のミクロ的基礎づけ 教科書編>

 世の中には、たくさんの経済書があふれ、経済を語る方は、テレビにも出版界にもあふれています。ですが、その方たちの語る経済は「トンでも論」ばかりです。「貿易黒字はもうけ、赤字は損」など、その典型的な例です。

日経H23.6.1 『生産回復、円高圧力へ』
…日本の貿易収支は4月に赤字に転じたが、「…貿易収支の改善によって円高圧力が高まる」(三菱東京UFJ銀行の内田稔シニアアナリスト)との観測が広がっている。

『マーケットウオッチャー』
…米低金利政策の長期化観測によるドル安の流れに日本の貿易収支の改善が加われば「年後半には80円を超える円高水準が定着する」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木金融債権為替調査部長)との声もある。


 アナリストも日経もやっぱりトンデモ論を述べています。内田稔氏の、詳細に述べられているトンデモ論は、下記を参照下さい。力説しています。

http://www.bk.mufg.jp/report/bfrw2011/Weekly110516.pdf#search='三菱東京UFJ 内田稔' 

 これらは、「まともな(難しくない、拙著・このブログ程度の、どマクロ)経済学」が、日本の中学や高校で教えられていないことにその原因があります。「経済は必修」なのに、教える教員が「分かっていない」のです。

 現実には、高等学校の地歴公民科教員で、「分からない」から、「経済を、勉強しよう」という人は、本当にごく少数です(でもその少数の方は、何でも勉強しようと、とても熱心に勉強しています。頭が上がりません。)。
「分からない」のに、「分からないまま」で満足しています。一般的に、勉強家の教員は少ないのです。

 ためしに、拙著をごく身近の政治経済を教えている先生に薦めたことがありますが、「政治経済関係の研究会」に所属している方でも、遠慮?して買いません。それなのに、「経済は難しい(クルーグマンの文庫が難しすぎてわからない)」と言っているのですから・・・。

 高等学校は、それでもまだいいほうです。経済学部出身の教員が、わずかながらいるからです。

 中学校の社会科教員など、もっと悲惨です。教員養成系大学を卒業した方が大半だと思いますが、経済学なんて、その養成課程で、まともに取り扱われていません。超マイナーな領域で、しかも必修でもありません。知らずに卒業し、ですから、「貿易黒字の儲けは・・・」と日本全国の中学校で教えられているのです。

 その結果が、冒頭のように、経済新聞記者や、エコノミストでさえ「貿易黒字はもうけ、赤字は損」と育てられて、それをメディアで発表します。そうすると、ますます世間には、「貿易黒字はもうけ、赤字は損」と広められてしまいます。

 少しずつ、経済学的な理解が広まらないと、政策立案に、「勘違い論者」の意見が加わってしまいます。

 日銀審議員でさえ、他国の中央銀行の人選とは違いますFRB(米)やECB(欧)は、大学院で経済学を学んだ、「どマクロ」以上のモデルが、がっちり頭の中に入っている専門家です。財界出身者枠や、女性枠など、日銀の基準は、官僚制思考=公平・平等そのものです。経済専門家が入っているわけではありません。
 
 現場の教員、教科書・資料集編集者にとっては「間違いを指摘」されるのは辛いこと、「耳の痛いこと」なのでしょう。私も逆の立場なら、「辛い」です。でも、前進するには、痛みは避けて通れません。

<経済教育の壁>

 イメージは、こうなります。

高校→大学 経済学 正.jpg


 正しいのは、青部分ですが、これが最先端過ぎて、日本の学者が書いた教科書がほとんどないレベルです。

<中・高レベルの蹉跌(さてつ)>

 新井明 東京都立小石川中等教育学校 『中高の経済教育は今』日本評論社『経済セミナー』2011年4・5号
P 63~


 世の中には経済の専門新聞が存在し、経済に関する啓蒙書が多く発行されている。…経済は大事なことはよくわかる。しかし、高校までの経済の学習はよくわからなかったし、興味もわかなかった。
…このような高校の教育と大学の教育の不幸なギャップは、経済学以外でもないことはない。しかし経済ないし経済学に関してはこの種の話はそれほど珍しい話ではない。

…日本の経済教育は、中学公民で全員が経済を学ぶことになっている。高校でも「現代社会」の経済分野もしくは「政治・経済」の経済分野で全員が経済を学ぶことになっている。つまり国民全員が何らかの形で経済を学ぶことになっている。

…全国の社会科、公民科教員の中で経済を教えることに必要は感じていても、自信をもって教えると答えられる教員はそれほど多くないという実態があるからである。
その理由の一端は、高校の公民科「政治・経済」担当の教員でも、経済学部出身の教員が少数であることに由来する。

―どこまで教えるべきか―

高校の「政治・経済」や大学入試問題では必ず出てくる。国民所得の三面等価。これを単なる言葉の暗記ではなく、経済の仕組みを理解するために教えるとすると何が必要になるか。それには、総生産(総供給)=総支出(総需要)=消費+投資+政府需要+(輸出―輸入)という式を理解させ、それを踏まえた所謂マクロバランスのまで持ち込まないといけなくなる。ところが、野中他(2007)以外の教科書はこの式を掲載していないし、教員もそこまでしっかり経済学を学んでいない。そうするとせっかくの概念が全く役立たたないままで暗記項目として放置されてしまうのである。

