臨時 消費税増税

<臨時>

消費税増税は、下記のように「高所得者ほど増税」になります。見事に所得に比例していることがわかります。

日経H25.10.2
消費税 負担.jpg


ということは、食料品その他の軽減税率を導入すると、当然ですが、軽減額は、「低所得者<高所得者」、つまり、高所得者ほど、軽減税率導入の恩恵を受けることになります。

食料品の軽減税率については、過去に分析しています。

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食糧費の軽減税率は、富裕層ほど恩恵

要するに、低所得者に対する直接給付が、一番合理的なのです。

日経H25.10.2
消費税 安定性.jpg

この図を見ると、消費税が安定しているのは、一目瞭然です。為政者には、一番魅力的な税です。景気に左右されないからです。景気に左右される所得税や、法人税など、危なっかしくて、できれば避けたい税収なのが分かると思います。

法人税や、所得税に頼れないことは、過去に分析しています。

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税 その1
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税 その2
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税 その3 「税金の無駄を削れ、国会議員を減らせでは対応できない」「

 意見としては、消費税増には、反対です。2020年のプライマリーバランスを想定しているのですから、あせらずに、長期で行きませんか?と思います。

 ただし、景気弾力条項によって、延長するには、法改正と言う難題が待ち受けています。相当大変なようですね。

読売10/2「『景気弾力条項は意味がない。まやかしだ。財務省が巧妙に仕組んだ策だ』と安倍周辺は苦虫を噛み潰した」
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税 その3 「税金の無駄を削れ、国会議員を減らせでは対応できない」「所得税、法人税は不公平税制」「結局、消費税増税しか、手はない」

<税 その3>

(3)消費税

① 安定性

 まず、消費税は安定した税です。

実教出版『2012 新・政治経済資料』p233税収 推移

 景気による変動も少なく、極めて安定した税収を確保できます。これは、日本人の消費は、好不況にかかわりなく、一定であることによるものです。

GDPに占める C 消費割合.jpg

②消費税は逆進的とは言えない

吉川洋(東大)日経『経済教室』H24.7.17

 消費税は逆進的(貧しい人の負担が相対的に大きくなる)といわれる。しかし、1年ではなく、一生涯を通してみると、人は稼いだ所得を(遺産として残す分は別にすれば)消費すると考えられるから、消費税はおおむね比例的だ。



 これはこういうことです。「低所得層は、収入のうち、ほとんどを消費に回し、高所得者層は貯蓄に回すので、消費税は逆進税だ」という考え方についてです。

消費税 イメージ図1

 実際の調査でも、低所得者ほど、総所得のうち、消費に回る率が高く、高所得者ほど貯蓄に回る率が高いことが示されています。

出典
平成21年全国消費実態調査から見られる高齢者の業態使い分け
http://www.dei.or.jp/opinion/staff_pdf/yamazaki01.pdf#search='%E6%89%80%E5%BE%97%E5%88%A5+%E9%A3%9F%E6%96%99%E5%93%81+%E6%94%AF%E5%87%BA%E9%A1%8D'

所得 消費額 割合 正

 ところが、これは、短期で見た場合です。長期(一生涯)で考えると、違ってきます。高所得者が貯蓄するのは、定年退職後に、その貯蓄で「消費」するためと考えられます。例えば、少し余裕のある暮らし、あるいは、病気・介護に備えて・・・ということです。

消費税 イメージ図2

結局、生涯を通じて、その人が得た所得は、最終的に「消費」に回るのです。

 相続財産が残っても同じです。相続人は、家の購入資金や、子どもの学費などに、相続財産を回します。つまり、所得は、長期で考えると、「消費」に回ります。ですから、結局、消費税は、「所得に応じて比例的」と考えられるのです。

佐藤主光(一橋大) 日経H24,10,29『第1章 税の仕組みと本質』 
…生涯の所得と費やす消費はおおむね等しくなります。今日の貯蓄も将来の消費に備えたものです。消費税は生涯ベースの課税とも言えます。



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大竹文雄 阪大教授 『経済教室:消費税と所得税 どう違う』

