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アベノミクス批判は、だれもがとんちんかん

<アベノミクス批判は、だれもがとんちんかん>

http://blogos.com/article/136852/

中原圭介 2015年10月01日 09:47
「新しい3本の矢」は経済失政をごまかすためのもの

アベノミクスが始まって早くも2年9か月が過ぎようとしていますが、その実態はというと、円安や株高によって大企業や富裕層が潤った一方で、国民生活は悪化し続けてきたということに尽きるでしょう。国民経済の視点から見れば、アベノミクスは完全に失敗に終わっていたわけです。

そのような経済失政にもかかわらず、自民党総裁に再任したばかりの安倍首相は、わざわざ記者会見まで開いて、「アベノミクスは第2ステージに入る」と訴え、「新しい3本の矢」を実行していくと力説しています。新しい3本の矢とは、-①希望を生み出す強い経済、②夢を紡ぐ子育て支援、③安心につながる社会保障-だということです。

しかしこれは、金融緩和を中心に据えた「従来の3本の矢」の失敗を総括することなく、経済失政の責任問題が浮上する前に「新しい3本の矢」にすり替えたというのが実情ではないでしょうか。

これに先駆けて、日銀の2年以内に2%を達成するとしたインフレ目標は、完全に失敗することとなりました。たとえ達成の期限を先延ばしたとしても、たとえ追加緩和を実施したとしても、結局のところまた失敗するのは避けられないでしょう。



 いやあ、とにかくアベノミクス批判は、「批判したい」「リフレが理解できない」「経済学勉強していない(知らない)」なので、どうしようもないです。

 アメリカのFRBの目標=法律で明記には、何が入っていると思いますか?「失業率」です。

 マンデル=フレミングモデルで明らかなように、変動相場制では、「金融政策は有効、財政背策は無効」は、理論的にも実証的にも立証されています。

 1980年代中庸のプラザ合意くらいまで、変動相場制は、ごちゃごちゃ、不安定でしたが、1980年代後半・1990年代から2008年のリーマンショックまで、ようやく安定してきました。

 その時期は、「大中庸時代」で、マクロ経済政策運営は、先進国のどの国でも「金融政策」で進められ、財政政策など、過去の遺物(固定相場制では有効でしたが)になりました。

 インフレターゲットが採用されたのも、テイラールールが提唱されたのも、90年代です。マクロ政策は「金融政策」というのは、変動相場制下の「合意事項」です。

 ただし、リーマンショックはあまりにショックが大きく、ケインズ政策の王道、「財政+金融政策」が復活しました。でも、その後はEU・米ともに「財政」はまた封印されています。

 ギリシャとドイツ見ても分かりますね。長期的に財政赤字をGDP比60%にするというのがEUの合意事項、まさに緊縮財政です。ドイツは「お前、マゾヒストか?」というくらい、緊縮財政ひた走っています(笑い)。

クルーグマンなどは、EUの「財政封印」を批判しています。

 そして、フィリップス曲線:インフレと失業のトレードオフは、短期的には「理論的に成立」します。

 インフレターゲットが、どの国も2%内外(上限下限1%~3%の間)というのがなぜかわかりますか?

それは、2%近辺が、一番失業率が低く、それ以上のインフレでも失業率に変化はない(失業率は下がらない)からです。

 で、アベノミクス導入以降、失業率は低下しています。求人倍率も最高になっているのはご存じのとおり、大学生・高校生の求人も、過去最高レベルに回復しています。

アベノミクス 失業率


当然ですが、日本でも短期的フィリップス曲線は、理論的にも実証的にも成立しています。

アベノミクス フィリップス曲線

ついでに、アメリカも、QE導入後、失業率は低下、短期フィリップス曲線は成立し、8月現在失業率は5.1%の低水準、インフレ率は1.8%、出口政策がささやかれている(金利引き上げ)のはご存じのことと思います。

アベノミクス フィリップス曲線  アメリカ

アメリカの場合、失業率5%は、完全雇用状態、インフレ率は2%目標ですから、QE導入の目標は達成されています。

マクロ経済政策運営の目標は「失業率を低くする」ことです。これが達成されているか否かが評価軸です。

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マクロ政策で出来るのは、「AD=需要」を動かすことです。それは財政+金融で可能です。潜在成長率を下回る場合、需要を増やし、供給=潜在成長率のレベルくらいまで、需要を刺激するのは可能です。

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ただし、あくまでも金融政策は有効・財政政策は無効です。

そして、金融政策は、短期では「供給=短期AS」を動かすことはできます。錯覚がある間です(インフレが見込まれる場合、供給増になります)。

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しかし、GDP=Y=長期供給をどうやったら増やせるか、そんなもの、経済学では分かりません!!

