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ストックはフローには回らない


http://www.excite.co.jp/News/economy_clm/20170920/Jcast_kaisha_309004.html

家計金融資産、過去最高の1832兆円 6月末時点
2017年6月末時点での現金・預金や債券、株式を合わせた家計の金融資産の残高は1832兆円となり、過去最高を記録した。日本銀行が4~6月期の資金循環統計(速報)を9月20日に発表した。

家計の金融資産は前年比4.4%増、3月末と比べて1.3%増えた。



金融資産 家計


 このような報道があれば、必ず出てくるのが、この「家計金融資産(1700兆円~1800兆円)を取り崩して使え!」「1%でも使われれば、17兆円もの消費増だ!」というアホ論です。


大前研一の日本のからくり
アベノミクスで“景気が浮揚しない”本当の理由

史上最大の予算を組み続ける政府の愚行

毎年のように30兆~40兆円の赤字国債を垂れ流して、日本の公的債務は1300兆円に膨れ上がっている。それでもなお政府は史上最大の予算を組み続けているのだ。

世界最大の日本の国家債務を担保しているのが、日本国民が保有している1700兆円の個人金融資産である。いざとなれば、政府はこれに着目してパクろうとするだろう。

「老後の備え」の重複分だけでも人生を楽しむために使えば、人生も変わるし、世の中も変わる。たとえば個人金融資産1700兆円の1%が市場に出てくるとすれば17兆円。消費税に直せば6%アップぐらいのインパクトがあるのだ。

つまり安倍首相は個人金融資産の1%が市場に出てくる政策をひたすらやったほうがいい。
充実した老後の素晴らしさを提案し国のサポートを国民に約束して、それでもなお、1700兆円の個人金融資産がマーケットに出てこないようなら、強制的に資産課税を導入すべきだろう。資産税では資産を持っているほど課税されるから、要らないお金は使おうというインセンティブが働く。



<ストックはフローには回らない>

ストックは、フローに回りません。これは、原理原則で例外は1つもありません。

ストックは、「結果」です。ストックとは、金融資産の場合、「貸した金(投資)の総額=借りた金(借金)の総額」のことです。つまり、すでに「融資された額」のことです。

日本金融資産 負債 8150兆円 2
 
 家計の金融資産→企業や他の家計や、対外資産として、貸し出されています。

つまり、すでに「融資したカネ」なので、そのカネをもう一度貸すことは、「原理的にできません」

ですから、


たとえば個人金融資産1700兆円の1%が市場に出てくるとすれば17兆円。消費税に直せば6%アップぐらいのインパクトがあるのだ。



ということは、逆立ちしてもできません

 ストックは「過去」を記録したものです。今日融資をすれば、それが即「ストック=貸借対照表=BS」に記録されます。

 今日、フローで行われた「貸借」が、今日「ストック」に記録されるのです。

ストック=貯蓄ではありません。ここを誤解してはいけません。ストックは、会計の世界では日常用語ですが、一般には流布していません。だからストックを貯蓄と同一視してしまいます。

 しかし、ストックは「資産=融資総額」ですから、当然「株」もストックです。東京証券取引所は、「Tokyo Stock Exchange」と言います。自社株式を購入する制度を、「ストック オプション」と言います。

資産=負債→Stock
貯蓄→Saving


ストック=金融の世界では、金融資産:負債の記録のことです。
ストック=実物の世界では、実物資産:国富のことです。

2015 三面等価


貯蓄→Saving

は、フローの世界の話で、ストックではありません

この所得 C+Sが、次のように配分されます。

S貯蓄→I(民間+政府)投資

社会保障 ストック②

このI投資が、実物資産の国富です。

社会保障 国富


これらは、「使われた総額」であり、すでに世の中にある「土地・建物・道路・空港・港湾設備・・・」のことです。これらを使って「フロー生産」します。

しかし、過去の「ストック」を、フローに回すとか、過去のストック(家計予算の1700兆円)の1%でも使えば、GDPフローが17兆円増える・・・そんなことは、100%、いえ、50000%ありません。

<補足>

金融機関には、「信用創造」というシステムがあり、いくらでも貸し出しを増やせるのだ!だから、金融機関には「家計・企業・その他主体の預金」など無くても、貸出ができるんだ!

という人もいます。基本的に、信用創造ですから、無から有を作り出すことが金融機関にはできるので、間違ってはいません。


通貨供給量、3カ月連続最高=日銀
12/11(月) 11:00配信

時事通信
日銀が11日発表した11月のマネーストック(通貨供給量)速報によると、現金、預金などの合計を示す代表的な指標M3の平均残高は、前年同月比3.4%増の1314兆8000億円だった。残高は3カ月連続で過去最高を更新した。



 この、マネーストックは、まさに「帳簿上のカネ」のことです。1314兆円もの現金など、この世のどこにもありません。

 しかし、この貸出額は、金融機関が受け入れたカネ(原理的にこれを貸し出すことができる)を上回る額ではありません。預貸率といいます。預かったカネのうち、どれだけを貸し出しに回しているかを示すものです。これがずっと60%台です。

預貸率


 個々の金融機関によっては預貸率100%以上のところもあります(信用創造で可能です)。しかし、日本全体では、預かったカネをすべて貸し出してはいないのです。貸し出しに回らないカネは国債や株や外国債などの債券に回っています。

C+S
C+I
ゆえにS=I

S→I+(G-T)+(NX-IM)
貯蓄→企業投資+政府投資+海外投資


これを理解できないと、経済は理解できません。

社会保障 ストック
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藻谷浩介『震災復興・全国民が貯金の1%を寄付しよう』


藻谷浩介 『震災復興・全国民が貯金の一%を寄付しよう』文藝春秋7月号

 トンでも論です

<1400兆円の家計金融資産を、消費に回せ?>

P191
 世界最高水準の1400兆円の個人金融資産を活かすことこそ、日本復興の鍵だ。
…我々一人一人が、貯蓄の1%を震災復興に向けて寄付することも提言したい。1400兆円の個人金融資産からは、計算上14兆円もの財源が生まれることになる。1000円しか貯金のない子供は10円、100万円持っている人は1万円、1億円あれば100万円、いずれにせよ、1%なら、払えない額ではない。
 

実は、このような「不可能なこと」を述べる人は、他にもたくさんいます

櫻井よしこ『日本独自の復興をこうして支えよ』週刊新潮5月5・12日号
P180―181
 …松田学氏…。
 氏は「たちあがれ日本」の神奈川県第一支部長を務める。
…氏は…まず高齢者の保有する膨大な金融資産の活用を考えるべきだと強調する。日本の個人金融資産は09年度末で1453兆円。負債が370兆円、純金融資産は1083兆円でGDPの2倍以上である。内、65歳以上の高齢者が862兆円で、約80%を保有する。
…日本国と日本人の金融資産を上手に回すことによって、社会と国を甦らせることが大事なのだ。松田氏が語る。
 「例えば、復興のための特別公債を発行するのです。…従来の赤字国債とは別にするために…震災対応だけに活用する…」
 助け合い公債は無利子で発行する。…相続税を非課税にするなどの優遇措置を講じて、埋め合わせする…。
…これまでほとんど眠っていただけのおカネに、何かを生み出すというおカネ本来の役割を果たさせることが出来る国全体の雇用が増える。若い世代の収入も増え、子育てを経済的に支援することにもなる。さらに相続税まで免除されるのだ。
 こうした状況が生まれれば、1000兆円を超す個人金融資産の、例えば1%が助け合い公債になれば、10兆円、2%で20兆円もの財源が生まれる。…このようにして幅広い国民が有する資産を復興に役立たせればどんなに元気になることか
 