③グローバル化時代に適した税

 その2で扱った、法人税は、企業の最終益に課税されます。一方、消費税は、原材料や機械設備を仕入れた際にかかる税については、還付されます。原則的に、課税される事業者が消費税を負担することはありません。生涯コストは上昇しないのです。

 また、消費税は、輸入品にはかかります。輸入ワインや、輸入したバナナ、ブランド宝飾品などです。
 その一方、輸出品にはかかりません。輸出価格を高めたりしないのです。最終的な商品価格に転嫁しない、ここが法人税との違いです。

 例え、車をヨーロッパに輸出(1台100万円:最終価格=1万ユーロ)して、消費税が25%の場合、最終的には125万円(1.25万ユーロ)になっても、100万円の段階(日本から輸出した段階)では、消費税がかかっていないので、ヨーロッパの1万ユーロの車と、対等な条件で、競争できます(税抜き1万ユーロの車と、税抜き100万の車)。

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「トヨタ自動車は消費税還付金、毎年2000億円がなければ『赤字続き』の会社と判明!消費税1兆円以上儲けた会社」


ちょっと表題に問題はありますが、要するに、海外に売っても、その分の消費税は、トヨタに入らないので、負担した税を還付するというものです。トヨタにとって得とか損とかという問題ではありません。

 消費税の利点は、「薄く幅広く」「生涯所得で見ると公平」に、経済のグローバル化に適した(ヒト・モノ・カネの移動が自由)点にあるのです。

 つまり、「消費税」が、税の中では、3本柱の税の中でも、最も優れた税なのです。ヨーロッパ(EU加盟条件)が最低15%以上の消費税を課しているのは、このような理由からです。

 日本の場合、消費Cは、GDP5000兆円のうち、300兆円になりますので、税率10%で、30兆円、税率20%で、60兆円の税収がまかなえることになります。

GDPに占める C 消費割合.jpg

 小さな政府で、歳出減? 無駄な使い道を辞めて歳出減?・・それは、どうやっても不可能なことは、「税 その1」で検証したとおりです。

・・・低所得者への補償は、税を集めてから分配すればよいのです。

 繰り返しますが、社会保障費は、毎年自然増が、1.5兆円です(現状制度)。高齢化社会で、「医療」「介護」「年金」は、絶対に減ることはありません。

 現状、後期高齢者は、医療負担1割です。(現役世代は3割)
 70歳以上の負担を1割→2割にする案は、選挙対策で、先送りされ続けています。

 「年金」は、本来、保険なので「万一の無収入」にそなえるためのものです。ですが、65歳になれば、会社の社長だろうが、医者だろうが、国会議員だろうが、日本銀行副総裁(岩田氏は70歳)だろうが、全員に無条件に支払われています。

 年収300万円代の、30代非正規雇用者、65歳以上であれば、年収500万円を超えていようが、無差別に支給される70万円の国民年金の共存・・となっています。

 介護・・日本人の1/4は、最終的には必ずお世話になりますが、自己負担は1割、残りは税+保険料です。

以上、「現状は」です。



<2つの視点>

 「税の公平」には、2つの視点があります。水平的公平と、垂直的公平というものです。

清水書院『高等学校現代政治・経済』H24 p113

 税の公平性という場合、所得水準等の経済状態の違いにおうじて税負担を求める「垂直的公平」と同じ経済状態の人に同等の税負担を求める「水平的公平」の2つが問題となる。一般に所得税の累進課税制度は、垂直的公平に、消費税は水平的公平に優れているといわれる。




 前者を「応能原則」といい、後者を「応益原則」といいます。ごみの収集など、公共サービスは所得に関係なく誰もが受けるので、自治体の財源である地方税は、一律課税です(個人住民税には、均等割という低額課税があり、一律4000円)。水平的に見れば、公平です。一方、垂直的にみれば不公平になります。