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GDP=Yを増やす魔法のような方法があれば、だれも経済学なんてやりません。そんな答えがあれば、経済学でウンウン、考えることは不要だからです。

P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009

 経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。お望みであれば、輸入割り当てや価格管理といった方策が、医学でいうところの出血治療法と同じくらい効果のない政策であることを示すことができる。

 しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかと言うことや、奇跡的な経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない。

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中原圭介 『お金の神様』週刊現代22年4月3日号 その3

中原圭介『アセットベストパートナーズ』金融資産運用部ディレクター『お金の神様』週刊現代22年4月3日号

質問 高成長を続ける中国に「死角」はありませんか。

 アメリカは借金してモノを買い、消費生活を楽しむ。モノを売った中国や日本は、儲けたお金でアメリカ国債を買い支える。こうして回っていたのが、サブプライムショックまでの世界経済でした。
アメリカにはモノを買う余裕がなく、むしろ自国製の商品を諸外国に買ってほしい。貿易収支のグラフを見ても、近年、輸出と輸入の差が縮まったのがわかる。外需主導で経済の立て直しをはかっているのです。オバマ大統領は「5年間で輸出倍増」計画を打ち出した。5年で倍増するためには、毎年15%ずつ輸出を増やさないといけない。かなり無理のある数字…。
 中国は人民元を事実上、ドルに連動させています。結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ。


 いくら、「エコノミスト」といっても、経済学のバックボーンがないと、誤った記事を書いてしまいます。これは、アメリカの一般大衆と、その意見を尊重せざるをえない、議員と同じレベルです。2010-04-01記事参照

日経H22.3.17中国 貿易黒字 人民元相場

 モノの輸出入という、貿易の片面だけをとらえ、それですべてを説明しようとするので、おかしな記述になります。下線部記述は、「モノ」だけに視点を奪われていることを示しています。

<貿易黒字=資本赤字>

H22.4.8『米中鳴動』日経

…オバマ大統領は3月11日、人民元が割安に押さえられているとの国内の声を受け、「市場に基づいたレートへの移行」を主張。3日後に中国の温家宝首相は「元相場は過小評価ではない」と反論した。
…中国を「為替操作国」と認めれば、米政府は中国への高関税率などの制裁に動く。中国の報復も予想され、険悪化に逆戻りしかねない。

…米国にとって最大のリスクは心臓部である財政に潜む。1月時点で中国の米国債の保有残高は8890億ドルと国別の首位。1466億ドルの香港を合わせれば1兆ドルをゆうに越す。最大の買い手である中国の面目をつぶせば市場は「米国債の入札に不安が増す」と危ぶむ。

…一方、中国政府の高官は匿名を条件に「米国債は売るに売れない」事情を明かす。元相場は1ドル=、8元台半ばにあった2005年に比べ、今は同6.83元前後までほぼ2割切り上がった。ドル建ての資産の目減りを招く元高・ドル安で中国が持つ米国債には「巨額の評価損が発生している」という。米国の急所を押さえても容易に動けない中国は「ドルのわな」にはまった姿に移る。


中国 アメリカ国債

 貿易黒字資本赤字です。

黒字赤字「コインの裏表」勝ったとか、負けたとか、得したとか、損したという話ではありません。

 中国は、貿易黒字を出していますが、それは、同額分の外国のカネを増やしていることです。対米黒字=ドル資産増加です。ただドルを持っていても仕方ないので、アメリカ国債などに投資します。

 元は、もともと、元高傾向でした。そして、元の相場を維持(元安)するために、中国中央銀行は、大規模なドル買い元売りをしています。

 ところが、そのドル資産は、すでに目減りしています。過去の元安時に購入したドル資産はすでに、2割も目減りしているのです。

 元相場は1ドル=、8元台半ばにあった2005年に比べ、今は同6.83元前後までほぼ2割切り上がった。ドル建ての資産の目減りを招く元高・ドル安で中国が持つ米国債には「巨額の評価損が発生している」

