ケインズ理論本質は流動性選好

「ケインズ理論本質は流動性選好① 」
古典派は、C(消費)+S(貯蓄)、S=I(投資)で、不況だとC減S増で、S>Iになり、カネが多いので金利下がり、Iが増え、S=I復活と考えた(セイ法則)。

「ケインズ理論本質は流動性選好② 」
ケインズは、不況だとC減S増で、S>IにならずS<Iだとした。不況だと流動性選好で、みな現金ため込み(将来不安だから)、Iが必要とする分のSが確保されないとした。金利は上がり、セイ法則不成立。

「ケインズ理論本質は流動性選好③ 」
S<Iだから、人為的にSを増やす(カネ供給=金利下げ)=金融政策とした。S=Iになる。それでもだめなら、Iも増やせ(財政政策)とした。

「ケインズ理論本質は流動性選好④ 」
S<Iだから、高金利でIが減.そうすると、縮小均衡のS=Iになる。で、Sを金融政策で増やし、高い均衡のS=Iに復活させろとした。I減には、公共投資でI増にしろとした。古典派任せだとセイ法則成り立たず、縮小均衡経済(GDP減)になる。
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「新興国と対立先鋭化」

シノドス ジャーナル( SYNODOS JOURNAL )
http://synodos.livedoor.biz/

に、『人口減少デフレ論の問題点 菅原晃』が連載中(2010.10.8~)です。

合わせてご覧ください。



<金融政策(LM曲線シフト)の実際>


『新興国と対立先鋭化』北海道新聞 H22.10.10

ワシントンで8日夜に開かれた先進7カ国財務省・中央銀行総裁会議(G7)は、久々に為替問題を正面から取り上げた。議論の中心となったのは、自国通貨安で景気回復を後押しする「通貨安競争」の是非

・・・リーマン・ショック後の低成長から抜け出せない先進国は、金融緩和を続けざるを得ない状況にある。超低金利を継続すれば、金融面から企業活動を後押しでき、自国通貨安を促すことで輸出拡大による景気下支え効果が期待できるからだ。


日経H22.10.10
通貨の実効レート.jpg

<金融緩和⇒金利低下⇒自国通貨安⇒輸出拡大競争?>

 今起こっている「通貨安競争」なるものは、どのようなメカニズムで起こっているか、IS-LMをもとに、検証してみましょう。

・・・リーマン・ショック後の低成長から抜け出せない先進国は、金融緩和を続けざるを得ない状況にある。

<ドル安>

 なぜ、ドルやユーロ安なのでしょう?

読売新聞『日本型デフレ 欧米懸念』H22.8.21
米連邦準備制度理事会(FRB)はリーマン・ショック後の2008年12月から事実上のゼロ金利政策を続け、さらに1兆7500億ドルに上る、住宅ローン担保証券(MBS)や国債などを購入することで、市場に大規模な資金を供給する量的緩和策にも踏み切った。欧州中央銀行( ECB) も金融機関が希望する基金を担保の範囲で全額供給する、「無制限オペ」を続けている


岩田規久男『日本銀行は信用できるか』2009 講談社新書 P43グラフ
中央銀行 資産失業率 岩田規久男『日本銀行は信用できるか』講談社現代新書2009.jpg

 このグラフの中央銀行の資産増加=民間からの国債買い取りなど=市中への金融緩和(量的緩和)→経済危機からの脱出のための積極的政策です。
 なぜ、「ドル安」になるか、一目瞭然です。日銀だけが、「量的緩和」を行っていないのです。

 このように、ドルもユーロも、大規模な金融緩和政策を続けています。そうすると、円の量<ドル・ユーロ・ポンドの量となってしまいます。

各国 マネタリー・ベース 推移
出典: http://blogs.yahoo.co.jp/suzukieisaku1/17114313.html のグラフを改

マネタリー・ベース推移.jpg

『米金融緩和の長期化』日経H22.8.25

 …米マネタリーベース(資金供給量)は08年9月のリーマン・ショック以降に急増。08年8月の8千億ドル台から09年11月には2兆ドルに拡大した。
米国の資金供給拡大.jpg