この、「(眠っている)1400兆円の家計金融資産を、有効に使え(フローに回せ)」論ですが、原理的に不可能です。
 ここが理解できるかどうかが、経済学的思考(複眼で見る)ができるか否かの、リトマス試験紙になります。

<1400兆円の家計金融資産とは>

 われわれは、毎年毎年、新たな付加価値(GDP)を生み出します。国民の総生産=総所得です。われわれは、その新たな所得のうち、全て消費に使うのではなく、いくらかを残します。これを貯金とか、預金とか、経済学では「貯蓄S(Saving)」といいます。

三面等価 2008

消費 + 貯蓄.jpg

 この貯蓄Sというのが、 ①企業の投資(I:Investment)②政府の公債(G-T)③外国の消費・投資(EX-IM)の原資になります。

貯蓄→貸出.jpg

 これらは、政府・企業・外国の「借金」になります。借金して、「港・道路・工場・機械・店舗・パソコン・照明・車両etc」の購入をしています。

貯蓄→実物資産.jpg

 では、最初に戻って、このSはどのように産み出されたものだったでしょう?それは、新しい付加価値(GDP)でした。つまり、貯蓄は、私たちが得た給料から、産み出されるのです。しかもその給料は私たちが新しく生産したモノ・サービスから、生まれています何かを新しく作り出し、そのもうけ(総生産-中間生産物)がGDPでした。つまり、貯蓄Sは、財(実物財:サービスという形のない財も含む)なのです。

GDP→貯蓄→実物資産.jpg

 そして、毎年毎年、生産した一部の財(モノ)が、インフラストラクチャーとして、社会の基盤になって残ります。これを国富と言います。

GDP→貯蓄→新たな国富.jpg

とうほう『政治・経済資料2010』p201
2007年 ストック.jpg

 ですので、毎年毎年、国富は増えます。例外は、大震災のような自然災害で国富が失われた時:今回の大震災で、東北地方で失われた国富は16兆円だそうです。また、バブル崩壊により土地や建物の値段が下がると国富は目減りします。
 さらに、「EX-IM:海外資産」も国富です。ここは少し変わっていて、港・道路・工場・機械・店舗など実物財のほか、株・債券・外貨などの金融資産も入ります。

国際収支表→対外純資産 外貨準備強調

 さて、この原資ですが、国民の貯蓄Sでした。そのSから借金して、実物資産になります。

GDPは金融資産+実物資産.jpg

 まず、①貯蓄Sは同時に②借金でもあり、③同時に形のある財であることを、押さえておきましょう。

 次に、この「①貯蓄・②借金・③実物資産」ですが、③は「国富」になることを説明しました。①・②は、「金融資産」と言います。下の図では、③国富「非金融資産」となっています。

 清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
国民資産(ストック)の推移

GDPは金融資産+実物資産.jpg

 この、金融資産も、毎年毎年、変動します。

貯蓄 借金.jpg

 ここで、対外資産:純資産が借金になっているのは、円ではなく、外国通貨資産だからです。国際収支で、外国資産増は、マイナス▲で表示されます。

2009 国際収支表 シンプル

GDPは金融資産+実物資産.jpg

 さて、本来、この金融資産と、実物資産は1:1になるはずです。「金額表示=実物資産」だからです。ところが、この金融資産は、「実物資産=国富(下図では非金融資産)」を上回っています。

 清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
国民資産(ストック)の推移

 なぜ、こうなるのか。これが、金融資産が勝手に自己増殖する仕組み、すなわち『信用創造』というシステムなのです。

金融資産 増加.jpg

清水書院『資料 政治・経済2010』p248
信用創造の仕組み.jpg

信用創造

 こんな風に、貯蓄・借金が自己増殖し、実態の無い帳簿上の「金融資産」が創られます。

 金融機関が企業に資金を貸し出すと、金融機関に債権が、企業側に債務が計上されます。年金保険料も、生命保険会社の保険料も、家計の資産(債権)ですが、政府や保険会社の債務(負債)になります。これを繰り返すと、金融資産(債権)も増えますが、金融負債(債務)も増えます。コインの裏表です。同じことを、重複計算しているので、実際の富(実物資産=国富)は増えていないのです。

 

ですから、

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
 国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため(筆者注:国富に)含まない


となります。

 ここまで、金融資産の中身について、見てきました。

<1400兆円の家計金融資産を、消費に回せ?>


P191
 世界最高水準の1400兆円の個人金融資産を活かすことこそ、日本復興の鍵だ。
…我々一人一人が、貯蓄の1%を震災復興に向けて寄付することも提言したい。1400兆円の個人金融資産からは、計算上14兆円もの財源が生まれることになる。1000円しか貯金のない子供は10円、100万円持っている人は1万円、1億円あれば100万円、いずれにせよ、1%なら、払えない額ではない。
 

実は、このような「不可能なこと」を述べる人は、他にもたくさんいます。ただ、共通するのは、いずれも、「経済学」を知らない人たちだということです。

櫻井よしこ『日本独自の復興をこうして支えよ』週刊新潮5月5・12日号
P180―181
 …松田学氏…。
 氏は「たちあがれ日本」の神奈川県第一支部長を務める。
…氏は…まず高齢者の保有する膨大な金融資産の活用を考えるべきだと強調する。日本の個人金融資産は09年度末で1453兆円。負債が370兆円、純金融資産は1083兆円でGDPの2倍以上である。内、65歳以上の高齢者が862兆円で、約80%を保有する。
…日本国と日本人の金融資産を上手に回すことによって、社会と国を甦らせることが大事なのだ。松田氏が語る。
 「例えば、復興のための特別公債を発行するのです。…従来の赤字国債とは別にするために…震災対応だけに活用する…」
 助け合い公債は無利子で発行する。…相続税を非課税にするなどの優遇措置を講じて、埋め合わせする…。
…これまでほとんど眠っていただけのおカネに、何かを生み出すというおカネ本来の役割を果たさせることが出来る国全体の雇用が増える。若い世代の収入も増え、子育てを経済的に支援することにもなる。さらに相続税まで免除されるのだ。
 こうした状況が生まれれば、1000兆円を超す個人金融資産の、例えば1%が助け合い公債になれば、10兆円、2%で20兆円もの財源が生まれる。…このようにして幅広い国民が有する資産を復興に役立たせればどんなに元気になることか
 

 さて、このように、1400兆円(過去のストック)の一部でも、現在の消費(フロー)に回せというのですが・・・・

ストック→消費に回せ.jpg
 
では、検証してみましょう。

(1)過去のGDP14兆円を現在に回せ!

 まず、このS貯蓄は、過去のGDPの一部(汗水流して作った、モノやサービス)です。
ということは、「過去のGDP分」を「今年のGDP」に回せということを主張する事になります。

過去のGDP→今年のGDP.jpg

 こんなことができたら、夢のようですね。なぜなら、1400兆円の1%、14兆円を回せたら、永久機関のように、14兆円分、何もしなくても今年のGDPが確保できるのですから。

今年のGDP→再来年のGDP.jpg

 あの、どうやって、こんなことが可能になるのでしょうか?過去の生産物を現在に、現在の生産物を未来に・・・
 今年新たに作って(モノ・サービス)、すでに消費・投資してしまった(モノ・サービス)をどうやって未来に持っていけるのですか?

(2)14兆円の借金を、消費に使え!