2番目は、国際経済の場面で登場する国際収支表。経常収支、資本収支、外貨準備増減という言葉は覚えた。この3つを足すと0になると教わった。でもそれはどんな意味を今の日本経済で持つか、そこまでは生徒は教えてもらえない。なぜなら教える先生がなぜそうなるのがきちんと理解していないからである。また、本当に理解させようと思えば、国際収支表の作成方法や複式簿記の知識が必要になる。そこまで教える必要があるのか、それを教えるのが勇気なのか、教えないのが勇気なのか、迷うところである。

…教科書に載っている事項を、社会を見るために本当に役立つたい、暗記科目社会科を脱して日々の生活に役立つ授業をしたいと願っている現場教員にとってはこんな時こそ経済学の専門家が手を差し伸べて欲しいと思っているはずなのだ。


 まず、はっきりさせておきますが、理由は「教科書・資料集」がだめなのです。

(1)教科書・資料集が間違い
    ↓
(2)それで学んだ教員が教壇で教える
    ↓
(3)だめな教科書で、だめな生徒が育つ
    ↓
(4)それで学んだ教員が教壇で教える
    ↓                 ↓
(5)日本全体でだめ知識広がる (3)だめな教科書で、だめな生徒が育つ
    ↓                 ↓
(6)   冒頭の日経記者・エコノミスト


 この「だめ」というのは、 「正確な記述が足りない」のはもちろん、教科書・資料集自体がでたらめなのです。

ブログカテゴリ:教科書の間違い・資料集の間違い 参照
 
 なぜでたらめかと言うと、上記(2)(4)の先生が、教科書を書いているからです。じゃあ大学教員は?監修しているだけで、実際には書いていません。

 野中他(2007)の教科書は、「桐原書店」の教科書のことですが、これは大学の先生が書いている教科書で、間違いは全然ありません。もちろん、三面等価など、完璧に扱っています。

桐原書店 教科書『新政治経済』平成19年 p114・115         桐原書店 三面等価
                     
 そこまで教える必要があるのか、それを教えるのが勇気なのか、教えないのが勇気なのか、迷うところである。

 教えないから、間違った大人が育つのです。

 私が「必要だ」としているのは、難しいレベル(どマクロレベル)でもありません。初歩の初歩、基礎の基礎レベル(三面等価など、アルファベットのABC相当です)を、全員に、経済分野の冒頭で扱えば、十分です。

 教科書に以下の図を載せれば、いっぺんに理解できます。(三面等価)


2009 名目GDP 内閣府 貿易黒字版.jpg

三面等価 汎用.jpg

 そうすると、上記の表で、S=I(企業)+G-T(政府)+EX-IM(外国)であることがわかります。そこから、以下のことが分かります。

「国債は政府の借金=貸しているのは国民(国民の財産)」
「貿易黒字=海外へのお金の貸し出し」


 ついでに、国際収支表の、「貿易黒字=海外へのお金の貸し出し」部分、つまり、

「経常収支=広義資本収支(資本収支+外貨準備増大+誤差脱漏)」も載せれば、「貿易黒字=海外へのお金の貸し出し」を補強するには、十分です。

2009 国際収支表 シンプル

 2番目は、国際経済の場面で登場する国際収支表。経常収支、資本収支、外貨準備増減という言葉は覚えた。この3つを足すと0になると教わった。でもそれはどんな意味を今の日本経済で持つか、そこまでは生徒は教えてもらえない。なぜなら教える先生がなぜそうなるのがきちんと理解していないからである。また、本当に理解させようと思えば、国際収支表の作成方法や複式簿記の知識が必要になる

 こんな知識まで、生徒に必要だとは思えません(複式簿記は、商業科に通っている生徒なら、十分以上に理解できますが)。簡単に、左右対称の表を載せれば十分です。ただ、できれば、先生には、たとえ教えなくとも、カテゴリ:国際収支表の原則はさらっと学んでほしいのですが(これは教師用教科書指導書で十分対応できます)。

 実際に教科書・資料集に掲載されている国際収支は、次の通りです。

とうほう『政治・経済資料』2008 p214
教科書 国際収支表.jpg

 確かにAとBとCとDを足せば0になりますが。「なぜ?」と言われても、答えようがありません。こんな表を載せても、誰も理解できません。

 せいぜい、「美川憲一がパリで毛皮を買った」「松坂投手がスイスの銀行に預金口座を開いた」のは、①~⑥のどこに入る?
 などと質問するのがせいぜいです(実際にこの資料集には同じページにクイズとして載っています)。幹がなく、枝葉末節部分を説いているのです。

2009 国際収支表 シンプル

 このように掲載すれば、「経常収支≡資本収支+外貨準備+誤差脱漏」と一発で分かります。

「経常黒字は、外国へのカネ(資本)投資のことだ。外国にモノやサービスを輸出するよね。そうしたら、外国はドルやユーロや元で支払うよね。輸出企業は、円でもらいたいから、銀行が外国通貨を円に換えて、輸出業者に渡すんだ。だから、日本全体では、ドルやユーロや元が増えるんだ。これが資本(カネ)なんだ。上の国際収支表で赤になっている部分は、円ではなく海外の資本(カネ)が増えることなんだ。だからマイナスなんだ。

