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教科書の間違い ホッブズ

<教科書の間違い ホッブズ>

帝国書院『高校生の新現代社会』H20.2.10 p98
 イギリスのホッブズは、国家や社会が成立する以前の状態を、「万人の万人に対する闘争」である自然状態とし、自分たちの生命や財産を守るために全員で契約を結んで、自然権を統治者(国王)にゆだねるべきだという社会契約説を唱えました。
   ↓
帝国書院『高校生の新現代社会』平成23年版 
 ホッブズは、国家や社会が成立する以前の状態を、「万人の万人に対する闘争」である自然状態とし、自分たちの生命や財産を守るために全員で契約を結んで、自然権を統治者(国王)にゆだねるべきだという社会契約説を唱えました。

 帝国書院は、間違いを指摘しても、堂々と乗せ続けていますね。ただし、来年度からは見直す予定だそうです。


帝国書院『アクセス現代社会2009』H21.2.25 
・闘争を避けるために自然権を国王に譲渡する契約を結ぶ
国王に絶対服従

とうほう『政治・経済 資料2009』2009年度見本 p15
・国民は自然権を委譲した統治者(国王)に服従

東京書籍『政治・経済』H20年2月10日 p8
…各人の自然権を主権者(君主)に委譲し…

桐原書店『新政治経済 改訂版』H20.2.28 p9
…絶対主権者を認めたので、絶対王政を擁護


 トマス・ホッブズ(1588-1679)は、イギリスの哲学者、政治思想家です。『リヴァイアサン』という著書の、「万人の万人に対する闘争」という言葉がひじょうに有名です。

1640年 ピューリタン革命
1651年 『リヴァイアサン』
1660年 王政復古(チャールズ2世)
1688年 名誉革命


ホッブズ『リヴァイアサン』水田洋訳 岩波文庫 1992 第1巻 p210-211
 これによって明らかなのは、人々が、彼ら全てを威圧しておく共通の権力なしに生活しているときには、彼らは戦争状態と呼ばれる状態にあり、そういう戦争は万人の万人に対する闘争だということである。


 彼は、人間は、古代哲学者アリストテレスが言う「人間はポリス的動物(政治的動物)」、つまり生まれながらにして、社会的な存在だとはみなしません。アリストテレスの見解は、「人間は~である」という「事実論」ではなく、「べき論」だと言うのです。人間は、一人一人、自然権を持っているのです。

『リヴァイアサン』第1巻p216
自然権とは、各人が自分自身の自然すなわち生命を維持するために、自分の力を自分が欲するように用いるよう各人が持っている自由である


その自然権を行使すると、「万人の万人に対する闘争」状態になります。ホッブズはこういいます。

『リヴァイアサン』第1巻p212
 こうしたことを考慮したことのない人にとっては、自然が人々をこのように分裂させ、相互に侵入し、滅ぼし合わせるということは、不思議に思われるかもしれない。…その人に自分のことについて次のことを考察させよう。…眠るときには扉に鍵をかけ、家にいるときでさえ自分の金庫に鍵をかけるだろう。しかも、自分に対してなされるだろう全ての侵害に復讐するための法があり、武装した役人がいることも知っている場合でもそうするのである。


 確かに、「どろぼう」『犯罪者』は世の中に絶えたことはありません。ですから、

『リヴァイアサン』第2巻p33
被造物(筆者注:人間)を外国人の侵入や互いの侵害から防衛し、そうして彼らを守…るための唯一の道は、彼らのすべての権力と、強さを一人の人間または人々の一つの合議体に与えることであって、そうして多数者意見によって彼らすべての意思を一つの意思とするのである。


 といって、一人一人の持つ自然権を、国家に譲り渡すのです。あとは、強大な権力を持つ国家に安全を保障してもらえばよいことになります。『リヴァイアサン(聖書に出てくる怪物』という国家にです。

 ただし、

東京書籍『政治・経済』H20年2月10日 p8
…各人の自然権を主権者(君主)に委譲し


 ではありません。「一人の人間または人々の一つの合議体」に譲るのであって、君主だけを念頭においてはいないのです。「共和国政府」でも良いのです。


<ホッブズは絶対王政を擁護?当時の王党派は、ホッブズを総スカン>

桐原書店『新政治経済 改訂版』H20.2.28 p9
…絶対主権者を認めたので、絶対王政を擁護


リチャード・タック『トマス・ホッブズ』田中浩・重森臣広訳 未来社 1995 p60-61
「実に『リヴァイアサン』において重要な意味を持ち、『リヴァイアサン』執筆の理由を示す箇所は今日の読者がほとんど読むことのない第三部と第四部(注:共和国よりの考え方だった)の議論だったのである。(略)『リヴァイアサン』の内容がどのようなものであるかを知って以後、王党派の旧友たちは、もはやホッブズと接触しようとはせず、『無神論』『異端』『背教者』といって非難を浴びせ始めた


『リヴァイアサン』はフランス亡命中に書かれました。帰国後も、彼の思想は無神論とみなされ、禁圧されたのです。

 強大な権力を持つ国家は、「キリスト教会」よりも上に立つとされたのですから、「王政を擁護」したとは、みなされていなかったのです。
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