空洞化は神話

<空洞化は神話>

 産業空洞化(海外に進出する企業は、その分日本国内の雇用を減らし、日本国内の投資を減らすことになる)など、現実的にも、理論的にもありません。それでも、新聞には、「空洞化」の文字が躍ります。
 ということは、ポジション・トークか、あるいは、本当に知らないから使うのか・・・どうも、世の中の常識は後者のようです。

日経H24.11.19『衰退回避へ成長策競え』
・・・たとえば製造業の空洞化を加速させる円高は、だれのせいだろう。金融緩和が遅れる日銀か。為替介入に尻込みする財務省か。



日経H24.1.31~連載『経常収支の黒字は続くか③』
 中長期的にみても、輸出が伸び悩むリスクがある。その理由が企業の海外移転、いわゆる産業の空洞化である。



日経H24.11.1『富民 大機小機』
19世紀末、英国は製造業の空洞化で技術開発の成果を産業化できずに衰退した。



日経H24.2.5『日本は経常赤字に陥るか』
吉崎達彦 双日総合研究所副所長
国という地理的枠組みにこだわり空洞化を嘆くのではなく、日本企業がグローバルにどう稼ぐのかを考えるべきだろう。



『経常黒字 上半期41%減…赤字転落懸念の声』
毎日新聞 11月8日(木)21時24分配信
財務省が8日発表した12年度上半期(4~9月)国際収支速報で、海外とのモノやサービス、投資などの取引状況を示す経常収支の黒字額が前年同期比41.3%減の2兆7214億円と大幅に減少し、比較可能な85年度以降、上半期として最少となった。市場では、国内産業の空洞化などの構造問題を背景に輸出の落ち込みが長期化し、中長期的には経常赤字に転落するとの懸念も出ている。【永井大介】



 「空洞化」という言葉さえ使ってしまえば、なんでも解説できてしまう、まるで万能薬、現代版魔法の薬のようです。

空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)空洞化のウソ――日本企業の「現地化」戦略 (講談社現代新書)
(2012/07/18)
松島 大輔

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松島大輔『空洞化のウソ』講談社新書2012

p17
「空洞化」論についてはこれまで多くの議論がなされてきました。しかし、日本企業の海外進出、特に「現地化」によって国内産業が「空洞化」してきた、という学理的根拠、実証結果はありません。そもそも空洞化という検証自体が極めて曖昧かつ直感的な議論…中村吉明、渋谷稔両氏の『空洞化現象とは何か』(1994年)…によれば「空洞化」とは「一国の生産拠点が海外へ移転すること(海外直接投資)によって(あるいは、それに伴う逆輸入の増加によって)、国内の雇用が減少したり、国内産業の技術水準が停滞し、さらに低下する現象」であるとされています。その意味で、空洞化とはまず国内雇用の減少、すなわち雇用の空洞化を意味します。

p24
…関西地方の企業複数社から聞いた発言は衝撃でした。もはや海外現地子会社からの送金なくしては日本での操業も立ち行かないというのです。つまり子(海外子会社)からの仕送り(配当)なくしては親(日本本社)は事業継続ができないという状態にたち至っているということです。「空洞化」、国内に残るか否か、というどころの話では、もはやない。「海外なくして国内なし」、という状況にあるのです。



『経済財政白書』2011年度

海外生産の拡大が国内空洞化、ひいては雇用喪失につながるという懸念があるが、実際にそうだろうか。
内閣府「企業行動に関するアンケート調査」によれば・・・2010年度調査の結果では、海外生産比率を増加させる意向の企業は、横ばい又は減少させる意向の企業に比べ雇用見通しのプラス幅が大きくなっている。・・・2003年当時と違って、最近では旺盛な海外需要の伸びに対応するため海外に生産拠点を設ける企業が増え、海外生産拠点の補完的な役割を果たすような本社機能の拡充に伴い、雇用見通しが明るくなった可能性がある。

産業空洞化 空洞化



 上記グラフを見ると、2010年度は、海外からの自社の輸入比率:海外生産比率(右%)を高めようとする企業ほど(緑色),今後3年間の雇用見通し(左%)もプラスであることが分かります。

