野間幹晴 一橋大準教授 『経済教室 通説と異なる日本企業』日経H22.8.5
野間幹晴 一橋大準教授 『経済教室 通説と異なる日本企業』日経H22.8.5 グラフも 数字は筆者挿入
日本企業について、まことしやかに語られる2つの通説がある。
①…「米国企業は株主還元を手厚く行っている」というものである。たとえば「米国企業は株主への配当が多いのに対して、日本企業の配当性向は低い。日本企業も配当を通じた株主還元を強化し、企業価値を高めるべきである」…。
②…「米国企業は短期的あるいは近視眼的な投資を行うのに対して、日本企業は長期的な視野に基づいて設備投資や研究開発投資を行っている」…。
通説では、「①米国は株主重視・日本は内向き経営、②米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」だというのが、神話的に信じられていることと思います。
ライブドア「ホリエモン」騒動や、「村上ファンド」が活躍していたころ、盛んに取り上げられた話題に「会社はだれのものか」というのがありました。答えには(1)ストック・ホルダー(Stock Holder)のものであるとする説、もう一つは(2)ステイク・ホルダー(Stake Holder)のものであるとする説でした。
(1)ストック・ホルダーは文字どおり株主のものであるとする説です。
(2)ステイク・ホルダーは利害関係者である①株主、②経営者、③銀行等の債権者、④労働者(従業員)、⑤取引企業などのものであるとする説です。
日本は、いわゆる日本型システムを採用してきました。それは,メインバンクを中心とした株式持ち合い,終身雇用制度,年功序列賃金が柱でした。
株式を企業同士で持ち合うので、企業買収の危険性や、株主からの批判は少なく、投資も短期的利益を追求することなく(株主の短期利益重視の視点がないから)長期的視点で行え、また雇用も長期雇用なので、会社経営において従業員雇用を重視するというものです。
逆にアメリカは、「会社は株主のもの」という考えが強く、株主は、短期的利益を追求するので、経営者は短期的業績を重視せざるを得ず、また、会社は「モノ」なので、売ったり買ったりするのは当たり前だというものです。
ところが、同論文によると、まったく違うようです。
<株主>
まず、株主への配当ですが、日本以外の国は、配当を行っている企業数はどんどん低下しています。

米国において、配当している企業の比率は、73.2%→30.2%に低下しました。日本は逆に86.5%でこのグラフの中ではダントツに高いのです。(韓国・フランスも日本より低いそうです)
なぜ、配当を支払う企業が減っているのでしょうか。
…それは、経営者が配当による株主還元よりも、成長性や収益性の高い事業に投資することを重視するからである。例えば、グーグルは上場以来、一度も株主に配当を支払ったことがない。…配当を行うべきなのは、収益性の高い投資を見出すことができない場合だけだという考え方がある。
90年代当時の考え方はこうでした。
http://www.dhbr.net/booksinreview/bir200609.html
吉森賢著『日米欧の企業経営』を岡田正大 慶大助教授が書評しているページからです。
…イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、日本の五カ国の経営者と管理者に対して「資本主義下においては企業の所有者は株主である」。この命題を肯定する比率は、アメリカ76%、イギリス71%、フランス22%、ドイツ17%、日本2.9%という結果であった。
次に示された命題は…経営者が配当を減らすか、従業員の一部を解雇するかの選択を迫られた場合、「従業員の一部を解雇してでも配当を維持する」と答えた比率は、アメリカ89%、イギリス89%、フランス41%、ドイツ40%、日本3%だったという。90年代前半の調査とは言え、各国間、特に日本とアメリカ、イギリスの間にここまでの違いが存在するとは思わなかった。
ここで示された考え方は、完全に過去のものになりました。
<投資>
次に設備投資です。「米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」だったはずですが。
…85年から09年の間に前年より設備投資を減らした日本企業の比率は平均47.1%であり、先ほどの5カ国に仏、韓国を合わせた7カ国の中で最も高い。
…日本企業が高い国際競争力を誇っていた85~89年でも、日本企業で設備投資額を前年より削減したは平均40.5%なのに対して、米国企業では39.0%で日本よりわずかながら低い。このことは、80年代に日本企業の競争力が強かったのは長期的な投資行動を行っていたからであり、米国企業が競争力を失ったのは長期的な投資をしなかったからである、という見解とは矛盾している。
