福祉大国スウェーデンは理想郷ではありません
『週間朝日』2010.8.20号p29
『福祉大国スウェーデンは理想郷ではありません』
スウェーデンは、理想郷ではないと題する投書が7月21日付の朝日新聞「声」欄に載った。投稿したのは現地在住の日本人で、小学校教員のフス恵美子さん。理想の福祉国家と紹介されるスウェーデンの現実の一端を改めて聞いた。
日本で出版されるスウェーデン関連の本は必ず福祉大国と持ち上げています。増税論議のたびに引き合いに出されるのは「高負担だが、高福祉」の理想郷としてのスウェーデン。私も日本の大学で障害福祉を専攻し、そう信じてきた1人でしたが、この国の男性と結婚し、13年間も住んでいると理想とかけ離れた現実に驚かされることが少なくありません。
収入の最低1/3は税金にとられるうえ、消費税率は最高25%なのに医療費は安くない。歯科検診の費用は1万円をくだりません。
教師の位置付けは高くないようです。以前勤めていた小学校では教員免許を持つ先生が1人しかいませんでした。スウェーデン語はまだ流暢とは言えなかった私も1、2ヶ月ほど移民の子が多く学ぶ小学校でスウェーデン語で国語の授業を教えるよう命じられ、とまどいました。
完全個人主義のこの国では夫婦といえども自分の収入は自身で稼ぐ。そのため、親は共働き。母親は手料理を作る暇もありません。週末のスーパーでは1週間分の冷凍食品をカートに山ほど積む光景が見られます。「うちのお母さんは包丁の使い方を知らない」と話す子もいました。
小学校5年生になる娘は、4才の時に、自閉症と診断されました。「自閉症児専門の教室を持つ保育園がある」と市から紹介され、尋ねてみると、先生から「自閉症とは何ですか?」と逆に聞かれ、驚きました。目に見えにくい発達障害へのケアはそれほど進んでいないと感じました。
確かにバリアフリーや、聴覚、視覚障害者へのケアは進んでいます。ただ、それ以外の障害者や老人は、切り捨てられているように思います。スウェーデンを過剰に理想視するのは現実に即しているとは思いません。
<家族の崩壊>
参考引用文献 武田龍夫『福祉国家からの戦い』2001年
林道義『家族の復権』2002年 (ともに、中公新書)
100歳を超えた人(スウェーデンでは約700人)に大学生が尋ねた。「おじいさんの一生で,何か最も重要な変化でした?」彼は,世界大戦や,原爆,テレビ,携帯電話,パソコン‥を予測した。しかし,老人の回答は,予想だにしないものだった。「それはね,家族の崩壊だよ」(p27)
昔,家庭の中で家族の介護をした女性たちは,公的機関の職員となって,他人の親を介護する。子供は,早くから自立を強制され,家庭で施されるべき基本的なしつけや,教育が少なくなった。
このかげで,家庭は崩壊した。「スウェーデンでは,結婚は契約の一つ」「離婚は日常茶飯事」「2組に1組が離婚」する。そこには思いやりとか譲歩とか、協力とか尊敬といった感情はまずない。だから夫婦関係は、猛烈なストレスとなる。
Hヘイデン教授の『自殺とスカンジナビア』の分析である。スウェーデン男性にとってスウェーデン女性は緊張を引き起こしやすい対象である。女性は、子供に対する愛着が弱く、早く職場に戻りたがり、そのために十分子供を構ってやれないことへの罪悪感がある。彼女にとって、子供は楽しい存在ではない。幼児の頃から独立することをしつけるのも、それが背景だ。しかし子供にとって、これは不安と憤りの深層心理を潜在させることになる。
スウェーデン人は、徹底した個人主義であり、日本のような家族志向ではない。人間関係はクール。夫婦関係も子供との関係も同じ。孫を相手に遊ぶ老婆や、俳句・囲碁将棋・ゲートボールをともにする日本の老人のような姿はない。だから、スウェーデン人の「孤独」という言葉は、日本のそれとは全く違う。
老人ホームを訪問した日本人が経験したこととして、よく書かれているのが、「ホームを訪問して話し合った老女が自分の上着の裾をつかんで『返るな』」ということだ。