 そもそも、企業が海外に拠点を移し、直接投資を増やすと、その分国内の企業活動を減らすはず・・・(このブログでいつも否定している、経済におけるゼロ・サムという間違った考え方に基づく)という考え方など、10年も前に否定されています。

『経済財政白書』2002年度

…対外直接投資は、国内設備投資を代替し、国内における生産基盤の縮小をもたらすとの連想から、しばしば産業空洞化の象徴のように受け取られるが、実際に対外直接投資と国内設備投資の間にはどのような関係があるのだろうか。
…実際に、対外直接投資を縦軸に、国内設備投資を横軸にとってみると…国内設備投資が増加するときには対外直接投資も増加し、国内設備投資が減少するときには対外直接投資も減少するという大まかな関係が見て取れ、両者が単純な代替関係にあるわけではないことが分かる

産業空洞化 空洞化2




 海外投資が多いほど、国内投資も多いことが分かります。

 また、一番厳しそうな、中小企業においても、海外に進出した企業ほど、国内従業員の数を増やしていることが分かります。

2012年『中小企業白書』

産業空洞化 空洞化 雇用 拡大



 ゼロ・サムの空洞化なんて、そもそもないのです。


<安い中国製品が、日本に入ってきて、空洞化する>

 こんな馬鹿なこともありません。例の黄金率「輸入増=輸出増」です。

中国 対日 輸出 輸入 

対日輸出を伸ばせば伸ばすほど、対日輸入も増えています。

空洞化は神話なのです。

< 追記 日本はサービス業の国>

 もしも、空洞化を、製造業雇用者数の減少を言うのなら、そんなもの70年をピークに下がり続けています。

産業構造の変化 新.jpg

産業別就業者構成比.jpg


 その国が豊かになればなるほど、第1次産業→第2次産業→第3次産業へと、雇用・所得も変化します。これを産業構造の高度化と言います。

実教出版「2012 新政治・経済資料」
P247
ペティ・クラークの法則
 産業の比率が、一般に、経済の発展に従って、第1次産業(農業や水産業)から第2次産業(工業)へ、そして第2位次産業から第3次産業(金融・サービス・流通業)へと移行することを言う。


 

 豊かになればなるほど、モノではなくて、形のない商品への支出が増えます。旅行、エステ、情報、外食、レジャー、ネットサービス、スマホ、教育、文化講座・・・・etc etc・・・。日本は、すでに、高度成長時代から、モノづくりの国ではありませんし、そもそもモノづくり(輸出で稼ぐ)の国だったことは一度もありません。

<追記2>

川島博之『作り過ぎが日本の農業をダメにする』日本経済新聞出版社 2011

p125
 急速に近代化した日本では、この地方人口をどうするかが大きな問題になっています。食料の生産が容易になったために、農村に多くの人口はいらないと言われても、ついこの前まで、正確に言えば昭和30年頃まで農村に多くの人が住んでいました。そして、米作りに従事していたのです。そうしないと必要な食料を生産することはできなかったのです。

そのような状況はここ50年程の間に大きく変わってしまいました。食料の生産が極めて容易なったためです。もはや地方に多くの人が住む必要はないのです。しかし、人々の心は、そのような急速な状況の変化についていくことができません。

それは地方の人の心の奥底に、地方が豊かだった江戸時代の姿が残っているためでしょう。そのために多くの人は地方に人がいなくなったという事実を認めることができないのです。それは「過疎化対策」などという言葉を生み出し、ひいては日本の農業政策にも影響を与えています。


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日経 大機小機 隅田川さん

<日経 大機小機 隅田川さん>

 日経のコラム、『大機小機』に寄稿している隅田川さん(何度かこのブログで取り上げさせていただいています)ですが、法政大学の小峰先生ではないでしょうか?