 この貯蓄Sは同時に借金(負債)でもあります。

貯蓄=借金:金融資産.jpg
資金循環統計.jpg

ということは、 「14兆円の貯蓄を使え」は同時に「14兆円の借金を使え」ということです。

 家計の借金は、住宅ローン、進学ローン、車ローンなどです。
 企業の借金は 社債、株、金融機関からの借金などです。
 政府の負債は、国債、地方債などです。

 これらの借金の14兆円を、消費に回せ すでに借りていて、何かに使っているから借金です。この借金を、どうやって消費に回すのですか?

 ストックは、貸借対照表(バランス・シート)です。貯蓄(債権)を降ろせば、同時に、借金(債務)も返してもらわなければなりません。住宅ローン(債務)が10万返済されれば、貯蓄(債権)も10万減ります。

ストック→フロー イメージ

 これで、どうやってフローが増えるのですか?


(3)国富を14兆円分、消費に使え!

実物資産=国富.jpg

とうほう『政治・経済資料2010』p201
2007年 ストック.jpg

 過去に積み上げてきた国富。その14兆円分を今年の消費に回せ!ですか。われわれの住宅や、工場、そのほか電線や道路や港、線路、空港、機械、車。土地や造成した宅地。
 この実物資産14兆円分を今年の消費に回せ?どうやって?

中古車を100万円で売る(現金化)⇔誰かのモノになる(中古品売買、株や債権の売買はGDPに含めない。というのは、単に持ち主が移動しただけだから)
 ↓

資金循環統計.jpg


 以上のように、どうひっくり返っても、「過去の1400兆円の家計資産(ストック)を、現在(フロー)に回せ」はできないことがわかります。


櫻井よしこ『日本独自の復興をこうして支えよ』週刊新潮5月5・12日号
P180―181
これまでほとんど眠っていただけのおカネに、何かを生み出すというおカネ本来の役割を果たさせることが出来る。
 

 この1400兆円のカネは眠ってなんかいません。その生まれは、その年のGDP(新たな財:モノやサービス)からで、すでに国富として「実物資産:ストック」になっているのです。

 1400兆円はどこにあるか?どこにもないのです。あるのは、「帳簿上」だけなのです。勝手に自己増殖し(信用創造)勝手に減ります(リーマン・ショックや、バブル崩壊)

http://www.garbagenews.net/archives/1319049.html
日米の家計資産推移をグラフ化してみる(2009年4Q分)

アメリカ 家計金融資産
日本家計金融資産 

 このように、 1400兆円のストックをフロー(消費に回せ)は、実際にはできません。それをできるという藻谷浩介氏のようなトンデモ論者が、

藻谷浩介 『震災復興・全国民が貯金の一%を寄付しよう』文藝春秋7月号 P191
…筆者は震災後、政府の復興構想会議の下にある検討部会の専門委員等を拝命しており…。


 
真壁昭夫 信州大学経済学部教授 H23.2.28 日経『VIEW POINT』
「日本には1500兆円を越す個人金融資産が蓄積している。それをうまく掘り起こせれば、国内需要を盛り上げるだろう」


<藻谷氏>

藻谷浩介 『震災復興・全国民が貯金の一%を寄付しよう』文藝春秋7月号 P184
 …日本で多年にわたって生じている物価下落は、貨幣供給量が足りないことによるデフレではなく、主として現役世代を客層にした多くの商品の値崩れの帰結である指摘してきた。これはマクロではなく、ミクロ経済学の分野の問題だ。
 

あの、インフレ・デフレに「ミクロ:個々の話」はまったく関係ありません勝手に新理論を唱えているだけです。

参照
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-category-141.html
2011-01-01
カテゴリ:藻谷浩介『デフレの正体』


P186
 多くの人が、バブル現象の原因として、公定歩合が1986年に3.0%、翌年に2.5%に引き下げられたことを挙げる。日銀の当時のこうした金融緩和政策でいわゆるカネ余りが起こり、バブル経済が起きたのだと。その前提にあるのは、マネーサプライ(通貨供給量)と、物価とが連動するというマクロ経済モデルだ。
 

 こんな「単純な貨幣増量説」なんか、誰も信じていませんし、実証的にもありません

参照
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-date-20110624.html
カテゴリ 日銀理論 


p186
…対前年比で87年から91年までの各年で、それぞれ0.1%、0.7%、2.3%、3.1%、3.3%の上昇率に過ぎない。…わが国のバブル経済というのは、いかにもマイルドな物価上昇だ。マクロ経済学モデルを振りかざす向きは、その前に事実が本当にモデル通りに推移しているかを検証したほうがいい
…とはいえ、バブル当時は、地価だけは上がった。金融緩和の結果潤沢になった資金は、当時は今と違って土地に流れ込んだわけだ。


参照
http://abc60w.blog16.fc2.com/category141-1.html
2010-08-10
カテゴリ:藻谷浩介『デフレの正体』
 

 バブル時の物価上昇を、マイルドってどのような、価値判断なのでしょう?

87年から91年までの各年で、それぞれ0.1%、0.7%、2.3%、3.1%、3.3%の上昇率です。

 120円のカップ麺→131.7円に上昇していることです。

 2400万円のマンションが、2634万円に上昇していることです。マイルドって・・・。

マネーサプライ伸び率.jpg

 2.3%、3.1%、3.3%の物価上昇率は、現在の日本では達成したくとも達成できない、夢のような数字なのです。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

1400兆円の資産を消費に回せ?のトンでも論

<追記>
 
なかなか、「ストック→フロー」が無理だと言うことを、理解していただけないようです。

 三面等価をもう一度見て下さい。

2009 GDP三面等価 +輸出入


生産=今年の生産物(←在庫も含む)

分配=今年の給与の総額=C+T+S(←今年のタンス預金も含む)

支出=今年の給与からの支出
 

 今年新たに作ったもので、今年の給与をもらい、今年の給与から支払ったカネがGDP(フロー)です。

 過去の「タンス預金」をどう使っても、「今年の生産物」「今年の給与」「今年の支出」にはならないのです。

 過去のタンス預金(30兆円?らしいそうですが)を今年に回して使って、GDPが増えるのなら、日本人は、「過去の遺産」だけで、毎年30兆円分、食べていけることになります。まるで、30兆円の永久機関です。

<1400兆円の資産を消費に回せ?> 

 以前、藻谷浩介『デフレの正体』を取り扱った時に、1400兆円の資産(ストック)をGDP(約500兆円のフロー)の消費に回せというトンでも論について、扱いました。

P202ではどうすればいいのか
①高齢富裕層から若者への所得移転を
 決して無理な話ではありません。14兆円というのは1400兆円超の個人金融資産のたった1%ですよ。毎年その額を使っても100年分の貯金があるのです。…なぜ彼ら富裕層は…目減りする金融資産をそのまま持ち続けていたのか。…彼ら自覚なき強者=高齢者富裕層から、若い世代への所得移転を促進すべきだと言っているわけです。

P214
…彼らが中心に保有している日本人の金融資産の1%、14兆円でも企業努力でモノ購入に向けさせることができれば、政府の景気対策の何倍もの効果があるのですよ。

P220
…ここでお話しているのは日本経済の活性化策、具体的には個人消費の増加策であって…高齢者が死蔵している貯金のいささかでも…消費に回れば、その分企業の売上が増え、まじめに働いている若者にも給料という形で分配されます。…自分の給料が上がれば絶対的な生活水準は上がります。
 

ブログカテゴリー 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 2010-08-05 2010-08-08 参照 