 税については、簡単に「公平」「不公平」とは言えないのです。

税 その2

<税 その2>

 結局、国会議員や、公務員の歳出削減では、増大する国家(地方)予算に対応できないことが分かります。そこで、次の手段は、「増税」となります。

「税その1」でコメントが寄せられました。

>現在、復興特別税が徴収されていますが、この税の使われ方は明らかに無駄が多いですよね。復興とは名ばかりのものに、相も変わらず資金が投入されています。

 当然、上記でいう「無駄」な資金をいくら削っても、社会保障費自然増:毎年1.5兆円増には対応できません

 「議員を減らせ」「無駄な予算をけずれ」などという意見は、なんの効果も生まない(焼け石に水)ということに、もう、いい加減に、気づいてもいい頃です。というか、こんな意見を言う人は、全体像が分かっていない人ということです。

 まず、税収は、どのような税金から成り立っているかを見ます。

実教出版「2012 ニュースタンダード資料現代社会」P118
国税 内訳

 所得税、法人税、消費税が3本柱です。

 この割合を見ると、「相続税を増やせばいい」とか、「たばこ税を2倍にして1箱1000円にすればいい」レベルでは、全然増収にならないことが分かります。

 相続税は、改革案(H25年度導入?)が示されて、対象者が増える予定ですが、それでもお話にならないレベルです。

http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2011/sozoku_shinkoku/index.htm

被相続人数(死亡者数)は約120万人(前年約114万人)、このうち相続税の課税対象となった被相続人数は約5万人(前年約4万6千人)で、課税割合は4.2%(前年4.1%)となっており、前年より0.1ポイント上昇しました。



 平成22年度の数値です。課税対象者は、わずか4.2%にすぎません。これが、改革案では6%に増えるだけです。95%の人には、関係がない税なのです。課税基準が、非常に高いからです。

「基礎控除額」は5000万円+(1000万円×法定相続人の数)となります。父が亡くなり、妻子2人の場合、相続財産が、8000万円まで、相続税はかからないのです。

 都内の戸建て住宅で、土地代3000万くらいでしょうか。それに保険や現金、株、債券、ゴルフ会員権で5000万円持っていた被相続人・・・そんなにいないことが、分かるのではないでしょうか。

※現在、税制改正で、「基礎控除3000万円+600万円×法定相続人」が検討されています。

 それでも、 細かな税収を合わせると、「所得税、法人税、消費税」の3本柱を除いて、総税収の1/4にはなりますので、見直すことは必要です。が、大きな効果は望めません。

<3本柱>

 所得税収も、法人税収も減っています。日本の税収の割合です。

実教出版『2012 新・政治経済資料』p233
税収 推移

(1)法人税

 減っています。バブル全盛期の55%です。11年で、9兆4千億円でした。全然あてにならない税収になってしまいました。


 日本の税率は、12年度に30%から25.5%へと、下がりましたが、地方税を合わせると35%で、諸外国に比べれば、まだ高いです。

日経H25.1.8
法人税 税率

 英国は、24%をさらに21%に下げます(14年)。企業を呼び込む、グローバル競争です。今後、法人税を下げることはあっても、上げることはないのではないでしょうか。

 また、日本の企業の75%は、法人税を払っていません。

日経H24.10.17
法人税 黒字割合

 法人税は、「黒字」の企業が払います。日本の企業の75%は「赤字」です。日本は、これで大丈夫なんでしょうか?
 給与所得者(サラリーマン)と自営業者・会社経営者・農家は、収入は同じ程度でも、後者は格段に税収が低くなります。経費の度合いが桁違いだからです。実際に、会社を経営している友人から、「赤字でもいいんだ」と聞いたことがあります。節税なのでしょうか?

 経団連などが、「法人税を下げろ」と要求すると、「とんでもない、大企業優遇だ」と批判する声もあります。払っているのは大企業ですが、別な面から見ると、大企業狙い撃ちの税金という見方もできます。

 また、法人税は、「企業が払う」と思うかもしれません。だから「内部留保をため込んでいる大企業からもっととれ」という感覚になります(内部留保云々は改めて取り組みたいほどの別問題ですが、今は触れません)。

 ところが、経済学ではそう考えません。法人税を払うのも、消費者です。
 
参考文献 佐藤主光(一橋大) 日経H24,10,30『第1章 税の仕組みと本質』 

 法人税は稼いだ利益への課税です。企業は支払う資金を得るために、製品価格に税金分を上乗せしています。
従業員の給与を下げ、法人税の支払いに充てれば、従業員への所得課税になります。
 高値でも買わざるを得ない(食料品や衣類など)消費者や、転職できない従業員にしわ寄せがいきます。
 
