鈴木亘 学習院大「『社会保障で成長』は誤り」H22.5.17 …医療費や介護費を増大させることは、潜在成長率を引き上げるだろうか。日本の場合、自由診療や私費介護の割合が極端に低く…医療・介護費の大部分は保険給付費である。…実は、医療保険全体の約4割を公費で負担している。介護保険に至っては、公費の負担割合が6割近い。
つまり、日本の医療・介護産業は、多額の公費投入によって支えられている産業であり、自律的な成長が期待できる分野ではない。医療・介護費を増やせば自動的に多額の財政支出増となることを考えれば、これは成長戦略というより、一時的な財政政策と見るべきである。
…民主党政権の「福祉経済理論」は妥当性が低く…。…負担を引き上げるか、社会保障費の大盤振る舞いをやめるか…選択をすべきである。 民主党の、特に、菅首相の「第3の道」とは、「増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策」です。ですが、
公費による官製市場のため(社会保障費は、伸びることは伸びるのですが)、「自律的な成長分野」ではありません。
グラフ http://www.mof.go.jp/zaisei/con_04_g02.html
<規制付け>参考文献:鈴木亘『サービス拡大への規制緩和』日経H21年3月16日
①施設介護分野は、自治体・医療法人・社会福祉法人以外参入できない。
②介護福祉士以外は、介護職員になれない規制の導入→厚労省の規制決定。
③認可保育所では、保育士以外は、正規職員として勤務不可。<学者の意見> 共通しているのは、
市場原理の導入ということです。混合診療など、官製市場+民間市場の導入が求められています。
八田達夫 政策研究大学院 『規制緩和を成長の力に』H22.6.14
…規制緩和が重要だ。…成長を目指すなら、既存の規制を緩和することで成長力のあるところが伸び、経済全体をけん引する。
…保育や介護だ。…保育所は国による認定保育園だけでなく、民間事業者の施設にもある程度補助金を出すべきだ。松井道夫 松井証券 & 土屋了介 国立がんセンター中央病院長
『医療の制度疲労と今後の国民皆保険』日経H21.8.21
…日本の医療供給体制は完全に制度疲労を起こしており、官による統制の典型的失敗例となっている。…急速な高齢化と技術革新で、今後医療費は急増する。
…現在の国民皆保険制度は、どのような医療を、どんな価格で、誰が提供するかといった、制度を構成するおよそすべての事柄を国家が決定した上で、運用管理する「現物給付」で成り立っている。一種の「配給制度」である。戦後の…国民の健康状態を早急に改善…この制度は大いにその使命を果たした。
だが疾病構造は感染症などから慢性疾患に変化…多様化・高度化した。「すべての医療サービスをすべての国民…」との理念はよしとしても、…議論の余地が生じているのである。
…需要者側の選択の幅を大きくしたうえで負担も相応に担ってもらう…需要者側のニーズを反映させやすいマーケットメカニズムを取り入れるのが合理的である…「配給制度」に基づく国家統制下では難しい。そもそも注)診療報酬体系が、医療の質ではなく、量に基づく「出来高制」であるがゆえに「いかに少ない薬の投与で短期間にどの程度治癒できたか」という質を問うメカニズムが機能し難くなる根本的欠陥を抱えている。注)実際に医療関係者に聞いた話です。小泉改革によって、診療報酬が引き下げられた際、医者は量をこなすことによって、病院全体の収入を維持するようにしたそうです。結果として、小泉改革が目指した「医療費を抑制すること」は達成できませんでした。
点数制なので、投薬量・診察量・検査量・患者量を増やせば、報酬がアップします。谷内満 早稲田大 『供給サイドこそ重視を』日経H22年6月24日
…政府が将来の成長産業を生み出す政策…には限界がある。高度成長期には有望産業育成の「産業政策」がとられたが、実際には保護育成の対象外だった数多くの産業が躍進し、高度成長を実現した。
…まず規制緩和は最も重要な成長促進政策である。…医療滞在ビザの導入などは広い意味での規制緩和であり、望ましい政策だ。あらゆる分野で不要な規制を撤廃縮小することが重要だが、中でも農業、医療、介護といった分野は規制が特に厳しく、規制緩和によって民間の活力を引き出す余地が大きい。