 これらの「1400兆円の資産を、消費に回せ」論が、メカニズム的に不可能なことは、論じてきました。

 ですが、三橋貴明「デフレ時代の富国論」 の書評を読むと、 「ストック」と「フロー」について、世間は、「誤解だらけ」なのが分かります。
http://www.amazon.co.jp/review/R3M4KPS6ZQ1OJB/ref=cm_cr_pr_cmt?ie=UTF8&ASIN=4828416293&nodeID=&tag=&linkCode=#wasThisHelpful

 ちなみに、この本は、日本の金融資産の「バランス・シート=ストック」について扱ったものだそうです。
 
 この三橋貴明さんも、「消費に1400兆円が回れば」
などと、語っています。
http://blogs.yahoo.co.jp/takaakimitsuhashi/31767194.html
例えば、家計が本当に1400兆円の金融資産を使い果たすと、非金融法人企業(一般企業)の資産が1400兆円増えるだけなのです。と言いますか、1400兆円ものお金が使われる、すなわち消費に回れば、日本経済のフロー(GDP)は前代未聞の大成長を遂げることになります。何しろ、フローの一部である民間最終消費支出(個人消費。今は300兆円程度)に、一気に五倍の金額が追加されるわけです。
 アメリカのGDPを一瞬で抜いてしまい(笑)、全世界は、日本の前にひざまずくことになりますね。
 そうなると、当然ながら税収が極端に増え、日本政府の財政は極端なまでに健全化されてしまうことになります。


 
 ですが、「ストック」「フロー」について、高校教科書はおろか、大学の経済学部講義でも、まともに扱われていないので、誰も本当のことを知らないまま、「大人」になってしまい、「トンデモ論」が流布します。

 大学の経済学部でも、「フロー(GDP)」については、一生懸命、マクロ経済学で扱うのですが、「ストック」については、年間講義時間の関係で、スルーです。

http://www.econ-edu.net/reference/QandA/a001.html 経済教育ネットワーク Q&A

 篠原総一(同志社大学経済学部教授)]
確かに、高校生のレベルで対象にする経済問題を分析する上ではさほどのウエイトをもつ概念ではないと思われます。実際、私の場合にも、大学1~2年生を対象にした経済学 の基礎コースを教える際に国富を取り上げたことはありません。
 

 「ストック」を「金融論」などの講義で扱うにしても、「ストック」と「フロー」の関係まで扱うこともありません。これが「トンでも論」を生み出してしまいます。
 余裕のありそうな?大学講義でさえ扱えないのです。ましてや、高校の「政治・経済」「現代社会」で扱うなど、ほとんど、まったく、絶対、ひっくり返っても「無理」です。
 でも、それで、「経済を知らない大人」が増えてしまうのですから、「経済学」は、本当は必要なのですが・・・。閑話休題

<ストックをフローに回すのは原理上できない その1>

 前回の説明を再掲し、新たに説明を加えます。新しい説明のみご覧になりたい方は、後ろのほうを見てください。

ブログカテゴリー 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 2010-08-05 http://abc60w.blog16.fc2.com/category141-1.html 再掲

みなさん誤解していますが、この1400兆円の金融資産なるものは、実際には「存在しない」、単に帳簿上の話です。帳簿上存在しますが、「実態は無い」ものです。ここを解説します。

 三面等価の図を見て下さい。
三面等価 2008

 S部分が、(G-T)+(I)+(EX-IM)です。これは貯蓄から回りますが、同時に、生産財です。つまり、総生産(実物)のうち、消費に回らない部分を、政府・企業・外国が購入しているのです。ですから、すべて実態のある(形のある)財です。

 生産財(GDP)=消費+投資です。

 投資は、施設・設備です。工場、機械、住宅、店舗のイスやテーブル、公共投資(道路・港・ダムなど)です。鉄や砂、木やコンクリなど、実物財です。これが、次回の生産(GDP)を産み出す原資です。

 生産財(GDP)をすべて消費(C)に使ってしまったら、次年度、生産が出来ません。コメをすべて消費しないで、「もみ」として残すのは古来から当たり前です。この「もみ」が投資なのです。「投資」は拡大再生産には、絶対に必要なものです。

 この「投資」が、「国富」になります。実態として、われわれの財産です。

GDP 消費+投資.jpg

とうほう『政治・経済資料 2010』p201 グラフも
 ストック・・・ある時点における、家計、企業、政府などが保有する資産・負債の合計。生産の元手になる。

フローとストックのイメージ図.jpg

 で、この投資部分は、政府(G-T)+企業(I)+外国(EX-IM)が購入しています。だから、(EX-IM)海外資産が、国富に入るのです。「対外純資産」です。

消費+投資(政府・企業・外国).jpg

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
2007年 ストック.jpg

 ここから、わけの分からなくなってくる、金融資産について説明します。

 この投資(I)ですが、(S)貯蓄から、充当されます。カネです。消費に回らなかったカネが、(S)→(I)に利用されるのです。
三面等価 2008

GDP 消費+投資(貯蓄).jpg

で、この貯蓄(S)が、勝手に自己増殖し始めるのです。

「信用創造」です。
貯蓄→金融市場→金融機関.jpg

清水書院『資料 政治・経済2010』p248
信用創造の仕組み.jpg

 預金者→銀行→企業→銀行→企業→銀行→企業・・・となるうちに、最初の預金額の何倍もの預金が創造されます。式で言うと、『1/(C) Cは預金準備率 』となります。

 現在の預金準備率は、0.01%なので、計算上、銀行は100万円を日銀に積立て金として当座に預け入れるだけで10,000倍の100億円(正確には99億9900万円)、帳簿上存在しますが、「実態は無い」お金を、個人や企業に貸し付けることが可能になります。

信用創造

 こんな風に、債権・債務が自己増殖し、実態の無い帳簿上の「金融資産」が創られます。

 金融機関が企業に資金を貸し出すと、金融機関に債権が、企業側に債務が計上されます。年金保険料も、生命保険会社の保険料も、家計の資産(債権)ですが、政府や保険会社の債務(負債)になります。これを繰り返すと、金融資産(債権)も増えますが、金融負債(債務)も増えます。コインの裏表です。同じことを、重複計算しているので、実際の富(実物資産=国富)は増えていないのです。

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
 国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため含まない


 金融資産が国富に入らないのは、このためです。

 さて、この「信用創造」の結果、実際の現金(マネタリー・ベース)は92.9兆円なのに、市中の通貨量(マネー・ストック)は、1055.6兆円にもなっています。(09年10月現在)

マネタリーベース・マネーストック.jpg

注)マネタリーベースは,流通現金+日銀当座預金。日銀は,この合計額を直接コントロールでき,マネーストックに影響を及ぼす。
 マネーストックM3は,一般法人,個人,公共団体(除く国/金融機関)が保有する通貨量。「信用創造(準備預金以外の貸し出し)」によって,マネタリーベースの何倍もの通貨量が創造される。


 この、自己増殖によって、実物資産である「国富」よりも、金融資産の伸びが大きくなるのです。

清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
国民資産(ストック)の推移

GDP→消費+投資(貯蓄) 貯蓄の肥大化.jpg

 世界の金融資産の伸びも、同じです。実体経済に比べ、肥大化しています。世界の金融資産は,総額167兆ドル(1京5030兆円)に達します。実体経済(世界全体のGDP48兆ドル)の3.5倍です。しかも,その成長率は2006年までの11年間で年平均9.1%,世界の実体経済(GDP)成長率の5.7%を大きく上回っています。

