菅首相「第3の道」その3

H22年6月11日、読売

『増税を財源に雇用を拡大』
 
 菅首相の言う「第3の道」は、増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策だ。

 首相によれば、「第1の道」は、道路やダム建設など公共事業を通じた需要拡大策で自民党政権の伝統的手法だ。「第2の道」は規制改革を掲げ、小さな政府を目指した小泉内閣の構造改革路線だ。
「第1の道は国の借金を増やした。第2の道は企業の効率化がリストラを招き、格差社会を生んだ」として、首相はどちらも失敗と評価している。

小野善康 阪大社会経済研究所長

…失業率が10年以上も高止まりしている今の日本で供給サイドの潜在成長率を高めれば失業率はさらに悪化する。デフレと雇用不安を引き起こして消費がさらに落ち込むし税収も減る。それが小泉構造改革が失敗した原因だ。

…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。



<経済学的には・・>

小野善康 阪大社会経済研究所長
…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。


 この「第3の道」「増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策」について、前回、「政府ではなく、市場」を拡張する必要があることを述べました。
 「政府が財政支出をすれば、その分だけGDPは増加します」が、「成長」は、公的規制分野(医療・介護分野)からは、生まれないからです。

 識者はどのように考えているのでしょうか。

小林慶一郎 経済産業研究所 日経『経済教室』H22.6.17

 …医療や介護の需要はますます大きくなる。医療介護施設などの建設ニーズや必要とされる労働力も膨大になる。そのために財政支出を社会保障分野に重点的に回すという菅政権の考え方は適切である。
…しかし、医療や福祉分野への財政投入が雇用を生み出して経済成長をもたらす…という議論は大いに疑問である。

…医療・介護分野が成長産業になることを阻害している最大の問題は、この分野が政府による資金補助と統制を受けていることである。政府が医療・介護人材の報酬額を規制で低く抑え、高価格でのサービス提供を制限しているために、看護師、介護士などの人材が慢性的に不足し、サービスの供給が不足している。
…医療、介護分野での新規参入や価格設定の自由度が上がれば、市場メカニズムにしたがってサービスの供給が増える。

…要するに、財政支出を社会保障に重点配分することは重要だが、それと連動して、医療福祉分野の規制緩和(参入と価格設定の自由度の拡大)が本筋の課題であろう。


 続いて、社会保障政策の専門家です。


鈴木亘 学習院大学 社会保障論・医療経済学・福祉経済学
『社会保障で成長 疑問』日経H22.6.18

…増税して社会保障を手厚くしても、一般の産業に回っていたお金が引き上げられるだけだ。…医療や介護が産業として伸びているのは自律的ではない。…安い税金が入っているので、安い料金で提供できる。自動車や電機のような産業と違う。…経済成長のけん引役とするのはおかしい
…公共投資や環境対策は先々に生きる投資だが、医療も介護も消費して終わる。社会資本として蓄積しないので投資効果はない。

規制緩和などで体を鍛えて基礎体力を上げるべきだ。…公費をどんどん入れるのではなく、対価を得るようにすることだ。…現状分の公費は仕方ないが、これから増える分は自己負担で賄うべきだ。

…混合診療を解禁したらどうか。最低限の医療、サービスは保険で用意するが、それ以上のサービスは全額自己負担にし…自己負担の医療・介護が増える分には…自律的な経済成長となる。
…負担に悲鳴を上げる人には勤労者税額控除などで直接支援し、実質的に負担が増えないようにすればいい。


 市場メカニズムを導入すれば(官製市場ではなく)、伸びる業界のようです。

 介護・保育分野も、規制漬けです。

参考文献 鈴木亘『サービス拡大への規制緩和』日経H21年3月16日      

介護分野の参入規制 介護保険開始以降も自治体・医療法人・社会福祉法人以外参入できない


 保育所の待機児童が、「2009年4月現在で25,384人であり、半数が首都圏(東京、神奈川)に集中している:出典ウィキペディア」そうですが、これは認可保育園における、待機児童数で、民間保育園(無認可)には、誰でも入れます

 ただし、無認可は「高い」のです。一切、補助金が入っていないからです。認可保育園は、「公費」で運営されます。ですから、「安い」のです。

 さらに、認可保育園は、「公務員」で運営されている公立保育園があり、給与は、「民間私立保育園」の倍~数倍もらっています。
 民間保育園の保育士の給与の安さは、つとに有名です。

