<追記> なかなか、「ストック→フロー」が無理だと言うことを、理解していただけないようです。
三面等価をもう一度見て下さい。
生産=今年の生産物(←在庫も含む)
分配=今年の給与の総額=C+T+S(←今年のタンス預金も含む)
支出=今年の給与からの支出 今年新たに作ったもので、今年の給与をもらい、今年の給与から支払ったカネがGDP(フロー)です。
過去の「タンス預金」をどう使っても、「今年の生産物」「今年の給与」「今年の支出」にはならないのです。
過去のタンス預金(30兆円?らしいそうですが)を今年に回して使って、GDPが増えるのなら、日本人は、「過去の遺産」だけで、毎年30兆円分、食べていけることになります。まるで、30兆円の永久機関です。
<1400兆円の資産を消費に回せ?> 以前、藻谷浩介『デフレの正体』を取り扱った時に、1400兆円の資産(ストック)をGDP(約500兆円のフロー)の消費に回せというトンでも論について、扱いました。
P202ではどうすればいいのか
①高齢富裕層から若者への所得移転を
決して無理な話ではありません。14兆円というのは1400兆円超の個人金融資産のたった1%ですよ。毎年その額を使っても100年分の貯金があるのです。…なぜ彼ら富裕層は…目減りする金融資産をそのまま持ち続けていたのか。…彼ら自覚なき強者=高齢者富裕層から、若い世代への所得移転を促進すべきだと言っているわけです。
P214
…彼らが中心に保有している日本人の金融資産の1%、14兆円でも企業努力でモノ購入に向けさせることができれば、政府の景気対策の何倍もの効果があるのですよ。
P220
…ここでお話しているのは日本経済の活性化策、具体的には個人消費の増加策であって…高齢者が死蔵している貯金のいささかでも…消費に回れば、その分企業の売上が増え、まじめに働いている若者にも給料という形で分配されます。…自分の給料が上がれば絶対的な生活水準は上がります。 ブログカテゴリー 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 2010-08-05 2010-08-08 参照 これらの
「1400兆円の資産を、消費に回せ」論が、メカニズム的に不可能なことは、論じてきました。
ですが、三橋貴明「デフレ時代の富国論」 の書評を読むと、 「ストック」と「フロー」について、世間は、「誤解だらけ」なのが分かります。
http://www.amazon.co.jp/review/R3M4KPS6ZQ1OJB/ref=cm_cr_pr_cmt?ie=UTF8&ASIN=4828416293&nodeID=&tag=&linkCode=#wasThisHelpful ちなみに、この本は、日本の金融資産の「バランス・シート=ストック」について扱ったものだそうです。
この三橋貴明さんも、「消費に1400兆円が回れば」
などと、語っています。
http://blogs.yahoo.co.jp/takaakimitsuhashi/31767194.html例えば、家計が本当に1400兆円の金融資産を使い果たすと、非金融法人企業(一般企業)の資産が1400兆円増えるだけなのです。と言いますか、1400兆円ものお金が使われる、すなわち消費に回れば、日本経済のフロー(GDP)は前代未聞の大成長を遂げることになります。何しろ、フローの一部である民間最終消費支出(個人消費。今は300兆円程度)に、一気に五倍の金額が追加されるわけです。
アメリカのGDPを一瞬で抜いてしまい(笑)、全世界は、日本の前にひざまずくことになりますね。
そうなると、当然ながら税収が極端に増え、日本政府の財政は極端なまでに健全化されてしまうことになります。 ですが、「ストック」「フロー」について、高校教科書はおろか、大学の経済学部講義でも、まともに扱われていないので、誰も本当のことを知らないまま、「大人」になってしまい、「トンデモ論」が流布します。
大学の経済学部でも、「フロー(GDP)」については、一生懸命、マクロ経済学で扱うのですが、「ストック」については、年間講義時間の関係で、スルーです。
http://www.econ-edu.net/reference/QandA/a001.html 経済教育ネットワーク Q&A
篠原総一(同志社大学経済学部教授)]
確かに、高校生のレベルで対象にする経済問題を分析する上ではさほどのウエイトをもつ概念ではないと思われます。実際、私の場合にも、大学1~2年生を対象にした経済学 の基礎コースを教える際に国富を取り上げたことはありません。 「ストック」を「金融論」などの講義で扱うにしても、「ストック」と「フロー」の関係まで扱うこともありません。これが「トンでも論」を生み出してしまいます。
余裕のありそうな?大学講義でさえ扱えないのです。ましてや、高校の「政治・経済」「現代社会」で扱うなど、
ほとんど、まったく、絶対、ひっくり返っても「無理」です。
でも、それで、「経済を知らない大人」が増えてしまうのですから、「経済学」は、本当は必要なのですが・・・。閑話休題
<ストックをフローに回すのは原理上できない その1> 前回の説明を再掲し、新たに説明を加えます。新しい説明のみご覧になりたい方は、後ろのほうを見てください。
ブログカテゴリー 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 2010-08-05 http://abc60w.blog16.fc2.com/category141-1.html 再掲みなさん誤解していますが、この1400兆円の
金融資産なるものは、実際には「存在しない」、単に帳簿上の話です。帳簿上存在しますが、「実態は無い」ものです。ここを解説します。
三面等価の図を見て下さい。