世界金融資産 残高.jpg
   
 「カネ」が、実物経済に回らずに、金融資産の運用に回りました。これが金融資産だけを膨張させてきた、現代の「金融資本主義」なのです。

 ところが、実体が無いので、しぼむ時には、一気にしぼみます。サブプライムローン問題や、リーマン・ショックで、金融資産が、がたがたになりました。

不良債権化.jpg

 どこか、1箇所で支払いが滞る(不良債権化)と、そのあとが、がたがたになります。企業は、現金で支払いするのではなく、当座預金や、小切手、手形で支払います。モノを買っても、支払いは後日というのが企業取引では当たり前です。われわれが、クレジット・カードでモノを買うときもそうです。モノの取引と、カネの取引の分離です。

 もし、約束した期日までに、「当座預金や、小切手、手形」で決済されないと、そのあとの資金の流れが、がたがたになります。

 わが国の土地の「不良債権」、アメリカの「サブプライム・ローン」「リーマン・ショック」というのは、このように引き起こされました。だから、「リーマン・ショック」後、FRBバーナンキ議長は「金融機関がつぶれると,全ファイナンシャルシステムが壊れる」と言って、金融機関に、公的資本を注入したのです。

 主要国政府は2008年10月10日,日米欧(G7)財務相・中央銀行総裁会議で,公的資金による金融機関への資本注入(銀行の自己資本増強)を決定します。13日,英国が大手3銀行に資本注入することを発表しました。そして,14日,アメリカ政府が25兆円を金融機関に資本注入することを発表しました。

 世界中で,銀行の自己資本に公的資金を投入し,連携して金融システム崩壊を防ごうとしているのです。どんな手段であっても金融システムを壊さないという決意の表れです。
 日本でも、「住専」や「竹中プラン」のときに、公的資金が投入されました。それは、この様な理由によるものです。

 ですから、金融資産は、「バブル」のようなもので、実体が無いから、一気にしぼむのです。

金融資産 家計・企業・政府.jpg

 この金融資産が、「家計の金融資産1400兆円」なるものの、実態です。
 本来は、実物資産:金融資産は、1:1です。実際に70年代まではそうでした。ですが、今日金融資産:実物資産は2.2:1くらいになっています。金融資産が肥大化しているのです。

< ストックをフローに回すのは原理上できない その2>

 では、疑問についてです。あくまでも、「ストック→フロー」ができるという、仮定に基づき検証します。

 団塊の世代の人が、自分の預金から、200万を降ろし、新車を買った。これはストック→フローではないか?
 同じく、新築住宅や、中古住宅を購入した。これも、ストック→フローではないか?

 そうですね、一見「ストック→フロー」ですよね。

(1)一体、誰が返済するのか。

21年末 国バランスシート



 上記表で、車(200万・・・面倒なので、200兆円にします)のために、家計資産を崩したとします。そうすると、誰かが、返済することになります。上記表では、企業・政府です。

 家計→銀行→企業と債権:債務が形成されているので、企業→銀行、そして銀行→家計と資金移動が起きることになります。
 なお、信用創造により、家計→銀行→企業→銀行→企業・・・ですから、債務返済は、企業→銀行→企業→銀行・・・・・→家計ですので、最終的に借りた債務者(企業)が返済することになります。
そうすると、上記表は次のようになります。

21年末 シート2

 さて、企業は、どうやって返済するのか。企業が株式を発行し、社債を発行し、融資を受けるのは、「フロー」で企業活動を行うからです。毎日毎日の生産活動に、その債務を使います。原材料の購入だとか、設備更新だとか、電気ガス水道代、従業員の給与だとか・・・。もうすでに、「使われてしまったカネ」です。そして、この「カネ」を使って、生産活動を行います。

 つまり、債務の返済は、「フロー」レベルから行われます。というか、フローレベルからしか行えません。数億円借りて、儲けて、返済することになります。短期では無理なことが分かると思います。

フローとストック イメージ

 さて、200兆円返済ですが、これはGDPに入るのか?GDPは付加価値(もうけ)=利潤の合計でした。

売上-経費=付加価値(もうけ)
付加価値+付加価値+付加価値・・・=GDP


 このように、GDPフローは、借金を返済した後に残る付加価値です。つまり、200兆円返済した後に残る利潤です。ですから、200兆円返済は「付加価値」ではありません。 なので、フロー(GDP)=200兆円増とはなりません

 このように、企業が生産活動することによって、家計は現金増となります。この現金増は、企業活動から創り出され、移動したものです。

借りた資金は「フロー」で運用、「フロー」で返済 

 もしも、企業が倒産すれば(日航の株を思い出してください、あるいは普通の倒産での企業債務)、銀行は「債権放棄」せざるをえません。もしくは、銀行の「破産」です。ペイオフの対象となり、「金融資産の消滅」になります。金融資産は基本的には増えるのですが、減ることもあります。



 さて、次に不動産を売って、現金(フロー)を手にする場合です。ミクロでは、ストック→フローに見えます。Aさんとします。
 買い手Bさんは、現金200兆円を準備するために、銀行など第3者(Cさん)から借りるか(債務の発生)、持っている保有資産を売る(土地や株や、国債など)か銀行預金を下ろします。ここで、Bさんの資産内容が変わっています。

 Aさん、Bさん、Cさんの間では、フローに増減が生じていますが、不動産の所有権が移転しているだけです。
また、Cさんが債権を買い取れ(不動産を担保?)ば、新たな債権:債務が発生します。金融資産の増幅です。この場合、金融資産の増加(債権:債務増)は、何も新しい付加価値を生んでいないのに、自己増殖していることがわかりますか?金融資産というのは、実態のない、帳簿上存在するものだということが、お分かりでしょう。

ストック イメージ図

 不動産の売却や、株式・国債などの売却(別な人の購入)は、新たな価値を産んでいませんので、「ストック→フロー」は成立しません。実際に国民経済計算でも、不動産の売却は価値創造(GDP)に入れません。これらの取引は、「ストック」内で動くのです(ただし、不動産や、証券会社の手数料は、GDPです)。
 株を扱う「東京証券取引所」は英語で「TOKYO STOCK EXCHANGE」です。これらはストックなのです。

 Aさんが、200兆円で、新築住宅を購入しても、①と同じです。

(2)一体、どうやって生産するのか 

 次に、200兆円の車や、住宅をどうやって生産するのか?です。在庫(これは前年のGDPの約1%あります)を消費するなら別ですが、200兆円もの材をどうやって調達しようというのでしょうか。

 これは、藻谷さんの言う「1400兆の1%14兆円」でも、三橋さんのいう「1400兆円そのものを使う=国民所得が5倍増になる」でも結構です。
 三橋さんの例でいけば、GDPはこうなります。

1400兆円を使うと

 あの、GDP=国民総生産は、「労働力×資本力×生産性」でしたよね。 人も、資本(投資材)も、生産性も、一体、どこから持ってくると言うのでしょうか?今、日本で働いている労働力人口は6000万人ほどです。これを倍増したって追いつかないでしょう。材は、どうやって調達しましょう?半導体生産を10倍増ですか?どうやって?石油や、天然ガスも、2.8倍輸入増やすのですか?船やタンクはどうするのですか?

 こんな荒唐無稽な話ではなくとも、藻谷さんのいう1400兆円の1%、たった、14兆円でも結構です。14兆円は、日本のGDP500兆円の、2.8%増にあたります。

 今、日本の予想成長率は、政府予測で、1.1%です(震災前)。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/2011/0124mitoshi.pdf
「平成 23 年度 の経済見通しと の経済見通しと 経済財政運営の基本的態度 経済財政運営の基本的態度
~ 新成長戦略実現に向けたステップ3へ~」
 

 これをどうやってさらに2.8%も上乗せできるのでしょう?全部で3.9%増です。3.9%も、人や材や生産性などを引き上げなければいけません。
 単純に労働力を増やした場合、6000万人×3.9%=234万人です。これをどうやって1年間のうちに増やすのでしょう?