「補助金」を投入するところは手厚く、「未認可」には、補助金を入れない。これが「官製市場」なるものの実態です。
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菅首相 「第3の道」 その2

次回の更新は、6月20日です

H22年6月11日、読売

『増税を財源に雇用を拡大』
 
 菅首相の言う「第3の道」は、増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策だ。

 首相によれば、「第1の道」は、道路やダム建設など公共事業を通じた需要拡大策で自民党政権の伝統的手法だ。「第2の道」は規制改革を掲げ、小さな政府を目指した小泉内閣の構造改革路線だ。
「第1の道は国の借金を増やした。第2の道は企業の効率化がリストラを招き、格差社会を生んだ」として、首相はどちらも失敗と評価している。

小野善康 阪大社会経済研究所長

…失業率が10年以上も高止まりしている今の日本で供給サイドの潜在成長率を高めれば失業率はさらに悪化する。デフレと雇用不安を引き起こして消費がさらに落ち込むし税収も減る。それが小泉構造改革が失敗した原因だ。

…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。


<政府は成長分野がわかる?>

小野善康 阪大社会経済研究所長 …そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。

 確かに、「社会保障等の成長分野」ではあります。

日経H22.6.14
『菅政権 政治再生の責任 5』
…政府は…2011~13年度のあいだ一般会計で政策に使う一般支出を10年度を超えない水準に抑える。最大のネックは年1兆円のペースで増える社会保障費。


 年金、医療、介護、子供、生活保護、失業などの保険、保険衛生費などの各種支出が、毎年1兆円増えます。高齢化の当然の帰結です。成長分野として狙うと言うより、成長せざるを得ない分野です。ただし、官製(民間部門ではなく、ガチガチに規制された)・・・ですが・・・
 本来は、混合診療や、許認可保育園だけへの手厚い政策の変更、介護の自由参入化などの導入が必須です。それでこそ、民間活力を導入した「成長分野」になりそうです。

グラフ http://www.mof.go.jp/zaisei/con_04_g02.html
日本 社会保障費 推移.jpg

 しかし、「2011~13年度のあいだ一般会計で政策に使う一般支出を10年度を超えない水準に抑える」のが、政府の方針ですから、1兆円分の支出を、どこかで削るという方針なのだと考えられます。

平成22年度 予算案.JPG

 成長分野を、政府が作ることは可能なのでしょうか

 政府が100%管理したのが、ソ連型共産主義でした。
一方、政府が何も関与しないと、「レッセ・フェール(自由放任)」になります。

 政府の役割を重視したのが、「ケインズ」です。そして、 「政府」の役割について、徹底的な懐疑派なのが、「ミルトン・フリードマン」です。
 
根井雅弘(京大教授)『経済学はこう考える』ちくまプリマー新書 2009 p110

 フリードマンの思想は… 「自由市場」のほうが「計画経済」よりもはるかに効率的であり、たとえ「市場の失敗」(外部不経済や独占の弊害など、市場メカニズムにだけ頼っていては解決できない問題が発生すること)があるとしても、「政府の失敗」(計画経済やケインズ政策など、経済システムを思い通りに制御しようとしても成功しないということ)と比較すれば軽微なものであるということ…


 フリードマンは、「政府」を徹底して信頼していません。

ミルトン&ローズ・フリードマン『選択の自由』日本経済新聞社 1980
 p340
…一般的にいって誰が被害を受け、誰が利益を受けているかを明確にすることは、市場における参加者よりも政府にとっての方が容易であるということはけっしてなく、どれだけの被害や利益がそれぞれの人に発生したかを正確に評価することも、政府にとっての方が容易であることはけっしてない


 公害などの「外部不経済」は、「市場」においては、必ず発生します。ですが、それを解決するのは「政府」ではなくて「市場」だとします。政府による規制や監視ではなく、「税金や課徴金」を公害にかければよいのだと考えます。

p346
市場機構がその働きを明らかに不十分にしか果たせない分野があることは事実だ。しかしそのような分野でも、市場機構が果たすことができる働きを、もう一度考えてみる必要があるとの議論は教えてくれたのではないだろうか。結局のところ不完全な市場は、不完全な政府と少なくとも同等かまたはそれよりはよい成果をあげるかもしれないのだ。汚染問題との関連でも、市場機構が果たしてくれる働きをもう一度吟味してみれば、驚くほどよい解決法を数多く発見できるかもしれない。