 誰が負担するかが見えにくいので、法人税は、我々の懐に関係ないと思うかもしれませんが、結局払っているのは、「法人」という人ではなく、私たち一人一人の生身の人間です。

土井丈朗(慶大)日経『経済教室』H25.2.1
…法人税は「法人」なる怪物が負担するのではなく、企業に関わる授業員、経営者、株主、顧客など生身の人間が間接的に負担するものだ。
法人税
…日本の労働分配率は約70%だから、短期的には、法人税の約7割は従業員給料総額の減少の形で負担されているとみられる。換言すれば、法人税を減税すれば、そのかなりの部分が従業員給料総額の増加に回ると言える。


 「テレビはタダで見られるもの」と錯覚するのと同じですね。実際には、私たちが買う商品に、テレビのコマーシャル提供料(スポンサー費)が含まれています。2011年度、トヨタ自動車は、428億円の広告宣伝費(総額第3位)をかけました。

(2)所得税

 これも、減っています。全盛期の半分です。

 で、これもよくあります。「消費税を上げる前に、所得税の累進税率を上げろ」。

サンケイビズ2013.1.10 11:46

「富裕層増税、25年度改正で実施 所得税最高税率『45%』で調整」
 政府・与党が平成25年度税制改正で、富裕層の所得税と相続税を増税する方針を固めたことが10日、分かった。所得税は40%の最高税率を45%に引き上げ、相続税は遺産のうち課税対象にならない基礎控除の枠を減らす方向で調整する。
  …所得税は現在、課税対象となる所得が1800万円を超える部分に、40%の最高税率が適用されている。25年度改正では、課税所得が数千万円を超える人向けに新たな税率区分を作る。



 累進税率は、このように推移してきました。

清水書院『2012資料政治・経済』p245
所得税 累進税率 変遷

 この、最高税額を、40→45%に引き上げるそうです。それで、税収は600億円増えるそうです。

エコノミスト 第91巻 第7号 通巻4272号 2013.2.12
〔税制改正大綱〕所得税の税収増は600億円 富裕層増税は格差社会のガス抜き=川北隆雄


 毎年1.5兆円ずつ増える社会保障費の、4%分にしかなりません。しかも、これは高所得者狙い撃ちの税制です。

とうほう『政治・経済資料2012』p221
所得税 累進 再分配効果

 所得税を払っているのは、高所得者ばかりです。所得税の76.5%は、年収1000万以上の人たち(日本人の10人に1人)が払っています。

 日本人サラリーマンの平均年収420万円層の人たちは、所得税の7.3%しか払っていない計算になります。そして、この高所得者のうち、1800万円を超える人(いったい何%いるんだか)に、さらに600億円の負担増です。

 高所得層に、極端に負担がかかっていることが分かります。

 理由は、「控除・控除」にあります。日本のGDPは500兆円、その半分の250兆円が給与所得ですが、実際に課税される額は、110兆円分に過ぎません。

日経H25.1.31「経済教室 所得税 広く薄い課税に」
所得税 課税ベース

 基礎控除、配偶者控除、給与所得控除、社会保険料控除、公的年金等控除、生命保険料控除etc・・・・

 だから、年収が低くなれば、実質的にはゼロ課税になります。課税最低限は日本の場合261万円~になります。それ以下の人は所得税を納めていません(英国の場合約85万円~課税)。

 3本柱のうち、2本は、「不安定かつ、特定者に依存」しているのです。

板谷淳一(北大) 日経「優しい経済学 経済成長と税9 税の構造論議を」

 最近の研究によれば、税率よりも税の構造の方が、経済成長率に対してより重大な効果を与えることが明らかになってきている。
 例えば、 OECD のエコノミスト、ジェンス・アーノルド氏は加盟国のデータを使い、税収に占める法人税、個人所得税、消費税及び資産税の割合と経済成長の関係を調べた。それによると、経済成長率を阻害しない税は、まず固定資産税のような資産税、次に消費税である。一方、個人所得税は2つに比べはるかに成長を阻害し、法人税は最も問題だと指摘している。
…英グラスゴー大のコンスタンチノ・アンジェロポウロス上級講師らは…政府の均衡予算を維持するために資本課税あるいは消費税を増税しても、経済成長率が上昇することを英国経済での例で示した。