S部分が、(G-T)+(I)+(EX-IM)です。これは貯蓄から回りますが、同時に、生産財です。つまり、
総生産(実物)のうち、消費に回らない部分を、政府・企業・外国が購入しているのです。ですから、すべて
実態のある(形のある)財です。
生産財(GDP)=消費+投資です。
投資は、施設・設備です。工場、機械、住宅、店舗のイスやテーブル、公共投資(道路・港・ダムなど)です。鉄や砂、木やコンクリなど、実物財です。これが、次回の生産(GDP)を産み出す原資です。
生産財(GDP)をすべて消費(C)に使ってしまったら、次年度、生産が出来ません。コメをすべて消費しないで、「もみ」として残すのは古来から当たり前です。この「もみ」が投資なのです。「投資」は拡大再生産には、絶対に必要なものです。
この
「投資」が、「国富」になります。実態として、われわれの財産です。
とうほう『政治・経済資料 2010』p201 グラフも
ストック・・・ある時点における、家計、企業、政府などが保有する資産・負債の合計。生産の元手になる。
で、この
投資部分は、政府(G-T)+企業(I)+外国(EX-IM)が購入しています。だから、
(EX-IM)海外資産が、国富に入るのです。
「対外純資産」です。
とうほう『政治・経済資料 2010』p201 
ここから、
わけの分からなくなってくる、金融資産について説明します。
この投資(I)ですが、(S)貯蓄から、充当されます。カネです。消費に回らなかったカネが、(S)→(I)に利用されるのです。


で、この
貯蓄(S)が、勝手に自己増殖し始めるのです。
「信用創造」です。
清水書院『資料 政治・経済2010』p248
預金者→銀行→企業→銀行→企業→銀行→企業・・・となるうちに、
最初の預金額の何倍もの預金が創造されます。式で言うと、『1/(C) Cは預金準備率 』となります。
現在の預金準備率は、0.01%なので、計算上、銀行は100万円を日銀に積立て金として当座に預け入れるだけで10,000倍の100億円(正確には99億9900万円)、
帳簿上存在しますが、「実態は無い」お金を、個人や企業に貸し付けることが可能になります。

こんな風に、
債権・債務が自己増殖し、実態の無い帳簿上の「金融資産」が創られます。
金融機関が企業に資金を貸し出すと、金融機関に債権が、企業側に債務が計上されます。年金保険料も、生命保険会社の保険料も、家計の資産(債権)ですが、政府や保険会社の債務(負債)になります。これを繰り返すと、
金融資産(債権)も増えますが、金融負債(債務)も増えます。コインの裏表です。同じことを、重複計算しているので、実際の富(実物資産=国富)は増えていないのです。
とうほう『政治・経済資料 2010』p201
国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため含まない 金融資産が国富に入らないのは、このためです。
さて、この「信用創造」の結果、実際の現金(マネタリー・ベース)は92.9兆円なのに、市中の通貨量(マネー・ストック)は、1055.6兆円にもなっています。(09年10月現在)
注)マネタリーベースは,流通現金+日銀当座預金。日銀は,この合計額を直接コントロールでき,マネーストックに影響を及ぼす。
マネーストックM3は,一般法人,個人,公共団体(除く国/金融機関)が保有する通貨量。「信用創造(準備預金以外の貸し出し)」によって,マネタリーベースの何倍もの通貨量が創造される。 この、
自己増殖によって、実物資産である「国富」よりも、金融資産の伸びが大きくなるのです。
清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
世界の金融資産の伸びも、同じです。実体経済に比べ、肥大化しています。世界の金融資産は,総額167兆ドル(1京5030兆円)に達します。実体経済(世界全体のGDP48兆ドル)の3.5倍です。しかも,その成長率は2006年までの11年間で年平均9.1%,世界の実体経済(GDP)成長率の5.7%を大きく上回っています。
「カネ」が、実物経済に回らずに、金融資産の運用に回りました。これが金融資産だけを膨張させてきた、
現代の「金融資本主義」なのです。
ところが、
実体が無いので、しぼむ時には、一気にしぼみます。サブプライムローン問題や、リーマン・ショックで、金融資産が、がたがたになりました。