 政府よりも、市場の方が「まし」ということです。

 政府は、「予算が100万円」あったら、「100万円使い切ろう」とします。その100万円の費用対効果は、一般的な消耗費の場合、考えません。基本的に「他人のカネ」だからです。

 民間人(消費者一人ひとり)は、「自分のお金」なので、最大の効用を目指して使います。100円の支出であっても、自分の満足度の最大化を目指して支出します。ですから、「消費者はシビア」なのです。モノを売るというのは、大変なことです。
 その消費者の選択にゆだねるのが、「市場」です。フリードマンが「効率が良い」としたのが後者です。

参考文献 ニューズ・ウイーク 2009.11.4 p64 

 フリードマンは、1929年以降の大恐慌についても、ケインジアンの考える「有効需要の不足」ではなく、FRB(アメリカの中央銀行に相当)が通貨供給を絞ってしまい、銀行が連鎖倒産したことを証明しました。
 この教訓はリーマン・ショック以降の、金融システムの維持に生かされ、FRBは、大量のマネー・サプライ(通貨供給量)を準備しました。バーナンキFRB議長は「フリードマンは正しい」と言ったそうです。

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菅首相 「第3の道」

H22年6月11日、読売

『増税を財源に雇用を拡大』
 
 菅首相の言う「第3の道」は、増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策だ。

 首相によれば、「第1の道」は、道路やダム建設など公共事業を通じた需要拡大策で自民党政権の伝統的手法だ。「第2の道」は規制改革を掲げ、小さな政府を目指した小泉内閣の構造改革路線だ。
「第1の道は国の借金を増やした。第2の道は企業の効率化がリストラを招き、格差社会を生んだ」として、首相はどちらも失敗と評価している。

小野善康 阪大社会経済研究所長

…失業率が10年以上も高止まりしている今の日本で供給サイドの潜在成長率を高めれば失業率はさらに悪化する。デフレと雇用不安を引き起こして消費がさらに落ち込むし税収も減る。それが小泉構造改革が失敗した原因だ。
…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。


<小泉改革は、格差を縮小した>


 小泉首相 在任期間 2001年4月~2006年9月

『世界この先』日本経済新聞09年3月○○日(日にち喪失)

 グローバル化は本当に世界に格差や貧困をばらまいたのであろうか?…
…1に近いほど所得格差が大きいことを示すジニ係数。米コロンビア大学教授のサライマルティン(45)によれば世界全体の係数は70年には0.67だったが、2006年には0.61に下がった。世界銀行によると1日1ドル25セント未満で暮らす貧困層も過去25年間で5億人減った。過去の経済成長の恩恵は広く及んだ。マクロで見ればグローバル化が人々を不幸にしたと断ずる理由は乏しい。サライマルティンは「今世紀にはアフリカでも貧困脱出が始まった」と言う。


 日本のジニ係数は、2000年~2005年の間に、縮小しています。OECD2008年報告書によると、小泉改革2001~の間、格差拡大をわずかながら抑えたのです。

参照1:マイコミジャーナル 2008/10/23
http://journal.mycom.co.jp/news/2008/10/23/049/index.html

 経済協力開発機構(OECD)が21日に発表した、OECD加盟諸国の所得格差を調べた報告書で、日本における所得格差は過去5年間で縮小に転じたことが分かった。

 日本のジニ係数は0.321で世界平均をわずかに上回った。この数値は0.323を示した10年前の1990年代半ばとほぼ同じ水準で、20年前の1980年代半ばの0.304よりはわずかに格差が拡大したことになるが、2000年前後の数値である0.337に比べ、過去5年ではやや改善されたことを示している。


日本の分析でも、ジニ係数拡大は、小泉改革の時に縮小しています。

グラフ出典:経済白書2009年版 

日本 ジニ係数

 また、景気は、小泉政権の時に、拡大しました。

時事ドットコムhttp://www.jiji.com/jc/v?p=ve_eco_current-diffusion

【図解・経済】景気動向指数の推移(最新・2010年6月8日更新)
◎景気の「谷」は昨年3月=戦後最大級の落ち込み-内閣府
※記事などの内容は2010年6月7日掲載時のものです