『日経ビジネスオンライン』に書いた記事内容と、主張が同じです。

日経H23.9.9
大機小機


小峰隆夫のワンクラス上の日本経済論
2011年8月24日(水)

『空洞化は正しい理由で懸念しよう
企業が抜けた穴がすぐ埋まるよう資源の流動化が重要』


危機感高まる空洞化問題

 空洞化とは、企業が活動の拠点を国内から海外に移してしまうことにより、国内の経済活動が「カラ」になってしまい、所得や雇用を生み出す力が低下することをいう。この「空洞化」問題がこのところ大いに注目されているのだが、これには2つの背景がありそうだ。

 1つは、東日本大震災である。3月の震災は、日本が築き上げてきたサプライチェーン(供給網)が災害というリスクにいかに弱いものかを再認識するきっかけとなった。また、原発事故によって電力不足問題も恒常化する可能性が出てきた。こうした事態の変化を受けて、日本企業が活動拠点を国内から海外にシフトする動きが出てきている。

 もう1つは円高である。8月に米国国債の格付けが引き下げられたことをきっかけに、世界の資金が安全資産にシフトした。諸外国の中で円資産は相対的に安全と判断されたため、円レートは1ドル75円台にまで急上昇した。円高になれば、外貨建てで見た国内の生産コストは上昇し、逆に海外の生産コストは下がる。これも企業の海外移転の動きを加速させていると言われている。

 こうした空洞化を生じさせる背景は「五重苦」と呼ばれたりしている。具体的には、(1)円高、(2)電力不足、(3)高率の法人税、(4)FTAなどグローバル対応の遅れ、(5)高い賃金コストなどである(具体的な項目は人によって異なる。この5つは「Voice」2011年8月号での伊藤元重氏と経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏の対談で、長谷川氏が指摘したもの)。これだけ企業を取り巻く環境が悪化すれば、日本企業は外に出て行かざるを得ないというわけである。

 多くの人は当然のこととして「空洞化を避けるべきだ」と言う。私も、日本経済の先行きを懸念するその気持ちは良く分かる。しかし「ほぼ全員が同じことを言うようなときには、一度踏みとどまって、本当にそれが正しいのかをよく考えてみたほうがいい」というのが私のモットーである。以下、私の考えを述べていくのだが、行きつく先は「やはり空洞化の動きは懸念される」というものだ。しかし、無闇に懸念すればよいというわけではない。同じ懸念するにしても、正しい理由で懸念する必要がある。これが今回の私の結論である。


空洞化のロジック

 多くの人は「企業が出て行くから空洞化が起きる」と考える。しかし、このプロセスは案外複雑である。少し丁寧にたどってみると、空洞化は次の3つのステップを踏んで生じるはずである。

 第1のステップは、企業が活動拠点を国内から海外に広げていくことだ。これは直接投資を通じたグローバル化の動きだと考えることができる。

 第2のステップは、海外への事業展開を強めた結果、国内の事業活動が縮小することだ。これは企業の海外事業展開と国内の事業活動が「代替的」と仮定していることになる。

 第3のステップは、企業が抜けることによって生じた国内の経済活動の穴を別の経済活動によって埋めることができないことだ。これは、国内の資源移動が硬直的だということを意味している。以下、それぞれのステップについて吟味してみよう。


グローバル化と企業の対外直接投資

 まず第1のステップから考えよう。

 企業活動のグローバル化には「貿易」を通じたものと「直接投資」を通じたものがある。1970年代までの日本企業のグローバル化は圧倒的に「貿易」中心であった。日本にはないエネルギー、原材料を輸入し、国内で工業製品を製造し、それを輸出していた。この場合は、国内に生産拠点があり、輸入するものは国内では生産できないものが中心だから、空洞化の議論は生じない。

 80年代以降、日本企業のグローバル化はさらに深化し、生産・販売さらには研究開発などの企業活動拠点を国境を越えて配置するようになった。こうした国境を越えた企業活動の状況は、海外直接投資の動きによって知ることができる。海外投資には「直接投資」と「間接投資」がある。

 直接投資というのは、海外の企業の株式を取得して経営に乗り出したり(M&A)、自らが工場を建設して生産に乗り出したり(グリーン・フィールド投資)するための投資を言う。間接投資は、自らが経営を行うのではなく、単なる株式投資や証券投資のことを言う。直接投資の動きがまさに企業の国境を越えた経済活動を示すわけである。