<まとめ>

1 法人税は、「税率を上げればいい」ということは、出来ない(グローバル化の中で、企業は課税本拠地をすぐに移す時代)。

2 法人税を負担しているのは、結局消費者(価格転嫁)。法人税を下げれば、給与所得は増大する。

3 法人税を納めているのは、日本の企業の25%のみ。

4 所得税の累進化税率を最大40%→45%にしても、年収1800万円超の人に課税するのみで、税は、600億円しか増えない。

5 所得税は、年収1000万円超の人たちが、払う税金のこと(税収の76.5%)。高所得者ねらいうちの税のこと。

6 日本人の大多数の給与所得者(89.6%)は、所得税の23.5%しか負担していない(数々の控除があるため)。

ゆえに、「法人税負担を増やせ」「所得税率を上げろ(累進課税強化)」は、毎年1.5兆円自然増の社会保障費の前には、まったく解決策になっていない、ナンセンスな話ということになる。


 増税を考える際によく出てくる、「所得税の累進税率を上げればいい、法人課税を強化すればいい」などという考え方では、日本の抱える問題は、解決しないのです。これらは、「広く薄く」ではなく、「狭く深く」課税するという性格を持ちます。

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税 その1

<税 その1>

 今回からは、税の基本について、学びたいと思います。

 消費税を、2014年度に8%へ、2015年度に10%へ引き上げる法案が、可決しました。この背景にあるのが、皆さんご存知の通り、社会保障費の増大です。

社会保障費100兆円

 毎年毎年,社会保障費が膨張し,それにともなって,政府予算も毎年1~1.5兆円のスピードで,自然増となります。

社会保障費 (2)


 高齢化社会に伴い,年金・医療・介護の支出が増えるのは当然です。現在,それらの社会保障費は,100兆円です。そのうち60兆円を保険料収入(年金保険,医療保険,介護保険)でまかなっていますが,残りの40兆円は,税金(国が30兆円,地方が10兆円)が投入されています。例えば,基礎年金は,その1/2が税金です。税金と言っても,その半分以上は「公債」です。

税収 公債費.jpg

 そこで、安定した税収を得ようと、消費増税になるわけです。(なぜ、消費税なのかについては、その2以降で扱います)

 ここで、よく出てくるのが、「国民に負担を強いるので、国会も身を斬る覚悟で」という、国会議員削減論です。では、国会議員を減らしたり、年収を減らしたりすることが、どの程度の効果を持つのか、検証しましょう。

以下、数字出典
http://nensyu-labo.com/koumu_tihou_kengiin.htm
「年収ラボ」


(1)

 国会議員の年収は、2,896万円、文書交通費の手当てを入れると、約4,000万円です。衆参合わせて722人です。人件費総額288億8000万円です。

 年収30%カット、もしくは、議員総数を30%減にすると、202億1600万円、86億6400万円の節約になります。

 衆議院で、480人中144人削減し、参議院で242人中72人削減しても、「たった87億円」です。社会保障費の自然増は、毎年1.5兆円ですから、0.58%分にしかなりません。

 こんなに削減しても(限りなく可能性ゼロ)、年収削っても、社会保障費の増大の前には、文字通り、「焼け石に水」です。全く効果なんてありません。

 ですから、「身を斬る改革」を国会に求めるのも、国会議員がそれに応えるのも、単なるパフォーマンスにしかすぎません。ナンセンスな話です。

(2)

 では、ますます実現性は薄くなりますが、地方議員も削減してみましょう。

 都道府県議会議員の年収は、1,534万円、人数は2790人=総額427億9860万円です。
年収30%カット、もしくは、議員総数を30%減にすると、299億5,902万円です。128億3,958万円の節約です。