イメージ マネタリー・ベース推移.jpg

注)マネタリー・ベースについては、ブログ記事2010-08-10 藻谷浩介『デフレの正体』日本政策投資銀行 参照

 市場に、ドルや、ユーロや、ポンドが供給される一方、円の量は変わっていません。これを見ても円高・ドル安になるのが分かると思います。

<IS-LM分析>

 金融政策は,LM曲線をシフトさせます。

 中央銀行が景気を刺激するために,利子率rを下げます。貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動.jpg
 
 このシフトに基づいて,財政政策・金融政策の効果について検証しましょう。

 開放経済下(外国との資本移動が自由な場合=日本・米・EUなど)では,金融政策は有効だとされています。拡張的金融政策で,貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動 2.jpg

 新しいLM①曲線のもとで,新しい均衡点はE①になります。このとき,GDP=Yは増加していますY①。また,自国の利子率rは低下しています。

is-lm 4.jpg

 国内利子率rが外国より低い場合,利子率の高い国で資本を運用した方が利益は大きいので,資本が日本から外国に移動します。円売りドル買いになります。円安・ドル高で,輸出増・輸入減になります。輸出は総需要を増やします。

Y②=C+I(r)+G+(EX-IM)②

②効果により,新たな均衡点E②では,GDP=Yはさらに増加していますY②

金融緩和⇒金利低下⇒自国通貨安⇒輸出拡大競争?⇒GDP(Y)アップ

 このように、リーマン・ショック以降、各国は教科書的に「IS-LM的に・・・」金融政策を出動(金融緩和)したのです。スタンダードな政策です。

 一方、世界標準とは異なる「金融緩和」しかしていない日本は、「米欧の過度な金融緩和が生んだ投機資金が為替相場に流入したため(スティグリッツ米コロンビア大教授) 北海道新聞 同」に、円高になっています。

 アメリカは、「景気の低下=2番底・3番底」を避けるため、目下「物価上昇が1%を割り込み、デフレが懸念」されるため、今後も金融緩和を行わざるを得ません

 別に「通貨安競争」なるものをやりたくて行っているわけではありません。世界中(少なくとも日本)が金融緩和を行えば、ドル安にはなりません(実情は、インドのように金融引き締めに動かざるを得ない、インフレ国があります)。

 ただ、結果的にドル安になり、オバマ大統領が掲げた「輸出倍増計画」が実現できる(実際には無理でしょうが・・・)方向にあるので、「ドル安」黙認なのです。

 日本?・・・。「為替介入=円売りドル買い」なんかしない(しても、効果はごくわずか)で、正々堂々と、教科書的な「金融緩和」を行えばよいのです。もしも「円高」を防ぎたいのであれば・・・。誰も非難できません。

 中国? 中国は「唯我独尊」状態・・・外貨準備増大・・・を爆進中です。

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岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その4

シノドス ジャーナル( SYNODOS JOURNAL )
http://synodos.livedoor.biz/

に、『人口減少デフレ論の問題点 菅原晃』が連載中(2010.10.8~)です。

合わせてご覧ください。


<流動性のわな その4>

岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1

中央銀行は金利を操作することで経済の安定化を図っている。しかし名目金利がゼロに近づき…金利の操作という伝統的な金融政策の手段が失われたとき,つぎに打つ手は何か。

金利が非常に低くなり、それ以上の貨幣供給が景気刺激効果を持たない状態「流動性の罠(わな)」と呼ばれる。…世界的な経済危機によって、流動性の罠は日本だけに生じた特殊な問題ではなく、どの国でも直面するかもしれない問題であることが明らかになった。


 いきなり、「流動性の罠」と言われても、チンプンカンプンだと思います。経済学ではおなじみの用語ですが、知らない人にとっては、とても難しい話です。

 ケインズが示した概念です。しかもケインズがその著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」でちょこっとだけ触れた部分です。彼の思想のおまけみたいな部分注)です。

注)分量的にはおまけですが、理論的には、核心部分と言っても過言ではありません。


J・M・ケインズ 『雇用・利子及び貨幣の一般理論』塩野谷祐一訳 東洋経済新報社1988 p204

 …利子率がある水準にまで低下した後ではほとんどすべての人が極めて低い率のしか産まない債権を保有するよりも現金の方を選好するという意味において、流動性選好が事実上絶対的となる可能性がある。…しかしこの極限的な場合は将来実際に重要になるかもしれないが、私は現在までのところその例を知らない