 1ドル=8元の時に買った米国債100万ドル=800万元は、1ドル=6元になると、600万元にしかなりません。元には換金できないのです。

 昔1ドル=250円だった時に買った米国債100万ドル=2億5千万円は、1ドル=125円になると、1億25百万円になったのと同じです。(別に、円に還元せず、ドル資産のまま運用すれば、問題はないのですが・・・実際にはそうします)
 今後さらに元高になると、表面上ドル資産=元資産はさらに目減りします。

 このように、「中国対米貿易黒字=ドル資産増加」のことです。もともと、「貿易黒字は国内に還流しないカネ」なのです。「貿易黒字はもうけ」ではありません

 「中国は人民元を事実上、ドルに連動させています。結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ。」


武器でもなんでもありません。自分に跳ね返っているだけです。

① 中国の元安による対米貿易黒字=ドル資産増
② 米国のドル高による対中貿易赤字=中国にドル資産を購入してもらうこと
③  元高=ドル資産目減り
④ ドル安=アメリカ債務減


 「貿易黒字を出す中国は、貿易で勝つ」は神話なのです。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

中原圭介 『お金の神様』週刊現代22年4月3日号 その2

中原圭介『アセットベストパートナーズ』金融資産運用部ディレクター『お金の神様』週刊現代22年4月3日号

質問 高成長を続ける中国に「死角」はありませんか。

 アメリカは借金してモノを買い、消費生活を楽しむ。モノを売った中国や日本は、儲けたお金でアメリカ国債を買い支える。こうして回っていたのが、サブプライムショックまでの世界経済でした。
アメリカにはモノを買う余裕がなく、むしろ自国製の商品を諸外国に買ってほしい。貿易収支のグラフを見ても、近年、輸出と輸入の差が縮まったのがわかる。外需主導で経済の立て直しをはかっているのです。オバマ大統領は「5年間で輸出倍増」計画を打ち出した。5年で倍増するためには、毎年15%ずつ輸出を増やさないといけない。かなり無理のある数字…。
 中国は人民元を事実上、ドルに連動させています。結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ。


 いくら、「エコノミスト」といっても、経済学のバックボーンがないと、誤った記事を書いてしまいます。これは、アメリカの一般大衆と、その意見を尊重せざるをえない、議員と同じレベルです。2010-04-01記事参照

 モノの輸出入という、貿易の片面だけをとらえ、それですべてを説明しようとするので、おかしな記述になります。下線部記述は、「モノ」だけに視点を奪われていることを示しています。

 本当は「モノ(サービス)≡カネ」であり、しかもどちらが主導かというと、「カネ」です。①カネの動きが②モノ(サービス)の動きを決定しているのです。 ①は、②の90倍動いています。その1/90が、国際収支表に記述されているに過ぎません。つまり、国際収支表に記述された貿易収支(モノ・サービス収支)は、実際の資本取引の1.08%程度しか、示していないということです。

<カネが先、貿易黒字(赤字)は後>

 モノ・サービスの実物取引=貿易黒(赤)字を含む経常黒(赤)字など、今日では、為替に影響を与えることなど、全くないと言っても過言ではありません。
 円高・ドル安など、為替を変動させる要因は何でしょう。それは、日米の金利差、株価格などの「資本(カネ)」取引に関わる分野なのです。
 資本取引額は、貿易取引額の90倍(2007BIS統計)です。図にすると、下記のようになります。
資本取引>貿易


 2007年現在,外国為替市場の1日の平均取引額は3.2兆ドル(340兆円)にも上ります。同年の世界貿易額は,1日当たり357億ドルですから,貿易額の約90倍にのぼる資本の取引があることになります。

 例えば,東京証券取引所の売買代金は,1か月に40兆円~70兆円です。日本の1年間の国家予算が約82兆円,GDP(国内総生産)は約510兆円です。これらの実体経済をはるかに上回る,資本の取引があるのです。
90年代初頭までは,実体経済が犬の頭,資本経済が犬の尻尾でした。しかしいまや,バーナンキFRB議長が「貿易は犬の尻尾」というほど資本取引が巨額になったのです。