 世界的にも直接投資は基調的に増大している。表は80年代後半以降の世界全体のGDP・貿易・直接投資の伸びを比較したものだ。これを見ると、概ね、GDPよりも貿易の伸びが高く、それよりも直接投資の伸びがさらに高いことが分かる。ただし、2000年以降は直接投資の伸びは停滞したり、急減したりしている。これは、サブプライム危機、リーマンショックなどがあったためだろう。経済規模よりも貿易の拡大テンポが速いということは、輸出入を通じた結びつきが一層深まっているということであり、それよりも直接投資の伸びが高いということは、企業活動そのもののグローバル化がさらに急テンポで進んでいることを示している。

直接投資 伸び率.jpg
出所:UNCTAD ”World Investment Report 2010”による。

 日本の海外直接投資も高い伸びを続けてきた(ただし、日本の数字は対外直接投資から対内直接投資を差し引いたネットなので、世界全体とは単純には比較できない)。特に伸びが高まったのは85年のプラザ合意による円高以降のことであり、その金額は85年の1兆4000億円からピークの2008年には10兆7000億円に達している。
 
 こうして企業活動が国境を越えて拡大していったことにより、日本企業の海外生産比率は傾向的に高まってきている。内閣府が毎年実施している「企業行動に関するアンケート調査」によると、日本の製造業の海外現地生産比率(企業の生産全体に占める海外生産の比率)は、90年度4.6%→2000年度11.1%→2010年度18.0%と上昇している。特に加工組立産業については、同6.5%→15.9%→25.1%という具合である。
 
 こうした企業活動のグローバル化は、積極的に進めるべきものである。国境を越えてヒト、モノ、カネが自由に動くようになっていくのは世界的な趨勢である。その中で日本の企業だけが国内にとどまっていたら、発展の可能性を自ら摘むことになる。このことは、もし日本の企業が海外に活動拠点を配置していなかったらどうなっていたか考えればよい。80年代半ば以降、円レートが上昇する中で、日本企業は生き残りをかけて海外に進出していった。仮に、海外展開をしないで、「国内で生産して輸出する」というやり方に固執していたら、今頃日本企業のシェアは海外企業に軒並み奪われてしまっていただろう。

 企業の直接投資展開は、アジア全体の成長のカギでもあった。新興国に追い上げられた日本産業は、付加価値の低い生産分野を海外に移転し、国内には付加価値の高い産業を育ててきた。これによって、それまで日本が担ってきた産業がアジアに移転され、アジアが成長した。事実、アジアの成長が本格化したのは、80年代後半以降、日本企業のアジア進出が起きてからのことである。これがいわゆる「動態的国際分業」という考え方である。

 アジアを先導する日本は、産業の一部を次々に後続のアジア諸国に譲り渡し、自らは付加価値の高い産業にシフトしていく。アジアの中では、日本→NIES諸国・地域→ASEAN諸国→中国といった順でこうした産業の受け渡しが行われてきた。その結果アジア全体の産業構造が高度化していったのである。
 空洞化だからといって、企業活動のグローバル化の歩みを遅らせようとするのは間違いなのだ。


海外投資と国内投資は代替的か

 ステップ2に移ろう。空洞化の議論は、暗黙のうちに企業が海外で設備投資を行って生産拠点を移すと、その分国内の企業活動が減ることを前提にしている。しかし、これは必ずしも自明ではない。

 これは、国内投資と海外投資が代替的か補完的かという問題である。「海外か国内か」という代替的関係である場合は、海外で投資が増えれば国内の投資が減る。この場合は、空洞化の危険がある。しかし、「海外で増やす時には、国内も増やす」という補完的関係である場合は、海外と国内の企業活動が並行的に増えるから空洞化は生じない。

 実際のところはどうなのか。これは実証してみるしかないのだが、私の見る限りでは「案外補完的である」という結論が多いようだ。例えば、2002年の内閣府「経済財政白書」では、対外直接投資と国内設備投資の関係を分析し、対外投資が増える局面では、国内設備投資も増えていることが多いとしている(第3章第1節『「産業空洞化」懸念をどう捉えるか』のコラム)。

 また、2011年8月に公表された2011年の「経済財政白書」では、海外生産比率を増加させる企業は、横ばいまたは減少の企業に比べて雇用見通しのプラス幅が大きいという分析を行っている(第2章第2節 「グローバル化の国内経済への影響」のコラム)。