さらに、設備投資と研究開発費(R&D )投資も、以下のようになっています。
…R&D 投資を削減した企業の比率が最も高いのは日本であり、全期間を通じて41.5%に達している。一方、米国企業では22.5%しかない。
…80年代後半、日本企業は長期的視野に立った投資を行っているから国際競争力が高いと評価されていたが…ほかの国々よりR&D 投資を減らす企業が多かったのである。90年以降に日本企業が衰退していった一つの原因は、80年代後半から競争力の源泉であるR&D 投資を削減していたからであろう。
結論として、事実は次のようになります。
先進国の中で、日本は配当を支払っている企業がきわめて多い。海外では、配当よりも投資を優先している。
http://www.utobrain.co.jp/review/2003/091600/北原秀猛
日米の企業比較論として、日本企業は長期発想でアメリカ企業は短期発想と言われ、これも日本的経営とアメリカ的経営の違いの1つともされた。しかし、そのどちらも正解ではないし、特に日本企業は長期発想が強いというのは半分フィクションである。
佐久間信夫編著『コーポレート・ガバナンスの国際比較』税務経理協会 H19年 p52・53
M&Aブームが去った1990年代になると、機関投資家(筆者注:年金基金・保険、投資信託などの投資家)の関心は投資した企業の長期収益性に向かうようになった。…彼らの投資行動も、経営者と対峙して一方的に行う株主提案から、対話を通じて経営者とのリレーションシップ・インベストメント(筆者注:信頼関係構築をしながらの投資行動)に転化していった。
…1990年代のアメリカのコーポレート・ガバナンス(筆者注:企業統治、企業監視)に関する議論は、株主主権論をベースにしながらも、ステークホルダー全体を含むものへと拡大していったといえる。
通説の、 「①米国は株主重視・日本は内向き経営、②米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」は、神話なのです。
なぜか。アメリカでは法律が変わったのです。
前出 佐久間信夫編著 p53
…1990年代初めにかけて、30の州で、経営者が会社の意思決定を行う際に、株主の利害に加えて、株主以外の利害関係者への配慮も認める法律、いわゆる会社構成員法・利害関係調整法が制定されることになった」
のです。

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日本企業について、まことしやかに語られる2つの通説がある。
①…「米国企業は株主還元を手厚く行っている」というものである。たとえば「米国企業は株主への配当が多いのに対して、日本企業の配当性向は低い。日本企業も配当を通じた株主還元を強化し、企業価値を高めるべきである」…。
②…「米国企業は短期的あるいは近視眼的な投資を行うのに対して、日本企業は長期的な視野に基づいて設備投資や研究開発投資を行っている」…。
通説では、「①米国は株主重視・日本は内向き経営、②米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」だというのが、神話的に信じられていることと思います。
ライブドア「ホリエモン」騒動や、「村上ファンド」が活躍していたころ、盛んに取り上げられた話題に「会社はだれのものか」というのがありました。答えには(1)ストック・ホルダー(Stock Holder)のものであるとする説、もう一つは(2)ステイク・ホルダー(Stake Holder)のものであるとする説でした。
(1)ストック・ホルダーは文字どおり株主のものであるとする説です。
(2)ステイク・ホルダーは利害関係者である①株主、②経営者、③銀行等の債権者、④労働者(従業員)、⑤取引企業などのものであるとする説です。
日本は、いわゆる日本型システムを採用してきました。それは,メインバンクを中心とした株式持ち合い,終身雇用制度,年功序列賃金が柱でした。
株式を企業同士で持ち合うので、企業買収の危険性や、株主からの批判は少なく、投資も短期的利益を追求することなく(株主の短期利益重視の視点がないから)長期的視点で行え、また雇用も長期雇用なので、会社経営において従業員雇用を重視するというものです。
逆にアメリカは、「会社は株主のもの」という考えが強く、株主は、短期的利益を追求するので、経営者は短期的業績を重視せざるを得ず、また、会社は「モノ」なので、売ったり買ったりするのは当たり前だというものです。
ところが、同論文によると、まったく違うようです。
<株主>
まず、株主への配当ですが、日本以外の国は、配当を行っている企業数はどんどん低下しています。