どこか、1箇所で支払いが滞る(不良債権化)と、そのあとが、がたがたになります。企業は、現金で支払いするのではなく、当座預金や、小切手、手形で支払います。
モノを買っても、支払いは後日というのが企業取引では当たり前です。われわれが、クレジット・カードでモノを買うときもそうです。
モノの取引と、カネの取引の分離です。
もし、約束した期日までに、「当座預金や、小切手、手形」で決済されないと、そのあとの資金の流れが、がたがたになります。
わが国の土地の「不良債権」、アメリカの「サブプライム・ローン」「リーマン・ショック」というのは、このように引き起こされました。だから、「リーマン・ショック」後、FRBバーナンキ議長は
「金融機関がつぶれると,全ファイナンシャルシステムが壊れる」と言って、金融機関に、公的資本を注入したのです。
主要国政府は2008年10月10日,日米欧(G7)財務相・中央銀行総裁会議で,公的資金による金融機関への資本注入(銀行の自己資本増強)を決定します。13日,英国が大手3銀行に資本注入することを発表しました。そして,14日,アメリカ政府が25兆円を金融機関に資本注入することを発表しました。
世界中で,銀行の自己資本に公的資金を投入し,連携して金融システム崩壊を防ごうとしているのです。どんな手段であっても金融システムを壊さないという決意の表れです。
日本でも、「住専」や「竹中プラン」のときに、公的資金が投入されました。それは、この様な理由によるものです。
ですから、
金融資産は、「バブル」のようなもので、実体が無いから、一気にしぼむのです。

この
金融資産が、「家計の金融資産1400兆円」なるものの、実態です。
本来は、実物資産:金融資産は、1:1です。実際に70年代まではそうでした。ですが、今日金融資産:実物資産は2.2:1くらいになっています。金融資産が肥大化しているのです。
< ストックをフローに回すのは原理上できない その2> では、疑問についてです。あくまでも、「ストック→フロー」ができるという、仮定に基づき検証します。
団塊の世代の人が、自分の預金から、200万を降ろし、新車を買った。これはストック→フローではないか?
同じく、新築住宅や、中古住宅を購入した。これも、ストック→フローではないか?
そうですね、一見「ストック→フロー」ですよね。
(1)一体、誰が返済するのか。
① 上記表で、車(200万・・・面倒なので、200兆円にします)のために、
家計資産を崩したとします。そうすると、誰かが、返済することになります。上記表では、企業・政府です。
家計→銀行→企業と債権:債務が形成されているので、企業→銀行、そして銀行→家計と資金移動が起きることになります。
なお、信用創造により、家計→銀行→企業→銀行→企業・・・ですから、債務返済は、企業→銀行→企業→銀行・・・・・→家計ですので、
最終的に借りた債務者(企業)が返済することになります。
そうすると、上記表は次のようになります。

さて、企業は、どうやって返済するのか。企業が株式を発行し、社債を発行し、融資を受けるのは、「フロー」で企業活動を行うからです。毎日毎日の生産活動に、その債務を使います。原材料の購入だとか、設備更新だとか、電気ガス水道代、従業員の給与だとか・・・。もうすでに、「使われてしまったカネ」です。そして、この「カネ」を使って、生産活動を行います。
つまり、
債務の返済は、「フロー」レベルから行われます。というか、フローレベルからしか行えません。数億円借りて、儲けて、返済することになります。短期では無理なことが分かると思います。