さみしい。それは、老人相手の電話サービスで癒されない。だから近くの公園へ行く。ベンチに座って、往来する人を眺めるのが好きなのだ。それでも満足出来ない人は、首のアラームボタンを押す。駆けつけた福祉センターの職員が、「またか」とうんざりする。「体の具合が悪く、トイレへ行けない」と老女は訴えるのだが、誰かにそばにいてもらいたい、その一心なのだ。
老人療養ホームで、80才男性が、同室老人に杖で殴られ、顔面裂傷。グループホーム80才男性行方不明、翌朝死体で発見。89才ベッドで窒息死。83才、福祉係の殴打を受け負傷、などなど。98年春のストックホルムの『スベンスカダーグブラーデット』紙キャンペーンの記事だ。市だけで6年に491件もの報告が上がった。報告されたケースの下に、報告されないケースは、何件あることか。
この種の事件は、昔もあった。ナーシングホームで、女性介護員が、長期に渡り微量の毒薬投与を行い、20名以上の高齢者を殺した。生きる屍より殺した方がまし、これが動機だ。
日本の老人には人権がないという人福祉関係者は、「日本人は精神が貧しい」と出版する。
スウェーデンは、制度や規則は合理的だが、人間的交流はほとんど無い。極限の個人主義から来る当然の結果だ。
スウェーデンでは、結婚していないカップルの子供が(婚外子)、56%。それに対し、140人の医師が、政府に乱婚の危険を警告する意見書を出した。学校における精神的教育の重要性を指摘し、一夫一婦制が人生で最も人間的な尊厳をもたらすのであり、社会的にも最も適したものであると強調し、乱婚を医学的・心理的・社会的に有害だと警告したのである。
<世界一の犯罪大国>
99年夏の世論調査(SIFO)、によれば「スウェーデンを誇りに思う」22%、福祉への信頼10%、メディア・経済・金融・企業・労組への信頼も軒並み10~20%。そして、犯罪や暴力の増加に最も悲観的である。
そして、世界一の犯罪王国になってしまった。刑法犯の数は,ここ数年日本が170万件,スウェーデンは100万件。(日本の人口は,スウェーデンの17倍)10万人当たり,強姦事件が,日本の20倍以上,強盗は,100倍以上である。10万人当たりの平均犯罪件数は,日本の7倍,米国の4倍である。
犯罪件数 スウェーデン(’05)124万件/886万人 日本(’06)288万件/12668万人

外務省安全ホームページでは、次のように書いてあります
2005年にスウェーデン国内で認知された犯罪の件数は、約124万件(速報値)で、前年に比べ僅かに減少していますが、銃器やナイフ等を使用した銀行や郵便局への強盗事件など凶悪犯罪は増加しています。 都市別では、ストックホルム市、ヨーテボリ市、マルメ市等の大都市で多く発生しています。 また、旅行者を狙った置き引き、スリ、窃盗などの犯罪は依然として頻発しており、特に夏季の観光シーズンは、ホテル、レストラン、空港、鉄道駅などの混雑する場所において犯罪グループが暗躍し、日本人が被害に遭うケースもあります。また、有名ホテルでさえも、チェックイン及びチェックアウト時、さらにはビュッフェ式レストランなどで食事中に置き引きの被害が報告されています。ビュッフェ式レストラン等での食事の際は、貴重品及びバッグ等を席に置いたまま離れないよう心掛ける。
○椅子の背もたれに、自身で荷物を挟んでいても用心を怠らないようにする。
<自己責任>
湯元健治「経済政策は『小さな政府』で』日経 経済教室H22.7.30
…政府は決して衰退産業・企業は救済しない…自動車メーカーのボルボやサーブを支援しなかった…。…ボルボは中国自動車メーカーの吉利汽車が買収し、サーブは企業再生法適用に追い込まれた後、オランダのスポーツカーメーカー、スパイカー・カーズに売却された。…倒産寸前の企業は整理・淘汰し、あふれた労働力をより生産性の高い産業や成長産業に移動させれば、経済全体の生産性が向上し、産業構造の転換が進む。

これが、福祉大国?の実態です。