 こんな現象が、60年後の現在、実際に起こっていると考えられているのですから、不思議なことです。

(2)とっても難しい説明 その2

中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143

いままでの議論の上では~貨幣需要(資産需要)は利子率が上昇すれば減少し、利子率が下落すれば増加するとされていました。しかし、利子率に対する需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合「流動性のわな(liquidity trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても、利子率はそれ以上下がらなくなります。
 
中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143
流動性のわな.jpg

 難しいですね。このグラフの裏には、「IS-LMモデル」という理論が存在します。

 まず、「IS-LMモデル」について、学んでゆきましょう。

 ケインズの「有効需要」の原理を、ヒックスという経済学者(ノーベル経済学賞受賞)が簡潔に示したものです。もちろん、「IS-LM分析」で、すべての経済政策を説明できるわけではありませんが、政策の全体像を見るには適した理論です。

IS-LM曲線.jpg

 IS-LM曲線は、国民所得Y(=GDP)と、利子率を示します。

IS曲線は、財市場(モノ・サービス=いわゆる商品)を均衡(バランス)させるような利子率と国民所得の組み合わせです。ISのIはInvestment、投資です。SはSaving、貯蓄です。「投資-貯蓄曲線」です。財(モノ・サービス)市場を示します。

LM曲線は、貨幣市場(金融市場)の均衡(バランス)を維持する利子率と国民所得の組み合わせです。LはLiquidity Preference、貨幣への選び方の好み(流動性選好)です。MはMoney Supply、貨幣の供給量です。貨幣市場のL(需要)M(供給)を示します。

<金融政策>

 金融政策は,LM曲線をシフトさせます。

 日銀が景気を刺激するために,利子率rを下げます。貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動.jpg
 
 このシフトに基づいて,財政政策・金融政策の効果について検証しましょう。

 開放経済下(外国との資本移動が自由な場合=日本・米・EUなど)では,金融政策は有効だとされています。拡張的金融政策で,貨幣の供給=マネタリーベースを増やし,利子率rを下げます。

IS-LM LM移動 2.jpg

 新しいLM①曲線のもとで,新しい均衡点はE①になります。このとき,GDP=Yは増加していますY①。また,自国の利子率rは低下しています。

is-lm 4.jpg

 国内利子率rが外国より低い場合,利子率の高い国で資本を運用した方が利益は大きいので,資本が日本から外国に移動します。円売りドル買いになります。円安・ドル高で,輸出増・輸入減になります。輸出は総需要を増やします。

Y②=C+I(r)+G+(EX-IM)②

②効果により,新たな均衡点E②では,GDP=Yはさらに増加していますY②

 変動為替相場制で,資本の国際移動が行われる開放経済下では,金融政策は有効とされています。

<流動性のわな>

松尾匡 立命館教授『不況は人災です』筑摩書房 2010

P80~
 家計も、銀行もみんなおカネが入っても貸し付けや債権や株などに回さずに、全部おカネのまま持ってしまう―こういう状況のことを流動性のわなと言います。…九十年代の終わり頃から日本経済は、この流動性のわなの状態にあると言われました。
そうであれば、日銀が幾らお金を増やしてもそれが貯め込まれて世の中に出回らないのも当然です。

P188~
 まさにおカネをどんどん飲み込むブラックホールです。…「ゼロ金利」…。…世の中で一番低いこの利子率が、おカネをそのまま持つ時と同じゼロになった…。…もうそれよりも利子率が下がらなくなるのです。流動性のわなそのものです。


中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143

いままでの議論の上では~貨幣需要(資産需要)は利子率が上昇すれば減少し、利子率が下落すれば増加するとされていました。しかし、利子率に対する需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合「流動性のわな(liquidity trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても、利子率はそれ以上下がらなくなります。
 

 この流動性のわなの場合、LM曲線の傾きは、無限に水平近くなります

1流動性のわな.jpg

 この場合、いくら、マネーサプライを増やしても、「ブラックホール」に飲み込まれます。

金融政策によって、利子率(ゼロ金利)を下げることはできません。これを流動性のわなと言います。

流動性のわな2.jpg

 そこで、今までの経済学(ケインズや、古典派)では扱っていない、未知の領域を模索することになります。

 スティグリッツ、クルーグマン、マンキューなどは、「未知の領域」を扱う経済学を述べています。それらは、「市場に任せておいては、何らかの形で失敗する」という,「ニューケインズ理論」です。