 

(3)年金について

 さて、ストックには、「年金積立金」も入っています。これも家計債権=国の負債ということになります。
10年9月末だと家計資産1442兆円のうち、保険:年金準備金395兆円、27.4%になります。

 年金は、積み立て方式ではなく、賦課方式(積立+賦課のあいまいな形)になっています。金利が下がり、運用収益では給付金を賄えなくなり、結局不足分の1/2、税金でまかなうことになっています。(震災復興で、この積立運用金を、とりあえず回すことになりましたね)

 年金基金は取り崩さないのを原則にしていますが、若干は取り崩しています。この運用も、「フロー」で行われていることが分かると思います。運用し、利益が厚生年金や国民年金に移転されます(増えます)。

 基礎年金は「フロー」(例:政府支出)から給付されています。「フロー」だけです。「フロー」と「ストック」は、別会計で扱いますストック→フローは、原則通り、理論上あり得ません

(4)国債について

 政府債務=国民の財産・・・ではありますが。政府債務=国民債務でもあります。国民→国債発行→政府(債権は金融機関)→公共事業:消費→国民という、配分になります。国民→金融機関→政府→国民還元です。

 ですから、国民→政府とカネを納税しない限り、債権者(金融機関)の債権は消えません。返済は逆、国民→政府→金融機関→国民になります。国民が払い、国民が受け取ります。家計が、金融資産を崩す(預金を下ろすなど)=国債を売るということは、金融機関がそれを手放すということです。国債価格は下落します。
 前記「年金基金」は国債保持者(国債で運用)です。国債価格下落=年金基金損失です。
 
 

theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済

1400兆円を消費に 3

では、藻谷浩介さんからの、コメントについて解説します。

2010年7月15日 藻谷浩介その1 『デフレの正体』角川oneテーマ21にいただいたコメントです。(数字は筆者挿入です)

そんなことはわかってますが

 わかってますよ。ですが、対外債権が積みあがっていることすら知らない人が余りに多いので、このように書いているのです。問題は①内需が減少する一方のために、対外債権が幾ら積みあがろうと②国内投資も増えないということですよね。その原因は、あなた方の言っているコンベンショナルなマクロ経済学で解けるのですか? ③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると? あなたは、7章と8章をどう読んだのか? そんなことはとっくに知ってたのですか?④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか? 「自分は経済学を知っている、こいつは勉強していない」、そんなつまらない矮小なプライドでモノをいうなってんですよ。経済学なんてどうでもいいのです。枠組みはどうでもいい。⑤対外資産が積みあがるだけで何の役にも立たない、なんて老人の繰言を言うな! なんとかしようと考えないのか? あんたみたいなあたまでっかちしかいなくなったから、自慢できることが実践ではなくて理論だけだから、日本はだめになるのだ。くやしかったら、自分の実践を少しでも語ってみろ。⑥対外資産の増加を国内に少しでも還元する努力をしてみろ。そうでなければ外国に引っ越せ。 ⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。そういうことです。
言い直します。それだけ理解力があるのであれば、実践力もあるはずだ。早く正道に戻ってください。



④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか?
⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。


<1400兆円の金融資産とは>

 みなさん誤解していますが、この1400兆円の金融資産なるものは、実際には「存在しない」、単に帳簿上の話です。帳簿上存在しますが、「実態は無い」ものです。ここを解説します。

 三面等価の図を見て下さい。
三面等価 2008

 S部分が、(G-T)+(I)+(EX-IM)です。これは貯蓄から回りますが、同時に、生産財です。つまり、総生産(実物)のうち、消費に回らない部分を、政府・企業・外国が購入しているのです。ですから、すべて実態のある(形のある)財です。

 生産財(GDP)=消費+投資です。

 投資は、施設・設備です。工場、機械、住宅、店舗のイスやテーブル、公共投資(道路・港・ダムなど)です。鉄や砂、木やコンクリなど、実物財です。これが、次回の生産(GDP)を産み出す原資です。

 生産財(GDP)をすべて消費(C)に使ってしまったら、次年度、生産が出来ません。コメをすべて消費しないで、「もみ」として残すのは古来から当たり前です。この「もみ」が投資なのです。「投資」は拡大再生産には、絶対に必要なものです。

 この「投資」が、「国富」になります。実態として、われわれの財産です。

GDP 消費+投資.jpg

とうほう『政治・経済資料 2010』p201 グラフも
 ストック・・・ある時点における、家計、企業、政府などが保有する資産・負債の合計。生産の元手になる。

フローとストックのイメージ図.jpg

 で、この投資部分は、政府(G-T)+企業(I)+外国(EX-IM)が購入しています。だから、(EX-IM)海外資産が、国富に入るのです。「対外純資産」です。

消費+投資(政府・企業・外国).jpg

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
2007年 ストック.jpg

 ここから、わけの分からなくなってくる、金融資産について説明します。

 この投資(I)ですが、(S)貯蓄から、充当されます。カネです。消費に回らなかったカネが、(S)→(I)に利用されるのです。
三面等価 2008

GDP 消費+投資(貯蓄).jpg

で、この貯蓄(S)が、勝手に自己増殖し始めるのです。

「信用創造」です。
貯蓄→金融市場→金融機関.jpg

清水書院『資料 政治・経済2010』p248
信用創造の仕組み.jpg

 預金者→銀行→企業→銀行→企業→銀行→企業・・・となるうちに、最初の預金額の何倍もの預金が創造されます。式で言うと、『1/(C) Cは預金準備率 』となります。

 現在の預金準備率は、0.01%なので、計算上、銀行は100万円を日銀に積立て金として当座に預け入れるだけで10,000倍の100億円(正確には99億9900万円)、帳簿上存在しますが、「実態は無い」お金を、個人や企業に貸し付けることが可能になります。

信用創造

 こんな風に、債権・債務が自己増殖し、実態の無い帳簿上の「金融資産」が創られます。

 金融機関が企業に資金を貸し出すと、金融機関に債権が、企業側に債務が計上されます。年金保険料も、生命保険会社の保険料も、家計の資産(債権)ですが、政府や保険会社の債務(負債)になります。これを繰り返すと、金融資産(債権)も増えますが、金融負債(債務)も増えます。コインの裏表です。同じことを、重複計算しているので、実際の富(実物資産=国富)は増えていないのです。

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
 国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため含まない


 金融資産が国富に入らないのは、このためです。

 さて、この「信用創造」の結果、実際の現金(マネタリー・ベース)は92.9兆円なのに、市中の通貨量(マネー・ストック)は、1055.6兆円にもなっています。(09年10月現在)

マネタリーベース・マネーストック.jpg

注)マネタリーベースは,流通現金+日銀当座預金。日銀は,この合計額を直接コントロールでき,マネーストックに影響を及ぼす。
 マネーストックM3は,一般法人,個人,公共団体(除く国/金融機関)が保有する通貨量。「信用創造(準備預金以外の貸し出し)」によって,マネタリーベースの何倍もの通貨量が創造される。


 この、自己増殖によって、実物資産である「国富」よりも、金融資産の伸びが大きくなるのです。

清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
国民資産(ストック)の推移

GDP→消費+投資(貯蓄) 貯蓄の肥大化.jpg

 世界の金融資産の伸びも、同じです。実体経済に比べ、肥大化しています。世界の金融資産は,総額167兆ドル(1京5030兆円)に達します。実体経済(世界全体のGDP48兆ドル)の3.5倍です。しかも,その成長率は2006年までの11年間で年平均9.1%,世界の実体経済(GDP)成長率の5.7%を大きく上回っています。