 つまり、海外への事業展開を積極化している企業は、必ずしもその分国内の設備投資を減らしたり、雇用を減らしたりしているわけではない。むしろ逆に、海外進出を図るような企業は、国内設備投資も増やし、雇用も増やす傾向があるということだ。

 これは考えてみれば納得できる。一つは、積極的に海外に出ていくような企業は、元気な企業であり、元気な企業は国内の活動も伸びていることが多いということであり、もう一つは、企業活動の再配置をする中で、一部が海外に出ていっても、別の分野(研究開発など)では国内の活動を強化する場合が多いということであろう。
本当の問題は国内資源の流動性が乏しいこと

 最後はステップ3である。マクロ的には前述のような議論が成立したとしても、個々の事例では、企業が海外に移転して、その分すっぽり穴が開いてしまう場合があるかもしれない。しかしその場合でも、それによって浮いた資源(労働力や資本、土地など)が他の分野で生かされれば、結果的に空洞化は生じない。

 ましてや日本の今後を考えると、一方では人口に占める労働力人口の低下によって、長期的には労働力が足りなくなり、他方では、高齢化に伴い、医療・介護・福祉などの需要が出てくる。すると、むしろこれまで国内で行われていた経済活動を海外に移し、それによって浮いた分を新しく伸びてくる分野に振り向けたほうが良いとさえ言える。

 空洞化論が想定するのは、日本の国内資源(特に労働力)の流動性が低く、抜けていった分野の穴が埋まらないという事態である。この点こそが本当に懸念すべき点である。残念ながら空洞化論が想定するように、日本の資源の流動性は低い。労働力は基本的には最初に就業した企業や職業にとどまる傾向が強く、地域間の流動性も低い。衰退産業から企業が退出して、発展分野にベンチャー企業が輩出するという企業の新陳代謝の動きも弱いからだ。

 これに対しては、空洞化を懸念して企業の海外展開そのものを押さえ込もうとするのではなく、企業が出て行ってもその穴がすぐに埋まるように資源の移動を流動化させることが重要だということになる。


企業活動のグローバル化と国の政策

 以上の議論は、企業を取り巻く環境そのものには大きな問題はなく、「出ていくべき企業は出ていく」という前提に立っている。しかし、現実には必ずしもそうは言えない。国内環境に構造的な問題がある場合には、「国内に残るべき企業まで出ていく」ということが生じ得るからだ。

 1つは、制度的な障害である。税制、社会保障制度などによって企業にどの程度の負担を求めるかは、国の制度設計によって異なる。労働法制などで企業活動が制約されればこれも企業にとってのコスト上昇となる。

 こうした点では、制度をめぐる国際競争が展開されていると考えられる。企業が活動しやすい環境を整えれば、海外の企業が集まってきて経済が活性化する。逆に、制度的に遅れをとると企業は出て行ってしまう。日本では、日本企業の海外直接投資は多いが、海外企業の対内直接投資は少ない。このことは、制度的な国際競争の面で日本が遅れをとっていることを示している可能性が強い。

 もう一つは、不確実性の存在である。例えば、最近新しく加わった空洞化要因として、電力不足問題がある。この点については、本当に日本で恒常的に電力が足りなくなるのであれば、それに備えてある程度の企業の海外移転が生ずるのは止むを得ない。しかし、本当の問題は、エネルギー政策がどう展開するのかが分からないという不確実性が大きいことである。企業は長期的な視点で経営資源を配置するから、不確実性が大きいとその分、企業活動の海外流出が加速することになる。

 以上述べてきたことを結論的に要約すると次のようになる。
第1に、空洞化の懸念があるからといって、企業活動のグローバル化の動きそのものを妨げるのは間違いである。

 第2に、基本的には、資源の移動を出来るだけ流動化させ、企業の海外展開がより効率的な国内の資源配分につながるようにすべきである。

 第3に、規制改革などの構造改革、明確なエネルギー政策方針の提示などによって、できるだけ円滑な企業活動が行われるような環境を整備していくべきである。
 

 間違いないですよね。最後の要約1,2,3と、新聞の主張1,2,3は同じですよね。


<産業の空洞化という神話>

 「産業の空洞化」、日本の企業が海外に進出する分、日本の雇用が奪われる(海外に流出する)というのは、実際にはありません。

 上記記事にあるように、日本は1985年当時(1ドル=270円)から、一貫して円高で、その間直接投資は増え続けています。もしも、産業の空洞化なるものが存在するなら、日本は「スカスカ」の国になっています