米国において、配当している企業の比率は、73.2%→30.2%に低下しました。日本は逆に86.5%でこのグラフの中ではダントツに高いのです。(韓国・フランスも日本より低いそうです)
なぜ、配当を支払う企業が減っているのでしょうか。
…それは、経営者が配当による株主還元よりも、成長性や収益性の高い事業に投資することを重視するからである。例えば、グーグルは上場以来、一度も株主に配当を支払ったことがない。…配当を行うべきなのは、収益性の高い投資を見出すことができない場合だけだという考え方がある。
90年代当時の考え方はこうでした。
http://www.dhbr.net/booksinreview/bir200609.html
吉森賢著『日米欧の企業経営』を岡田正大 慶大助教授が書評しているページからです。
…イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、日本の五カ国の経営者と管理者に対して「資本主義下においては企業の所有者は株主である」。この命題を肯定する比率は、アメリカ76%、イギリス71%、フランス22%、ドイツ17%、日本2.9%という結果であった。
次に示された命題は…経営者が配当を減らすか、従業員の一部を解雇するかの選択を迫られた場合、「従業員の一部を解雇してでも配当を維持する」と答えた比率は、アメリカ89%、イギリス89%、フランス41%、ドイツ40%、日本3%だったという。90年代前半の調査とは言え、各国間、特に日本とアメリカ、イギリスの間にここまでの違いが存在するとは思わなかった。
ここで示された考え方は、完全に過去のものになりました。
<投資>
次に設備投資です。「米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」だったはずですが。
…85年から09年の間に前年より設備投資を減らした日本企業の比率は平均47.1%であり、先ほどの5カ国に仏、韓国を合わせた7カ国の中で最も高い。
…日本企業が高い国際競争力を誇っていた85~89年でも、日本企業で設備投資額を前年より削減したは平均40.5%なのに対して、米国企業では39.0%で日本よりわずかながら低い。このことは、80年代に日本企業の競争力が強かったのは長期的な投資行動を行っていたからであり、米国企業が競争力を失ったのは長期的な投資をしなかったからである、という見解とは矛盾している。
さらに、設備投資と研究開発費(R&D )投資も、以下のようになっています。
…R&D 投資を削減した企業の比率が最も高いのは日本であり、全期間を通じて41.5%に達している。一方、米国企業では22.5%しかない。
…80年代後半、日本企業は長期的視野に立った投資を行っているから国際競争力が高いと評価されていたが…ほかの国々よりR&D 投資を減らす企業が多かったのである。90年以降に日本企業が衰退していった一つの原因は、80年代後半から競争力の源泉であるR&D 投資を削減していたからであろう。
結論として、事実は次のようになります。
先進国の中で、日本は配当を支払っている企業がきわめて多い。海外では、配当よりも投資を優先している。
http://www.utobrain.co.jp/review/2003/091600/北原秀猛
日米の企業比較論として、日本企業は長期発想でアメリカ企業は短期発想と言われ、これも日本的経営とアメリカ的経営の違いの1つともされた。しかし、そのどちらも正解ではないし、特に日本企業は長期発想が強いというのは半分フィクションである。
佐久間信夫編著『コーポレート・ガバナンスの国際比較』税務経理協会 H19年 p52・53
M&Aブームが去った1990年代になると、機関投資家(筆者注:年金基金・保険、投資信託などの投資家)の関心は投資した企業の長期収益性に向かうようになった。…彼らの投資行動も、経営者と対峙して一方的に行う株主提案から、対話を通じて経営者とのリレーションシップ・インベストメント(筆者注:信頼関係構築をしながらの投資行動)に転化していった。
…1990年代のアメリカのコーポレート・ガバナンス(筆者注:企業統治、企業監視)に関する議論は、株主主権論をベースにしながらも、ステークホルダー全体を含むものへと拡大していったといえる。
通説の、 「①米国は株主重視・日本は内向き経営、②米国は近視眼的投資・日本は長期的投資」は、神話なのです。
なぜか。アメリカでは法律が変わったのです。
前出 佐久間信夫編著 p53
…1990年代初めにかけて、30の州で、経営者が会社の意思決定を行う際に、株主の利害に加えて、株主以外の利害関係者への配慮も認める法律、いわゆる会社構成員法・利害関係調整法が制定されることになった」
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genre : 学校・教育