<国際収支表の原則>

国際収支は、複式簿記という記入方法で書かれている、会社で言う「貸借対照表=バランスシート」のことです。商業科に通っている高校生なら、すぐに理解できます。
 モノ・サービスを売買すると、必ず同額のカネが動きます。ですから、モノ・サービスを売ると、貸し方(+)に記載された同額が、借り方(-)にも記載されます。ですから、経常収支黒字額=資本収支赤字になるのです。モノ・サービス金額=カネ金額です。
だから、2009年の日本は

2009年 国際収支表.jpg

となるのです。△は外国カネ(資産)増と覚えれば間違いないでしょう。ドル・ユーロや、外国国債、外国社債、外国株の購入額のことです。貿易黒字=外国への資金提供のこと(国内に還元しないカネ)なのです。ですから、「貿易黒字はもうけ」ではありません。

①経常収支黒字②資本収支赤字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)
①経常収支赤字=②資本収支黒字(資本収支・外貨準備・誤差脱漏)

日経H22.2.6『中国経常黒字昨年は35%減』
…経常黒字は前年を35%下回る2841億ドルだった。世界的な金融危機を受けた貿易黒字の縮小が響いた。


 中国が、「経常黒字2841億ドル 資本黒字1091億ドル」ということは、外貨準備△3584億ドルになります(誤差脱漏を除く単純計算)。中国が、外貨準備をがんがん増やし、世界一になっているのは、このような背景があります。でも、外貨準備増も「いいとか、悪いとかの話」ではありません。

 中国政府・中銀の持っている外貨が膨らんでいるということで、市場は逆に「元」があふれて、インフレ傾向になっています。

『通貨供給量10月末29.4%増』H21.11.12

…中国人民銀行…は11日。10月末の通貨供給量(マネーサプライ)が前年同期比29.4%増だったと発表…。元相場を実勢より低めに維持するための元売り・ドル買い介入などの影響で、マネーサプライの膨張が続いている。

中国 貿易黒字

BRICS辞典 http://www.brics-jp.com/china/gaika_jyunbi.html
中国 外貨準備
 中国の外貨準備高(外貨準備金)は世界一で、その額は2兆ドル(約200兆円)に迫るほどです。2006年辺りまでは日本が世界一でしたが、今やその日本の1.5倍近くにまで伸びています。グラフから分かる通り、特に近年、数値が激増しています。

 この2007年~2008年の差額は2806億ドルです。2008年のGDPは、43270億ドルですから、6.48%に相当します。中国中央銀行は、6.48%分の元を、市中に供給していることになります(単純計算)。インフレになるわけです。

 中国は、事実上の元ドル固定相場制を採用しています。貿易黒字分のドルは、中国国内で、元に換金されます。ドル売り元買いです。そのままでは、一方的な元高になりますので、中央銀行がドル買い元売りをします。その分の「元」が、市中に出回り、インフレの原因となります。固定相場制を採用すると、貿易黒字国は、必ずインフレに悩まされることになります。(1973年の日本もドイツも、劇的なインフレに見舞われました)

 中国は人民元を事実上、ドルに連動させています。結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ

「生んだ」のは「生んだ」で間違いではないのですが、ドル資産を増やしただけです。中国国内では、インフレになっています。

経常黒字資本赤字

 貿易に「一人勝ち」はなく、「もうけ」なるものも存在しません。
 中国は、ただドルを持っていても仕方ないので、「アメリカ国債」に投資します。これがどうなったかは、次回に続きます。

theme : 間違いだらけの経済教育
genre : 学校・教育

中原圭介 『お金の神様』 週刊現代22年4月3日号 その1

中原圭介『アセットベストパートナーズ』金融資産運用部ディレクター『お金の神様』週刊現代22年4月3日号

質問 高成長を続ける中国に「死角」はありませんか。

 アメリカは借金してモノを買い、消費生活を楽しむ。モノを売った中国や日本は、儲けたお金でアメリカ国債を買い支える。こうして回っていたのが、サブプライムショックまでの世界経済でした。
アメリカにはモノを買う余裕がなく、むしろ自国製の商品を諸外国に買ってほしい。貿易収支のグラフを見ても、近年、輸出と輸入の差が縮まったのがわかる。外需主導で経済の立て直しをはかっているのです。オバマ大統領は「5年間で輸出倍増」計画を打ち出した。5年で倍増するためには、毎年15%ずつ輸出を増やさないといけない。かなり無理のある数字…。
 中国は人民元を事実上、ドルに連動させています。結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ。