 そんなことはありませんし、輸出額も輸入額も、85年以降ずっと伸び続けています。

「産業の空洞化」は「神話」なのです。

林俊彦 日経『超国籍化で日本経済強く』H22.8.30

…日本企業は製造業を中心に90年ごろから海外進出を進めてきた。
…製造業全体で海外現地生産を行う企業の割合は、90年度に40.3%だったものが、09年度には67.5%に上昇…。
…海外現地生産比率は、90年度の4.6%が09年度には17.9%になった。

…第二に「雇用の輸出」論とは逆に、海外進出企業は国内の雇用にも貢献している。
…経済産業省…によると、01年度に270万人程度だった現地法人雇用者数は、03年度に350万人となった。そして03年の国内の完全失業者数も350万人である。…これが「雇用が輸出された」との印象を生んだのかもしれない。

 …しかし…現地法人雇用者数の上昇とほぼ同じ割合で日本にある本社の売上高は上昇…。事業拡大に伴って…投資収益を確保しただけではなく、本社の売り上げの上昇も経験している。さらに、05年度から08年度にかけて、海外現法の雇用者数は436万人から452万人に増加したが、同じ期間に本社の常用雇用者数も394万人から422万人に増加している。海外現法の雇用拡大と、国内本社の雇用拡大は、ほぼ同じペースで起こっている

…日本企業の対外進出は国内経済の空洞化をもたらすというより、国内経済の活性化に貢献していると評価できよう




<追記>


日経h23.10.18『ドル安より痛いユーロ安』
…日本総合研究所の試算によると、今年度下半期に円相場が1ドル75円で推移すれば国内製造業の収益は約300億円のプラスとなる。自動車など加工業種の収益は目減りするが、ドル建てで輸入される原料やエネルギーの調達コストが減るからだ。



 円高で国内製造業が崩壊するなど、神話に過ぎません。


 

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林俊彦 同志社大 『超国籍化で日本経済強く』H22.8.30

林俊彦 同志社大 『超国籍化で日本経済強く』H22.8.30

…日本企業は製造業を中心に90年ごろから海外進出を進めてきた。
…製造業全体で海外現地生産を行う企業の割合は、90年度に40.3%だったものが、09年度には67.5%に上昇…。
…海外現地生産比率は、90年度の4.6%が09年度には17.9%になった。


 ここに「産業の空洞化・雇用の流出」をまねいているとの批判があります。ですが、そうではなさそうです。

…第一に、すでに直接投資 (筆者注:海外に工場を建てる、海外企業へのM&A etc)からの収益…受取額のGDP比は…08年には4%に上昇している。…直接投資からの収益は本社の経常収益に反映され、株主配当や株価の上昇として株主に還元され、さらに法人税として政府の税収に貢献…。

直接投資収益が本社の経常利益に占める割合は、09年度で資本金10億円以上の大企業の…24%に達する。…企業部門全体の経常利益をとっても12%となっている。すなわち、日本企業の経常収益のうち1~2割は、海外への直接投資からの収益によってもたらされている。


 GDPは国内総生産(Gross Domestic Product)のことです。ある一定期間に,国内で生産されたすべてのモノ・サービスの付加価値の総額です。
 GDPと,GNPの関係は,次のように示されます。
GDP と GNI .jpg

 純所得とは,「海外から送金される所得-海外へ送金される所得」のことです。GNPは所得の総計なので,現在では,GNI=国民総所得(Gross National Income)という言い方をします。もちろん,GNP=GNIです。
 日本の場合,純所得は,黒字になっています。つまり,GNI(GNP)>GDPとなっています。
GDP GNI 数値.jpg

 日本の所得収支は1年間に15.8兆円の黒字(’08年末)です。この「所得収支」は,近年,「貿易黒字」額を上回るようになりました。「日本が輸出中心の『貿易立国』から,『投資立国』に移りつつある」というのは,このことを示しています。