今、大学の入門段階で教えられている経済学(標準理論)は、「古典派」のものではありません。例えば、「マンキュー経済学」の本は、本当にわかりやすい本として有名です。

時度ドットコム 2010.10.1
CPI.jpg

 デフレは、本来は、絶対につくはずのない利子が、「貨幣」を持っているだけで、ついてしまう現象です。 

モノの値段が下がる(デフレ)状態だとします。モノの値段が10%下がる(100万円→90万円)と、110万円で買えるのは、1.22個分です。1年前には100万円のモノを1個買えたのですが、名目金利が10%つき、デフレで10%モノの値段が下がると、1.22個買えるのです。モノの価値<カネの価値です

実質金利=名目金利-インフレ率
 20%  = 10% -(-10)%


 デフレの時は、名目金利がたとえ0%でも、モノの下落率分、金利がつくのと同じことなのです。


 デフレなら、名目金利がゼロでも、実質金利が付きます。誰も利子率の低い「債券(投資)」なんかしません。

 土地や、株に「カネ」が流れ込んだ、不動産バブルがありました。今は、「貨幣バブル」です。貨幣に需要が向かっているのです。「何も買うものがなくても、貨幣を持っておこう=流動性のわな」です。

財市場=貨幣市場

 だから、「貨幣を持っていても得にならないよ」という政策が必要です。これが今までの経済学(ケインズや、古典派)では扱っていない、未知の領域の経済学です。すなわち、「貨幣価値の下落=インフレ」を目指す理論なのです。

J・M・ケインズ 『雇用・利子及び貨幣の一般理論』塩野谷祐一訳 東洋経済新報社1988 p204
 …利子率がある水準にまで低下した後ではほとんどすべての人が極めて低い率のしか産まない債権を保有するよりも現金の方を選好するという意味において、流動性選好が事実上絶対的となる可能性がある。
…しかしこの極限的な場合は将来実際に重要になるかもしれないが、私は現在までのところその例を知らない


 ケインズでさえ、(理論的にはあるものの)想定していなかった現実が、60年後の現在、実際に起こっていると考えられているのです・・・これを認めない経済学者は皆無でしょう・・・から、不思議なことです。

岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1

…中央銀行は金利を操作することで経済の安定化を図っている。しかし名目金利がゼロに近づき…金利の操作という伝統的な金融政策の手段が失われたとき,つぎに打つ手は何か。

…金利が非常に低くなり、それ以上の貨幣供給が景気刺激効果を持たない状態「流動性の罠(わな)」と呼ばれる。…世界的な経済危機によって、流動性の罠は日本だけに生じた特殊な問題ではなく、どの国でも直面するかもしれない問題であることが明らかになった。


 余談ですが、藻谷浩介『デフレの正体』がウソなのは、少なくとも「財市場と貨幣市場の均衡」ではなく(古典派は「財市場と貨幣市場と労働市場の同時均衡」さえ扱います)、「財市場」のみを扱っているからです。

 野球で言えば、ピッチャーと、野手のボールの投げ方が違うのに、それに気づかずに、「野球論」を語っているようなものです。

 ピッチャーは、真後ろから見ると、手の平を見せて腕を引きます。野手の投げ方は手の甲しか見えません。これは、投げ方(理論)が根本的に違うからです。

 でも、知らない人には、この違いが分かりません。同じ投げ方(現象)に見えています。これが、「経済現象」と「経済学」の違いなのです。

 経済学的見方は、勉強しないと(これが大変なのですが)目に見えないのです。

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岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その3

シノドス ジャーナル( SYNODOS JOURNAL )
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合わせてご覧ください。


<流動性のわな その3>

岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1

中央銀行は金利を操作することで経済の安定化を図っている。しかし名目金利がゼロに近づき…金利の操作という伝統的な金融政策の手段が失われたとき,つぎに打つ手は何か。

金利が非常に低くなり、それ以上の貨幣供給が景気刺激効果を持たない状態「流動性の罠(わな)」と呼ばれる。…世界的な経済危機によって、流動性の罠は日本だけに生じた特殊な問題ではなく、どの国でも直面するかもしれない問題であることが明らかになった。


 いきなり、「流動性の罠」と言われても、チンプンカンプンだと思います。経済学ではおなじみの用語ですが、知らない人にとっては、とても難しい話です。

 ケインズが示した概念です。しかもケインズがその著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」でちょこっとだけ触れた部分です。彼の思想のおまけみたいな部分注)です。