 市区町村議会議員の年収は、760万円、人数は、2万1354人=総額1,622億9,040万円です。年収30%カット、もしくは、議員総数を30%減にすると、1136億328万円、486億8712万円の節約です。

 国会議員、都道府県議会議員、市町村議会議員、日本中の議員数もしくは、年収を30%減にしても、701億9070万円の節約にしかなりません。社会保障費の自然増は、毎年1.5兆円ですから、4.68%分にしかなりません。

  「まず国会も改革を!」などという短絡的な思考は、いい加減にしないと、本質を見誤ります。

(3)

 いやいや、「日本全国にいる、公務員を減らせばいい」という声も聞こえそうです。

 まず、公務員数ですが、人口に対して、「日本が、多い」わけではありません。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5190.html
社会実情データ図録


http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan007.pdf#search='%E5%85%AC%E5%8B%99%E5%93%A1+%E4%BA%BA%E4%BB%B6%E8%B2%BB+%E7%B7%8F%E9%A1%8D'
財務省「平成24年度公務員人件費( 政 府 案 )」


 国家公務員57.9万人、人件費5兆944億円、地方公務員234万人、21兆円、合計26.9兆円です。

年収1割カットで、2兆7千億円減らせます。

 社会保障費の自然増は、毎年1.5兆円なので、全公務員の給与を1割カットしても、2年しかもちません。改革を2年先送りにする効果しかありません。

 「小さな政府」志向は、ミクロの世界では結構ですが、実際には実現できない(マクロ)のです。

食糧費の軽減税率は、富裕層ほど恩恵

<食糧費の軽減税率は、富裕層ほど恩恵>

読売1.25
日経1.25.jpg


 消費税が、8%、10%に引き上げられる際に、食料品などの税率を低くしようという、「軽減税率」の導入が目標とされたようです。(決定ではなく、目指すというものです)

 年収の低い人ほど、食糧費(生活費必需品)の支出が相対的に多くなる、金持ちほど、だから、生活必需品には軽減税率を!という考え方です。

『アクセス現代社会2009』帝国書院 H21.2.25 p128

 消費税は、商品・サービスに対して一律に同じ税率が適用されるという公平さがある。しかし、所得が低い人であっても食品などの生活の基礎的商品の購入にあたって消費税を負担しなければならず、所得が低い人ほど相対的に負担が重くなるという逆進性がある。そのためイギリスでは、消費税率は17.5%と高いものの、食品、住居の建築、交通費など生活必需品には課税しない措置をとっている。




 「ヨーロッパでも、軽減税率は当たり前だ!」と主張の根拠にします。

北海道租税推進協議会『わたしたちの生活と税』H21年p19
各国 消費税.jpg

軽減税率.jpg


 で、経済学者は、この軽減税率には反対です。なぜなら、実は高所得者の方が、優遇される結果になるからです。「弱者を救う目的」ではじめても、「強者が笑う」ことになります。
 ヨーロッパで導入されている「軽減税」は、結果的には失敗だったことがすでに実証されています。なので、日本は、ヨーロッパで「失敗だった」とされる軽減税率を、20年もの周回遅れで、導入しようとしています。

軽減税については、以前、このブログで扱いました。

クリック

大竹文雄 阪大教授 『経済教室:消費税と所得税 どう違うか』


 もう一度、検証してみましょう。

日経ビジネス オンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120629/233963/?rt=nocnt

軽減税率は「民意のバイアス」が生じる典型例
国会の参考人質疑の中で考えたこと(下)

小峰 隆夫 

消費税は、必需的な財・サービスにも同じようにかかる。しかし、必需的な支出が所得に占める比率は低所得層ほど高くなるため、消費税の負担も低所得層ほど重くなってしまう。これが逆進性の議論である。そこで、必需的な色彩の濃い食料品は税率を低くすべきだという考えが出てくる。これが軽減税率の議論である。