世界金融資産 残高.jpg
   
 「カネ」が、実物経済に回らずに、金融資産の運用に回りました。これが金融資産だけを膨張させてきた、現代の「金融資本主義」なのです。

 ところが、実体が無いので、しぼむ時には、一気にしぼみます。サブプライムローン問題や、リーマン・ショックで、金融資産が、がたがたになりました。

不良債権化.jpg

 どこか、1箇所で支払いが滞る(不良債権化)と、そのあとが、がたがたになります。企業は、現金で支払いするのではなく、当座預金や、小切手、手形で支払います。モノを買っても、支払いは後日というのが企業取引では当たり前です。われわれが、クレジット・カードでモノを買うときもそうです。モノの取引と、カネの取引の分離です。

 もし、約束した期日までに、「当座預金や、小切手、手形」で決済されないと、そのあとの資金の流れが、がたがたになります。

 わが国の土地の「不良債権」、アメリカの「サブプライム・ローン」「リーマン・ショック」というのは、このように引き起こされました。だから、「リーマン・ショック」後、FRBバーナンキ議長は「金融機関がつぶれると,全ファイナンシャルシステムが壊れる」と言って、金融機関に、公的資本を注入したのです。

 主要国政府は2008年10月10日,日米欧(G7)財務相・中央銀行総裁会議で,公的資金による金融機関への資本注入(銀行の自己資本増強)を決定します。13日,英国が大手3銀行に資本注入することを発表しました。そして,14日,アメリカ政府が25兆円を金融機関に資本注入することを発表しました。

 世界中で,銀行の自己資本に公的資金を投入し,連携して金融システム崩壊を防ごうとしているのです。どんな手段であっても金融システムを壊さないという決意の表れです。
 日本でも、「住専」や「竹中プラン」のときに、公的資金が投入されました。それは、この様な理由によるものです。

 ですから、金融資産は、「バブル」のようなもので、実体が無いから、一気にしぼむのです。

金融資産 家計・企業・政府.jpg

 この金融資産が、「家計の金融資産1400兆円」なるものの、実態です。

<資産=負債>

国家 バランスシート.jpg

「カネ」はどこにあるのか。答えは、「計算上あるだけで、実体は無い」のです。

 どうですか?上の表が幻に見えてきましたか? そうなったとしたら、「経済学」的に見ていることになります。
 
 生産なくして消費は無い、実体経済(国富)なくして、富は創れません。経済学は徹底して「総生産=総消費」です。富は、肥大化した「金融」の中には、無いのです。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

1400兆を消費に回せ 2

では、藻谷浩介さんからの、コメントについて解説します。

2010年7月15日 藻谷浩介その1 『デフレの正体』角川oneテーマ21にいただいたコメントです。(数字は筆者挿入です)

そんなことはわかってますが

 わかってますよ。ですが、対外債権が積みあがっていることすら知らない人が余りに多いので、このように書いているのです。問題は①内需が減少する一方のために、対外債権が幾ら積みあがろうと②国内投資も増えないということですよね。その原因は、あなた方の言っているコンベンショナルなマクロ経済学で解けるのですか? ③日銀がインフレ誘導すれば内需は増加すると? あなたは、7章と8章をどう読んだのか? そんなことはとっくに知ってたのですか?④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか? 「自分は経済学を知っている、こいつは勉強していない」、そんなつまらない矮小なプライドでモノをいうなってんですよ。経済学なんてどうでもいいのです。枠組みはどうでもいい。⑤対外資産が積みあがるだけで何の役にも立たない、なんて老人の繰言を言うな! なんとかしようと考えないのか? あんたみたいなあたまでっかちしかいなくなったから、自慢できることが実践ではなくて理論だけだから、日本はだめになるのだ。くやしかったら、自分の実践を少しでも語ってみろ。⑥対外資産の増加を国内に少しでも還元する努力をしてみろ。そうでなければ外国に引っ越せ。 ⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。そういうことです。
言い直します。それだけ理解力があるのであれば、実践力もあるはずだ。早く正道に戻ってください。



④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか?
⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。


<1400兆円を、GDPにまわすことは不可能>

 さて、ストックとフローの関係について考察を続けましょう。

④三面等価なんて、資産が腐る世界では意味がない、そのことをわかって使っていますか?
⑦あるいは早く死んで子供に財産でも残せ。


 藻谷さんは「1400兆円の腐った資産を消費に回せ」と言います。それが、GDPに貢献するからだそうです。ですが、これは無理です。

<資産が腐るとは?>

「資産が腐る」と藻谷さんがいうのは、何を意味しているかを説明します。

P220
 …高齢者富裕層が死蔵している貯金のいささかでも若い相続人の手に渡って消費に回せれば、その分企業の売上が増え、まじめに働いている若者にも給料という形で分配されます。

P206
 ターゲットは、繰り返しますが、1400兆円の多くを死蔵している高齢富裕層です。

P161
「高齢者から高齢者への相続で死蔵され続ける貯蓄」

P162
 …高齢者は…将来健康を損なった場合…に備えてお金をためておくのです。…流動性が極めて乏しいということも申し上げました。…どのような健康状態で何歳まで生きるか不確実である以上、死ぬ瞬間までは貯蓄を目先の快適や健康維持のために使い切ってしまうわけにはいかないのです。

P163
 …人体にたとえますと…摂取した栄養(筆者注:所得=フローのこと)のかなりの部分は皮下脂肪や内臓脂肪になって貯まっている(筆者注:貯蓄=ストックのこと)だけで…大量の脂肪を身につけたまま、そのうち別の病気で寿命が尽きる運命か・・・・とまあこういう状態…。

P190
…日本には…国債になっている分を除いても400兆―500兆円の個人金融資産があります。…皮下脂肪が十分たまっていて、絶食してもそうそう10年、20年で飢え死にするようなことにはならない…。


 この1400兆円の資産(貯蓄)を消費に回して、日本の経済成長率(GDPがアップすること)を達成しようというのですが・・・。

P177
 では日本経済は何を目標にすべきなのでしょうか。
…①生産年齢人口が減るペースを少しでも弱めよう
 ②…個人所得の総額を維持し増やそう
 ③…個人消費の総額を維持し増やそう
この①②③が目標になります。もちろんこれらが実現できれば結果として経済成長率も改善しますので、これら目標は経済成長率に関する日本の国際公約とも矛盾しないものです。

P202ではどうすればいいのか①高齢富裕層から若者への所得移転を
 決して無理な話ではありません。14兆円というのは1400兆円超の個人金融資産のたった1%ですよ。毎年その額を使っても100年分の貯金があるのです。…なぜ彼ら富裕層は…目減りする金融資産をそのまま持ち続けていたのか。…彼ら自覚なき強者=高齢者富裕層から、若い世代への所得移転を促進すべきだと言っているわけです。

P214
…彼らが中心に保有している日本人の金融資産の1%、14兆円でも企業努力でモノ購入に向けさせることができれば、政府の景気対策の何倍もの効果があるのですよ。

P220
…ここでお話しているのは日本経済の活性化策、具体的には個人消費の増加策であって…高齢者が死蔵している貯金のいささかでも…消費に回れば、その分企業の売上が増え、まじめに働いている若者にも給料という形で分配されます。…自分の給料が上がれば絶対的な生活水準は上がります。


<1400兆円の資産とは何か>

フロー ストック.jpg

このように、毎年毎年のGDP(われわれの所得)のうち、投資Iに回った部分が、ストックになります。「非金融資産」+「金融資産」です。このうち、「非金融資産」+「金融資産の、海外資産(対外純資産)」を加えたものが、「国富」です。ストックの代表的な指標です。