注)分量的にはおまけですが、理論的には、核心部分と言っても過言ではありません。

J・M・ケインズ 『雇用・利子及び貨幣の一般理論』塩野谷祐一訳 東洋経済新報社1988 p204

 …利子率がある水準にまで低下した後ではほとんどすべての人が極めて低い率のしか産まない債権を保有するよりも現金の方を選好するという意味において、流動性選好が事実上絶対的となる可能性がある。…しかしこの極限的な場合は将来実際に重要になるかもしれないが、私は現在までのところその例を知らない


 こんな現象が、60年後の現在、実際に起こっていると考えられているのですから、不思議なことです。

(2)とっても難しい説明 その2

中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143

いままでの議論の上では~貨幣需要(資産需要)は利子率が上昇すれば減少し、利子率が下落すれば増加するとされていました。しかし、利子率に対する需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合「流動性のわな(liquidity trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても、利子率はそれ以上下がらなくなります。
 
中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143
流動性のわな.jpg

 難しいですね。このグラフの裏には、「IS-LMモデル」という理論が存在します。

 まず、「IS-LMモデル」について、学んでゆきましょう。

 ケインズの「有効需要」の原理を、ヒックスという経済学者(ノーベル経済学賞受賞)が簡潔に示したものです。もちろん、「IS-LM分析」で、すべての経済政策を説明できるわけではありませんが、政策の全体像を見るには適した理論です。

IS-LM曲線.jpg

 IS-LM曲線は、国民所得Y(=GDP)と、利子率を示します。

IS曲線は、財市場(モノ・サービス=いわゆる商品)を均衡(バランス)させるような利子率と国民所得の組み合わせです。ISのIはInvestment、投資です。SはSaving、貯蓄です。「投資-貯蓄曲線」です。財(モノ・サービス)市場を示します。

LM曲線は、貨幣市場(金融市場)の均衡(バランス)を維持する利子率と国民所得の組み合わせです。LはLiquidity Preference、貨幣への選び方の好み(流動性選好)です。MはMoney Supply、貨幣の供給量です。貨幣市場のL(需要)M(供給)を示します。

<IS曲線>

 GDPの三面等価において、総需要Yは、C+I+G+(EX-IM) で示されました。「家計が主体の消費C」・「企業が主体の投資I」・「政府(による投資と消費)G」・「純輸出(EX-IM)」です。

三面等価 2008

 2008年の日本のYは505兆円、それを構成するCは291兆円、Iは119兆円、Gは93兆円、(EX-IM)は735億円です。  
 日本のGDP=Yは、消費Cが増えるか、投資Iが増えるか、政府Gが増えるか、純輸出(EX-IM)が増えれば、増加することがわかります。投資Iが増えれば、Yは増えるのです。

 投資Iは、利子率r(金利)の影響を受けると考えられています。企業は、投資を行うための資金の多くを、銀行からの融資、社債の発行・株式の発行で調達しています。利子率r(金利)が上がれば、資金を集めるコストが増え、投資は減少すると考えられます。

投資 利子率.jpg

 今、ある企業が、いろいろな投資事業を計画しているとします。①事業は年に9%の収益があるとします。②事業は8%、③事業は7%の収益が予想されます。資金をつぎ込めばつぎ込むほど(①事業→⑤事業)、投資の効率は低下します。企業にとって一番良い事業は、少ないコストで、最大の利益を生む事業です。

 銀行から借り入れをする時の利子率が6%の場合、企業は①事業・②事業・③事業を行います。④・⑤事業は、6%の金利出で資金を借り入れて投資しても赤字になるので、投資はしません。
 利子率が3%になった場合、④事業は収益が見込まれますので、投資するでしょう。このように、投資Iは、利子率rの影響を受けます
三面等価 2008