 …「谷-山-谷」を1サイクルとした景気循環でみると、戦後14番目となる02年1月から09年3月までの今回の景気循環は、前半の景気拡大期が戦後最長の69カ月となり、全体でも最長の86カ月間に及んだ。


景気動向指数  小泉

 小泉改革は、経済的には成功した
のです。(ただし、その配分は・・・こちらは政治問題です)

<第3の道とは>

菅首相の第3の道

1の道 大きな政府 公共事業拡大(需要拡大政策)
2の道 小さな政府 構造改革
3の道 増税し、社会保障分野などの産業へ

 菅首相の第3の道は、英国のトニー・ブレア首相(労働党)の時のキャッチフレーズを念頭に置いています。

 イギリスは、それ以前、「ゆりかごから墓場まで」といわれる高福祉政策を採用し、「英国病」といわれるほどに、経済が衰退しました。
 そこにサッチャー(保守党)が登場し、国有企業の売却、規制緩和など、のちに「新自由主義」といわれる政策を推し進め、小さな政府の実現を目指しました。

 一方、医療制度の崩壊や、競争原理による公教育の弊害も出てきたため、サッチャー路線の修正を図ろうとブレア首相が、目指したのが「第3の道」です。

(保守党)自由主義か、(労働党)社会民主主義かではなく、社会民主主義の中に自由主義を取り入れる政策のことです。

 ですから、法人税や所得税の減税(小さな政府路線)を引き継ぎながらも、低所得者層に対する就労支援や、公立校改革、地方分権などを進めました。

イギリスの第3の道
1の道 福祉型国家(大きな政府)
2の道 新自由主義(小さな政府)
3の道 1をとりつつも、2を導入

 菅首相の「第3の道」とは違います

 ポイントは、「自助努力する者」を政府が救済することです。失業手当をもらうためには、日本でいうハローワークと取り決めをしたり、2週間に1回受給資格の確認をしたり、面接を義務付けたりしました。
 また、公務員は、50万人以上増やしましたが、民間企業並みの「効率性」を最重要視しました。単なる「大きな政府」復活ではありません。これらの政策の理論になった考えを見てみましょう。

アンソニー・ギデンズ『第3の道』 日本経済新聞社 1999
P130
 政府が上から下まで不信を買う理由の一つは、政府が非効率な厄介ものだからである。企業組織が迅速かつ柔軟に環境変化に対応する世界では、どうしても政府は後れをとりがちである。要するに、「お役所的」の代名詞でもある「官僚制」は、政府を指し示す言葉にほかならない。
 政府のリストラは、「より安い費用でより大きな効果を」という生態学の原則に従うべきであって、単なる政府のダウンサイジング(規模縮小)ではない。それは、政府のやることを質・量ともに充実させることだと理解されなければなるまい。ほとんどの国の政府は、目標管理、実効性のある監査、柔軟な意思決定機構、従業員の参加拡充等々、企業の秀でた行動様式から学ぶ点が今なお多い

p116
 新しい政治の第一のモットーは、「権利は必ず責任を伴う」である。市民をはじめとする各主体に対して、弱者保護を含めて、政府は様々な責任を負っている。しかし、旧式の社会民主主義(筆者注:福祉重視の時代のイギリス)は、無条件に権利を要求する傾きが強かった。個人主義が浸透するにつれて、個人の権利に義務を伴わせる必要性が高まった。
 たとえば、失業手当には、積極的に職探しをする義務が伴わなければならない。福祉制度が積極的な求職活動を妨げないようにするのは、政府の責務である。「権利は必ず責任を伴う」というモットーは福祉の受給者だけではなく、万人が遵守すべき倫理原則でなければならない。



 この政策を採用した結果、イギリスの経済が成長したのは間違いありません。2007年~リーマン・ショック後を除く

ブレア政権期(1997年5月2日 - 2007年6月27日)

数字出典 世界経済のネタ帳

1人当たりGDP

[世] 一人当たりの名目GDP(US$)の推移(日本、イギリスの比較)

名目GDP

[世] 名目GDP(US$)の推移(日本、イギリスの比較)

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