奥野正寛 東大 『市場機能を利用した所得再分配策』H22.2.9
…例えば保育所の場合、ランクの異なる2つの認可基準を設けてはどうだろう。現在の認可外保育所は最低基準を満たした保育所として認可し、政府や自治体の補助で無料化する。他方、現行基準を維持するか、またはそれより高い基準を新たに創設し、同基準の保育所への補助はゼロにし、その代わりに自由な料金設定を認めてみよう。
設備が劣り保育士が最低限の面倒しか見ない代わりに補助金で無料化された最低基準の保育所には、ぜいたくは求めないが最低限の保育所サービスを必要と考える低所得者層が集中するだろう。他方、余裕のある富裕層は、料金が高くても設備の整ったスペースもサービスも余裕のある保育所を選ぶだろう。
ピエール・C・バドアン OECD事務次長 日経22年3月23日
『鳩山政権の新成長戦略への注文 構造改革との連動不可欠』
…医療介護分野で新成長戦略は民間事業者の参入促進により、45兆円の新市場と280万人の新規雇用を創出すると標榜している。しかし、営利目的の事業者を認めない分野への参入を促すため、どんな規制改革が必要なのか説明されていない。
…医療を成長産業にすることは86%の総医療費が公費によって賄われる現行制度のもとでは財政への影響があることも忘れてはならない。八代尚宏 『公益追求、企業でも可能』日経22.4.22
…もともと、日本の公共サービスは、公的部門や、税制・補助金面で優遇された社会福祉法人などによる独占市場であった。
…財政に大きく依存した低価格で供給されるため、需要に見合った十分な供給がなく、病院や介護施設、保育所などでは、旧社会主義国のように慢性的な順番待ちの「行列」が持続している。…多様な上乗せ価格の追加的サービスと組み合わせることができれば、事業者の採算性は改善し、新規事業者の参入などでサービス供給が増加する。 社会保障分野の供給不足について、需要・供給曲線で検証します。需要・供給曲線も,経済学ではおなじみのモデルです。これも単純なようですが,奥が深い理論です。ミクロ経済学では,この図を使って,私たち一人ひとりの消費行動から,政府による規制や課税,市場の独占や寡占,果ては国際貿易まで,説明します。
社会保障分野が供給不足ということは、
需要>供給ということですね。


このように、動いているということです。市場メカニズムによって、新しい均衡量と、均衡価格(自給)が決定します。
介護・医療・保育所の需要が多くなれば、新しい均衡点で、供給量が増え、価格がアップすることになります。
では、このようなメカニズムに、政府の規制が加わると、どうなるでしょうか。介護・医療・保育所は、官製市場で、価格の上限があります。
<社会保障市場のアンバランス>
政府規制価格(公的価格)が導入されると、青色の矢印部分が、慢性的な順番待ちの「行列」になります。慢性的な順番待ちの「行列」とは、「サービスの提供を受けたいのに、受けることが出来ない人」のことです。
財政に依存した低価格では、企業は供給を減らし、逆に、需要は増えます。本来
もっと高い価格で、均衡(バランス)していた雇用量と雇用価格が、バランスを失い、待機者が増加するのです。
日経 H22.9.23
…経営悪化で病院数の減少が止まらない。
…医療より先に企業が参入したのが介護。…「参入してみて、稼げない事業と分かった」(施設介護大手の幹部)。…介護施設全体では25万人分が不足…。
N・グレゴリー・マンキュー『経済学Ⅰ ミクロ編』東洋経済新報社 2004 p168
助けを必要としている人(筆者注:介護・医療・保育に低い価格しか払えない層)を助けることは、価格を規制する方法以外でも達成できる。…規制とは異なり、…補助は…供給量を減少させないので、…不足をもたらさない。…補助の例として、低賃金労働者の所得を補助する政府のプログラムである勤労所得税控除がある。
混合診療の導入、認可保育園以外への公的支援、介護の市場開放、そして低所得者への保障により、市場の均衡が回復します。
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済