供給量Y = 需要量C+I(r)+G+(EX-IM)               

y供給 需要.jpg

 Iが増大すると、Yが増大します。Iは利子率rに依存します。

 Yが増大すると、C消費もS貯蓄も増えます。(Y→Y(1))貯蓄Sが増えた分だけ、Iも増えないと、左辺と右辺が均衡しません。

 Y(1)>C+I(r)+G+(EX-IM)

y供給量 需要 2.jpg

 投資Iが増えるためには、利子率rが低下しなければなりません。Iが増加(I→I(1))し、左辺と右辺が均衡します。

Y(1)=C+I(1)(r)+G+(EX-IM)

y供給量 需要量 3.jpg

 このように、利子率rが下がると、投資Iが増え、Yが増加します。このときの均衡GDP=Yと、利子率rとの関係を示す曲線をIS曲線といい右下がりで描かれます。

 IS曲線は、財市場(モノ・サービス=いわゆる商品)を均衡(バランス)させるような利子率rと国民所得Yの組み合わせを示しています。

IS曲線.jpg

<IS-LM曲線>

 以上(前回)のIS曲線・LM曲線を同一グラフに重ねてみます。IS曲線は,財市場(モノ・サービス=いわゆる商品),LM曲線は,貨幣市場の均衡を示しました。両曲線の交点は,財市場と貨幣市場の両方を均衡(バランス)させるYとrの組み合わせです。

IS-LM曲線.jpg

 次回は、このグラフを使って、金融政策(マネー供給を増やし、利子率を下げる)について検証します。

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岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1 その2

<流動性のわな その2>

岩本康志 東大 「経済教室」日経H21.6.1

中央銀行は金利を操作することで経済の安定化を図っている。しかし名目金利がゼロに近づき…金利の操作という伝統的な金融政策の手段が失われたとき,つぎに打つ手は何か。

金利が非常に低くなり、それ以上の貨幣供給が景気刺激効果を持たない状態「流動性の罠(わな)」と呼ばれる。…世界的な経済危機によって、流動性の罠は日本だけに生じた特殊な問題ではなく、どの国でも直面するかもしれない問題であることが明らかになった。


 いきなり、「流動性の罠」と言われても、チンプンカンプンだと思います。経済学ではおなじみの用語ですが、知らない人にとっては、とても難しい話です。

 ケインズが示した概念です。しかもケインズがその著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」でちょこっとだけ触れた部分です。彼の思想のおまけみたいな部分注)です。

注)分量的にはおまけですが、理論的には、核心部分と言っても過言ではありません。

J・M・ケインズ 『雇用・利子及び貨幣の一般理論』塩野谷祐一訳 東洋経済新報社1988 p204

 …利子率がある水準にまで低下した後ではほとんどすべての人が極めて低い率のしか産まない債権を保有するよりも現金の方を選好するという意味において、流動性選好が事実上絶対的となる可能性がある。…しかしこの極限的な場合は将来実際に重要になるかもしれないが、私は現在までのところその例を知らない


 こんな現象が、60年後の現在、実際に起こっていると考えられているのですから、不思議なことです。

(2)とっても難しい説明 その1

伊藤元重『入門経済学 第2版』日本評論社 2005 p208

…貨幣量が変化しても、利子率はまったく変化しません。ケインズはこのような状況を流動性の罠(liquidity trap)と呼びましたが、このような状況下では金融政策はまったく効果を持たなくなります。

 流動性の罠とは、あるところまで市場利子率が下がっていくと、人々はそれ以下には下がらないと強固に信じられる状況を示します。利子率がある水準よりも下がらないということは、債券の価格がそれに対応する水準より上がらないということですので、わずかな金利低下(債券価格の上昇)に対して、多くの人が債券から貨幣への乗り換え(貨幣需要)をするのです。この結果、貨幣需要曲線は水平に近くなります。


中谷巌『入門マクロ経済学 第5版』日本評論社 2007 p143

いままでの議論の上では~貨幣需要(資産需要)は利子率が上昇すれば減少し、利子率が下落すれば増加するとされていました。しかし、利子率に対する需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合「流動性のわな(liquidity trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても、利子率はそれ以上下がらなくなります。
 

流動性のわな.jpg

 難しいですね。このグラフの裏には、「IS-LMモデル」という理論が存在します。

 まず、「IS-LMモデル」について、学んでゆきましょう。

 ケインズの「有効需要」の原理を、ヒックスという経済学者(ノーベル経済学賞受賞)が簡潔に示したものです。もちろん、「IS-LM分析」で、すべての経済政策を説明できるわけではありませんが、政策の全体像を見るには適した理論です。