 その中味ですが,外国債券の利子収入が7割,直接投資の収益が2割,外国株式の配当金が1割です。この「所得収支」を含めた,「純所得」は,順調に増え続けてきました。

…第二に「雇用の輸出」論とは逆に、海外進出企業は国内の雇用にも貢献している。
…経済産業省…によると、01年度に270万人程度だった現地法人雇用者数は、03年度に350万人となった。そして03年の国内の完全失業者数も350万人である。…これが「雇用が輸出された」との印象を生んだのかもしれない。

 …しかし…現地法人雇用者数の上昇とほぼ同じ割合で日本にある本社の売上高は上昇…。事業拡大に伴って…投資収益を確保しただけではなく、本社の売り上げの上昇も経験している。さらに、05年度から08年度にかけて、海外現法の雇用者数は436万人から452万人に増加したが、同じ期間に本社の常用雇用者数も394万人から422万人に増加している。海外現法の雇用拡大と、国内本社の雇用拡大は、ほぼ同じペースで起こっている。

…日本企業の対外進出は国内経済の空洞化をもたらすというより、国内経済の活性化に貢献していると評価できよう。

雇用の流出?.jpg

 このように、「生産設備のアジア移転によって、それらの製品の輸出は減り、国内産業は空洞化する=雇用が失われる」という考え方は、よく検証する必要があるのです。

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フランシス・フクヤマ 『地球を読む 拡大中国に対処できず』 その2 読売新聞H22.6.27

フランシス・フクヤマ 『地球を読む 拡大中国に対処できず』読売新聞H22.6.27
数字は筆者記入

…第一は経済である。国際金融危機の根源には、米国の財政・金融構造の不均衡をあおった①中国の資本輸出があった。低コストの資本供給は、一種の麻薬となった。米国民は喜んでその中毒にかかり、低金利のローンを借りまくった。そして住宅バブルが膨らみ、やがて弾けたのである。
 中国は、意図的に人民元の価値を低くすることによって、②自国の輸出産業を支援すると同時に、事実上世界中に産業空洞化を生んだ。米国だけではない。中南米やアジア、アフリカの低コスト製造業も、中国の輸出に直面して、軒並み閉鎖されつつある。


 半分正しく、半分間違いです。①中国の資本輸出=②自国の輸出産業(貿易黒字)というのは、合っています。

 もうひとつ、②自国の輸出産業を支援すると同時に、事実上世界中に産業空洞化を生んだ。米国だけではない。中南米やアジア、アフリカの低コスト製造業も、中国の輸出に直面して、軒並み閉鎖されつつある。という事実はありません

<産業の空洞化はあり得ない>

 中国が「世界の工場となり、世界中の雇用を奪う(他国の産業空洞化)」という論調ですが、中国の輸出増=輸入増ですから、他国の輸出増でもあります。 「中国に雇用が集中する」というようなことはありません

 ある特定の製造業が競争に敗れて衰退というのはありますが、雇用は他に移動するので、各国のGDPが増加しています

青山進 『産業空洞化現象』の研究
http://www2.aasa.ac.jp/graduate/gsscs/reports01/PDF/01-003.pdf#search='産業の空洞化'

 結局、本題である「産業空洞化現象」=「貿易による損失を被った人々(失業者)」に対する解決案については、比較優位の産業が特化する事による高賃金の熟練労働力の雇用が創出されたかである。

 
大体、アメリカの輸出だって、順調に伸びています
アメリカ 輸出 輸入額

 雇用が奪われているのではないことを示しています。

メキシコのGDP推移です。(出典 世界経済ネタ帳)

[世] 名目GDPの推移(メキシコ)

 メキシコのGDP・輸出額・輸入額推移です(データ出典JETRO)

メキシコ GDP 輸出 輸入

 製造業が閉鎖されていないことを示します。輸出産業は基本的に「モノ=第2次産業」だからです。

中南米諸国のGDPです。(出典 世界経済ネタ帳)

[世] [画像] - 名目GDP(USドル)の推移(2000~2010年)の比較(アンティグア・バーブーダ、ウルグアイ、エクアドル、グアテマラ、ドミニカ共和国、ニカラグア、ホンジュラス、ボリビア)