『福祉大国スウェーデンは理想郷ではありません』
スウェーデンは、理想郷ではないと題する投書が7月21日付の朝日新聞「声」欄に載った。投稿したのは現地在住の日本人で、小学校教員のフス恵美子さん。理想の福祉国家と紹介されるスウェーデンの現実の一端を改めて聞いた。
日本で出版されるスウェーデン関連の本は必ず福祉大国と持ち上げています。増税論議のたびに引き合いに出されるのは「高負担だが、高福祉」の理想郷としてのスウェーデン。私も日本の大学で障害福祉を専攻し、そう信じてきた1人でしたが、この国の男性と結婚し、13年間も住んでいると理想とかけ離れた現実に驚かされることが少なくありません。
収入の最低1/3は税金にとられるうえ、消費税率は最高25%なのに医療費は安くない。歯科検診の費用は1万円をくだりません。
教師の位置付けは高くないようです。以前勤めていた小学校では教員免許を持つ先生が1人しかいませんでした。スウェーデン語はまだ流暢とは言えなかった私も1、2ヶ月ほど移民の子が多く学ぶ小学校でスウェーデン語で国語の授業を教えるよう命じられ、とまどいました。
完全個人主義のこの国では夫婦といえども自分の収入は自身で稼ぐ。そのため、親は共働き。母親は手料理を作る暇もありません。週末のスーパーでは1週間分の冷凍食品をカートに山ほど積む光景が見られます。「うちのお母さんは包丁の使い方を知らない」と話す子もいました。
小学校5年生になる娘は、4才の時に、自閉症と診断されました。「自閉症児専門の教室を持つ保育園がある」と市から紹介され、尋ねてみると、先生から「自閉症とは何ですか?」と逆に聞かれ、驚きました。目に見えにくい発達障害へのケアはそれほど進んでいないと感じました。
確かにバリアフリーや、聴覚、視覚障害者へのケアは進んでいます。ただ、それ以外の障害者や老人は、切り捨てられているように思います。スウェーデンを過剰に理想視するのは現実に即しているとは思いません。
<家族の崩壊>
参考引用文献 武田龍夫『福祉国家からの戦い』2001年
林道義『家族の復権』2002年 (ともに、中公新書)
100歳を超えた人(スウェーデンでは約700人)に大学生が尋ねた。「おじいさんの一生で,何か最も重要な変化でした?」彼は,世界大戦や,原爆,テレビ,携帯電話,パソコン‥を予測した。しかし,老人の回答は,予想だにしないものだった。「それはね,家族の崩壊だよ」(p27)
昔,家庭の中で家族の介護をした女性たちは,公的機関の職員となって,他人の親を介護する。子供は,早くから自立を強制され,家庭で施されるべき基本的なしつけや,教育が少なくなった。
このかげで,家庭は崩壊した。「スウェーデンでは,結婚は契約の一つ」「離婚は日常茶飯事」「2組に1組が離婚」する。そこには思いやりとか譲歩とか、協力とか尊敬といった感情はまずない。だから夫婦関係は、猛烈なストレスとなる。
Hヘイデン教授の『自殺とスカンジナビア』の分析である。スウェーデン男性にとってスウェーデン女性は緊張を引き起こしやすい対象である。女性は、子供に対する愛着が弱く、早く職場に戻りたがり、そのために十分子供を構ってやれないことへの罪悪感がある。彼女にとって、子供は楽しい存在ではない。幼児の頃から独立することをしつけるのも、それが背景だ。しかし子供にとって、これは不安と憤りの深層心理を潜在させることになる。
スウェーデン人は、徹底した個人主義であり、日本のような家族志向ではない。人間関係はクール。夫婦関係も子供との関係も同じ。孫を相手に遊ぶ老婆や、俳句・囲碁将棋・ゲートボールをともにする日本の老人のような姿はない。だから、スウェーデン人の「孤独」という言葉は、日本のそれとは全く違う。
老人ホームを訪問した日本人が経験したこととして、よく書かれているのが、「ホームを訪問して話し合った老女が自分の上着の裾をつかんで『返るな』」ということだ。