IS-LM曲線.jpg

 IS-LM曲線は、国民所得Y(=GDP)と、利子率を示します。

IS曲線は、財市場(モノ・サービス=いわゆる商品)を均衡(バランス)させるような利子率と国民所得の組み合わせです。ISのIはInvestment、投資です。SはSaving、貯蓄です。「投資-貯蓄曲線」です。財(モノ・サービス)市場を示します。

LM曲線は、貨幣市場(金融市場)の均衡(バランス)を維持する利子率と国民所得の組み合わせです。LはLiquidity Preference、貨幣への選び方の好み(流動性選好)です。MはMoney Supply、貨幣の供給量です。貨幣市場のL(需要)M(供給)を示します。

 では、これらの曲線が、どのように導かれるのかを、見てみましょう。

<LM曲線>

 LM曲線は、貨幣市場(金融市場)の均衡(バランス)を維持する利子率rと国民所得Yの組み合わせです。

貨幣市場とは、(1)貨幣の供給=(2)貨幣の需要となる点です。

 (2)貨幣の需要が多い時は、需要>供給なので、利子率rがUPします。

貨幣需要 供給1.jpg

 例えば、景気の上昇局面です。企業は積極的に投資を拡大しようとします。銀行からの借り入れによって資金を調達します。 「貸してほしい」という企業数が増えますので、銀行は、「もっとも高い利子率r」を示したところに融資します。

 逆に需要<供給の場合は、利子率rはDOWNします。不景気の場合、企業は投資を控えます。銀行は借りてほしいので、利子率rを下げます。企業は「もっとも低い利子率r」を提示した銀行から融資を受けます。

貨幣需要 供給2.jpg

 (2)貨幣(現・預金)の需要は、「①取引需要②資産需要」の総量です。

①取引需要」とは、毎日の買い物や、企業による銀行からの借り入れ・投資など、「取引」するために貨幣を必要とする需用です。一般的に、我々の所得GDP=Yが増えると、「①取引需要」は増えます。私たちは、給料やアルバイト代が増えたら、モノやサービスの購入を増やそうとします。日本全体のマクロ経済活動が活発化すると、取引に必要な貨幣の需要も増加します。

②資産需要」とは、「資産として貨幣(現・預金)を持とう」という需要のことです。貨幣は富を貯蔵する手段にもなります。さらに、資産需要には、国債などの債券需要というのもあります。

流動性選好2.jpg

 図でいうと、「消費に使うカネ」が「①取引需要」です。また、「使わなかったカネ」が「②資産需要」です。


 債券需要は、利子率rが高くなると、増えます。利子率rが高くなると、「現・預金」より、「債権」で持とうという人が増えます。利子率10%→20%→30%なら、今使う「現・預金」を最低限にして、「債券」で運用しようとします。逆に、利子率が0.01%なら、「債権なんか持たないで、現金で持っていても同じだ」と考える人が増えます。「②資産需要」は利子率rによって増減します。

「現・預金」で持つか、「債券(誰かに貸す)」か=利子率rが影響

流動性選好 3.jpg

 まとめると、次のようになります。
取引需要 資産需要.jpg

取引需要 資産需要 図.jpg

 (2)貨幣需要については以上のようになります。

 次に(1)貨幣供給です。(1)貨幣供給は、中央銀行(日銀)が管理しているマネタリーベースのことです。こちらは、日銀が、利子率と独立に確定できます。政策によって決められますので、ここでは与えられた数値(所与)=一定として扱います。

1貨幣供給 貨幣需要.jpg

 このように、貨幣市場の需要と供給が均衡しているとします。この状態から、(Y,r)が変化したとします。我々の所得GDP=Yが増えると、「①取引需要」は増えますので、世の中でより多くの現・預金が必要になります。(2)貨幣需要が増えます

取引需要 資産需要2.jpg

 しかし、需要>供給となり、均衡(バランス)がとれません。貨幣の需給が均衡するためには、利子率r上昇によって、 「②資産需要」を減らす必要があります。

取引需要 貨幣需要3.jpg

 逆に、Yが減少したときには、「①取引需要」が減少するので、それにともなって、rが低下して「②資産需要」が増加します。

 貨幣市場の均衡GDP=Yと、利子率rとの関係を示す曲線をLM曲線といい右上がりで描かれます。

LM曲線は、貨幣市場を均衡(バランス)させるような利子率rと国民所得Yの組み合わせを示しています。

LM曲線.jpg

続く

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