アジアの1人当たりGDP推移です。(出典 世界経済ネタ帳)

[世] [画像] - 一人当たりの名目GDP(USドル)の推移(2000~2010年)の比較(カンボジア、スリランカ、バングラデシュ、パキスタン、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、ラオス)

 着実に伸びています。

次に、アフリカ諸国です。旧フランス領のチャド、ブルキナファソ、ベナン、マリです。

[世] 名目GDP(US$)の推移(チャド、ブルキナファソ、ベナン、マリの比較)

中国が、②自国の輸出産業を支援すると同時に、事実上世界中に産業空洞化を生んだ。米国だけではない。中南米やアジア、アフリカの低コスト製造業も、中国の輸出に直面して、軒並み閉鎖されつつある。というのは、存在しないのです。

<お待たせいたしました>

拙著 「高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門Ⅱ」発売になりました。

 すでに、セブン&ワイや、amazonなどのオンライン書店で購入可能のようです。
一般書店には、7月中旬に並ぶようです。

(ご連絡いただければ、直接配送も可能です)

最寄の図書館にリクエストしていただければ幸いです。よろしくお願い致します。

表紙 1 

表紙 2

目次


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genre : 政治・経済

再掲 資料集の間違い(8)

とうほう『政治・経済資料2009』p222
 産業の空洞化とその対策 p268-269
…産業の空洞化とは、国内企業が海外移転し、国内生産・雇用・GDP(国内総生産)が減少すること である。日本の産業の空洞化の原因として…貿易摩擦を克服するため…輸出相手国内に移転、…プラザ合意によって…日本製品の輸出価格が上昇。…安い人件費を求めてアジアへ移転したなどの事情があげられる。

 さて、資料集の言う、産業の空洞化はあったのか。答え「なかった資料集の言う産業空洞化など、ありえません。
国内生産・雇用・GDP(国内総生産)が減少すること」ですが、①国内生産・GDP(国内総生産)は減少ではなく、一貫して上昇しています。(除く1974年石油危機、1998年山一證券・拓銀倒産・消費税UPの翌年)
とうほう『政治・経済資料2009』p222経済成長グラフ
続いて、②雇用ですが、雇用は、比較劣位産業から、比較優位産業に移転し、全体として雇用者数は、極端には変化しないのです。同年の雇用者数推移のグラフです(数字出典:総務省統計)。雇用者数 推移グラフ
(もちろん、不況時には失業率が増加するなど、一時的な雇用の流動は起こります)

日本経済新聞H21年5月6日
日本の産業別の就業は、年々変化しています。就業者数が減っている業界があれば、増えている業界があります.産業別就業者数
このように、資料集の言う、「産業の空洞化」は実際には、存在しないのです。

次に、「国内企業が海外移転」という部分です。これは、対外投資額の増加を示しています。海外での合弁会社の設立やM&Aのことです。「対外直接投資は、01年を底に増加に転じ、03年と04年は多少減額しましたが、05年は急増(岩田規久男『景気ってなんだろう』ちくまプリマー新書 2008 p98)しているのです。対外資産
対外直接投資は増えているのに、「国内企業が海外移転し、国内生産・雇用・GDP(国内総生産)が減少する」のではなく、増えています

GDP拡大は,国内生産量拡大のことです。国内生産量拡大には,労働力が必要です。労働力はどこから持ってきますか?それは,比較劣位産業からしか持ってこられません。「比較優位な産業に特化する」=「比較劣位産業縮小」ということなのです。

比較劣位産業 → 労働力を集める → 特化し,生産量拡大
    ↓              ↓

生産量減少  →  セット
 

 ただし、「製造業からサービス業へのシフト」は存在します。製造業雇用者低下→サービス業雇用者増加です。
とうほう『政治・経済資料2009』p230
産業構造の変化 新

 地方の製造業都市が衰退し、大都市圏の人口が増えるので、これをあえて「地方製造業の空洞化」と言うことはできるでしょう。ですが、「地方製造業を守る(比較劣位産業を守る)」という保護を加えても、それは労働力・資本を、非効率に使用することです結果、本来得られるべきGDPの増加を低下させることになるのです
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