 外国の会社の株や、社債や、外国の国債や、通貨や、土地や建物が、増えることだね。これを海外資産と言うんだ。日本は、経常黒字が続いているから、海外資産の額も増え続けて世界一なんだよ。

 このように、経常収支黒字は、かならず資本収支赤字になるんだ。だから、黒字が減れば、赤字も減るんだよ。」

国際収支表→対外純資産 外貨準備強調

 こんなレベルで、十分です。

 ですが、このレベルは、絶対に必要です。難しい理論ではなく、「事実」ですので、誰も否定できません。なおかつ、「貿易黒字はもうけ、赤字は損」を完全に否定する部分です。以上の内容なら、詳しく説明しても、1時間(50分授業)あれば十分、2時間あれば相当詳しく説明できます。

<現場とかい離した教科書>

 高校の「政治・経済」や大学入試問題では必ず出てくる。国民所得の三面等価。これを単なる言葉の暗記ではなく、経済の仕組みを理解するために教えるとすると何が必要になるか。それには、総生産(総供給)=総支出(総需要)=消費+投資+政府需要+(輸出―輸入)という式を理解させ、それを踏まえた所謂マクロバランスのまで持ち込まないといけなくなる。ところが、野中他(2007)以外の教科書はこの式を掲載していないし、教員もそこまでしっかり経済学を学んでいない。そうするとせっかくの概念が全く役立たたないままで暗記項目として放置されてしまうのである。

 といいつつ、実は、めちゃくちゃに難しいISバランス理論も、教科書に掲載されています。(カッコは筆者挿入)。

清水書院『高等学校 新政治・経済 改訂版』H21.2.15 p146

…国内で生産されたモノが国内で消費(C)されず、また投資(I)されることもなく貯蓄(S)されると、経常収支が黒字となる…。…一方…貯蓄(S)が過少となっている国は、他国から流入する大量の資金(貿易赤字=資本収支黒字)によって投資(I)をまかなう必要がある。つまり、経常収支の黒字・赤字は、国際経済の問題であるとともに、国内経済の反映であるととらえることが重要であり、貯蓄(S)や投資(I)・消費(C)・財政(G)支出を含めた一国経済の経済バランスの均衡(ISバランスのこと)をはからなければ・・・。
 

(かっこ)の捕捉で、ようやく三面等価図を連想できますが、消費・投資・貯蓄・・・といきなり出てきてます。 ISバランスについて、予め(あらかじめ)記述しているわけでもない教科書に、いきなり国際貿易(アメリカとの経済摩擦)の説明文で、上述の記述を登場させています。こんなの、現場の先生が分かるわけがありません。しかも、

「総生産(総供給)=総支出(総需要)=消費+投資+政府需要+(輸出―輸入)という式」 

 どころか、貯蓄Sまで出てきます。その貯蓄Sは「株式購入・国債購入・タンス預金・財布の中身・銀行預貯金・民間保険金・・・・が入る」なんて、現場の教員にはますますわけが分からなくなる概念が含まれています。この説明を端折って(はしょって)、いきなり、上記記述がでてくるのです。

 さらに、ワルラス・ジェボンズ・メンガーという、高校生には全く必要のない経済学者の名前まで、ゴシック体(太字)で記入されています。書かれていれば、教員としては触れざるを得ません。

清水書院『高等学校 新政治・経済 改訂版』H21.3 三訂版

…資本主義を否定して社会主義を唱える運動や理論(科学的社会主義)がさかんになったが、その中心となったのはマルクスやエンゲルスである。一方、資本主義の基礎となる市場経済が経済的には最も効率的であるとする理論がジェヴォンズ・ワルラス・メンガー 脚注)らにより主張された。

脚注)
 ジェヴォンズはイギリス、ワルラスはフランス、メンガーはオーストリアの経済学者。彼らはスミスの労働価値説とは異なり、主観的な効用が価値を決定するという考えにもとづき、市場経済の効率性を厳密に証明する理論を作り上げた。
 

 「教員もそこまでしっかり経済学を学んでいない」のを分かっているはずなのに、急にこんなハイレベルな、まるでオタクのような記述を教科書に載せています。「労働価値説」「主観的な効用」をどうやって説明するのでしょう?

 この、教科書執筆者には、「私が書いた」と打ち明けられましたが、経済教育を普及しようとするあまり、オタク経済学を載せても、ますます「しっかり経済学を学んでいない」先生には「苦痛」です。

 経済学部出身の教員が暴走して、「これは経済学では大切なことだからあえて載せた」と、こんな記述をされても、現場は困るのです。実際に、この教科書の経済分野を扱ったことのある学校では、教えるのが難しすぎて、別な教科書に差し替えています。

高校教科書.jpg

 「間違いを載せて平気、オタク経済学は暴走する」で、トンでも教科書になっています。

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