 清水書院『2010 資料政治・経済』p230 
国民資産(ストック)の推移

 このうち、非金融資産は、GDPを産み出すのに使われます。工場や土地、機械設備などです。
もう一つの金融資産、この中に家計の1400兆円が含まれています。金融資産のバランスシートは次のようになっています。

(単位 兆円 2008年12月 日銀 資金循環統計)
国家 バランスシート.jpg

 ストックの代表的指標である「国富」には、 上記表の、「対外資産」を含みます。

とうほう『政治・経済資料 2010』p201

2007年 ストック.jpg

 そして、上記の表で5271.6兆円の国内金融資産は、「国富」には含めません。なぜなら、

とうほう『政治・経済資料 2010』p201
 国内の金融資産は、国内に借り手と貸し手が存在し、債権(資産)と、債務(負債)が相殺されるため含まない


 からです。この国内金融資産は、すでに右側の「負債」あるいは、「対外資産」に使用されています。つまり、 「すでに誰かが借りているカネ」なのです。

家計金融資産
   ↓
家計金融資産構成比.jpg
   ↓
国債保有者.jpg

林敏彦 「経済学入門」 2008 p147
林敏彦 経済学入門 2008p147.jpg

 このように、家計が貯蓄した資産、特に現金・預金は、金融機関によって他の主体(政府、企業、家計)にすでに貸し出されているのです。保険金も同様です。保険会社が資産を運用するために、国債、社債、株式、外国で運用しています。


<資産=負債、消費に回れない>

国家 バランスシート.jpg

 家計は1433兆円の資産を持っています。しかし、それらのカネは、右側の負債、たとえば、企業の借り入れ・株式・社債、家計の借金、そして政府の借金(公債)に回っています。

 ここから、「14兆円というのは1400兆円超の個人金融資産のたった1%ですよ。毎年その額を使っても100年分の貯金」と言って、消費に回すということは、その14兆円分、負債を強制的に返済してもらうということ(貸しはがし)です。あるいは、家計が手放した債権(債務)を、誰か(政府・企業等)が肩代わりするということです。

家計資産⇒G・I・(EX-IM)

 表を見て分かるように、政府も企業も負債が多いのです。いきなり14兆円分の債権を増やす(家計の肩代り)のは不可能です。

 たとえば、家計が14兆円分の預貯金を引き出すとします。それは、14兆円分の「国債」が金融機関によって市場に放出されることです。あるいは、株や社債が14兆円分、市場に放出されるということです。こんなことをすれば、「国債」「株」「社債」は価格下落します。

 ましてや、14兆円ずつ毎年「その額を使って」というのは、毎年、「政府と企業」を売り続けることです。そうなれば、価格下落ではなく、「暴落」になります。

 外国への債券を回収すれば、円買いドル売りで、円高になります。

 バランス・シートは、「資産が増えれば負債が増え、資産が減れば負債も減る」のです。

注)ただし、企業のうち、金融機関が豚積みしている、「貸し出しに回っていないカネ」を消費に使うことは、かろうじて可能です。限度がありますが。

 少し長いですが、下記の文をお読みください。池尾教授は専門が「金融論」です。
http://www.vcasi.org/node/542

「家計金融資産『活用』論への違和感」慶応義塾大学教授 池尾和人

 しばしば「わが国の強みは1400兆円にも及ぶ家計金融資産が存在することであり、それを経済成長のために有効活用すべきだ」といった見解が述べられることがある。しかし、筆者自身は、この種の見解には違和感がある。
 というのもこうした見解は、他方でわが国には膨大な政府債務が存在していることを無視しているからである。換言すると、家計金融資産はすでに一定の用途に「活用」されているのであり、他の用途にそれを活用するためには現行の用途から解放してやらなければならない。

日本銀行の資金循環統計によると、ざっくり言って、家計部門自身も住宅ローンなどの負債を約400兆円抱えているので、純資産は1000兆円ほどである。その半分の500兆円は一般政府の負債をファイナンスするのに使われている。残りのうち、概略で約300兆円が企業部門に投融資され、約200兆円が海外に投資されている。
なお、一般政府の負債は1000兆円弱であるが、先の500兆円分以外は一般政府部門自身によって保有されている。ただしその原資は公的年金の積立金などであるので、間接的にはやはり家計部門がファイナンスしているといえる。

われわれ個々人は国債を買っているつもりはなくても、銀行に預金したおカネで、銀行が国債を買っているので、家計の貯蓄は財政赤字の穴埋めに使われている。実質的に家計純金融資産の約5割が有効活用されずに、国債保有に充当されているがゆえに、GDPの二倍の政府債務を抱えていても「平穏無事」なのである。
有効活用しようということで(あるいは老後の生活をまかなうために)、この分の家計金融資産が取り崩されだしたら、大変なことになる。その分の国債を代わりに保有してくれる者が見つからなければ、国債相場は暴落するしかなくなる。

一人ひとりの個人にとっては、国債購入は貯蓄で、それを取り崩して自由に使うことができる。しかし、社会全体としてそうすることは不可能である。ある個人が取り崩せるのは、別の誰かがその分の国債を保有してくれる限りにおいてである。それゆえ社会の全員が一斉に取り崩して他の用途に使うことはできない

ところが、こうした個人の観点と社会の観点からの違いは、一般には正確に認識されていなくて、ある種の「財政錯覚」が存在しているとみられる。われわれの多くはおカネが貯まっていると思っているけれども、預けたおカネが確かに保管されていようと、実際はなくなってしまっていようとも、引き出そうとするまでは、その違いは分からない。

要するに家計金融資産をネットでみて取り崩さざるを得なくなった時点で、これまで財政赤字を続けてきたことの帰結に日本人はいや応なしに直面せざるを得なくなる。そのときに財政赤字の穴埋めに使ってしまったおカネは、どこにも実は残っていないのだから、それをいかなる形であれ、使えるわけはないという不都合な真実を知ることになる。


 「個人の観点と社会の観点からの違いは、一般には正確に認識されていなく」という部分が、「経済学を知っているか、藻谷さんのように、知らないで語るか」の違いなのです。

 「経済学」に基づいて記述されていないので、彼の本『デフレの正体』が一見して「おかしい」と分かります。

 われわれが消費せずに貯蓄を増やすと,企業はモノ・サービスが売れないので,生産を縮小したり,値段を下げたり,新たな投資を控えます。GDP(国内総生産)が減ります。GDPが減るので,我々の所得(給料)も減ります。所得が減ると,ますますお金を使うことが出来なくなります。社会全体の経済が縮小します。これを不況と言います。

 このように,個人的(ミクロ的)には,「貯蓄を増やそう」というのはよい選択かもしれませんが,社会全体から見たら(マクロ的に),全体の所得(GDI)が減って,かえって全体の貯蓄量が減ることがあります。これを経済学では,「合成の誤謬(ごびゅう)」とか,「節約のパラドックス」といいます。

 これと同じで、個人(ミクロ)にとっては、貯蓄を取り崩して消費に回すことは結構なのですが、社会全体(マクロ)でそれを行うと、大変なことになってしまいます。

1400兆円を、消費に回すことは、不可能なのです。

注)ただ、いずれ、貯蓄の取り崩しは起きます。日本の家計の毎年の貯蓄率(GDPのS)が低下しているからです。その場合、外国から借りる(日本の資本収支黒字=貿易赤字)ので、国債金利は高くなってしまいます。
ブログカテゴリ 藻谷浩介 その5 2010-7-22参照

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