 いくら、「エコノミスト」といっても、経済学のバックボーンがないと、誤った記事を書いてしまいます。これは、アメリカの一般大衆と、その意見を尊重せざるをえない、議員と同じレベルです。2010-04-01記事参照

 モノの輸出入という、貿易の片面だけをとらえ、それですべてを説明しようとするので、おかしな記述になります。下線部記述は、「モノ」だけに視点を奪われていることを示しています。

 本当は「モノ(サービス)≡カネ」であり、しかもどちらが主導かというと、「カネ」です。①カネの動きが②モノ(サービス)の動きを決定しているのです。 ①は、②の90倍動いています。その1/90が、国際収支表に記述されているに過ぎません。つまり、国際収支表に記述された貿易収支(モノ・サービス収支)は、実際の資本取引の1.08%程度しか、示していないということです。

<カネが先、貿易黒字(赤字)は後>

 モノ・サービスの実物取引=貿易黒(赤)字を含む経常黒(赤)字など、今日では、為替に影響を与えることなど、全くないと言っても過言ではありません。
 円高・ドル安など、為替を変動させる要因は何でしょう。それは、日米の金利差、株価格などの「資本(カネ)」取引に関わる分野なのです。
 資本取引額は、貿易取引額の90倍(2007BIS統計)です。図にすると、下記のようになります。
資本取引>貿易


 2007年現在,外国為替市場の1日の平均取引額は3.2兆ドル(340兆円)にも上ります。同年の世界貿易額は,1日当たり357億ドルですから,貿易額の約90倍にのぼる資本の取引があることになります。

 例えば,東京証券取引所の売買代金は,1か月に40兆円~70兆円です。日本の1年間の国家予算が約82兆円,GDP(国内総生産)は約510兆円です。これらの実体経済をはるかに上回る,資本の取引があるのです。
90年代初頭までは,実体経済が犬の頭,資本経済が犬の尻尾でした。しかしいまや,バーナンキFRB議長が「貿易は犬の尻尾」というほど資本取引が巨額になったのです。

<中国の対アメリカ黒字>

 …結果「不自然に安い」レートに誘導…。これが対米輸出の武器となり、巨額の対米黒字を生んだ。

 貿易黒字は善、貿易赤字は悪という考え方に染まると、「元安(昔の日本なら円安)=武器」という表現が出てきます。レートと貿易には、短期はともかく、長期的には関係がありません。

『中国 今月は貿易赤字』日経H22.3.23
 …中国の輸出入…3月は貿易赤字になる可能性があるとの見通し…。米国は中国に貿易黒字を削減する手段として元相場の切り上げを求めており、中国政府は「元相場と貿易不均衡は無関係」との主張を一段と強める構えだ。…陳商務省は…元相場と貿易不均衡を結びつける米国の主張に根拠はないと批判した。

中国 貿易赤字

<円高で、貿易黒字は縮小したか?>

 1985年、プラザ合意によって、ドルは切り下げられ、円はドル相場で2倍の高値になりました。円高なら、輸出は減少し、貿易黒字も減少するはずですが・・・

円 為替相場
 全然、そんなことはありません。日本の輸出も輸入も、伸び続けています。
日本 輸出・輸入額

 アメリカにはモノを買う余裕がなく、むしろ自国製の商品を諸外国に買ってほしい。貿易収支のグラフを見ても、近年、輸出と輸入の差が縮まったのがわかる。外需主導で経済の立て直しをはかっているのです。 

 大体、アメリカの輸出だって、順調に伸びています。
アメリカ 輸出 輸入額

 為替相場と、貿易黒(赤)字は、短期はともかく、長期的には関係がないのです。もちろん、円安(元安)が、輸出を伸ばします。輸出超過の国にとっては、為替高は短期的にGDP押し下げの要因です。

 ですが、貿易黒字は、外国との関係ではなく、国内事情で増減します。ISバランス論です。「不況になると、貿易黒字は増える」のです。ですから、GDPが順調に伸びていれば、為替高の影響は、相殺されます。というより、「円高」で、GDPが減ったことは、事実としてありません(リーマン・ショックを除く)。

三面等価 2008

 貿易黒字は,上図の(EX-IM)部分です。国内の貯蓄超過が,貿易黒字になります。
(S-I)+(G-T)=(EX-IM)