 ところが、私の知る限り、この軽減税率の導入に賛成する経済学者を見たことがない。この点は、一般の人々の考えと経済学者の考えが大いに食い違うところである。

 では経済学者はなぜこれに反対するのか。今回出席した参考人4人は、一人ずつ反対を表明したのだが、全員が異なる理由を述べた。最初に答えた小塩氏は「公平性の追求という政策目的から見て効果的でない」という観点から反対であると述べた。五十嵐氏は「税制はシンプルな方が望ましいから」反対だと述べた。村岡氏は「10%程度の税率であれば、逆進性はそれほど大きくないから(10%を超えた段階で考えるべき問題であるから)」反対と述べた
実は私も「公平性のための政策としては非効率的だ」という理由が最も重要と考えていたのだが、小塩氏に先を越されてしまったので、あえて別の理由を述べたのだ。政策として非効率というのは、次のようなことである。表の数値例を使って説明しよう。

 年収300万円の世帯の食料支出が100万円としよう。食料は必需的な性格が強いので、年収が増えてもそれほど食料への支出は増えないはずだ(年収が2倍になったからといって、ご飯を2倍食べるわけではない)。ここでは、年収が100万円増えるごとに、食料支出は20万円増えるとする。年収1000万円の世帯の食料支出は240万円となる。
 消費税を10%にすると、年収300万円世帯の税負担額は10万円であり、1000万円世帯の負担額は24万円となる。年収に占める比率は、300万円世帯が3.3%であり、年収1000万円世帯では2.4%となる。所得が低い層ほど、所得比で見た税負担が高くなる。これが逆進性である。

 この逆進性をなくすために、食料品の税率を5%に据え置いたとする。税金を払わないで済んだ金額だけ補助金を受け取ったと考えると、300万円世帯への補助は5万円、1000万円世帯への補助は12万円となる。高所得層の方が多くの補助を受けることになる。確かに低所得層を補助してはいるのだが、それは高所得層により大きな補助を行った上で低所得層を補助しているのだ。いかに非効率的な分配政策であるかが分かるだろう。

 なお、ここでは簡単な数値例を使って説明したが、家計調査などを使って実際の所得階層別の消費を調べれば、より厳密な計算をすることができる。そのような計算は既に各方面で行われているのだが、結論はここで示した数値例と同じである。




 そこで、実際の年収と、消費額、食料品支出額(外食も含む)、消費税額を検証してみましょう。

すごいのは、このようなデータが、わが国の場合、簡単に手に入ることですね。総務省が「全国消費実態調査」をきめ細かく行っています。この統計は、先進国でしか行えません。コストのかかる「検証」はできないからです。
なおかつ日本のように、こんなに詳細に、丁寧に行われている例はありません。これは、政府の存在意義の一つです。毎月行われています。

 あるアフリカの国の政治家が、「我が国を経済発展させるにはどうしたらよいか」について、アメリカの経済学者にアドバイスを求めました。経済学者は、「きちっとした統計を取ることだよ」と回答したとのエピソードがあります。

出典
平成21年全国消費実態調査から見られる高齢者の業態使い分け
http://www.dei.or.jp/opinion/staff_pdf/yamazaki01.pdf#search='%E6%89%80%E5%BE%97%E5%88%A5+%E9%A3%9F%E6%96%99%E5%93%81+%E6%94%AF%E5%87%BA%E9%A1%8D'


平成21年全国消費実態調査(総務省)

これを、年収の少ない順から、多い順に並べます。

平成21年全国消費実態調査(総務省).昇順

 そうすると、「60歳以上の女性の独り暮らし」が最も年収が少なく、「定年退職前の50台後半」の世帯が、最も年収の多い層だということが分かります。

 次に、消費と収入の関係を見てみます。

所得 消費額 割合 正


低収入だと収入のうち、消費に回す割合が多くなり、高収入だと貯蓄に回す割合が多くなるということが分かります。いわゆる、「消費税は逆進的だ」の根拠とされるグラフです。

 次に、世帯年収と、食料支出額を見てみます。

年収 年間食料支出額


 予想通りです。

①年収増→食費増
②ただし、年収増加割合に比例して、食費が増えるわけではない。

「年収が多くなると、その年収増加に比例して食糧費支出が比例する」わけではありません。年収が2倍に増えれば、2倍食べるようになるわけではないからです。

 次に、年収と、食糧費の消費支出に占める割合です。

年収 食糧費 消費支出

 意外ですが、「年収に関わらず、消費額に占める食料費支出割合は、一定」だということが分かります。「年収増→食費割合減」にはなっていません。
 つまり、高所得者の人たちは、その所得に見合う食費をかけていることが分かります。

