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セーの法則

2010年3月20日 経済教育ネットワーク主催 シンポジウム「経済入試問題のあり方」で、下記の問題が取り上げられました。明大政経学部の問題について、 「セーの法則」「限界効用」「流動性選好説」は、教科書、用語集にはなく、受験生に酷ではないかと、紹介されました。

 これらは、経済学を学ぶ大学生には常識ですが、高校ではもちろん扱われていません。このような出題をしないと、受験生の点数に差をつけられないのかもしれません。少し難しいので、解説します。


明治大学 政経学部 2009年

・・・19世紀末,(2)限界効用学派によって経済学の新しい領域が開拓された。 A.マーシャルは古典派経済学に限界概念を導入して,新古典派経済学の基礎を確立し,現代経済学の大きな柱の一つを築いた。しかし,1929年にアメリカからはじまった恐慌は世界大不況へとつながった。 F.ルーズベルトは 3 政策を断行し,民間経済への政府の積極的介入によって景気回復をはかろうとした。「小さな政府」から「大きな政府」へのこの転換の理論的基礎を与えたのはJ.M.ケインズである。彼は『雇用・利子および貨幣の一般理論』において,雇用量が実質賃金率を媒介として決まり,つねに完全雇用が達成されるとする伝統的な経済学の考え方を否定し,総雇用量は 4 の原理によって決まるとした。また,ケインズは,もし価格機構が十分に機能しないとすれば,「供給は自らの需要をつくりだす」という 5 法則は成立せず,(3)新しい貨幣需要理論を導入しなければならないとした。・・・

文中の 1  5 のなかに入る,もっとも適当と思われる語句を記せ。

下線部(2)に関して,下の記述のうち正しいものを一つ選び,記号(A~D)をマークせよ。
 A.限界効用は,ある財の追加1単位の消費から得られる平均満足度をいう。
 B.限界効用は,ある財の追加1単位の消費から得られる追加的満足度をいう。
 C.限界効用は,すべての財の追加1単位の消費から得られる平均満足度をいう。
 D.限界効用は,すべての財の追加1単位の消費から得られる追加的満足度をいう。

下線部(3)に関して,ケインズがうちだした貨幣需要理論の名称を下記のなかから一つ選び,記号(A~D)をマークせよ。
 A.貨幣数量説  B.貨幣の効用理論  C.現金残高数量説  D.流動性選好説


 5 に、セーの法則が入ります。3は「ニュー・ディール」4は「有効需要」です。

<セーの法則>

引用 Yahoo百科事典より

 供給はそれ自ら需要をつくりだす、という命題に要約されている経済学上の見解で、販路説ともいわれる。古典派経済学が共通に前提とした見解であるが、最初の提唱者であるフランスの経済学者J・B・セーの名前からこのようによばれている。財の生産は、それに参加した生産要素(土地、労働、資本)の提供者に、生産された財の価値に等しい所得をもたらし、その所得はすべて生産物に対する需要となるので、財を供給することはそれに対する需要を生み出すことになる。したがって、経済全体をとってみれば、生産の不つり合いによる部分的過剰生産はありえても、一般的過剰生産はありえないというのがこの法則の考え方である。

引用 ウィキペディアより

 ケインズの体系においては、セイの法則はただ単に「供給された量は必ず需要される」という命題として捉えられている。


 生産されたものは、必ず売れるのか?「売れる」とするのが、古典派経済学の立場で、「売れない」とするのが、ケインズの立場です。

古典派  

 生産量=消費量 
  供給=需要

ケインズ 
 
  生産>需要もありうる
  供給>需要

 古典派のいうように、供給=需要が成立するには、「価格が十分に伸縮」することが必要です。売れ残りが出た場合、価格を下げれば、需要が拡大します。結果として生産されたものはすべて売れることになります。

 例えば、不況で、失業が生じた場合です。求職者の望む賃金が高いので失業(供給>需要)が発生しますが、要求する賃金を下げれば(給与額が下がれば)雇用は回復する(供給=需要)と考えます。

 一方、ケインズは、「価格の下方硬直性」を取り上げます。売れ残りが生じたら、ただちに価格が下落するかというと、そうでない現実もあります。

「車が売れない」→「価格下落」」とはすぐにはならず、企業は「生産量(供給量)」を調整することで乗り切ろうとします。(1昨年のリーマン・ブラザーズショック以降、派遣切りが問題になったのは、企業は価格ではなく在庫量を調整しようとしたからです)

 失業が生じても、すぐに時給は下がりません。労働組合も賃金下落には抵抗しますし、今まで30万の給与で働いていた人が、すぐに「20万の仕事でもいい」とはなりません。価格は、すぐには下落しません。

(1)「セーの法則」=「供給が需要を決める」

①賃金率の伸縮性 

労働需要<労働供給
    ↓
  賃金率低下
    ↓
労働需要=労働供給

②利子率の伸縮性 

  Y=C+S   
供給Y=消費C+貯蓄S

不況でCが減る(失業者も増)
   ↓
 Sが増える
   ↓
 利子率低下
   ↓
 投資I増加
   ↓
  雇用拡大

(2)ケインズ 『一般理論』需要が供給を決める

 失業は「有効需要C+I」の不足
  ↓
 非自発的失業

Y =C+I(C消費I投資)

 ①Y =C(Y)+I (Y)は関数

「Yが増加すればCが増加するが、Cの増加はYの増加に及ばない」

 これは次のことを示します。みなさんに臨時収入1万円があったとします。これをすべて使うかといえば、そうではなく、6千円とか、8千円を食べたり飲んだり、買ったりで消費し、残り4千円とか2千円を貯蓄(使わない)する場合が多いと言えるのではないでしょうか。実際に、日本人は収入の6割を消費し、残りを貯蓄に回します。(消費性向は0.6)
 日本の場合、Yが1増えた時、Cは0.6しか増加しないのです。残りの貯蓄Sは、Y-Cなので、

 ②S(Y)=I (Y)は関数

 ただし、不況期は完全雇用YfとYが一致するとは限らない。貯蓄Sは旺盛だが、投資Iは弱い。だから、Cを増やすため減税I増やすため低金利、時には財政赤字をしてでも公共投資必要減税、公共投資=財政政策
                     
低金利=金融政策

(1)投資は、利子<限界効率(予想利潤率)で決まる。
(2)利子率は、S(貯蓄)→①現金を持つか②債権を持つか(流動性選好L)のうち、②を持ち、投資に使われたときの報酬。M(貨幣量)とLの関係で決まる。

このあたりは、前日(H22.3.24)の「流動性選好説」をご覧ください。

では、古典派理論とケインズ理論のどちらが正しいのでしょう。未だに決着はついていません。ですが、現実データを見ると、どちらも成立しています。

長期(価格が伸縮した場合)は古典派 が成立し、短期(価格が硬直的)な場合 は、ケインズ理論が成立している。
中谷巌『入門マクロ経済学第5版』2007日本評論社 pp191-193


 現実の経済状態に合わせ、両理論に基づいて、適切に処方してやるのが、「金融・財政」政策です。
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