 この,(S-I)=(G-T)+(EX-IM)は,どのような比率なのか,上図のこの部分のみを拡大してみましょう。実際の割合,数値例を見てみます。
2008 ISバランス.jpg

 さて,景気によって,この,貯蓄(S)と,投資(I)・公債(G-T)・貿易黒字(EX-IM)はどのように動くのでしょうか。
 景気変動を引き起こす要因として,一番影響があると考えられているのは,I(投資)です。景気がいいと,企業は,「モノ・サービスが売れる(来月も,来年も売れそうだ)」ので,設備投資を増やします。それが,日本全体の消費を刺激し,さらに「モノ・サービス」が売れる状態になります。

 ところが,需要(買いたい)が伸び悩むようになると,つまり,十分に供給が行われると,設備が余分になります。需要が横ばい(成長しない)になっただけで,設備投資は原理上ゼロになり,急速に減少します。設備投資の減少は,日本全体の消費の減少へと波及し,不況になります。
 ISバランス式でいえば,景気がいいと,民間投資が活発になり,左辺が縮小します(左辺少ない)。ということは,同時に右辺も少なくなるので,財政赤字も貿易黒字も減少します。「好景気になると貿易黒字は縮小する」状態になります。

 逆に,景気が悪いと,民間投資が少なくなり,左辺が拡大します(左辺拡大)。同時に右辺(国
債+貿易黒字)も拡大
します。
 つまり「不景気になると貿易黒字が増える」状態になるのです。

中谷巌(一橋大学名誉教授)『痛快!経済学2』集英社 2004  p245
  貿易黒字が大きくなるのは国内で生産したものを国内で消費したり,投資したりしていないからです。つまり,国内の供給が需要を上回っているので,そのあまりを輸出する。だから貿易黒字が増えるのです。もしも,国内で生産した分を国内で消費しきってしまえば,貿易黒字は発生しないのです。

中谷巌(一橋大学名誉教授)『痛快!経済学』集英社 1998  p175
「不況だから貿易黒字が増える」のであって,貿易黒字が大きいから豊かになるわけではないのです。


 1986年~1990年のバブル景気時代を見てみましょう。バブル景気とは,1986年12月から1991年2月までの4年3か月(51ヶ月)間を指します。バブル景気の引き金になったのは1985年のプラザ合意です。これにより急激な円高が進行し,1ドル240円前後だった為替相場が1年後に1ドル120円台まで急伸しました。政府は,減税や公共投資拡大で対応し,日銀は金融緩和を行いました。地価も株価も高騰し,日本経済新聞平均株価は,1989年の大納会(12月29日)に最高値38,915円87銭を付けました。平成になっても,この平均株価には,一度も達していません。今から振り返っても,大変な好景気時代でした。
バブル経済 実質GDP

 このバブル景気時代は,I投資が活発で,(S-I)が急速に縮小しています。また,同時期,貿易黒字は減少しています。
バブル経済 貿易黒字

 ’89,’90,’91年は,(S-I)が,(EX-IM)よりマイナスになっています。その分,(G-T)はプラス,黒字です。つまり,財政赤字(赤字公債)は,’90年~’94年は,発行せずにすんだのです。’89,’90,’91年は,建設公債を含めても,7兆円ほどの発行額ですみました。

 では,次に,「失われた10年(最近は20年といわれています)」といわれる,停滞期を見てみましょう。
失われた10年 実質
失われた10年 貿易黒字

 ’96年は「回復感なき景気」と呼ばれつつも,経済成長率(GDPが前年に比べ,どれだけ増えたか)は伸びを示し,’96年には2.7%に達しました。

 ところが,’97年には,消費税が5%にアップされ,日本国内の消費は落ち込みます。「山一証券」「北海道拓殖銀行」の倒産はこの年です。’98年の経済成長率は,’74年のオイルショック以来になる,マイナス成長を記録し,マイナス2.0%になっています。同年の貿易黒字は拡大します。 「不景気になると貿易黒字が増える」のです。

 生産されたモノ・サービスが売れ残ってしまう(S-Iがプラスになった)と,あとは政府が公共事業を増やして買う(G-T:国債発行による景気対策)か,外国の人が買う(EX-IM:貿易黒字)しかないのです。

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