さて、200兆円返済ですが、これはGDPに入るのか?GDPは付加価値(もうけ)=利潤の合計でした。
売上-経費=付加価値(もうけ)
付加価値+付加価値+付加価値・・・=GDP このように、
GDPフローは、借金を返済した後に残る付加価値です。つまり、200兆円返済した後に残る利潤です。ですから、200兆円返済は「付加価値」ではありません。 なので、
フロー(GDP)=200兆円増とはなりません。
このように、企業が生産活動することによって、家計は現金増となります。この現金増は、企業活動から創り出され、移動したものです。
借りた資金は「フロー」で運用、「フロー」で返済 もしも、企業が倒産すれば(日航の株を思い出してください、あるいは普通の倒産での企業債務)、銀行は「債権放棄」せざるをえません。もしくは、銀行の「破産」です。ペイオフの対象となり、「金融資産の消滅」になります。金融資産は基本的には増えるのですが、減ることもあります。
② さて、次に不動産を売って、現金(フロー)を手にする場合です。ミクロでは、ストック→フローに見えます。Aさんとします。
買い手Bさんは、現金200兆円を準備するために、銀行など第3者(Cさん)から借りるか(債務の発生)、持っている保有資産を売る(土地や株や、国債など)か銀行預金を下ろします。ここで、Bさんの資産内容が変わっています。
Aさん、Bさん、Cさんの間では、フローに増減が生じていますが、不動産の所有権が移転しているだけです。
また、Cさんが債権を買い取れ(不動産を担保?)ば、新たな債権:債務が発生します。金融資産の増幅です。この場合、金融資産の増加(債権:債務増)は、何も新しい付加価値を生んでいないのに、自己増殖していることがわかりますか?
金融資産というのは、実態のない、帳簿上存在するものだということが、お分かりでしょう。
不動産の売却や、株式・国債などの売却(別な人の購入)は、新たな価値を産んでいませんので、「ストック→フロー」は成立しません。実際に国民経済計算でも、不動産の売却は価値創造(GDP)に入れません。これらの取引は、「ストック」内で動くのです(ただし、不動産や、証券会社の手数料は、GDPです)。
株を扱う「東京証券取引所」は英語で「TOKYO STOCK EXCHANGE」です。これらはストックなのです。
Aさんが、200兆円で、新築住宅を購入しても、①と同じです。
(2)一体、どうやって生産するのか 次に、200兆円の車や、住宅をどうやって生産するのか?です。在庫(これは前年のGDPの約1%あります)を消費するなら別ですが、200兆円もの材をどうやって調達しようというのでしょうか。
これは、藻谷さんの言う「1400兆の1%14兆円」でも、三橋さんのいう「1400兆円そのものを使う=国民所得が5倍増になる」でも結構です。
三橋さんの例でいけば、GDPはこうなります。

あの、
GDP=国民総生産は、「労働力×資本力×生産性」でしたよね。 人も、資本(投資材)も、生産性も、一体、どこから持ってくると言うのでしょうか?今、日本で働いている労働力人口は6000万人ほどです。これを倍増したって追いつかないでしょう。材は、どうやって調達しましょう?半導体生産を10倍増ですか?どうやって?石油や、天然ガスも、2.8倍輸入増やすのですか?船やタンクはどうするのですか?
こんな荒唐無稽な話ではなくとも、藻谷さんのいう1400兆円の1%、たった、14兆円でも結構です。14兆円は、日本のGDP500兆円の、2.8%増にあたります。
今、日本の予想成長率は、政府予測で、1.1%です(震災前)。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/2011/0124mitoshi.pdf
「平成 23 年度 の経済見通しと の経済見通しと 経済財政運営の基本的態度 経済財政運営の基本的態度
~ 新成長戦略実現に向けたステップ3へ~」 これをどうやってさらに2.8%も上乗せできるのでしょう?全部で3.9%増です。3.9%も、人や材や生産性などを引き上げなければいけません。
単純に労働力を増やした場合、6000万人×3.9%=234万人です。これをどうやって1年間のうちに増やすのでしょう?
(3)年金について さて、ストックには、「年金積立金」も入っています。これも家計債権=国の負債ということになります。
10年9月末だと家計資産1442兆円のうち、保険:年金準備金395兆円、27.4%になります。
年金は、積み立て方式ではなく、賦課方式(積立+賦課のあいまいな形)になっています。金利が下がり、運用収益では給付金を賄えなくなり、結局不足分の1/2、税金でまかなうことになっています。(震災復興で、この積立運用金を、とりあえず回すことになりましたね)
年金基金は取り崩さないのを原則にしていますが、若干は取り崩しています。
この運用も、「フロー」で行われていることが分かると思います。運用し、利益が厚生年金や国民年金に移転されます(増えます)。
基礎年金は「フロー」(例:政府支出)から給付されています。「フロー」だけです
。「フロー」と「ストック」は、別会計で扱います。
ストック→フローは、原則通り、理論上あり得ません。
(4)国債について 政府債務=国民の財産・・・ではありますが。政府債務=国民債務でもあります。国民→国債発行→政府(債権は金融機関)→公共事業:消費→国民という、配分になります。国民→金融機関→政府→国民還元です。
ですから、国民→政府とカネを納税しない限り、債権者(金融機関)の債権は消えません。返済は逆、国民→政府→金融機関→国民になります。国民が払い、国民が受け取ります。家計が、金融資産を崩す(預金を下ろすなど)=国債を売るということは、金融機関がそれを手放すということです。国債価格は下落します。
前記「年金基金」は国債保持者(国債で運用)です。国債価格下落=年金基金損失です。
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済