年収 食料消費税額

 ですから、年収とともに、食糧費の消費税額も、当然ですが、上がります。これを見ると、「2人以上の70歳代」の食糧品消費税がポンと跳ね上がっています。また、「2人以上60~69歳代」も、食費にお金を使っています。つまり、「ちょっと贅沢に消費している」ことが分かります。
 リタイアしたり、子どもがいなくなると、同じコメでも、いいものを消費します。量としては食べられなくなりますが、質は上げています。リタイア世代・シニア世代の方が「食欲旺盛?」なんですね。

 高所得世帯の方が、食費支出を増やしているので、一番所得が少ない層と、多い層の食糧品消費税額を比較すると、次のようになります。

年収 食糧費税額

 もしも、食料品に軽減税率を採用すると、このグラフの差の部分が、「減税」ということになります。

年収 食糧費税額 2

 年収230万世帯の減税額は20932円、年収837万世帯の減収額は44673円になります。
減税の絶対額は、高所得者ほど多くなります。高所得者に「有利」なのが、軽減税率なのです。

軽減税率にした場合の減税額

 だから、経済学者は、「食料品の軽減税率」に反対するのです。実際に、軽減税率を導入しているイギリスでは、「望ましくなかった」というレポートが発表されています。

<大竹文雄 阪大教授 『経済教室:消費税と所得税 どう違う』日経H22.9.6

 …消費税には「低所得者の方が税負担が重くなるという逆進性がある」との批判が根強い。…①一方、消費税の逆進性については、最近の経済学ではかなり懐疑的な意見が多い。消費税に関する②食料品への軽減税率や非課税も、研究者の間では有効性が低いとされる。



 同記事は、『マーリーズ報告』2010年(英)』にもとづいて解説しています。

…結局、食料品への軽減税率は、分配面でも、効率性の面でも優れているとはいいがたい。英国は既に軽減税率を採用しているが、同報告はその問題点を指摘しているのだ。



 軽減税率よりも、低額所得者への現金給付の方が、より、「逆進性」なるものを解消するには有効ですし、「高所得者から低所得者への所得移転」が出来ることになるのです。

井堀利弘 東大 『先送りは将来に思いツケ』日経H22.3.8
…消費税は…弱者をいじめる冷たい税だと批判する人もいる。だが再分配政策を財政調達面だけで評価するのは無理がある。…広く薄い課税で、はじめて再分配への財源をきちんと確保できる。消費税は一律税率とし、弱者への再分配は給付でしっかり行うのが望ましい。




 ただ、ここからは、価値判断の領域になります。年に2万円~4万円の話です。これを、「高額」と見るか「その程度の額」と見るかで、話は違ってきます。
 「その程度の額」と見れば、「低額所得層のために食料品は5%に据え置く」と言った方が政治家としては、有権者に誇りやすいのでしょう。

 いやいや、「高額」だと考えれば、2万円の差と言っても制度上は、きっちりしたほうが良いとなるでしょう。

 あと、①軽減税率を導入するためのコストと、②現金給付をするために所得を正確に把握するためのコストの、どちらがより多くかかるかという視点も必要です。

 ①には、対象・品目、軽減するときの税率、財源確保、インボイスなどの制度の整備、業者の負担増などがあります。②には、納税者番号の導入があります。

マンキュー著『経済学Ⅰミクロ編』東洋経済新報社2004 p337

 所得の増加につれてどれくらい急激に税が増えるかという点は、制度によって異なる。第1の制度はすべての納税書が所得の一定割合を支払うために比例税といわれる。第2の制度は、高所得の納税者が高額の税金を支払うが、所得に占める割合が小さくなるために逆進税といわれる。第3の制度は高所得の納税者ほど所得の大きな割合を支払うために累進税といわれる。

  この三つの制度のなかで、最も公平なものはどれだろうか。明らかな答えはなく、経済理論はそれを見つけるのには役に立たない。美しさと同様、衡平はそれを見る人の目によるのである。



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