さみしい。それは、老人相手の電話サービスで癒されない。だから近くの公園へ行く。ベンチに座って、往来する人を眺めるのが好きなのだ。それでも満足出来ない人は、首のアラームボタンを押す。駆けつけた福祉センターの職員が、「またか」とうんざりする。「体の具合が悪く、トイレへ行けない」と老女は訴えるのだが、誰かにそばにいてもらいたい、その一心なのだ。
老人療養ホームで、80才男性が、同室老人に杖で殴られ、顔面裂傷。グループホーム80才男性行方不明、翌朝死体で発見。89才ベッドで窒息死。83才、福祉係の殴打を受け負傷、などなど。98年春のストックホルムの『スベンスカダーグブラーデット』紙キャンペーンの記事だ。市だけで6年に491件もの報告が上がった。報告されたケースの下に、報告されないケースは、何件あることか。
この種の事件は、昔もあった。ナーシングホームで、女性介護員が、長期に渡り微量の毒薬投与を行い、20名以上の高齢者を殺した。生きる屍より殺した方がまし、これが動機だ。
日本の老人には人権がないという人福祉関係者は、「日本人は精神が貧しい」と出版する。
スウェーデンは、制度や規則は合理的だが、人間的交流はほとんど無い。極限の個人主義から来る当然の結果だ。
スウェーデンでは、結婚していないカップルの子供が(婚外子)、56%。それに対し、140人の医師が、政府に乱婚の危険を警告する意見書を出した。学校における精神的教育の重要性を指摘し、一夫一婦制が人生で最も人間的な尊厳をもたらすのであり、社会的にも最も適したものであると強調し、乱婚を医学的・心理的・社会的に有害だと警告したのである。
<世界一の犯罪大国>
99年夏の世論調査(SIFO)、によれば「スウェーデンを誇りに思う」22%、福祉への信頼10%、メディア・経済・金融・企業・労組への信頼も軒並み10~20%。そして、犯罪や暴力の増加に最も悲観的である。
そして、世界一の犯罪王国になってしまった。刑法犯の数は,ここ数年日本が170万件,スウェーデンは100万件。(日本の人口は,スウェーデンの17倍)10万人当たり,強姦事件が,日本の20倍以上,強盗は,100倍以上である。10万人当たりの平均犯罪件数は,日本の7倍,米国の4倍である。
犯罪件数 スウェーデン(’05)124万件/886万人 日本(’06)288万件/12668万人

外務省安全ホームページでは、次のように書いてあります
2005年にスウェーデン国内で認知された犯罪の件数は、約124万件(速報値)で、前年に比べ僅かに減少していますが、銃器やナイフ等を使用した銀行や郵便局への強盗事件など凶悪犯罪は増加しています。 都市別では、ストックホルム市、ヨーテボリ市、マルメ市等の大都市で多く発生しています。 また、旅行者を狙った置き引き、スリ、窃盗などの犯罪は依然として頻発しており、特に夏季の観光シーズンは、ホテル、レストラン、空港、鉄道駅などの混雑する場所において犯罪グループが暗躍し、日本人が被害に遭うケースもあります。また、有名ホテルでさえも、チェックイン及びチェックアウト時、さらにはビュッフェ式レストランなどで食事中に置き引きの被害が報告されています。ビュッフェ式レストラン等での食事の際は、貴重品及びバッグ等を席に置いたまま離れないよう心掛ける。
○椅子の背もたれに、自身で荷物を挟んでいても用心を怠らないようにする。
<自己責任>
湯元健治「経済政策は『小さな政府』で』日経 経済教室H22.7.30
…政府は決して衰退産業・企業は救済しない…自動車メーカーのボルボやサーブを支援しなかった…。…ボルボは中国自動車メーカーの吉利汽車が買収し、サーブは企業再生法適用に追い込まれた後、オランダのスポーツカーメーカー、スパイカー・カーズに売却された。…倒産寸前の企業は整理・淘汰し、あふれた労働力をより生産性の高い産業や成長産業に移動させれば、経済全体の生産性が向上し、産業構造の転換が進む。

これが、福祉大国?の実態です。
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